翌日。改めて集合した一同は碧の仮面を前にしてどうするべきかを話し合っていた。
「この仮面、返すべきだと思う……鬼様さ、不安だろうし」
「大事な仮面っぽいもんねぇ~……改めて見ても普通に綺麗だし良い作りしてるわよねこれ」
スグリは先日あったあの子、ポケモンだと思われるあの子を鬼様だと思っているがそれ以上に大切な仮面だと思うから返してあげたいと意見する。それ自体は皆も同意見なのだが問題はあの子が何処にいるのかという話になってくる。
「スグリ、鬼様が何処にいるかとか分からない?」
「鬼様の住処ってのがあるから多分其処に行けば会えるとは思う……でも、俺行った事あるけど会えた事ないから……」
「あっでもさ此処、ちょっと欠けちゃってるね?」
「ホントだ」
アオイが指でなぞった部分、宝石の部分が欠けてしまっている。階段で落とした時に欠けてしまったのかもしれない。
「どうせなら綺麗にしてあげたいなぁ……あ、あたしが驚かせちゃったようなもんなんだし……」
「アッ責任感じてる」
「そりゃ感じるっての!!こんな綺麗な仮面の宝石部分よ!?」
言いたい事は分かる、だが自分達では修復の技術を持っている訳ではないのでどうするべきかと頭を悩ませているとスグリとゼイユのお爺ちゃんが顔を覗かせた。
「皆さん今日は家の中でお話ですか、お茶をご用意しますか?」
子供達が家の中にいて活気があることが嬉しいのか朗らかな顔を作っていたが、畳の上に置かれている碧の仮面を見ると顔色を変えて迫った。
「こ、この仮面はっ……!?この仮面をどこで……!?」
「わやじゃ!?き、昨日のオモテ祭りの時に……ラビさんが友達になったっていう不思議な子が付けてたんだ……それでもしかして、鬼様じゃないんじゃないかって話し合ってて……」
「なにお爺ちゃん何か知ってるの!?」
口を閉ざしながらも何かを考えこむ姿にラビが問う。
「何かご存じであるならばお教えください、私達は彼女に危害を加えるつもりなどはありません。唯、この落とし物を返してあげたいだけなのです。お祭りを楽しんでくれたあの子の落とし物を」
「鬼様が……今も祭りに来てくださって……そうか……ならばスグリ、ゼイユ、お主ら二人にも語るべき時が来たようだな」
「「えっ?」」
「鬼様、オーガポン様にお会いした皆さんも是非お聞きください」
オーガポン。それが鬼様と呼ばれるポケモンの本当の名前だった、そして―――この村に伝わっている歴史の真実を継承し続けてきた祖父から話がなされた。
オーガポンは異国からやって来た男と共にこのキタカミの里へと迷い込んだ、しかしその姿が里の者とは異なっている為に迫害を受けていた。二人は山奥の洞窟へと移り住んだが、それでも二人はお互いが居るだけで満足だった。そんな姿を不憫に思った村の仮面職人が二人が持ち込んだ宝石をあしらったお面を作った。お面で素顔を隠して祭りに行くと二人は歓迎された、そしてお面の見事さはたちまち評判になり遠くの国々までに知れ渡るほどだった。二人はお面職人の優しさに大変感謝したという。だが、それが悲劇の始まりでもあった。
その評判を聞きつけた欲深いポケモンが仮面を狙った、不幸にもその時オーガポンは留守だった。男は何とか一つの仮面を守り抜いたが、残りの仮面はすべて奪われてしまったという。そしてオーガポンが目にしたのは争った形跡と男が守り切ったお面だけ。その所業に怒り狂ったオーガポンはお面を盗んだポケモンたちを全て倒した。
しかし事情の知らない村人は怒り狂うオーガポンをただ恐れることしか出来ず、やがて村人はお面を盗んだ三匹は村を守ってくれたと勘違いしてしまい三匹を「ともっこ」と呼んで感謝し、逆にオーガポンを悪い鬼と決めつけたのである。オーガポンはその後傷つき、悲しみに暮れて洞窟に帰っていったという。
「何、そ、れ……じゃ、じゃあ……オーガポンは……」
言葉が出ないとはまさにこの事だろう。それが、嘗てオーガポンへと仮面を作った職人である子孫が受け継いだ真実。ゼイユは震えながらも口元を押さえていた、これまで自分は何度鬼の事を悪く言ってともっこの事を讃えていた?その事が、酷く悍ましく感じられてきた。だがそれ以上なのがスグリだった、鬼の事を好いているスグリにとって許せる事ではない、自分が好きだと思って来たこの村がそんな事をしていたなんて……という事実に言葉を失っていた。
「善悪の逆転……いや違うか、怒り狂った姿故に悪だと決めつけたか……」
「胸糞悪い話だ……」
「……酷い」
それらを冷静に受け止められていたのがこの里の出身ではないラビ、ハルト、アオイだった。
「最悪最悪最悪!!!マジふざけんじゃないよ!!じゃあ何、今村はオーガポンを苦しめてたともっこを祀ってるって訳!!?マジで訳わかんない!!全部、全部無茶苦茶にしてやる!!!」
「俺も、許せない!!!」
激情に駆られて飛び出していきそうになる二人、だがそれを止めたのは祖父の言葉よりも先にボールから飛び出したラビのオノノクス。突然の黒い龍に二人が戸惑う中で祖父が声を上げる。
「やめなさい二人共、今村の現状を理解しておるか。ともっこを祀っている歴史が定着している中でそれが真逆だと声高に叫んでも状況は全く変化しない」
「だ、だけど……」
「それじゃあ鬼様さ、笑顔になれない!!!」
強く反発したのがスグリだった、スグリからすれば許しておける訳がない。あの時のオーガポンは隠れるように祭りに来ていた、過去の事があるから村の中へと入りたくなかったのだ。それでも皆が仮面をつけるオモテ祭りに参加したかったのだろう、以前と同じように楽しみたかったんだ。だったらそう出来るようにしないといけないのが話を聞いた自分達の役目だと衝動がスグリを突き動かそうとするが、飛びだそうとするのをオノノクスが抱えて止める。
「は、離して!!ラ、ラビさんオノノクスさ、戻して!!」
「いえ戻しませんよ。落ち着きなさいスグリさん、態々オーガポンさんとその方の為にお面を作って下さった職人さんが貴方方のご先祖様、そんな優しい方々が今の貴方方のように訴えていないとお思いですか?」
そう、仮面職人はオーガポンと男と唯一本当の繋がりがあったと言える人。そんな人間が真実を覆い隠したままであるとは思えない。そのラビの読みは当たりで、真実を訴えようとしたが、結果として迫害を受けてしまい、家族や子孫を守る為に秘密裏に真実を伝承してきたとの事。
「このような場所で最も恐れるべきは隔離、迫害される事です。それを避ける為に貴方達のご先祖様は耐えてきたんです」
「そ、それは分からなくないけどさ……」
「じゃあ鬼様さの事は忘れろって言うの!?あんなに怯えてた鬼様を!?」
「そうは言ってません、私は友人が抱える問題を放逐する程冷血漢ではありませんよ」
ラビは未だオノノクスに抱えられているスグリの目を見ながら言った。
「いいですかスグリさん、貴方が抱いている思いと行動は尊い物です。ですがそれだけで行動してはいけないんです、オーガポンさんに時間はあった、その時間の中で様々な事を考えた筈です。私達では想像もつかない程に辛い思いをしたかもしれません、その中でオーガポンさん自身がケジメを付けた事はあった筈です」
「ケジメ……」
「そうです。ですからはまずはオーガポンさんの事を知る事から始めましょう、改めて握手をし、一緒にご飯を食べて、一緒に遊んでお友達になりましょう」
「鬼様さと、友達……?」
「ええ」
碧の仮面を手に取りながらラビは続ける。
「私は昨日、オーガポンさんに林檎飴を渡しました。その時に彼女は戸惑いながらも受け取って食べてくださいました。そして喜んでくれた、また誰かと接する事が出来た嬉しさを感じました。だから今度は皆で遊びに行って仲良くなってあげましょう」
「そ、そうよスグ!!確かともっこ様、いやともっこの事とかムカつくけどさそれよりもすっごくいい思い出作るとか最高じゃない!?」
少しだけ困惑するスグリにゼイユが声を出していった。鬼様と友達になる、そんな言葉が何処までも魅力的で素敵な提案に聞こえてきた。
「そうだぜスグリ、俺聞いた事あるよ。最高の仕返しは自分が幸せになる事だって、まずは俺達がオーガポンを受け入れてあげようぜ」
「私ももう一回会いたいな、それで昨日一緒に食べられなかった分、一杯食べたいよご飯」
「―――……お、俺も、俺も鬼様さと仲良くしたい……!!」
「それが一番です。それでは先ずは、この仮面を直す事から考えましょうか」
「それなら私が何とかしてみましょう」
一つ一つ変わっていく認識と方向性、良い方向へと向かって行くが……それに呼応するように悪い方向も迫ってくるものだった。
「あ、あのラビさんもう勝手にどっかいかないから早くオノノクスに下ろすように言って~……」
「あっごめんなさい忘れてました」
「面倒くさいから暫くそのままでも良いんじゃないスグ」
―――目覚めろ、眷属共。