「これが新しい期待の新人さん?」
「はい社長、バトルを行っていたわけではありませんが、彼の繰り出したポケモンは強いエネルギー反応を確認いたしました。資料によりますと名前はレイブンとか」
「成程、例のルートね?しかし聞かない名前ね……」
空中投影式のモニターに映し出されているのは今夜行われているZAロワイヤルのランクアップ戦の様子。一方のザイナが繰り出されたのはヒトデマン、動きも中々によくて良いバトルが期待出来る訳だが……相手が繰り出したのは……イーブイだった。
「あら、元気の良いイーブイちゃんね」
「ええとても愛らしいです」
自分の尻尾を追いかけ始めて引っ繰り返ってしまい、レイブンだけではなくザイナからも思わず笑みがこぼれていた。しかし、バトルの合図が出されるとその愛らしさは一気に引っ込んで、バトルに対する恐ろしいまでの集中力へと変貌していた。
『水鉄砲!!』『ヘヤァッ!!!』
『高速移動』『ブブイッ!!』
発射される水の奔流を高速移動で振り切るように回避するイーブイ、徐々にスピードが乗り始めたのか、背後を取ると振り返ろうとしたヒトデマンの更に背後を取るなど圧倒的な物を見せつけていく中でヒトデマンは回転しながらも周囲に水鉄砲をばら撒くのだが―――
『よし、いや何処に―――ヒトデマン上!!駄目だ間に合わない、硬くなる!!』
『ヘヤァッ!!!』
『魅惑のボイス!!』
イーブイから発せられた歌のような声はヒトデマンへと直撃するとヒトデマンは徐々に意識を失っていくかのように暴れ始めていく。魅惑のボイスは能力が上がっている相手ならば確実に混乱の状態にしてしまう。それによって正気を失ったヒトデマンはまともに動けずにいる。
『トドメのロケット頭突き!!』
『ブ~ィ~……ブイブイブイブイブイブ~イイイイッ!!!』
『ヒ、ヒトデマン!!?』
「……彼の名前、なんだったかしら?」
「レイブンです」
「……彼は確実に手練れよ、他地方で名が知られている可能性を考慮して調査の範囲を広げて頂戴。そして―――彼には特例処置を」
「ランクは」
「……彼の実力を把握する為に、Fへ」
「承知致しました、レイブン氏の妹さんというアン氏については?」
「彼女はトレーナーとしての読みがあの歳にしては異常ね……だけどポケモンはそこまでではない事を踏まえてあちらは少し様子を見て頂戴」
「畏まりました」
「ミ、ミアレアーマーガアタクシー化計画の夢が……」
「実現してたまるか……各方面にどんだけの迷惑が掛かると思ってんだよ」
一先ずランクアップ戦に勝利したレイブン、ザイナは素直に凹みながらもザックのタクシーの中へと入っていった。そんな姿を見ながらもレイブンはアプリを見てランクアップした自分の確認をするのだが―――
「……んっ?」
その時、丁度通知が飛んできた。運営からである。
『レイブン様、ランクアップ戦お疲れ様でした。ランクアップバトルを拝見させて頂きましたところ、レイブン様のトレーナー、ポケモンのレベルを鑑みた所、現在ランクが適正ではないと判断致しました。特例としてレイブン様のランクをFにまで上昇させたく思います。どうか、この処置についてご理解とご了承をお願いしたく思います』
「……成程な」
今のバトルをみて圧倒しすぎたか、自分のバトルとポケモンのレベルを見抜かれたらしい。運営側としても此処まで一方的ではバランスとしても宜しくないのでさっさと上へと引き上げたいという事だろう。まあ世界チャンピオンが名前を隠してこういう事やってんだからしょうがない判断かもしれないな……とランク上げの件、了解しましたと送ると即座に感謝のメールとランクアップの手続きが行われた。
「まあしょうがねぇか……なぁんかズルい事してるみたいで気が引けるけど……」
「タクシードライバーである私には夢がある!!それは、ミアレシティでの移動をタクシーにのみにする事です!!その為に、私はAランクを目指すのです!!」
「……大丈夫なんでしょうかミアレシティ」
本当にこんな奴らばっかりだと思うと頭が痛くなってくる……カルネが娘を此処に起きたくない理由ってこれじゃないだろうな……と思っているとランクアップ戦がいよいよ幕を切る。
「いけっヤドン!!」「―――ヤァドッ?」
「チーちゃん!!」「チコ!!」
ヤドンとチコリータ、何方が有利など言うまでも無いのだが……
「ヤドンどんどんど忘れ!!そして鈍いだ!!」
「ヤァ、ヤァ……???」
「あっマズいのです」
ザックが取ったのはど忘れと鈍いを併用する戦術、ヤドンにというポケモンにとってこの技は常日頃からやっているような物なので平然のように併用する事が出来ているという事態が発生。これによって耐久面がとんでもない速度で鉄壁化していく。流石のアンもこれにはマズい、と思ったが
「そうなのです!!チーちゃん、宿木の種なのです!!」
「チィィイコッ!!!」
撃ち込まれた宿木の種は確りとヤドンの身体に根を張り、その身体からエネルギーを吸い取り始めた。この効力は能力値の変化には左右されないので幾ら防御と特防を上げた所で意味はない。
「ヤ、ヤドン体当たりだ!!」
「やぁぁぁぁ……」
こうなれば上がった攻撃だけでも利用せねばと体当たりの指示が飛び出すのだが……素早さも低下し続けていたヤドンの動きは極めて鈍重、チコリータも本当に技を繰り出してるの?と首を傾げながらも回避する始末。
「チーちゃん、蔓の鞭をヤドンの足元に」
「チコ」
「ヤァ、ヤァぁ、やぁぁぁ、いやあああああんっ……!!?」
蔓の鞭で足を取られてすっ転んだヤドンはしこたま地面に身体をぶつけた結果、宿木の種の体力の吸収と相まって戦闘不能となってしまった。
「くっ……ならば、ポッポッ!!」「ポポ~!!」
「チーちゃん戻ってください!!メーちゃん、いくです!!」「メエエエッ!!」
相性不利と見るや無理をさせる事をせずにすぐさま交代、良い判断をする。そして繰り出されたのはメリープ、相性がいいのを冷静にぶつけている。
「ポッポ、絶対に接近するな!!そぉら風起こしだ!!」
「充電なのです!!」
遠距離からの攻撃に徹するポッポとそれに対して充電をしながら特防を高めてダメージを最小限に抑えるメリープ。電気タイプは飛行タイプを今一つに出来るのも相まって、ダメージは極めて低レベルで抑えられる。
「塵も積もれば山となる、だ、このまま遠距離戦なら何時かは!!」
「何時かは今なのです!!電撃波!!!」
「メエエエエエエエエエエエエッ!!!!」
雄叫びと共に放たれた電撃は真っ直ぐとポッポへと向かっていく、慌てて回避をしようとするが、一度通り抜けた電撃はループを描きながらもポッポへと直撃。充電の効力も相まって一瞬でポッポを倒してしまった。
「そ、そんな……此処で負けたらまたZランクからやり直し……い、いえ私はこいつを信じます!!ピカチュウ!!」
「ビッカピカ!!」
「ムッならばこっちは―――メーちゃん戻ってください!!ル~ちゃん!!」
「ルラ」
流石にアシマリは出さないか……遅れは取らないだろうが、負ける可能性は格段に上がる。ならば安全策としてラルトスが妥当……。
「電光石火だ!!そこから繋げてほっぺすりすり!!」
電光石火の初動の速さとスピードを利用したほっぺすりすりの威力向上方法、これはサトシやレッドも良く行うコンビネーションだ。ザックは永遠のZとも言われる程にZランクに居続けてしまっているトレーナーではあるが、勝利への努力を決して欠かしていない訳ではないのだ。だが問題なのはその努力を上回る程の努力や才覚を持っている相手が大勢いる事である。
「カウンターで氷のパンチでアッパーなのです!!」
「ルウウウラアアア!!!」
迫って来たピカチュウに合わせるようにフッと身を沈ませながらもピカチュウの下に潜り込むとそのまま冷気を纏った拳を腹部へと叩きこむラルトス、ピカチュウは地面に叩きつけられながらも荒い息を吐く。それでもまだまだバトルの意志があると言わんばかりに睨み付けて来る。
「電気ショックだ!!」
「ビィイガアアチュウウウッ!!!」
「念力で土を巻き上げるのです!!」
竜巻のように土を持ち上げて渾身の電気ショックをガードする、そして今度は持ち上げた土をそのまま念力で操ってピカチュウへとぶつける即席マッドショットにピカチュウは既にグロッキー。
「空中にテレポート!!そこからマジカルリーフ!!」
「ルルッ!!!ルルルラァァ!!!」
ピカチュウの手が届きにくい空中へと移動してからの自動追尾のマジカルリーフを放ち続けるラルトス、その相手の勝ち目と自分の敗北の目を一つ一つ積んでいくかのような洗練された戦術にザックは膝を付いてしまった。その視線の先には戦闘不能となったピカチュウが倒れ込んでいた。
「ああっ……またしても敗北……ランクアップ戦、99回目の、敗北……そう、私は永遠のZ……」
自らの敗北を理解すると、ピカチュウをボールへと戻しながらも自らのタクシーへと乗り込んで何処かへと走り去っていってしまうザック。というかもうそんなに負けてるのか……と思わずツッコみそうになってしまった。
「レイブンお兄様如何だったのですアンのバトル!!」
「実に基本に忠実でいいバトルだった、その調子で今度はあしゃまちゃんに出番を作ってやろうな」
「そればっかりはお相手さんのポケモン次第なのです」
「おおっ確りしてるわ」