Tiny Dungeon Another Story 作:のこのこ大王
その日は、朝から雨だった。
時間が経つにつれて、雲の量が多くなり
周囲も薄暗くなる。
しかしそんな天気でも
・・・いや、そんな天気だからこそ
実戦訓練は、予定通り開始される。
和也「視界が悪すぎるぞ、これは・・・」
薄暗い森というだけでも悪条件なのに
雨のせいで、余計に視界が確保出来ない。
途中何度かクラスメイトに出会うも
こちらに気づかず歩いていたため
簡単に奇襲で撃破出来てしまう。
和也「・・・これは、練習になってるのか?」
確かに悪天候での戦闘もあるだろうが
時間と共に風も出始め、嵐になりそうな天気だ。
こんな中を行軍するなんて、出来れば遠慮したいところだ。
次第に雨まで強くなり、本格的に面倒な天気になってくる。
このままでは体力が削られるため
どこか休める場所を探して森を歩いていく。
?「・・・うぅ・・・っく」
風と森のざわめきでかき消されそうになっているが
確かに誰かの声が聞こえる。
その声を頼りに歩いていくと
小さな洞窟を見つける。
和也「・・・この中か?」
俺は、警戒しながらゆっくり入っていく。
洞窟の中に入ると、ようやくハッキリと声が聞こえる。
明かりが無いため、俺は紅の刀身を出す。
火属性魔法で構成された刀身であるため
それなりの明かりを確保することが出来る。
紅を手に、更に奥へと進む。
すると誰かが、膝を抱えて泣いていた。
和也「・・・誰か、居るのか?」
声を出すが、泣いてばかりで返事がない。
俺は、声の主に近づく。
和也「・・・キミは」
明かりに照らされたのは、金色の髪。
泣いていたのは、見知った顔。
普段は、そんな顔を見せたことが無い
意外な少女だった。
第12章 狂愛/純愛
和也「・・・どうしたんだ?」
俺は、そっと近づく。
リピス「・・・かず、や?」
頬の涙を拭きながら
ゆっくりとこちらを見るリピス。
多少虚ろな目をしていたリピスだったが
数秒後、ハッとして顔を背ける。
リピス「な、何でもないっ!!」
和也「・・・いや、明らかに泣いて―――」
リピス「泣いてなどないっ!!」
かなり食い気味にこちらの言葉を遮るリピス。
和也「・・・」
微妙な空気が流れているのを感じる。
彼女にとって、見られてはマズイものだったのだろう。
・・・しかし、これで彼女が泣いているのを見るのは
2度目となる。
何が彼女を悲しませるのだろうか?
その時だった。
突然大きな雷が近くに落ちたのだろうか
静寂を切り裂く大きな音が周囲に響く。
リピス「・・・うぅ」
身体を小刻みに震わせながら
一層小さくなるリピス。
和也「・・・まあ別に話したくないなら
それでいいけど」
軽くため息をつきながらリピスの隣に座る。
近くに落ちている枯れ木を集めて
紅を近づけると、スグに燃え上がった。
あとは、ずっと火を絶やさないように
定期的に木を投げ入れる。
時折、雷の音でリピスがビクビクとしていたが
それ以外は、何もない。
ただ、ずっと傍に座っているだけ。
それから、どれだけの時間が経っただろうか。
リピスがようやく口を開いた。
リピス「・・・嫌いなんだ」
和也「・・・ん?」
リピス「・・・雷の音は、嫌いなんだよ。
色々と嫌なことを思い出す」
和也「・・・そうか」
リピス「・・・何も聞かないのか?」
和也「話したくなったら話せばいいさ。
無理に聞こうとは思わない。
・・・ただ、リピスが苦しんでいるのが
どうしても見過ごせなくなったら
俺から聞くかもな」
リピス「・・・そうか」
そう言いながら、リピスは
俺にくっつくように隣に座り直す。
リピス「・・・しばらくこのままでいさせてくれ」
彼女が何に苦しんでいるのか。
それはきっと、彼女にしか解らないだろう。
ただ、この時からだろうか。
俺は、彼女の心を救いたいと思うようになっていた。
・・・・・・・・・。
・・・・・・。
・・・。
どれぐらいの時間が経っただろうか。
未だ外は、嵐のような天候だ。
皆は、ちゃんと何処かで雨宿り出来ているだろうか?
そんなことを考えている時だった。
リピス「・・・なあ、和也」
和也「・・・ん?
どうした?」
リピス「ひとりというのは、寂しいものだな」
和也「・・・そうだな。
でもリピスは、ひとりじゃないだろ?」
リピス「・・・ひとりだよ」
和也「そんなことはない。
俺や亜梨沙。
フィーネやセリナやエリナ。
メリィさん達もいるだろ」
リピス「・・・みんな、どこまでいっても
最後は、別れることになる。
結局は・・・他人さ」
和也「・・・そう言いたくなる気持ちは
わからなくもない。
昔の俺も、同じようなことを
考えていた時期があったからな」
そっとリピスの手を握る。
和也「・・・ほら。
リピスが他人という俺だって
こんなにも暖かな温もりを
リピスに伝えることが出来る。
それに、リピスがそう思っていなかったとしても
俺達は、ずっとリピスと一緒だと思ってるし
メリィさん達だって、リピスを大切に思ってるよ。
・・・金竜の王女としてもそうだろうが
リピスって、ひとりの女の子としても・・・な」
リピス「・・・それでも―――」
和也「『それでも』と思うのなら、これだけは言っておく。
俺は、お前を・・・リピスを裏切ったりしない。
ずっと一緒に居てやる。
ひとりが寂しいのなら
俺がお前の『家族』になってやる」
リピス「・・・か、ぞく」
和也「泣きたい時は泣けばいい。
・・・今まで、よく一人で我慢したな」
リピス「うぅ・・・あぁ・・・」
和也「辛かっただろう。
苦しかっただろう。
ごめんな。
気づいてやるのが遅れてしまって」
リピス「うあぁぁぁぁぁッッ―――」
リピスは、俺の胸に飛びついて
ひたすら泣き続けた。
和也「・・・やっと、キミの心を見つけることが出来た」
百年以上生きているといっても、それは
俺達、普通の寿命を生きる種族からしての話だ。
竜族からすれば、彼女は
まだまだ年齢の浅い少女。
そんな少女が、突然両親を失い
そして何も解らず種族の長を任され
その役割を演じさせられる。
立場的に弱音を吐くことは出来ず
周囲に居るメリィさん達にさえ
いつの間にか心を許すことが・・・
本当の意味で、信頼することが出来なくなるほど
追い詰められていたのだろう。
それほどまでに、リピスは疲れていたのだ。
竜族王女としての尊大な態度は
それを演じるためのものであって
本来の彼女は、きっとそれすら負担に感じるほど
繊細な少女なのだろう。
俺は、彼女が寂しくないように
しっかりと抱きしめる。
それからしばらくして
泣き止んだリピスが、語りだす。
リピス「・・・あの日、雷の音が鳴っていたんだ。
夜なのに、外が騒がしくて
廊下に出たら悲鳴が聞こえた。
怖かったけど、それでもみんなが心配になって
ゆっくり声のした方に近づいたんだ。
そうしたら・・・。
一面、血の海。
何人もの竜族が倒れていて
みんな死んでいた。
その中で、動いている人影があった。
それが・・・お父様とお母様。
何かに取り付かれたように2人は暴れて
止めようとした者達を皆殺しにしていた。
正直、何が起きているのか解らない。
今でも、どうしてああなったのか
原因は、解っていない。
そんな時、2人と目が合った。
そうしたら、2人が何て言ったと思う?
『私達を殺してくれ』だとさ。
自分自身が制御出来ないから
殺してくれと暴れながら私に迫ってきた。
その時、もう訳がわからなくて
私は、泣きながら竜の息吹を放って
・・・私は、2人を。
両親を殺してしまったんだ。
その時から、私はひとりだった。
両親は何時の間にか病死になっていて
私は、竜族の長だ。
その日から絶えず寂しさが襲ってきた。
誰にも言えず、ひたすら耐えるしかなかった。
それが・・・両親を殺した私への罰なのだとな」
病死と言われていた竜王が、そんなことになっていたとは。
リピスの告白に、驚きを隠せなかった。
彼女の背負っている十字架の重さは
並大抵のものじゃない。
和也「・・・もしかして、竜の息吹をあまり使わないのは」
リピス「威力があるからというのもあるが
・・・使うと思い出してしまうんだよ」
・・・でも、それでも。
俺は、彼女を支えると決めたんだ。
和也「・・・俺の話も聞いてくれるか?」
リピス「・・・うん」
和也「・・・昔、住んでいた村が
化け物の群れに襲われて全滅したんだ。
その日、村の外まで遊びに行ってた俺は
村が燃えてることに気づいて急いで戻った。
村の中は、誰も居なかった。
みんな喰われて死んでいた。
俺は、両親を探したよ。
そしてしばらく歩いて
ようやく母親の後姿を見つけた。
俺が『母さん』って呼ぶとな
振り返ったんだよ。
身体が何かの化け物に寄生されててな。
脇腹や背中から腕のようなものが生えてたり
頭が逆さになってたりしてたんだが
口にはしっかり、父さんの頭を銜えた
化け物になった母さんが。
俺は、声が出なかった。
そんな化け物になった母さんが
地面を這いずりながら
こっちに来るんだよ。
『お願い、殺して』って言いながら。
化け物が迫ってきた時
俺は、咄嗟に近くに落ちてた大き目の石を
手にして、母さんの頭めがけて
何度も何度も、殴り続けた。
何度目か、殴った時に
母さんが言ったんだ。
『こんなことさせて、ごめんね』って。
その後、風間家の部隊が
村に来て、俺は亜梨沙のところに保護されたんだよ。
でも、その時
俺は、ひとりだった。
あの時は、自分ひとりで生きていくんだ。
自分が強くならないと、何も護れないんだって
がむしゃらになっていた気がするよ」
リピス「・・・そうだったのか」
和也「まだ大戦争が終わって10年だ。
みんなきっと、何かしら抱えて生きているんだろう。
だから、俺達だって
きっとこれからだよ。
だって、ここからが新しい一歩なんだから」
リピス「・・・そう、だな」
再びリピスが胸に抱きついてくる。
リピス「ありがとう、和也。
私に出会ってくれて」
和也「俺もだよ。
ありがとう、俺に出会ってくれて」
抱き合う2人。
それを遠くから見ていた人影が
ゆっくりと離れる。
?「はぁ、聞くんじゃなかったです」
自分が一番可哀想な人生を送ってきた。
そう思えるからこそ、逆に胸を張って生きてこれた
ということもあった。
しかし、やはり上には上がいる。
自分よりも過酷な人生を歩みながら、自分よりも
未来を信じて歩もうとする姿を見せ付けられては
もう何も言えない。
?「藤堂 和也・・・か」
フィーネ様が夢中になる理由も解らなくもない。
そう思ってしまった思考を何とか振り払うと
水に塗れた紅く長い髪の手入れを素早く済ませて
雨の止んだ森の中へと歩いていくのだった。
―――その日の夜。
夜の暗闇の中、静寂に包まれていた森に
突如として爆音が轟く。
1つ2つではない。
何度も閃光と共に周囲の木々を薙ぎ倒しながら
音を立てて周囲を破壊する。
?「E-RIS004、そこまでだ」
爆音が止まった瞬間、森に人の声が響く。
茂みの間から出てきたのは、白衣を来た者達。
?「試験結果は、良好。
これで、長年の苦労も報われるだろう」
年老いた男を中心に、小さい喜びの輪が広がる。
―――ただ、一人を除いて。
E-RIS004「はぁ、つまんないなぁ」
E-RIS004と呼ばれた少女らしき人影は
白衣の集団とは違い、実につまらなさそうにしていた。
E-RIS004「あ、そうだ。
今ならまだ居るよね?」
何かを思いついたのか、場所を移動しようとするE-RIS004。
?「E-RIS004、何処へ行く?」
白衣集団の中心人物らしき、年老いた男が
E-RIS004と呼ばれている少女を呼び止める。
E-RIS004「つまらないから、あの人に会ってくるの」
?「何を言っているんだっ!
あの人族との接触は、禁止したはずだろうっ!」
若そうな男が、怒りながら声を出す。
E-RIS004「だから、昨日はちゃんと大人しくしてたじゃない」
?「あの人族との接触は、永久に禁じる。
お前に与える影響が予想外すぎる」
E-RIS004「嫌よっ!
私は、会いに行くんだからっ!」
?「・・・仕方が無い」
年老いた男は、何かの小さな箱を取り出すと
赤いボタンを押す。
E-RIS004「きゃぁぁぁぁっ!!」
E-RIS004に首輪がついていて、そこから
魔法によるダメージが入る。
?「お前には、我々の道具だということを
再認識させる必要がありそうだな。
・・・おお、そうだ。
ついでに、あの人族の記憶も削除しておこう」
強力な雷魔法が、少女に攻撃し続ける。
普通なら、一瞬で気を失うほどの雷撃。
E-RIS004「―――さない」
?「・・・む?
これは、どうしたことか」
本来なら、いかに実験体といえ
もう既に倒れているはずのE-RIS004。
しかし一向に倒れる気配がない。
?「これ以上は、ダメージが残ってしまいます」
隣から、そんな言葉をかけられるが
老人はボタンを離そうとしない。
?「多少なら問題ない。
それよりも今は、『躾』が重要だ」
その言葉と共に、装置の出力を一気に上げようとした瞬間
E-RIS004「許さないっ!!」
何かが爆発したような『気』が駆け抜け
白衣の集団は、その場に尻餅をつく。
E-RIS004「・・・私から
あの人を奪うことは、絶対に許さないっ!!」
丁度、空を覆っていた雲が晴れ月明かりが差し込んでくる。
そこには、白衣を着た集団と金色の髪の少女。
普通ならば、少女が謎の集団に
襲われているようにも見える場面。
しかし事実は、違っていた。
少女の瞳は、獰猛な獣が獲物を見つめるそれであり
彼女を抑えるための首輪は、壊れて彼女の足元に落ちていた。
E-RIS004「・・・私は
・・・私はっ!!
・・・私は、イリスッ!!」
恐怖から逃げ出す白衣の集団だったが
枷から解放された獣によって
次々と狩られていく。
それは、一方的な虐殺だった。
左手には、大きな手甲を装備しており
その手甲は、手の部分が巨大な鉤爪になっている。
その爪は、人を簡単に貫いたり引き裂いたりしており
非常に強力だ。
右手には、大きめのトンファーを持っている。
その一撃は、人を簡単に粉々に砕いていた。
また足にも足甲を装備しており
彼女の蹴りは、人の頭を簡単に吹き飛ばしていく。
全てが儀式兵装のようであるが、儀式兵装とは
本来は、1人につき1つだ。
しかし今は、どれが儀式兵装であったとしても
関係など無いだろう。
ひたすら命乞いしかしていない者まで
容赦無く殺していく彼女の姿は
いつの間にか血で赤黒く染まっていた。
?「・・・な、何故だっ!?
あの人族は、竜王女のお気に入りというだけで
何もないと言ったはずだぞっ!!」
この惨劇で、唯一『生かされていた』年老いた男は
イリスに向かってそう叫ぶ。
イリス「・・・あの人は。
・・・和也は、私の王子様。
街を見て回っても、みんな私を避けるの。
私を押し倒そうとした男達も居たわ。
みんな、私のことを嫌うの。
ひどいことしてくるの。
でも、あの人は・・・和也だけは違ったわ。
私のことをちゃんと見てくれる。
私のことを気遣ってくれる。
私のことを好きでいてくれる。
お話だっていっぱいしてくれるの。
あの人だけは・・・私の味方で居てくれる」
まるで夢を語る少女のように、楽しそうに話すイリスは
その身を染め上げる鮮血を気にすることなく
ゆっくり年老いた男に近づいていく。
イリス「だから・・・だからね」
そのまま男の目の前まで来たイリスは
左腕を上げる。
イリス「私から和也を奪う悪い人は
・・・壊しても、いいよね?」
?「や、やめ―――」
男の頭に巨大な爪が振り下ろされ
グシャっという音と共に、男は倒れる。
数秒後、笑い声が辺りに響く。
イリス「・・・な~んだ。
意外と簡単なことだったわ。
こんな連中
さっさとこうしておけば、よかった」
周囲の屍を、気にすることなく歩くイリス。
何か動きにくいと感じて、自身を見る。
そこでようやく、自分の姿に気づく。
イリス「・・・こんな汚れた姿じゃ
和也に嫌われちゃう。
着替えて、お風呂にも入って・・・。
・・・でも、それだと今日は会えないわ」
時間的にも和也は、既に寮に帰っている時間だ。
今日は、もう間に合わない。
イリス「・・・今日は諦めるしかないわね」
残念そうにそう呟くイリスだったが
何かをひらめいて、急に元気になる。
イリス「・・・そうよ。
そうだわ。
な~んだ・・・簡単なことじゃない」
突然その場で踊りだすイリス。
そして何度目かのターンを終えると
両手を空に向けて大きく広げて天を仰ぐ。
イリス「待っててね、和也。
私達だけの世界、スグに用意するからっ♪」
そしてまた、笑いながら踊りだす。
森の舞踏会は、血で染め上げられ
周囲には、屍と化した動かない観客達。
月明かりに照らされた少女は
ただ一人、楽しそうに踊り続けるのだった。
第12章 狂愛/純愛 ―完―
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
活動報告でお伝えした通りの予定で
公開出来てホッとしております。
リピス編、今回は
2人の金竜を1つの対比で演出してみました。
物書き初心者として、色々な方向に挑戦して
みてはいますが、なかなか難しいと感じています。
リピス編も、そろそろ本格的に終焉に向かう予定ですので
次回も、よろしくお願いします。
**連絡事項**
改めてご挨拶等や、その他色々とありますので
活動報告の方に記載させて頂きます。