Tiny Dungeon Another Story 作:のこのこ大王
カーテンを開けると少し眩しく感じる光が差し込んでくる。
今日も良い天気だ。
朝の清々しい風が吹いている。
朝風呂の後だったこともあり、いつもより涼しく感じる。
?「んん・・・眩しい」
隣のベットでモゾモゾと布団の塊が動いている。
朝に弱いと知ってはいるが、早めに起こさなければ
身支度が間に合わない。
少し可哀想だが、一気に掛け布団を剥ぎ取る。
エリナ「うぅ・・・ひどいよ、セリナちゃ~ん」
セリナ「そろそろ起きないと間に合わないよ、エリナちゃん」
エリナ「あと5分ぐらい大丈夫だよ~・・・」
セリナ「そんなこと言って、またドタバタ走り回るより
その5分を準備に使おうとは思わないの?」
エリナ「・・・無理」
毎朝同じようなやり取りをしているので
言っても無駄だと解ってはいるが、それでも言わずにいられない。
セリナ「前みたいに、遅刻したらどうするんですか」
エリナ「アレは仕方ないでしょ。
それともセリナは、ボサボサの頭で学校行ける?」
セリナ「身支度に時間がかかるなら、その分だけ早く起きれば
良いだけでしょ」
エリナ「それが出来れば苦労しないよ~」
エリナちゃんは、こう見えてかなりオシャレ好きなんです。
特に朝の支度は、鏡の前から中々動かないほどに。
服やアクセサリーも、私の倍以上持っていて
たまに私が借りることがあるほど種類も多い。
それだけこだわりを持っていれば
どうしても時間がかかってしまうのは仕方が無いとは思います。
それなら、その時間だけ早起きするのが普通なんですが
エリナちゃんは、それが子供のころから苦手だったりします。
でも、睡眠時間を削ってまで早起きして
身支度を整えるのは全種族の女性にとっては、当然のことであり
同時にもっと楽になればと願う部分でもありますよね。
エリナちゃんは以前、髪型が上手くまとまらないという理由で
学校を大幅遅刻してきた前科があるんです。
それ以来、必ず一緒に登校するようになったんですが・・・。
第7章 変わり始めた白銀姫
エリナ「あ~、眠い~」
いつの間にか朝風呂から帰ってきたエリナが
鏡の前で髪を梳かしながら、不満を言っている。
そんなエリナが身支度を始めたことを確認して
自分の身支度の続きをするセリナ。
これが普段の2人の朝である。
眠そうだったエリナも、身支度が進むにつれて
目が覚めてきたのか、細かい部分を熱心に確認している。
セリナ「・・・そう言えば、エリナちゃん」
エリナ「ん~。
な~に~?」
セリナ「最近なんだけど・・・。
身だしなみに気合入ってない?」
エリナ「え? そ、そう?」
セリナ「うん。 特に最近、更にって感じですよね。
以前なら、付けてる途中で昨日と同じような感じの髪留めだと
気づいても『ま、いっか』って言ってそのままだったのに
最近は、必ず違うのに付け替えるじゃないですか」
エリナ「そりゃ~、まあ。
手を抜いても良いことなんてないじゃない?」
その言葉を聞いて、一瞬で嘘だと思った。
普段から色んなことで手を抜いているエリナちゃんが
そんなことを言うはずがありません。
何か別の理由があるはずです。
普通なら、誰かに見せるためです。
かといってエリナちゃんがそんなに見せたい相手って・・・。
そこまできて、ようやく一人の顔が思い浮かびました。
セリナ「もしかして・・・和也、くん?」
私がそう言った瞬間、エリナちゃんは手に持っていた
髪用ブラシを落とし、それを拾おうとして
椅子から転げ落ちました。
エリナ「いったぁ~ぃ・・・」
セリナ「・・・大丈夫?」
エリナ「大丈夫じゃないよ~・・・。
もう、セリナが変なこと言うからぁ~」
明らかな動揺を見せるエリナに、自身の考えが合っていたことを
確信するセリナ。
しかし、それはそれで疑問もある。
セリナ「どうしてそんなに気になるんですか?」
エリナ「もう、いいじゃない別に。
それに何でそんなに食いつくのかなぁ」
制服を着て身だしなみを整え、2人で部屋を出る。
妙に詳細に聞いてくる姉に若干のうっとおしさを感じながらも
その理由を考えるエリナ。
寮の玄関あたりで、ひとつの答えが出る。
エリナ「・・・つまりセリナは、和也が好きだと」
セリナ「えっ!?
何でそんな話に・・・」
エリナ「じゃあ、どういうことなのよ。
ずっと和也、和也って言ってれば、そうとしか思えないよ」
セリナ「そう言う話じゃなくて。
エリナちゃんが和也くんのことが好きなのは、どうして?
っていう話ですよ」
エリナ「私が『和也が好き』ってことは既に決定なんだ・・・」
セリナ「そうじゃないんですか?」
エリナ「う~ん。
・・・もう、それでいいや」
セリナ「何ですか、その『面倒だし諦めた』って感じは。」
エリナ「セリナちゃん、わかってるならそれ以上は言わない。
何だか知らないけど、ちょっとしつこいよっ!」
和也「喧嘩でもしてるのか?
珍しいこともあるもんだな」
突然後ろから現れた和也に、驚く2人。
セリナ「か、和也くん、どうしたんですか?」
エリナ「いい、いきなり声かけてきたら、びっくりするじゃない」
和也「いや・・・まあ。
俺も一応女子寮に住んでるから玄関ぐらい通るんだが・・・」
そこで2人は、ようやく気づく。
ここは女子寮の玄関だったと。
セリナ「べ、別に喧嘩をしていたわけじゃないんですよ」
エリナ「まあ・・・あえて言うなら
和也のせいだけど」
和也「俺の居ないところで俺が原因って
そんなこと言われてもなぁ」
亜梨沙「・・・また何かやったんですか、兄さん?」
和也「俺は、無実だよっ!」
エリナ「そんなこともうどうでもいいから
さっさと行きましょ」
和也「え? ちょ。
いったい何なんだよ」
和也の腕をグイグイと引っ張って歩くエリナ。
亜梨沙「・・・えっと。
いったい何がどうなってるんですか?」
セリナ「・・・むぅ」
置いていかれた2人だったが、その心境は
全然違っていた。
それから、今日の授業が一切頭に入らないセリナは
ずっと教室の窓から外を眺めていた。
エリナ「・・・う~ん」
朝から変だとは思っていたが、かなり重症なようだ。
何とかしてあげたいという気持ちはあるが、何に悩んでいるのかが
まったく解らないわけで・・・。
エリナ「仕方が無いなぁ。
付き合ってあげましょうかね」
徹底的に姉に付き合う覚悟を決めると、昼休みの鐘と共に
腕を引っ張り場所を移動するエリナ。
とりあえずいきなりのことに戸惑いながらも
ズルズルと引っ張られていくセリナ。
それを教室のクラスメイト達は
ただ呆然と見ていることしか出来なかった。
そして昼休み。
いつもなら和也達と合流して食事をしているはずの時間。
しかし今日、神族の双子姉妹は
図書室にある個室の勉強部屋を占拠していた。
セリナ「ちょっとエリナちゃん。
いきなりどうしたんですか?」
エリナ「どうしたのって言葉は、むしろこっちの台詞だよ。
今日の授業、ちゃんと聞いてないでしょ」
セリナ「・・・まあ」
エリナ「どうせ朝の話の続きでしょ。
どうして急に和也の話になったの?」
セリナ「・・・うん」
しっかりと聞くために時間を取ってくれた妹に感謝しつつ
セリナは、本心を話し出す。
セリナ「和也くんって不思議な人ですよね。
人族というだけで色々言われるだけじゃなく
意地悪とかもされてるって聞きました。
でも、あんなに前向きに学園で
いえ、この街で生きている。
儀式兵装を持ってないという時点で
本来なら戦士になんてなれないはずです。
魔法が基本となっている今の世界では
誰もが無謀なことだと思うでしょう。
普通は、どれだけ訓練をしても無理なものは無理なんです。
それなのに和也くんは、このフォースに入学してきました。
それだけでも奇跡と言えます。
本来なら、それだけで満足する結果なのに
和也くんは、まだ先を見ています。
そんな彼の努力や挑戦を見ていると
自分でも信じられないぐらいに
『私だってやれば出来るかもしれない』と思える気持ちに
させてくれるんです」
滅多に本心を打ち明けない姉の話を邪魔しないよう
聞くことに集中しているエリナ。
そんな妹に、姉は更に言葉を続ける。
セリナ「だから・・・かな。
エリナちゃんが、和也くんのことを
気に入るのも解ります。
とても素敵な男の方だと思いますから。
でもそこで思ったんです。
どうして突然『甘えた』んだろうって」
話を聞いて、ようやく姉の想いを理解したエリナ。
少し頭の中を整理してから話し出す。
エリナ「なるほど、そういう話か。
それなら簡単な話だよ」
セリナ「・・・簡単なの?」
エリナ「私が和也に甘えてる理由でしょ。
それが知りたいなら、あそこに行けばいいんだよ」
セリナ「・・・?」
その日の夜。
エリナに指定された時間、その場所に向かう。
すると、遠くから夜風を切り裂くような何かの音が
リズム良く響いてくる。
そこは、女子寮の裏にある森を抜けた所にある、とても広い丘。
和也の自己鍛錬を行っている場所だった。
和也「ん?
もしかして、セリナか?」
真剣に刀を振っていた和也に何故か気づかれないよう
茂みに隠れていたセリナだったが、声をかけられてしまい
ゆっくりと姿を現す。
和也「・・・何でそんなところに居るんだ?」
何となく気配でわかったものの
まさかそんなところから出てくるとは思っていなかった。
セリナ「え、え~っと・・・。
何と、なく?」
和也「そ、そうか。
まあ別にどうでもいいんだが」
突っ込み所が多すぎる発言に、色々と早々に諦めた和也。
結局お互いに何も話さず、時間だけが過ぎていく。
刀を振る音だけが、ただ周囲に響いていた。
セリナ「・・・和也くんは」
和也「ん?」
どれぐらい経ったころだったか、ふとセリナが声をかけてきた。
セリナ「和也くんは、どうして戦士になろうと思ったんですか?
儀式兵装・・・持ってないんですよね?」
和也「まあ儀式兵装は、確かに持っていないな。
でもそれって、戦士を諦める理由になるのか?」
セリナ「え?」
和也「確かに魔法が当たり前になった今の世の中じゃ
儀式兵装無しではやっていけないかもしれない。
でも、そうやって無理だと決め付けるのってどうだろう?
無理かもしれない。
無謀かもしれない。
不可能かもしれない。
それでも、やってみなきゃわからないじゃないか。
現にほら、俺はこうしてこの場に居るわけだし」
和也の言うことは理解出来る。
でも、それは運が良かっただけの奇跡だ。
努力をした全員が報われるとは限らない。
そんな否定的な意見が、セリナの頭を過ぎる。
和也「そして俺は、別に戦士になりたいわけじゃない。
・・・守りたいものがあるから、それを守れる力が欲しいだけだよ」
セリナ「・・・守りたいもの?」
和也は、剣を構えた。
剣を自分の胸の前に垂直に構える。
その動きは、神族の騎士が自分の信念を剣に込めるという
自身に気合を入れるための動作であり、伝統ある儀式。
何故人族である和也が知っているのだろうと思った時だった。
和也「『この力を、守りたい全てのために』」
私は、その言葉を聞いて思い出す。
それは亡くなったお父様が、口癖のように言っていた台詞。
それを見て、お父様の言葉を思い出す。
神王「セリナ。
お前は、いつも物事を悪い方へと考える癖がある。
それが悪いとは思わない。
だがな。
もっと物事を前向きに考えてごらん。
そうすればきっと・・・」
まだ子供のころ。
お父様から、そんな言葉を言われた気がする。
?「・・・!」
何だろう、遠くから声が聞こえる。
?「大丈夫か、セリナ!」
突然鮮明に聞こえた声に驚き、ハッとする。
和也「お、気づいたな。
大丈夫か?」
セリナ「あれ? 和也・・・くん?」
次第にハッキリとしてくる頭。
セリナ「大丈夫ですよ。
ちょっとだけ、ぼーっとしちゃっただけです」
和也「まあ、それならいいんだが・・・。
とりあえず、これでも使え」
そう言うと、使っていないタオルを1枚差し出してくる和也。
セリナ「え・・・っと」
何故渡されるのか、理解出来ていないセリナ。
それに気づいた和也が言った。
和也「とりあえず、涙。
拭いた方がいいかと思って」
セリナ「えっ!?」
思わず自分の頬を手で触る。
すると冷たい水の感触が伝わってくる。
そして気づく。
自分が泣いていたことに。
和也からタオルを受け取ると、ゆっくりと涙を拭う。
そして理解する。
セリナ「(本当は、まだ寂しかったんですね)」
子供のころに死に別れた父親。
神王という立場もあり、遊んでもらった記憶も殆ど無い。
―――ああ、だからか。
きっとエリナちゃんも、和也くんの中に
『お父様』を見たんですね。
だから、あんなにも・・・。
その後、和也の鍛錬が終了するまでセリナは
ずっと無言で和也を見続けるのだった。
次の日。
勢い良く開けられたカーテンの向こうから、朝の光が差し込んでくる。
エリナ「んん・・・眩しい」
相変わらずセリナが容赦無く起こしてくる。
起きなければならないのは理解しているが
それと身体が動くかは、また別問題なわけで・・・。
そんなことを考えていると、またいつものように
布団を剥ぎ取られる。
エリナ「うぅ・・・ひどいよ、セリナちゃ~ん」
セリナ「そろそろ起きないと間に合わないよ、エリナちゃん」
エリナ「あと5分ぐらい大丈夫だよ~・・・」
セリナ「昨日と同じこと言ってないで、起きて下さい」
エリナ「・・・無理」
毎朝、同じようなやり取りが行われている気がする。
それでも起きられないものは起きられない。
セリナ「遅刻しても知りませんよ」
エリナ「はぁぁぁ・・・。
朝は、辛いなぁ」
強烈な眠気と戦いながら風呂に入る。
やはり朝風呂に入らないと、寝汗が気持ち悪い。
それに汗の臭いをさせたままなんて、乙女として論外だ。
何度か寝そうになりながらも
その誘惑に耐え、風呂から出て身支度を始める。
反対側では、セリナが既に身支度を始めていた。
いつもの朝の光景。
だが、今日は少し違うようだ。
セリナ「~♪」
セリナがいつもより上機嫌なのだ。
いつもより細かい部分を熱心に何度も確認している。
エリナ「・・・セリナちゃん」
セリナ「ん~。
な~に~?」
エリナ「何で今日は、そんなに気合入ってるの?」
セリナ「え? そ、そう?」
少し顔を赤くしながら答えるセリナを見て
何かあったなと確信するエリナ。
そして、その原因は恐らく―――
エリナ「・・・和也でしょ?」
私がそう言った瞬間、セリナちゃんは手に持っていた
髪用ブラシを落とし、それを拾おうとして
椅子から転げ落ちた。
セリナ「いったぁ~ぃ・・・」
エリナ「・・・大丈夫?」
セリナ「大丈夫じゃないですよ~・・・。
もう、エリナちゃんが変なこと言うからですよ」
エリナ「やっぱり昨日、何かあったんじゃないの?」
セリナ「それは秘密です」
制服を着て身だしなみを整え、2人で部屋を出る。
そして女子寮の玄関前で、見慣れた後ろ姿を見つけると
エリナは、元気良く走っていく。
そして―――
エリナ「和也っ!
おはよぅ!」
和也「ああ、おはよう。
とりあえず勢い良く後ろから飛びつくのは
何とかならんのか」
亜梨沙「ええ、ホントです。
兄さん、もっと言いましょう」
楽しそうに会話する3人を見て、ふと空を見上げるセリナ。
セリナ「(・・・前向きに、か。)」
視線を戻すと、いつの間にかエリナが亜梨沙に追い回されている。
それを苦笑しながら見つめる和也の隣に、私は並ぶ。
そして勇気を出して腕を絡める。
和也「・・・えっ!?」
セリナ「ど、どうしました?」
和也「い、いや。
普段そういうことやるのは、エリナだし
ちょっとビックリした」
セリナ「・・・たまには良いじゃないですか」
和也「ま、まあ・・・俺は別にいいんだが・・・」
そして2人は、学園に向けて歩き出す。
和也は、顔を赤くして照れている。
そんな和也くんを見て、何だか少しエリナちゃんの気持ちが
解ったような気がします。
セリナ「(私だって、ちょっとぐらい甘えても
・・・いいですよね?)」
空は、とても良い天気。
いつも通りの朝なのに今日は、いつもと違っていた。
世界は、見方を変えるだけで
こんなにも違った一面を見せてくれる。
そういうことですよね。
―――お父様。
第7章 変わり始めた白銀姫 ―完―
一体誰でしょう。
戦闘回を一旦休んで日常回を入れるなんて言った奴は・・・。
あ、俺か。
というわけで、たまには日常回を挟んでみました。
どうせ後半は、嫌でもバトル中心ですからね。
今回は、妹のせいでサブキャラ感が凄かった
姉回としてみました。
どうでしたでしょうか?
あまりダラダラとならない程度に
今後も進めていきたいと思っておりますので
よければ、お付き合い下さい。