「システムフルドライブ、出力最大値固定」
『了解ロト』
その言葉と共に周囲に展開されているバリアフィールド、同時に観客とバトルフィールドを隔てるバリアが同時に展開され、一瞬だけ色付いたと思った直後に透明になり、そこに壁がある事すら認識する事は出来ない。これで完全に大丈夫、とは言えないがそれでも多少なりとも耐える事は出来るだろう。
「ゼクロムの攻撃データを大本にして算出した最大許容上限……これで幾らかは持ってくれる筈……さてと、やるかアメジオ」
「ああ……」
「ヒュララララァッ……」
「ゼェェッ……」
相対する虚無の龍と白亜の秩序龍。互いに色違いという稀に見る事が出来る対決、冷気が漏れ出しているキュレムとそれを敏感に感じ取って戦闘態勢を取るジガルデ。傍にゼクロムとレシラムがいなければ庭どころかパルデアの気温が大幅に下がる所だったかもしれない。
「(これが伝説のポケモンと相対するプレッシャー……落ち着け、レックウザで経験済みだろう!!いや、明確に違う―――違うぞこれは……!?)」
アメジオは汗を流しながらも目の前の虚無に抵抗していた、伝説のポケモンとバトルはレックウザとのレイドバトルで経験済みであった筈……だが違う、あの時レックウザの意識はその場にいる全員に向けられており、漠然とした敵意を受け取っていただけだった。だが今はキュレムが真っ直ぐに此方へと敵意を向けて来る、そのプレッシャーは……呼吸すら危うくなる程に重い。
「来ないのか」
「―――藪を突く!!龍の波動!!」
「ゼドァァッッ!!!」
大口を開けながらも猛烈な龍の波動を放って来るジガルデ、フィールドを容易く抉って爆風がラビへと襲い掛かって来るのだが身動ぎすらしない。
「龍の息吹」
「ヒュゥゥゥゥッッ……!!」
呻くように発せられた龍の息吹は真っ向から龍の波動へとぶつかって完全に相殺するのだが、それを見てアメジオは目を大きくして絶句した。龍の波動と龍の息吹では技の威力が違い過ぎる筈なのに……これがレベルの差か……ハッキリ言って、今のジガルデはギベオンの元に居た時の力を取り戻し切っている訳ではない。
「ならば、サウザンアロー!!」
「ゼエエエアアアアッ!!」
天へと向けて吠えたてるジガルデの身体から無数の矢が打ち出されていく、それは空中のバリアへと当たると反射しながらもホーミングするかのようにキュレムへと降り注いでいく。
「ヒュウウウラァ……!!」
しかしそれを回避する事もなく、キュレムは静かに吠えた。直後、周囲の空気が一気に凝結、氷が空中に無数に生まれていく。それはサウザンアローに対する反射板として機能し、矢の一つ一つの力の方向をそっと反らす事でそれらを反射して全く別の方向へと誘導し、全てをジガルデへと向かわせた。
「ゼドァッ‥‥…!?」
「サウザンアローを此処まで容易に……!?」
ジガルデと共に歩むようになり、その能力の把握には可能な限り努めようとしていたが……例え10%のフォルムであろうともその能力は600族にも引け取らないジガルデ。故にその相手も限られるのでアメジオはジガルデとのバトルはまだ数えられる程度しか経験していない。加えて50%フォルムでのバトルはこれで3度目。
「冷凍ビーム」
「ヒュウラァァァ!!!」
だがそんな相手に容赦してくれる程ラビは慈悲がある訳ではない。発射された冷気の奔流は空気どころか空間そのものを冷凍する虚無そのもの、それにジガルデは本能的には危機感を募らせたのか、背中の器官からエネルギーを放出、神速並のスピードで回避を行った。そしてそのまま飛び上がったジガルデはそのまま巨体を生かした体当たりを敢行、キュレムは空中に氷の盾を生み出してガードを行う。
「あの巨体でなんつうスピードだ!!?」
「す、凄いのです!!」
余りのスピードにキバナとアンシャが驚愕する中でカルネは素直にそこにあった事実を読み取った。ジガルデはアメジオを認めてこそいるが、まだアメジオがジガルデの手綱を握り切れていない事を理解した。彼自身がジガルデの能力と力の深さへの理解度が足りていない、これはアメジオに限った話ではなく、幻のポケモンなどをゲットしたトレーナーに共通した問題でもある。
「ゼドアァァァッ!!!」
「いやダメだジガルデ一旦退け!!退きながら龍の波動!!」
「ゼドッ……ドアァァァァアア!!」
「冷凍ビーム」
「ヒュウウラアアアア!!」
龍の波動と冷凍ビームが激突するが、タイプ相性の関係で一気に波動が押し戻される中でそれをアイアンテールで弾き飛ばしてしまうジガルデ。そしてそのまま回転の勢いを使いながらのワイドブレイカーで再び距離を詰める。
「矢張り接近戦の方が得意な口か、ドラゴンクロー!!」
「ヒュラッ!!」
歪な翼のような腕にエネルギーを纏わせ、巨大な翼腕としながらもジガルデを受け止めるキュレム。巨大な身体をも使って此方を押し込んで来るジガルデは即座に背中からエネルギーで加速してくる、接近戦のセンスが中々に高いと言わざるを得ない。
「いや、あのキュレムに接近するのは……!!」
「……ゼドッ」
アメジオの気持ちを感じ取ったのか、ジガルデは一気に後退した。先程まで中々な勢いで押し込んでいたのに関らずの後退、これにはトウヤとトウコも疑問を感じずにはいられなかった。
「今、どうして下がったんだ……?」
「あのままなら、接近戦を仕掛けられたのに……あのスピードなら超至近距離でも対応出来ると思うんだけどなぁ……」
「ラビ氏がジガルデは地面とドラゴンタイプって言ってたし、それが関係してるのかなぁ……4倍ダメージは警戒しちゃうのは無理ないよ」
「それもあると思うけど、あの子、ジガルデの力を把握しきれずにいるのよ」
ジガルデの能力をトレーナーの感覚として把握しきれていない、潜在能力が余りに大きすぎるポケモンをゲットした場合に起きやすい事象で特に幻や伝説のポケモンなどをゲットしてしまったトレーナーが陥ってしまいがちな落とし穴。そのポケモンのポテンシャルを感覚として理解出来ない為に自分の持つ理を適応して考えようとしてしまう、結果的にそのポケモンの強みなどを殺してしまう。そんなカルネの言葉にNが続いた。
「それもあると思います、それ以上にあのジガルデはアメジオ君をかなり気遣っていますね……それを理解しているからこそ自分から歩み寄って自分の能力が把握出来るように努めている……まだ踏み込むは早かったか、と先程言ってました」
ラビも感じ取ったそれ、お互いがお互いを何とか理解しようと努めている。アメジオもアメジオで自分の中にある理で必死にジガルデを理解しようとしているし、ジガルデの弱点である氷タイプの技を受けさせまいと全力で警戒している。ジガルデもアメジオの意図を理解し、自分の力を可能な限りアメジオに見せ、情報として提供しようとしている。
「(アメジオがちょっと勘違いしてるなこれ……)」
良くも悪くもジガルデの自己判断による行動の方が遥かにレベルが高い、その為にアメジオはジガルデが自分の指示に不満を持っていると感じているのが、何処か迷子の子供のような表情に現れている。
「キュレム―――ちと手伝いをしてやろう」
「ヒュラァァ……!!」