Tiny Dungeon Another Story   作:のこのこ大王

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第8章 魔界の奇術師(トリックスター) ―後編―

 

 そして決戦の日が来た。

 場所は、闘技大会の会場ともなった闘技場。

 決闘に相応しい所ではある。

 

 俺は、装備を念入りに確認する。

 相手が相手なだけに、恐らく一瞬の隙が命取りになりかねない。

 普段とは違う完全装備に、亜梨沙が俺の本気度を理解したようで

 他のメンバーを遠ざけてくれていた。

 

 その遠ざけられたメンバー達は

 試合を見るために観客席で一番良い場所を占拠していた。

 

エリナ「大丈夫かなぁ」

 

リピス「今からそんなに心配してどうするんだ?」

 

セリナ「相手が相手ですからね。

    私も心配です」

 

亜梨沙「そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。

    兄さん、今回は初めから全力っぽいですから」

 

フィーネ「怪我しないかしら・・・」

 

リピス「いや、戦いなんだし怪我ぐらいするだろう」

 

亜梨沙「ホント、心配しすぎです」

 

エリナ「亜梨沙は、全然心配じゃないの?」

 

亜梨沙「私が一番、兄を見てきたんです。

    そんな私が、信じなくてどうするんですか」

 

フィーネ「そうよね。

     和也を信じて待つことも大事よね」

 

セリナ「では、勝ったときのお祝いを

    どこでするかでも決めましょうか?」

 

エリナ「お、いいね。

    それなら向こうの通りに新しくできたお店が

    結構美味しいらしいよ」

 

メリィ「では、私が先に予約をしておきましょう」

 

リピス「話がまとまったところで、丁度試合も始まるようだな」

 

 2人の戦士が登場すると同時に大きくなる歓声。

 その声の殆どは、人族に対する罵声とギルへの声援。

 だが、そんな中でも和也の耳には

 しっかりと彼女達の声が届いていた。

 

 

 

 

第8章 魔界の奇術師(トリックスター) ―後編―

 

 

 

 

 

 2人は、まずお互いに近づいて握手を交わす。

 

和也「まあ、お手柔らかに頼む」

 

ギル「それはこっちの台詞だぜ」

 

和也「凄い声援だな。

   人気があるとは聞いていたがこれほどとはな」

 

ギル「いやいや、こんなの誰だって同じだよ。

   この場に居るほとんどの奴らは

   『人族を倒す魔族』を見たいだけだって」

 

和也「そんなもんかね。

   ほら、女子からの黄色い声援なんかもあるじゃないか」

 

ギル「勘弁してくれよ。

   あんな適当な応援してる娘なんかより

   そっちのお姫様達の方が羨ましいぜ」

 

 そしてどちらともなく手を離す。

 

ギル「この前の全階級合同実戦試験は、ホント面白かった。

   だって何もかもが予想外もいいところ。

   無茶苦茶すぎて心の底から笑ったよ」

 

和也「ああ、それについては俺も同じだよ。

   まさかあんなことになるなんてな」

 

ギル「でも、だからこそ。

   今こうして俺達は、この場に居る」

 

和也「だな。

   前にも言ったが、こうなるような気はしていたよ」

 

ギル「ああ、俺もだ。

   今日この日が待ち遠しくて、夜はいつもより早く

   爆睡しちゃったよ」

 

和也「なら、よかったじゃないか。

   こっちは眠れなくて大変だったのに」

 

ギル「おいおい。

   それで実力が出なかったとか言わないでくれよ」

 

和也「当然だ。

   そんなことは無いから安心してくれ」

 

セオラ「では、そろそろ開始位置に移動しなさい」

 

 会話が少し切れた時を見計らって、先生が声をかけてきた。

 今回の試合の審判をしてくれるらしい。

 観客席には、ちゃっかり学園長も見える。

 

ギル「じゃあ、お互い全力でいこうぜ」

 

和也「ああ、悔いの無いような試合にしよう」

 

 その言葉を最後に、2人は離れる。

 

セオラ「それでは、これより2階級ギル=グレフと

    2階級藤堂 和也の決闘を行います。

    ルールは、規定通りの無制限1本勝負。

    相手を戦闘不能に追い込むか、降参宣言をさせれば勝ちですわ」

 

 先生の言葉に周囲は、一気に静まり返る。

 

 俺は、いつもの相棒である強襲型魔法剣『紅』を手に持つ。

 ギルもいつの間にか儀式兵装の双剣を手に持っている。

 

セオラ「2人とも、行きますわよ。

    ・・・では、はじめっ!!」

 

 開始宣言と共に盛大な歓声が起きる。

 相変わらず、うるさいかぎりだ。

 

 俺は、ゆっくりと紅を構える。

 対するギルも儀式兵装の双剣を構える。

 

 少しの間、お互い動かずに様子を見ていたが

 先に動いたのは、ギルだった。

 

ギル「ファイア・アロー!」

 

 前置き無しの魔法発動に少し驚くも

 俺は、それを左に軽く動いて避ける。

 しかし―――

 

和也「ッ!」

 

 火矢に紛れるように、そのスグ後ろを飛んでいた不可視の風の刃が

 急激に曲がり、こちらに飛んでくる。

 魔眼による魔力の流れと、一瞬だけ歪んだ空気で

 風の刃の存在と、その狙いに気づいて回避する。

 

ギル「やっぱりさすがだなっ!」

 

 風の刃を回避した瞬間、いつの間にか接近していたギルが

 そう声をかけながら双剣による連撃を仕掛けてくる。

 

 左剣の横薙ぎを後ろに下がって避けると

 半歩踏み込んだ右剣の振り下ろしが襲ってくる。

 それを横に軸をズラして回避する。

 しかし今度は、左剣が手首を返して横薙ぎを放ってくる。

 

 それを受け流すと、そのまま左腕の下から

 右剣による突きが、こちらの剣に向かって繰り出される。

 流れるような見事な連続攻撃。

 

 わざわざ剣を狙ってくるとは思っていなかったために

 剣を少し上に弾かれる。

 

 その隙を狙った左剣による上からの袈裟斬り。

 俺は、剣で防いでも連撃が止められないと考え

 恐れず1歩踏み込んで距離を詰める。

 

 振り下ろされる剣に対して前に出るという行動に

 さすがのギルも驚くが、そのまま剣を振り下ろす。

 だが俺は、左拳を下からアッパー気味に放つ。

 

ギル「ッ!」

 

 ギルの左剣を持つ手に直接撃ち込まれた和也の左拳。

 それにより袈裟斬りを止められただけでなく

 衝撃で左手に激痛が走る。

 

 痛みにより一瞬後ろに仰け反るも、右剣による横薙ぎで

 けん制を入れてくる。

 

 その横薙ぎを前のめりにしゃがんで回避すると

 そのままの勢いで立ち上がりながらタックルを入れる。

 

ギル「くそっ!!」

 

 タックルにより後ろに倒れそうになる姿勢を

 何とか維持するためには後ろに下がるしかない。

 そしてそれが解っているからこそ、そのまま更に前に出る和也。

 

 一瞬で距離を詰めた和也は、剣の柄で素早く

 ギルの胸に打撃を入れる。

 

 息が詰まるような一撃を受けながらも

 距離を取りたいギルは、蹴りを放つ。

 

 しかし和也は、それをギリギリで回避しながら

 左拳でギルの顔を殴る。

 

 ギルの顔が苦痛に歪むも、そのまま双剣を左右から

 クロスさせるように正面に振り下ろす。

 それを和也は、紅で受け止めるが

 いつの間にか左剣に風・右剣に火属性の強化魔法が

 かかっていたようで、後ろに吹き飛ばされるように押し返される。

 

ギル「―――ッ!?」

 

 ようやく距離が取れたと気を抜きかけた瞬間だった。

 小型のナイフのようなものが3本、飛んできていたことに

 気づいてギルは、咄嗟に横に大きく跳躍して回避する。

 

 しかし着地した瞬間、今度は魔法剣の刀身部分が飛んでくる。

 それを剣で弾こうとした時だった。

 

和也「ブレイク!」

 

 直前で爆発し、煙が視界を奪う。

 その瞬間にギルは、気づくことになる。

 これが狙いだったのだと。

 

ギル「ウインドシールド!」

 

 煙で視界が無い状態で更にナイフのようなものが何本か

 飛んできたため、全方位に風の盾を張る。

 おかげで飛んできていたナイフを全て防ぐことに成功する。

 

 周りを覆っていた煙もスグに晴れる。

 だが、その時だった。

 

和也「はぁぁぁぁっ!!」

 

 上に跳躍していた和也が、落下しながらの振り下ろし斬りを

 仕掛けてくる。

 

 それをそのまま風の盾で受け止めようとするが・・・

 

 バリバチッッ!! 

 

ギル「ちっ!」

 

 紅は、通常よりも大きな大剣サイズになっており

 風の盾との魔力衝突をするもあっさりと砕く。

 

 ギルは、双剣で紅を受け止めるが

 物理的な勢いに押されて後ろに下げられる。

 

 後ろに下がった足が、何かに当たった感触がして

 ギルは、足元をチラっと確認する。

 それは地面に刺さっていた、和也のナイフだった。

 それも1本ではなく、何本も周囲に落ちている。

 

 得体の知れない違和感を感じたギルが

 咄嗟に跳躍しようとした瞬間だった。

 

和也「バーストッ!!」

 

ギル「ッ!?」

 

 和也の叫び声と共に、そのナイフ達が一斉に爆発した。

 爆風が駆け抜けた後に発生した煙が周囲を覆う。

 

 その瞬間だった。

 

和也「―――ッ!?」

 

 それは一瞬だった。

 ほんの少し気を抜いた瞬間を正確に狙った一撃。

 

 煙の中から高まる魔力の流れに気づくのが遅れたこともだが

 気を抜いて身体が咄嗟に動けない状態を狙ったかのように

 速度を重視した超高速の風の刃が和也を襲う。

 

 何とか横に身体を捻るも、避けきれず

 腕を軽くかすめるように切られる。

 傷口から血が少し滲み出す。

 

 そして風の刃が駆け抜けたことによる余波で

 周囲の煙が吹き飛ばされる。

 

 すると、ギルの居た場所には周囲を囲む大きな炎盾。

 あの状況で咄嗟に反応出来る腕は、さすがは学園屈指の実力者。

 しかしさすがに無傷とは行かなかったようで

 炎盾が消え、ギルが姿を現すと彼の左足には

 火傷の痕と少量の出血があった。

 

ギル「・・・いやぁ。

   マジックナイフとは、やってくれるねぇ」

 

 マジックナイフ―――

 魔法アイテムの1つで、クナイのように刃と持ち手のみという

 金属製の投擲ナイフ。

 中央に付いているクリスタル状の石に魔力が込められており

 事前に指定した使用者の言葉に反応して

 魔力爆発を起こすように出来ている。

 

 威力は、一般的なアロー系ぐらいの威力があるが

 魔法が使える者からすれば、そんなものを持たなくても

 魔法を直接使えばいいだけの話であり

 またナイフそのものも使い捨てだが、そこそこの値段であり

 儀式兵装が無かった時代は重宝されたが現在では

 お金に余裕のある一部が趣味で買うような

 骨董品の扱いとなっている武器である。

 

 ちなみに学園では、基本的に持ち込み装備に制限は無い。

 よほど危ないものや、禁止されているもの以外は

 戦闘中に使用しても構わないことになっている。

 

 戦場では、相手が何をしてくるか解らない。

 特に補助として魔法アイテムを使用することは

 大戦争中でも一般的にあった。

 だから基本的に、こういう装備を使うことは反則ではない。

 

 ただ、こういうものを『小細工だ』として嫌う傾向が強い

 学園内において使う者は、極めて少ない。

 

和也「それ、結構良い値段してるんだぜ。

   惜しみなく使ったんだから、感謝して欲しいもんだな」

 

ギル「ははっ。

   数もあったから、確かに良い値段になりそうだ」

 

和也「まったく。

   これでまた、しばらく節約生活になりそうだよ」

 

ギル「そいつは、悪いことした。

   だが、それだけ全力で来てくれて嬉しいぜ」

 

和也「この学園屈指の実力者が相手なんだ。

   装備が悪くて負けましたなんて、言えないだろ?」

 

ギル「学園屈指なんて、最初に誰が言い出したんだろうな」

 

和也「それこそ学園屈指とか言われてる連中を

   全部倒したからだろ」

 

 まるで休み時間に友人同士が会話をしてるかのような風景。

 しかし2人は、会話しながらも負傷箇所を確認している。

 

 どれだけ力が入るのか。

 痛みは、どれぐらいか。

 どれぐらいの無理に耐えられるのか。

 

 その姿は、和やかな会話と真逆だった。 

 

ギル「さってと。

   じゃあ続けるぜ」

 

和也「ああ。

   そろそろ手加減無しでやらないと

   遠慮無く潰すぞ?」

 

 和也の言葉に不敵な笑みを浮かべたギルが

 早々に攻撃を仕掛けてくる。

 

ギル「面白れぇっ!!」

 

 そんな言葉と共に走りこんでくる。

 トップスピードで迫るギルの後ろが

 僅かだか揺らぐ。

 

 そのままの勢いで突っ込んできたギルは、上に跳躍する。

 すると後ろに控えていた風の刃が先にこちらに攻撃を仕掛けてくる。

 

和也「魔眼・完全開放」

 

 魔眼を開放し、景色の中に魔力という名の『色彩』を混ぜる。

 

 風の刃の軌道を完全に見切った和也は、最小限の動きで避ける。

 その直後、上から降ってくるように落下しながらギルが迫る。

 

ギル「パワー・ダブルッ!!」

 

 火と風の2種類が使えるギル=グレフならではの

 2種同時強化で、双剣に火と風の強化魔法をかける。

 

 そしてそのまま双剣を同時に振り下ろす。

 しかし―――

 

ギル「ッ!」

 

 勢いのついた双剣の一撃を最小限の動きだけで

 綺麗に回避する和也。

 

 回避した和也は、身体を回転させて遠心力をつけながら

 剣を横薙ぎに振る。 

 それをギルは、剣で受け止めようとするが―――

 

ギル「なっ!?」

 

 和也の横薙ぎは、紅の刀身部分のないフェイクだった。

 その回転した勢いで本命の蹴りが

 ギルの脇腹を捉える。

 

 カウンター気味に入った蹴りに、思わず胃の中身が

 飛び出そうになるも、何とか耐え切りながら

 後ろに下がろうとするが、和也の追撃が来る。

 

ギル「ウインドシールドッ!」

 

 魔法による盾で、一時的に時間を稼ぐことを選択するギル。

 そのまま体勢を立て直そうをするが・・・

 

 バシュッ!!

 

 和也の一撃が、風盾の魔力結合を切り裂き

 盾が一瞬で消える。

 

 予想外の出来事にギルは

 慌てて後ろに下がるも、その動きに和也が追いすがる。

 

ギル「ファイア・アローッ!!」

 

 けん制にと3本の矢を放つが、それを全てギリギリ器用に

 回避しながら迫ってくる和也。

 

 火矢に紛れて足元からいつの間にか迫っていた不可視の風の刃も

 まるで知っていたかのように飛び越える。

 

 そしてその跳躍のままギルに迫った和也は

 そのまま空中から剣を振り下ろす。

 

 それを振り向いて双剣で受け止めるギル。

 その瞬間、和也が鍔競りを嫌うように強引に剣を弾く。

 体勢を崩しながらも、横へ逃げるように跳躍する和也。

 

 すると和也が居た場所の地面が豪快な音と共に突然抉れる。

 先ほどの風の刃を誘導操作していたギルが

 和也の背後から迫るように仕向けていた一撃だ。

 

 全ての攻撃を回避しながら戦う和也を見て

 ギルは、驚きを隠せない。

 そう、まるで全てを予知でもしているかのような動き。

 これだけのことが出来る奴が、この学園に

 はたしてどれだけ居るだろうか。

 いや、四界を探しても数えるほどしか居ないだろう。

 

 何せ魔法が、攻撃が、まったく当たらないのだ。

 それどころか、全て綺麗にカウンターを取られている。

 どういう理屈か解らないが、これを攻略しなければ

 自分に勝ち目は、まず無い。

 

 ギルは、瞬時に考え始める。

 この試合が始まってから今までの流れを全て。

 そして、ひとつの結論を得る。

 

ギル「(なるほど・・・やってみる価値は、ありそうだな)」

 

 唯一の糸口に全てを賭け、双剣を構え直すギル。

 その行動に和也は、思わず眉を顰(ひそ)める。

 

 ギルは、確かに双剣を構えている。

 ただ、さっきまで使用していた強化魔法を全て切っていた。

 今の状況で切る理由が無いだけに、何かあるのではと

 警戒心が刺激される。

 

 無言で走り出したギルが

 軽く跳躍して空中から双剣を振り下ろしてくる。

 

 それを横にステップを踏んで回避すると

 側面から横薙ぎを放つ。

 だがギルは、それを左剣で受け止めると

 空いている右剣から突きが繰り出す。

 

 その突きを横薙ぎで払おうとした和也だったが

 途中で止まった突きのフェイントにやられる。

 

 そのまま剣を立てて『紅』を抑えるように鍔競り状態に

 持っていったギルは、突然翼を広げて魔力を一気にチャージし始める。

 接近する2人の足元に魔方陣が突如出現する。

 

 出現した魔法陣の魔力の流れから

 ギルが何をしようとしているのか察した和也は

 全力で離脱しようとするが、ギルがこれを許さない。

 

ギル「おいおい。

   どこに行こうってんだい?」

 

和也「―――お前ッ!!」

 

ギル「やっぱり、か。

   アンタ・・・どうやってるのか知らないが

   魔法が見切れるんだろ?」

 

和也「・・・」

 

ギル「まあ、それならそれで構わないさ。

   今から俺との楽しい我慢比べに付き合って貰うだけだからよっ!!」

 

 そして足元の魔方陣から大量の雷が放たれる。

 

ギル「ライトニング・ボルトッッ!!!」

 

和也「ぐぁぁぁぁっ!!」

 

 それは、ギルが限られた時間で閃いた作戦。

 攻撃が、魔法が当てられないのなら

 避けられない状態で撃てばいい。

 

ギル「ぐぉぉぉぉっ!!」

 

 ゼロ距離からの最大魔力による雷撃。

 それは自身にもダメージが及ぶ捨て身の一撃。

 

 闘技場の中央に巨大な雷の柱が空に向かって立ち上る。

 その巨大さに誰もが圧倒される。

 それは、まるでギル=グレフの気迫を表しているようだった。

 

フィーネ「和也ぁぁぁぁ!!」

 

 試合を観戦していたフィーネは

 思わず叫び声をあげる。

 

 他のお姫様達は

 ギルの捨て身の一撃に・・・。

 その気迫に声すら出せずに見つめているだけだった。

 

 巨大な雷は、その放電を終える合図のように

 最後は大爆発によって終わった。

 

 爆発による煙が周囲を覆う。

 

マリア「よせっ!!

    まだ試合は終わってないぞっ!!」

 

フィーネ「放してぇっ!!

     和也がっ!! 和也がっ!!」

 

 観客席から思わず飛び出そうとするフィーネを

 後ろから抑える学園長。

 

 今にも学園長を振り切って飛び出しそうな勢いのフィーネ。

 だが、彼女の前に突如として剣が行く手を阻むように出てくる。

 それは・・・セリナの儀式兵装だった。

 

セリナ「和也くんなら、きっと大丈夫です。

    だから私達は信じて待ちましょう」

 

エリナ「・・・うん、そうだよね。

    きっと大丈夫だよ、和也なら」

 

亜梨沙「兄さんは、フィーネが守らなければならないほど

    弱い人じゃありません。

    私の兄さんなんです。

    というか、あの人がアレぐらいで負けることはありません」

 

リピス「まあ、そう言う訳だ。

    和也を信じているのなら、慌てる必要などない。

    ただ、しっかりその戦いを見ておけばいい」

 

 他のメンバーが、和也への信頼を口にする。

 それを聞いたフィーネは、大人しく観客席へと戻る。

 

フィーネ「そう、よね。

     和也は、強い。

     ・・・そうよ。

     だってあの日、私を救ってくれたのだから。

     あの時の強さを持つ和也が、負けるはずないものね」

 

マリア「まったく。

    本当にお前は、婿殿の話になると滅茶苦茶だな」 

 

 そう言いながらも、娘の成長が嬉しい学園長。

 そして彼女達の話が決着したころ、闘技場を覆っていた煙が晴れる。

 

 まず見えたのは、ギル=グレフ。

 ある程度は調整出来る立場だったとはいえ

 全身にダメージを負い、立っているものの

 少しフラついている。

 

 対して和也は―――

 

和也「くっ・・・」

 

 全身ボロボロになりながらも、ヨロヨロと立ち上がっている。

 かなりのダメージを負っているのが見た目からでもハッキリとわかる。

 

 立ち上がる和也を見て、一瞬だけ驚くギルだが

 スグに双剣を構える。

 

 その決意に満ちた目が語る。

 『もう一度、捨て身の一撃を仕掛ける』と。

 

 その目を見た和也は、突然笑い出す。

 

和也「あっはははははっ!!」

 

ギル「おや、何か面白いことでもあったかい?」

 

和也「ああ。

   まさか、こんなにも追い詰められるとはな」

 

ギル「そりゃ俺だって全力だからねぇ。

   ・・・次で決めてやるよ」

 

和也「ああ、そうだな。

   次で決めよう」

 

 その言葉と共に和也は、剣を構えた。

 剣を自分の胸の前に垂直に構える。

 

和也「『この力を、守りたい全てのために』」 

 

 その構え、その姿にセリナとエリナは

 胸が締め付けられるような想いを抱く。

 

 構えを解いた和也は、一度深呼吸をする。

 そして―――

 

和也「最強を掲げる風間流。

   風間の姓も、魔法も持たぬ異端なれど

   手に持つ剣は、風間の技なり。

 

   我が道を阻む者は、人であれ、鬼であれ、神であれ

   全て構わず斬り捨てるっ!

   流派師範の称号を背負う一人としてっ!

   確実に・・・お前を倒すっ!!」 

 

 この言葉に、恐らく一番驚いたのは亜梨沙だった。

 

亜梨沙「兄さんが・・・。

    まともに『名乗る』ところなんて

    初めて、見ます・・・」

 

 誰に言う訳でもなく、自然にそんな独り言を呟く亜梨沙。

 

 そして和也から放たれる殺気という名の気迫に

 ギルは、興奮を抑えきれずに笑みがこぼれる。

 

ギル「最高だっ!!

   最高だぜっ!!!」

 

 ゆっくりと、だが確実に速度を上げながら迫ってくる和也に

 相打ちを覚悟したギルの捨て身の構えが立ち塞がる。

 

 そして紅の横薙ぎがギルに迫る。

 だが片方の剣で受け止めるギル。

 その一撃の軽さに思わず反対側をもう片方の剣で防御する。

 すると・・・

 

 ガキィィンッ!!!

 

 なんと黒閃刀・鬼影による一撃だった。

 突然、二刀を使う和也にギルは驚くも

 和也の攻撃を同じく二刀を使い防いでいく。

 

 そして二刀ともを押さえつけ、捨て身の一撃に

 持っていこうとした、まさにその時だった。

 

 捨て身技を警戒してか少しだけ後ろに下がった和也が

 いきなり紅を投げてくる。

 

 刀身ではなく剣そのものを投げてきたことに驚くも

 その攻撃を剣で弾く。

 

 すると、その隙を狙ってか

 今度は、鬼影が鋭い角度で飛んでくる。

 

 何とかそれすら回避した瞬間だった。

 

 ・・・それは、本当に刹那の一瞬だった。

 

 右腕、左手首、右太腿、左膝、鳩尾、喉。

 一瞬で、この6箇所に強烈な衝撃が入ったと思ったら

 いつもと違う景色が広がる。

 

ギル「(ああ、上に地面があるってことは

    逆さになってるのか)」

 

 ぼんやりと、そう認識するかしないか。

 そんな一瞬に全てが決まる。

 

 

 

和也「風間流『城落(しろおと)し』」

 

 

 

 その言葉と共に、いつの間にか逆さになり

 2mほど宙に浮いていたギルは

 渾身の力で地面に叩きつけられる。

 

 あまりの衝撃に、地面の小さい石が砕け

 頭から落下したギルの頭部から大量の血が吹き出る。

 

 そしてゆっくりと地面に倒れるギル=グレフ。

 判定ネックレスが発動して瞬時に傷を癒す。

 

セオラ「し、勝負ありっ!!

    しょ・・勝者、藤堂 和也っ!!」

 

 それは、誰もが信じられない結果だった。

 

 魔法が使えない、ただの人族。

 それが学園屈指の実力者と言われた男を倒したのだ。

 

 誰もが呆然としていた。

 

 この沈黙を破ったのは、やはりというべきか。

 彼女達だった。

 

お姫様達「和也ぁぁぁぁ!!」

 

 観客席から飛び出し、我先にと和也の下へと走る。

 

フィーネ「和也っ!!」

 

 泣き顔で和也の胸に飛び込んだのは、フィーネだった。

 

フィーネ「心配したんだからぁぁぁ!!」

 

和也「・・・すまない。

   でも、言っただろ。

   フィーネの応援があれば大丈夫だって」

 

 そう言いながら彼女の頭を撫でようとしたが・・・

 

エリナ「和也っ!」

 

セリナ「和也くんっ!」

 

亜梨沙「兄さんっ!」

 

 次々と飛びつかれて、すっかり身動きが取れなくなってしまった。

 

リピス「・・・和也。

    素晴らしい戦いだった。

    見事だったよ」

 

和也「何だかリピスにそこまで褒められると

   少し怖い気もするな」

 

リピス「・・・バカもの。

    素直に喜べ」

 

和也「・・・ありがとう」

 

 何とか片手を伸ばしてリピスの頭を撫でる。

 普段なら嫌がるリピスも、今回は大人しく撫でられている。

 

ギル「あ~あ。

   負けちまったよ~」

 

 突然の声に、皆も驚く。

 

 地面に倒れたままのギルが判定ネックレスのおかげで

 意識を取り戻したのだ。

 

ギル「あ~、頭が割れるように痛いわ」

 

和也「大丈夫か?

   まあ、半分ホントにそうなってるわけだが。」

 

ギル「マジかっ!

   判定ネックレスに感謝だな」

 

 そう言いながらも頭を抑えつつ立ち上がる。

 

ギル「いや~、アレだ。

   負けたのに、全然悔しくないわ。

   むしろ清々しい」

 

和也「俺も、本当の意味での全力なんて

   出したのは久々だった。

   今回は、色々勉強させられたよ。」

 

ギル「そう言って貰えると助かる」

 

 そしてお互いにどちらともなく手を差し出す。

 

和也「ギル=グレフ。

   お前の、その気高い精神と覚悟。

   そしてその強さに敬意を払う」

 

ギル「藤堂 和也。

   改めて、今回の決闘を受けてくれて感謝する。

   アンタの強さは、俺にとって新たな目標だ。

   必ず超えてみせるぜっ!」

 

 2人が握手をした瞬間だった。

 周囲から起こる拍手。

 

 それは、竜族達だけではなかった。

 ごく一部ではあるが、その実力を認めた

 魔族や神族の実力者達も、軽くではあるが

 手を叩いていた。

 

 しかしその拍手は、2人の健闘を称えたものではなく

 2人を実力ある者として、またはライバルとして

 認識することを意味する拍手だった。 

 

ミリス「ふふっ。

    そうでなくては、面白くありません。

    貴方を殺すのは、この私なんですからっ☆」

 

 こうして、落ちこぼれだと認識されていた人族は

 壮絶な努力の末に、学園内での地位を上げることになる。

 

 そしてそれは、新たな火種でもあるのだった。

 

 

 決闘終了後―――

 

 通常の二階級合同の訓練が予定通り開始された。

 

 先ほどの決闘にあてられてか、気迫に満ちた生徒が多い。

 当然、先ほど戦っていた2人と自分も戦いたいと

 対戦希望が殺到するが・・・。

 

和也「・・・ゴメン、無理」

 

ギル「・・・俺、もう動けねぇ」

 

 全力を出し切った2人は、糸の切れた人形のように

 まったく動けないほど疲労していた。

 

セオラ「・・・では、見学っと。

    単位も取れませんから、頑張って挽回するように」

 

和也「え゛っ!?」

 

ギル「ウソでしょ!?」

 

セオラ「授業を休むのですから、当然でしょう。

    決闘は、あくまで『個人的な戦い』であって

    授業ではありませんからね。」

 

 さならが死刑宣告である。

 

和也「ギ~ル~」

 

ギル「俺に言うなよぉ~」

 

 結局、単位を1つ落すことになり

 その挽回に3週間もかかることになった。

 

 

 

 

 

 

 

第8章 魔界の奇術師(トリックスター) ―後編― 完

 

 

 

 

 





まず、最後まで読んで頂きありがとうございます。
いかがでしたでしょうか?

何とか予定通りのペースでいけました。
その点は、奇跡だ!と喜んでいる私です。

そろそろシリアスな展開も混ぜようかなと思いながらも
まだまだ立てたフラグの回収が追いつかないので
どうしようかなと考え中です。

まだまだ続きます!
先は長いです!
頑張りますので、よろしくお願いします!
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