Tiny Dungeon Another Story   作:のこのこ大王

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第13章 開戦の狼煙

 

 月を睨みつけている一人の少女が居た。

 紅い髪が夜風になびくも、その視線は

 ただ月だけを見ていた。

 

 しばらくして、ゆっくりと瞳を閉じた少女は

 その場から姿を消した。

 

 同じころ、夜空の月の下。

 別の場所では、激しい剣戟の音が響いていた。

 

 何度もぶつかる音が聞こえていたが

 ふと唐突に静寂が訪れる。

 

 終わったかと思った瞬間。

 爆音と共に周囲に暴風が吹き荒れ

 周囲の木々が薙ぎ倒される。

 

亜梨沙「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 肩で息をしながらも、その瞳は鋭いまま。

 振り抜いた刀の先をじっと見つめている。

 

源五郎「・・・」

 

 大して源五郎は、呼吸を乱してはおらず

 平静のまま、一点を見つめている。

 

 一見すれば、どちらが優勢だったかは明らかだ。

 だが―――

 

源五郎「・・・見事だ、亜梨沙よ。

    今の呼吸を忘れるでないぞ」

 

 そう言うと

 

 『亜梨沙の首元で寸止めされていた二本の刀』を片付ける。

 

 師範の早雲や和也ですら、二刀持つ源五郎と戦うことはなかった。

 まして師範代相手に二本を持つことなど

 本来は、ありえないのだ。

 

亜梨沙「・・・」

 

 源五郎からの気迫が消えたことを確認して

 ようやく亜梨沙は、震える手を抑えながら

 

 『源五郎の喉元に突きつけた刀』をゆっくりと下げる。

 

源五郎「・・・まったく。

    和也といい、お前といい

 

    後継者に恵まれたことは良いが

    こうもあっさりと強くなられると、ワシや早雲の立つ瀬が無いわ」

 

 苦笑しながらも、満足そうに語る源五郎。

 

 ふと周囲に張り詰めていた空気が緩んだ時だった。

 

早雲「・・・失礼します」

 

 いつの間にか近くに居た早雲が声をかける。

 

源五郎「・・・ふむ。

    何かあったか?」

 

 いつもにこやかな表情の早雲が

 珍しく厳しい顔をしていることに気づいた源五郎は

 スグに何かあったことを察する。

 

早雲「魔族側の境界に―――」

 

 

 

 

 

第13章 開戦の狼煙

 

 

 

 

 

 同じ頃。

 

 フォースの学園長室の扉が勢い良く開く。

 

魔族近衛兵「マリア様ッ!!」

 

マリア「・・・何があった」

 

 ミリスの部下である近衛兵が

 こんな時間に飛び込んできたのだ。

 

 何かあったと思うのは、マリアでなくとも

 察することは出来るだろう。

 

魔族近衛兵「魔界の強硬派が

      人族側へと部隊を侵攻させたとの報告がッ!!!」

 

マリア「・・・なッ!!!」

 

 いくら何でもありえないはずだった。

 何の理由もなく、突然戦争など始めれば

 竜族や神族だって黙ってはいない。

 

 最悪、他3種族全てを敵に回すということになる。

 

マリア「突然、どうしてそんなことになったっ!!

    ミリスは、どうしたっ!!

 

    状況を明確に説明しろっ!!!」

 

魔族近衛兵「―――ッ!!!」

 

 目の前の近衛兵が驚きと恐怖の表情を

 浮かべていることに気づいて

 マリアは、ようやく自分が冷静でないことを理解する。

 

 現在の世界においても最強クラスの戦士に詰め寄られたのだ。

 その迫力に思わず言葉を詰まらせてしまうのも無理はない。

 

マリア「・・・すまない。

    詳しい話は、移動しながら聞くことにする。

 

    出来るだけ足の速い馬を用意してくれ」

 

魔族近衛兵「は、はいっ!!

      既にマリア様の馬は、下に用意して―――」

 

 近衛兵の言葉を最後まで聞く前に

 学園長室の窓から飛び降りる。

 空中にいくつもの風盾を作り、それを足場にしながら

 短時間で地面へと着地すると、目の前に用意されていた

 馬に飛び乗る。

 

マリア「・・・くそっ。

    どうしてこうも急激な動きになったんだ・・・」

 

 あまりにも急すぎると思いながらも

 馬を走らせ学園の門を抜け、街の大通りを突き進む。

 

 街の人達は、何事かと思いながらも道をあける。

 

 マリアに遅れること2分ほどで、今度は

 魔族の兵士が乗る騎馬隊のような集団が

 同じく街を走り抜けていった。

 

 

 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・

 

 

 そして次の日。

 

和也「じゃあ、ちょっと行ってきます」

 

忠「ああ、頼んだぞ」

 

 まだ朝日が昇る前で、周囲もまだ少し薄暗い。

 しかし、これ以上は待てないということもある。

 

 俺は、用意した馬に乗る。

 

 忠さんが、一太夫の口を割ってくれたおかげで

 今の現状が非常に危ないということがわかった。

 

 それを知らせるために、一度俺だけ

 風間の里へと戻ることになった。

 

忠「こっちはこっちでもう少し調べてみる。

  道中は、気をつけろよ」

 

和也「はい。

   忠さんも、気をつけて」

 

 お互いに手を伸ばして握手を交わすと

 馬を勢い良く走らせた。

 

和也「・・・何でこんなことになってるんだよ」

 

 思わず愚痴がこぼれる。

 

 一太夫が言うには

 彼らは、ただ魔族の兵士だったとのこと。

 

 そんな奴らが何をしにきたのかと言えば

 ただ暴れて来いと言われてきただけらしい。

 

 何をそんな馬鹿なと思わなくもないが

 一太夫も、死んだ連中も本当に暴れていただけだそうだ。

 

 彼らは、一太夫が多額の借金をしており

 道場の運営資金にまで手を出していることを知っていたらしく

 それら全てを返済出来るほどの報酬を条件に

 一太夫を利用していた。

 

 何故、ただ暴れるだけなのに

 そこまで用意周到だったのか。

 計画性があったにも関わらず、何故あそこまで

 短絡的な行動を取っていたのか。

 

 そもそもそんな命令をした奴に何の得があるのか。

 

 解らないことだらけではあったが

 ミリスが居たという事実を当てはめると見えてくることもある。

 

 彼女は、学園長・・・魔王妃マリア=ゴア率いる保守派側だ。

 となれば、相手の魔族兵やその命令を出していた奴は

 強硬派の連中ということになる。

 

 奴らは、たびたび問題を起こしては

 人族と戦争を起こそうと・・・人族を根絶やしにしようとしてきた。

 

 そのもっとも解りやすい例が

 あの『儀式の日』だ。

 

 そう考えると、今回の件は

 簡単な話では無くなってくる。

 

 連中の狙いは、もしかして―――

 

和也「・・・」

 

 その可能性が捨てきれないからこそ

 俺だけ先に里へと戻ることにしたのだ。

 

 これがただの考えすぎだと良いんだが・・・。

 

 

 

 その数時間後。

 

 すっかり陽が昇り、いつも通りの朝を迎える。

 だが、この日。

 

 風間の里は、物々しい雰囲気に包まれていた。

 

警備兵「・・・以上が現在までの状況です」

 

 境界を警備していた兵士の話を聞いて

 道場内が騒がしくなる。

 

源五郎「待て待て、お主ら。

    ・・・向こうからの返答は、どうなっておる?」

 

早雲「ほとんどが予想通りの返答です。

   あと、向こうも動いては居るようですね」

 

 早雲が差し出した手紙を受け取ると

 内容に目を通す。

 

 乱雑に書かれた文字が、その緊急性を物語っている。

 

源五郎「・・・」

 

 源五郎は、瞳を閉じて考える。

 自分は、人族は、どう動くべきか。

 

 今回、相手がここまで露骨に動いてくるとは思っていなかった。

 こちらを刺激することが、どういうことになるのか

 それを理解した上での行動だろう。

 

 そうなると、こちらもいよいよ覚悟を決めなければならない。

 

 周囲では、もう戦うことが決まっているかのような

 雰囲気に包まれている。

 

 無理も無い。

 今まで人族は、戦争終結後も数々の犠牲を払ってきた。

 そうして一時的とはいえ平和を保ってきたのだが

 それをあっさりまた向こうの都合で破ってきたのだ。

 

 そう何度も我慢が出来る訳ではない。

 こうなってくると誰であっても、この流れを止めることは

 恐らく出来ないだろう。

 

 なら、自分はどうするべきなのか。

 どこでこの一連の騒ぎの幕を引くべきなのか。

 

源五郎「・・・」

 

 そしてゆっくりと目を開けると

 ざわついていた者達は、静まり返る。

 

早雲「・・・どうされますか?」

 

源五郎「・・・無論、このままという訳にもいくまい。

    とりあえず、境界を越えた者共を始末する。

 

    今より30分後、出発するっ!!」

 

風間兵達「おうっ!!!」

 

 気合の入った掛け声と共に一斉に動き出す風間の者達。

 全員が、戦争用の黒衣装に身を包む。

 

亜梨沙「・・・やはり、始まるのですか」

 

源五郎「・・・こうなってしまっては

    止められんからな」

 

 そう言いながら1枚の紙を懐から取り出すと

 亜梨沙に突き出す。

 

源五郎「和也の奴がスグにでも帰ってくるだろう。

    ・・・帰ってきたら、これを渡しておいてくれ」

 

亜梨沙「・・・これは?」

 

源五郎「和也に渡しさえすればいい。

    ・・・留守は、任せるぞ」

 

 亜梨沙が手紙を受け取ると、源五郎も服を着替えるために

 自室へと帰っていく。

 

亜梨沙「・・・兄さん。

    こんな時に、何やってるんですか」

 

 そう呟く亜梨沙の声は、周囲の誰に届くわけでもなく

 人々の物音に掻き消されるのだった。

 

 

 そして数時間後。

 

 人族側の境界を越えた部隊が

 風間の里へと向かって歩いていた。

 

ゴーレムA「ギギギッ」

 

ゴーレムB「ガガッ」

 

 魔族の部隊は、人ではなかった。

 殆どが、様々な形をしたゴーレムであり

 それを操る術者が僅かに居るだけ。

 

魔術兵「・・・しかし、我々だけで大丈夫でしょうか?」

 

魔術兵長「何も我々だけで人族全てを殺しにいくわけではない」

 

魔術兵「では、この進軍の意味は・・・」

 

魔術兵長「我々が攻めれば、奴らは出てこざるおえまい。

     そこである程度戦ったのちに境界まで逃げる。

 

     そうすれば奴らは必ず追いかけてくるだろう。

     境界を越えてくれるように誘導してやれば

     あとは、本隊が奴らを皆殺しにしてくれる」

 

魔術兵「しかし、境界を越えずに我々のせいだと言えば

    他種族が黙っていません」

 

魔術兵長「だからこそのゴーレムだ。

     ゴーレムの残骸で、我々の仕業だという証拠にはならん。

     証拠が欲しい奴らは、必ず我ら術者を狙うだろう」

 

魔術兵「なるほど。

    そして奴らに境界を部隊で越えたという状況に追い込んで

    それを理由に殲滅するわけですね」

 

魔術兵長「そういうことだ。

     経緯は、どうあれ境界を人族の部隊が越えたという

     事実と、奴らの死体さえあれば

     あとでいくらでも理由は付け足せる。

     そうなれば腑抜けな魔王妃達、保守派の連中も

     黙って見ているしか出来ないだろうよ」

 

魔術兵「・・・そうなれば

    一気に人界を滅ぼして、我々魔族の力を示すことが出来ますね」

 

魔術兵長「竜族や神族連中も、我々に対して強く出れなくなるだろう。

     そうなれば、世界は我ら魔族のものだ」

 

 その言葉に周囲の数人の魔族兵が声をあげる。

 

 彼らは今の世界に満足などしていない。

 停戦などしなければ、今頃魔族が世界を

 支配する王者になっていたはずだ。

 他種族に大きい顔をされることなんて・・・。

 ましてや人族が未だに残っていることなど

 なかったはずなのに・・・と。

 

 魔族と神族が、仲が悪いことは有名だが

 魔族と境界が繋がっている人族も

 実は、神族以上に仲が悪かったりする。

 

 それは、魔族の一部が未だに人族を

 格下に見ているということもあるが

 ことあるごとに何か事件を起こしては

 人族領へと侵攻し、人族を虐殺しているからだ。

 

 それに対し、下手に強硬派と対峙すれば

 国が分裂してしまい、神族や竜族に横槍を入れる隙を

 作ってしまうことになるため

 どうしても処分が甘くなってしまう。

 だから何年かペースで同じような事件が起こってしまうのだ。

 

 竜族や神族も口を出してはいるが

 そもそもそれを嫌っているのが強硬派であり

 むしろそうして大戦争が再開してくれる方が

 彼らにとって都合が良いというのも厄介な点である。

 

 本来なら『儀式の日』と呼ばれた事件で

 大戦争が再び始まるはずだった。

 

 だが、死に損ないの魔王と、同じく死にかけの神王が

 あっさりと事を収めてしまった。

 そのせいで、また何年も時間をかけて

 準備するハメになってしまったのだ。

 

 だが今回は、魔王も神王も既にこの世に居ない。

 王妃達では、止められない。

 

魔術兵長「今度こそ、我々魔族が世界を統べるのだっ!」

 

 そう声をあげた瞬間だった。

 

魔族偵察兵「人族の部隊が見えましたっ!

      こちらに向かっていますっ!」

 

 偵察兵の言葉に、兵士達がゴーレムを配置に付かせる。

 

魔術兵長「いいか、あくまで境界まで

     引っ張っていくのが目的だ。

 

     調子に乗って皆殺しにするなよ」

 

 その言葉に笑声が聞こえてくる。

 

 あくまで彼らにとって人族とは、格下の相手なのである。

 

魔術兵「奴らと交戦、開始しますっ!!!」

 

 最前線の魔術兵達から交戦開始の声が聞こえてくる。

 偵察兵からの情報では、相手はそこまで数が多くない。

 

 あまり調子に乗って殺しすぎると

 撤退されてしまう。

 

 そうなっては困るため、ある程度のところで

 ワザと負けを演じなければならない。

 

 人族相手にワザとでも負けを装って逃げることに

 抵抗が無い訳ではないが、これも魔族のため。

 

魔術兵A「ゴーレムがやられたっ! 後退するっ!」

 

魔族兵B「く、くそっ!!

     この俺が・・・!!」

 

 考え事をしていると、開始直後だというのに

 次々と撤退・・・というか逃げてくる魔術兵達が多い。

 

魔術兵長「お前ら、良い逃げっぷりじゃないか。

     そんなに必死に演技しなくたって

     奴らなら引っかかってくれるさ」

 

 そう声をかけるも、誰もこちらの話など聞いていない。

 さすがにそうなってくると演技ではないのかと

 思えてくるが、そう簡単に数年かけて揃えたゴーレム部隊が

 負けるはずがない。

 

 どうなっているのだと、偵察兵を呼ぼうとした瞬間だった。

 大きな音と共に戦場の音が急激に近くなる。

 

 激しい爆風が駆け抜け、何かが飛んでくる。

 よく見ると、それは人。

 

 魔族兵や術者達が、吹き飛ばされている姿だった。

 

 それを見て、信じられないという気持ちが

 彼をその場に呆然と立たせる。

 

 戦場で呆然としている者がどうなるのか。

 それは誰より、戦場に立つ者なら

 誰でも理解出来ることのはずなのに。

 

?「お前が隊長か?」

 

 鋭い声が聞こえ、我に返るも

 その全てが遅かった。

 

 ゆっくりと地面に落下したのは、彼の頭。

 大量の血を撒き散らしながら身体も倒れる。

 

善影「・・・ふん。

   所詮、この程度か」

 

 吐き捨てるように呟く善影。

 

大吾「敵は、総崩れだっ!

   一気に叩き潰せ!!」

 

 鋭く切り込んだ刃となった者達が、敵陣を切り裂く。

 

 早々に逃げ出した者達も

 結局逃げ切れず、全て倒された。

 

 本来なら、勝利した声が聞こえてきそうなほど

 圧勝しているはずなのに、一切声が聞こえない。

 

 皆、次があるという感じで

 黙々と部隊の編成などを行っている。

 

 あくまで今のは敵の先遣隊に過ぎない。

 

 部隊の再編成がほぼ終わった所で

 早雲が声をかける。

 

早雲「・・・踏み込みますか?」

 

 そう声をかけられた源五郎は

 座っていた椅子から立ち上がる。

 

源五郎「当然じゃ。

    罠だと解っていても、ここで退いては

    人族に未来など無い。

 

    ワシの命程度で、人族の今後が開けるのなら

    願っても無いことだわい」

 

早雲「・・・」

 

源五郎「お前にも、苦労をかけるな早雲。

 

    さあ、お前と善影は里へ帰れ」

 

早雲「そういう訳にはいきません。

   せめて事の顛末ぐらいは―――」

 

源五郎「お前に何かあったら

    夏美は、どうなる?

 

    ワシを娘の婿を巻き込んだ

    不出来な父にするつもりか?」

 

善影「今更、何を言ってるんですかね?」

 

 いつの間にか近くまで来ていた

 善影が、苦笑しながら歩いてくる。

 

早雲「そうですよ。

   相談もなく勝手に決めてしまって」

 

善影「最高師範だって好き勝手やってるんですから

   俺達の希望ぐらい聞いてくれてもいいんじゃないですか?

 

   何も戦死するまで付き合うって

   言ってる訳じゃないんですから」

 

源五郎「・・・勝手にせい」

 

 まるで子供が拗ねるように

 そう呟く源五郎に、周囲で笑いが起こる。

 

 その後、準備が整った風間の戦士達は

 境界に向けて歩き出すのだった。

 

 

 その頃、風間の里に1頭の馬が駆け込む。

 

 そのまま中を駆け抜けると、風間の家へと入っていく。

 スグに馬を下りると声をあげる。

 

和也「誰か居ないかっ!!」

 

?「そんなに声を出さなくても聞こえてますよ」

 

 声がする方を振り返ると、そこには亜梨沙が居た。

 

和也「クソ爺か、早雲さんは、何処にいる?」

 

亜梨沙「何をそんなに慌ててるんですか?」

 

和也「ちょっと緊急事態になりそうなんだ。

   で、何処にいる?」

 

亜梨沙「ほとんどの人は、境界まで行きましたよ」

 

和也「境界だとっ!?

   まさか―――」

 

亜梨沙「境界を越えてきた魔族と戦争しに行きました」

 

和也「―――ッ!?」

 

 まさかとは思ったが、早すぎる。

 あのクソ爺は、一体何を考えてやがる。

 

 そんなことをしたら、本格的な戦争になる。

 それでは、連中の思う壺じゃないか。

 

亜梨沙「そうそう。

    お爺様から、これを預かってます」

 

 そう言って差し出されたのは、1枚の手紙。

 

 奪うように手に取ると

 中身を確認する。

 

 

 ・・・・・・・。

 

 

 何度も手紙を読み返した後

 ため息を付く兄さん。

 

 結局、中身は確認してないが

 どうせお爺様のことだ。

 ロクなことは書いてないだろう。

 

 すっと兄さんが立ち上がる。

 

 その表情を見てハッとする。

 何か覚悟を決めた時の表情だ。

 

 ほとんど見ることの無い表情だが

 大人っぽく見えてとてもカッコイイので

 思わず見とれてしまいそうになる。

 

和也「状況は、理解した。

   俺は、俺のやれることをやってくる。

 

   万が一のこともある。

   お前は、里に残ってろ」

 

亜梨沙「・・・それで、私が納得するとでも?」

 

 置いていかれないために

 私は、刀を握ったのだ。

 

和也「言っただろう。

   万が一のためだと。

 

   俺達が帰ってきた時に

   帰る場所が無けりゃ困る。

 

   お前に、その場所になってくれって言ってるんだよ」

 

亜梨沙「・・・」

 

 そういう言い方は、正直ズルいと思う。

 これも惚れた弱みなのだろうか。

 

 こうも真剣に頼まれると、断れなくなってくる。

 

 兄さんが心配だという思いとは別に

 兄さんへの想いが強くなってくる。

 

 そうだ。

 この人は、戦場へ行こうというのだ。

 なのに、私が動かなくてどうする。

 この人にとって、本当に帰ってくる場所にならなければ。

 

 だから―――

 

亜梨沙「だったら、1つだけ条件」

 

和也「条件?」

 

亜梨沙「ええ、条件です」

 

 そう言いながらスッと兄さんに近づく。

 そして―――

 

亜梨沙「んっ・・・ふぁ・・・ぁ・・・むぅ・・・」

 

 自分からキスをした。

 長年の夢が叶ったからだろうか。

 

 イマイチ実感が無いものの、それでも構わずに続ける。

 だが息を止めていたことを思い出し

 急に息苦しくなって、少し未練があったが離れる。

 

 その時に見た兄さんのテレた顔が

 一番印象に残ったかもしれない。

 

和也「・・・亜梨沙」

 

亜梨沙「必ず、帰ってきて下さいよ?」

 

和也「・・・ああ、必ず」

 

 そう言うと、兄さんは

 スグ馬に乗って走っていった。

 

 

 ・・・・・・・。

 

 

 馬で走りながら境界へと向かう。

 

 さっきから顔が熱い。

 亜梨沙がいきなりキスしてきたからだ。

 

 前から好意を持たれていることは気づいていたが

 兄妹のように育ってきたこともあり

 意識しないようにしてきたのだが、亜梨沙がそれを超えてきた。

 

和也「・・・ちゃんとその気持ちに向き合ってやらないとな」

 

 そう思いながら進んでいくと、前方に見知った顔が。

 急いで馬を止める。

 

春華「そんなに急いで何処に行くのって

   聞く必要も無かったみたいね。

 

   ・・・良い顔してるじゃない」

 

和也「・・・行ってきます」

 

春華「そっか。

   まあ男の子だもんね。

 

   じゃあせめて、馬ぐらいは交換していきなさい。

   じゃないと途中で走れなくなるかもよ」

 

和也「ありがとうございます」

 

 春華が用意していた馬に乗り換える。

 

春華「生きて帰ってきなさいよ」

 

和也「はい、必ず」

 

 そう短く言葉を交わすと、馬を走らせ

 森を駆け抜けていく。

 

 

 和也が里から境界へと向かった後。

 

 亜梨沙は、準備を済ませると

 一人で里の外に出ていた。

 

亜梨沙「・・・」

 

 里の中は、春華と残った一部門下生が守っている。

 

 だが出来れば里を戦場としたくはない。

 

 だからこそ、亜梨沙は単独で周囲の偵察を行っていた。

 

 ここまで敵が来るようなことは無いとは思う。

 しかし万が一ということもある。

 

 周囲を警戒しながら不規則に警戒を続ける亜梨沙は

 僅かではあるが、遠くを移動する音に気づく。

 

 それが人族の者でないと感じ

 一気に距離を詰める。

 

 ここは風間の里。

 地の利は、圧倒的に彼女にある。

 

 相手もこちらに気づいたようで

 けん制程度の火球が飛んでくるが

 風盾で吹き飛ばしながら接近して

 一撃を振り下ろすと、バチッ!と

 気麟特有の壁に阻まれる。

 

?「・・・やれやれ。

  アナタに構っている暇は、無いのですけれど」

 

 紅い髪をなびかせながら

 巨大な斧を振り上げる。

 

 さすがに受け止めることも出来ない一撃に

 亜梨沙は、跳躍して回避する。

 

亜梨沙「・・・こんなところで何してるんですか。

    ここは、許可無く気軽に入って良い場所じゃないですよ」

 

 亜梨沙は、相手に見覚えがあった。

 

 そう、その相手は―――

 

ミリス「邪魔しないで貰えます?

    じゃないとミンチにしちゃいますよ?」

 

 紅の死神と呼ばれる少女。

 

 ミリス=ベリセンだった。

 

 

 

 

 

第13章 開戦の狼煙 ~完~

 

 

 

 

 




ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

まずは、活動報告での内容通り
期限内で投稿出来たのでホッとしております。

活動報告内でも触れましたが
このAnother Storyを投稿開始して
あっという間に1年が経過しました。
そう思うと、長い作品になってしまったなと思ってしまいます。
ただ、失踪せずに続けられているのも
読んで下さっている皆様のおかげですので感謝しております。

Another Story自体は、もう終盤へと差し掛かっております。
最後まで完走したいと思っておりますので
よろしければお付き合い頂ければ幸いです。
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