「お茶、ご馳走様でした」
「美味しかったのです、今度は差し入れさんを持って来るのです」
「来て頂けて笑顔を貰えるだけでうれしいですよ~」
そう言ってハンサムハウスから去っていくレイブンとアンを笑顔で見送るマチエール、彼女からすれば自分が誰かの為になっている事が基本的に優先されるので依頼料を低額にしている。それでも成り立っているのは街から信頼されているという良い証拠だろう、だからと言ってあの恰好は容認出来ないが……。
「良い人でしたね、恰好はその、個性的でしたけど……」
「良かった、あれに憧れてしまったらカルネさんに殺される所だった……」
「お尻探偵さんって街の人が偶に行ってるの聞きましたけど、マチエールさんの事なんですねきっと……」
「ひっでぇニックネームだ……」
だがある意味これ以上ない名前なのも本当に酷い……そう思いながらも他のメンバーに連絡を取ってみる事にした。するとガイに繋がった。
『あっレイブンさんですか、こっちは何とかなりました……すっげぇ硬いぜメガヤドランって……』
「まあそれが取り柄みたいなもんだからな、他は?」
『キョウヤとセイカが手早く終わらせて、まだ終わってなかった俺達とデウロとピュールのそれぞれに応援に来てくれたんで何とか……そっちは大丈夫でした!!?』
「5分も立たずに終わらせてマチエールん所で茶しばいてた」
『優雅にティータイムしてやがったよこの人!!?』
やる事は確りとやったしマチエールとの情報共有もあったんだからいいじゃないか……と付け加えると納得したような声を出される。取り敢えずこれから自分達もホテルに戻るので自分達に戻ってきてほしいという事を言われるのでその通りにする。
「ベイちゃんも中々強くなってきたと思うのです、そろそろ進化したりするのですかね?」
「ポケモンの進化には経験値だけじゃなくて進化の時期とか関係したりするからな……それにポケモン自体が進化に乗り気じゃなかったりとか色々あるからな、まあその内来るだろ」
「進化って不思議なのです~」
そんな事を言いながらもホテルZへと到着したのだが、他の面子は見当たらない。一番先に戻ってきてしまったのかもしれない、そう思っていると―――
「レ、レイブン兄様!!」
アンが声を上げながらもズボンを掴んで来た、振り返るとそこには此方をジッと見つめているポケモンが居たのだが……まさかこんな所でこのポケモンに会うとは思わなかった、ヘルガーを思わせる体形と身体の色をしているが、各部に緑色が入っており異質な雰囲気も感じさせる。それもその筈、このポケモンはジガルデ、その10%フォルムとも言われている状態。
「……」
「ポ、ポケモンさん……なのです?」
ジッとこちらを見つめて来るジガルデにアンは最初こそ驚いたが、それは突然背後に着地した事が大きな要因なので状況がはっきりとすればそこまでの驚きはないのか、そっと顔を覗かせながらもゆっくりと近づいて手を差し出してみる。完全な犬扱い……まあ見た目は完全な犬なのだが……。
「……(クンクン)」
「臭い嗅いでるのです……ご飯食べるのです?」
ポーチからベイリーフ達ようのおやつのポロックを取り出して差し出してみる、それの匂いを嗅ぎ食べれるものだと判断すると少しだけ、端を少しだけ齧って咀嚼する。気に入ったのかそのまま、ポロックを食べ始める姿はとても伝説のポケモンには見えない……。
「か、可愛いのです……ふぁっ不思議な感触なのです」
ポロックを食べている間に身体をそっと触ってみるとふわふわとしつつもガッシリとしている手触りの中にゼリーのような不思議な柔らかさもあるという不思議なそれにアンが興味を占めているとジガルデは尻尾を少しだけ振り始めた。
「もっといるのです?はいどうぞなのです!!」
「~♪」
「おい、餌付けされるなよ生態系の調停者」
マジで何しに来たんだよと言いたくなってきた、自分が遭遇したジガルデとは随分と毛色が違っている……と思っていると自分の頭の中で音がし始めた。何度も経験のある音、テレパシーのそれ。それを拒絶せずに受け入れると次第に音がクリアな声へと変わり始める。
『―――えるか、聞こえるか描く者よ』
「(問題なく聞こえてるよ、なんだ餌強請りに来たのか駄犬)」
『フム、矢張り其方で合っていたか。ガラルの同胞から話は聞いておるぞ、描く者』
そう言われて思い当たるのはガラル地方でレジギガスに導かれた先で出会ったあのジガルデの事を言っているのだろうな……というかノリで言ったそれがそのまま適応されている事に笑いそうになる。若干黒歴史みたいになってしまった……。
「(それでお前は一体何しに来たんだ)」
『見定めに来た、だが……我らが望む者、ではないな。ある意味では我らの目的を果たせるものではあるがお主ではない……そしてこの少女でもない、矢張り、あの二人か……』
何やら一方的に自分じゃないとかアンでもないとか言って来るジガルデ、何かしらの目的があるのだろうが、それも明かさずに言われても此方としては何のこっちゃでしかない。
「あっレイブンさんってあれ!?」「ジ、ジガルデ!!?」
他のメンバーよりも一足先に帰って来たキョウヤとセイカ、二人もジガルデと既に遭遇しているのか、アンと戯れている姿に驚いてしまう。二人の気配に気づいていたのか、既に尻尾を振るのをやめて二人の方を見て声を上げるジガルデにレイブンは思わず何取り繕ってんだろ……と素直に思うのだが、同時に言葉が飛んで来る。
『描く者よ、通訳を頼む。我はこの二人を見定めなければならぬ』
『(自分でやれよテレパシーで……)キョウヤとセイカ、如何やらこいつはお前らとのバトルを所望してるらしいぜ、如何する」
「ジ、ジガルデが?」「な、なんだかよく分からないけど……」
「「やります!!!」」
「ゼドァ!!!」
良い返事だ!!と威厳たっぷりな低い声で叫ぶのだが、アンからは可愛いワンちゃんポケモン、レイブンからは意味分からないジガルデとしか見られていないので何とも締まらない状況である。
「しっかしジガルデが見定めるか……やっぱり、暴走メガシンカ関連か……」
仮にも伝説のポケモンが動いていると想定すると……ただ事ではない事を感じさせつつも、ジガルデ対キョウヤとセイカのバトルが始まろうとしていた。