「……こんな所か」
「ブル」
筆を置いて完成品の絵を見つめるラビ。ドーブルとの合作でカロス地方の伝説のポケモンたるゼルネアスとイベルタル、そしてジガルデの三大伝説ポケモンが一堂に会したという依頼だったので、描き上げたもの。
「疲れたな」
「ブルル……」
ディアパルギラ程ではないが、矢張り伝説のポケモンなどを描くと体力を大幅に使う、描いている最中に何かを吸い取られるような感覚があり、それに抵抗すると酷く疲れるのだ。一度試しに抵抗せずに描いてみたが……絵というよりも何かがそこから飛び出そうとしているような出来になった上にサザレ曰く倒れ込むように眠っていたらしい。
「ディアパルに直接会ったからだよな……何、具現化能力でも付いたの?」
「ブルルル~ルルルブ」
「つまらねぇ事だな……しっかし……このお嬢さん、幾らなんでも買い過ぎじゃねぇか?」
この絵の発注者はカロス地方のお嬢様、アグからの経由で来た依頼なのだが……以前アグが主催したオークションでも自分の絵を金の糸目を付けずに買い漁ったとも聞いた。どれだけの資産家なのか、そしてどういう人物なのか……アグ曰く、良くも悪くも素直で愛情深い人との事。
「……まあ兎も角、誠意を持って依頼してくれた人を邪険にする事も出来んもんな」
「ブルッ」
一先ず悪くない絵を完成させる事が出来たので満足だ、メープルにもボーナスを弾みながらも仕事部屋を出るとポケモンカードで遊んでいるアンシャとサザレがいた。アンシャのデッキはサーナイトとアシレーヌと友達デッキ、との事。因みにスターミーのコイントスにご執心中。
「あっラビさん、お仕事お疲れ様なのです」
「ありがと、伝説のポケモンの希望はやっぱり断った方が良いかもしれねぇな……すげぇ疲れる」
「やっぱり何か吸われてるんだって、前みたいな事なっちゃやだよ?」
「抵抗すりゃいいって分かったからな」
自分だってあんなキャンパスを突き破ろうとするギラティナの絵なんてもう二度と会いたくない、唯のホラーだ。プラチナでアカギに飛び掛かった瞬間みたいなタッチだった。
「にしても、カロスのお嬢様って誰なんだろうな」
「多分、それはユカリさんなのです」
「あれ知り合い?」
「はい」
アンシャ曰く、そのお嬢様というのはユカリという名前との事。カロス地方では有数の大金持ちでフェアリータイプをメインにするトレーナーでアンシャにとっても友達であるらしい。
「お母様はユカリさんのバトルの先生なのです、それで一緒にご飯を食べたり遊んでもらったりしたのです」
「へぇ~チャンピオンがバトルの師匠って、そのユカリさん?って凄い強いんじゃないのかな」
「確か、MSBC?っていうクラブを運営してるって言ってたです」
「ほ~ん……んじゃ腕の方もそれなりに自信があるのかねぇ……」
カルネを師と仰いでいるのであればそれなりの実力が担保されているようなものだ、もしかしたら何れ、バトルする時が―――
「あれ、お客さん?」
インターホンが鳴らされた、お客さんが来たようだ。しかしこうしてちゃんとインターホンが使われるのも奇妙に久しぶりな気分なのは、PWCSの影響なのだろうか……サザレが対応に向かっていく中で、アンシャはさり気無くサザレが伏せておいた手札を透視するか如く、凝視している。手が向かいそうになるが、流石にそれは……と可愛い葛藤をしている。
「ラビ~お客さん、なんか、メイドさんがいた」
「メイトリクスさん?」
「メイドさんだよ、誰よその人」
「ギャグよ~ギャグだってば~」
メイドさん……知り合いにそんなの居たかな……執事さんなら一応覚えがあるのだが……まあ兎も角向かう他無いだろう。保護区になってから自宅は一部改装しており、柵の内側に一時的にお客さんを留めておく迎賓館的な小さな小屋を増設した。こうでもしないと外で構えているバカ共が煩いのだからしょうがない、と言ってもそこに入るのにもポリ2とロトム管理のAIが対応するから、マスコミが迷惑を掛けないように配慮はしている。
「お待たせしました」
「いえ、此方こそ突然お尋ねしてしまい申し訳ありません」
思わず内心で、ホントにメイドさんだ……と言葉が出てしまった。丁寧に頭を下げて来るのはふくらはぎほどまである竜の尾のようにたなびく長い髪を三つ編みにしているメイドさんだった。そして冗談抜きで知らない顔だ、マジで誰だと言いたくなる。
「私はミアレソシアルバトルクラブのハルジオと申します」
「ミアレソシアルバトルクラブ……あれ、MSBC……?」
「はい、そのような通称で呼ばれておりますが、ご存じなのでしょうか」
「ええまあ……ウチで預かっている子から聞きまして」
「左様でしたか、かのPWCSチャンピオンに知って頂き、光栄です。(まさか、その子って……)」
噂をすれば影が差すなんてレベルの話じゃねぇぞ……と思う、こういう事が起きるならレアポケモンの話をしたら出て来いよ、と思わず思うラビであった。
「本日はラビ様にご相談、というよりも是非依頼したい事が御座います」
「依頼……仕事の依頼ですか?」
「仕事、と言えばそうとも言えるでしょう。是非とも、我が主人が主催するバトルパーティのゲストとしてご出席をお願いしたいのです」
「お断りします」
即決の返答にメイドさんも僅かに目を大きくして驚いている様子だった。こういう類の依頼もとんでもなく多いのだ……ユウリにも聞いてみたがガラルの場合は特にそれが多いから気を付けた方が良いとすら言っていた。ダンデの場合はそれを完璧にこなしていたらしいが……。
「理由を、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「端的に言えば、例外を作りたくないからです。一度出ればそれをだしに使われて更に来るに決まっている。既にそういう誘いの手紙は見たくない位には来ているんです」
「それは……」
それは確かに、来たくないだろうなぁ……と言いたげなメイドさん、だがまあ直接こうやって要件を伝えに来てるだけでも好印象だ。本人が来ていないとしても。
「それにミアレ、という事はカロス地方という事ですね?」
「はい、その通りです」
「ならば尚更、現状ミアレシティはワイルドゾーンなどによるポケモンと人間の問題を抱えている。素直な事を言えば余り良い印象がない、そして私は保護区の管理人です。赴くにしては個人の開いた大会のゲスト程度では到底格が足りない、これは私の我儘というよりも保護区に関する縛りですね」
「……理解致しました、突然の来訪にも拘らず、ご対応して下さった事を感謝いたします」
「いえ、どうぞご主人にも宜しくお伝えください」
「承知いたしました、それでは失礼いたします」
そう言ってメイドさんは落胆を顔に出さずに立ち去っていく。受けてやるべきとも思ったが、立場も立場なので難しいのだ。勘弁して貰おう。
「はぁぁぁぁ……もっと喰らい付くべきだったか?いやあんな正論を前にしたら無理だろ……あっいけねサイン貰ってねぇ……しかももしかしなくてもアンシャ様がいるよな……これも報告しねぇと駄目なのかぁ……?ぁぁぁっ……どうやって伝えりゃいいんだよぉ……―――ゲッユカリ様から連絡の催促が……やべぇ胃が痛くなってきた……」