Tiny Dungeon Another Story   作:のこのこ大王

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第12章 紅色の月

 

 

 

 その日は、雲1つ無い空に月が輝いていた。

 

 虫の鳴き声だけが聞こえる街の外。

 

 しかし、その静寂を悲鳴が切り裂く。

 

?「ぎゃぁぁぁぁっ!!」

 

 断末魔と共に倒れる男。

 

?「へへっ、逃げ切れると思ってる時点で

  甘いんだよ」

 

 既に死んでいる男に対して、そう言葉をかける人影。

 

?「ちっ、先を越されちまったか」

 

?「くそっ。

  今回は、お前の勝ちかよ・・・」

 

 少しして、数人の人影が集まると

 何やら小さな袋をやり取りする。

 

?「よし、これで今までの出費を取り戻したぜ」

 

?「俺は、これで赤字じゃないか」

 

?「次は、俺が頂くから覚悟してな」

 

?「あ・・・あのぅ・・・」

 

 盛り上がる彼らから少し離れた位置に居た人影が

 申し訳無さそうに声を出す。

 

?「ああっ!?

  何か文句でもあるのかよっ!」

 

?「い、いえっ!

  そ・・・そう、言う、訳・・・では」

 

?「だったら何なんだよ」

 

?「こ、これ以上は・・・その・・・。

  あまり、派手に動かない方が・・・その・・・」

 

?「俺達に指図しようってのかっ!?」

 

?「いえいえっ!!

  滅相もないっ!!」

 

?「だったら、何なんだよ」

 

?「か、風間の里から今回の事件に対して

  その・・調査が入りまして・・・」

 

?「それがどうしたってんだよ」

 

?「そ、その。

  調査に来たのが・・・風間の・・・その。

  師範代・・・でして・・・」

 

?「師範代?

  何だそりゃ?」

 

?「俺は聞いたことがあるぜ。

  何でも人界で『風間』とかいう集団がいて

  相当強いとか。

  中でもその師範代とかいうのが、強いらしい」

 

?「え、ええ。

  で、ですから、これ以上は騒がない方が―――」

 

?「ほぅ。

  面白いじゃないか」

 

?「へ?」

 

?「雑魚ばっかりで飽きてきたところだったんだ。

  お前ら、今度の獲物はその『師範代』とやらにしようぜ」

 

?「ああ、そりゃいいな」

 

?「いやいやいやっ!!

  師範代達は、普通の人族では―――」

 

?「うっせぇ!!

  黙ってろっ!!」

 

?「ひ、ひぃぃぃ」

 

?「よし、決めた。

  次は『師範代』とやらが獲物だ。

 

  特別らしいから、次の掛け金は倍でどうだ?」

 

?「いいねぇ。

  そうこなくっちゃ」

 

?「おいおい、いいのか?

  次も俺の金になるんだぜ、それ?」

 

?「ぬかせ。

  次は、俺が勝つんだよ」

 

 夜の闇の中、光に照らされた集団は

 次の獲物をどうやって狩ろうかと

 ギラギラした目で街の方面を見ていた。

 

 その中で、一人だけ異質な者。

 ひたすら怯える者が居た。

 

?「・・・あ、ああ。

  わ、私は、どうすれば・・・」

 

 

 

 

 

 第12章 紅色の月

 

 

 

 

 

 快晴の空の下。

 無数の人が行き交い賑わう街。

 

 だがそんな街の一角だけ

 人が居なくなっていた。

 

忠「・・・こりゃひどいな」

 

 街外れの草むらにあった死体を見ながら忠は、呟く。

 

 周囲は、野次馬が来ないように街の警備兵達に

 囲わせている。

 

忠「無抵抗な相手を背中からバッサリってところだな。

  それに身体中に擦り傷も無数にある。

  ・・・必死で逃げてたんだな」

 

和也「・・・複数の足跡、か。

   見た感じ3~4人ってところかなぁ」

 

 現場から必要な情報を探し出す。

 本来なら、遺体を家族に返して早急に弔ってやりたいのだが

 そういう訳にもいかない。

 

 それに、犯人を倒すこと。

 それこそが、一番の弔いとなるだろう。

 

忠「・・・これは早急に手を打つ必要があるな」

 

 そう呟くと忠は、立ち上がる。

 

忠「・・・よし。

  こっちは、終わったぞ」

 

和也「こっちも終わりました」

 

忠「じゃあ、あとは警備兵に任せて俺達は

  作戦会議といきますかね」

 

和也「なら、昨日のあそこにしますか」

 

 警備兵に声をかけ、俺達は街へと移動する。

 

店員「いらっしゃいっ!

   適当なところに座っておくれっ!」

 

 元気の良い女性の声を聞きながら店の奥にある席へと着く。

 

 この席は周囲をよく見渡せるし、厨房が近く話し声が

 周囲に聞こえにくい良い場所だ。

 

 注文を済ませると、2人で芝居を始める。

 まるで本当にちょっとついでにこの街に立ち寄っただけの

 師範代と弟子を演じるためだ。

 俺があまりにも一般の弟子らしく、忠さんに投げっぱなしのためか

 忠さんが何度かジト目になるも、適当な雑談をしているうちに注文した料理が届く。

 

 それに手をつけたぐらいから

 どちらともなく真剣な話を始める。

 

忠「・・・で、『訓練の成果』はあったか?」

 

和也「そうですねぇ・・・。

   『3~4人』に相手してもらいましたけど

   やっぱり『人族じゃないぐらい』強かったですね。

   ただ『引き際や逃げ方が雑』だったので

   狙うとすれば、そのあたりかなと」

 

忠「俺の方も色々あったよ。

  竹刀を投げ捨てて逃げる『無抵抗な奴』を

  容赦なく追い詰めて『後ろから一撃』だ。

  ついつい、注意してしまったよ。

  『それなりの腕』があるんだから、もっと正面から

  戦えないのかってね」

 

和也「まあ、そういう奴ほど『目立ちたがり』だったり

   『自分の強さを自慢』したがるのが困りものですね」

 

忠「『お前もそう思う』か?」

 

和也「そうですねぇ。

   『その可能性が一番高そう』ではありますね」

 

 そこで一度会話が途切れる。

 そうなると箸も自然と進む。

 

 そうして食事を終え、俺は席を立つ。

 

和也「忠さんは、どうするんですか?」

 

忠「今日は、一杯『ひっかけて』いくよ」

 

和也「ほどほどにして下さいよ?

   じゃあ俺は、宿に戻って『勉強』してますよ」

 

忠「お前も頑張るねぇ」

 

和也「そりゃ、まだ学生ですからね」

 

 そう言って手を振りながら店を出る。

 

 和也と別れた忠は、別の店に入る。

 そこで適当に酒とつまみを注文して

 しばらく時間を潰し始める。

 

 和也の方は、宿へと向けて歩き出す。

 

 相変わらず多い人の波をすり抜けるように歩き

 曲がり角を曲がった瞬間だった。

 

?「きゃっ!」

 

和也「おっとっ!」

 

 急に飛び出してきた相手とぶつかる。

 

少女「ご、ごめんなさい」

 

 まるで顔を隠すように

 大きな手ぬぐいを頭からかぶっており

 その顔を見ることは出来ないが

 女物の着物を着ていることと

 声からして、年頃の少女だろうか。

 

和也「こちらこそ、悪かったな」

 

少女「あっ!」

 

 一瞬こちらを見た少女。

 その顔を見ることは出来ないが

 驚いたような声をあげた。

 

和也「ん? 何か?」

 

少女「い、いえ。

   急いでますので、これで」

 

 まるで俺から逃げるように走っていく少女。

 

 何だったんだと思いながらも

 歩こうとして、足元に何かあることに気づく。

 

 拾い上げると、それは小さな髪留めだった。

 

和也「・・・」

 

 それを手にした俺は、少女の走っていった方角に向けて

 ゆっくりと歩き出す。

 

 

 それから数時間後。

 

店員「ありがとうございました~」

 

 店員の声に見送られ、忠が店を出る。

 

 すっかりあたりは夜になっており

 街の雰囲気もすっかり変わっていた。

 

 まだ夜になったばかりだからか

 人の流れは、まだまだ多い。

 

忠「さて、行くか」

 

 そう呟くと、少し酔った頼りない足取りで

 夜の街を歩く。

 

 ある程度歩いたところで

 ふらふらしながら人気の無い街の外れに

 出たあたりからか。

 

 周囲の空気が変化し、あれだけ居た人達もまったく居ない。

 そう思っていると、前から人影が近づいてくる。

 

忠「・・・」

 

 その大胆すぎる態度に、忠は軽くため息をつく。

 

魔族兵A「へっへっへ」

 

魔族兵B「聞いてた話と違って、随分と弱そうじゃね~か」

 

魔族兵C「まあ、少しぐらいは愉しませて欲しいもんだな」

 

 前から近づいてきたのは

 魔族であることを隠そうともせず

 あろうことか、儀式兵装を既に手にしているのだ。

 

忠「・・・お前らが、殺しの犯人か?」

 

魔族兵A「だったら、どうしたって言うんだ?」

 

魔族兵B「人族なんて、いくら殺したって問題ないだろ?」

 

忠「・・・そうか」

 

 先ほどまでのフラフラとした足取りではない

 しっかりとした立ち姿になる忠。

 

魔族兵C「お、やる気かぁ?」

 

 ニヤニヤとした笑みを浮かべながら

 魔族兵達は、武器を構える。

 

魔族兵A「せっかくだ。

    誰に殺されたいか、選ばせてやろう」

 

魔族兵B「俺を選べば、楽に殺してやるぜ?」

 

魔族兵C「何を言ってやがる。

    俺だ。 俺を選べって」

 

 そう言いながら忠に近づく魔族兵C。

 

 そして忠の肩に手を伸ばそうとした瞬間だった。

 

魔族兵C「・・・あれ?」

 

 確かに左手を伸ばしたはずだった。

 しかし視界に左手が無い。

 

 そして感じる左手の違和感。

 

 ふと視線を向けると―――

 

魔族兵C「な・・・なんだよ、これ」

 

 魔族兵Cの左手は腕ごと綺麗に無くなっていた。

 

 その状況を確認した瞬間

 

魔族兵C「俺の腕がぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 急激な痛みと共に派手に血が噴出す。

 

魔族兵A「なっ・・・」

 

魔族兵B「お前っ! 何しやがったっ!?」

 

忠「・・・」

 

 忠の手には、いつの間にか儀式兵装の刀が握られていた。

 

魔族兵B「何しやがったって聞いてるだろうっ!!」

 

 儀式兵装の剣を手に忠に向けて走ってくる魔族兵B。

 そのままの勢いで剣を振り下ろす。

 

 確実に捉えた一撃。

 しかし腕を振り抜いたはずなのに

 目の前の相手に、振り下ろされるはずの剣が降りてこない。

 

 違和感を覚え、ゆっくりと自身を確認する。

 そして気づく。

 

魔族兵B「う、腕がぁぁぁぁぁ!!!」

 

 自分の腕が綺麗に切り落とされていた。

 

忠「・・・で。

  もう終わりか?」

 

 殺気を含んだ眼に見据えられ

 魔族兵Aは、自然と後ろに足が下がる。

 

魔族兵C「よくもやりやがったなあぁぁぁぁ!!!」

 

 左腕を切り落とされた魔族兵Cが右手で剣を持ち

 切りかかってくる。

 

 剣を振りながら、忠の横を通り過ぎていく魔族兵C。

 横を過ぎてから数歩歩いたのちに、魔族兵Cは

 まるで電池の切れた人形のように不自然な体勢で動かなくなる。

 

 そして、ぽとりっと頭が転げ落ちた。

 

忠「口を割らせるのは、1人で十分だ。

  残りは全員、この場で死ね」

 

 そう言い放った一言で彼らは、ようやく気づく。

 

 これは、戦ってはいけない部類の相手だ・・・と。

 

魔族兵A「く、くそがぁぁぁぁ!!」

 

 そう叫びながら必死に逃げる魔族兵A。

 

魔族兵B「ま、待ってくれっ!!

    俺を置いて逃げるなよぉぉぉぉ!!!」

 

 腕を落とされた魔族兵Bも、腕を抑えながら逃げ出す。

 

 逃げる相手を何故か、そのまま見送った忠。

 周囲に静寂が戻ると、儀式兵装を片付けた後に

 深いため息をつく。

 

 そして―――

 

忠「隠れてないで、そろそろ出て来い」

 

 そう言って草むらの方向を向く忠。

 

 すると、草むらから人影がゆっくりと出てくる。

 

忠「・・・説明してもらおうか」

 

田中「・・・」

 

 出てきたのは、この街の道場を管理していた

 田中 一太夫だった。

 

田中「・・・ったんだ」

 

忠「何だって?」

 

田中「だから辞めておけと言ったんだっ!!

   師範代襲撃なんて上手くいかないって何度もっ!!

 

   なのにあいつら、全然人の話を聞きもせずにぃぃぃぃ!!」

 

 昼間に見せていた気弱そうな感じは微塵も無く

 ただ、何かに取り付かれたように叫ぶ田中 一太夫。

 

田中「・・・ければ」

 

 ゆっくりとした動きで儀式兵装の刀を手にする一太夫。

 

田中「お前達さえ、来なければ

   こんなことにはならなかったんだぁぁぁぁ!!」

 

 そして忠に向けて走り出し

 忠の前で、足を踏み込んで刀を横薙ぎする。

 

 それを後ろに下がって避ける忠。

 だが一太夫も反応して横薙ぎが不完全ながらも

 突きへと変化する。

 

 風間流らしい変則攻撃。

 だが、相手が悪かった。

 

 突きを避けられただけでなく

 突きを放つために前に突き出した腕を掴まれる。

 

 そして―――

 

忠「風間流『風車(かざぐるま)』」

 

 一太夫は、掴まれた腕を中心に一回転して地面に強く叩きつけられる。

 その衝撃で息が詰まり、呼吸出来ないような感覚に陥ったのちに

 意識を失った。

 

忠「・・・まったく」

 

 可能性はあったとはいえ、まさか同胞の中から

 こういった者が出るとは。

 

忠「さて、どう対処しようかねぇ」

 

 夜空に浮かぶ月を見上げながら

 忠は、これからのことを思案するのだった。

 

 

 同じ頃。

 

 夜の森を逃げ惑う魔族兵の2人。

 

魔族兵B「腕が痛てぇ・・・ちくしょうっ!!」

 

魔族兵A「くそっ! くそっ!」

 

 たかが人族だと思っていた。

 その油断が招いたのだという事も解っている。

 全ては、自分達のせいだと。

 

 しかし―――

 

魔族兵A「何なんだよ、あの化け物はっ!!」

 

 そう言うしかなかった。

 手にしていた儀式兵装を振るう瞬間が

 まったく見えなかったのだ。

 

 人族の分際で、そんなに強いなんて

 聞いていない。

 少なくとも、そんな奴が居るなんて―――

 

 考え事をしていると、横を走っていた魔族兵Bが

 立ち止まっていることに気づく。

 

魔族兵A「お前、何を立ち止まってるんだよっ!!」

 

 早く『境界』を超えなければ、あの化け物に追いつかれる。

 焦る気持ちを隠そうともせず返事をしない魔族兵Bに近づく。

 そして乱暴に肩を掴んだ瞬間だった。

 

 それは、本当に簡単に転げ落ちた。

 足元にコロコロと転がったのは、人の頭部。

 それに気づいた瞬間、頭の取れた魔族兵Bから大量の血が吹き出る。

 

魔族兵A「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 恐怖から腰を抜かしてその場にへたり込む。

 しかし、この場に居ては危険だという本能からか

 這い蹲りながら、その場を離れようともがく。

 

 そんな時だった。

 もがいていた魔族兵は、ふと後ろに人の気配を感じる。

 

 魔族兵は、ゆっくりと振り返る。

 すると、そこには誰かが立っていた。

 

 月に照らし出されたのは、美しいほどに輝く

 紅色の長い髪。

 

 そしてその小柄な身体に似合わぬ大きな斧。

 

 神秘的にも見える、その光景を見て一瞬意識が遠のくも

 スグに一つの結論にたどり着く。

 

魔族兵A「・・・ま、まさか・・・紅の死神・・・」

 

 その言葉を聞いて満足そうな笑みを浮かべた相手を見て

 魔族兵は、自身の結論が間違っていないことを知る。

 

 だが次の瞬間。

 魔族兵が見たのは、目の前に迫る大斧の刃。

 

 目の前に死神が居る。

 それが意味することに気づく前に、魔族兵の首が飛んだ。

 

 魔族兵2人の死体を確認すると

 その場を離れようとする『死神』だったが

 横から飛んできた『何か』を手で受け止める。

 

?「・・・これは」

 

 昼間に無くしたと思っていた小さな髪留めだった。

 髪留めが飛んできた方角に視線を向ける。

 

?「せっかく落し物を届けたのに

  何も睨むことはないだろ、ミリス」

 

ミリス「アナタは・・・」

 

和也「まあ、用件はそれだけじゃないけどな」

 

ミリス「この髪留めが、どうして私のものだと?」

 

和也「昼間にぶつかったじゃないか」

 

ミリス「・・・何の話でしょう?」

 

和也「隠さなくてもいい。

   一般人が、あんなに気配無く歩いている訳が無い。

   それに、それをよく見ろ」

 

ミリス「・・・あっ」

 

 それは、髪留めについていた

 1本の紅色をした長い髪の毛。

 

和也「あの和服姿、結構似合ってたよ」

 

ミリス「・・・そうやって、フィーネ様達を

    誑かしたのですか?」

 

和也「・・・素直な感想だよ」

 

ミリス「・・・」

 

和也「色々な情報と予想を繋ぎ合わせれば

   答えは、ある程度解るってね」

 

 ミリスの眼が一層険しくなる。

 

和也「・・・初めは、大掛かりな動きかと警戒した。

   でも、どうも行動が『雑』すぎる。

   だから独自行動だとも考えたんだが・・・。

 

   ミリスが居るとなると、話が変わってくるな」

 

ミリス「・・・何の話か知りませんが」

 

 そう言いながらも大斧を静かに両手で持ち直す。

 

ミリス「ここでは、フィーネ様に助けて貰えませんよ?」

 

 一瞬で距離を詰めてきたミリスが

 大斧を一気に横に薙ぐ。

 

 それを横に避けながら、落ちていたそれなりに長い棒を拾う。

 

ミリス「はぁっ!!」

 

 続けざまに上から振り下ろされる一撃を避けつつ

 斧の横腹を思いっきり棒で叩く。

 

 普通なら、その一撃に体勢を崩すだろう。

 だがミリスは、違った。

 

和也「・・・ちっ」

 

 棒が勢いに負けて折れる。

 後ろに下がると、ミリスを見据える。

 

和也「前から何となく解っていたことだが

   キミは・・・竜族との―――」

 

ミリス「私は、魔族です。

    それ以上でもそれ以下でもありません」

 

 こちらの言葉を遮るように話すミリス。

 何かしらの理由があるのだろうか。

 

和也「・・・そうか」

 

 しかしだからといって彼女の能力が変わる訳ではない。

 

 魔法剣・紅を構える。

 

ミリス「せっかくのチャンスですから

    確実に殺してあげますねっ☆」

 

和也「別に戦う必要はないと思うが?」

 

ミリス「アナタの場合、この件以外にも

    色々と片付くじゃないですか~♪」

 

 ミリスが跳躍する。

 周囲の木々を蹴りながら周囲を動き回る。

 

 強化魔法を使用していないにも関わらず

 ありえないほどの速さで動き回っている。

 

 そして狙い済ましたかのように後ろから

 斧を振りかぶって突撃してくる。

 

 ギリギリのところで回避すると

 紅をすれ違いざまに振り抜く。

 

 バチッ!!

 

 気麟に弾かれる形で後ろに下げられる。

 

 『やはり金麟を抜いた時のように』

 全力で無いと厳しいのか。

 

 そう思った瞬間に疑問が湧く。

 俺は、先ほど『やはり金麟を抜いた時のように』と思った。

 だが、俺の記憶に金麟を抜いた経験はない。

 

 なのに今、確かに紅の全力状態で金麟が抜けると

 確信していた感じだった。

 

 一体何なんだ・・・と考えたかったが

 ミリスの連撃がそれを許してくれない。

 

 大斧は、その見た目通りの重さと威力を有しており

 迂闊に受け止めようとすれば、武器ごとやられるだろう。

 だからこそ、こういう一撃は回避することしか出来ない。

 

 何とか回避し続けるも、いちいち斧が風を切る音が聞こえるので

 精神的な圧力が計り知れない。

 ジワジワと削られる精神力が無くなってしまう前に

 一撃を決める隙を探す。

 

 そんな時だった。

 見たことも無い色が一瞬だけ見えた気がした。

 

 単なる見間違いかとも思ったが

 チラチラと何度も見えるため、気になって

 魔眼を完全開放する。

 

 すると明確になる見たことも無い色。

 そしてそれがミリスの周囲に纏われている。

 

 それが何を意味するのか。

 魔眼を使い続けてきた俺にとって

 それはあまりにも衝撃的な出来事だった。

 

ミリス「・・・もらいましたっ☆」

 

 色々と考えている間に

 ミリスに決定的な一撃のチャンスを掴まれてしまう。

 

 迫る大斧の一撃に、反射的に体が動く。

 普通なら避けられない一撃。

 

 だが、新しい色が本当に『それ』であるのなら・・・。

 

 そして大斧を振り抜いたミリス。

 

ミリス「―――ッ!!」

 

 完全に捉えたと思った一撃を

 回避され、ミリスは驚きの顔を浮かべる。

 

 そして更にミリスは、気づく。

 自分に迫ってくる投擲物に。

 

和也「バーストッ!!」

 

 ミリスの渾身の一撃を回避した和也は

 後ろに下がりながらマジックナイフを投擲していた。

 

 ミリスの目の前で爆発し、爆煙が周囲を包む。

 

ミリス「・・・逃がしませんっ!!」

 

 煙の中から飛び出すミリス。

 

ミリス「なっ!?」

 

 飛び出したミリスが見たのは

 周囲の木々に突き刺さったマジックナイフだった。

 

和也「ブレイクッ!!」

 

 和也の声と共に爆発するマジックナイフ。

 

 マジックナイフは『事前登録した所有者のキーワード』によって

 爆発するため、1本ごとに別けることもある程度まとめることも出来る。

 出なければ意図せず爆発してしまうこともあるからだ。

 

 マジックナイフの爆発で、またも周囲を爆煙に包まれるミリス。

 だが、周囲から聞こえてくる何かの軋むような音に

 大斧を盾代わりに気麟を周囲に全力展開する。

 

 すると煙の外から、爆発によって倒れた木々が

 ミリスに向けて倒れてくる。

 

 何本もの木々が、ミリスに倒れこんで

 彼女を埋めてしまう。

 

 だが―――

 

ミリス「この程度で、私を倒せると思わないで欲しいですね」

 

 急に炎柱が現れ、ミリスを覆っている木々を焼き尽くす。

 そして炎の中から現れる無傷のミリス。

 

ミリス「・・・」

 

 周囲を一度伺った後、無言で地面に思いっきり大斧をぶつける。

 一瞬地面が揺らぎ、土は抉れて周囲の木々の残骸などを

 全て吹き飛ばす。

 

 強く握られた手は振るえ、溢れ出る魔力は

 眼に見えるほど強力に周囲を漂う。

 

ミリス「私より、不幸な人生だなんて言わせない・・・」

 

 そう思った瞬間に気づく。

 何故、自分はあの人族の過去を知っているのか。

 記憶にないはずの出来事。

 

 その瞬間。

 一瞬だが、竜王女とあの人族が洞窟のような場所で

 抱き合っている姿が見える。

 

 だか次の瞬間、強烈な頭痛に顔が歪む。

 

ミリス「・・・今のは」

 

 少しして頭痛が治まると、先ほどまでの記憶が

 非常に曖昧になってくる。

 

ミリス「何なんですか、一体・・・」

 

 人族に逃げられただけでなく

 よく解らない出来事に巻き込まれているような

 この圧倒的な不快感。

 

 この怒りを何処にぶつけていいのか解らず

 ただ、夜空の月を睨みつけるミリスだった。

 

 

 

 

 

第12章 紅色の月 ~完~

 

 

 

 

 




まず、ここまで読んで頂きありがとうございます。

現在更新が大幅に遅れてしまい申し訳ありません。
仕事で時間があまり取れないところに
色々と私事が重なりまして・・・。

なるべく何とかするべく頑張りたいとは思っております。

話は変わりますが、rosebleu様の新作
戦乙女らんなばうとっ!はプレイされましたか?
もちろん私は、ルート2つともセットで全プレイしました。

と軽く宣伝を入れつつ、何とか完走目指して
頑張っていきます。
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