ミクリにとっての相棒にして切り札の一柱を担ってくれているミロカロスの投入を見たナギは思わず、組んでいた腕を手で強く握り込んでしまった。ラビの実力は彼女とて承知しているつもりだ、ホウエン地方を巡っていた頃に対戦したが、当時からラビのバトルは既に現在のバトルの原型が完成しきっていた。既に仕上がった自分の完成系を見定め、そこへと目指していた。チルタリス処かオオスバメでも彼の快進撃を止める事が出来ずに圧倒されて、ホウエン地方のジムリーダーが参加しているコミュニケーションチャットで彼の事を書き込んで早く対戦したいと笑っていた頃を思い出してしまった。
「だがあのイルカマンを……」
ミクリの調整には自分も付き合っている、メンバーの中でも新入りの部類になるイルカマンだが、ナイーブフォルムでの戦闘力は妥協している訳が無い。ミクリは最初から美しい物だけを選別してそれだけを更に研磨するような物ではない。何処にでもあるような唯の石を美しく研磨し、最高の美を観客に見せつけるエンターテイナー。あのイルカマンもこの舞台に相応しい実力に鍛え上げられている筈……。
「負けるなよ、ミクリ……」
『NEXT BATTLE ミロカロス VS ヤドラン!!3、2、1……BATTLE START!!』
「ミロカロス、素早く―――龍の舞!!力強く――ドラゴンテール!!」
「ミイイロオオオオッ!!!」
荒れ狂う龍のような舞を踊りながらも迫って来るミロカロス、腹太鼓を打ち破る簡単な方法は強制交代、そうなれば出して来る技は必然的に絞れる。ドラゴンテールなのも納得だ。だけど―――
「ボクのミロカロスの龍の舞は、並ではないよっ!!」
「でしょうね、だからこそ―――こいつが効く素早く―――トリックルーム、力強く――シェルアームズ」
「ヤドラン???ヤッドォオゥッ!!!」
繰り出されたのは四方へと光が散る技、それは四方へと散ると互いを繋げてフィールドを覆う結界を作り出すとそれが機能し始めた時、ドラゴンテールを振るったミロカロスを遥かに超える速度でヤドランはその背後を取った強烈な一撃を顔面へと直撃させた。
『トリックルームッ……やっぱり覚えてやがったかあのヤドラン、こうなると龍の舞は寧ろ悪手になっちまう……』
『と、言いますと』
『トリックルームは素早さが遅ければ遅い程に素早く移動出来るというポケモンバトルにおける常識の根幹の一つを捻じ曲げる技の一つです。スピードを生かしたバトルというのは分かり易く強力ですから変化技で真っ先に使われるのはスピードで、統計的にも高速移動などが一番多いという話もあります。ですがトリックルームはそれを逆手に取る、遅ければ遅い程に素早く、素早ければ素早い程に遅くなってしまう……』
「隠して、いたのか……!!」
「人聞きの悪い事を言わないで頂きたい、貴方が、見破れなかっただけだ。さあどうする、お前はどうするよ―――コーディネイター」
「っ…‥!!」
その時、ミクリは思わずゾッとしてしまった。そこにいる対戦相手から底知れない悪意のような物をひしひしと感じてしまった。見た目だけならば自分よりも遥かに幼い筈の目の前の男から感じるのは洗練されつつも老獪な戦術だ。そんな時に頭上からビームが降り注いでミロカロスに襲い掛かって来る。
「未来予知か!?」
「Exactly.不注意はいけませんねぇ……怪我の元ですよ」
「随分と、僕の神経を逆なでする口ぶりをするね」
「いえいえいえ、盤外戦術でも使わないとチャンピオンには勝てないと思ってる―――訳でもないが、付き纏う赤アフロの始末は俺にやらせてくれなかった八つ当たりだ。素早く―――怠ける、力強く―――シェルアームズ!!」
「「ヤァドラン……ヤッドッ!!!」」
身代わりを含めたヤドランが怠ける、だがその直後にとんでもない速度で駆け出して来る。本当にヤドランなのかと疑いたくなる程の超スピード、これがトリックルームかと毒づく。
「ミロカロス、素早く―――自己再生!!力強く―――波乗りだ!!」
「ミイイロォォォオッ……ミロオオオオオッ!!!!」
素早く回復を終わらせると巨大な波を生み出してそれに乗るミロカロスだが、直後にヤドランは身代わりと列をなした。前面に身代わり、後方に本体。すると前面のヤドランが軽くジャンプする、その上に本体のヤドランが飛び乗ると身代わりのヤドランは真上に本体を打ち上げた、身代わりは波へと飲み込まれていくが―――本体は波の上で制御しているミロカロスへと到達する。
「負けるなミロカロス!!素早く―――ドラゴンテールだ!!!」
「ミイイイロオオオオ!!!!」
「ヤドゥッゥランッ!!!!」
波乗りしながらのドラゴンテール、早業で素早く繰り出すがそれを見たヤドランは素早く物理のシェルアームズから特殊のシェルアームズに切り替えた。左腕に添えた右腕、鋭くなった瞳で一息に三発の毒液を発射、それはミロカロスの頭部、腹部、尻尾に正確に命中してバランスを崩れさせて波の中へと没していくとそこには身代わりのヤドランが潜んでいた。身体が消えかけているが、まだ体力は残っていると言わんばかりに身代わりもシェルアームズを叩き込んで波からミロカロスを吹き飛ばしてしまった。
「ミ、ミロォォオ……!!」
「まだ動けるか、流石のタフさだなミロカロス」
「ヤドッ……ヤドランッ……?」
ヤドランは身代わりが目の前で消えるのを手を振って見送ったのだが、消えた瞬間にまた頭に無数のハテナを浮かべるいつものヤドランに戻った。本当にこいつのペースにはムラがある……と思わざるを得ないラビであった。
「ミ、ミロォォオ……ロスゥゥッ……」
「ミロカロス、自己再生だ!!」
「させると思うか?」「ドラン!!」
回復を最優先にしたかったミクリだが、ヤドランもラビに同意見なのか、即座に行動した。トリックルームによるスピードとクイックドロウの発動で最早ヤドランを妨げられる事はデオキシスのスピードフォルムだろうと不可能。
「お前なら言うまでもないが―――力強く―――シェルアームズ!!!」
「ヤッドオラアアアアンッ!!!!」
振り抜いた一撃は斬撃のように閃光を残しながらもミロカロスの顎を正確に捉えた。ミロカロスは自己再生を行えていたが十分ではなかった、これまでのダメージの蓄積と波乗り中のシェルアームズで毒を患っていた。それによって特性の不思議な鱗が発動していたが……その程度で腹太鼓による恩恵を防ぎ切れるほどの防御は得られない。吹き飛ばれたミロカロスは最後にミクリを見て、ごめんなさい……と涙を流しながらも倒れ込んだ。
「ミロカロスッ……!!」
『ミロカロス、戦闘不能!!ヤドランの勝ち!!!』
『お、恐るべしヤドラン、恐るべしトリックルーム、恐るべしラビ選手!!!チャンピオンミクリ選手相手にこの大立回り!!その戦術は一切の綻びも無ければ隙も御座いません!!圧倒的なパワーでミロカロスを文字通りに粉砕して見せました!!これでミクリ選手は最後の一匹になりました!!これは苦しい展開となってきました!!!』
『これがトリックルーム、そして腹太鼓の恐ろしい所だ……何方も通せてしまえば盤面を支配してしまう程のパワーを秘めている技ですが立ち回りには注意がいる、ですがそれをヤドランの特性、クイックドロウと早業が上手い事補強している……これほどまでにマッチしてしまうと末恐ろしい破壊力を生み出すのか……』
「有難うミロカロス、本当にお疲れ様……荒々しいバトルだ、だがそれこそこのPWCSで望んだ物だよ。もっと僕に魅せてくれ―――力とは、美しさを捻じ伏せられる物なのかを!!行くぞ、ボルケニオン!!!」
「ヴォオオオオオオオオオッッッ!!!!」
登場するボルケニオン、身体から蒸気を噴出し唸り声をあげる姿は中々に迫力があるが……ラビはそれを真っ直ぐに見抜いている。ボルケニオンも対戦相手の男が並の相手ではない物を感じ取るのか低く唸る。
「ヤドラン、行くぞ」
「ヤドラ」
「いやそこで発動させんでも……」
「ヤァ?ヤァ……??ヤァ……???」
「ダメだこりゃ」