「ッ……」
ジジーロン、レイブンことラビも持っているポケモンで自分も遊んで貰った経験がある穏やかで優しいという印象を受けるドラゴンタイプのポケモンだ。ラルトスならば有利に立ち回れたかもしれない、なんて思考は頭に浮かばなかったのだ。ジッと、此方を敵として睨み付けて来る龍の姿に、思わず息を飲み、どう選択するべきかだけが脳裏を走っている。
「さてアン様、これまで貴方の実力は分かりました。私も加減をしたというほど野暮ではありません、がこのジジーロンを引きずり出されたからには本気であなたに勝ちに行きます」
「スピちゃん!!」
刹那、感じ取ったのは異様な寒気と恐怖だった。咄嗟にスピアーの名を叫び、スピアーはその声に従うかのようにミサイル針を連射した。バトルで感じる敵意など生温い、あれは生命的な危機を感じさせるような恐ろしい物だった。生存本能を刺激するようなそれに突き動かされて連射されていくミサイル針がジジーロンへと向かっていくのだが……
「竜巻です」
「ロロロン~ジ」
爆風とドラゴンタイプのエネルギーが混合された空気の渦がジジーロンを取り囲むように爆発的に生み出されていく。それによってミサイル針は全てが破壊されて爆風が舞い上がるが、それですら竜巻を揺るがす事が出来ない。それすらも飲み込んで勢いを更に増していく災害その物と化そうとしている。
「―――ごめんなさいですスピちゃん、もうこれしか思いつかないのです……」
「スピ!スピピピッピッ!!!」
「……剣の舞なのです!!もう一度!!」
思いついた手段を取る為に剣の舞を連続して発動させるスピアー、限界まで高まった攻撃を持って何をするのか……アンは覚悟を決めるかのように深呼吸をすると―――それを一気に吐き出すように叫んだ。
「ドリルライナーです!!!」
「スウウウウピィィィイイイイイアアアアッ!!!」
「成程そう来たか!!」
限界まで攻撃を上げた末のそれは回転とスピードを加えた鋭さを以て竜巻を貫通させるという物。考えた末の力押し、極めてシンプルな手段だが……その鋭さは竜巻の空気の壁に穴を穿とうとしている、押し返されそうになりながらも突き進んだスピアー、だがその竜巻に飲み込まれる。
「スピちゃんッ!!!」
「―――スッピイイイイイイッ!!!!」
「ジジロ?」「これは」
刹那、竜巻の流れに流されていたスピアーがその流れに逆らった、というよりも竜巻と逆回転で飛行を開始し始めた。先程まで竜巻の勢いに負けていたポケモンが竜巻の流れの中でそれをどうやって……と思っていたが、その答えはレイブンが提供した。
「ドラゴンタイプのエネルギーの中でそれを纏う術を掴んだのか……だからって普通は覚えるのキッツいと思うのよ、逆鱗は」
そう、スピアーは竜巻のエネルギーを自分の物にして逆鱗を体得してしまったのである。それを利用して竜巻と逆回転の渦を作り出し、竜巻を中和し、内部から消し去ってしまった。
「スッピイイイ!!!」
「ドラゴンクロー!!」
「ジジジジロロ~!!!」
その勢いのまま突撃しながらも槍を突き出して来るスピアーに対して龍の爪は容赦なく、スピアーの身体に炸裂した。幾ら逆鱗を覚えたとしてもスピアーの逆鱗など、本来の龍のそれに比べたら可愛い物でしか過ぎなかったのだろう……。
「ス、スピ、ちゃん……」
「……ピッ……」
小さく、小さく鳴くのみ。活路が見えた筈だった、それなのにアッサリと、それを突き返された。新しい技、ドラゴンタイプに有効打になるそれは本気で勝機に繋がると思った。だが……龍の爪によって一蹴される。見せつけられるのは実力の差、というよりも……経験の差だろう。
「(予想はしてたが……これはいい経験になる)」
此処まで階段を苦労する事なく上がり続けてきたアンにとって、目の前の巨大な段差はまるで壁のようにも映った事だろう。トレーナーをしていればいやでも経験するであろうそれを、今、アンは初めて経験していた。
「戻っ、てくだ、さいスピちゃん……!!」
必死に強気を保とうとしながらもスピアーをボールに戻すアン、マスカットには今にも泣きだそうな姿に見えた。やり過ぎてしまったかとも思う一方で勝負である以上、野暮な真似はしたくないし相手に失礼だろうという考えが過ぎる。此処で如何するか、それで彼女のこれからの行く末が変動する。どんな未来になるかが分かれ道で―――どうするのか。
「ッ―――……ま、まだまだなのです……私には、まだちーちゃんが、ちーちゃんがいるのです!!!最後の最後まで、戦うのです!!ちーちゃん!!!」
「チコオオオッ!!」
「くよくよするのは負けてからなのです、まだバトルは途中なのです!!!お母様だって、最後の最後までバトルしてたのです!!お母様みたいな強くてかっこいいトレーナーになる為にもアンは、アンは……負けないのです!!!!」
「チコッチイイイイコオオオオオオオオッ!!!!」
アンの奮起、夢へと歩みたい、まだまだ諦めないという強い叫びがチコリータの成長の芽を伸ばす一押しになったのか、その身体が閃光に包まれた。青白い光の中でチコリータは叫ぶ、叫びを上げる中でその身体はどんどん大きくなっていく。
「ち、ちーちゃん!?」
「進化が始まった……このタイミングで……!?」
「見せてくれる……流石、あの人の娘だ」
小さかった身体は竜脚類のように大きく、がっしりとしたものとなり、頭部の葉っぱも更に大きく立派な物へと成長する。そして首周りには葉が丸まったような蕾のようなものが複数見られるようになった。
「ベエエイッ!!!」
「ち、ちーちゃんがおっきくなったのです!!?」
「ベイリーフに進化したんだよ」
レイブンに言われてスマホロトムのポケモン図鑑を向けてみると解説が始まる。
『ベイリーフ、葉っぱポケモン、草タイプ。首のまわりから発散するスパイスのような香りには 元気を出させる効果がある』
「ベイ、リーフ……ちーちゃん、なのです、よね……?」
「ベイィィイ~♪」
ちーちゃん、いやベイリーフは膝を折りながらも目線を合わせながらも頭をアンへと擦り付ける。すると首の周りからスパイスのような刺激的な香りが香って来る、図鑑の言う通りに元気が出て来るような……先程まで落ち込んでいた気分が嘘のように、やる気と元気が湧いてくる。
「分かったのですちーちゃん、ううんもうちーちゃんじゃないのです。これからはベイちゃんなのです!!ベイちゃん、勝つのです!!」
「ベイッ!!」
その言葉を受けてベイリーフことベイちゃんはやる気を出してジジーロンへと向き直った。まだまだ未熟な所こそあるが、ポケモンと支え合いながらも共に進んでいく。ある意味トレーナーが目指すべきものを既になっている……ならば自分のやるべき事は―――
「ならば、私達も応えましょう……その力が何処まで通じる物かを!!」
「ジジジ~……!!」
唸り声を上げるジジーロンの背後でマスカットは左手を開きながらも此方へと見せてきた、そこには輝きを放つ石が埋め込まれていた。それは紛れもなくキーストーン。そしてジジーロンも頭部に隠すように持っていたメガストーンを露出させた。
「我らがこれまでに得た経験、知恵、強さ、それら三種が新たな進化への地平へと誘う。さあ、嵐を巻き起こし、旋風を起こしなさい!!メガシンカぁ!!!」
「ジンジィィイィイイイイッ!!!」