格闘タイプ同士のバトルでもここまで鈍く重い音が響き渡る事は稀だ、況してやそれを行っているのがガチガチの物理ポケモンではなく特殊ポケモンである事がこの異常性を際立たせている。
「きゅうんっ!!きゅうううっ!!!きゅううううぬううううっ!!!!」
『ふっ!!てぇぁ!!!ぉぉっ!!ヌウウウウンッ!!!!』
アクアジェットの勢いと加速を使っての突撃からの超高速ラッシュ、到底アシレーヌが本来できるとは思えない動きと攻撃は一撃一撃がメガトンパンチを凌駕するほどの重さと威力、そしてスピードを内包しているが、ミュウツーはそれを短く持った二刀流スプーンで捌き続けている。
「きゅううううぬうううっ!!!!」
『ぬうっ!!?』
アシレーヌは片手にムーンフォースを溜めており、それをラッシュとの途中で解き放つ。突然放射されるムーンフォースをスプーンで身体を持ち上げて回避するのだが、そこへ片手でのムーンインパクトの追撃が入るのだがそれすらも片手のスプーンで受け流す。
『そう易々、いやこれは、ぐっ!!!』
「きゅうううぬぅぅっ!!!」
受け流されて通り過ぎるかと思ったアシレーヌだが、水を纏った尾が身体を捉えていた。ムーンフォースとムーンインパクトの連携に目を奪われていた為に疎かになった警戒を突いてアクアテールがその身体を揺さぶった。
『お転婆め、やるっ!!だが、まだまだァ!!』
吹き飛びながらも片手のスプーンの形を歪ませる、強い念の集合体であるそれの形を崩す事で単純なサイコパワーへと再変換、それをアシレーヌへと投げつける。
「っ避けろアシレーヌ!!いや距離を取れ!!!」
「きゅううぬっ!!!」
ラビの指示とアシレーヌの指向はほぼ同時に同じ答えを叩き出していた。アクアジェットを併用して後方へと飛び退くが、既に遅い。それは急激に膨張すると爆発的な空気の渦を形成して巨大な竜巻を生み出した。
『こ、これは!?竜巻、竜巻です!!?竜巻が出現しました!!これもミュウツーの技なのでしょうか!!?』
『な、なんてサイコパワーの出力だ……サイコパワー自体が猛烈な勢いで空気を飲み込んで、それで空気をかき混ぜて巨大な竜巻を作り出してやがる……!?確かにサイコパワーで出来ない事はないけど、それこそ伝説クラスの出力がないと成立しないぞ!?』
「良い判断」
『さぁて、あのお転婆は如何してくれるか』
肩にスプーンを担ぎながらもミュウツーはバトルを純粋に楽しんでいると言わんばかりにサイコウェーブによる竜巻を見つめた。その内部には逃げ遅れたアシレーヌが巻き込まれており、激しい渦の中に囚われている。サイコウェーブの勢いはフィールドの地面を抉る程の物がある、時間が経てば経つ程に竜巻の内部は地獄と化していく。
「きゅうううううっ……!!」
暴風雨の中に放り込まれたかのような地獄がそこにある、最早天地はなく視界は常に回転し続けている。最早何方を意識すればいいのかすらわからない。数多くのバトルを経験しているアシレーヌだがこんな状況はなかった。サイコキネシスで身体の自由を奪われ、地面に叩きつけられた、宙を舞った、天高く放り投げられた事だってあった筈なのにそのどれとも違う。
「きゅううううぅぅぅっ……!!?」
暴風が身体を引き裂かんとする力で襲い掛かって来る、最早自然災害その物。これをどうにかできるのかと自分の思考が凍り付きそうになる。
「―――っ!!―――!!!」
聞こえて来る、それはラビの声だ。乱回転するような中で見据えられたラビは此方を真っ直ぐと見つめ続けていて、指示を飛ばしていた。声は聞こえない、サイコウェーブの爆風の中では聴覚も視覚も荒れ狂って役に立たない。それでもラビの顔は確りと見れた、そして―――
「きゅうううううぬっ!!!!」
そういう事を言われたら、やらない訳にはいかないじゃないか!!これでも愛しの旦那様と子供達にカッコいいところ、見せたい奥様なのだから!!
『この竜巻の中で最早アシレーヌは行動不能になるしかないのでしょうか!?内部の様子は全くうかがえませんので何とも言いようがありません!!撮影用のドローンロトムを上昇させたい所ですが、この爆風ではロトムが巻き込まれるだけですので難しい!!なんとか定点カメラをフル活用して内部を確認しようとしておりますが……!!』
様々な悪足掻きが行われている中で、ミュウツーとレッドは静かにサイコウェーブを見据えている。さあどうやって此処から挽回するのか、ミュウツーのサイコウェーブはその気になれば根本の圧力で相手を両断する事も可能にする切り札の一つ。それをしなくても並のポケモンならば巻き込まれただけでも一溜りもない。
『……水?』
「水だ」
不意に、頬が何かが触れた。水だ、レッドの頬にも水が触れた。何処から水が、竜巻から。アシレーヌの悪足搔きか……と思ったのだが、それは徐々に増えていく、竜巻から水が溢れ出し始め、雨が降り始めたかのように水が落ちて来る。
「届いたか!!」
「ミュウツー」
『ああ、サイコウェーブが……破られる』
その言葉の直後、竜巻全体に水が浸透して巨大な
『た、竜巻が凍り付いたぁ!!?』
『こりゃ……』
「やられたな」
『ああ……まさかこんな方法で……」
「きゅうううんぬ」
竜巻の上に鎮座するように
『やってくれるな、お転婆……なっ!?』
「きゅううううぬううっ!!!」
まだまだですわよ、と言わんばかりにアシレーヌは凍った竜巻に手を掛けると思いっきり力を込めてミュウツーへと向けて倒した。巨大な氷の塊が此方に向かって倒れて来る、それは目の前で雪崩が迫ってくるのと同じレベルのインパクトがある。
「あいつの腕力を舐めない方がいい、素早く―――瞑想、力強く―――サイコブレイク!!!」
「そのようだな……!!ハァァァァァッ……!!!」
スプーンを地面に突き刺しながらも意識を集中させるミュウツー、瞑想によって高まっているサイコパワー、目の前に刺されたスプーンはそれを受けて、虹色に輝く光球へと変化。サイコパワーの凝縮体へと変貌し、それを勢いよく打ち出した。それは竜巻へと突き刺さろうとした瞬間に、そこから飛び出して来たアシレーヌが拳で捉える。
『何っ!?』「うおっマジ?」
「きゅうううううううううううんっ!!!!」
「ぶちかませ!!迅く―――アクアジェット!!猛々しく―――ムーンインパクトォ!!!」
「きゅううううぬうううううぁぁぁあああ!!!!」
アクアジェットで勢いとスピードを付け、ムーンインパクトでサイコブレイクを抑えつけながらも逆に突進する。背後には氷の竜巻が迫ってくる中でこの選択を取る豪胆さに流石のミュウツーには言葉を失ったが、直ぐにレッドが指示を飛ばした。
「確りしろ!!もう一発素早く―――瞑想、力強く―――サイコブレイク!!」
我に返ったミュウツーは瞑想をしながらもただサイコブレイクを放つのでは間に合わないと踏み、手に保持したまま、そのまま殴りつけるようにした。迫ってきたアシレーヌが押し戻してきたサイコブレイクを自らのサイコブレイクで迎撃する。威力的には互角で相殺されていくだろうが、直後にムーンインパクトと氷が自分達を押し潰すという三段構えのそれに、ミュウツーは素直に感嘆してしまった。そして―――
「ミュウツー!!」「アシレーヌ!!」
氷の竜巻が二匹を押し潰した直後にサイコパワーが爆発したかのような爆風が舞い起こって氷が空へと舞っていく。太陽の光に照らされてプリズムのように光を反射してフィールドに舞い落ちてくるそれらの光が照らし出したのは……
『……恐ろしいお転婆だ』
「きゅ、きゅうううんぬ……」
『アシレーヌ、戦闘不能!!』
遂に落ちてしまったアシレーヌ、だがその結果は大健闘と言って差し支えないだろう。この試合を見ているであろうラグラージやアシマリやミズゴロウ達もお母ちゃんに憧れの視線を向けている事だろう。というかアシレーヌがお母ちゃん呼びされているのがちょっとツボだった、尚、ツボってたらアシレーヌにムーンパンチをジャブで放たれて軽く呼吸困難になった。
「戻れアシレーヌ、よくやってくれたな……」
『これでラビ選手とレッド選手はお互いに最後の一匹となりました!!これで世界最強のトレーナーの座が、何方かの物となります!!!勝つのはレジェンドチャンピオンマスターのレッドか!!?それとも今大会屈指のダークホースたるラビ選手か!!?』
「……悩んだな、やっぱり」
この最後のポケモンに誰を据えるべきかと悩んだ。オーガポン、デオキシス、バドレックスと様々な候補がいた、ダークライを使う事も考えた。だけどやっぱり……自分はこいつと戦いたいという心に従う事にした。
「行くぞ、相棒……GO!!ダイ、ケンッキイイイイッ!!!!」
「ケエエエエエエエエエエエンッ!!!!」