「世界から価値を奪え、理想と真実を―――
「ヒュウラァァァァッ……!!」
キュレムの全身から猛烈な冷気が漂い始める、それは徐々に周囲のフィールドを凍らせていく。結晶のような美しさすらある氷が周囲を侵食するように伸びていく。
「く、空気が白くなっていくのです!?」
観客席にいたアンシャは目の前の空間が突如として曇るように白くなっていく現象に目を丸くした。それに対してNが解説を入れてくれる。
「これは、キュレムが本格的に力を使い始めているんだ。恐らくだけど、気温その物がキュレムの持つ力で0へと向かって落ちている……バリアもそれに耐えきれずに凍り始めているんだ」
「バリアが凍るってどういう力だ……」
「それが伝説のポケモンだよ、伝説のポケモンは最早生きる現象で概念と言って差し支えないんだよキバナさん」
個体差こそ存在するが、伝説のポケモン達の力は人間の常識を超えて行く。オレンジ諸島に存在するファイヤー、サンダー、フリーザーの三体は『火の神』『雷の神』『氷の神』と謳われ、海に熱と冷気で海流を、そこに雷を加え生命の源たるタンパク質を生み出しているという仮説すら打ち立てられている。
「これからキュレムは凍える世界を放つ、防いでみなアメジオ」
「ラクリウムを、一瞬にして無力化したあれをっ……!?」
アメジオの脳裏にも強く刻み込まれている凍える世界、それがこれから発動されようとしていると理解すると背筋が凍り付きそうになった。あの時、ジガルデはギベオンを守る為にワザと凍てつく世界を喰らって身体の半分以上を凍結させられてしまった。今のジガルデが喰らったら致命傷になりかねない。
「くっジガルデ、岩雪崩だ!!」
「ゼドアアアアッ……!!」
尾で地面を叩き、無数の瓦礫を生み出しながらもそれを打ち放つジガルデ。だがそれは凍える世界の予備動作で漏れ出した冷気によって生み出された角度の付いた氷の盾が岩を弾いてしまう。
「流星群!!!」
うち放たれた流星は流星というには巨大すぎる隕石群となってキュレムへと向かっていく。ドラゴンタイプのキュレムにこれは効く筈だと思っての選択だったのだが……流星群は空中で凍て付いてその場に固定されたかのように動かなくなった。そして脱力したかのように真っ逆さまに落下していった。
「っ……(どうすれば良い、考えろ、考えろアメジオ……如何すればジガルデの能力を活かせる……!?俺がしっかりしなければ御爺様に顔向けなど―――)」
どうすればこの状況を挽回できる、ジガルデという巨大なポケモンのトレーナーとして相応しくいられるのかと思いを巡らせているとジガルデが自分を見つめている事に気づいた。その瞳は危機的な状況にもかかわらず、何処か優しく温かみがあった。世界が凍て付こうとしているのにも拘らず……まるで日の光のような温かさがそこにあった。
「ジガルデ……?」
「ゼェェァァ……」
その時、不意に脳裏に過ったのはギベオンとジガルデが共に歩んでいた光景。一瞬しか見えなかったが、その刹那が魅せたのは共に歩んでいたという事実のみを加速させた。そしてアメジオはソウブレイズのボールを手に取って見つめた。
「……そうか、そういう事か―――ジガルデ」
「ゼド?」
「済まなかった、俺ばかりで悩んでお前と向き合っているつもりだった。正解は―――共に駆け抜ける事だ、トレーナーとして当たり前な所に正解があった」
口元を緩ませて笑うアメジオにジガルデはギベオンを見た。矢張り似ている、笑っている所なんてそっくりだ。
「俺はもう恐れん!!全てをぶつけろぉ!!!」
「ゼエエエドアアアア!!!」
その言葉を待っていたと言わんばかりに雄叫びを上げるジガルデ、直後にジガルデは全身からエネルギーを発してそれを地面へと流し込んでいく。輝きを放ち始めていくフィールドはジガルデの生体エネルギーが流し込まれた事で一気に活性化していくのだが、同時にまるで火山のようなうねりを持って一気に爆裂して凍て付いた地面が一気に砕かれ、解凍されていく。
「これはっ―――グランドフォースか……!?」
ジガルデ固有の技の一つであるグランドフォース、端的に言えば地震の下位互換とも言われる事もあるが、この世界ではそんな事はない。地震は単純な振動だが、此方はジガルデのパワーを地面に送り込む事で振動とエネルギー波の同時攻撃、威力90の連続二回攻撃と言い換えてもいい程のぶっ壊れワザだ。それによって浸食していた氷が無効化され、フィールドには生命力が漲っている。
「いけぇっジガルデ!!!」
「ゼドアアアアアアアアアアッ!!!」
背中からエネルギーを放出して凄まじい勢いで接近してくるジガルデ、それはキュレムですら反応する事が出来ず、ジガルデの一撃がキュレムへと刻まれる。終わりを意味するZの刻印、その刻印は臨界を迎えた爆弾のように大爆発を巻き起こし、バリアが緊急処置として天井部を部分解除し、そこからエネルギーを逃がす程の凄まじい破壊力であった。大地の監視者でもあるジガルデが天へと放った光、それは宇宙から観測できるほどの物。
「これが、ジガルデの力……」
その力を目の当たりにしたアメジオはゾクゾクとした高揚感が身体を突き抜けて来るのが分かった。いまだ53%でありながらもこれだけの力を発揮する、全てを力を解放したらどれ程までに巨大な力となるのか……まるで少年のような羨望の眼差しがジガルデへと向けられ、ジガルデ自身も、その瞳にギベオンを見る。
「それでいい、お前は頭で考えすぎなんだよアメジオ。もうちょっと短絡的になれ、トレーナーだけじゃポケモントレーナーは名乗れない、ポケモンがいて初めて名乗れる。それでいいんだよ」
そう語るラビの隣では未だ健在と言いたげなキュレムの姿がある、凄まじい一撃と思ったが、どうやらまだまだ力が足りないと見える……ならば新しい目標が出来た。
「ああ、そうだな……今度はジガルデを完全な姿にして挑みに来る。その時は貴様とキュレムを超えてみせよう」
「やってみろよ、何年かかるか知らねぇけどな」
「やるだけやってみるさ……ああっこれも冒険だ」
この激しい伝説のぶつかり合いその後―――遂に、PWCSは最終局面を迎えようとする。