Tiny Dungeon Another Story 作:のこのこ大王
1000文字を超えないと1話と出来ないため
非常に残念ですが冒頭部分に
第■■章 与えられた可能性
を強引に入れさせて頂きました。
章管理を利用して演出したかっただけに
ちょっと残念です。。。
第10章 風間の里
第■■章 与えられた可能性
それは、本来なら訪れることはなかったであろう時間。
可能性として存在しながらも、選ばれることは
まず無いと言えるほどの小さなもの。
少女「・・・変化が必要なのかな」
そんな僅かな選択肢への道を手にした少女は呟く。
彼女の前に何かが落ちてくる。
大きな音と共に落ちてきた何かが、ゆっくりと動く。
それは、人。
全身は既にボロボロにも関わらず
その瞳には決して揺らぐことがない意思が感じられる。
左手には、刀身が炎魔法で生成されている魔法剣。
右手には、どこまでも深く、暗い闇を想わせる漆黒の刃。
その瞳の先には、まるで山のように大きな巨体を動かしながら
ゆっくりとこちらに迫ってくる巨大な何か。
それを見据えると、剣を突き出し構えを取る。
少女「私に残された力も時間も僅か。
・・・なら、諦めるのではなく挑むこと。
・・・最後までもがき続けることが大事。
それは、私の存在理由でもあるのだから」
?「・・・その通りだ。
たとえ決して訪れることがない可能性であったとしても
俺は、絶対に諦めないッ!!」
そんな気迫と共に発せられた言葉に
少女は驚き、そして微笑んだ。
いくつもの希望と絶望を見てきた彼女にとって
それは、今までとは違う輝きを放つ宝石。
だからこそ、彼女は賭けてみようと思った。
少女「・・・微弱な可能性だからこそ
その変化は大きいものとなる。
それがどういう影響をもたらすのかは
誰にも解らない。
・・・けれど、だからこそ
試す価値は十分にある」
手にしていた小さな可能性が、光を発して輝きだす。
少女「たとえ失敗しても・・・。
いえ、彼女ならきっと・・・」
―――そして全てが光に包まれた
第■■章 与えられた可能性 ~完~
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下記より第10章 風間の里
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俺は、大きく深呼吸をした。
そして―――
和也「―――!?」
決意を胸に閉じていた瞳を開けた瞬間だった。
それは、何もない空間だった。
一面何も無く、ただ地面のような白い大地が
広がるのみだ。
空は、夕暮れのように染まっている。
和也「・・・」
正直、訳がわからない。
先ほどまで、夜の丘に居たはずだ。
ゴーレムどもの姿も見えない。
魔法による幻影かとも考えたが
幻影なら魔眼が勝手に反応する。
しかし魔眼は、何も反応しない。
恐らく、今の俺は
相当に間抜けな顔をしているだろうと
自分でも解るが・・・。
和也「一体、何なんだよ・・・」
もう考えることを放棄したくなった時
?「ごめんなさい。
でも、これで大丈夫なはずだから」
突然、後ろから聞こえた声に
振り返ろうとした瞬間
意識が、ぷっつりと切れた。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
?「―――さん」
誰かが呼ぶ声が聞こえる。
その声は、いつも聞き慣れた声。
すぐに誰だか理解する。
亜梨沙「兄さん、大丈夫ですか?」
優しい声に誘われるように、ゆっくり目を覚ます。
和也「・・・ああ、亜梨沙か」
目の前に亜梨沙の顔が見え、安心する。
その瞬間に全てを思い出し、勢い良く起きる。
亜梨沙「・・・もう。
びっくりするじゃないですか、兄さん」
亜梨沙の苦情を無視して周囲を見る。
良く晴れた快晴の中を馬車の荷台で揺られているようだ。
あの一面が■■大地と夕暮れの■に覆われた
訳のわからない場所でも、■■■■達と戦おうとしていた
■の■でもない。
和也「―――えっ?」
思い出そうとして記憶が抜け落ちていることに気づく。
和也「そんな馬鹿な・・・」
とても大事なことだった気がする。
もう一度思い出そうと考える。
しかし―――
和也「あれ?
何を思い出そうとしていたんだ?」
何を考えていたのかという根本から思い出せない。
この歳で、物忘れが激しいのは嫌だなぁ。
亜梨沙「ちょっと兄さん。
何時までこの可愛い妹を放置しておくつもりですか」
和也「・・・それ自分で言うのかよ」
まあ、確かに亜梨沙は可愛い。
顔も可愛いと美人の中間という感じで
あと数年もすれば、確実に美人になると言える整った顔立ち。
小柄ながらもスタイルは良く、胸も結構あるため
ぶっちゃけるとロリ巨乳に片足を突っ込んでいる感じだ。
本人は、胸が邪魔で刀が振りにくいなんて言っていたが
『それを 捨てるなんて とんでもないっ!』である。
全男子にとっての大注目カテゴリーに分類されているのだから
周囲の男共が、放っておくわけがない。
学園では人族ということで嫌われていたから解らないが
人界に居たころは、よく門下生を中心に告白されていたっけか。
毎日のように呼び出されての告白。
それが嫌になった亜梨沙は、ある日突然言い出した。
『最低限、私より強い人でなければ無条件で断ります』と。
当時は、まだ『名乗り』だった亜梨沙だが
それでも『名乗り』がそんなことを言い出したのだから
亜梨沙に好意を持っていた門下生達は
その日、お通夜のような状態だった。
一部、やる気が出た連中も居たらしいが・・・。
亜梨沙「それで、兄さん。
かなりうなされていましたが、大丈夫ですか?」
和也「・・・ああ。
何だかスッキリしないが、何とかな」
空から眩しい太陽の光が差し込んできて
思わず顔を逸らす。
それは、太陽が一番輝く季節である夏の
それも、とても暑い日のことだった。
なだらかな山の坂道を大きな荷台の馬車が
ゆっくりと進んでいく。
和也「・・・ところで、何でこんなところに居るんだ?」
亜梨沙「そんな質問をするなんて
本当に大丈夫ですか、兄さん?」
心配そうに冷たい水を差し出す亜梨沙。
それを受け取り、喉に流し込む。
冷たい水の感触と共に
頭の中が整理されていくような
意識がハッキリしてくるような
そんな感覚。
ある程度、水を飲んだところで思い出す。
和也「・・・ああ、そういえば」
何でこんなことを忘れていたのだろうと
疑問に思いながらも
そのまま馬車に揺られて、進むこと数時間。
ようやく目的地が見えてくる。
和也「ああ、やっと見えてきたか」
見えてきたといっても、まだはるか先ではあるが
大きな鳥居が見えてくる。
亜梨沙「・・・なんだか帰ってきたって感じがしますね」
和也「まあ、本当に帰ってきている訳だし
間違ってはいないよな」
亜梨沙「・・・兄さん。
それは、言っちゃダメですよ」
そう言いながら、何かを取り出す亜梨沙。
亜梨沙「さあ、兄さん。
先にご飯を食べてしまいましょう」
和也「ああ、そうだなぁ」
どうせ、あの鳥居までには
あと一時間はかかるだろう。
亜梨沙「はい、あ~ん」
途中の街で買った弁当から
漬物を掴んで近づけてくる。
和也「・・・だから、一人でも食べられるって」
亜梨沙「ダメですよ、兄さん。
私からでないと食べさせません」
ここ数日・・・というか
こうして移動中の数日間。
亜梨沙は妙に高いテンションで
やたらと絡んでくることが多かった。
たしかに、ここ最近は
2人きりになることは、そう多くなかったが・・・。
仕方なく口をあけると、嬉しそうに
漬物を口に入れてくる亜梨沙。
亜梨沙「はい、じゃあ次。
これにしましょう」
今度は、薄味の漬物を口に入れてくる。
亜梨沙「・・・う~ん。
では、今度はこれです」
そして次に酸っぱめの漬物を入れてくる。
亜梨沙「次は~・・・。
この子にしましょう」
そう言いながら白い漬物を箸で掴む亜梨沙。
和也「・・・漬物率、高くね?」
亜梨沙「やだな~、兄さん。
気のせいですよぉ~」
和也「気のせいで
口の中が漬物だらけにならねぇよ」
バリバリと歯ごたえバッチリな漬物を噛み砕いていく。
様々な味の漬物が混ざり合って、何とも言えない味になる。
そんなやりとりをしながら食事を済ませると
俺達は、ようやく巨大な鳥居の前に到着する。
ここまで乗せてくれた馬車のおっさんに礼を言うと
改めて鳥居の奥に続く長い道を見る。
周囲に人気が一切無い山奥にも関わらず
この場所だけ、綺麗に草木が整理され
明らかに人の手が入っていくることが解る。
和也「ここも相変わらずだなぁ」
亜梨沙「そうですね。
・・・では、行きましょうか」
そうして2人は、奥へと歩き出す。
第◆▼章 к¢ж―――ё§Ω―――
「理の外れを―――」
『―――違い―――だけ―――』
「―――修正を―――影響―――」
『まだ―――絶望が―――』
「―――認めず―――裁きを―――」
『―――は――――――つもり―――』
連結
修正
確認
?「簡単に割り込めると思わないで欲しいわ。
だって、ここからが『反撃』ですもの。
・・・そうでしょう? 和也」
第10章 風間の里
和也「―――」
ふと周囲の景色が一瞬だけ歪んだように見えた。
それは、とても見覚えがあるのだが
同時にひどく気持ちが悪い風景で―――
亜梨沙「どうしたのですか、兄さん?」
和也「・・・いや、何でもない」
旅の疲れでも出たか。
そう自分に言い聞かせ、亜梨沙に追いつくために
少し速めに歩く。
しばらく歩いたところで大きな門のある
1つの街に到着する。
門兵A「・・・あっ!
お帰りなさいませっ!!」
門兵B「お久しぶりですっ!!」
見知った門兵達が声をかけてくる。
亜梨沙「ええ、久しぶりです」
和也「久しぶりだな」
彼らは昔、共に道場で汗を流した仲間だ。
今でも定期的に道場に通っているらしい。
門兵達と挨拶を交わしながら門を抜ける。
少し古いと感じる昔ながらの街並みが広がり
懐かしい気分にさせてくれる。
そう、ここは人界。
風間の里と呼ばれる山奥の街。
俺が育った場所の1つであり
亜梨沙の生まれ故郷だ。
俺達は、学園の長い夏季休暇を利用して
一度、風間の里に戻ってきていた。
まあ出発前から、フィーネ達が付いてこようとして
色々とゴタゴタがあったが・・・。
最後には、捨てられた子犬のような瞳で
見送る彼女達を何とか振り切って
ようやくという感じではある。
非常に精神力を削られた事件を思い出し
感傷に浸っている間に、街の中心にある
巨大な屋敷が見えてくる。
その屋敷の正面入り口から入った瞬間だった。
?「どうした、どうしたっ!!
気合が、根性が足りておらんぞぅ!!」
屋敷中に響きそうなほど大きな声が
聞こえてくる。
その声を聞いて亜梨沙と顔を見合わせる。
和也「・・・ああ、大吾さんか」
亜梨沙「・・・ああ、根性の人ですね」
2人で声を揃えて同じ人物を思い浮かべ
和也「まあ、とりあえず・・・」
亜梨沙「・・・面倒なのでスルーしましょう」
そして同じ結論に至る。
入り口横にある巨大な道場を避けるように
一切無視して奥へと進む。
そして敷地の奥に立つ、年季の入った平屋に入る。
亜梨沙「ただい―――」
挨拶をしようとした亜梨沙だったが
?「お帰りなさい、亜梨沙ちゃんっ!!」
突然飛び出してきた和服姿の女性に抱きつかれ
身動きが取れなくなる。
亜梨沙「ちょ・・・ま」
言葉を発しようもガッチリとホールドされており
興奮気味に抱きついている女性は、離れる気配がない。
和也「・・・相変わらずですね、夏美さん」
夏美「あら、カズ君もお帰りなさい」
この人は、風間 夏美さん。
亜梨沙の母親だ。
和也「そろそろ離してやらないと
亜梨沙が苦しそうですよ」
夏美「あら、いけない」
亜梨沙「はぁ・・・はぁ・・・」
ようやく濃厚な抱きつきから開放された亜梨沙。
ちなみに毎回このようなやりとりをしている。
夏美「長旅で疲れたでしょう?
すぐにお茶を用意するわね」
そういって、奥へと消えていく夏美さん。
相変わらずだなぁと思いながらも居間へと移動する。
居間に入ると見知った顔があった。
机を挟んだ正面に座ると一礼する。
和也「只今、帰りました。
お久しぶりです、早雲さん」
亜梨沙「お久しぶりです、お父様」
早雲「久しぶりだね、2人とも。
元気だったかい?」
和也「おかげさまで、病気1つ無く―――」
亜梨沙「・・・ああ、もうダメ」
せっかく形式的な挨拶をしていたのだが
亜梨沙の奴が諦めて、その場で大の字に寝そべる。
早雲「ははは、そんなに疲れたのかい?」
和也「玄関で夏美さんにいつも通り抱きつかれてましたからね」
早雲「なるほど、それでか」
事情を聞いて、更に笑う早雲さん。
この人は、風間 早雲さん。
俺の両親の親友だった人であり
亜梨沙の父親。
そして風間流の師範を長年勤める
名実ともに風間家を代表する1人である。
見た目通りの柔らかな雰囲気を持つ人で
形式や習慣にも、そこまでうるさくない。
一見すると、とても戦士には見えない優男なのだが
師範を務めるだけの強さと信頼を持っている。
俺も一応は、師範ではあるけど
とてもではないが、この人と同格だとは思っていない。
夏美「あらあら。
女の子が、そんなはしたない格好をして」
お茶を持ってきた夏美さんに軽く注意されると
亜梨沙は、渋々といった感じで起き上がる。
亜梨沙「じゃあこうしてます」
そう言うと俺に抱きついて、もたれかかる。
和也「何でそうなるんだよ」
亜梨沙「いいじゃないですか。
たまにはこういうのも」
そんなにギュッと抱きつかれると
亜梨沙の胸が押し当てられて、柔らかな感触と
女の子特有というべきか、良い匂いが漂ってくる。
色々とヤバイ状況だ。
夏美「本当に、亜梨沙はカズ君が大好きなのね」
亜梨沙「そ~ですよ~。
もう、ずっとこのままでもいいですよ~」
完全にやる気が無くなっている亜梨沙。
まあ、ここまでダメ人間な感じになるのは
実家特有なので、そこまで注意することでもないのだが。
早雲「そういえば、当主様が
和也君が帰ってきたら
部屋に来るようにって言っていたよ」
和也「あのクソ爺、まだ生きていやがったか。
(御当主様も、お元気なのですね)」
亜梨沙「兄さん、本音と建前が逆ですよ」
早雲「ははは、相変わらず当主様が嫌いかい?」
和也「あの強引なやり方さえなければ
少しは、まともに相手することも考えますけどね」
早雲「確かに、少し強引だと感じる部分もあるが
それもあの方の魅力だと思えば、そう悪いことでもないだろう?」
和也「そう思えるのは、早雲さんぐらいですよ」
出されたお茶をゆっくりと飲む。
相変わらず夏美さんが入れたお茶は、美味い。
今のやりとりでも解るように
早雲さんは、夏美さんと結婚して風間の一員となった人だ。
2人は、昔からの幼馴染だったらしい。
和也「―――」
ふと、嫌な気配を感じて立ち上がる。
夏美「あら、どうしたの?」
和也「・・・ちょっとトイレへ」
そう言って部屋を出てトイレとは逆方向へと歩き出す。
夏美「・・・せめてトイレの方向に行って欲しいわ」
明らかな嘘に、夏美さんは子供のように頬を膨らませる。
早雲「まあまあ、夏美さん。
和也君の当主様嫌いは、今に始まったことじゃないでしょう?」
その言葉を聞いて、亜梨沙は
身なりを整えて正座する。
亜梨沙「・・・1人で逃げるなんて」
亜梨沙が、そう愚痴を言おうとした時だった。
居間に1人の老人が現れる。
源五郎「おお、亜梨沙か。
久しぶりじゃな」
亜梨沙「お爺様も、お元気そうでなによりです」
綺麗に一礼する亜梨沙を見て、満足そうに頷くと
周囲を見渡す。
源五郎「・・・和也は、どうした?」
早雲「いつも通り、というところですよ」
源五郎「・・・まったく。
その才能をもっと違うところで使えというのだ」
大きなため息をつく。
彼は、風間 源五郎。
風間の現当主にして、風間流最高師範。
現在の人界を統べる権力者でもある。
源五郎「夏美、ワシにも茶をくれ」
夏美「もう、お父様ったら」
苦笑しながらも、お茶を用意するために
一度、居間から出る夏美。
早雲「・・・しかし、和也君。
また一段と成長しているようでしたよ」
ふと、呟くように言った一言に
源五郎は、食いついた。
源五郎「ほう。
あ奴、また成長したのか」
早雲「ええ。
当主様の気配も、私より先に気づいたみたいです。
・・・少し、自信を無くしてしまいそうですよ」
源五郎「お前が、そんなことを気にするとはな」
早雲「私とて『師範』ですから」
源五郎「はっはっは。
確かに、確かに」
笑いあう2人の話を聞きながら亜梨沙は思う。
やはりあの人は、別格なのだと。
自分は、お爺様の気配なんてまったく感じなかった。
お爺様の気配に気づけるのは、お父様とあの人ぐらいだ。
それにお爺様以外に負けたことが無いお父様が
あの人のことだけは、今のように意識している。
亜梨沙「(私は、本当にあの人に追いつけたのかな・・・)」
ふと、そんな疑問を感じる。
同じ師範代になった時、追いついたと思っていた背中は
いつの間にか、また遠くなってしまったように感じる。
亜梨沙「(いつの間にか『師範』ですからね)」
そんなことを思いながら飲んだお茶は
いつもより少し苦く感じた。
その頃、山道を歩いていた和也は
ようやく目的地にたどり着く。
街から少し離れた場所にあるそこは
かつて集落があったことを思わせる
瓦礫が大量にあった。
燃えて炭になった柱なども
風化しながらも、当時のまま残っている。
その瓦礫の中にある草むらだらけになっている道を
適当に草刈りしながら進むと、目的のものを見つける。
和也「ただいま、父さん、母さん」
そこには、石が積まれただけの小さな墓。
挨拶を済ませると、周囲の雑草を刈り取り
石も磨いて綺麗にする。
全てを終えて、ふと良い風が吹いていることに気づくと
ゆっくり空を見上げる。
空は、すっかり夕日に染まっていた。
和也「・・・そろそろ帰るか」
あのクソ爺も、そろそろ諦めただろう。
そんなことを考えながら風間の里へと帰る。
里に着いたときには、すっかり夜になっていた。
少し早足で、風間家の門を抜けると
?「おお、そこに居るのは
もしかして和也か?」
少し大きめの声に呼び止められる。
和也「・・・お久しぶりです、皆さん」
声を聞いて、スグに大吾さんだと気づいたが
振り向いてみると、そこには何人もの姿が。
大吾「久しぶりだな、和也」
善影「久しぶりだね、和也くん」
春華「あら、久しぶりじゃないっ♪」
忠「帰ってきていたのか、和也」
彼らは、全員風間の中でも師範代と呼ばれる人達。
声も大きく大柄な人は、近藤 大吾(こんどう だいご)
長身で少し細身な人は、加藤 善影(かとう よしかげ)
長い髪をした少し若め女性は、西宮 春華(にしのみや はるか)
小柄ながらも渋い顔が印象的な人は、山本 忠(やまもと ただし)
この4人は、風間の里に住居があるため
風間の里と周辺の街の門下生達は
4人が面倒を見ていると言える状態だ。
早雲さんやクソ爺は
名乗り以上や師範代ぐらいの上位連中の相手を
基本的にしているため、それ以下は
師範代から教わることが一般的になっている。
久しぶりだとか懐かしいだとか言いながらも
スグに周囲を取り囲まれ、道場の中へと
連行されてしまう。
道場内は、練習終わりの門下生達が大勢おり
皆、口々に挨拶をしてくれる。
一連の挨拶攻撃がようやく終了すると
忠さんが木刀を投げてくる。
忠「さて、どれほど腕を上げたか
見せてもらおうか」
善影「何だ、忠。
去年負けたのが、そんなに気に入らないのか?」
忠「去年のことは関係ないさ。
純粋に、どれだけ強くなったのか知りたいだけだ」
大吾「はっはっは。
そう言いながら、しっかり勝つつもりだろう?」
春華「まったく、これだから男共は。
和也だって長旅で疲れてるよね?」
そう言いながらギュッと俺を抱きしめ離れてくれない春華さん。
昔から、お姉さん的な感じで面倒を見てくれた人であるが
この抱きつき癖というか、常に抱きついてくるのが困る。
おかげで亜梨沙と、よく一緒になって抱きつかれ
周囲の男共に嫉妬という名の殺気を向けられて、苦労したものだ。
そして少し年上のお姉さん的な女性に抱きつかれて
反応しない男は普通、居ないだろう。
思春期の男にとって、まさに拷問だった。
まあ、おかげでフィーネ達に抱きつかれても
色々と我慢出来ているのだが・・・。
忠「春華は、さっさと和也を離せ。
勝負が出来ないだろう」
春華「あら、私にそんな口聞いていいのかしら?」
忠「な、何だよ」
春華「先月だったかしら。
月見堂の看板―――」
忠「ちょっ!
何でお前っ!?」
善影「お、何だ。
気になるじゃないか」
忠「気にしなくていいんだよっ!!
というか春華っ!!
何でお前・・・」
春華「私、あそこの常連だからねぇ」
月見堂というのは、この街にある
人界でも有名な甘味処だ。
月見堂のために何時間もかけて
この里に来る人も居るほどで
特に女性に大変人気な店である。
善影「話が途中だと気になるじゃないか。
構わん、春華。
話を続けろ」
忠「待て待て待てっ!!
勝手に話を―――」
こちらに詰め寄ってこようとした忠さんだったが
大吾「ワシも気になる。
というわけで忠は、大人しくしておけ」
大吾さんという大柄な筋肉に捕まり
あっという間に身動きが取れなくなる。
春華「月見堂の看板娘の―――」
忠「むぐぅっ!!」
口まで抑えられ、話を止められない忠さんは
それでも懸命にもがく。
しかし大柄で力もある大吾さんを振り解くことは
不可能であり、この時点で既に絶望的な状態である。
結果として、門下生達もいる道場内で
盛大な忠さんの失恋話が始まる。
そして・・・。
忠「・・・」
精神力をガリガリと削られた忠さんの
燃え尽きた姿だけが残った。
他人事ではあったが、これはひどい罰ゲームである。
善影「はっはっは。
その顔は、確かに『おじさん』だな」
大吾「でもまあ、本格的に声をかける前でよかったじゃないか」
春華「そうよねぇ。
これが本気で口説く前だったから、まだ笑い話で済んでるのよ」
要約すると、月見堂に看板娘と呼ばれる可愛い娘が居るらしい。
その娘に好意がある忠さんが頑張って声をかけたらしいが
『おじさん』扱いを受けたとのこと。
その予期せぬカウンターにやられて、口説く前に
精神的ダメージで撤退したらしい。
渋い顔をしてはいるが、忠さんは、春華さんや善影さんと同じく
まだ20代と若いのだ。
しかしその顔のせいで、よく+10歳以上勘違いされることがある。
門下生達は、それぞれに反応しているが
大半は、笑っている。
残りも『俺もその娘を狙ってる』という連中ばかりなので
何か攻略のヒントがないかと聞き耳を立てているという感じだ。
春華「まあ、声をかけたいなら
私に言えばよかったのに。
紹介ぐらいならしてあげたわよ」
忠「ほ、本当かっ!?」
一部の門下生達も、一斉に中腰で前のめりになる。
春華「だって、もうあの娘とは友達だもの」
忠「な、ならぜひっ!!」
春華「う~ん。
ど~しよっかなぁ~?」
忠「・・・月見堂の抹茶パフェ」
春華「・・・サイズ大なら」
忠「・・・仕方ない、それで手を打とう」
こうして、謎の取引が行われた。
夏美「あらあら、何だか今日は賑やかね」
道場の入り口から現れたのは、夏見さん。
道場の横では、庭に運び込まれる大量の鍋。
夏美「あら、カズ君。
道場に居たのね。
お父様が探してらっしゃったわよ」
『困った子ね』とでも言いたげな感じで
苦笑している夏美さん。
和也「あのクソ爺。
まだ諦めてなかったのか」
春華「和也の最高師範嫌いも
相変わらずなのね。
大丈夫よ。
お姉ちゃんは、和也の味方だから」
善影「相変わらずの言い方だな。
俺達じゃ、恐れ多くてそんなこと言えないぜ」
忠「まったくだ。
そんなこと言おうものなら
命がいくつあっても足りないところだ」
大吾「まあ、若さというものは
そういう無鉄砲さでもあるからな。
善影なんぞ、子供のころから―――」
善影「ちょっと大吾さん。
どうして俺の話になってるんですかっ!」
夏美「はいはい。
話は、別に食べながらで構わないから
全員ちゃんと受け取ってからにしてね」
やんわりと釘を刺す夏美さんに
皆が庭に出る。
庭では、既に多くの門下生が夕食を受け取り
食べているところだった。
風間では、はるか昔から
一族や門下生達を養うために
食事を提供するという習慣がある。
人間、食事さえ何とかなれば
剣を握っていられるものだ。
そうして剣を磨き、戦場で活躍して出世し
金も権力も手にした者達が
風間への恩を返すために色々と援助する。
それが繰り返された結果、今の風間の繁栄がある。
クソ爺の顔を見ながら食事をする気になれない俺は
そのまま門下生達との食事に混ざる。
料理を受け取り、縁側に座った時
隣に当たり前のように座る気配が一つ。
亜梨沙「どうしてこっちで食事をしてるんですか?」
和也「そういう亜梨沙だって、料理持ってるじゃないか」
亜梨沙「兄さんの妹ですからね。
兄さんがやりそうなことは、解ります」
和也「・・・そっか」
それ以上は、何も言わずに料理を食べる。
・・・それは、とても懐かしい味だった。
途中、大吾さん達に亜梨沙も見つかり
みんなの輪の中へと引っ張っていかれた。
そしてみんなが笑いながら食事を楽しんでいた。
それを見ながら考える。
何時までもクソ爺を避けている訳にもいかない。
どのタイミングで攻撃を仕掛け・・・
・・・どのタイミングで倒し―――
えっと、アレだ。
挨拶。
そう、挨拶をするかだ。
和也「めんどくさいなぁ」
夜空の月に向かって、小さく呟く。
しかし和也の悩みなど関係なく
月は綺麗に輝いていた。
第10章 風間の里 ~完~
まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。
人界:亜梨沙編のスタートとなります。
本来原作は4部作であり、この4択目から最終に向かう
話になっていましたが、このAnother Storyでは
更に個別編を1つ追加するという茨の道に
自分から突入しました(笑)
仕事や私用の関係上、投稿がペース通りに
ならないことも多々ありますが
よろしければ、次話も気長にお待ち頂けると幸いです。