謎の戦士──ファイズの出現を前に、一体目のアノマリーである犬型怪人はいずこかへと姿を消した。
そして……商店街からほど近い公園に、犬飼いろはと兎山悟らは移動していた。
こむぎも変身を解いて人間から元の犬に戻っており、そこには未知のスーツをまとって彼女らを助けた、洗濯物の配達人の青年もそろっている。
青年は、自らを「
「で、なんなんだよ、お前らは」
巧はぶっきらぼうに、少女らに問いかけた。
それは先ほどいろはとこむぎが姿を変えた、プリキュアについてのことだ。
「えっとぉ~……、なんて言ったらいいか……」
「ニコガーデンという場所があって、そこに住んでる生き物があの黒い怪物──ガルガルになってしまい、犬飼さんたちはそれを元に戻すためにプリキュアをやっているんです」
説明に困るいろはに変わって、悟が要点をかいつまんで巧に話しをした。
「ニコガーデンに、ガルガルだぁ? アニメかよ、それ」
「あはは、信じられないのも無理はないと思います」
いろはとこむぎがプリキュアに変わるところに居合わせなければ、そのままバカにして終わりだっただろう。
しかし巧は見てしまったのだ。事実を受け入れるしかない。
巧の足元では、犬状態のこむぎが興奮したようにまとわりつく。
「ねえねえ、たくみもぷりきゅあなの!?」
先ほど黒いガルガルと思われる怪物の襲撃から、巧は仮面を被った黒いスーツをまといこむぎたちを助けた。
そのためこむぎは彼も自分の仲間ではないかと興味津々だが、あの姿は二人のプリキュアとは、あまりにもデザインが異なりすぎている。
「あれは『ファイズ』だ。プリキュアなんて可愛らしいもんじゃねえ」
巧はそう言って、腰に巻いてあるシルバーの金属的なベルトを見せた。
右手にはかなり古いタイプの携帯電話が。悟は前時代的な異物を興味深げに見つめる。
さっき巧がファイズに変わった時は一瞬で分からなかったが、どうやら携帯電話をベルトにセットすることでファイズのスーツが展開される造りのようだ。
プリキュアは「ワンダフルパクト」というコンパクト状のアイテムを使用するのだが、確かにファイズの機構と比べると、こちらはかなり
こむぎに足元をうろうろされるのを、巧がちょっと
そのまま彼に質問を投げかける。
「巧さん──ファイズも、ガルガルを元に戻すために活動してるんですか?」
「いいや。俺は、オルフェノクと戦ってんだ」
「それ、さっきも言ってましたけど、なんなんですか? オルフェノクって」
巧は、あからさまに説明するの面倒くさがった。
口下手であるのもあるが……それ以上に、余計なことを言って彼女らが、いらぬトラブルに巻き込まれないかを心配してのこともある。不器用な性格のため、それを表には出さないが。
しかし、なんの説明も無しに子どもたちがまた、あのオルフェノクと思われる怪人に立ち向かわれるのも見過ごせない。
はぁ~、とため息をついて、巧は口を開く。
「オルフェノクってのは、一度死んで生き返った人間がなっちまうバケモンだ。なかには友好的な奴もいるが、ほとんどの奴らは他の人間を襲うようになる」
あいつは後者だな、と巧は黒い怪人の行動を思い起こして付け加えた。
ふと視線を感じ、巧は横を向いた。
そこには悟が、彼にしては珍しく興奮した様子をあらわに巧に熱い視線を注いでいる。
そんな友人の姿を見て、どうしたんだろうといろはが声をかけた。
「ど、どうしたの、悟くん?」
「どうしたもないよ、乾さんの話しはまるで、仮面ライダーみたいだ」
「かめんらいだー?」
「なんだ、それ」
こむぎと巧も疑問の声を上げた。
悟は眼鏡をキラリと光らせて、一同に説明を始める。
「僕も直接は見たことが無いけど、昔噂されていたおときばなしだよ。怪物から人間を護って戦い続ける戦士の名前、それが」
仮面ライダー。名前の通り仮面を被り、バイクを駆って人間の自由と平和のために戦うヒーロー。
空想上の存在だが、オルフェノクという異形と戦う巧の話は、まさにそのライダーの物語と
どちらかといえば大人しい少年の悟もやはり男の子なのか、この手のお話しにはこみ上げるものがあるようだった。
そんな悟の眼差しを避けるように、巧は素っ気なく
「んなご立派なもんじゃねえよ、俺のは」
とこぼした。次いで話題を切り替える。
「問題は、さっきの黒い奴のことだ」
「あのガルガルがどうかしたんですか?」
「お前らはガルガルだって言ってるが、俺にはあれはオルフェノクにしか見えねえんだが……あいつ、一体
ガルガルは総じて黒い体をしている。スタイルは動物そのものだ。
しかし、先の怪物は人間の姿勢をしていた。大きさもガルガルに比べるとグッと小さい。
オルフェノクは、全てが灰色の体色をしている。黒い体のオルフェノクなど、存在しない。
そして元が人間であるため自我を有するが、先ほどの怪人には意志というものが感じられなかった。
まるで、
「さっきのアレは、ガルガルにもオルフェノクのパターンにも当てはまらない、と」
「もしくは、どっちの属性も混じりあってるか、だな」
悟と巧の推測を補強する言葉を、こむぎが紡ぐ。
「さっき、あのガルガルからはイヌみたいなにおいも感じたワン」
はっと悟が、なにかに気づいたように顔を上げる。
「そういえば、少し前に商店街の近くにある道路で、犬が一匹車に轢かれたっていうニュースがあったけど」
「ああ、あの『パラダイス・ロード』の……」
「なんだ、そのヘンテコな名前の通りは?」
「綺麗なお花がいっぱい咲いていて、動物たちのお散歩のコースになっている、アニマルタウンの名所のひとつです。観光名所になってて車の通りも多いから、たまに事故も起きちゃう危ない所なの」
「こむぎも行ってみたいけど、いろはは連れてってくれないワン」
いろはの説明を聞いて、恐らくそのパラダイス・ロードとやらで車に轢かれ命を落とした犬が、オルフェノクとして復活してしまったのだろうと推測する巧。
だが、それだけでは説明のつかないこともあった。
「さっきも言ったが、オルフェノクってのは人間が変化したもんだ。動物がオルフェノクになるなんて、俺は知らねえ」
「この街には、ニコガーデンの動物たちをガルガルに変える
悟の言うナニカは彼自身にもわからない。
ただの憶測だが、なんの外的要因もなしに動物がガルガル化してしまうことも、不自然といえば不自然である。
「もしかしたら……神様なんてもんが死んだ犬を可哀想に思って、生き返らせちまったのかもしれねぇな」
どうせ奇跡を起こすなら、もっとましな形でやってくれと巧は皮肉るようにこぼす。
あの黒い犬型怪人がガルガルでもありオルフェノクでもあれば、確かに両者の特性を受け受け持っているのも納得がいった。
敵の正体が分かったのならさっそく、と追跡を始めようとした巧。
そこに、いろはとこむぎも着いて行くと言い出した。
「お前ら、さっき散々あいつに痛めつけられたの、懲りてないのか」
呆れたような物言いで、巧は子供たちを止めた。危ない怪物と戦うのは自分だけで十分という、彼なりの優しさだ。
けれど、すんなり引き下がれる訳もなく、いろはは強く抗議する。
「さっき痛い思いをしたから、余計に分かるんです。あの子、とっても苦しそうで、ツラそうだった……」
「こむぎもいろはも、くるしんでる動物を助けたいから、ぷりきゅあになったんだワン!」
「オルフェノクはお前らの思うような、甘い相手じゃねえ。奴らは人間を殺して、自分たちの仲間に加えようとしてんだぞ」
あの黒い犬型怪人に、オルフェノクの死者を再生させる能力が備わっているなら……そうでなくとも、下手をすれば命を落とす危険性は高い。
いろはの隣に悟が並んだ。彼もまた巧の説得にあたる。
「乾さんが心配してくれているのはわかります。でも、僕も犬飼さんたちと同じ気持ちです。僕らはずっと、そのために一緒に行動してきたんです」
「それに、こむぎたちが危なくなったら、またたくみがライダーになって、たすけてくれるでしょ?」
こむぎの言葉は事態を楽観視している訳ではなく、側に頼れる大人がいるという、安心と期待からのものだった。
子供らの熱を帯びた視線を一身に受け……ついに巧は折れた。
「……はぁ、しょうがねえな。けど、やり方は俺に任せてもらうぞ」
困っている動物を助けたい。それがいろはたちの夢であるのなら、彼は止める手立てを持たない。
なぜなら──乾巧は、夢の守り人なのだから。