ジジーロンの見た目は見るからに年老いてしまったという印象を受ける、だがメガシンカによって淡かった体色が濃くなり、全身が逆だった黒い体毛に覆われ、腕と尻尾はまるで黒雲を纏っているかのように見える。凛々しくも威厳を持つ龍の姿へと変貌を遂げたメガジジーロン、当然ラビもそのメガストーンを保持し、検証も行っている。
「(メガジジーロンは全体的な底上げで特性も変わらない、ハッキリ言って極めて使いやすいメガシンカだった……だがもともと高い特攻がメガシンカで更に高まってる)」
メガジジーロンは体力と素早さ以外の能力が高まっており、ジジーロンそのままの運用が可能である比較的に扱いやすいメガシンカ。が、その特攻の高さは際立っている。メガラティオスと同じぐらいはあると感じられる。そうなると……そこから放たれる特殊技の破壊力は推して知るべし。
「参りましょう、凍える風!!」
「ジイイロオオオオ!!!」
ブレスのように吐き出される訳でもはなく、身体の雷雲から生み出され放出される冷気、その身に天候を操る力を宿していると言わんばかりの攻撃方法、だがその冷気の勢いがまるで吹雪のよう。メガジジーロンの恐ろしさは自然を操る力にある、メガレックウザに準ずるものと言っても過言ではない。
「アン、お前の夢の形がある意味形成していると言ってもいい、超えてみな」
「はいっ!!!ベイちゃん、ちーちゃんの頃から練習してたのをやるです!!」
「ベイッ!!」
そう言ってアンは何をやるつもりなのか、レイブンは分からない。常日頃一緒に居る訳でもないし、偶にアン一人で外に出る事もあったしタウニーからも遊びに行きましたよ~という事を聞いた事はある。まあ十中八九バトルコートかバトルの練習に行ったのだろうとは思っていたが……御付にはムーランドを付けていたので心配もしてなかった。
「光の壁!!」
ある種当然の選択、特攻の高いジジーロンに対して当然の備え―――
「を、3重なのです!!」
「ベエエエイイッ!!!」
「「なんですと!?」」
光の壁の三重発動、それによって自らの身体に光の壁が文字通りに三重に展開された。それによって凍える風は極めて低レベルにまで抑えられてしまっている上に、素早さダウンの効果も発揮しているように見えない。この複数発動はレイブンも検討した事があったのだが……ハッキリ言って、その場しのぎの緊急防御としてしか機能しない。通常5ターン持つ壁を半分かそれ以下の時間に縮める、それならば守るで代用した方が余程効率的だと思っていたのだが……
「そのまま光の壁を押し付けてください、蔓の鞭に集中です!!」
「ベイッベエエエイッ!!!」
「ジ、ジジロッ!!?」
駆け抜けて凍える風を突破すると、今度は光の壁を蔓の鞭に集中させて攻撃へと転用してジジーロンの首へと鞭を打ち据えた。余りにも変則的な戦い方、というよりも自由過ぎる発想だ。壁を攻撃に転用は、考えた事はあるが……結局実現させなかった。
「ならば此方とて、もう容赦は致しかねます!!龍の波動!!」
「ジイイイイロオオオオァアアア!!!」
遂に巨竜が動いた、小細工で自らのプライド、いや戦闘意欲を刺激されたジジーロンも張り切って龍の波動を放つが、その威力は余波だけで地面が抉れるレベルの破壊力。流石のメガシンカという他無い……。
「守るなのです!!」
「ベイィィィィィィッ!!!」
今度は守る、見事な切り替え……と言いたい所だが、守るにしてはダメージを受けているのが見て取れる、幾ら守ると言っても万能に攻撃を防げるという訳ではない。攻撃のランクが高すぎると割られたりで攻撃の貫通はよくある事、だがバリアが割れられずにダメージを受けているのが分かる。そして察した。
「あ~……騙りか」
ベイリーフは守りがまだ出来ないのだ、だからこそ光の壁で代用しているのだ。幸いなのはマスカットも守るだと思っている点だろうか……。
「ハイパーボイス!!」
「っ避けてください!!」
回避に徹するベイリーフ、守るの秘密をばらされる訳にも行かないとハイパーボイスの射線上から回避をするが、その大声はジジーロン前方全てが射程範囲と言っても過言ではなかった。最早爆発と変わらない爆音は、ジジーロンの眼前全てを吹き飛ばすような爆弾だった。
「ベイイイイイッッ……!!」
「ベ、ベイちゃん大丈夫なのです!!?」
「ベイッ……!!」
だが伊達に進化していない訳ではない、体格が大きくなった事で耐えられる攻撃の幅も大きく広がっていると言わんばかりに立ち上がるベイリーフだが、レイブンから見てもあれは完全なやせ我慢、ベイリーフ自身がまだまだ進化した自分の身体に慣れていない。
「蛇睨み!!」
「ジンロォォォッ……!!」
「ベ、ベィィィィッ……!!」
更に麻痺、ベイリーフの動きが更に鈍くなってしまう。マスカットもメガジジーロンの長所をちゃんと理解しているのが伺える。
「竜巻、そこに龍の息吹!!!」
「ジイイロオオオオロンンロンジィィィィ!!!」
竜巻を生み出すとそこへ龍の息吹を吹き込んでいく。龍の息吹を得て竜巻は規模と勢いを爆発的に増加させていく。唯の竜巻などではない、自然災害が生み出すそれと変わらない。
「つ、蔓の鞭を地面に撃ち込んで固定するです!!そして光の壁なのです!!耐えるしかないのです!!」
「ベ、ベイッ!!」
こればっかりはアンの作戦は正しく思える、これほどまでの巨大化した竜巻をベイリーフではもうどうにもする事は出来ない、ならばする事は嵐を耐え忍ぶことしかない。その為に地面に勢いよく蔓の鞭を放ち、楔のようにして固定、そして光の壁でダメージの軽減を狙う。
「ベイィィィィィッ!!!!」
「ベ、ベイちゃん頑張ってください!!!チャンスはあるのです!!」
竜巻に飲み込まれていくベイリーフにアンは必死に声援を送る、それを見つめるマスカットとジジーロン。そして……竜巻が消えた時にベイリーフは立っていた、あの竜巻に耐え抜いた。耐久向けの種族値をしているとはいえ、よくも……
「よく頑張ったのです!!チャームボイス、反撃なのです!!」
「ベエエエエエ―――……イイイィィィッ……」
「ベ、ベイちゃん!?」
竜巻に耐えきって反撃の狼煙を上げようとしたベイリーフだが、そのまま崩れるように倒れ込んで目を回してしまった。竜巻に耐え切る事に全神経を注いでいたのだろう、そしてそれに耐えきった事で緊張の糸が千切れてしまったのか、限界を迎えてベイリーフは倒れてしまった。
「ベイリーフ、戦闘不能ですね」
「うううっ……ベイちゃん、凄かったのです、進化も全部全部凄かったのです……」
「ベ、ベイィ~……」
ベイリーフの頭を撫でながらもアンはベイリーフの申し訳なさそうな姿に逆に申し訳なくなってきた。もっと自分がちゃんとしていたら折角進化で勢いを手繰り寄せられたのに……マスカットはメガシンカが解除されたジジーロンをボールに戻しながらもアンに向けて言う。
「アン様、今回のバトルは極めてお見事でした。随所に見られた戦術は明確に上位ランカーとして申し分ありません。このバトルは勝敗ではなく実力を見る物です、故に―――」
「あっ待ってほしいのです!!お話を遮って申し訳ありません、待ってほしいのです!!」
マスカットはアンの特例ランクアップを通知しようとしたのだが、アンはそれに待ったをかけた。
「私は負けました、負けたのです……負けましたのに上に立つというのはマスカットさんがお認めになっても私自身が納得いかないのです。ですので……少し、お時間を頂けませんか?そして、もう一度メガジジーロンと戦わせてほしいのです!!端的に言うと……リベンジマッチの機会をお与えくださいなのです!!」
まさかの申し出にマスカットも驚いた、まだ小さい子供が自身の敗北を深く受け止めながらも、今のバトルの意味を理解した上で納得出来ないとして抗議の声を上げるその聡明さとリベンジマッチをしたいという強い気持ちを。
「……承知致しました、それでは1週間、1週間後にまたバトルを行うという事で如何でしょうか。正直言いますと今のバトルは私も驚きと楽しさが酷く入り混じっておりました。それをもう一度出来るというのは喜びです」
「有難う御座いますなのです!!でも今度は楽しさじゃなくて悔しさにしちゃうのです!!」
「ははっ言いますなぁ!!!」
マスカットは愉快そうに笑った後に自分の連絡先を名刺に書いて手渡して来た。
「今度はその番号からご連絡致します、それではまたバトルの時に!!」
「はいなのです!!」
丁寧に頭を下げてからマスカットはその場を離れていく、そんな背中を見送りながらもアンはレイブンの服の袖をそっと引いた。
「……抱っこ、して欲しいのです」
「なんだ急に」
「して、欲しいのです……」
「はいはい」
抱き上げられたアンはレイブンの胸に抱かれる、そのまま歩き出したレイブンの胸に顔を押し当てながらもアンは小さく言った。
「……負けちゃって悔しかったのです、テングさんになってたのです……お鼻伸びてたのです……ベイちゃん達に申し訳ないのです……」
「お前が弱い訳じゃない、マスカットが強かっただけの話だ。だったらお前が強くなりゃいいだけの話だ……そういう事だから気にするな」
「気に、するのです……だから、暫くお兄様の顔、見ないのです……」
「好きにしな」
そう言いながらもレイブンはゆっくりとホテルへと歩き出した、出来るだけ時間がかかるようにゆっくりと、普段は通らないような道を通りながら……少しでも気持ちの整理が出来るように……。