「いっちに、いっちに」
「いやぁ~愛らしいですね……私の娘も可愛い盛りでしてね……」
「可愛い時は可愛いもんすからねぇ……母親がもうあいつにべったりで……反抗期なんて来ようもんなら石化して使い物にならなくなるじゃねぇかって親父と戦々恐々だぜ」
「どの家庭も同じなのですなぁ……うちの子が、は、反抗期……い、いやないなんて事はあり得ない……」
アンがポケモン達と一緒に準備運動をしている姿を見ながら和んでいるマスカット、娘を持つ身としては見ていて酷く心が癒されるらしい。レイブンとしては年の離れている弟妹の世話を焼き続けた身なので大体は同意見、そしてマスカット自体は良い人間よりの評価になりつつある。
「ンでルールは?」
「フリースタイルで行きます、私は4匹で参りますがアン様は6匹で」
「いいのかい、端的に言ってそっちが不利だぜ」
「勝ち負けではなく実力を見るのが目的ですので」
其方がそういうならばいいだろうが……そうこうしているとアンがポケモンをボールに戻して準備完了だと告げて来る。それでは、とバトルコートへと入るとマスカットのスマホロトムとアンのスマホロトムが激突する。
『チャレンジチケットを確認、ランクアップ戦の開始を承認します!!』
「では参ります、よろしくお願いいたします」
「此方こそ、よろしくお願いいたしますのです」
本当に丁寧な子だ……と思いながらも一旦距離を取る、そして僅かにサングラスをずらしながらも少しだけ笑ってからボールを握り締めた。
「折角のポケモンバトルですからね、楽しませて頂きますよ!!ヘルガー!!!」
「ガアアルルァ!!」
「ヘルガー、だったらあしゃまちゃん!!」「りりしゃま!!」
ヘルガー対アシマリ、単純な相性の上ではアシマリが勝ってこそいるが……進化をしているポケモンと未進化ポケモンでは様々な差があるのでタイプ相性だけで勝者を語る事は出来ない。だからと言って、未進化ポケモンが進化ポケモンに勝てない訳でもない。
「では、参ります―――炎の渦!!」
「雨乞いなのです!!」
ヘルガーの炎の渦に対しての雨乞い、マスカットは小さいながらも既に立派なトレーナーなのは間違いないという確信と共になんという抜け目のない……と思う。炎の渦に耐えながらも呼ばれた雨雲によって雨が降り始めると炎の渦の勢いが収まり始め、そこから脱出するアシマリ。水タイプならば持続ダメージを狙う炎の渦には十分に耐えられる、拘束されたとしても威力の落ちたそれから逃れる事は容易……。
「(だが、まだ幼い少女がそこまで理解した上で戦術としてそれを取り入れるとは……流石カロスのチャンピオンであるカルネ氏の娘さんだ)ならば―――悪巧みからバークアウト!!」
「ルルルガァァッ―――……!!」
「させないのです!!あしゃまちゃん、バブル光線なのです!!」
「しゃままぁぁ~!!!」
雨乞いの効果を受けたバブル光線の勢いは通常の比ではない、泡の量も大きさも倍以上のそれが一瞬にしてヘルガーを包み込んでいく。効果は抜群な上に雨下で更に威力は上がる、見事な倍々ゲームだ。命中に思わずガッツポーズをするアンだが……
「バークアウト、発射ぁ!!」
「ルウガアアアアアアアオオオオオオオオウッ!!!!」
「しゃ、しゃまああああっ!!?」
「あ、あしゃまちゃん!!?」
悪巧みを行ったヘルガーのバークアウトが直撃し、吹き飛んだ。幾ら自分のアシレーヌの子供とはいえ、地力の差が出始めている。だがアシマリも中々にいい根性をしているのか、叩きつけられながらも受け身を取って体勢を立て直している。
「畳掛けなさい!!雷の牙ァ!!」
「ルゥゥゥゥウガアアアアアアア!!!」
「近づいて来てくれるならむしろ好都合なのです!!あしゃまちゃん、ムーンパンチ、ですの!!」
「しゃま!!」
駆け抜けるヘルガーは電気を伴った牙を剥き出しにしながらも迫って来る、確実性を優先して効果抜群の電気の物理技を選んできた、ならば有難い!!近距離ならば此方に分がある!!とアンは自信を持っていた、それはアシマリも同様。何せあのアシレーヌの子供だ、アシマリとは思えない攻撃力を持っている。
「ガアアアアオオオンッ!!!」
「今なのです!!」
「しゃああまあ!!!」
渾身のムーンパンチがヘルガーの顔面に命中、雷の牙ごと砕くような勢いで命中する。雨下でのバブル光線も決まっている、ヘルガーは耐久が優れていない事を踏まえるとこれで決まっても―――
「……ゥゥゥウウルウウウウウガアアアアアアアア!!!!」
「しゃまああああああっっ!!!?」
「あ、あしゃまちゃん!!!?」
そこで崩れ落ちそうな肉体を目を見開きながらも踏み止まらせ、そのまま再度雷の牙を再構成するとそのままアシマリの身体へと喰らい付くように牙を食い込ませた。炸裂する電撃がアシマリを感電させつつも、ヘルガーはダメージを負いながらも首を振るい、振り回しながらも地面に叩きつけた。
「しゃ、しゃまぁ~……」
「あ、あしゃまっあしゃまちゃん……!!」
「アシマリ、戦闘不能ですね……ヘルガー、よくぞ耐えました」
「ルルガァァッ……」
それでもヘルガーの損害は決して軽い物などではない、ヘルガーのレベルも決して低くない。それなのにアシマリで此処までのダメージを与えたのは雨とアシマリの実力があってこそ、だがそれでも倒し切れない……明確な差がある。初めての戦闘不能、ラビから貰ったあしゃまちゃんのそれを見てアンシャは一瞬頭が真っ白になりそうになったが、頬を叩いた。ジンジンと痛む頬が現実を教えてくれる、そしてボールであしゃまを回収する。
「あしゃまちゃん、有難うなのです。ゆっくり、ゆっくり休んでください……それが、今のあしゃまちゃんのお仕事なのです」
そんな優しくも的確な言葉が届くと、ボールが弱弱しく震えた。それを確認しながらも次のボールを出す。深い深呼吸をしながらもアンとして次のポケモンを出す。
「まだ、まだなのです!!勝負はこれからなのです、ヘルガーさんはダメージを受けてるのです、チャンスなのです!!ホビちゃん!!!」
「ホッビッ!!」
「楽しいバトルになりそうですね、ヘルガー、まだいけますか?」
「ルルルガァアアアアウン!!!」
「ならばよし、このままいきます!!」
アンにとってはこのバトル、初めての試練となる事が、レイブンには理解出来た。