Tiny Dungeon Another Story   作:のこのこ大王

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第13章 決戦・学園都市 ―前編―

 

 薄暗い空に太陽が昇り始め、光が周囲を照らし出す。

 

 人々の叫ぶ声。

 走り回る足音。

 

 いつもなら静寂に包まれているはずの時間。

 だが、今日この日だけは違った。

 

 街の住人達が次々と集まってくる。

 そこは、学園都市の中心部にある城のような建物。

 

 ―――学園フォース

 

 次世代を担う優秀な若者を育てる人材育成機関。

 その優秀な生徒達は、学園中央広場に整列していた。

 

 いつもは自信に満ちている生徒達だが

 今は皆、険しい表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

第13章 決戦・学園都市 ―前編―

 

 

 

 

 

マリア「―――以上が、諸君らを取り巻く状況だ」

 

 説明を終えた学園長の話に、ざわめきすら起きない。

 声すら出ないのだろう。

 

 俺ですら、その状況に言葉を失う。

 

 この学園に、現体制に反対する勢力が攻めてくるというのだ。

 しかもその数は、こちらの5倍ほどだという。

 

 戦争も終わり、誰もがそんなことをする奴なんて居ないと

 思っていたに違いない。

 

 しかも相手は、こちらの皆殺しを目的としており

 学園都市を包囲するように軍団が迫ってきているというのだ。

 当然、逃げ道もない。

 

 更に悪いことに、四界それぞれに対しても攻撃を行っており

 その影響で、学園都市に来れる援軍など無い。

 

 全ての状況が、絶望的な戦いだといっている。

 

リピス「まあ、君らが絶望するだろうとは予想していた。

    だが、それでもこうして話しているのは何故だと思う?」

 

 唐突なリピスの質問に広場は、ざわつき始める。

 

リピス「・・・ハッキリと言わせてもらう。

    我々には、既に逃げ場などない。

 

    戦うか、抵抗せず殺されるかの

    どちらかを選べと・・・そういう話だ」

 

 その言葉に、泣き出す女生徒も居る。

 パニックになって叫ぶ生徒も出始める。

 

リピス「まだ戦って生き残る道を選ぶ者が居るのなら

    我々と共に戦って欲しい。

 

    だが戦う意思の無い者は、今すぐここから出て行くがいい。

    ・・・もっとも、逃げ場など無いがな」

 

オリビア「彼女の言葉は、少し厳しいかもしれないけれど

     事実として、私達は戦わなきゃならないわ」

 

マリア「でなければ、ただ殺されるのを待つしかないのだからな」

 

セオラ「皆さんっ!!

    今まで何のために辛い授業を耐え抜いてきたのですかっ!?

    何のために、強くなろうと武器を手にしたのですかっ!?

 

    もう一度、それを思い出してくださいっ!!」

 

マリア「残念ながら、私は最後まで諦めるつもりはない。

    力を持たぬ街の住民達を守れるのは、我々だけだからな」

 

リピス「しかも、こちらは勝つ必要はない。

    四界最高峰の防御力を持つ、このフォースで防衛をしているだけでいい。

 

    それだけで相手の負けとなる」

 

オリビア「それに相手の数が多いと言っても

     大半がゴーレムによって構成されているの。

 

     無理せず防衛に徹すれば、それほど難しい戦いではないわ」

 

リピス「もう一度だけ言おう。

    無理に戦う必要はない。

    戦う意思のある者だけ、この場に残ればいい。

 

    戦う意思の無い者は、街の住民達と一緒に

    フォース内部で大人しくしているんだな」

 

 3世界トップの話が終わると、周囲は静まり返る。

 

 皆、不安なのだ。

 

 戦うために学園で訓練してきたとはいえ

 今から行われるのは、本物の殺し合い。

 教科書の中だけで語られていた『本物の戦争』

 

 戦わなければならないという気持ちよりも

 死への恐怖が強いのだろう。

 

 ・・・そろそろだ。

 

 俺は、大きく息を吸い込んだ。

 そして―――

 

和也「・・・俺は、ここで戦うぜっ!!

   なぁ~に、1人5匹ゴーレムを倒せばいいだけだろ?

   何なら俺が50匹ぐらい倒してもいいんだぜ?」

 

 大きな声を出す俺に、皆の視線が集まる。

 

フィーネ「・・・そうね。

     和也が戦うのなら、私も戦うわ。

     それが、私の役目だもの」

 

亜梨沙「兄さんが戦うなら、妹も戦います。

    第一、逃げるなんて選択肢・・・誰が選ぶのですか?」

 

エリナ「私も当然、戦うっ!

    とっておきの魔法、全部まとめて喰らわせてあげるわっ♪」

 

セリナ「力の無い街の人達を見捨てるなんて出来ません。

    弱き人々を護ってこそ、フォースの生徒ですっ!」

 

ギル「そうだぜ、みんなっ!!

   俺達フォースの生徒が、戦う前から逃げ出すなんて

   そんなダサいこと、しないよなっ!!」

 

 俺の後に続いて、次々と声を上げる仲間たち。

 

 すると周囲が徐々に沸き立ってくる。

 

魔族男生徒「・・・俺も戦うぜっ!!

      人族なんかに負けてられるかよっ!!」

 

神族男生徒「俺達、神族だけでも撃退してやるよっ!!」

 

竜族生徒「リピス様と戦えるなんて光栄だわっ!!」

 

魔族女生徒「フォースに喧嘩売るなんて、ホントにバカな連中ねっ!!

      身の程って奴を教えてあげるわっ!!」

 

神族女生徒「所詮は、数だけでしょ?

      簡単に蹴散らしてあげるわっ!!」

 

 最後の方は、皆が叫び声を上げ

 大いに沸き立った。

 

マリア「では諸君っ!!

    戦いの始まりだっ!!

 

    諸君らの健闘を祈るっ!!」

 

 その言葉と共に、それぞれ持ち場へと向かうため

 生徒達は動き出す。

 

リピス「・・・ご苦労だったな、和也」

 

 いつの間にか隣に来ていたリピスが声をかけてくる。

 

和也「・・・あまりこういうのは好きじゃないんだがな」

 

リピス「そういうな。

    こうでもしなければ、死人が増えるだけだ」

 

 それは解っているのだが・・・。

 そう・・・先ほどのは、リピスに頼まれて行ったこと。

 

 つまり・・・扇動だ。

 

 こうしなければ唯一、戦える学園生徒がパニックになり

 最悪バラバラに逃げ出すだろう。

 

 そうなったら最後、包囲され逃げ場の無い中を

 連携も取れずに、ただ殺されていくだけ。

 

 それだけは避けなければならない。

 だからこそ、皆が自主的にやる気が出るように仕向けたのだ。

 

リピス「言いたいことは理解出来るが

    その話は、戦いが終わった後で聞こう。

 

    今は、先にやるべきことがある」

 

和也「・・・そうだな。

   まずは、生き残ることだ」

 

マリア「話は、終わったかね?」

 

 まるで見計らったかのように現れる学園長。

 

フィーネ「で、母様。

     実際はどうなのよ?」

 

マリア「ん?

    何がだ?」

 

フィーネ「相手のことよ。

     ・・・何か隠してるでしょ?」

 

マリア「ほぅ。

    お前にそんなことが解るなんてなぁ」

 

フィーネ「いったいどれだけ母様の娘をやってきたと思ってるのよ」

 

マリア「おや、嬉しいことを言ってくれるねぇ」

 

フィーネ「ちょっ!!

     いきなり抱きつかないでよっ!!」

 

 抵抗するも上手く抱きついた学園長は、全然離れる気がないようだ。

 

オリビア「あら、仲が良いわね」

 

エリナ「お母さんっ!」

 

セリナ「どうしたんですか?」

 

オリビア「アナタ達に、先に謝っておこうと思って」

 

セリナ「謝る?」

 

オリビア「今回の騒動を起こした中心人物達は

     大戦争を生き抜いた精鋭なの。

     だから、みんなにお願いしなきゃならないわ」

 

エリナ「もしかして・・・相手はもう解ってるの?」

 

オリビア「それは・・・」

 

 言いたくないのだろうか。

 明らかに言葉に詰まる神王妃。

 

マリア「神族軍・第3特別遊撃隊、という部隊を知っているか?」

 

 それを見かねてか、横から話に入ってくる学園長。

 

エリナ「何か聞いたことがあるんだけど・・・」

 

セリナ「・・・確か、停戦命令を無視して

    戦い続けた部隊、だったと聞いたことがあります」

 

エリナ「あっ。

    そうそう、それだよっ!」

 

リピス「奴らは、停戦を無視して戦い続けた。

    その結果、四界会議で奴らの『処分』が決定。

 

    そして大半のメンバーを『処分』した」

 

マリア「だが、残念なことに

    肝心な中心メンバーには逃げられてしまってな。

 

    それ以降、奴らの足取りは不明だった」

 

和也「・・・なるほど。

   つまり、攻めてくる相手は元神族軍であり

   目的は・・・復讐ってところですか」

 

マリア「復讐なら、まだマシだったのだがな」

 

和也「他に目的が?」

 

リピス「奴らの最終目的は、大戦争を再び起こすことだ。

    この学園を襲うのは、あくまでそのための準備さ」

 

和也「・・・ふざけた連中だ」

 

マリア「そのふざけた連中を婿殿達に倒して貰いたい」

 

セリナ「私達が・・・ですか?」

 

リピス「そうだ。

    フォース防衛は、生徒達と魔王妃どの・神王妃どのに任せる。

 

    我々は、敵側の主メンバー達を狙って襲撃する」

 

フィーネ「私達だけで突撃するの?」

 

エリナ「それは、さすがに無謀じゃない?」

 

セリナ「エリナちゃんから、そんな言葉が出るなんて・・・」

 

エリナ「ちょっとそれはどういう意味っ!?」

 

亜梨沙「・・・日頃の行い、じゃないでしょうか」

 

和也「・・・そうだろうな」

 

エリナ「みんな、何気に酷いよっ!」

 

オリビア「まあ、みんな仲良しなのね」

 

マリア「皆、程よく和んだところで作戦を説明する。

 

    まず防衛に関して。

    都市全域は広すぎるため、街の住民全てを現在フォースに収容している。

    防衛も一番防衛のしやすいフォースのみで行う。

 

    だが、都市そのものを簡単に放棄するのも惜しい。

    よって放棄する都市をトラップとする。

 

    相手の主メンバーは、それぞれ別々の場所から

    フォースを目指して進行してくることになっている。

 

    それをトラップで利用して足止め、隔離を行う。

    隔離が成功したタイミングで攻撃を仕掛けて討ち取るという予定だ」

 

フィーネ「それって全員で一気に仕掛けるの?」

 

マリア「いや、どのタイミングで相手がトラップにかかるか解らない。

    賭けにはなるが、それぞれに分かれて戦ってもらうことになる」

 

リピス「そういう意味でも中途半端な奴に任せる訳にはいかないんだよ」

 

和也「なるほどな」

 

マリア「我々が残してしまったものの後始末を

    婿殿達や、学生らにさせるのは心苦しいが

    そうも言っておられんのだ」

 

オリビア「私達が直接出られればいいんだけど・・・」

 

リピス「2人は、後方から全体指揮と援護を担当してもらうことになっている。

    そうでなければ、防衛線など簡単に崩されてしまうからな」

 

 いくら優秀な生徒が集う場所とはいえ

 本当の殺し合いを経験したことがない学生だ。

 

 影響力の大きい2人が指揮を執るという安心感。

 防衛線全てを援護出来るだけの判断力と戦闘力。

 

 これらを満たせるのは、この2人だけだろう。

 

マリア「既に準備は、済ませてある。

    あとは・・・婿殿達次第だ」

 

和也「・・・拒否権なんて無いんでしょ?」

 

マリア「あっはっはっはっはっ!

    察しが良いのは嫌いじゃないぞ、婿殿」

 

フィーネ「ホント、母様は強引なんだから」

 

セリナ「でも、私達にしか出来ないことです」

 

エリナ「なら、やるしかないよね」

 

ギル「いいね、いいね。

   こういうの俺は、大好きだぜっ!!」

 

亜梨沙「・・・ああ、居たんですか」

 

ギル「ちょっ!?

   それってひどくないっ!?」

 

フィーネ「静かだから、てっきり逃げたかと思ったわ」

 

エリナ「私も、どこか防衛に行ったと思ってたよ」

 

リピス「まあ、これこそ日頃の行いだな」

 

ギル「いやいやいやっ!

   ちょっと俺の扱い悪くないっ!?

   セリナ姫も、そう思うでしょ!?」

 

セリナ「・・・えっと」

 

 苦笑いで誤魔化すセリナ。

 

 そして周囲に起こる笑い声。

 皆、いつも通りだ。

 これならいけるだろう。

 

和也「よし。

   じゃあみんな、行くぞっ!!」

 

 俺の掛け声と共に、皆は

 それぞれの場所へと走っていくのだった。

 

 

 そのころ、学園近くの森を進む集団があった。

 

?「さて、もうスグ学園都市とやらか。

  アイツら本当に来るんだろうなぁ・・・」

 

 大きな身体をした大男が、そんな言葉を口にしながら

 森の中を歩いていく。

 

?「少し予定よりも早いが・・・まあいいか。

  先に俺が皆殺しにしても問題ないだろう。

 

  遅れてくるアイツらが悪いんだからな」

 

?「なら、先にアナタが死んでみますか?」

 

?「!?」

 

 急に聞こえてきた声に周囲をうかがう大男。

 

?「元神族軍・第3特別遊撃隊の『切り込み隊長』と呼ばれた

  ガルス=ディーランですね?」

 

ガルス「誰だっ!?

    姿を見せやがれっ!!」

 

 大声で叫ぶも誰も姿を見せない。

 

?「ふふふっ。

  何を怯えているんですか?」

 

ガルス「俺が怯えてるだとっ!?

    ふざけやがって・・・。

    誰だか知らんが、お前から殺してやるよっ!!」

 

?「そうでなくては困ります。

  ただ逃げ回るだけの相手は、つまらないですからねっ☆」

 

 ガルスの周囲のゴーレム達が戦闘態勢に入る。

 だが、その瞬間―――

 

 呪文を発動させる声と共に

 攻撃魔法が雨のように飛んでくる。

 

 ガルスは咄嗟に防御魔法を展開して防ぐも

 ゴーレム達は、そうはいかない。

 

 周囲のゴーレム達は、一瞬で全て撃破される。

 

ガルス「くそっ!!」

 

 思わず舌打ちをするガルスの前に

 ようやく人が現れる。

 

ミリス「さて、素敵な悲鳴を聞かせて下さいねっ☆」

 

 姿を現したのは『紅の死神』と呼ばれる少女。

 

 ミリス=ベリセンだった。

 

 

 

 

 

第13章 決戦・学園都市 ―前編― ~完~

 

 

 




ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

相変わらず色々とあり、投稿遅れ気味で申し訳ないです。
本当に今年の冬の風邪は、完治してくれない・・・。


本編のセリナ編も、あと2章となりました。
逆に2章で終われるのかというぐらいに
話がまだ、まとまっていない状況なので
現在進行形で考えています。

セリナ編もそうですが、最終編もありますので
まだまだ先はあります。

よろしければ最後までお付き合い頂けると幸いです。

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