パラダイス・ロード   作:ほろろぎ

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細かい時系列は考えてませんが、わんぷり側は猫組が登場する前の出来事。
ファイズの方は本編中のどこかから迷い込んできた、という感じです。20年後ではありません。


前編

 じきに雨が降ってきそうな曇り空の下を、兎山悟(とやま さとる)は一人で歩いていた。

 相棒の白うさぎ、大福は連れていない。

 悟はいつものように一緒に出かけようとしたのだが、あいにく大福の方が気分が乗らない様子だったからだ。

 

 悟が向かう先には、彼の住むこの街──動物と人間が仲良く暮らす「アニマルタウン」の名所である、鏡石(かがみいし)と呼ばれる石碑(せきひ)がある。

 少年は以前からこの石のオブジェに興味を持ち、また自身の関わる()()()()から鏡石のことを調べていた。

 

「あ、悟くん!」

 

 悟のメガネ越しに映ったのは、鏡石とその側に立つクラスメイトの少女。そして、彼女の連れる一匹の犬の姿が。

 少女、犬飼(いぬかい)いろはは大きく手を振って、悟にあいさつする。

 

「こんにちは、犬飼さん。こむぎちゃんも」

「こんにちワン!」

 

 悟はいろはと、彼女のペットのパピヨン犬──名前はこむぎと言う──に返事を返す。

 そして、少年のあいさつに対して犬であるこむぎも、人間の言葉で受け答えをした。

 

 飼い主のいろはも、友達の悟もまた、犬が人語を発するというこの現象を驚かない。

 彼女らの間では、すでにこの状況は自然な日常として受け入れられていた。

 

「今日も鏡石のことを調べに来たの?」

「さとるはべんきょうねっしんだワン」

「うん。犬飼さんたちは、こんな天気の悪い日にお散歩?」

 

 少女らが曇天の中で外に出てきたことを、不思議に思った悟がたずねる。

 

「洗濯物を預けてて、それを受け取りに来たんだ」

 

 いろはが答えた。

 

「今、家の診療所が入院中のペットが沢山いて、お母さんたち大忙しでね。ちょっとお店に服とかのクリーニングを頼んでたの」

「犬飼さんの自宅は動物病院になってるんだもんね。動物たちが大勢いるなら、汚れものはどっちの環境にもよくないか」

「だから、こむぎたちもお手伝いしてるワン」

「そっか。それで二人は、荷物が配達されるのを待ってるんだね」

 

 悟はそれで、いろはたちが空模様が悪いにも関わらず、ここまで出かけてきたことに納得がいった。

 

 と、ちょうどその時である。二人と一匹の前に、一台のバイクが停車した。

 シルバーで彩られたそのモーターバイクは、形状からスポーツやレーシング等に用いられるような専門車両に見える。

 

 が、後部に設置された荷物入れを見て悟といろはは、やはりこれがクリーニング店のものだと確信した。

 荷物入れには大きく目立つ文字で、お店の名前であろう『西洋洗濯補 菊池』という印刷がほどこされていたからだ。

 

 バイクの運転手が被っていたヘルメットをとる。

 覗いた顔は茶髪の青年で、バイクに乗れることから歳は中学生のいろはたちより上だろう。高校生か、大学生かもしれない。

 

 青年は、にらむような目つきの悪い視線を少女らに向けた。

 どこか、オオカミを思わせる(するど)さだ。

 

 同時に、群れから外れ戻れなくなった迷い子のような、孤独な寂しさもいろはは感じた。

 少女はおずおずと、青年に声をかけようとする。

 

「えっと……」

「お前、犬飼って奴か?」

 

 いろはより先に、青年が言葉を発した。

 客を相手にしているとは思えない、高圧的な態度である。

 

「あ、はい、そうです」

「……ん」

 

 青年はバイクのトランクから無造作に、いろはの荷物である洗濯物の(たば)を取り出した。

 それを、押し付けるように少女に渡す。

 

「ん」

 

 続けて、一枚の紙をいろはに見せた。レシートだった。代金を払え、と言っているのだろう。

 二人からやや離れた所で、こむぎは小さな声で悟に話しかける。

 

「あのひと、怒ってるワン? いろは、なにかした?」

「いや、怒ってる訳じゃないと思うよ。多分、普段からああいう感じの人なんじゃないかな」

「あんなにムッとしてる人、はじめて見たワン。あれじゃ、ガルガルになっちゃうワン」

「あはは、そうだね」

 

 ガルガルになる、というこむぎの言葉に対して、悟は苦笑いを浮かべた。

 こむぎもワフフと笑う。不意に、その笑顔が消えた。

 

「どうしたの、こむぎちゃん?」

「……ガルガルだワン! いろは、ガルガルが出たワン!!」

「えぇっ、今!?」

 

 財布から代金を取り出そうとしていたいろはは、突然上げられたこむぎの大声で手を止める。

 直後、あっとうめくように声が漏れた。

 

 少女の対面では、茶髪の青年が信じられないものを見た、という風に固まっている。

 

「……おい。そこの犬、喋らなかったか」

「え、えっと~……」

 

 とっさに事態をごまかす言い訳が浮かばない。元よりいろはは、ウソを()くのが苦手な人間だ。

 

「あっちだワン!」

「犬飼さん、今はとりあえずガルガルを!」

「そ、そうだね!」

 

 それじゃあ、と定型句を残して、少女らは呆気にとられる青年を残して去っていった。

 

 

 

 

 

 鏡石のある交差点よりやや離れた、商店街の付近で騒動は起きていた。

 

 駆けつけたいろはとこむぎ、少し遅れて到着した悟。

 彼女らの前には、無残に破壊された商店街の光景が広がっていた。

 まるで大きな爆弾が何個も爆発したあと、といった破壊痕だった。

 

 空模様が悪かったことで人通りは少なく、いろはらが到着した時にはすでに、商店街にいた人たちは全て逃げ去ったあとである。

 人気の失せたはずの商店街。その入口から奥の方に、黒い煙のようなモヤモヤがとどまっている。

 

 少女らは一目見て、このモヤが商店街をめちゃくちゃにした騒動の原因と理解した。

 

「こむぎ、あれがガルガルなの?」

「ガルガルだと思ったけど……この()()()は、いつもとちがうワン」

 

 こむぎは鼻をくんくんと鳴らし、そして顔をしかめる。

 

「ハックション! なんか、ハナがむずむずするワン!」

 

 くしゃみが止まらないこむぎ。側にいるいろはと悟も、鼻に違和感を覚えた。

 

「なんだろう、これ……空気になにか混ざってるような……」

「これは……『灰』? 空中に白い灰が飛び散ってる」

 

 薄っすらとだが、視界が白く(かす)んでいる。

 なにかが燃え尽きたのか? しかし周囲に火事の気配はない。

 

 灰交じりの空気に顔をゆがめながら、目の前のモヤを前にどう動くべきか判断がつかない三者。

 そこに、別れたはずのクリーニングの配達人の青年が駆け込んできた。

 

「おい、お前ら!」

「え、なんでお兄さんがここに!?」

「なんでって、まだ洗濯の代金もらってねーぞ」

 

 やる気が無さそうに見えてしっかりしてるんだなぁ、と場違いな感心を抱くいろは。

 足元で、こむぎが威嚇(いかく)のうなり声を上げた。それはやって来た青年に対してでなく、商店街の中に存在する黒いモヤに向けてだ。

 

 モヤが一つ所に収束していく。その塊は、とある形態をとった。

 しかしそれは、少女たちがガルガルと呼ぶ存在とは、また異なる姿であった。

 

「これ、ガルガル……なの?」

 

 いろはの疑問は小さな言葉となってこぼれる。

 少女らがこれまで相対してきたガルガルは、みな動物の形態をとっていた。

 

 しかしモヤが形を変えた()()は、頭こそ犬であるものの首から下は人間そのもの。

 二本の足で立つ全体のシルエットは、動物というよりは怪物……もしくは、『怪人』と形容するのが正しく思えた。

 

 配達人の青年は、謎の()()()()を見て声を上げる。

 

「オルフェノク!」

「おる?」

「ふぇの?」

「く?」

 

 青年の言葉には、目の前の異形の存在を知っているという、確信の色があった。

 もちろん、いろはたちは彼の発した単語に聞き覚えはなく、オウム返しのように繰り返すのみ。

 

『GRRRR……』

 

 怪人が瞳を赤く光らせながらうなった。先のこむぎの行動と同じ、これは威嚇のしるしだ。

 どうやら黒い犬型怪人は、三人と一匹を「敵」だと認識してしまった様子。

 

「おい、お前ら逃げろ!」

 

 青年はいろはたちに避難を勧告するが、少女らは逆に彼を庇うように怪物の前に一歩踏み出す。

 

「おい! なにやってんだ! そいつは……」

「大丈夫です。犬飼さんたちにまかせましょう」

 

 なおも制止の声を上げる青年を、悟が呼び止める。

 男は悟にするどい視線を投げかけ、彼がオルフェノクと呼ぶ目の前の怪人が、どれほど危険なものか伝えようとした。

 

「いくよ、こむぎ!」

「うん、いろは!」

 

 青年は言葉に詰まった。

 少女と犬が互いの了解を取り合った直後、二人は光に包まれて──その姿を一変させたからだ。

 

「みんな大好き、ステキな世界! キュアワンダフル!!」

「みんなの笑顔で彩る世界! キュアフレンディ!!」

 

 どこからともなく取り出したコンパクトをキーとして、少女らはドレスのような華やかな衣装に身を包まれていた。

 

 キュアフレンディと名乗ったいろはは、紫が基調の探偵を思わせる服に変わり、キュアワンダフル──こむぎにいたっては、犬からピンクのスカートを()いた人間の少女へと、壮大な変貌(へんぼう)を遂げている。

 

「「せーのっ、わんだふるぷりきゅあ!!」」

 

 二人の少女は腕を組んでそう名乗りを上げ、ポーズを決めた。

 後ろでは、配達人の青年が驚愕の表情で口を開け広げている。

 

『GARRR!!』

 

 怪人──もしくは怪物が、プリキュアを名乗る少女らに突っ込む。

 ワンダフルとフレンディは、両腕を広げて怪人の突撃を真っ向から受け止めようとした。

 

 しかし

 

「わぁあー!?」

「きゃぁっ!?」

 

 変身した二人よりも怪人の力が強い。

 プリキュアは()()()()()()()様な衝撃を受け、はね飛ばされてしまう。

 

 怪物は人間に似た黒い手の指先から、犬が持つような鋭利(えいり)な爪を生やす。

 その爪をふるって、二人のプリキュアに追撃を加えた。

 

 少女相手に加減を知らない、本気の攻撃だ。

 怪物は自己の内にある憎しみを叩きつけている。そんな風に悟の目には映った。

 

「おい、やべぇんじゃねえのか!?」

 

 青年が悟に言った。

 戦いというものを経験したことのないワンダフルとフレンディは、怪人の攻撃を成すすべなく食らい続けている。

 これまで彼女たちが相手にしてきたガルガルは、みんな「説得」という方法で対処してきたため、わんだふるぷりきゅあには戦闘のための手段がないのだ。

 

 悟は二人にアドバイスを送る。

 

「ワンダフル! フレンディ! タクトを使うんだ!!」

 

 『フレンドリータクト』という二人の少女の絆が生み出したアイテムは、言葉ではなく「技」としてのガルガルの浄化を(ほどこ)す器具である。

 ワンダフルとフレンディは、悟の声を聞いてフレンドリータクトを構えた。互いに相手のタクトを操作して、技を使うための儀式を行う。

 

「「プリキュア・フレンドリベラー……」」

 

 ガルガルの心を静め元の状態に戻す「フレンドリベラーレ」はしかし、発動直前に防がれてしまった。

 目にもとまらぬ速さで急接近した怪人が、豪腕によって二人の持つタクトを叩き折ったのだ。

 

「あぁ……!?」

 

 絆の象徴が破壊されるというショッキングな光景を前に、ワンダフルもフレンディも、悟も絶句する。

 折られ元の状態──こむぎといろはを繋ぐリード──に戻ったタクト。

 千切られたリードが、力尽きた蝶のように地面へと散った。

 

『GARRー!!』

 

 怪人は犬に似た咆哮をあげ、心身共に傷ついたプリキュアにとどめの一撃を見舞わんとする。

 

「危ねえッ!」

 

 これまで悟に止められ事態を見守っていた配達人の青年が、怪物と少女らのあいだに割り込む。

 普通であれば、こんな強力な獣の一撃を受けて、無事で済むはずがない。

 

 しかし──この男は()()()()()()()()()

 

「変身ッ」

 

 一声。ともなって、彼の体が一瞬の閃光に包まれる。

 

 ガキンッ!と金属的な響きがあたりに響いた。

 

「え……?」

 

 二人のプリキュアと悟の、唖然とした声がもれる。

 

 犬型怪人の攻撃から少女らを守った青年。

 その全身は真っ黒なスーツと、血管を思わせる赤いラインに(おお)われていた。

 

 超金属ソルメタルをまとった仮面の騎士──『ファイズ』。

 アニマルタウンに現れた、二体目の説明できない存在(アノマリー)であった。




わんぷりの二次創作が少なすぎるのなんでですかね…

戦わないから作りづらい(意欲が湧かない?)とかでしょうか
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