「ミ、ミカルゲ……!?」
ムクは目の前に現れたポケモンに驚きを感じずにはいられなかった。ミカルゲはシンオウチャンピオンのシロナも使用するポケモンで有名だが、それ以上にゴースト使いの間では極めて希少で一度お目に掛かってみたいが、野生の個体は遭遇したくないし、したら逃げろとも言われている存在。その理由がミカルゲは108の魂の集合体であり、大昔に悪さをしたために封印されたと言われている。が、封印された事を恨んでおり、特に人間に対して強い攻撃性を発揮すると言われており、ミカルゲ封印の伝承がある地域はポケモンリーグ本部がマーキングを行っている程である。
「みょおおおおおおっ……」
「いや、気圧されるな……シャドークロー!!」
「ジュッペエエエエ!!!」
勢いよく黒い爪で切りかかるのだが……ミカルゲは一切動こうとしない、まともにシャドークローが命中して身体が大きく揺れ動く。ミカルゲは悪とゴーストという極めて稀なタイプで弱点はフェアリーのみ、なのでゴースト技は効果抜群ではないのだが……身体を大きく揺らし、顔と思われる部分が真横を向く。ムクもどうして動かない……とジュペッタと疑問を浮かべる中で、小さな音がした。それはラップ音にも何か、周囲から、いやバトルコート全体から響き始めた。
「な、なんなのです!?」
「これは……お二人とも、下がって!!」
「いや大丈夫だ」
シローが思わず客人でもあるアンとアランを守ろうと下がって隠れるようにいうのだが、アランは極めて冷静だった。その正体がミカルゲによる干渉だという事を見抜いている。
「ら、ララ、ユ、ラ……ユララララララララララララララララララ!!!!」
突然、笑い始めたミカルゲ、その笑い声は酷く愉快そうで悦楽を見出したかのような物だった。心底愉快そうな―――
「ラララララッユラララララララ!!!!ララアアアアア!!!……おんっ……みょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおらあああああ!!!!」
それは世界へと叫ぶ呪言と化した。周囲に発散される呪いのエネルギー、それに影響されているのか、練習道具が震え始めるポルターガイストが発生し始めている。ジュペッタもその威圧感に言葉を失って後退してしまった。そしてムクも汗をかいた。
「(やっばいこれ……ジュペッタじゃ、手に負えない……しかもシャドークローで火をつけちゃったんだ……!!)」
ジュペッタのシャドークローがもとになった、ミカルゲの封印を打ち破ったかのように溢れ出したゴーストエネルギー、明らかに格が違い過ぎる。ジュペッタでは確実にマズい、だったら……!!
「ジュペッタ呪い!!」
「ジュウウウウウウッ!!!」
「ム、ムクが呪いを!?」
シローは驚いた、まさかムクがまだバトルが始まって間もないというのに呪いを切った。最後の最後の手段として後続を活かす為に使うのが大半なのに序盤から切って来たという事に驚きを禁じ得ない。呪いの釘がジュペッタの身体を穿ち、猛烈な呪いが爆発的に膨張してミカルゲへととりついていく。幾らミカルゲでもこの技から逃れられない、次の手を打とうとした時―――カランカランと乾いた音がした。何かが地面へと落ちた音だ。
「みょおおおゆら……」
ミカルゲの本体とも言うべき要石にぶつかるようにして落ちたのは釘だった。あの釘が一体……と思っていた、ミカルゲはそれを器用に拾い直すとまるで掌でボールを転がして遊ぶようにすると―――
「ユウウウラァァァ!!!」
口で咥えたそれを思いっきり勢いをつけて吐き出した、それはジュペッタの腹部に突き刺さると、即座にジュペッタは抜こうとするのだが……
「おん」
「ジュッ!!!?」
「イカサマ!!」「みょおおおおおおん!!!」
まるで蹴りつけるに要石を叩きつけて釘を深く深く突き刺さして来た、その痛みに耐えながらもシャドークローを放つが、以外にもミカルゲは身軽、というよりも要石を振り回し、その重量と遠心力を使って移動を行っていた。
「ジュゥゥッジュペェッ!!?」
距離を問ったミカルゲに対してジュペッタは追いかけようとするのだが、突然膝を折ってしまった。何が起きたと言いたげなジュペッタだが、全身を貫くような痛みと呼吸困難、そして力が抜けていく感覚が襲い掛かって来る。
「ジュペッタ!?まさかこれって……呪い!?」
「そう、ジュペッタの呪い。その呪詛を返させて貰った」
「そんな事が……!?」
「出来ない、なんてことはない。況してやゴーストタイプならば寧ろやり易い部類でもある。俺のミカルゲは特に恨みと憎悪を集める存在だった、故にその手を操るなんてお手の物よ」
呪いを返して来るなんて事が出来るなんて聞いた事がない、だが現実として出来てしまっている。矢張りあのミカルゲはジュペッタよりも遥かに格上だったんだ……そう思っている間にも呪いのダメージは更に蓄積していく。
「痛み分け!!」
「おっとさせないぜ、影打ち!!」
影からぬっと現れたミカルゲの一撃がジュペッタを打ち上げる、直後にジュペッタが見えたのは影から実体化するように浮き上がった無数の影の壁だった。その一つ一つにミカルゲの顔があり、自分を嘲り笑い、そのまま貫かんと襲い掛かって来た。
「ジュッジュペッタ!!」
影がジュペッタを捕食するかのような光景がそこにあった、無数の影が伸びてジュペッタへと突き刺さっていく光景はホラー的なインパクトを与えて来る。そしてその影がどいた時、そこには動けなくなっていたジュペッタの姿があった。
「ジュペッタ戦闘不能!!ミカルゲの勝ちです!!」
「ジュペッタ……いやよくやったよ、あたしのミス……」
ボールに戻しながらもムクはミカルゲを見た、あのミカルゲには一体どれ程の呪いと憎悪が収束されているんだ、そしてどんな魂が集まって生まれた存在なのか……一瞬興味を惹かれた瞬間、背筋が凍り付きそうになった。これ以上踏み込んだら、逃げられなくなっていたかもしれない……と思っているとレイブンがミカルゲを注意する。
「お前、俺の目の前で下らねぇ事しようとしてんじゃねぇぞ。だから封印されたんだろ」
「おんみょ~ん……」
「ったく、お前は一旦戻れ」
此処でレイブンもミカルゲを戻した、それほどの問題児なのだろうか、だが正直助かった……あのままだとミカルゲに引きずり込まれていたかもしれない……。
「パンプジン……!!」「パッププププッ!!!」
「なら、仕事だジュナイパー!!」「ジュゥゥウウナイップ!!!」