「いろは! 見つけたワン!」
こむぎが叫んだ。
三人と一匹の前には、犬の特性を持ったガルガルとオルフェノクの混同体が。
場所は相手にとっての因縁の場所、パラダイス・ロードである。
悟の推測とこむぎの鼻によって、怪人は次にここを狙うと思われたが、それが的中した。
「いくよ、こむぎ!」
「ワン!」
いろはとこむぎは変身アイテムであるワンダフルパクトを構え、巧も携帯電話──ファイズフォンに変身コード「555」を打ち込む。
「「プリキュア・マイエボリューション!!」」
「変身ッ!!」
三人は光に包まれ、わんだふるぷりきゅあと仮面の騎士ファイズへと変わった。
「お前らはここで待ってろ」
「たくみ、なにするの?」
「アイツのサンドバッグになってくる」
プリキュアを下がらせて、ファイズは一人怪人の前に歩み出る。
ガルガル、あるいはドッグオルフェノクは咆哮を上げファイズに飛びかかった。
『GARRRR!!』
「お前、人間に恨みがあるんだってなぁ。……だったらその怒り、俺に全部ぶつけろ!」
ファイズは宣言通り、オルフェノクの攻撃を黙って受け続ける。
殴られ、蹴られ、噛みつかれ……
ダイヤモンド並みの硬度を誇る超金属のソルメタルも、怒りを込めた打撃の連続に耐えきれず、ついに亀裂が走り始める。
それでも巧は耐えた。
いつもだったら戦って、倒して、それで終わりだ。
けれど今は……今だけは、子どもたちの前でそんな力任せの解決を計るは違うと、心の底が言っている。
背後では少女らが、いいようにやられっぱなしのファイズの姿を、不安げに見つめていた。
それでも手を出さないのは、巧の内心を察して、彼を信じているからに他ならない。
徐々にドッグオルフェノクの攻撃の手が弱まってきた。
ファイズの、巧の心情を汲んで怒りの気持ちが静まってきたのか、それともただ疲れただけなのか。
「もういいのか? ……なら、そろそろ終わりにしようぜ」
ファイズはベルトサイドに付けられていた懐中電灯型のアイテム──ファイズポインターを取りはずした。
ポインターにミッションメモリーと呼ばれるチップを装填。
ファイズポインターの真の機能がオンになる。
ファイズは右脚側面のアタッチメントにポインターをはめ込んだ。
一連の動作を見ていた悟は、一抹の不安を感じる。
それはヒーローが、
第一段階として、ファイズのベルトから機械音声で、技の発動を認めるサウンドが響く。
『エクシード・チャージ』
『GARU!?』
ファイズは右足を蹴り込むような動きで、オルフェノクの体へポインターの照準を合わせた。
ポインターから射出された赤い
「乾さん! ダメだ!!」
悟はたまらず叫んだ。このままではファイズが、あのオルフェノク、あるいはガルガルを倒してしまう。
……しかしファイズは、必殺技を使うことなく右脚を降ろして、怪人に背を向け子供たちに振り返った。
「心配すんな、動けないよう抑え込んでるだけだ。ほれ、今のうちに元に戻しちまえ」
巧は子供らの意をくんで、自分の役目を全うしたのだ。
あとはプリキュアの出番だ。
キュアワンダフルとキュアフレンディは、動きを止められたガルガルに近付いて、そっとその体を抱擁した。
「もう大丈夫だよ。ガルガルしなくていいんだよ」
「ごめんね。私たち、こんなことしかできなくて……でも、これ以上暴れたら、あなたが傷ついちゃうから」
フレンディの頬を、一すじの涙が伝う。
涙の一滴はガルガルに触れ、黒い体は淡い光を放ち始める。
『GARUuuu……』
二人の少女に抱かれたまま、ガルガルは元の犬の姿へと戻った。
四肢は力なくダラリと垂れ下がり、地面に降ろされたかつて犬であった骸の体に、青い炎がともる。
それは、魂を導く浄化の炎。
青炎に包まれながら、犬の骸は白い灰へと変わり、灰は風に巻かれて空へと昇って行く。
いろはと悟は揺らめく炎に向けて手を合わせ、人間の姿のこむぎもそれに
「これでアイツも、
巧はつぶやいて、天に上る白い影を見送った。
プリキュアとファイズとの予期せぬ出会いにも、別れの時が来た。
巧は自らの愛車──オートバジンに乗り込み、洗濯ものを預けたいろはから、改めて代金の徴収も終えた。もうこの街でやるべきこともない。
「今日はお世話になりました」
「ほんとにな。まぁ、お前らもせいぜい気を付けろよ」
「たくみも頑張ってね!」
いろはとこむぎはこれからもガルガルになった動物を助けていき、巧もまた元の街でオルフェノクと戦い続けるだろう。
両者は互いの健闘を祈った。
オートバジンのエンジンがかかる。いよいよお別れだ。
その時、人間の少女の姿のこむぎが巧に近付いて、にっこりと笑顔と共に感謝を伝える。
「今日は助けてくれてありがとね、
巧は自分が、ヒーローと同じその名で呼ばれることを意外そうな、むず痒いような、そんな微妙な表情を浮かべた。
こむぎは不安げな顔で問いかける。
「ヤだった?」
「……いいや。そういう風に呼ばれるのも、悪くねえな」
少女らはこの日、初めて乾巧が笑ったところを見た。
彼は笑顔を見られるのを恥ずかしがって、さっさとヘルメットをかぶって走り出してしまったが。
巧を見送りながら、いろはと悟は彼の今後に思いをはせる。
「巧さん、これからは一人でオルフェノクと戦うんだよね」
「そうだね……」
「怪我、しないといいね」
「きっと大丈夫だよ。乾さんも仮面ライダーなら」
いろはは巧の無事を想った。
そしてそれ以上に、ファイズが怪人との戦いに勝ち続けることよりも、人間とオルフェノクが手を取り合って仲良く暮らせる世界がきてくれることを、強く願う。
去っていくバイクに向けて、こむぎはその背中が見えなくなるまで、大きく手を振り続ける。
空は相変わらずの曇り模様だが、巧の進む道の先には、雲の切れ間から差し込む太陽の光が照らしていた。
彼の行く果ては、きっと