『キバナ選手最後の一体はブリジュラスです!!し、しかしキバナ選手の相棒はジュラルドンであった筈ですが……』
『キバナ選手は兄さんとの敗戦を切っ掛けに新たなステージに踏み出す為にブリジュラスへの進化を決意したそうなんです。以前聞きました』
『それはまた、長年ジュラルドンと言えばキバナ選手の相棒として定着していましたが、それを曲げての進化ですが、思い切りましたなぁ……そんなブリジュラスは近年発見されたばかりのポケモン、タイプは鋼とドラゴン。そしてシロナ選手は相棒たるガブリアスです、相性だけで物を言ってしまえばブリジュラスが不利と言えてしまいますが……』
『それだけで語れるほど、バトルは甘くないですからね』
『ですね』
「ジュラアアアアアアアアアスッ!!!」「ガブァァァアッ!!!」
やる気満々だと言わんばかりに唸り声をあげるブリジュラスに負けないと言わんばかりに威嚇を返すガブリアス。互いに相棒の自覚があるが為に相手の自慢の相棒には負けたくはないという強い思いがある。それぞれのプライド、そして強さが激突しようとしている。名前がコールされ、バトル開始の合図が今―――告げられる。
「素早く―――剣の舞!!力業―――スケイルショット!!!」
「ガァァブゥゥ……アアアスッ!!」
「素早く―――鉄壁!!更に素早く―――リフレクター優先で両壁!!」
「ジュゥゥゥッ、ジュラァッ!!」
ほぼ同時の指示、剣の舞と鉄壁。スケイルショットとリフレクターと光の壁、鉄壁とリフレクターの重ね合わせてブリジュラスはダメージを抑える事は出来ているが、スケイルショットの回数はMAX。運がいい、というよりもガブリアスの身体の使い方が上手いように見えた。
「地均し!!」「ヘビーボンバー!!」
勢い良く地面を踏み締めた事で発生した衝撃波から逃れるように飛び上ったブリジュラスはそのまま勢いよく落下してガブリアスを潰さんとするが、それに対して跳躍すると真っ向から瓦割をアッパーカットで放つ。互角のパワーなのか空中で弾ける両者、ブリジュラスは着地するが、空中で姿勢を整えながらも高速で迫って来るガブリアスを見た。
「力強く―――影分身!!素早く―――ドラゴンクロー!!」
高速で迫りながらも一気に分身して、その爪を輝かせながら迫って来るガブリアスにブリジュラスは連続ですれ違いざまにその身体を切り刻まれていくが―――全く焦る様子も見せずに笑う。
「ガブリアス後退よ!!」
「メタルバースト、ぶちかませ!!!」
「ジュラアアアアスァ!!!」
これまで受けて来たダメージを返すぞ!!と言わんばかりに叫ぶと全身から金属質の輝きが無数に放出される、それはガブリアスが与えてきたドラゴンクローのダメージ。だが分身のガブリアスが、咄嗟に本体を背後に飛ばしたことでガブリアスはメタルバーストを回避する事に成功した。しかし僅かにメタルバーストが当たっているのでノーダメージというわけにはいかなかった。
「ちっいいタイミングだと思ったんだがな」
「正直言えばかなりギリギリだったわよ、我ながらよく避けてくれたと思ったわ」
「だがこれで―――」
「やっぱり持久力の方だったのね……」
シロナはこの日を迎えるにあたってラビの配信を見直している、特にブリジュラスの配信回。あれを何度見返した事か……ブリジュラスの強み、特性、得意な技などは全て把握済み。そして自分でジュラルドンを捕まえて来て、仮想敵になって貰いながらも特訓を繰り返して来たのが今日の自分とガブリアス。悪いが―――負ける要素はない。
「(つ、つえぇ……これがダンデよりも評価の高いトレーナー、チャンピオンシロナ……!!)」
確かにダンデはトレーナーとしての評価は高い、それはガラル内部に限った話ではないのだが……世界で見た場合はシロナの方に軍配が上がる。それは偏にパーティの完成度の高さと揺るぎない絆が紡ぎ出す苛烈にして沈着な戦術にある。この日に当たって、ラビのガブリアスにお願いしてバトルをしてきたが……ラビの言うとおりになった。
『一応言っておくが、俺のガブリアスとシロナさんのガブリアスを一緒にするなよ?シロナさんのは揺らぐ事のない絶対的なエースに比べてこのガブリアスは先発で出て盤面を整えて後続を有利にするのが役割だ。こいつに勝てるようになったからと言って、シロナさんのガブリアスに勝てるなんて甘い話じゃない』
「分かっちゃいたが……」
力業影分身からの早業連続瓦割、それを受けたブリジュラスの体力は大幅に減っている。それを利用したメタルバーストも見切られた。代償と言わんばかりに持久力で防御は最大にまで上がっているが……それでガブリアスに絶対に勝てるわけでもない。
「ジュラァアアッスッ……!!」
「っ~……痛いか、相棒……悪い、俺がボケカスなせいでよ」
苦悶の声を上げながらも姿勢を崩さぬように努力するブリジュラス、自慢の鋼のボディも凹凸が生まれて歪みが生じてきている。此処まで来ておいてこのザマか……と思うが、まだ諦めたくない。もうブリジュラスは限界が近い、トレーナーとして此処で引きたいと思ってしまう。
「だがよ、俺達はまだ立ってんだよ……まだ、この足で、確りと地面に立ってる……」
だがそれではいけないんだ、ブリジュラスはそれを望んではいない。何時かラビが言っていた言葉を思い出す。
『トレーナーはポケモンがいて初めてトレーナーになれる、ポケモン達の命と生涯を背負ってる。それに寄り添って共に生きる者、だけど時には道の先にデカい穴や障害がある筈、それを共に乗り越えたり、迂回、諦めて新しい道を歩むのも必要。それを一緒にやってやる事』
そんな事を言っていたらしい、自分もそう思う。だからここは自分が一歩引いてやるべき、それも正しい選択なのだろう……だけど
「オレ様が、オレ様達は負けてねぇ……」
そうだ、勝ってもいない。まだ勝負の最中なんだ、そして―――惚れた女の前でカッコ悪い所を見せたくないのが―――男の子ってもんだ。
「だからっ最後の瞬間まで……付き合って貰うぜっ相棒!!!」
「ジュラアアアアアアアアアアアアアスッ!!!」
「勝つ為に、全てを出し切る!!」
そう言いながらもテラスタルオーブを取り出した。生憎ここではダイマックスは出来ない、だからこそ自分に残された手段は……そう思いながらもオーブを握り締める。
「輝け、絆の結晶!!勝負の大海に勝利の橋を、築いてみせなぁ!!!!」
投げられたテラスタルオーブによって顕現するテラスタル、発現したテラスタルは―――鋼。頭部に輝く斧のようなオブジェ、力強く吠えるブリジュラスにシロナも懐からテラスタルオーブを取り出して構えた。
「ならば、チャンピオンとして全力で貴方を越えましょう。大地よ、大空を舞う者と一つになり、新たな世界を紡ぎだせ!!!」
ガブリアスもテラスタルを発現する、そのタイプは地面。ガブリアスとしては自身の最大の欠点を補強しつつも地面タイプをより高めるという良い選択、それはこの場においてもそうだろう。ブリジュラスにとっては致命的なテラスタル。
『両者ともにテラスタル!!ここからが最終決戦かぁ!?』
「行くぜ相棒―――ラスターカノン!!!」
「瓦割!!」
発射されたラスターカノンを真横からの瓦割が切断するかのように迫るが、それは弾いて反らすのが精々止まり、跳ね上がったそれはシロナの背後で炸裂するが彼女は微動だにしない。
「負けるなブリジュラス!!素早く―――剣の舞、力強く―――ワイドブレイカーだ!!」
「素早く―――剣の舞、力強く―――ドラゴンクロー!!」
真っ向からの殴り合い、ブリジュラスは上昇している防御を盾にするかのように無理矢理な突破を試みるが、ガブリアスは剣の舞を更に積んで攻撃力を上げに来ている。ワイドブレイカーでの攻撃もドラゴンクローでいなされ、カウンター気味に攻撃がヒットしていく。それでもブリジュラスは歯を食い縛りながらも必死に突き進む。愚直に進み続ける、キバナの思いに応えるにはもう自分に出来る事はこれしかないと言わんばかり。
「ジュラアアアアアスッ!!!!」
「ガアアッ―――!!」
不意にガブリアスの姿が消える、直後にブリジュラスは真下からの衝撃を受けて天へと打ち上げられた。不意に身体を沈ませて視界から逃れた、そしてアッパーカットのように炸裂したドラゴンクローで打ち上げられてしまった。
「負けるな相棒!!!最大パワーでラスターカノンだ!!!!」
「ジュゥゥゥゥウウウウウッラアアアアアアアアアアスッ!!!!!」
渾身のラスターカノン、それは直径が3mはありそうな程の超巨大なラスターカノン、それに対してガブリアスは―――
「素早く―――守る!!」
即座に防御に徹した。緑色の障壁がラスターカノンに飲み込まれようと、それはガブリアスを脅かす事はなく、受け切られてしまった、そして障壁を消すと即座に大きく吠えた。
「力強く―――テラバースト!!!」
「ガアアアブァァァァアアア!!!」
地面へと突き刺された爪、そこから脈動するエネルギーがブリジュラスの着地点で炸裂した。火山の爆発かと見紛う程の大爆発に巻き込まれたブリジュラスは再び打ち上げられるとキバナの足元に落ち、テラスタルが解除されてしまった。
『ブリジュラス、戦闘不能!!ガブリアスの勝ち!!BATTLE OVER!!よってこの試合、シロナ選手の勝利となります!!』
『決着ううううう!!!白熱の相棒ドラゴン対決はシロナ選手に軍配が上がりましたぁ!!!』
『ブリジュラスは鋼だからこそ、ガブリアスはそれを狙って動いてましたね……いやあのメタルバーストを回避されたのが本当に辛かった。あれさえ決まっていれば、ブリジュラスがガブリアスを打倒するチャンスは幾らでもあったのですが……』
「有難うよ相棒……ゆっくり休んでくれ、流石シロナさんだぜ、見事に……負けちまったよ」
「あのメタルバーストが分水嶺だったわよ、我ながら本当に良く気付けたわよ」
「ちぇっあと一歩だったんだけどねぇ……まあいいぜ、オレ様は此処で止まる器じゃねぇからな……負けるんじゃねぇぜ、今度は勝つからよ」
「望む所」
最後に握手をしてからキバナは後ろを向きながらも去っていくが、シロナは思った。写真を撮らないのだろうかと、彼は悔しさを忘れない為にいつも写真を撮っている筈だが……と思っていると取材陣が寄って来たので、勝者の役目を果たすかなと……其方へと向かう。
廊下を歩くキバナ、無造作に手をポケットに突っ込んで歩く姿も様になっているが……そんな彼を控室で出迎える様にレビが待ち受けていた。
「よぉっレビ、ついで程度の応援って言った癖に良い感じの言葉を掛けてくれるたぁイジらしい事してくれるじゃねぇか、えぇっ?」
普段通りの口調で語りかけるキバナだが、それに対してレビは何も言わない。その瞳は何処かなんで噓を吐く必要があるのよ、と言わんばかりの物だったからだ。
「オレ様が弱くて相手の方が強かったってだけ、バトルの世界じゃよくある話じゃねぇか……」
「だったら、そんなに悔しそうな顔するんじゃないわよ。そんなに悔しいなら、大声を張り上げて悔しがったって誰も文句言わないわよ、もっと、自分を表に出しなさいよ!!!なんでアンタはそうやって自分を隠して誰もが求めるキバナを演じてるのよ!!!」
「……別に嘘なんかついちゃいねぇよ、これも、オレ様なだけだ」
そうだ、本当に悔しいが……それを発散させてしまいたくはない、それを次へと繋げる力にしたいだけなんだ……本当に、それだけなんだ……。
「嘘よ、じゃあなんて……自撮りすら忘れる位に悔しくて、辛そうな顔をしてるのよ」
「……辛いぜ、言って何でも楽にはならねぇんだよ。時にはそれを全部飲み込んで、自分の魂で覚えておくことも必要なんだ。今回はその時なだけだぜ……そう、それだけだ。オレ様にとっては―――ああ、だけど、お前の前でカッコつけたかったのに、カッコ悪かったのが心残りだな」
「カッコ良かったに決まってるじゃない!!好い加減に自分を下げるのをやめなさい!!少なくとも私の前では楽になりなさいよ、そうじゃないとアンタ何時か壊れるわよ!!!?」
「……そう言ってくれると嬉しいな、んじゃよ一つ我儘聞いてくれるか」
「……何よ」
「……疲れた、な」
そう言いながらもキバナは軽く、レビを抱きしめて弱音のような言葉を吐いた。何処か、淡々と、心の底から出た言葉にレビは抱き返しながら言う。
「バカ……私の冷たい身体じゃ休まらないわよ」
「いいや、この冷たさが、心地いい……」
じゃあ好きにしなさい……そう思いながら、レビはキバナの好きにさせる事にした。彼の心が少しでも、魂が少しでも、安らげるように……願いながら。
なんでこうなったんやろなぁ……。