「なんつうか、激戦だな」
ラビの言葉に全員が頷いた、死力を尽くした文字通りの激戦だ。こうなるとラビとホミカのバトルは余力を残し切った末の戦いだという事がよく分かる。一方オーバとミクリのバトルは……
『そこで、いやダメ引け!!』
『逃がすな!!』
短く簡潔しながらもそれぞれのポケモンは自らの主の意志を体現するかのように動き続けている。ゴウカザルは鬼気迫る顔でミロカロスの身体を捉えようとしながらも、オーバに全てを委ねているのがよく分かる。自らは攻撃にのみ頭を使い、回避などの事はオーバに任せている。頭脳のオーバと身体のゴウカザル、両者のシンクロが不可欠とされる戦術を取っている。
一方のミロカロスはミクリとのシンクロは当然としながらも互いに視線を合わせて互いの思いを交換し指示を決めている。此方も両者が高いレベルの判断能力が無ければ出来ない、タワータイクーンのリラのそれと亜種に近い。
『雷鳴パンチ!!』
『ドラゴンテールで絡め捕れ!!』
マッハパンチの速度で放たれる雷パンチ、それをドラゴンテールで絡め捕る。相手の速度を考慮してその軌跡に尾を差し出して絡め捕るとそのまま地面に引き摺り下ろしながらも投げ飛ばす。そこへ飛来する水の波動の連打、地面に押し付けられていたゴウカザルも必死に身体を起こして今度はそのパンチで水の波動を迎撃する。
「流石ミクリさんの相棒だぜ……速度で劣る筈のドラゴンテールであの一撃を絡め捕った。一発受けただけでその性質を見抜きやがった……」
「ど、どういう事よキバナ」
「あのパンチはハッキリ言うがジャブとしては極上の物ではある、だがフィニッシュブローにはなり得ない。マッハパンチに雷パンチのタイプと威力を上乗せって言っても威力の半分も乗ってないな……」
それはラビも思った、雷パンチのパワーを上乗せしている割にミロカロスはそこまでダメージを与えられていない。アクアリングによる回復もあるだろうが、それでも威力は低い。数値にすれば60程……使い勝手は良さそうだが、後でウチのゴウカザルに練習させようっと思うラビであった。
「初見殺し性能は高いが、二回目以降は唯の早い雷パンチとしての対応が出来るからな……それに多分あいつはドレインパンチとかとの併用も出来るだろう」
「それはそれで凄い厄介に思えますけど……」
「厄介な事と対応出来ないは別問題だぞオニオン君、現にミクリさんは既に見切ってる……連発しすぎたな」
『ミロカロス、黒い霧!!』
『しまっ!!!』
『そこだ、アクアテール!!!』
『キャアアアアッ……!?』
パンチの連発からカウンターで決まった黒い霧とアクアテールがゴウカザルを抉った。痛烈な一撃が顎へと直撃した、シロナのガブリアスと殴り合う程の烈士であるゴウカザルでも厳しくなってきている―――が、その時だ、ゴウカザルは立ち上がると口角を歪めて嗤った。
『来たか、ゴウカザル、こっからがテメェのフルパワーだ!!見せてやりなぁ!!』
『ィィィイイイイイキヤアアアアアアアアアアア!!!!』
雄叫びを上げるゴウカザル、それと共に頭部の炎がより一層激しく燃え盛り始めた。赤い炎の中に青い炎が混じり出す程に炎の温度が上がっている。
「ゴ、ゴウカザルさんの頭が真っ赤っかなのです!?」
「あれはゴウカザルの特性の猛火だ、限界まで体力が削られると炎タイプの技の威力が上がるっていう特性だ。因みにアンシャちゃんのあしゃまちゃんも同じような特性の激流がある」
「へ~特性って奥深いのです、あっそうだ、お母様に買って貰ったメモ帳にメモメモなのです」
と勉強になった事や印象に残った事を残す事にしているのか、メモ帳も書き込み始めるアンシャ。そんな様子にほっこりする一方で母であるカルネは本当にいい子、勉強熱心でいい子……!!と感動中……順調に親馬鹿が進行中。
「……えっ何あの火炎放射?ブラストバーンの間違いじゃないの?」
「ンな事言ってたらサトシさんのゴウカザルなんてもっとやべぇぞ」
「あれは猛火自体が頭可笑しいからな……」
猛火が発動した事で炎技主体に切り替えたオーバ、矢張りというべきか、狙っていたのは猛火だったらしい。雷鳴パンチを連発していたのはこの本命を隠す為のデコイ……だろうが、猛火が発動しているのはゴウカザルにとっては危険信号。相手はミロカロス、このまま立ち回るつもりなのか。
『ミロカロス素早く―――瞑想、力強く―――波乗り!!!』
此処でミクリは業込みの瞑想波乗りという手段に取って来た。ハイドロポンプなどの強力な技はあるがゴウカザルの身のこなしでは回避される可能性がある、だからこそ点ではなく面で制圧しに掛かって来た。
『我慢比べと行こうじゃねぇか!!!ゴウカザル、素早く―――悪巧み、からの力強く―――火炎放射!!!』
『ウィイイイイイッウギャアアアアアアアア!!!!!』
膨大な津波が如くの波を乗りこなすミロカロスに対してゴウカザルはブラストバーンでも撃ってるのかと言いたくなるような獄炎を吐き出した。それは波へと到達するのだが―――なんと火炎放射は水の塊である波と拮抗している、しかも……
『ミ、ミロォォッ……!!』
『頑張れミロカロス!!!あと少しだ!!』
『ミロオオオッ!!!』
『ウウウギャアアアアアアッ!!!!』
余りの火炎放射の熱量の影響か、ミロカロスが乗りこなしていた波が徐々に温度が上がり湯気が立ち始めたのである。幾ら水タイプと言えど熱湯に曝される事に慣れている訳はない、今は温めのお湯程度だが、此処から更に加熱したら……
『飲み込めぇ!!!』
『ミロオオオオオオッ!!!』
『消し飛ばせぇ!!!』
『ウギャアアアアアアアアアアアア!!!!』
更に炎を吐き出したゴウカザル、そしてそれは遂に波を穿つ焔と化した。波は完全に崩壊して力を失う。ミロカロスもそこから脱出するが、まだまだ終われないと言わんばかりの顔付き。ミクリの相棒としての意地があると言わんばかりに獄炎の焔と化したゴウカザルに立ち向かっていった。
『ウルゥウウギャアアアアアアアアアッ!!!!!』
その激戦の果てに、ゴウカザルがミロカロスを打倒した。猛火を維持したままの状態で、ミロカロスを倒してみせたのだ。ミクリの相棒を、炎タイプという水タイプが大の苦手のポケモンで。
「……やっぱりオーバさんってやばいよね」
「うん、ウチもなんかお兄ちゃんに絡んでるイメージしかなかったけど、マジやばじゃん」
良くも悪くもそういうイメージしかないオーバではあったがその実力は文字通りの折り紙付きであった。矢張りというべきか、自慢の相棒ともなると練度も異常なレベルに突入しているのが、見ているだけで理解出来た。
「伊達に兄さんに勝った事がある訳じゃねぇって事か……」
「そもそも伊達や酔狂で四天王になれてたまるか」
「それはそう」
そしてミクリは二番手としてイダイトウを繰り出した。しかもフィールドにはミロカロスが最後の力を振り絞って展開した雨乞いが展開されており、イダイトウが遥かに有利なフィールドである筈なのにミクリが有利を取っているようには全く感じられないという異常事態。だがミクリはこのまま終わるつもりはないと言わんばかりの表情を浮かべている、相棒が倒されているというにも、関らず……。
『噂には聞いていたよ、君の獄炎の噂はね。だがそれはまだまだこんな物ではないのだろう?ならば次は、亡霊が如き力の激流で君を押し流してみせよう』
『やれるもんならやってみやがれ』
その果てに―――両者は同時に最後のポケモンを繰り出した時……全員が言葉を飲んだ。そして、同時にラビの対戦相手が決定する瞬間でもあったのだ。