「警備デデンネさん、可愛かったのです」
「あれで警備になるのかとも思うんだけどな……」
クエーサー社の建物までやって来たレイブンとアン、入り口で何やら門番のように立っていたデデンネが二匹おり、アンが挨拶をするとデデンネもそれに合わせて挨拶、おやつに持っていたチョコを渡すと喜んで食べ始め、アンに頬ずりしようとしたのだが、もう一匹のデデンネがそれはダメだと止めながらも職務に戻っていった。警備員として置かれているらしいが……あれで本当に大丈夫なのだろうか……。
「すまんが此処から呼び出しを受けてる、ZAロワイヤルに関する事らしい」
「はい、お名前を宜しいですか?」
「レイブンだ、こっちがアン。俺は保護者としてだが、アンにメールが来てな」
「アン様とレイブン様ですね……少々お待ち下さい」
受付でやって来た理由を語りながらもエントランスのソファで待つように指示されるので大人しく待つ事数分、どの位で終わるかなぁっと適当な事を考えていると受付のお姉さんが何やら慌てたような顔でやって来た。
「お、お待たせしました!!ご案内させて頂きます此方へ!!」
「……なんで慌ててんだ?」
「さあ?」
取り敢えず後に続いてついて行ってエレベーターに乗って、応接室まで来た。そこでお茶とお茶請けのお菓子を出されて待たされる事数分……応接室の扉が開けられて何やらガタイのよく、バイザーのサングラスを掛けているスーツの男が入って来た。
「お待たせ致しました、本日はご足労頂き誠に感謝いたします。私、クエーサー社社長秘書を務めさせておりますマスカットと申します、どうぞお見知りおきを……」
丁寧に頭を下げてきた男の正体は社長秘書だった、突然の事に驚くが平静を装ってアンと共に自己紹介を返す。マスカットは真正面のソファに腰掛けながらも本題に入った。
「本日お招き致しましたのはアン様のランクアップについてなのです。アン様のZAロワイヤルを拝見させて頂きましたが実に素晴らしいバトルセンスをなさっております、故に現在のランクではつり合いが取れていないと判断がされました、なので一定ランクまでのランクアップが検討されております」
「俺みたいに、か?」
「仰る通りです。ご存知の通り、ZAロワイヤルはミアレ全体で行われており、それを聞きつけて腕自慢のトレーナーも多く集います。ですがそのトレーナーをそのまま一からランクを上げさせてしまうと本来あるべきランク帯のバランスを崩す恐れがありますので、一定の実力が確認されたトレーナー様には一定のランクまで引き上げる処置が御座います」
今回、アンは初心者トレーナーとしてZランクから挑んでいる、最初こそZランクからのスタートは正解だったと思ったのだが……アンの成長速度は正直言って極めて高く、既に上位ランカークラスの能力があると判断が成されている。
「ポケモンも然る事ながら、アン様の指示が極めて的確です。判断力、対応力、応用力、それらがまるでPWCSのハイパーランク帯トレーナーを思わせるようなお手並みに御座います」
「そ、そう言われると照れちゃうのです」
「いやはや、実に素晴らしいと思っております」
照れる風を装っているが、アン的にはマズかったかな……と少し汗をかいている。何せ目の前で世界最高峰のトレーナー達のポケモンバトルを目に焼き付けて様々なノウハウに触れてきたからか、いざ成長段階に入るとそれらを本格的な養分として吸収し出すのである。
「アン様、チケットは確保していらっしゃいますね?」
「はいなのです」
「では―――」
マスカットが手元のタブレットロトムを操作すると、アンのスマホロトムに通知が入る。次のバトルの相手が決定しましたという物なのだが……その相手は目の前のマスカットであった。
「えっマスカットさんなのです?」
「実はこう見えて、私も若い頃は各地方を巡ってブイブイ言わせていた物でしたね。今でも時間が許せばポケモンの手入れとバトルは欠かせないんです、それを活かしてこういった特例ランクアップには試験官的な立ち位置に座らせて頂いております」
案外マスカットも茶目ているな……というよりもすでに茶目ている所はある、髪留めが明らかに子供が作ったような可愛い系の物だ、それを見ていると少し照れたように答える。
「ああ、これですか。娘のプレゼントでして……気に入っているんですよ」
「円満な家族そうで何よりだよ」
「恐れ入ります、そう言って頂けると嬉しく思います―――ラビ様」
「ッ!!?」
何の脈絡もなく呟かれたそれに思わずアンは身体をビクつかせてしまった。だがレイブンは全く動じずにニコやかに笑っているマスカットを見る。
「何の話だ?」
「かのPWCSチャンピオン、特別指定保護区管理人たる御方にこうしてお会いできた事は一トレーナーとしても喜びに御座います」
「俺はレイブンだ、自由気ままな旅ガラスだ」
「では、一方的に……ポケモン研究所への寄付には私共も感謝しております。モミジ氏には此方も秘密裏に援助はしておりますが、市長はどうにもその動きが極めて鈍化しておりましたが、ラビ様の寄付によってそれが大きく改善されております」
「……だったら感謝の手紙でも送っておけばいいだろう」
「はい、そうさせて頂きます。ではアン様、バトルコートに参りましょうか。そこで私とランクアップ戦を行いましょう」
「は、はいなのです……」
立ち上がって退室していくマスカット、それに続かねばならないのだが……どうにも足が重い気がして立ち上がる気が僅かに失せる。
「バ、バレてるのです……?」
「……流石にデカい会社相手に騙すのはキツいか……まあ敵対するなら全力で潰すだけだから気にするな、それにマスカット自体からは悪意を感じない」
「そう言う物なのです~?」
「そういうもんだ」
「……緊張したぁぁぁぁ……世界チャンピオンに応対なんて、凄いプレッシャーなんて物じゃない……いや頑張れマスカット、此処で確りとアピールできればサインを貰えるチャンスもある筈だ……待っていてくれ、妻よ、娘よ!!パパはやってみせるぞ!!」