Tiny Dungeon Another Story   作:のこのこ大王

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第8章 魔界の奇術師(トリックスター) ―前編―

 

 そこは学園内の訓練施設の1つ。

 広大な森の中で戦う、野外戦闘場所。

 

 ガンッ!!

 ズザァァァ!!

 

神族女生徒A「やらせ―――」

 

?「遅い」

 

 神族生徒が相手に向けて手を上げた瞬間

 その胸には、槍が刺さっていた。

 

 相手が槍を引き抜くと、血が吹き出る。

 しかしスグに判定ネックレスによる回復が起きる。

 

神族男生徒B「な・・・何なんだよっ!」

 

神族男生徒C「話と違うじゃないかっ!!」

 

 倒れた相手が戦闘不能であると確認した男は

 残っている神族2人に視線を向ける。

 既に周囲には、神族生徒が何人も倒れており

 全員戦闘不能状態である。

 

神族男生徒B「ひ、ひぃ!!」

 

神族男生徒C「バ、バカッ!

      逃げる奴があるかっ!!」

 

 恐怖から堪らず逃げ出す神族男生徒。

 取り残されたもう一人も、足が震えて満足に動けないようだ。

 

?「・・・くだらんな」

 

 男はそう言うと、槍を正面に構える。

 翼が開かれ、魔力が集まる。

 

?「スピードアップ・ファーストッ!!」

 

 加速魔法の発動と共に男の姿が消える。

 そして―――

 

神族男生徒C「ぶはっ!!」

 

 一瞬にして胸を貫かれた神族生徒は、血を噴出しながら倒れる。

 同時に判定ネックレスが『砕かれて』発動する。

 そう、男は相手が首から提げていた判定ネックレスを

 わざわざ狙って破壊したのだ。

 

神族男生徒B「はぁ、はぁ」

 

 ひたすら森の中を走り、神族生徒は後ろを振り返る。

 誰かが追ってくる気配も音もしないことを確認して

 その場で大きな木にもたれかかる。

 

神族男生徒B「ち、ちくしょう・・・。

      何でこんなことに・・・」 

 

 神族生徒がそう呟いた瞬間だった。

 

 ドスッ!!

 

 短いながらも大きな音。

 わずかに何かにめり込んだ音もした。

 神族生徒は、自身に違和感を感じて下を向く。

 すると―――

 

神族男生徒B「な、なんだよ・・・これ」

 

 自分の胸に突き刺さる槍。

 それは自身を貫通して後ろの木に刺さっている。

 何処から、何時これが飛んできたのかも解らない。

 

神族男生徒B「なんで・・・こんな目に・・・」

 

 その言葉を最後に、神族生徒は気を失う。

 判定ネックレスの効果で槍が自動的に引き抜かれて地面に落ちる。

 そして傷口を瞬時に塞ぐ。

 

?「話にならんな」

 

 突如現れた男は、自分の槍を拾うと

 不満げに気絶している相手を見下ろす。 

 

アレン「まだだ・・・。

    この程度では、あの男に勝てんっ!!」

 

 そう・・・この男は、闘技大会で和也に負けた1階級の槍使い。

 『魔槍』の名を継ぐ者、アレン=ディレイズ。

 

 あの戦い以降、『人族に負けた魔族』と見下されることが多くなった。

 しかし見下してきた相手は、全て実力で黙らせている。

 先ほども1階級の神族生徒達が、その話題で戦いを挑んできた。

 それもアレン1人相手に6人同時という普通ならありえない勝負。 

 だが、結果はこの通り。

 

 アレンは、ガッカリしていた。

 それは人族に負けたと言われることではない。

 挑んでくる相手が弱すぎるからだ。

 これでは、練習相手にもならない。

 

 自分が尊敬する『魔槍』と呼ばれた父に追いつくため

 毎日欠かさず修行してきたアレン。

 同年代では、それなりに強いという自信もあった。

 しかし、あの人族に負けた。

 

 まだ『漆黒の悪魔』や『白銀の女神』に負けたというなら

 納得出来なくもない。

 彼女らは、生まれ持った才能というべきか

 努力した程度では埋まらないほどの圧倒的な翼の枚数と魔力がある。

 

 しかし自分を倒したあの人族は、どうだ。

 魔法を一切使用していないにも関わらず、あの強さだった。

 

 一瞬にして冷静かつ的確な判断を行い

 剣術と体術を合わせた独特な戦い方で相手を翻弄。

 魔法無しで、あの瞬発力に一撃の重さ。

 正直、距離を詰められたら勝てる気がしない。

 

 藤堂 和也。

 あの人族は、自分よりも高みに居る。

 あの男に勝てないようでは、とても父には追いつけない。

 

アレン「俺は、必ず。

    そう・・・必ずあの人族を倒してみせる」

 

 俺は『魔槍』の名を継ぐ者。

 更なる高みを目指すっ!!

 

 

 

 同時刻―――

 学園訓練施設の1つ。

 地下迷宮内。

 

魔族女生徒B「痛い、痛い」

 

 細かな氷槍が何本も刺さり動かなくなった右腕を

 左腕で押さえながら逃げる魔族生徒。

 

魔族女生徒C「だ、だから言ったのよっ!

       戦わない方がいいってっ!」 

 

 傷を負いながら狭い迷宮内を

 ひたすら走って逃げる魔族生徒達。

 

 後ろから悲鳴が聞こえる。

 それは、また1人仲間が倒されたことを意味する。

 これでやられたのは6人。

 生き残りは、自分達2人だけとなる。

 

 元々、気に入らなかった。

 周囲の連中からは、お姫様扱いをされ

 常に他人を見下しているような態度。

 

 しかし闘技大会で、面白いものが見れた。

 よりにもよって人族なんかに無様に負けたのだ。

 あれは気分の良いものだった。

 

 そんな時、周りの奴らに誘われたのだ。

 『アイツをボロボロにしてやろう』と。

 多少実力があるかもしれないが、人族に負けたぐらいだし

 私達8人がかりなら楽勝だという話に乗ってしまった。

 その結果が今である。

 

魔族女生徒B「お、追いつかれるっ!?」

 

 逃げる生徒は、後ろを振り返り悲鳴を上げる。

 後ろの通路が自分達の方へと凍ってきているからだ。

 

 2人は必死になって走り、大きな広場に出る。

 そしてそこで『追い込まれた』ことを知る。

 

魔族女生徒C「そ・・・そんな」

 

 広場は、まるで氷の世界。

 全てが凍っており、氷で出来た木が何本も立っている。

 

魔族女生徒B「出口が・・・」

 

 咄嗟に入ってきた場所を見ると、既に通路は

 分厚い氷の壁に覆われていた。

 

?「ようこそ、ワタクシの世界へ」

 

 どこからともなく声が響いてくる。

 その声に魔族生徒は、短い悲鳴を上げる。

 

?「だから言いましたでしょう?

  ワタクシの世界からは逃げられないと」

 

魔族女生徒C「で、出てきなさいよっ!」

 

 その言葉に反応してか、奥からゆっくり人影が出てくる。

 

アクア「どうしたのかしら?

    さっきまであんなに余裕そうでしたのに」

 

 奥から出てきたのは『氷の騎士』アクア=レーベルト。

 闘技大会で亜梨沙に負けた名門のお嬢様だ。

 

魔族女生徒C「しつこく追いかけてきて・・・。

       わ、私達が何したって言うのよっ!」

 

アクア「あら、攻撃を仕掛けてきたのは

    アナタ方でしょう?」

 

魔族女生徒B「わ、私達は何もしてないわっ!」

 

アクア「8人がかりで挑んでおいて、今度は言い訳かしら?」

 

 ジリジリと近づくアクアに気持ちが耐え切れず

 魔族生徒は儀式兵装の剣を手にする。

 

魔族女生徒C「アンタなんてぇぇぇぇ!!」

 

アクア「パワー・アイス・サードッ!」

 

 ガキィィィンッ!!!

 

 金属音の中に僅かに肉の切れる音が混ざる。

 

魔族女生徒C「く・・・」

 

 儀式兵装の剣同士がぶつかるも、魔族生徒の儀式兵装が

 衝撃に耐え切れずに折れる。

 強化魔法の初級と上級の重ねがけに無強化で挑めば

 儀式兵装といえども耐え切れるわけがない。

 そしてアクアの一撃がそのまま魔族生徒に決まり

 判定ネックレスの発動と共に魔族生徒は倒れる。

 

 アクアは、儀式兵装をしまい

 ため息をつくと、迷宮の奥へと歩き出す。

 

魔族女生徒B「・・・」

 

 その隙だらけの後ろ姿に、魔族生徒は

 溜めていた魔力を使いファイア・アローを3本、出現させる。

 

 現在の魔法は、古代魔法と違い詠唱が必要ない簡易型だ。

 普段から叫んでいるのは、魔法制御や魔力を溜める際の

 集中力のためである。

 やろうと思えば無言で発動することは誰にでも可能だ。

 

魔族女生徒B「(い、今しかない・・・)」

 

 今度狙われるのは自分だ。

 しかし今なら相手は隙だらけ。

 このチャンスを逃せば確実に自分がやられるだろう。

 

 発動したファイア・アロー3本全てを、アクアに向けて発射する。

 こちらを振り向くことなく歩くアクアの背中に3本の火矢が

 吸い込まれるように飛んでいく。

 

 パリィンッ!!

 

魔族女生徒B「なっ!?」

 

 確かにアクアの背中に当たった火矢。

 しかし当たった瞬間、アクアが砕けた。

 

 ・・・いや、正確にはアクアの姿が

 反射して映った氷の壁が砕けたのだ。

 

アクア「・・・残念ですわ」

 

魔族女生徒B「―――ッ!?」

 

 後ろから聞こえた声に、思わず振り返ろうとするも

 その前に背中を大きく斬られ倒れる魔族生徒。

 判定ネックレスが砕け、瞬時に傷が消えていく。

 

アクア「・・・本当に、残念ですわ」

 

 8人がかりなら・・・と思っていたが

 結果は、見ての通りだ。

 

 いつもなら自信に繋がった勝利も

 今は、ただ虚しいだけだ。

 

アクア「風間 亜梨沙・・・」

 

 あれから色々と調べた。

 

 ―――風間 亜梨沙

 人界で最強と言われる風間という一族の流派。

 彼女は、その流派の師範代と呼ばれる立場。

 師範代というものが理解出来ないが、かなり高い位置の位らしい。

 一族の本家にして、天才と言われており

 将来の一族を担うと期待されている一人だという。

 

 それを聞いてからアクアは、訓練の量を増やしていた。

 何故なら風間 亜梨沙は、自分と同じような立場なのだと知ったからだ。

 

 自分とて神界で有名な名門の一族本家。

 そして一族の中でも天才と呼ばれている。

 

 自分と同じような時間を過ごして来たはずの相手に

 正直完敗といってもいいほどの負け方をした。

 彼女があれだけの強さを手に入れたのに

 自分がその強さを手に入れられないはずがない。

 

アクア「ワタクシは、必ずアナタを超えてみせますわ」

 

 決意を新たにアクアは歩き出す。

 周囲から時折聞こえてくる『人族に負けた神族』という

 不名誉も気にしない。

 それは近いうちに必ず、自分を褒め称える賛辞へと変わるのだから。

 

 

 

 

 

 

第8章 魔界の奇術師(トリックスター) ―前編―

 

 

 

 

 

 

 それぞれがそれぞれにリベンジを誓っていたころ

 この男も動き出していた。

 

ギル「これで準備は、整った。

   さて、どう反応してくれるかねぇ」

 

 普段、通ることがない通路を歩いているのは

 学園で、その名を知らない者は居ないと言われ

 注目されている生徒。

 

 学園内で有名な相手ばかりが対戦相手となる不運な男。

 しかし、その全てに勝利してきた実力者。

 

 その名は『ギル=グレフ』

 実力ある魔族として、種族を問わず人気のある生徒として

 そして女好きの軟派な男として・・・。

 様々な武勇伝を持つ男は、それでもやはり戦士だった。

 強い者と戦いたい。

 その強さが知りたい。

 そんな思いが今の彼を動かしていた。

 

 

 ギル=グレフが動いてから2日後―――

 

和也「え?

   決闘・・・ですか?」

 

 放課後に学園長室に呼び出された和也。

 室内にギル=グレフが居たことに驚くが

 話を聞かされて、更に驚く。

 

マリア「そうだ。

    そこのギル=グレフから正式に

    闘技場での決闘申請書が出された」

 

 そう言いながら申請書をひらひらとさせる学園長。

 

 決闘申請書。

 昔、貴族同士の喧嘩を何とかしようと出来た制度。

 管理出来ない場所で勝手に殺し合いをされるよりは

 管理し、訓練の1つとして処理してしまおうという大人の事情が

 含まれたもので、相手を指名して申請すると

 指名された相手は、受けるか断るかを選択出来る。

 

 当然断っても何の罰則もない。

 相手が断ったと話を広める行為も禁止されているからだ。

 しかしプライドの高い貴族達が断るわけがない。

 

 この制度は、少し前にあまりにも

 私的(くだらない理由)な決闘が増えすぎたために

 一時的に禁止された経緯がある。

 最近復活したが『学園長が正当と判断した理由に限る』という

 特別事項が追加されたため、現在は申請しても却下される割合が高く

 ほぼ忘れ去られている制度だ。

 

フィーネ「へぇ・・・。

     この私の前で堂々と和也に決闘・・・ねぇ」

 

亜梨沙「とりあえずこの場で殺ってしまいましょう。

    それが学園のためです」

 

ギル「ちょ!?

   ちょ~っと待ったぁぁぁぁ!!

   『漆黒の悪魔』を相手になんて無理無理。

   あと妹ちゃん、学園のためってどういうことだよ~!

   俺、そんな害虫みたいに言われるとショックだぜ~」

 

亜梨沙「ギル=グレフは、手当たり次第に女性に声をかけて回る

    ナンパ野郎で、特に何も知らない下級生に犠牲者が多いと

    聞いたことがあります。

    それに兄さんに決闘挑むとか、この場で殺されても

    文句言えないほどの大罪です」

 

フィーネ「そうよね、亜梨沙。

     この場で始末しても問題無いわよね。

     だって和也に挑むってことは、そういうことなんだもの」

 

 いきなり殺気を隠そうともせず儀式兵装を手に持った2人に

 ギルは、思わず後ろに下がる。

 

マリア「まあ、待て2人とも。

    とりあえず話ぐらいは聞いてやれ」

 

 ため息と共に声をかける学園長の言葉で

 ようやく話が進む。

 

ギル「この前の全階級合同実戦試験から、ずっと気になってたんだ。

   我らが魔界のお姫様に気に入られた人族の男。

   そしてこの前の闘技大会では、魔界で期待の新人だった

   アレン=ディレイズまで打ち破った。

   人族、それも儀式兵装を持っていない奴がだぜ?

   しかもあの時の戦い・・・。

   アレは、すっげ~やばかった。

   もう俺、鳥肌立っちゃったからね。

 

   だから俺も、アンタに興味が沸いた。

   一度でいい。

   この男と誰にも邪魔されずに1対1で正面から

   堂々と戦いたいってね」

 

 終始笑顔で話すギル。

 そこには何の嫌味もない。

 ただ、瞳をキラキラさせながら夢を語る子供のような

 そんな純粋な気持ちで溢れていた。

 

 彼の想いが伝わったのか、亜梨沙もフィーネも

 いつの間にか、手から儀式兵装が消えていた。

 

マリア「私も、この話を聞かされたら断る理由が正直無くてな。

    だから婿殿に決めてもらおうと呼んだ訳だよ。

 

    正直な話をすれば私は、見てみたい。

    婿殿の倒したアレン=ディレイズは、1階級ながら

    父親に似た非常に優秀な戦士だからな。

    それを破った実力者が、今度は更に上位の実力者と戦う。

    想像しただけで面白いじゃないか」

 

 学園長から期待の眼差しを向けられ

 思わず苦笑する。

 

フィーネ「別にいいんじゃない?

     受けてあげれば?」

 

 フィーネから意外な言葉が出てきて

 室内の全員が驚きの顔になる。

 

フィーネ「だって私が、一瞬で終わらせてあげるもの」

 

 笑顔でそう言い放ったフィーネに

 今度は室内の全員の思考が一瞬停止する。

 

マリア「お前・・・何を言ってるんだ?」

 

 一番初めに我に返った学園長が

 恐らく全員が言いたかった一言を代弁する。

 

フィーネ「えっ?」

 

マリア「いや、だからな。

    あくまでこの決闘は、婿殿とギル=グレフとの試合であってな

    お前は関係ないんだぞ?」

 

フィーネ「何言ってるのよ。

     私は、和也の魔法よ。

     言うなら儀式兵装みたいなもの。

     要するに装備品よ。

     和也が戦うなら一緒に決まってるじゃない」

 

 フィーネが当然だという顔で、そんなとんでも論理を展開する。

 もう室内の全員は、完全に呆れてしまう。

 

亜梨沙「兄さん・・・。

    本当にフィーネに何もしてないんでしょうね?

    夜中にベットに連れ込んだりしてませんよねっ!?」

 

ギル「いやぁ~・・・。

   ホント、羨ましいぐらいに愛されてるねぇ」

 

マリア「お前、ホントに婿殿のことになると

    途端に無茶苦茶になるねぇ」

 

 そんな周囲の反応に訳がわからないという感じのフィーネ。

 

和也「気持ちは、嬉しい。

   だけど俺は、自分の力だけでやってみたいんだ。

   だからお願いするよ。

   今回は、後ろで応援しててほしい。

   フィーネの応援があったら、きっと大丈夫だから」

 

 彼女の頭を撫でながらそう諭す。

 

フィーネ「・・・和也がそう言うなら」

 

 いかにも渋々といった感じではあるが納得するフィーネ。

 

和也「まあ、何だか色々あったが・・・。

   とりあえず挑戦を受けよう。

   よろしく頼む」

 

ギル「挑戦を受けてくれて感謝するぜ。

   こっちこそ、よろしく頼むわ」

 

 どちらともなく互いに手を出し、握手を交わす。

 

マリア「では、この勝負。

    学園長マリア=ゴアの名において決定とする。

    開始日等については、明日に告知させてもらう」

 

 その一言で今回は、解散となった。

 そしてその日中に、2人の決闘の話が学園中に伝わることになる。

 

 次の日。

 学園内は、決闘の話で盛り上がっていた。

 しかしやはりというべきか。

 人族がどれだけ立っていられるか?という話が中心だ。

 

ヴァイス「人族ごときが決闘などと笑わせてくれるものだ」

 

 教室に入るなり、予想通りヴァイスが絡んでくる。

 

ヴァイス「まあ、無様に負けることが貴様らにとっての

     義務のようなものだからな。

     せいぜい我々を楽しませるような滑稽で

     みっともない負け姿を見せてくれよ」

 

 最近絡んで来なかった分だろうか。

 いつも以上にしつこいため、ついに無言だったフィーネが

 割り込んでくる。

 

フィーネ「・・・それで。

     アナタは、結局何がしたいのかしら?

     まあどの道、私の前で

     それ以上言わない方がいいわよ」

 

ヴァイス「い、いえ。

     フィーネ様では無くてですね・・・」

 

フィーネ「それ以上、言わない方がいいわよ」

 

ヴァイス「し、失礼します」

 

 笑顔で放たれる殺気に怯えたヴァイスは

 話を切り上げ、素早く距離を取った。

 

亜梨沙「しかし、この学園には諜報機関でもあるのでしょうか?

    噂が広まるのが早すぎるでしょ」

 

 別に誰も話した訳でもないのに、どういうわけか

 決闘の話が広がってしまった。

 誰かが偶然話を聞いたとしても、丸1日も経たずにこれである。

 噂を広めた奴は、これが戦場なら

 さぞ優秀な諜報員として重宝されただろう。

 

 教室の奥では、ギルもクラスメイト達から質問攻めに遭っていた。

 見るからにうんざりといった表情だ。

 

 そして昼休み。

 いつもの場所で食事をしていても

 どこからともなく聞こえてくるのは、決闘の話題ばかりだ。

 

リピス「何だか面白いことになってるじゃないか」

 

エリナ「そうそう。

    こっちのクラスもその話ばっかりだし」

 

メリィ「学園は、この話題一色になっておりますから」

 

セリナ「実際の所は、どうなんですか?」

 

 他のメンバーも興味津々といった感じで

 まさに逃げ道など無かった。

 

和也「本当だよ。

   明日、闘技場でやることになった」

 

 早朝、学園長室に呼び出された俺とギルは

 明日の実技時間に決闘をやると聞かされた。

 次の実技時間は、二階級全体での合同訓練となっている。

 その訓練の開始前にやってしまうそうだ。

 そうなると観客は、二階級全員ということになる。

 

エリナ「そっか~。

    なら応援出来るね」

 

セリナ「頑張って下さいね」

 

リピス「ぜひとも、あのゴミを処理してもらいたいものだな」

 

和也「リピスだけ、物騒だな。

   というかギルと何かあったのか?」

 

リピス「知らん」

 

メリィ「以前に出会った時の話です。

    リピス様の胸を見て『惜しいなぁ』と発言され

    3階の窓からリピス様に投げ捨てられた

    ということがありました」

 

リピス「余計なことを言うな」

 

 顔を横に向けて拗ねるリピス。

 

亜梨沙「何の躊躇いも無く3階から投げたんですか。

    色々とさすがですね」

 

和也「むしろ、それでよくアイツは生きていたな」

 

エリナ「魔法でも使ったんじゃない?」

 

メリィ「それがですね。

    落下中に魔法を使って足場を確保し

    空中で受身を取って静止した瞬間に

    リピス様が追撃として教卓を上から投げつけて

    見事にクリーンヒット。

    確実に地面に叩き落したはずなのですが

    ほとんど負傷していませんでした」

 

セリナ「教卓まで落としちゃいましたか・・・」

 

和也「いやホント。

   よく生きてたな」

 

 ふとしたことからギル=グレフの話を聞けたが

 何だか少しだけ同情したくなるエピソードだった。

 

 

 その夜。

 いつもの場所に到着した時だった。

 

和也「―――ッ!」

 

 あたり一面に広がる戦闘の後。

 地面は抉れ、草むらは焼けていた。

 

ミリス「あら。

    こんな時間にどうしましたか?」

 

 そしてその場所には『紅の死神』が立っていた。

 

和也「俺は、いつもの訓練に来ただけだよ。

   いや、そんなことよりこれは―――」

 

ミリス「アナタには関係ありません」

 

 こちらの言葉を遮るように言い切るミリス。

 その顔には、いつもの余裕は無かった。

 

ミリス「残念ですが、今アナタの相手をしている暇がありません。

    ですから、ここで好きなだけ無駄な努力でもしていて下さい」

 

 そう言うとスグに暗闇に向かって飛び去るように姿を消した。

 

和也「いったい何なんだ?」

 

 何か言いたくないことなのだろうか?

 いや、それにしても・・・。

 

和也「これは、どうすりゃいいんだよ」

 

 いつもの場所が荒地のようになってしまっていた。

 結局訓練ではなく、場所の整地作業に

 時間を取られてしまうことになった。

 

 寮に帰って風呂に入り、部屋に帰ると

 そのままベットに倒れこむ。

 明日は、ギル=グレフとの決闘が待っている。

 そのせいか、この日は興奮してなかなか寝付けなかった。

 

 

 

 

 

 

第8章 魔界の奇術師(トリックスター) ―前編― ~完~

 

 

 

 

 

 

 





まず、後書きまで読んで頂き有難う御座います。

日常回にする予定もあったのですが
先にギルくんのフラグを回収しようかなと思い
今回は、ギル編にしました。

次回は、ついにギル=グレフと和也が対決します。
どんな戦いになるか・・・後編をお楽しみに!

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