「サトシの方が有利、よね」
「表面的な話だけだと、そうだけど……」
確認するようなカスミの言葉を、タケシは正確に答える事は出来なかった。電気と水、これは一概に有利とも言い難い。タイプの相性戦で絶対に有利と言い切れる場面は相手に抜群が取れた上で相手のタイプの攻撃を半減に出来る場合とされる。例を出すと炎と草、草と水、水と炎と言った関係性。この場合、ピカチュウは電気タイプを効果抜群で与える事は出来るが水タイプは等倍で入る為に完全な優位性を獲得出来ている訳ではない。
「それに恐らくだけど、ラビが連発してた秘剣・千重波って技は追加でダメージを与えつつフィールドにまきびしのような物をばら撒く事が出来る技のようだ……それを三度繰り返した、それによってピカチュウはノーダメージでのスタートが出来ていない、対するダイケンキは実質的にメガサトシゲッコウガではノーダメージ……」
「うん、私もラビさんが有利だと思う」
デントとアイリスも冷静にそう分析する。
「更に、サトシはメガサトシゲッコウガとシンクロした事で身体にもダメージを負っている……トレーナー自身がダメージを負っている状態でのバトルはハッキリ言って様々な弊害が出やすいです……」
「サ、サトシピンチなの!?」
「でも、ピカチュウもサトシも楽しそう」
シトロンの言葉に不安を覚えるユリーカを他所にセレナはサトシの楽し気な顔を見ていた。ピカチュウも同じ気持ちだと言わんばかりに良い面構えをしている。
「大丈夫大丈夫、だってサトシだもん。伝説のポケモンにだって恐れずに向かっていける人なんだから!!」
「本当にサトシってば変わらないのね、一緒に旅をした時と全然変わらないんだもん」
共に旅をしたヒカリとハルカもサトシの心配は微塵もしていなかった、この場合サトシは勝敗の優劣なんて物に執着しない。唯々楽しいバトルを全力で楽しむだけなのだから。
『さあ遂に最終決戦、互いの相棒同士の対決と相成りました!!マサラの黄色い閃光たるピカチュウとラビ選手の懐刀たるダイケンキのバトル!!相性だけで言えばピカチュウが有利ですが、ダイケンキの水技はピカチュウに対しても有効です!!さあどうなるか―――その始まるが今―――!!!』
『NEXT BATTLE ピカチュウ VS ダイケンキ!!3、2、1……BATTLE START!!』
『始まったぁ!!!』
「行くぜピカチュウ!!素早く―――高速移動!!力強く―――ピカピカアクセル!!」
「ばちばちアクセルだろうが!!?素早く―――アンコール!!」
平然と名前間違えんな!?とツッコミを入れながらも高速移動の段階でアンコールでそのワザのみに縛りを与える。これによってばちばちアクセルを出せなくなったが、それでもピカチュウは突撃を辞めずに走り続ける。ワザが高速移動しかない?上等じゃないか!!と言わんばかりにピカチュウは笑っていた。
「ピカピカピカピカッ……ピカピィッカッ!!!」
「ケェンッ……!!」
高速移動でスピードを十分に稼いだ所で跳躍し、身体を高速回転させながらも尻尾にパワーを集中させてまるで斬撃のように放って来るのでダイケンキもアシガタナで受け止める。大上段から振り下ろしにも似たそれは、余りのパワーでダイケンキを地面に僅かに沈めてクレーターのような物を作る程だった。
「―――ケン」
「分かった、相棒、好きにしろ。だが、その領域に負けたらダサいぜ」
「ダァキンイキ」
「ピカチュウ、如何やら応じてくれるみたいだぜ」
「ピィカァッ……!!チュッチュッ!!!」
ダイケンキの姿を見てまるでシャドーボクシングのように尻尾を振るって調子を確かめるピカチュウ。一体が始まるのかと思った直後、ダイケンキは一方のアシガタナを納めて一刀流になり、地面を炸裂させるような勢いで地面を蹴るとそのまま、アシガタナを構えて突きを繰り出す。
「ダァァイッ―――キキキケンッ!!!」
「ピィカカチュウ~!!!」
それに対してピカチュウは一切引く事も回避もせずの真正面に飛び込みながらも回転、鋭い突きが空気を切り裂いた際の流れを身体の回転で受けて、柔らかだが確実にそれを正面から抜けてみせた。ダイケンキは今のを躱すか……と笑うが、ピカチュウはいや避けきれてないさ、と言いたげに脇腹を摩ると三本の薄い線のようなかすり傷が生まれていた。完璧に回避してこれとは……恐れ入るとピカチュウは素直にダイケンキに賞賛を送る。
「……ケェェンッ!!!」
「ピィカッ!!「ダメだピカチュウ後ろに!!!」「チュッ!!?」
「ケエエンッ!!!……ダイケッ……」
再び飛び掛かったピカチュウ、それに対してダイケンキは再び突きを繰り出すが、その隙を見てピカチュウがさらに踏み込もうとしたがサトシの言葉に後方へと下がった。それを見てダイケンキは見切られたか……と喜びを含んだ舌打ちをした。
『い、今何をしたのでしょうか……ラ、ラバイさんは分かりましたか?』
『今、ダイケンキは突きを繰り出しました。この時、必然的に突いた腕を引きますよね、それを囮にしてワザとピカチュウに踏み込ませようとしてたんですよ。しかもダイケンキ、この時姿勢を低くしてやがる……』
「チッ……これもダメか」
「ケェン……」
沖田総司が使ったとされる三段突きの説の一つ、突き、引く、突きの三段階工程の三段突き。脅し、誘い、本命。それを応用したのだがアシガタナ三段突きその二……だがサトシによって二段階目でそれを看破されてしまった。
『しかし何故ダイケンキとラビ選手はそのようなバトルを……』
『今ピカチュウはアンコールでワザを封じられていますよね、でもピカチュウは身体捌きと技術であれだけのパワーを出せる、それに敬意を称してダイケンキも自分の技術というワザで戦いたくなったのでしょう』
それもある、だが相手はあのサトシ。既存のワザを出し過ぎると動作などで見切られる可能性があるので別のワザで揺さぶりと見切りをさせぬようにしているラビとダイケンキが考えた戦術。この発想元は、アニポケのXY編で、ムサシのソーナンスがケロマツのケロムースをワザではないので弾けないという所から来ている。
ではこのような技の場合はカウンターなどの対象になるのか?と疑問に思ったラビが検証してみた結果として―――これはワザではない為にカウンターでもこれは跳ね返せない、という結果が分かったのだ。
「まあ流石にピカ様がカウンター型ではないのは知ってるが……これのメインはアンコール対策」
「ケン」
何方かと言ったらカウンター対策というよりも分かり易くアンコール対策なのである。と言ってもアンコールを使っている相手はそこまでいなかったので結局日の目を浴びる事なくここまで来てしまったのだが……ダイケンキとしてアシガタナを活かせるとかなりノリノリで練習し、ジョウト地方のマイナー大会のポケモン剣術大会では優勝経験もある。
「ゲッコウガ相手なら更に出来たが……やっぱピカチュウだと無理だな」
「ケン……」
相手より低い所から攻撃を出す事で相手から見えにくい、対応しにくいというのを活用するが、ピカチュウのような小型ポケモンの場合はそもそも小さすぎて逆に見下ろす形が自然となってしまうのでやり難い。
「……ピカチュウ、そろそろ切れる。だから次はワザで勝負懸けるぞ」
「ピカッ!!」
「そろそろアンコールが終わるな……だったら―――」
「ケン」
「素早く―――高速移動で後ろ!!力強く―――10万ボルト!!」
「素早く―――嫌な音!!力強く―――影分身!!」
素早くなろうが流石に音よりは速くなれない、そこを突いてピカチュウの動きを封じて10万ボルトの発射タイミングを大幅に遅らせ、そこに実体を持った影分身を大量に展開する。遅れながらも嫌な音に負けずに電撃を放つが、敢て分身がそれを受けるのだが―――地面にアシガタナを刺す事で電撃を地面へと流して無効化する。
「やっぱりそう来るよな……だったらピカチュウ、もっともっと上げてくぜ!!素早く―――ボルテッカー!!」
「ピィカピカピカピカピカピカピカァッ!!!」
「一班はハイドロポンプ、二班は地均し、三班はバークアウト!!」
「「「「「ケエエエンキァ!!!」」」」」
主力の高火力技に素早さを奪う地均しに特攻を奪うバークアウトの三段構え、それらをまともに受けながらもピカチュウはそれを突き破って来る、ダメージを受けようがお構いなしに突き進んでくるそれは爆風を纏いながら影分身の陣を突破する度に衝撃波で分身を消し去っていき、その奥で待ち構えていた本体へと辿り着く。
「素早く―――剣の舞!!鋭利に力強く―――シェルブレード!!!」
「ケンキャァ……ケエエエエエエエエエンッ!!!」
「そこから切り替えろ!!力強く―――アイアンテール!!!」
「チュウウウウゥゥウピッカァッ!!!」
ボルテッカーのスピードとパワーを纏った渾身のアイアンテールと剣の舞でパワーアップし、更に業で強化されたシェルブレードが真っ向から激突する。鍔迫り合いのようになるが、直後に互いがまるで磁石の反発のように勢いよく弾かれた。地面に身体を打ち付けながらも体勢を立て直す、全くの互角……それを見て両陣営は笑う。
「ピカチュウ、限界を超えるぞ!!」
「ピカァ!!!」
「ダイケンキ、俺の誇りをお前の剣に託す!!」
「ケエエエエンッ!!!」
相棒同士の決戦は、まだ終わる気配を見せない。