Tiny Dungeon Another Story 作:のこのこ大王
大雨の日の翌日。
俺は、周囲からの視線に耐えながら
学園生活を送っていた。
それは何も今に始まったことじゃない。
人族である以上、どうしても
そういった視線を向けられてしまう。
だからと言ってはなんだが
それらの視線には慣れているはずだった。
しかし―――
今回の視線は、俺が今まで経験したどの視線とも違った。
亜梨沙「・・・」
フィーネ「・・・」
セリナ「・・・」
エリナ「・・・」
その視線には、種族差別なんてしないはずの
彼女達も含まれている。
誰もが無言で、こちらを睨んでいた。
理由は、実に簡単だ。
リピス「~♪」
隣でベッタリと甘えるように
くっついている、この小柄な猫。
彼女の行動で、今の状態があると言える。
それは、少し前。
朝の女子寮からだった。
第13章 狂気の序曲
今日の朝、いつものように支度を整え
寮の玄関前に行くと、いつも待ち合わせている
フィーネだけでなく、セリナとエリナまで居た。
フィーネ「おはよう、和也」
セリナ「おはようございます、和也くん」
エリナ「おはよう、和也」
和也「ああ、みんな。
おはよう」
亜梨沙「皆さん、おはようございます」
みんな、それぞれに挨拶を交わす。
今日も、いつも通りの朝だ。
挨拶も終わりそろそろ行こうかという話になった時
大階段から1つの団体が降りてくる。
それはリピス達、竜族の集団だ。
こちらに気づいたリピスが声をかけてくる。
リピス「おはよう、夫殿」
その瞬間、快晴の空に雷鳴が轟いた。
アイリス「おめでとうございます」
カリン「おめでとうございますです」
リリィ「おめでと~ございま~すぅ」
メリィ「おめでとうございます」
綺麗に揃った一礼と、祝いの言葉。
フィーネ「・・・」
セリナ「・・・」
エリナ「・・・」
亜梨沙「・・・」
和也「・・・」
一瞬何が起こったのか理解出来なかった。
俺達が呆然としている間に
こちらに歩いてきたリピスが
俺に腕を絡めると
リピス「さあ、行こうか夫殿」
そう言って歩き出そうとする。
亜梨沙「ちょ、ちょ~っと待って下さいっ!」
何とか我に返った亜梨沙が
リピスを呼び止める。
リピス「ん? どうした?」
亜梨沙「とりあえず説明ですっ!
説明をしましょうっ!!」
エリナ「そ、そうよっ!
説明を要求するっ!」
リピス「説明も何も、見たままだが?」
セリナ「意味がわかりませんっ!
もっと具体的な説明を要求しますっ!」
4人がリピスに食い下がってる。
その後ろで大人しいフィーネだが
フィーネ「・・・竜界は一夫多妻だからまだ大丈夫
・・・まだ諦めなくても大丈夫
・・・一夫多妻だからチャンスはあるもん」
ブツブツと何やら自分に言い聞かせるように
何かを呟いていた。
リピス「うむ。
和也が『家族になる』と言ってくれたのでな。
正式な婚姻は、少し先になるが
まあ、そういうことだと察してくれ」
亜梨沙「なっ!?」
エリナ「ウソッ!?」
セリナ「ホントですかっ!?」
フィーネ「まだ大丈夫だも~んっ!!」
一人だけ何か違う叫び声が聞こえた気もするが
リピスの話を聞いて、ようやく俺は意味を理解する。
確かに『家族になってやる』と言った。
それは、家族のような関係であり
あくまで擬似家族であって信頼関係の話だ。
しかしリピスは、それを『本当の家族』と
思っているようだ。
そして俺とリピスが本当の家族になるには・・・。
和也「って飛躍しすぎだろっ!!」
リピス「どうした?」
和也「いや、確かに家族になるとは言ったが―――」
リピス「まさか・・・違う、のか?」
急に泣きそうな顔になるリピス。
和也「いやいやいや。
確かに家族になるとは言ったんだが
ちょ~っと話が急すぎないかと―――」
リピス「家族になるのだ。
早い方がいいだろう。
・・・それともやっぱり私とでは嫌、なのか?」
和也「そ、そんなこと言ってないだろ。
別に嫌じゃないよ」
リピス「な、何だ。
私が一人でただ勘違いしていただけかと
思ってしまったではないか。
もう、困った夫殿だ」
先ほどの泣きそうな顔から
一気に嬉しそうな顔になり
更にギュッとしがみ付くように寄り添ってくるリピス。
耳は、ピコピコとせわしなく上下し
尻尾は嬉しそうにパタパタと左右に揺れている。
・・・何この可愛い猫。
思わずそう思えるほど
今までのリピスから、圧倒的にかけ離れた
甘えるのが大好きっ!!と全身で表現する
小柄な猫が、そこに居た。
そして状況に若干ついていけない
王女様達を置き去りにして学園へと歩く。
すれ違う人々は、珍しい出し物でも見るように
俺とリピスを見ている。
和也「あ、あのメリィさん?」
メリィ「はい、何でしょう?」
和也「これってかなり不味くないですか?
リピスって竜界ではアイドル的な人気なんですよね?」
メリィ「ご心配には及びません。
皆、こうなると理解しておりましたから」
和也「え?」
メリィ「以前に
『竜界においては和也様、有名なんですよ』
と話をしていたこと、覚えていらっしゃいますか?」
和也「・・・確か、そんなこと言ってましたね」
メリィ「リピス様は、我が竜界の王家である金竜最後の1人です。
もちろんこのまま絶滅というのは非常に困ります。
ですから、リピス様にはぜひとも跡継ぎをという声が
上がっています」
まあ、それはそうだろう。
王家の血筋が絶えることは、種族全体の衰退に繋がる。
・・・今の人界のように。
メリィ「ですから、理想としては
人族からお相手を探すべきだということで
竜族内は意見が一致しております」
これも当然だろう。
人族との間なら、子供が生まれにくい竜族でも
可能性が非常に高まるというのは
既に結果が出ている話だからだ。
メリィ「しかし、リピス様の意見に沿わないお相手では
子供どころか結婚生活まで立ち行かないでしょう」
会ったこともない相手であったり
どうしても相性が合わない相手と結婚なんて
そりゃ長続きしないだろう。
メリィ「ですから
1・人族で
2・リピス様のお相手に相応しく
3・リピス様が選んだお相手
であるのが理想です」
和也「・・・まあ、そうでしょうね」
メリィ「それでは、当てはめていきましょうか」
嬉しそうに話を続けるメリィさん。
メリィ「1番・和也様は人族なので問題ありません。
2番・和也様は風間家でも上位の位をお持ちで
人界を代表出来る立場にもいらっしゃいます。
3番・リピス様がご結婚を考えるほど仲が良く
リピス様に近い年頃の人族の男性は
和也様以外にいらっしゃいません」
和也「・・・」
メリィ「ですので、近い将来として
和也様とは、そういう仲になるものだと
誰もが思っておりました」
アイリス「はい、ですから何の問題もありません」
カリン「むしろ予定通りですっ!」
リリィ「竜界では、常識問題ですよぉ~」
昔、『竜界においては和也様、有名なんですよ』と
言われた時は、考えてもいなかったが
確かに絶滅するかどうかの王家の未来を考えるのは
種族としての急務だ。
そう考えると、前々から俺は
リピスの相手として候補に上がっていたということか。
ふとリピスを見る。
いつも見ていたリピスと違い
こちらを強く信頼してくれているのがわかる。
和也「(・・・まあ
そんな未来も、いいかもしれないな)」
雲一つない空を見上げると
何を悩んでいたんだと思えるほど
気持ちが晴れていく。
和也「(まあ、なるようになるさ)」
それに今更、リピスを手放そうとも思わない。
彼女と歩く今後の人生を少しだけ考えながら
学園の門をくぐっていった。
フィーネ達は、どうしていいのかわからず
混乱気味だったところから落ち着きを取り戻し
昼休みに入ったあたりからだったか
亜梨沙「緊急事態です。
対策を考えましょう」
この我が妹の言葉によって
一箇所に集まり、何やら相談事をしていた。
一夫多妻がどうとか聞こえてきている時点で
怪しさ爆発って感じではあるが・・・。
そして、その日の夜。
俺はいつもの場所でいつもの訓練をしていた。
やはり一人で剣を振っている瞬間は
余計なことを考えずに済む。
一番心が落ち着く時間でもある。
和也「ん?」
最近、誰かが見に来ることが
多くなったからだろうか。
何かの気配に気づいて声をかける。
和也「・・・そんなところで何をしてるんだ?」
すると茂みの中から出てくる影が1つ。
イリス「えへっ。
見つかっちゃったっ♪」
気配の主は、イリスだった。
和也「もっと堂々と会いにくればいいだろう?」
イリス「それじゃつまらないじゃない」
そう言ってこちらに近づいてくるイリス。
和也「・・・待ってくれ」
イリス「ん?
どうしたの?」
和也「・・・その血は何だ?」
それは、本当に偶然だった。
月明かりと彼女の手の位置で
見えてしまった、彼女の右手の内側に
ほんの少しだけあった擦れた血。
そして擦れ方で、彼女自身の血でないことは
スグにわかる。
イリス「ううん。
何でもないの」
手を隠すイリスの仕草で
俺は、嫌な予感を感じる。
イリスの動きは、何かあった場合に
スグに動けるように少し構えた感じにしか見えない。
それは、自分が嘘をついていると
認めているようなものだ。
和也「もう一度だけ聞く。
その血は何だ?
・・・頼むから答えて欲しい」
イリス「・・・ちょっとコケちゃったときに―――」
俺を見て、逃げ切れないと思ったのか
途中で嘘の言い訳を辞めるイリス。
イリス「・・・やっぱり和也は、凄いんだね」
和也「答えになってない。
・・・その血は、何の血だ?」
イリス「ちゃんと手も洗ったはずたったのになぁ」
和也「・・・答えてくれっ!!」
イリス「・・・急いでるって言ってるのに
しつこく絡んでくる連中が居たの。
許せないよね、私と和也の邪魔をするんだよ?」
和也「・・・まさか」
イリス「私と和也の世界に、あんなのいらないでしょ?
だから壊しちゃったっ♪」
和也「・・・何故、殺した」
イリス「だって、必要ないでしょ?
私達の世界は、もっと私達のためだけに
あるべきだもの」
和也「・・・どうして、そんなに簡単に殺したんだ」
イリス「和也なら解ってくれるでしょ?
だって、私の王子様だもん」
和也「・・・解る訳が無いだろうっ!!」
俺は、紅を抜く。
イリス「・・・どうして和也は
私に剣を向けるの?」
和也「・・・お願いだ。
これ以上何もせず、俺と一緒に来てくれ。
学園長やオリビアさんなら
キミを悪いようにはしないだろう」
イリス「・・・それは出来ないわ」
和也「・・・どうして?」
イリス「だって、私と和也の世界には
そんなの不要だもの。
みんな私と和也の邪魔ばかりする悪い人達ばかりよ」
和也「そんなことはないっ!」
イリス「私知ってるの。
学園長であり魔王妃でもある マリア=ゴア。
寮管理人でもあり神王妃でもある オリビア=アスペリア。
学園生徒であり、竜王女でもある リピス=バルト。
この3人は、特に悪い人。
真っ先に壊しちゃう必要があるって何度も聞かされたわ」
和也「それは違うっ!
あの人達は、信用できる人だっ!」
イリス「・・・ああ、そういうことか」
和也「・・・」
イリス「そういうことなのね。
可哀想な和也」
和也「何の話だ?」
イリス「悪い人達に操られているのね。
だから私に剣を向けるんだわ。
でも、心配しないで。
スグに私が助けてあげる。
悪い人達を全部壊して
その後で、2人で創りましょう。
―――私達だけの幸せな世界をっ!!」
突然の放たれる強力な殺気に
思わず後ろに数歩下がる。
イリスは、何時の間にか儀式兵装を手にしていた。
左手の大きな爪。
右手のトンファー。
足の足甲。
どれにも弾装らしきものがついていた。
つまり、全てが儀式兵装ということになる。
本来ありえないことだ。
儀式兵装とは、1人に1つだ。
それ以上は、魂を分割しすぎて
使用者の精神を蝕んでしまい、長くは持たないからだ。
そこで気づく。
もしかして彼女は―――
イリス「ごめんね、和也。
少し痛いかも知れないけど我慢してね。
これも悪い人達から和也を護るためなのよ」
その言葉の瞬間―――
イリスの姿が消えたと思ったら
もう目の前まで踏み込んできていた。
左手の大きな爪の一撃を紅で受け止める。
和也「―――ッ!?」
受け止めた瞬間から削られる刀身。
スグに持たないと判断して何とか身体を捻って避ける。
そこへ今度は、右手のトンファーが迫ってくる。
刀身の再構成する時間すら無かったため
片手で鬼影を抜くと、鬼影で受け止める。
しかし竜族、しかも金竜の一撃だ。
威力を殺すことは不可能であるため
その一撃の威力を全て受け流す形で
大きくわざと吹き飛んで距離を取る。
イリス「あはははっ!!
凄いね、和也っ!!」
何が楽しいのか、その場で笑いながら踊りだすイリス。
イリス「世界は、これから変わっていくのっ!
もう少しよっ!
あと少しで、世界は私と和也のものになるっ!!」
その時、後ろの方で大きな爆発音が響いた。
和也「何だっ!?」
イリス「研究所に居た出来損ないのゴーレム達を
ぜ~んぶ開放したの。
邪魔な連中を全て綺麗にしてくれるのよ」
和也「・・・くそっ!!」
方角的に女子寮と学園の方角だ。
スグにでも走っていきたいが
目の前の彼女を何とかしなければ、どうしようもない。
イリス「さあ、和也。
一緒に行きましょう。
アナタと私。
2人だけの世界へ―――」
そう言って、こちらに左手を伸ばしてくる。
和也「・・・残念だな」
イリス「?」
和也「自分の左手を、よく見てみろ」
イリス「・・・あ」
彼女の左手は、儀式兵装の大きな爪の形になっており
とても手が握れる状態ではない。
和也「そんな手じゃ、解かり合えない。
手を取り合うことが出来ないよ」
イリス「・・・そんなことはないわ。
だから壊すんだものっ!!」
イリスが左手を横に振るうと
隣に立っていた大きな木が、軽々と吹き飛ばされる。
イリス「だから壊して創るのっ!!
2人だけの世界をっ!!
誰にも邪魔されない2人だけの未来をっ!!」
更に強くなる殺気は、もはや形を持った怨念のように
周囲を覆っていた。
こんな状況の中。
俺は、彼女を助けたいと思っていた。
きっと彼女は、被害者だ。
誰かに利用され、戦うことを強要され
踊り続ける哀れな人形。
だが俺は知っている。
ここ数日ではあったが、彼女と過ごした時間は
決して彼女が、ただの人形ではないことを・・・。
彼女の中には、ちゃんと普通の少女としての心が
しっかりと残っていることを。
和也「(・・・俺にどこまで出来るか解らないが)」
そう、俺に彼女を救うことは無理かもしれない。
でも、諦めたくなかった。
俺は、諦めるためにこの場所へ来た訳じゃない。
和也は、剣を構えた。
剣を自分の胸の前に垂直に構える。
和也「『この力を、守りたい全てのために』」
そして和也は、イリスに向かって走り出した。
第13章 狂気の序曲 ―完―
まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。
投稿ペースが遅れてしまい申し訳ありません。
最近、ロゼブル様から発売された新作とか
すたじお緑茶様から出た新作の南・・・
南斗六聖拳じゃなくて・・・
南斗聖帝十字陵でしたっけ?
(*南十字星恋歌です)
とか積みゲーを
消化してると時間無いですね・・・。
まあそれも半分ありましたが
前回があまりにも綺麗に終わったため
次回をどう繋げて展開しようか
非常に悩みました。
おかげで最後の展開を現在予定から
少し変更中です。
リピス編も、そろそろ終盤になってきました。
最後まで面白い展開に出来るように努力致します。
**こちらのサイト様専用のコメント**
フィーネ編に、一部コピペの際
謎に私のログイン情報とか一緒に添付されていました。
何だか申し訳ありません。
ただ、一言あるとすれば
『感想とかで教えてくれても、いいんですよ?(笑)』
いや、本当に自分で見つけた時は
非常に焦りました。
普段やらないことをやるとミスって
どうしても出るものですね・・・。