Tiny Dungeon Another Story   作:のこのこ大王

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第14章 己が信じるもののために

 

 

 その日。

 大戦争終結後、初めての大規模な戦闘が起こった。

 

 のちに『人魔決戦』と呼ばれることになる戦い。

 魔族強硬派が望んだ戦いであったが

 はたして今の状況までもが、彼らが望んだことだっただろうか?

 

 そこは魔界側の境界近くにある砦。

 大戦争時は、多くの部隊の中継地点となり

 人界側への重要な、けん制の役割を果たしていた場所。

 

 戦争が終結し、もうかつての役割を

 果たす必要がなくなったはずの場所。

 

 その場所は今、当時よりも凄惨な場所となっていた。

 

 砦の中だけでなく、その周囲にまで

 無数の死体が転がっている。

 

 どれだけの命が、ここで散っただろうか。

 まるでそれを確かめるかのように

 人族の兵士達の手で、人族・魔族関係なく

 死んでいった者達の死体が丁寧に並べられていく。

 

大吾「砦周辺には、もう敵はおらんようですな」

 

早雲「重傷者、戦死者の亡骸を人界へと搬送するために

   一部隊を戦場より離脱させる予定です」

 

善影「こっちは、あと1日はかかりそうですよ。

   何せ数が多すぎますからね」

 

源五郎「・・・そうか」

 

 報告を聞く源五郎は、難しい顔をしたまま

 微動だにしない。

 

善影「兵の中には、魔族側のは放置でもいいんじゃないかって話も

   出てきてますよ。

 

   まあ、何でこいつらまで丁重に扱うのかって感じの

   疑問の声って奴ですかね」

 

源五郎「我らには、我らのやり方がある。

    あくまで我らに正義があるということを

    示すためにも必要なことじゃ」

 

大吾「それに、奴らと同じに成り下がっては

   意味が無いからのぅ」

 

早雲「あくまで人界側は、売られた喧嘩を買っただけ。

   そう魔界だけでなく、その他にも

   思わせなければならないからね」

 

善影「・・・なるほど。

   では、そういう方向で更に徹底させますかね」

 

 めんどくさいなぁと言いたげな顔で

 現場指揮に戻る善影。

 

大吾「・・・今回、真っ先に切り込んだくせに

   こういうことだけは、面倒がりおって」

 

早雲「まあ、仕方が無いのかもしれないですね。

   善影君にとっては、弔い合戦のようなものですから・・・」

 

大吾「確か・・・弟でしたか」

 

早雲「そうですね。

   その他にも、同じような想いでこの場に居る者も

   多いでしょうから、不満が出るのも

   ある程度は仕方がないことでしょう」

 

 

 『儀式の日』

 

 そう呼ばれることになった日。

 善影は、弟を失った。

 

 それは何も彼に限った話ではない。

 

 魔族の死体を黙々と運ぶ男は。その日、息子を。

 怪我人の手当てをしている女は、恋人を。

 部隊の再編を指揮する年老いた男は、孫を。

 

 その他にも、参加している者達の大半が

 あの日、大事な者を失った。

 

 だが、その報いを奪った側の彼らは受けなかった。

 

 それどころか

 

 弟が

 妹が

 息子が

 娘が

 孫が

 恋人が

 父が

 母が

 

 彼ら彼女らが居たという事実すらを

 政治的な理由で抹消(ころ)されたのだ。

 

 大事な者を奪われただけでなく、死してなお

 更にもう一度抹消(ころ)される。

 

 そんな目に遭ってなお

 声を上げて反発することすら許されない。

 

 その時の彼らのやり場の無い

 苦しみ・嘆き・憎しみ・悲しみ・怒りといった感情は

 一体どこへと、ぶつければよかったのだろうか。

 

 やり場の無い気持ちだけを抱いたまま

 過ごしてきた彼らにとって、今回の魔族側の行為は

 もはや許せるものでは無くなっていた。

 

 誰もが、復讐という想いに背中を押されていた。

 

 復讐の牙を磨き続けてきた人族と

 人族を見下し、侮っていた魔族。

 

 その両者が、ぶつかればどうなるか。

 結果は、実に簡単だった。

 

 人族の3倍以上の兵力を配置していた魔族強硬派は

 復讐の鬼となり、死を恐れぬ死兵と化している

 人族の突撃を受け、壊滅的な被害を受けて

 敗走することになった。

 

 魂の気迫とでも言うべきか、心の叫びとでも言うべきか

 復讐の機会を得た人族の、風間の戦士達は

 傷つこうとも、倒れようとも

 己の命など省みず、身体が動くかぎり

 目の前の魔族をただひたすら殺していく。

 

 しかも人界最強と呼ばれる風間流。

 実戦で磨かれ、より相手を殺すことに特化した

 その技を学び、強くなった彼らがその全てを惜しみなく

 つぎ込んで殺しにくるのだ。

 

 まさに、地獄と呼ぶべき場所となっていたことだろう。

 

 その光景を実際に見ながらも

 何とか逃げることが出来た

 僅かな魔族兵達も居たが

 その誰もが恐怖で全身を震わせながら

 口を開こうとはしなかったという。

 

 

 

 

 

第14章 己が信じるもののために

 

 

 

 

 

 森の木々が、綺麗に薙ぎ倒される。

 その一撃を避けながら亜梨沙は、魔力付与した一撃を放つ。

 

 気麟では防げないと察して、竜族特有の身体能力で

 後ろに一瞬で下がるミリス。

 

亜梨沙「・・・で、こんなところで何をしてるんですか?

    返答次第では、容赦しませんよ」

 

ミリス「・・・こちらとしては

    余計なことをしている余裕なんて無いのですが」

 

 そう言いながらため息を付くミリス。

 

亜梨沙「目的を聞いているだけです」

 

ミリス「・・・人族の保護っと言ったら信じますか?」

 

亜梨沙「意味が解りません。

    今、仕掛けてきているのはそっちでしょう?」

 

ミリス「あんな連中と一緒にされたくありません。

 

    連中は、マリア様の政(まつりごと)を良しとしない

    何でも力で解決したがる強硬派です。

 

    私達とは違うものです」

 

亜梨沙「・・・結局、また身内争いの巻き添えですか。

    『儀式の日』から、魔族は何も学んでいないのですね」

 

ミリス「学んでいるから、わざわざ来たのですよ。

 

    ・・・強硬派の別働隊が、既に迫っています。

    2000・・・といった所です。

    悪いことは言いませんから、さっさと非難誘導を

    してきた方がいいですよ」

 

亜梨沙「・・・で、わざわざそんなことを言いに?」

 

ミリス「ええ。

    こちらで抑えられなかったからといって

    このまま人族がやられるのを

    マリア様が、見過ごせないと仰るので・・・ね」

 

亜梨沙「なら、用は済みましたね。

    じゃあ、さっさと帰って下さい」

 

ミリス「・・・聞いて居なかったのですか?

    魔族の部隊が―――」

 

亜梨沙「そんなもの、倒すだけです」

 

ミリス「2000を?

    もうそんなに兵力が残っていないのに?」

 

亜梨沙「ええ」

 

ミリス「・・・頭がおかしくなりましたか?

    どう考えても全滅するだけですよ?」

 

亜梨沙「どうせ春華さんも、同じことを言うでしょう。

    だから、もう用が済んだのなら

    さっさと帰って下さい」

 

ミリス「なるほど。

    やっぱり人族は、お馬鹿の集まりだったと

    いう訳ですか」

 

 そう言うとミリスは、背を向ける。

 

亜梨沙「人族は、決して逃げません。

    どこかの誰かのように、自らの出生や

    種族を否定するような人とは違うんですよ」

 

ミリス「・・・今、何か言いましたか?」

 

亜梨沙「ええ。

    自分を生んだ母親を否定するような

    生き方をする、そんな人生逃げてばかりの人と

    我々人族は、違うの・・・で、す・・・よ?」

 

 話していた亜梨沙は、ふと違和感に気づく。

 

 『私は何故、そんなことを知っているのだろう』と。

 

 だが、そんなことを考える間もなく

 意識は、目の前のミリスに奪われる。

 

 圧倒的なまでの殺意。

 

 それをまとったまま、ミリスはゆっくりと

 こちらに振り返る。

 

ミリス「何の苦労もない、普通の家庭に生まれ

    不自由なく暮らしてきた、そんなアナタに

    私の何が解るっていうのです?」

 

 あくまでミリスは、笑顔だった。

 だが、その放たれている明確なまでの殺気が

 間違いなく彼女の本心だろう。

 

亜梨沙「解る訳ないじゃないですか。

    まあ、そんな逃げてばかりの人生なんて

    解りたくもないですけどね」

 

ミリス「・・・気が、変わりました」

 

 ゆっくりと大斧を構えるミリス。

 

ミリス「そんなに死にたいのなら

    先に殺してあげますね」

 

 その言葉と共に、大きく跳躍するミリス。

 

亜梨沙「・・・」

 

 ミリス=ベリセン。

 

 紅の死神と呼ばれる少女。

 彼女の生い立ちに、同情も出来るし

 そうなったことに一定の理解も出来る。

 

 ・・・だが。

 

 私は、あの人をずっと見てきた。

 

 家族や友人、故郷など全てを一瞬で失った時

 あの人は、涙を見せず剣を振り続けていた。

 

 『儀式の日』では、多くの友と共に

 あれだけ必要としていた儀式兵装を失った。

 それでも、あの人は諦めなかった。

 

 周囲から馬鹿にされることもあった。

 無駄だと諭されることもあった。

 でも諦めなかった。

 

 誰もが逃げ出したくなるような状態でも。

 

 逃げても誰も責めないだろう状況でも。

 

 あの人は、必ず前を向いて歩き続けてきた。

 

 だからこそ―――

 

亜梨沙「ただ嫌なことから、自分から、逃げ出したアナタに

    私は、何度でも言います。

 

    『逃げるだけでは、何も解決しない』とっ!!」

 

ミリス「―――ッ!!」

 

 身体を回転させならが落下し

 遠心力と重力を全て大斧の刃に乗せた一撃を放つミリス。

 

 亜梨沙が、後ろに大きく飛び退いた瞬間。

 

 鈍い音と共に地面に突き刺さった大斧を中心に

 一瞬にして地面が砕け、割れ、亀裂が入り

 爆風によって周囲全てを吹き飛ばす。

 

 爆風と土煙が消え、視界が戻った亜梨沙が見たものは

 ミリスを中心に深く抉れた地面と

 巨大なクレーターだった。

 

亜梨沙「・・・」

 

 きっと今のが、全力の一撃だろう。

 そうなるとやはり、攻撃を受け止めることは不可能だ。

 

 頭の中で冷静な計算をしながらも

 視線は、ミリスを向いたままだ。

 

ミリス「・・・」

 

 ミリスは、無言のまま大斧を低い姿勢で構える。

 

ミリス「パワー・ファイア・サード」

 

 ボソっと呟いた一言で、大斧に強力な魔力が宿る。

 

 魔力が斧全体に行き渡った瞬間、ミリスの姿が一瞬だけブレる。

 

亜梨沙「スピードアップ・セカンド!!」

 

 亜梨沙がそう叫んだ頃には、もう亜梨沙の正面で

 斧を振り下ろす体勢になっているミリス。

 

 通常なら回避不可能なタイミングではあったが

 斧は、空を切って地面に刺さる。

 衝撃でまた、地面に大きな穴が開く。

 

 亜梨沙は、加速魔法による速度で

 何とかミリスの一撃を回避する。

 

 大きく後ろに跳躍して逃げた亜梨沙だが

 

亜梨沙「―――ッ!!」 

 

 顔の目前まで迫っていた炎槍。

 体勢を横に倒しながら

 頭を横に傾けることで、ギリギリ回避する。

 

 更に追撃で後ろから飛んできている2本を

 片足で踏ん張り、横に跳躍することで回避する。

 

 空中で体勢を立て直し、着地した瞬間。

 言葉に出来ない圧力を上から感じて

 また後ろに飛び退く。

 

 凄まじい爆音と共に、亜梨沙の居た場所を

 上から落下してきたミリスの一撃が地面ごと吹き飛ばす。

 

ミリス「『逃げるだけでは、何も解決しない』・・・ですか。

 

     よくもまあ、そんなことが言えますね。

     家族に守られ、甘えながら育った世間知らずが

     今度は、人にお説教なんて。

 

     随分と、上から目線ですよね」

 

亜梨沙「・・・それで、同情した方がよかったですか?

 

    それとも『アナタは間違っていない』とでも

    言って欲しいんですか?

 

    そんな安い同情や気休めなんていらないですよね」

 

ミリス「・・・何が言いたいのです?」

 

亜梨沙「確かに私は、比較的恵まれた環境に生まれたでしょう。

 

    でも、数多くの出来事を見てきました。

 

    大切な誰かを失った人々。

    やり場のない怒り。

    癒えることのない悲しみ。

 

    それは、アナタも経験したことでしょう。

 

    だけど、それでも時間は進むのです。

    人は、生きているうちは、歩かなければいけないんです。

    先に進まなければいけないんです。

 

    私が見てきた人は

    どんなに辛くても、ほんの少しでも前へと

    進もうとしてきました。

 

    だから―――」

 

ミリス「―――だから、それらを乗り越えて前に進めと?

 

    どんなに辛くとも、悲しくとも

    全てを糧にして前向きに生きろと?」

 

 ミリスの周囲に魔力が集まり始める。

 それは、今までと比べ物にならないほどの魔力量。

 

 ミリスを中心に風が巻き起こり、ミリスに変化が起こる。

 

ミリス「・・・それでも。

 

    それでも前に進めない人は、どうすればいいのです?

 

    悲しみに潰され、辛さを乗り越えることが出来ない人は?

 

    誰もが前に進める訳じゃありません。

    誰もが幸せになれる訳じゃありません。

    誰もが強い心を持っている訳じゃありません。

 

    ・・・だったら。

 

    そうじゃない人は

    過去を引き摺ったまま生きていくしかないでしょう?」

 

 魔力がミリスに収束するように集まると

 いつの間にかミリスには

 竜族特有の耳と尻尾。

 背中には魔族や神族達特有の翼が付いていた。

 

亜梨沙「・・・紅い、翼」

 

 ミリスの翼は、魔族のような黒色でも

 神族のような白色でもない。

 

 彼女の髪同様、紅色の翼だった。

 

ミリス「はぁっ!」

 

 彼女が翼を広げ、雄叫びのような声と共に

 突っ込んでくる。

 

 ガシャンという音がして

 地面に弾装の薬莢が落ちる。

 

亜梨沙「パワー・ウインド・サード!!!」

 

 咄嗟の出来事に、何とか強化魔法を発動するが

 

亜梨沙「くっ!!」

 

 大斧の一撃を流しきれずに後ろに吹き飛ばされる。

 

 運よく木々にぶつからずに体勢を立て直して着地出来たが

 着地した瞬間、目の前にはもうミリスの姿。

 

亜梨沙「スピードアップ・サードッ!!!」

 

 人間の動きをはるかに超える速度でミリスの追撃を回避するが

 ミリスも一般の竜族をはるかに越える身体能力で

 亜梨沙を追いかける。

 

ミリス「ファイアジャベリンッ!!」

 

 炎槍が何本も後ろから飛んでくる。

 それらを回避しながら木々を使って不規則に動く。

 

 しかしミリスも同じような動きをして

 決して振り切れない。

 それどころか、距離が縮まるたびに

 大斧の一撃を避けなければならず

 距離を取ろうにも炎槍が雨のように襲ってくるので

 反撃どころではない。

 

 何度目かの接近による大斧の一撃が

 亜梨沙の着地を狙って襲い掛かる。

 

 着地タイミングを狙われ、体勢的に逃げることも出来ない。

 

亜梨沙「―――ウインド・シールドッ!!」

 

 弾装を使用して、通常よりも素早く風盾を展開するが・・・。

 

ミリス「そんなものっ!!」

 

 力任せの豪快な一撃が風盾を軽々と砕く。

 

亜梨沙「ブレイクッ!!!」

 

 風盾が砕かれた瞬間に、風盾を暴走させる亜梨沙。

 砕けた破片が、亜梨沙とミリスの大斧の間で魔力爆発して

 暴風を呼び起こす。

 

 強力な風により、僅かに亜梨沙は右へ。

 ミリスの大斧は左へと流される。

 

 その僅かな差は、亜梨沙にとって

 ミリスの一撃を避けるのに十分なものだった。

 

 そのまま右へと転がるように避け

 素早く地面を叩き飛び上がるように後ろへと

 下がりながら手をかざす。

 

亜梨沙「ウインド・アローッ!!」

 

 5本の不可視の矢が、ミリスに向かって飛ぶ。

 

ミリス「はぁぁっ!!」

 

 その場で大きく大斧を下から上へと振り上げる。

 すると斧の先に付与されていた魔力が放射され

 飛んできていた不可視の矢全てを巻き込んで

 周囲の木々ごと爆発する。

 

 着地して体勢を立て直した亜梨沙を

 爆煙が包み込むように広がり、視界を奪う。

 

 すると周囲からいくつもの音が聞こえてくる。

 

 地面を踏む音。

 草が揺れる音。

 木々を蹴る音。

 

 それらの音に神経を尖らせ、集中する亜梨沙。

 

 ガシャン。

 

 僅かに聞こえる弾装の音。

 

 そしてほんの僅かな違和感を本能的に察知し

 大きくその場から後ろへと跳躍する。

 

 煙の中から出てきた亜梨沙が見たものは

 ミリスが巨大な炎の塊を、亜梨沙の居た場所へと

 投げ込んでいる瞬間だった。

 

 地面に着弾した炎は、一瞬にして周囲を焼き尽くす。

 何とかギリギリの所で範囲から逃れた亜梨沙。

 

 燃え盛る森の中、亜梨沙は

 炎の奥をただ一点見つめる。

 

 すると、その炎の中から出来たのは

 まるで炎の化身のようなミリスの姿。

 

 彼女は、無表情な顔をしていたが

 亜梨沙と目が合うと

 ニヤっと口元だけ笑みを浮かべる。

 

ミリス「どうやら口だけのようですね?」

 

亜梨沙「・・・」

 

 無言のまま、剣先をミリスに向けて

 低い姿勢で構えを取る。

 

 そして―――

 

亜梨沙「風間流『舞』鬼刃」

 

 亜梨沙の姿が一瞬にして消える。

 次の瞬間には、もうミリスに亜梨沙の突きが迫っていた。

 

ミリス「こんなものっ!」

 

 儀式兵装を破壊するつもりで大斧を横に薙いで

 攻撃を弾く。

 

 だが―――

 

ミリス「―――ッ!!」

 

 確かに強く弾いた感触があったにも関わらず

 目の前には、既に亜梨沙の突きが、また迫っていた。

 

 それを落ち着いて回避しながらカウンターを狙うべく

 斧を握り直した瞬間。

 

ミリス「―――ッ!?」

 

 ミリスが見たのは、またも目の前に迫っていた

 突きによる一撃。

 

 何とか斧で防ぐも、スグにまた新しい突きがやってくる。

 まるで無数の突きが波のように押し寄せてくる感じだ。

 

 たまらず防御に徹するミリス。

 

 防御と回避を織り交ぜながら

 常に動くことで反撃の糸口を探そうとするが

 予想外に隙が無いため、思わず舌打ちするミリス。

 

ミリス「(攻撃の1つ1つは、たいしたことがないのに

     無視する訳には行かない絶妙な所に腹が立っちゃいますね)」

 

 亜梨沙の攻撃は、気麟を抜く一撃ではあるが

 やはり減衰されるためか、ミリスにとっては

 当たっても致命傷にはならないほどだ。

 

 しかし、それゆえに厄介である。

 

 腕や足に当たれば、ダメージではあるが致命傷ではない。

 だが、その一撃によって動きが鈍れば

 防御が疎かになり、また別の一撃を受けやすくなる。

 

 そうなれば、あとは誰でも理解の出来る負の連鎖だ。

 

 一見すれば、たいしたことが無い攻撃でも

 こうも素早い連続攻撃では

 積もり積もって致命傷にまで発展する。

 

 それを本能的に察してか

 徹底して防御に徹しながらも

 反撃の機会をうかがうミリス。

 

亜梨沙「(予想以上に防御が堅いですね)」

 

 見た目には、圧倒的に押しているように見える状況だが

 一切通らない攻撃に、亜梨沙も一撃決めるための隙を探していた。

 

 せめて動きを止められれば

 本格的な攻撃に移れるのだが、ミリスはそれを知ってか知らずか

 常に動いて逃げようとしている。

 

 気麟や大斧を上手く利用し、徹底して防御してくるため

 有効打を入れる隙がない。

 しかし今、攻撃を止める訳にもいかない。

 

 せっかく流れをこちらに引き寄せているのだ。

 ミリスの攻撃を封じているだけでも十分な意味がある。

 

亜梨沙「(攻撃特化な癖に、防御が上手いとか

     地味な嫌がらせですよね、これって)」

 

 心の中で、そんな愚痴をもらしつつ

 攻撃の手を緩めずに前へ、前へと

 積極的に攻め続ける亜梨沙。

 

 数え切れないほどの攻防を一瞬で繰り広げながら

 森の中を移動する2人。

 

 数分ほど経ったあたりで、ミリスが動く。

 

 突然、勢い良く後ろに跳躍するミリスに

 距離を取らせまいと亜梨沙もスグに追いかける。

 

 だが後ろに下がったミリスは、大斧を地面に叩きつける。

 その瞬間―――

 

ミリス「ブレイクッ!!」

 

 大斧に付与していた強化魔法を

 叩きつける瞬間に魔力暴走させ爆発させる。

 

亜梨沙「くっ!!」

 

 突然、迫る爆音と煙。

 そして大量の石が亜梨沙を襲う。

 

 たまらず風盾を張りながら後ろに下がる亜梨沙。

 

 しかし、次の瞬間。

 

ミリス「もらいましたっ☆」

 

 煙の中から無傷のミリスが突進してくる。

 

 今までの戦闘でも見ることがなかった

 最高速の突撃というのもあっただろう。

 

 だが、それ以上に亜梨沙を驚かせたのは

 ミリスが無傷だったこと。

 

 あれだけ強引な魔力爆発を起こせば

 普通なら本人にもかなりのダメージが入るはず。

 

 なのにミリスは、ダメージを一切受けずに突撃してきたのだ。

 

亜梨沙「―――ッ!!!」

 

 風盾は、簡単に砕かれ

 目の前に大斧が迫る。

 

 何とか直撃を避けようと、刀で大斧の軌道をそらそうと

 抵抗してみるも、並の竜族をはるかに越える圧倒的な力に押され

 正面から防御する状況に持っていかれる。

 

 そして亜梨沙は、ミリスの強力な一撃に吹き飛ばされ

 何本もの木にぶつかって、ようやく地面に落ちる。

 

ミリス「・・・まあ、こんなものですよね」

 

 地面に倒れ、動かなくなった亜梨沙を見て

 ミリスは、背を向ける。

 

 だが1歩足を進めた瞬間、ため息をつく。

 

ミリス「本当に殺しますよ?」

 

 そう言い放ったミリスの視線の先には

 立ち上がる亜梨沙の姿。

 

亜梨沙「・・・」

 

 無言で立ち上がった亜梨沙は

 冷静に考え、そして答えに至る。

 

亜梨沙「(・・・そうか。

     彼女には、気麟がありましたね)」

 

 ミリスが無傷な理由は

 まさに亜梨沙の考えた通り。

 

 本来なら自滅するような魔力暴走でも

 気麟が防御してくれるため

 こういった強引な方法も取れるのだ。

 

 だが、普通の竜族では

 気麟の質や魔力適正の低さに伴う制御の下手さなど

 様々なこともあり、簡単に出来ることではない。

 

 数々の実戦を潜り抜けてきた彼女だからであり

 一般的な竜族を越える能力を持つ彼女のような実力者でなければ

 不可能だと言える一手だった。

 

 ミリスが、大斧を構える。

 

亜梨沙「(さすがは、死神と呼ばれるだけはありますね。

     ・・・このままでは、負ける)」

 

 つい弱気になる心。

 だが、スグに気持ちは

 元に戻る。

 

亜梨沙「(私は、あの人の隣に立ちたいと

     ずっと思ってきました。

 

     だからこそ剣を取ったのです。

 

     ・・・こんな所で、負ける訳にはいかない)」

 

 何度か、深呼吸をする。

 そして―――

 

亜梨沙「最強を掲げる風間流。

    その創設者、風間(かざま) 一刀斎(いっとうさい)が裔(すえ)

    風間 亜梨沙!

    流派師範代の末席なれど、剣舞を見せよう、風間の舞をっ!

    風間は、ただ勝利あるのみっ!!」

 

 亜梨沙は『名乗り』を上げ、刀を持ち直して右半開の構えを取る。

 

ミリス「・・・」

 

 その姿に、ミリスは違和感を覚える。

 

 片手で刀を持っているのは、別に問題ではない。

 だが、もう片方の手は

 腰のあたりで、何も持たずに構えているだけ。

 

 片手の一撃で気麟を抜くつもりか?

 空いた手で投げを狙ってくる?

 何かアイテムでも使用する気か?

 それとも別の何かが?

 

 今までに見たことがない構えに

 ミリスは、警戒を強める。

 

亜梨沙「・・・」

 

 互いに無言のまま動かない。

 

 まるで時間が止まってしまったかのようにさえ

 感じてしまう状態。

 

 だが、2人の間を風が通り抜けた瞬間。

 

亜梨沙「風間流 ―風の章― 奥義・神風(かみかぜ)」

 

 亜梨沙の姿が、一瞬にして消える。

 

ミリス「―――ッ!?」

 

 次の瞬間。

 

 ミリスは、もの凄い勢いで

 何本もの木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ぶ。

 

 そして地面に何度がバウンドして、ようやく止まる。

 

 大斧で身体を支えながら

 ミリスは、よろよろと立ち上がる。

 

ミリス「(・・・見えなかった)」

 

 表情こそ平静を装っているが

 内心では、かなり焦っていた。

 

 今の亜梨沙の一撃が、正直見えていなかったのだ。

 本能的に正面からだと察して防御し

 それが正しかったというだけの話。

 

 そして正面からの攻撃であったのに

 防ぐどころか、圧倒的に力負けしたことも

 驚いている理由の1つだ。

 

 まさか、竜族以外にここまで思いっきり防御状態の自分を

 吹き飛ばせる者が居るとは思っていなかった。

 

 立ち上がったミリスは

 正面から気配を感じて前を向く。

 

ミリス「―――ッ!?」

 

 そしてミリスは、またも驚く。

 

亜梨沙「・・・アナタでも、そんな顔、するんですね」

 

 無表情な顔で、そう言う亜梨沙の声も

 ミリスには、届いていない。

 

ミリス「・・・二刀流、ですか」

 

 そう、ミリスが驚いていたのは・・・。

 

亜梨沙「何か問題でも?」

 

 二刀流で構える亜梨沙を見たからだった。

 

 いつの間にか握られていた刀。

 しかも儀式兵装の刀と良く似ている。

 

ミリス「―――ッ!?」

 

 亜梨沙の刀を見た瞬間

 亜梨沙が消える。

 

亜梨沙「どこを見ているのです?」

 

 後ろから聞こえる声に

 慌てて振り返ると、いつの間にか後ろの方に

 移動していた亜梨沙を見つける。

 

ミリス「(何時の間に・・・)」

 

 完全に見えなかった。

 さっきの一撃も、今の動きも。

 

 それもそのはず。

 

 亜梨沙の使った神風は

 風間流の中でも風属性の魔法を使用する者達が

 習得する『風の章』と呼ばれる技の種類の中でも

 奥義とされる技。

 

 加速魔法なのだが、上級を超える超級に位置しており

 その超級をはるかに超える速度を出すことが出来る。

 

 だが、使用するには高難度の制御能力と適正。

 そして圧倒的な魔力量が必要となってくる。

 

 風間流の中でも、これが使えるのは

 居ないとされてきた。

 

 だが、最高師範である祖父との壮絶な訓練において

 彼女は、この奥義を習得していたのだ。

 

 亜梨沙を観察していたミリスは

 もう1つの事実に気づく。

 

ミリス「・・・その魔力量は、一体何です?」

 

亜梨沙「それこそ、何か問題でもありますか?」

 

ミリス「人族が、そんな馬鹿みたいな魔力を集めることも

    制御することも出来ないはず―――」

 

 そこまで言ってから、ミリスは気づいてハッとする。

 

ミリス「・・・たしか、人族には

    魔王の血族と同じく、血による増幅が可能な者が

    ごく稀に居ると聞いたことがあります。

 

    ・・・なるほど、そういうことですか」

 

 恐らく、そういうことなのだろう。

 何せ、六翼であり全力である今の自分を超える

 魔力を、目の前の人族が出しているのだ。

 

 本来なら、間違いなくありえないこと。

 

亜梨沙「まさか、これを使うことになるとは思いませんでした。

    しかし、これを使う以上、必ず勝ちます」

 

 そう言って亜梨沙が、二刀を構える。

 刀についている弾装から排莢される音がして

 2つの薬莢が転がり落ちる。

 

 すると二刀を中心に魔力が制御され、形を成す。

 

ミリス「儀式兵装を2本も持ってるなんて、聞いたことがないですよ?」

 

亜梨沙「この刀は、2本一対。

    2本で1つの儀式兵装です。

 

    普段は、1本しか使いませんし

    もう1本は、風魔法を利用して隠してますけどね」

 

 1本でも手に余ると言う亜梨沙は

 本当に全力の時で無ければ2本を使おうとはしない。

 

 以前、氷の騎士ことアクア=レーベルトとの試合において

 最後に使ったのも、この隠してあった刀だ。

 

 腰に帯刀しているのだが、風魔法を利用して

 見えないようにしているため

 隠していない1本の刀と鞘だけしか持っていないと

 思われていただけなのだ。

 

ミリス「・・・2本一対の儀式兵装も、聞いたことありませんけどね」

 

 刀が2本とも弾装を持ち

 魔力を制御しているのなら

 それはもう、儀式兵装を2本持っているのと同じである。

 

亜梨沙「・・・では、そろそろいきます。

    手加減は一切出来ないので、死んでも怨まないで下さい」

 

 亜梨沙を中心に一気に膨大な魔力が膨れ上がる。 

 

ミリス「それは、こちらの台詞です」

 

 ミリスも対抗して魔力を集める。

 気麟を前面のみに展開して厚くする。

 大斧についている単発式の弾装から薬莢が飛び出る。

 

 再び動かなくなる2人。

 だが、少しづつではあるが

 空気が張り詰めていく。

 

 そして2人が同時に仕掛けようと動いた瞬間―――

 

亜梨沙「―――ッ」

ミリス「ちっ」

 

 突然、横から飛んできた炎槍を

 2人とも跳躍して回避する。

 

ゴーレム「ガァァ!!」

 

魔族兵A「こんなところに

    人族と裏切り者が居るとはな」

 

 乱入してきたのは、侵攻してきていた魔族部隊の1つ。

 ミリスが来ると言っていた部隊だ。

 

魔族兵B「どうせ殺すんだ。

    さっさと始末して、先に進まないと

    俺達が文句言われちまうぜ」

 

魔族兵A「おっと、そうだった。

    そういう訳だ。

    ゴーレムを100匹ほど置いてやるから

    まあせいぜい頑張れ」

 

 その言葉に周囲の魔族兵からは、笑いが出る。

 

 だが、次の瞬間。

 

ゴーレム「ガ・・・?」

 

 一瞬にして周囲のゴーレム達が崩れ去る。

 

魔族兵A「へ?」

 

魔族兵B「な・・・何が起こった?」

 

 困惑する2人の元に

 多くの兵士やゴーレムが次々と合流してくる。

 

魔族小隊長「どうした? 何が―――」

 

 駆けつけた者達も、ゴーレム達も

 言葉を失い、一点を見つめる。

 

 その見つめる先に居たのは

 亜梨沙とミリスの2人。

 

 

ミリス「私達の邪魔を―――」

亜梨沙「―――しないで下さいっ!!!」

 

 

 全力状態の2人が突撃し

 一瞬で先発隊が壊滅する。

 

 ミリスの驚異的な一撃は

 周囲の敵を破壊し、薙ぎ倒し、吹き飛ばす。

 

 亜梨沙の圧倒的な速度に

 相手は、攻撃されたことすら気づかず

 呆然とした顔のまま倒れていく。

 

 その騒ぎに本隊が気づいて合流するも

 簡単に2人を止めることは出来ない。

 

魔族兵C「ば・・・化け物だっ!!」

 

魔族兵D「に、逃げろっ!!

    こんなの相手―――」

 

 最後まで台詞を言う前に、魔族兵Dの首は落ちる。

 

 恐怖が恐怖を呼び、それが全体に広がって

 もはやパニック状態と化す。

 それでも、2人の追撃は止まるどころか

 激しさを増す。

 

 まるで自身の鬱憤を吐き出すが如く

 さながら狂戦士のように暴れ続ける。

 

 

 2人が暴れている頃。

 

和也「―――やっと見つけたっ!!」

 

 森の中を馬で走り続けていた和也は

 ようやく探していたものを見つける。

 

 森から出て草原へと向かう和也。

 

 その先には 

 人族と、魔族が部隊を展開してにらみ合っている

 まさに戦場と呼べる場所があった。

 

 人族側の部隊の中を走りぬけ

 探していた相手の前で馬を下りる。

 

和也「探したぞ、クソ爺ッ!!」

 

源五郎「・・・相変わらず口の悪い奴じゃのぅ」

 

和也「どういうことか、説明しやがれっ!!」

 

大吾「こら、和也ッ!

   最高師範に対して―――」

 

源五郎「構わん。

    それに、今更じゃからの」

 

 和也の態度を注意しようとした大吾だったが

 源五郎に制止される。

 

和也「こんなもんまで、残して何がしたいんだよっ!!」

 

 和也が出してきたのは

 源五郎が和也に残してきた手紙。

 

源五郎「・・・書いてあった通りじゃ」

 

和也「だから、どうしてそう急な話に―――」

 

源五郎「急な話ではない」

 

和也「どう考えても―――」

 

源五郎「まあ聞け」

 

 食いついてくる和也を制止すると

 咳払いをして間を取る。

 

 そして和也に正面から向き合う。

 

源五郎「大戦争からだ。

    あの戦いの後、人族は知っての通り

    全ての責任を負った。

 

    まあそれで世界が平和になるのならという

    話でもあったし、それを誰もが受け入れ

    新しい世界に憧れた。

 

    だが、結果はどうだ。

 

    人族だけが無理難題を強いられ

    魔族と神族は、覇権争いを辞めるどころか

    水面下で小競り合いを続けている。

 

    そしてそのとばっちりを受けるのは

    いつも人族じゃ。

 

    『儀式の日』が解り易い例じゃろう。

 

    大切な誰かを失ってなお

    ワシらは、我慢を続けた。

 

    しかし、それを他のどの種族も

    正しく理解しておらん。

 

    ・・・いや、理解なぞ

    最初からする気が無いのじゃろうなぁ」

 

和也「いや、だからといって―――」

 

源五郎「お前の言いたいことも解らんでもない。

 

    全ての者がそうではないというのであろう?

    それは、ワシも理解しておる。

 

    だが、それがどうしたというのだ。

    少数の理解者が居たとて、それが大勢に影響ある訳ではない。

 

    結局、今回のように

    また人族が苦しむだけとなるじゃろう。

 

    それが今後も、永遠に続くのじゃ。

 

    考えても見よ。

 

    自分の子や、孫や、その後に続く者達にまで

    このような不幸を引き継ぐことになる。

    負の遺産は、我々の代で消し去るべきこと。

 

    だからこそ、我らは立ち上がったのじゃ。

 

    我らの命を賭して、真の平和を勝ち取るために」

 

 その言葉に和也は、言葉を失う。

 

 今、この場に居る彼らは

 死ぬつもりで来ているのだと理解したからだ。

 

 死ぬまで戦い、その実力と人族の不満を

 世界に見せ付けることで

 人族が差別される時代を終わらせるために。

 

 だから、目の前に居る

 この気に入らない爺さんは、俺にこんな手紙を残したのだと。

 

 もう止まらない彼らを止めるための手段として。

 人族の未来のためとして。

 ・・・そして、多くの命を救うために。

 

 人族は、王家とも呼べる一族が滅んだことで

 その役割を風間家が引き継いでいる。

 

 なので最高師範の言葉が絶対とされている。

 つまり、最高師範の言葉であれば

 逆らうことは許されない。

 

 そして、最高師範になるためには

 最高師範からその位を譲渡される以外に

 もう1つ、方法がある。

 

 それは―――

 

和也「・・・まったく。

   気に入らないクソ爺だと思ってたが

   やっぱり気に入らない。

 

   俺がこうすることも解った上で

   こんなものまで残しやがって」

 

源五郎「・・・何とでも言え。

    ワシはワシが正しいと思った道を

    ただ進むのみじゃ」

 

和也「・・・最高師範。

 

   師範の権限として

   『交代試合』をこの場で挑む」

 

大吾「―――ッ!?」

 

善影「―――ッ!?」

 

早雲「・・・」

 

 周囲に居た風間の部隊にも動揺が広がる。

 

 交代試合とは、師範が最高師範に挑む権利であり

 これに師範が勝つと、強制的に最高師範となる。

 

 ほとんど使われることがない制度であり

 これが使われた試合は、基本的に

 どちらかが死ぬ場合が多い。

 

 何故なら真剣勝負であり、一切の手加減などありえないからだ。

 師範が、その生涯でただ1度だけ使える権利であり

 まさに命を賭けた戦いを意味する。

 

和也「俺が勝ったら

   今すぐ、全軍を引いてもらう」

 

源五郎「そういう話は

    ワシに勝ってからにするのじゃな」

 

 誰もが動揺する中、早雲だけは冷静だった。

 

早雲「今すぐ、交代試合の場所を用意します。

   手の空いている者は、手伝って下さい」

 

 その言葉に冷静さを取り戻した数人が

 手伝いを始める。

 

和也「・・・こんな回りくどい手を使いやがって」

 

源五郎「こうでもせねば、責任が全体に及ぶであろう。

    そうなっては、困るのでな」

 

 ニヤっと口元に笑みを浮かべる源五郎に

 和也は、ため息をつく。

 

和也「(・・・このクソ爺め)」

 

 こうなるまでの流れが、全て目の前に居る老人による

 仕掛けであると解っているが

 それに乗っかる以外に、自分の望む結果を得る術がない。

 

 そのことが余計に腹立たしい。

 

 こうして、戦場にて異例の戦いが

 行われようとしていた。

 

 

 

 

 

第14章 己が信じるもののために ~完~

 

 

 

 

 




まず、ここまで読んで頂きありがとう御座います。

前回、次は別作品の方を優先するとの話を
しましたが、別作品側が予想外に難航しております。

なので、問題無く進められるこちらを優先致しました。

恐らく当面は、こちら優先になりそうです。

予定変更に伴い、あちら側を期待されていた方には
申し訳ない変更となってしまいましたが
品質向上のための措置ですので
ご理解・ご協力をお願いします。
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