Tiny Dungeon Another Story   作:のこのこ大王

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第1章 動き出した運命 ―後編―

 そしてその日がやってきた。

 雲一つない晴天。

 周りは喧騒と熱気に包まれていた。

 そう、今日は・・・

 

和也「ついに今日が来たか」

 

亜梨沙「相変わらずのお祭り状態ですね」

 

 全階級合同実戦試験 前期の開催日である。

 会場となる地下ダンジョンは闘技場から入るため、闘技場内に

 全階級が集まることになり、必然としてこの騒ぎである。

 

リピス「おや、和也達じゃないか。」

 

 少しでもブラつけば迷子確定というほどの人数の中から

 見知った顔が見える。

 

和也「お、リピスじゃないか」

 

亜梨沙「おはようございます、リピス」

 

リピス「2人とも、こんな後ろの方でいいのか?」

 

 俺達が居るのはダンジョン入り口からかなり離れた場所だ。

 正直スタートダッシュ狙いなら、まずありえない地点。

 

和也「スタートダッシュに巻き込まれるのだけは、ごめんだね。」

 

リピス「確かに、あれはもう無茶苦茶だからな。」

 

 開始直後は、やはり一番を狙って走るパーティーで

 入り口が大変なことになる。

 そして恒例のように、そのトラブルが発端となって入り口付近で

 戦闘が始まる。

 戦闘が邪魔で入れないパーティー、それらを押し退けようと

 介入するパーティーなども出始めて収集が着かなくなるのが

 開始直後のお約束だ。

 特に俺達人族がそんな中に入ってしまったら、最優先で狙われかねない。

 なので順位より完走を、ポイント確保よりも生存を優先しなければ

 単位は難しくなってしまう。

 必然としてあえて後ろからスタートするようになったという経緯がある。

 

亜梨沙「リピスこそ、前じゃなくていいんですか?」

 

 リピスのパーティーは竜族のみで構成されたチームで

 2階級の竜族の中でも実力者が揃っている。

 正直リピスのチームなら正面突破で

 あの開始直後のカオス空間を抜けれるだろう。

 何せ、毎回他のパーティーを攻撃出来るチーム戦では

 目に付いたパーティーを全て潰しながら前進するという

 豪快な戦い方をしている。

 竜界の姫とその親衛隊による部隊『チーム・竜姫』と呼ばれ

 このチームに狙われて撃破されなかったパーティーは

 今のところセリナとエリナの神族姉妹のチームだけだと言われている。

 決して出会いたくないチームの1つだ。

 

リピス「う~ん。 まあ出来ないこともないんだが・・・。」

 

 少し考えるように首を傾げたあと

 

リピス「後ろから追いかけるのも、愉しいじゃないか」

 

 不敵な笑みを浮かべながらとんでもないことを言うリピス。

 さすが『チーム・竜姫』のリーダーという発言である。

 

亜梨沙「まあ、私達を見つけた場合はスルーしてください。」

 

和也「それはもちろん頼んでおくよ」

 

リピス「それは出来ない相談だ。

    むしろ見つけたら全力で追いかけてやるから

    覚悟しておくんだな。」

 

 容赦の無い言葉を言い出したリピスに反論しようとしたところで

 学園長の挨拶が始まった。

 

マリア「学園長のマリア=ゴアだ。

    長々と話をするつもりはない。

    今更ルール説明も必要ないだろうし挨拶は、短くしておく。

 

    生徒諸君! 戦争にルールなどない!

    だが当然、守るべき良識というものもまた存在する!

    必要最小限の良識さえ理解し、遵守しさえすれば

    それ以外のあらゆる勝つため、生き残るための行動を

    その全てを評価対象とし判定する!

    諸君らはただ、持てる全ての力を出し切って勝ち残れ! 以上だ!

 

    では、これより

    全階級合同実戦試験 前期を開始する!」

 

 非常に簡潔で力強い開始宣言と共に一斉に生徒達が動き出す。

 開始10秒も経たずに早速、魔法も飛び交い始める。

 

リピス「うむ、ではダンジョン内で会おう」

 

亜梨沙「敵には会いたくないので、遠慮しておきます」

 

 リピスが自分のチームに合流しにいくのを確認して

 俺達もゆっくりと動き出した。

 

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 試験開始から1時間ほど経った。

 俺は序盤のチェックポイントに設置された端末で情報を確認していた。

 

亜梨沙「やっぱり石は無いですね」

 

和也「まあ、ゆっくりと進んでるからな」

 

 ダンジョン試験は、各所に設置された魔法石を回収しながら

 ゴール地点を目指すもので

 主なポイントは

 

 ダンジョンクリア時間

 魔法石の所持数

 パーティーの損耗率

 

 この3つが重要となってくる。

 クリア時間は、ゴール地点に到達した時間が早ければ早いほど

 ボーナスポイントとして加算される。

 魔法石は各チェックポイントに設置されている箱から

 1チーム1つづつ持っていくことが出来る。

 多くのチェックポイントで回収すればそれだけ有利になるが

 この魔法石には仕掛けがある。

 一定以上の数を持ってしまうと、チェックポイントの端末にある

 迷宮地図に自分達の位置が表示されてしまうというおまけがついている。

 

 しかもパーティー情報まで確認出来るようになってしまうので

 狙われる確率が非常に高くなってしまう。

 そして最後のパーティー損耗率は、チーム内の生存者の数や

 怪我の有無などが評価対象となる。

 2人チームの俺達は、2人とも怪我無くクリア出来れば損耗なしで

 高得点になるが2人のため、戦闘は非常に不利である。

 

 逆に5人パーティーだと戦闘は有利でも

 誰か1人でも脱落もしくは怪我をするだけで

 評価ポイントは下がってしまう。

 その他の戦闘回数または戦闘回避行動や同士討ちを狙うなどの

 高度な戦術ももちろん評価されるが

 上記3つに比べると低いと言わざるおえない。

 

 無理して全滅するリスクよりも、地道に戦闘回避しながら

 生き残って完走する方が総合的に点数は高いので

 俺達2人の方針は生存することを重視している。

 戦闘を極力回避している俺達だと

 どうしてもチェックポイントに魔法石が残ってるような

 タイミングでたどり着けない。

 

和也「しかし今回は荒れてるなぁ」

 

 端末を確認しながら、疑問に思ったことを口にする。

 

亜梨沙「残りパーティー数が、結構減りましたね」

 

 この端末は、ダンジョン内のパーティーの数と

 ダンジョン地図が表示される。

 現在、まだ魔法石を持ちすぎているチームは無いが

 開始してこの時間にしては、脱落チームの多さが目立つ。

 

和也「この時間ならまだお互いに、けん制し合って

   パーティー戦闘なんて、ほとんど無いはずなんだがな」

 

亜梨沙「まあ、潰し合ってくれているなら好都合です」

 

 端末を前に話し合っていると、遠くから気配を感じる。

 直後、2人とも壁際に隠れて武器を手に持つ。

 

 徐々に近くなる気配と複数の足音。

 間違いなく他パーティーだ。

 数は、おそらく6人。

 非常に不利だが、状況的にもう逃げるにしても手遅れだ。

 覚悟を決めて先手を取るために神経を尖らせる。

 

?「おっと、警戒しないでくれ。

  別に戦う気ないからさ~」

 

 何とも気楽な声と共に一人の男が姿を現した。

 

和也「・・・ギル=グレフか」

 

 ギル=グレフは、俺達と同じクラスの魔族だ。

 陽気で明るい性格で、何より種族による差別意識が無いため

 同族から異端の目で見られることもあるが

 それ以上に彼の性格ゆえか種族に関係なく人気が高い。

 四翼持ちで、火と風の二属性を扱えてオリジナル魔法まで持っている。

 魔族特有のゴリ押しな戦い方をせず、神族のような技術を駆使した

 心理戦を得意としており、去年の闘技大会では

 3階級の魔族を倒しているため

 現在フォースで名前の挙がる実力者の1人だ。

 

ギル「お、名前を覚えてくれていたとは光栄だね」

 

亜梨沙「で、何の用ですか?」

 

ギル「キミに会いたくて・・・さ」

 

 気障な台詞と共に亜梨沙の手を握ぎろうとして

 亜梨沙に思いっきり蹴り飛ばされる。

 

亜梨沙「勝手に手を握ろうとしないで下さい、ぶっちゃけキモいです」

 

ギル「ちょ・・・熱烈歓迎、すぎ・・・るん、ですけど・・・」

 

和也「いや、お前。

   ホントに何しに来たんだよ。」

 

ギル「いや~なに。

   ちょっと端末俺にも見せて~ってだけなんだけどね~」

 

 蹴り飛ばされた痛みを堪えながらも陽気に答えるギル。

 

亜梨沙「じゃあ、奥に居る5人は何ですか。

    伏兵じゃないんですか」

 

ギル「いやいや、他の連中は人族ってだけで嫌ってるでしょ?

   そんな状態で一緒に来ちゃったら戦闘になっちゃうじゃない。

   俺、そういうめんどくさいの嫌いなんだよねぇ」

 

 何を考えているのかさっぱりな笑顔。

 信用は出来ないが、状況的には問題なさそうだ。

 

和也「まあ、いいか。

   戦闘狙いなら、こんな芝居せずに正面からの方が有利なんだし。」

 

 俺が武器をしまうのを見て亜梨沙も武器をしまう。

 

亜梨沙「こんな変態の言うことを信じる気はありませんが

    兄がそういうのなら、妹は従います」

 

ギル「変態なんてひどい偏見だよ、妹ちゃん。」

 

亜梨沙「この場で斬られなかっただけ、よかったと思って下さい変態」

 

ギル「きっついねぇ~。

   まあ一応は信用してもらえたみたい・・・かな。

   じゃあ、ちょいと俺も端末見させてもらうよ」

 

 端末を軽快に操作して情報を引き出すギル。

 そんな奴をジト眼で監視する亜梨沙。

 なんというか、気まずい空気だった。

 

ギル「今回は荒れそうだねぇ」

 

和也「ん? ああ、そうだな。

   序盤の離脱率が高すぎる。」

 

ギル「これはこれで面白いからいいんだけどな」

 

 ある程度の情報を引き出したギルは端末を終了する。

 

ギル「よし、ありがとね。

   おかげで今後の方針が決まったよ」

 

亜梨沙「用件が終わったらさっさと帰って下さい」

 

ギル「ははは、じゃあまたね~」

 

 ギルは、俺達に軽く手を振りながら自分のパーティーに合流しにいった。

 

亜梨沙「なんだったんですか、あの変態」

 

和也「さてな。

   では、俺達も移動しますかね」

 

 何時までもここに居ても仕方が無いので移動を開始する俺達。

 そして俺達の懸念は現実のものとなる。

 

 

 ―――そして、試験開始から3時間が経った。

 とあるチェックポイントで情報を引き出すために端末を操作する。

 

 

亜梨沙「石が大量に残ってます。

    何ですか、この展開」

 

和也「・・・まあ、これが原因だろうな」

 

 俺は検索した結果を亜梨沙に見せる。

 

亜梨沙「・・・何ですか、これ」

 

 亜梨沙がそういうのも仕方が無い。

 開始から3時間ほどで二階級全体のパーティー脱落率69%という

 この数字。

 そして魔法石所持数超えで表示されている、ゴール手前にある

 広場に陣取る1つのパーティーの存在。

 

 そしてそのパーティー情報には

 パーティー数:1人

 データ:未登録

 所持魔法石:284個

 という簡素な文章がついているだけだった。

 

亜梨沙「魔法石ってたしか全体で500じゃなかったですか?」

 

和也「そのはずだな」

 

亜梨沙「偽情報という線は?」

 

和也「それはたぶんない。

   チェックポイントを通るたびに確認してたが

   まあ数値の上がり方は異常だが、上がっていく過程は確認済みだ」

 

亜梨沙「なら、この1人は通り過ぎようとする全てのパーティーを

    全滅させていると?」

 

和也「そう考えるのが自然だな」

 

 本来そんなことは真っ先に否定されるべきだ。

 そこまで強い生徒が居たら、誰もが知っているはずだし

 どれほど強くても1人行動はリスクが大きすぎる。

 だが、データを見るかぎりはそれらの常識を覆していた。

 

 考え事をしていると、不意に複数の足音が聞こえてくる。

 俺達は身構えて、武器に手をかける。

 どんな状況でも評価のためにパーティー戦を仕掛けてくる連中も

 また居るからだ。

 

?「あれ? もしかして和也?」

 

 暗がりから明かりのある端末付近に姿を現したのは

 昨日からやたらと縁のある少女だった。

 

和也「・・・なんだ、エリナか」

 

 昨日見た戦闘服スタイルで登場するエリナ。

 相変わらずこの魔法少女風の服は反則的に可愛さが増すから

 困ったもんだ。

 

エリナ「なんだとは、ひどいなぁ~。

    ・・・ところで何で構えてるの?」

 

和也「用件がわからん以上、警戒するだろう。

   パーティー戦ありルールだからな。」

 

エリナ「それこそ失礼だよ!

    私が宣言も無しに、和也を襲うわけないじゃない。

    ほら、みんなも儀式兵装は片付けて。」

 

 『昨日いきなり襲ってきた奴の言う台詞じゃないよな』と

 言いかけた言葉を飲み込む。

 言うと、どうせめんどうになるだけだ。

 

 エリナのパーティーの神族達はお互いの顔を見合わせたあと

 しぶしぶながらという感じで武器をしまう。

 それを確認して、こちらも警戒態勢を解いた。

 

エリナ「ちょっと試験が大変な感じになってるから

    端末で、もう一回情報収集しようかってことになって

    近場のここに寄ったんだけど、まさか和也が居るなんてね。」

 

和也「俺達も、ちょっと異常すぎるって話をしていたところだよ。」

 

 エリナは端末を見るために俺の隣に寄ってきたが・・・

 

 ムニュ!

 

和也「何っ!?」

 

亜梨沙「!!?」

 

神族達「はぁ!?」

 

 エリナは腕を組んで隣に並んだ。

 当然俺の腕には、胸が当たる。

 

エリナ「ん? どうしたの?」

 

 ニヤニヤとした顔で俺を見るエリナ。

 こいつ・・・わかっててやってるな。

 

和也「そ、そういう冗談は駄目だろ。

   むむ、胸が当たってるぞ。」

 

エリナ「にひっ。

    和也、顔真っ赤だよぉ♪」

 

 そう言いながら更に密着してくるエリナ。

 腕が・・・腕が胸に埋もれて!

 振りほどくのは簡単だが、振りほどくのがもったいなさ過ぎる。

 なんというトラップだ・・・!!

 

 周囲が唖然とする中、そのままの姿勢で端末を操作するエリナ。

 色々と聞いてくる疑問に俺なりの見解を、何とか答えつつ

 平常心を保つ努力をし続ける。

 

エリナ「じゃあ、この1人チームは結局どうなんだろうね?」

 

和也「それは、まあ予想でしかないが・・・」

 

エリナ「わかるの?」

 

和也「噂の転校生の可能性が高いだろうな。

   今日転入という話だし、学園長のお墨付きなら

   これだけのことが出来ても不思議じゃない。

   それに飛び入り参加ならデータが未登録ということも納得出来る。」

 

エリナ「え? 今日転校生来るの? 二階級に?」

 

和也「そうらしいぞ。

   まあ俺もちょっと前に聞いた話だけどな。」

 

エリナ「そっか~。

    マリア様のお墨付きとなると、興味があるなぁ。

    でも試験結果も出来れば高めで終えたいし~・・・」

 

和也「そういや姉はどうしたんだ?

   一緒じゃないのか?」

 

エリナ「セリナのこと?

    そういえば、セリナちゃんひどいんだよぉ~。

    一緒にチーム組もうねって言った時には

    もう別のチームに入っててさ~。

    『断れなかったの。ごめんね。』だよっ!?

    どうして先に私に声をかけてくれなかったのよ!」

 

 何だか溜まっていた不満に火をつけてしまったようだ。

 このまま10分ほど最近の出来事についての不満を漏らした後

 ようやく組んでいた腕を放した。

 

エリナ「さて、そろそろ真面目に作戦タイムといこうかな。」

 

 仲間の神族達に合図を送ると移動を開始し始める。

 

エリナ「それじゃ和也。

    またね♪」

 

 笑顔でウインクすると、軽く手を振ってからダンジョンの奥へと

 歩いていった。

 何だか色々疲れたなと、ため息をつく。

 ふと見上げるとエリナのパーティーに居た神族達が

 こちらを睨んでいる。

 

神族A「人族の分際でぇぇぇぇぇ!」

 

神族B「俺達のエリナ様を! エリナ様をぉぉぉ!」

 

 何とも殺気全開で恨み言を向けてくる。

 

エリナ「お~ぃ。

    みんな行くよ~?」

 

 遠くからのエリナの呼びかけに、しぶしぶといった感じで

 何度もこちらを睨みつけながら彼らもダンジョンの奥へと消えていった。

 

和也「・・・そういやファンクラブあるんだったよな、王女姉妹って」

 

 以前、メリィさんとの会話でそんな話を聞いた覚えがある。

 また色々とめんどうなことになりそうだと

 もう一度大きなため息をつく。

 

和也「さて、俺達も動くか」

 

 後ろに居る亜梨沙に声をかけて振り向く。

 

亜梨沙「にぃ~さぁ~ん♪

    どぉ~してぇ~、神族の王女様とぉ~

    あんなにぃ~、仲良しなんですかぁ~♪」

 

 とても眩しい笑顔とドス黒い殺気を併せ持った妹が、そこに居た。

 ・・・俺は、生きて試験を乗り切れるのだろうか?

 

 それからというもの、妹君のご機嫌はナナメのままだった。

 

和也「だから悪かったよ、説明しなくて。」

 

亜梨沙「つーん」

 

和也「余計な心配させたくなかったんだって」

 

亜梨沙「むしー」

 

 一切会話を受け付けてくれない。

 エリナと昨日、広場で睨まれた後

 夜にちょっとした腕試しに付き合ったと説明したのだが

 全てを聞いた瞬間からこれである。

 ゴーレムとガチ勝負してボロボロになったなんて言ったら

 もっと機嫌が悪くなりそうなので、その辺は誤魔化しておいた。

 

 結局2人とも、会話も無く目的地に向かって歩くだけの状態が続いた。

 そしてゴール近くの広場を歩いている時だった。

 突然真横からの光に気づく。

 

和也「亜梨沙!!」

 

亜梨沙「・・・!!」

 

 亜梨沙に声をかけながら前方に跳躍する。

 亜梨沙も反対方向に跳躍して回避する。

 俺達の間に着弾した炎は、そのまま壁のように広がる。

 着地した俺達は、武器を構える。

 

?「ふははははっ!

  待っていたぞ、汚らわしい人族!!」

 

 聞いたことのある声と共に、隠れていた奴らが出てくる。

 たぶん狙ってくるだろうとは思っていたが、予想を裏切らない奴だ。

 

ヴァイス「この魔王の血族たるヴァイス=フールス様が

     直々に相手をしてやろうというのだ。

     卑しい種族らしく、土下座をしながら自らをゴミ以下の存在だと

     宣言するのなら、見逃してやらんでもないぞ?」

 

 ヴァイスとその取り巻きパーティーが俺と亜梨沙の間の炎を利用して

 分断してくる。

 はじめからこれを狙っていたんだろう。

 

和也「・・・その魔王の血族様が、随分とせこいマネじゃないか」

 

ヴァイス「黙れゴミ以下の分際で。

     私自ら、掃除をしてやろうというのだ。

     ありがたく思えっ!!」

 

 大声と共にヴァイスに魔力が収束する。

 更に翼まで広げて増幅を加速させる。

 

和也「・・・!」

 

 舌打ちしながら奥へと走る。

 

ヴァイス「これが魔王の血族たる王者の力だっ!

     ドラゴン・フレイムゥゥ!!」

 

 それは、ヴァイスお気に入りのオリジナル火属性魔法。

 炎が竜を形成して現れる。

 

ヴァイス「さあ、喰らい尽くせ!!」

 

 ヴァイスの声と共に炎の竜がこちらに向かって突っ込んでくる。

 真横に跳んで避けるが、竜はスグに反転して迫ってくる。

 

和也「操作してるのか。

   厄介だな。」

 

 この竜そのものを何とかすることは可能だが、まだその時ではない。

 切り札は最後に切ってこその切り札だ。

 

和也「亜梨沙!!

   プランDだっ!!」

 

亜梨沙「でも、兄さんがっ!!」

 

和也「心配するな!

   プラン通りに行くぞ!!」

 

 俺は事前に決めていたプランの1つを亜梨沙に指示すると

 全速力で、奥に進む通路へと走る。

 

ヴァイス「逃げろ逃げろ!

     そうやって情けなく逃げ回っているのがお似合いだ!」

 

 高笑いをしながら上機嫌で俺を追いかけてくるヴァイス。

 俺は、何とか炎の竜を避けながら狭い通路に滑り込む。

 さすがに竜は通路まで入れないため、通路の入り口でぶつかり爆発する。

 

和也「ご自慢の魔法も全然だな!!」

 

 通路からわざと露骨に挑発してヴァイスを誘い出す。

 勝ち目なんてほとんど無い相手と、わざわざ相手に有利な場所で

 戦うつもりはない。

 

ヴァイス「・・・ほぅ。

     どうやら本格的に死にたいらしいなぁぁぁ!!!」

 

 挑発にのってこちらを追いかけてくるヴァイス。

 そのまま俺はヴァイスを引き付けてダンジョン奥に逃げ込んだ。

 

 そして和也とヴァイスが居なくなった広場で、取り残された魔族達が

 互いの顔を見合って笑い出す。

 

亜梨沙「・・・」

 

 亜梨沙は無言で剣を構える。

 兄が心配だ。

 一刻も早くこいつらを何とかしないと。

 

魔族A「まあ実戦なんだし事故ぐらいあってもいいよなぁ」

 

魔族B「そりゃ仕方ないだろ、実戦なんだし」

 

 亜梨沙を見ながらニヤニヤと笑う魔族達。

 集団で囲んで腕の一本でも斬ろうというつもりなのか。

 そんな考えをしていた彼女だったが・・・。

 

魔族C「実戦なんだし服ぐらい破れても仕方ないよなぁ」

 

魔族D「ちょっと色んなところを触っても問題ないよなぁ」

 

 魔族達の視線が自分の身体を舐めまわすように

 見ていることに気づいて、ため息をつく。

 

 全ての状況は教師に監視されているため無理やり押し倒したら

 即刻、教師の救援が来て処罰されるだろう。

 しかし実戦試験として戦闘で服が敗れたり相手を押さえつけるときに

 相手の身体を触るぐらいは、過度でなければ問題視されない。

 むしろトラップで全裸にされるトラウマトラップと呼ばれるものが

 あるぐらいだ。

 なので今、目の前にいる魔族達は簡単に言えば

 教師が止めにこないレベルのギリギリのラインまで

 集団で服を脱がして身体を触るぞという最低な話をしているのだ。

 

亜梨沙「・・・ああもう、これだから男は・・・」

 

 不機嫌さが増した、その言葉と共に僅かに収束する魔力。

 そして5対1という状況で、完全に油断しきった魔族達は

 それに気づかない。

 

亜梨沙「スピードアップ・ファースト」

 

 自身を加速する風属性のみが持つ強化魔法で

 彼女は一瞬にして魔族達の間合いに踏み込む。

 そして振り抜いた一撃が正確に魔族達を捉える。

 

魔族D「なっ!?」

 

魔族E「何時の間にっ!?」

 

 亜梨沙の奇襲は、まさに風が吹き抜けるが如く。

 一瞬で3人の魔族が斬られ、血を吹きながら壁にぶつかり気を失う。

 そして判定ネックレスが作動して瞬時に傷を塞ぐ。

 この瞬間、魔族3人の脱落が確定する。

 

 亜梨沙が、残りの2人に目を向ける。

 

魔族D「くっ!

   調子に乗るなよ、人族が!!」

 

魔族E「たっぷり可愛がってやるぜ!」

 

 2人の魔族は翼を広げて魔力を収束させる。

 

?「ライトニング・アロー!!」

 

 暗闇から突如叫び声と共に雷の矢が通り抜ける。

 

魔族D・E「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 

 魔族2人を貫通して雷は消え去る。

 気を失って倒れた2人の判定ネックレスが作動して傷を癒す。

 

?「いや~、まったく困ったもんだ。」

 

 軽い言葉と共に現れたのはギル=グレフだった。

 

ギル「大丈夫だったかい、妹ちゃん?」

 

亜梨沙「・・・何のつもりですか」

 

ギル「いやね、いくら気に入らないからって

   集団で女の子を囲むってだけでもどうかと思うのに

   服を破るだなんだとか、同じ男としては許せなくてねぇ」

 

 相変わらずの陽気な話し方だが、少し声のトーンが低い。

 恐らく彼なりにある程度は真剣なのだろう。

 

亜梨沙「なるほど、それは俺の仕事だ・・・ということですか。」

 

ギル「そうそう。

   妹ちゃんみたいに超絶美少女の悩ましい姿を見るのは俺・・・

   って違うよ、そんなんじゃないよっ!?」

 

亜梨沙「じーーーーー」

 

ギル「うわぁ~。

   凄いジト目~。

   めっちゃ信用されてない感じだねぇ~」

 

 両手を広げてお手上げというポーズをしながら苦笑するギル。

 

ギル「でもまあ。

   魔族は、こんな奴らばかりじゃないってことだけは

   信じて欲しいんだわ。」

 

 ギルの言葉に奥で待機していた魔族達も、うんうんと頷く。

 彼らにも彼らなりの意地や矜持があるのだろう。

 亜梨沙は武器をしまうとギルに向かって一礼する。

 

亜梨沙「まあ、必要なかったとはいえ

    一応助けてくれてありがとうございます」

 

ギル「いいって。

   今回のは、こっち側が悪いわ。

   こいつらのことも任せてくれ」

 

 そう言うと、手を軽く振ってから仲間達と共に

 ダンジョンの奥へと消えていった。

 彼らを見送ってから亜梨沙は走り出す。

 

亜梨沙「兄が無事だといいんですが・・・」

 

 

 ・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 響く爆発音。

 駆け抜ける足音。

 普段ならとっくに別パーティーに出会うような大規模な移動も

 今回のパーティー脱落率からすれば誰にも出会わないのは

 むしろ当然と言えた。

 

ヴァイス「ふはははっ!!

     逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!

     泣き喚きながら命乞いをしろっ!!」

 

 最近溜まった鬱憤を晴らすように、魔法を乱発するヴァイス。

 狭くて入り組んだダンジョン地形のおかげで直撃を食らう心配はないが

 それでも時間と共に正確になってくる攻撃に嫌気が差す。

 

和也「・・・これだから天才って奴は」

 

 ヴァイスは、こんな奴だが天才と呼ばれる部類に入る。

 学園の授業でも奴は最低限の練習しか行わず

 個別で特訓をしているわけでもない。

 生まれ持った力である魔王血族としての能力と六翼による潤沢な魔力。

 それを使える儀式兵装による魔法。

 魔族の中でも特に優れた身体能力。

 奴は遊んでいるにも関わらず、あの強さである。

 人並み以上の努力を必要としている俺からすれば羨ましいかぎりだ。

 

 愚痴を漏らしつつ、分かれ道を右に曲がる。

 もうどれぐらい走ったのかとか

 今どのあたりの場所なのかもさっぱりだ。

 そして真っ直ぐに伸びた道を抜けた先で、俺は後悔することになる。

 

和也「・・・くそっ!」

 

 思わず舌打ちをする。

 とても大きな広場に出てしまったからである。

 何処が出口かもわからないほど広大な場所だった。

 

ヴァイス「ふははははっ!

     さあ、鬼ごっこはおしまいだっ!!」

 

 高笑いしながらヴァイスが後ろから追ってきた。

 並みの魔族では考えられないほどの威力にも関わらず

 それを連続して行使してくる。

 

ヴァイス「高貴なる火球! 覇王の爆炎! 王者の炎柱!」

 

 火属性魔法が乱発されるが、変な名前がついているだけで

 火属性と上位の爆炎魔法を使ってきているだけだ。

 古代魔法と違い、現代魔法は基本的に詠唱を必要としないので

 魔法を意識しやすい名前や、あえて詠唱をすることで

 魔力を安定させ、より強力に出来るらしい。

 何とか直撃だけは回避するが、爆発系だけはどうしても

 広範囲かつ爆風による地味なダメージが蓄積するので困る。

 

和也「・・・ちっ!」

 

 何とか出口を探しながら逃げ回っていたが

 ついに壁側に押し込まれてしまった。

 

ヴァイス「あーっはっはっは!

     気分が良いぞ、人族!

     最高だ! 最高の気分だ!」

 

 未だかつて、これほど上機嫌だったこいつを見たことはあっただろうか。

 そんなことを考えるほどにヴァイスは、元気だった。

 

ヴァイス「さあ、泣いて命乞いをしろ!

     そうすれば一瞬で終わらせてやっても構わんぞ?」

 

和也「はっ、下らない。

   そんなこと言ってるからバカだと陰口叩かれるんだよ」

 

ヴァイス「・・・そうか。

     そこまで死にたいのなら、殺してやるっ!!!」

 

 今までの機嫌の良さが嘘のような怒り狂った表情をすると

 ご自慢の炎竜を呼び出した。

 

ヴァイス「泣き叫びながら燃え尽きろっ!!

     喰らい尽くせ! ドラゴン・フレイムゥゥゥ!!!」

 

 炎竜がこちらに向かって突っ込んでくる。

 避けることは不可能だ。

 ・・・切り札を使うことに若干の迷いがあった。

 まだまだ完成とは言えないし何より

 『あまり知られたくない』部類のものだ。

 こんなところで使ってしまっていいのかという疑問が、判断を遅らせる。

 

和也「くそっ!!」

 

 結局何も出来ないまま炎竜は、俺を喰らうように突っ込んできて・・・。

 

?「ファイア・アロー」

 

 突如暗闇から高速で飛来した炎矢が炎竜の側面にぶつかり

 竜の頭を吹き飛ばした。

 炎竜は、頭をやられてそのまま消滅する。

 

ヴァイス「なん・・・だとっ・・・!?」

 

 ヴァイスは驚愕した顔で消滅した竜の居た場所を見つめる。

 奴の炎竜は、並の魔法を喰らった程度で消えることはない。

 特に同属性魔法なら吸収してしまうほどだ。

 それが同属性の、しかも初級の魔法に潰されてしまった。

 それは奴が今まで体験したことがないものだっただろう。

 

 遠くからこちらに歩いてくる音が聞こえてくる。

 ヴァイスと俺は、音のする方向に振り向く。

 暗がりから出てきたものを見て、俺達は再び驚いた。

 

 氷のように冷たい瞳。

 感情を全く出さない表情。

 腰まで伸びた黒い髪。

 全身を黒系で統一した服装。

 小柄な身長。

 姿に似合わない大振りな黒刃の薙刀型儀式兵装。

 まるで周りの暗闇さえも従えたような黒に包まれた少女だった。

 

ヴァイス「き、貴様、何者だ!!」

 

 ヴァイスの問いに答えずに

 無言のままこちらに歩み寄ってきたかと思うと

 一気に距離を詰めて、彼女が獲物を無造作に振り下ろす。

 ヴァイスは咄嗟に剣で受け止めようとしたが・・・

 

ヴァイス「ぐあぁぁぁぁ!!」

 

 金属の砕けるような音と共に血しぶきをあげて吹き飛ぶヴァイス。

 受け止めようとした、あいつの儀式兵装が砕けたのだ。

 地面に2回ほどバウンドして壁に激突し、気絶したヴァイスに

 判定ネックレスは反応して回復魔法が発動していた。

 

少女「・・・」

 

 彼女は無言でヴァイスが戦闘不能になったことを確認すると

 まるで興味がないといった感じで、こちらに向き直した。

 

 彼女は無言で、低い姿勢で獲物を構える。

 

俺「・・・」

 

 そうだ、驚いている場合じゃない。

 儀式兵装を砕くだけの力を持った相手なのだ。

 余計なことを考えていたら一瞬で決着がついてしまう。

 

 俺も紅を構えて対峙する。

 ・・・ただ、目の前の彼女を見ていると懐かしさを覚えてしまって

 ふと口元が緩んでしまう。

 

 ・・・その直後

 彼女の姿が一瞬ブレると、ものすごい勢いで突っ込んできた。

 開いていた距離が、一瞬で詰まる。

 

 彼女は勢いをつけたまま、大きく振りかぶった薙刀を振り下ろした。

 

 俺は剣で受け止める・・・フリをして、直前で相手に向かって走った。

 全力で振り下ろされた刃に対して、前に突っ込んだ勢いを維持しつつ

 体を回転させるように捻りながらギリギリで避ける。

 そしてすれ違いざまに体を回転させて遠心力を利用した全力の一撃を

 少女の側面に叩き込む。

 少女は全力の一撃をかわされ、隙だらけになるはずだった。

 ・・・だが、やはり結果は変わらなかった。

 これでも休まず、ほぼ毎日修行してきた。

 今なら決まるかもという僅かな希望だったが

 やはり彼女には届かなかった。

 彼女は横からの攻撃を避けきれないと判断すると

 突進していた慣性を利用し、そのまま前に飛ぶように通り過ぎていった。

 結果として、俺の横からの薙ぎ払いは空振りに終わった。

 

 あの時ですら、あの強さだったのだ。

 彼女も天才と呼ばれる才能の持ち主なのだろう。

 いや、本当に周りが天才だらけで嫌気が差してくる。

 

少女「・・・」

 

 彼女は、手をかざした。

 その手に、炎が集まっていく。

 昔は、黒い塊だった。

 後からあれは魔法ではなく魔法が使えない者が撃つ

 純粋な魔力の塊だったことを知った。

 彼女は、あれからちゃんと魔法を使えるようになったのか。

 

少女「ファイア・ボール」

 

 僅かに呟いた彼女が、そのまま魔法を撃ってくる。

 通常のファイア・ボールの2倍近い大きさだ。

 

 彼女は、恐らくこれを回避出来ないと思っているだろう。

 普段ならまず切ることのない切り札を切ってみたいという

 衝動に駆られた。

 このままやられっぱなしじゃ、つまらない。

 

 魔眼を発動させ、飛んでくる火球の魔力的な流れを視て

 目の前まで迫った時、紅で『断ち斬る』

 火球が綺麗に2つに切断されると暴発もせずに消滅する。

 無表情だった彼女の顔に、驚きの表情が出る。

 

和也「・・・どうだ、フィーネ。

   俺だってこれぐらいは出来るようになったんだぞ」

 

 俺は、彼女に自慢する。

 ようやく一矢報いた気がした。

 

フィーネ「・・・」

 

 彼女は無言のままこちらに駆け寄ってくると

 そのまま飛びついてきて俺を押し倒した。

 

フィーネ「私の名前・・・覚えててくれた」

 

 今までの無表情が嘘のような泣き顔と笑顔の混ざった

 嬉しそうな顔だった。

 

和也「一瞬誰かと考えたんだがスグにわかったよ。

   まあ、昔よりずっと可愛くなってたんでビックリしたけどな」

 

フィーネ「・・・嬉しい」

 

 彼女は俺の胸に顔を埋めて離れようとしない。

 

フィーネ「会いたかった、あなたに。

     ずっとずっと会いたかった。

     ああ、本物のあなたの声、あなたのぬくもり、あなたの匂い。」

 

 嬉しそうに抱きつく彼女に、もう以前の氷のような

 冷たい表情だった面影はない。

 その変わりように思わず苦笑する。

 

和也「俺も会いたかったよ。

   あれからずっとフィーネのことが気になってたんだ」

 

 俺と彼女との関係は、その出会いから別れまで複雑だった。

 そして彼女のことを忘れたことは1日たりともなかった。

 

フィーネ「ごめんなさい、試すようなマネをして。

     それからありがとう、私を覚えていてくれて。」

 

和也「構わないさ。

   また、こうして会えたんだ」

 

 俺も彼女を抱きしめる。

 こんな再会が出来るなんて思ってもみなかったが

 また彼女に会えた、この奇跡を素直に喜んだ。

 

 その時、ふと視線を感じて横を向いた。

 

亜梨沙「兄さ~ん。

    ど~ゆ~ことかぁ~、も・ち・ろ・ん

    説明して~くれますよねぇ~♪」

 

 フィーネに抱きつかれて動けない俺は

心配して駆けつけてきた亜梨沙からの非常に怖い笑顔に迫られていた。

 いや、ホント怖いです。

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 闘技場出口付近に作られた仮設テントの中で

 試験を管理・確認している魔法アイテムの前にマリアとセオラが居た。

 

セオラ「・・・これは」

 

 驚きを隠せないセオラ。

 人族である和也と魔族であるフィーネが仲良く抱き合っているのだ。

 種族差別なんてする気はないが、そういった風潮があるのもまた事実。

 それらを超えた何かが、そこにあった。

 

マリア「いや~、あの無表情で

    何考えてるのか、さっぱりだったあの子が

    まさか男が出来ただけで、ここまで変わるなんてねぇ」

 

 我が子の成長を嬉しそうに見つめるマリア。

 

セオラ「・・・しかし、人族と魔族の関係。

    特に魔王の直系との関係なんて、周りが認めないと思うのですが」

 

 特に魔族はそういった意味で種族としてのプライドが高い。

 多種族を排斥する傾向が強い種族の王の直系と

 ましてや種族最下の人族では、釣り合いなんて取れないだろう。

 

マリア「それは本人達が解決すべき問題だろう。

    まあ、それでも私は応援してやるがな。

    あんなに嬉しそうな顔をされちゃ、何も言えんさ」

 

セオラ「なるほど。

    これで色々納得できましたわ。

    ここ数日、やたらと『藤堂 和也』の

    成績や素行のデータをご覧になっていた理由が」

 

マリア「そりゃ娘の相手となれば、気にもなるだろう。

    その点、あの男は中々見所がある」

 

セオラ「はぁ。

    まあ、フィーネ=ゴアを手に入れた藤堂 和也の

    人望という能力も立派な力ですからね。

    では決定で、よろしいですね?」

 

マリア「ああ、構わんよ。

    学園長として認めよう。」

 

セオラ「全階級合同実戦試験 前期

    2階級トップは、藤堂 和也パーティー!!」

 

 その日の放課後。

 試験結果の張り出された掲示板の前は、騒然としていた。

 その大半は、2階級の試験結果だろう。

 

 1位と大きく書かれた場所に

 俺と亜梨沙とフィーネの名前と共に書かれた最終状況。

 魔法石所持数287個。

 俺達は3個しかもっていなかったが

 フィーネが俺を待っている間に潰してきたパーティーから

 奪っていた284個が加算された結果、試験で獲得した

 総数の歴代1位を大幅に更新してしまったらしい。

 ・・・そう、フィーネがあそこで陣取っていたのは

 俺に会いたかったから。

 わざわざ学園に来たのも俺のためだそうだ。

 本人に確認を取ったがフィーネは、俺達と同じパーティーとして

 扱われることになっていたらしい。

 

 目立たないように、こっそりと学園を卒業するはずだった俺は

 動き出した運命によって、表舞台に押し上げられていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第1章 動き出した運命 ~完~

 

 

 




第1章を最後まで読んで頂き、ありがとうございます。

いかがでしたでしょうか?
もはや原作とは何だったのかというレベルです(笑)
誰が誰の位置かは、原作を知っておられる方なら
わかると思います。

原作を知らない方も楽しんで頂ければ幸いです。

そもそもこの『Tiny Dungeon Another Story』は
友人との何気ない会話の流れから
『じゃあ書いてみれば?』というノリで製作が始まりました。
当初は、ファンディスク的な何かにする予定だったのですが
書いているうちに何故だか、こうなってしまいました。
初心者の妄想劇ですが、最後までお付き合い頂けると嬉しいです。

それでは、次章でお会い出来ることを楽しみにしております。

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