Tiny Dungeon Another Story 作:のこのこ大王
第▲章 天保院の娘
燃え盛る炎。
逃げ惑う人々。
聞こえる悲鳴。
聞こえる笑い声。
?「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
まだ幼い少女は、泣きながら走る。
後ろを何度も振り返りながら
ただ必死に走る。
森の中は、足場も悪く
少女の足では、なかなか思うように先に進めない。
頭の中で巡るのは
家族や友人。
そして自分を護るために
残った人々の顔。
どうしてこんなことになったのだろう。
そんなこと、今更考えても
意味が無いのは、解っている。
それでも、どうしてと思ってしまう。
自分は、もちろん
周囲の皆も、何も悪いことなんてしてないのにと。
なのにどうして、こんなことになったのか。
?「あっ!」
石に引っかかって派手に転ぶ。
膝を擦りむいたのか、血が出てくる。
その痛みが、余計に涙を流させる。
そして何より、惨めになってくる。
?「どうして・・・。
なんで・・・・」
意味の無い思考のループ。
何とか起き上がるも、足に力が入らない。
どうしようかと思った瞬間。
魔族兵A「おいっ! 居たぞっ!!」
そんな声が聞こえる。
慌てて少女は、声のする方向を向く。
魔族兵B「ようやく見つけたぜ」
魔族兵C「へへへっ、可愛い娘じゃないか」
3人の魔族の兵士に見つかってしまった。
?「あ・・・あぁ・・・」
逃げなきゃとダメだと心は叫ぶが
足が動いてくれない。
魔族兵A「お前、こんなガギが趣味なのか?」
魔族兵C「いいじゃね~か、別に」
魔族兵B「俺ならあと5年ってところか」
魔族兵C「どうせ殺すのだし、その前に
遊んだっていいだろ?」
魔族兵A「まあ・・・好きにしろ」
魔族兵B「さっさと終わらせろよ」
魔族兵C「わかってるって」
気持ちの悪い顔で、こちらに迫ってくる魔族兵。
逃げようとしたが、スグに捕まって押し倒される。
?「いやっ! やだっ!!」
抵抗しようも、相手は男。
とてもではないが、幼い少女では
どうすることも出来ない。
魔族兵C「まずは、その邪魔なものから
脱いじゃおうね」
?「やだやだやだやだやだっ!!」
何となく、自分がどうなるのか。
何をされるのか、理解出来てしまう。
それが悲しくて。 悔しくて。
自分は、何のために生まれてきたのだろう。
少なくとも、こんな最後を迎えたくはない。
?「誰かっ!
誰かっ!!」
魔族兵C「そんなに暴れても、誰も助けになんてこないよ。
だから、俺と遊ぼうよ」
着ている着物が脱がされようとしている。
こんなの・・・絶対に嫌だ。
?「・・・誰でもいいから。
誰でもいいから、助けてっ!!!」
神様でも何でもいい。
誰でもいいから。
お願い・・・私を助けて。
目を閉じながらも必死で抵抗した。
第▲章 天保院の娘
この少女の名は『天保院(てんぽういん) 咲耶(さくや)』
かつて人界をまとめていた一族『天保院』家の娘。
だが大戦争時に、天保院は滅んだ。
そう、それは今日この日にだ。
この場所は、人界の天保院家の土地。
この日は、魔族の部隊が
人界が手薄になっている瞬間を狙って攻め込み
天保院一族を皆殺しにした日。
そしてもう、天保院は彼女一人を残すのみ。
その彼女も、この場で魔族兵の玩具にされたあげく
殺されるという運命が待っていた。
この歴史は、定められたもの。
動くことがないもの。
可能性が無いもの。
そう、彼女に助かる要素は、無かったのだ。
だからこそ、この場で彼女が死ぬことは
覆しようのない事実だった。
そうとも知らず、彼女は
今も必死で抵抗する。
あるはずもない奇跡を信じて。
男に両腕をついに捕まれ
自分がつけていた帯で手を縛られる。
それでも少女は、泣きながら抵抗する。
魔族兵A「何をガキ相手に
時間かけてるんだよ」
魔族兵Aが、近づいてくる。
魔族兵C「こう暴れてくれる方が興奮するじゃないか」
その言葉に魔族兵Aは、呆れる。
魔族兵A「ホントにお前、趣味変わってるな。
おい、お前だってそう思うだろ?」
魔族兵Aは、少し離れた位置に立っていた
魔族兵Bに向かって声をかける。
魔族兵B「・・・」
魔族兵A「ん? どうした?」
ボーっと立っているだけの魔族兵Bに
近づく魔族兵A。
魔族兵A「おいおい、何ボケっとしてるんだよ」
声をかけながら、肩をポンと叩く。
すると、ボトっと重い音と共に地面に何かが落ちる。
それは、魔族兵Bの頭だった。
魔族兵A「―――」
思わず叫び声をあげる魔族兵A。
だが声は、一向に出ない。
フュー、フューと空気の抜ける音だけがする。
悪い予感がして、魔族兵Aは
自分の喉を触る。
するとネチャっとした感触。
手を確認すると大量の血が付着していた。
そこで初めて魔族兵Aは、気づいた。
自分の喉が斬られていることに。
だが、それに気づいた瞬間。
背後から心臓を一突きされ
そのまま地面に倒れた。
さすがに何度も大きな音がしたために
魔族兵Cが、振り向く。
魔族兵C「―――なっ!?」
そこには、人族の戦士が1人と
仲間2人の死体。
驚きながらも立ち上がり
儀式兵装を出そうとした瞬間
?「まあ、ゆっくり眠れ」
その声を最後に、彼の意識は途切れ
頭がゆっくり地面に落ちた。
一方、咲耶は目を瞑って
身体を丸めて抵抗するような姿のまま。
だがスグに少女は、状況の変化に気づく。
服を脱がしていた男の手が
突然止まったこと。
周囲が一瞬だが、騒がしかったこと。
そして、ふと自分に覆いかぶさっていた
男の重さを感じていないことに気づいて
ゆっくりと目をあける。
覆いかぶさっていた男の姿が見えない。
何が起こったのだろうか。
上半身を起こして周囲を見渡そうとする。
すると、一人の人族らしき少年が立っている。
手に持っている魔法で出来た刀身の剣が印象的だ。
周囲には、先ほどの魔族兵達の死体。
?「おい、大丈夫か?」
人族の少年が声をかけてくる。
咲耶「・・・」
状況が上手く飲み込めず呆然とする咲耶。
?「しっかりしろ。
大丈夫か?」
肩を揺すられ、咲耶は少年を見る。
咲耶「・・・アナタは?」
?「俺か?
キミに用事があってね。
まあ簡単に言えば、キミを助けにきたって所かな」
咲耶「たすけ、に?」
?「ああ、そうだ」
目の前の少年が笑顔でそう答える。
それを見て、ようやく自分が助かったことに
気づく咲耶。
咲耶「う・・・ひっく・・・」
?「ん? え?」
咲耶「うぁぁぁぁっーーー!!」
突然抱きついて泣き出す咲耶に
どうしていいか解らず、少年は困った顔をしていたが
やがて咲耶を優しく抱きしめ、泣き止むのを待つことにした。
それから少しして、泣き止んだ咲耶は
ようやく自分の服装に気づいて
慌てて服装の乱れを整える。
その間、警戒するように姿勢を低くして
周囲を見渡す少年。
咲耶「・・・あの」
?「何だ?
もう大丈夫か?」
咲耶「おかげさまで助かりました。
それで、えっと。
他の人は・・・」
?「・・・」
無言で何も語らない様子に
それが何を意味するのか、察する咲耶。
咲耶「・・・どうして、こんなことに」
?「さあ、どうしてだろうな」
そう言いながらずっと座り込んでいる
咲耶の前まで歩いてくると
膝を付いて視線を合わせる少年。
?「悪いが、追撃部隊が近くまで来ているようだ。
そろそろ移動しよう」
咲耶「どこへ行くのですか?」
?「とりあえず、この場から逃げる。
あとは、俺の知り合いがキミを待ってる。
そこまで送り届けるのが、俺の役目だよ」
咲耶「・・・知り合い?
どなたのことでしょう?」
?「悪いが、質問は後回しだ。
さあ、移動しよう」
差し出された手を掴んで立ちあがる咲耶。
そして、まるで親鳥について歩く雛のように
おぼつかない足取りで、また森の中を走る。
少年は、何度も周囲を警戒しながら
それでもあまり離れないように動き回っている。
何度も休憩を挟みながら
数時間歩き続けるが、未だ森から抜け出る様子はない。
もうスグ、日が暮れるという頃に
少し小さめの洞窟を見つける。
?「よし、中は問題なさそうだな。
今日は、ここで夜を過ごそう」
そう言って簡単な準備を始める少年。
咲耶「・・・はぁ・・・はぁ・・・」
咲耶の人生の中で
恐らく一番歩いただろう。
正直体力の限界だった。
しかし、目の前の少年は
さほど疲れを見せずに作業している。
自分に合わせてくれているのだろうということも
自分の足が遅いということも解っていた。
こんなことなら、真面目に武道を練習しておけばよかった。
そんな思いが咲耶の頭を過ぎる。
そうすれば、少なくとも今のように
迷惑をかけることもなければ、さっきの魔族のように
抵抗も出来ないなんてことも無かっただろう。
今まで自分を叱ってくれていた人々を思い出す。
彼ら、彼女らは皆、私を助けるために
襲撃を受けて燃える屋敷に残った。
・・・恐らく助からないだろう。
いつも忠告は、遅れて突き刺さる。
それを今ほど実感したことはない。
自然に涙が溢れてくる。
?「・・・大丈夫か?」
そんな時、タイミング良く声をかけられる。
咲耶「・・・大丈夫です」
涙を拭きながら、そう答える。
?「我慢することはない。
泣きたい時は、泣けばいい。
大事な人を目の前で失う悲しみは
俺にも経験があるからな。
そんな時は、感情を押し殺す必要はない。
思いっきり泣いて、悲しんであげればいい」
咲耶「うぅ・・・あぁ・・・」
優しい言葉をかけられて
張り詰めていた緊張の糸が切れたのだろう。
咲耶は、また少年に抱きつきながら泣き出す。
そして疲れていたこともあり
そのまま眠ってしまった。
そして次の日。
また2人で森の中を進む。
魔族が合図に使う、金属太鼓の音が
後ろから聞こえるたびに怯えながらも
それでも何とか前に進む。
しかし、段々と音が近づいてくる。
追いつかれるのも時間の問題だった。
目の前を歩いている少年の顔も険しい。
いっそ自分を置いて逃げれば
彼だけでも助かるのではないか?
そう考えることもあったが
そうなれば、私は今度こそ魔族達に
なぶり殺しにされるだろう。
あの時、自分に襲い掛かってきた
魔族の顔を思い出す。
気持ち悪くて寒気が走る。
咲耶「(本当に私ってダメだわ)」
自分のことをつい優先してしまう。
命がけで私を助けようとしてくれている
目の前の彼を利用しようとしている。
そんな自分に嫌気が差す。
?「・・・ここまでくれば、何とかなるな」
そんな時だった。
目の前の少年の足が止まった。
咲耶「どうしたのですか?」
?「・・・ここから真っ直ぐ行ったところに
大きな岩がある。
そこから右に向かえば
スグに小さな祠が立ってる。
その場所に、知り合いが待ってる」
その言葉を聞いて嫌な予感がした。
自分を助けるために残った人々も
直前に同じように逃げる道を言った後
自分を残して魔族達に向かっていったからだ。
?「もう追いつかれる。
俺がここで―――」
咲耶「・・・嫌ですっ!」
突然声を上げて拒否する私を見て
彼は、驚いた表情をした。
咲耶「もうスグなんでしょう?
だったら一緒に逃げましょう?
私も頑張って走りますからっ!!」
?「・・・気持ちは、凄く嬉しいが
もうそれじゃ間に合わないんだよ」
そう言うと剣の柄だけを取り出す彼。
それは、刀身が魔法で出来ていた剣の柄だ。
?「刀身形勢」
そう言うと、剣の刀身が現れる。
そして、急に鋭い目つきになると
突然、剣を横に薙ぐ。
すると、刀身だけが分離して
森の中へと飛んでいく。
その直後、悲鳴のような声が聞こえてくる。
?「この剣は、俺が世話になった人から貰ったものなんだ。
『強襲型魔法剣・紅』と言ってね。
今のように刀身を魔法のように飛ばすことも出来る
とても便利な剣なんだよ」
そう言って、その剣の柄を私に持たせ
彼は、腰にさげていた刀を抜く。
普通の刀とは違う、真っ黒な刀だった。
魔族兵「おいっ!! 一人やられてるぞっ!!」
スグ近くだろうか。
はっきりと魔族達の声が聞こえる。
?「さあ、急いでっ!」
咲耶「でもっ!!」
?「大丈夫。
きっとまた会えるよ」
これから大勢の魔族達と
たった一人で戦おうとしているのに
彼は、笑顔でそう言ってくれた。
咲耶「・・・約束。
そう、約束ですっ!
絶対ですよっ!!」
?「ああ」
彼は、そうはっきりと返事をしてくれた。
その言葉に私は、決心して彼に背を向けると
教えられた道を走る。
後ろからは、剣戟の音。
そして叫び声や悲鳴などが聞こえてくる。
爆発音がして振り返りそうになるも
何とか堪えて走る。
あの人は、約束してくれた。
だから、それを信じて走る。
咲耶「・・・あっ!」
あの人の名前を聞いていなかったことに気づいて
咲耶は、後悔する。
咲耶「せめて、名前だけでも
聞いておきたかったな・・・」
そんなことを考えながらも
目印の大岩を右に曲がる。
そして―――
咲耶「・・・見えたっ!」
たどり着いたその場所には
とても小さい祠が1つ、ひっそりと立っていた。
だが・・・。
咲耶「・・・あれ?」
周囲に人の気配は無い。
あの人の話では、人が居るはずなのに・・・と」
嫌な想像をしてしまう。
このままだと、私も見つかってしまう。
何のためにここまで来たのか。
私のために命を捨てて戦ってくれた人達の行為が
全て無駄になってしまうと。
どうしたらいいのか解らず
途方に暮れている時だった。
?「・・・ようやく出会えた」
後ろから聞こえてきた少女の声に
咲耶は、振り返る。
そこには、宙に浮かぶ少女の姿があった。
咲耶「・・・え?
・・・あれ?」
そこで咲耶は、気づく。
周囲が全て『止まっている』ことに。
?「はじめまして・・・というべきかしら。
天保院 咲耶」
咲耶「あ・・・あなた、は?」
久遠「私の名は、久遠。
アナタを待っていたわ」
咲耶「も、もしかして
あの人が言ってた人?」
久遠「そういうことになるのかしら」
咲耶「アナタは、一体何者なの?
それに周囲は、どうなってるの?」
久遠「・・・アナタは、本来
あの魔族兵達に玩具にされたあげく
死ぬはずだった」
咲耶「・・・え?」
久遠「アナタには、生き残る未来なんて
・・・可能性なんて本来なかったの。
あの時、誰も助けなんてこないまま
アナタは殺されるはずだった」
咲耶「そ、そんなっ!?
でも、だって、あの人が―――」
久遠「そう。
和也がアナタを助けたのは
私が、そうさせたから。
アナタには、生き残って貰わないと困るから」
咲耶「・・・和也」
あの人の名前が、思いがけずに解り
この異常な状況の中であっても
つい嬉しくなってしまう。
久遠「・・・話を続けてもいいかしら?」
咲耶「・・・え?
あ・・・はい・・・」
久遠「アナタが生きていること。
それそのものが重要なの。
ここまで来てくれれば・・・。
アイツの領域から出てくれれば
やりようは、いくらでもある」
咲耶「・・・話が、全然解らないのですけど」
久遠「詳しい話は、後でしてあげる。
でも今は、私と一緒に来てもらうわ」
咲耶「え? どこへ?」
久遠「そうね。
時間を越えて、世界を超えて。
違う未来へと直結した世界・・・かしら?」
咲耶「???」
よく解らないという顔の咲耶に、思わずため息をつく久遠。
久遠「・・・いいわ。
簡潔にしてあげる。
和也を助けたいと思うのなら
私の手をとって」
そう言って久遠は、手を差し出す。
咲耶「あの人を・・・助ける?」
久遠「そう。
アナタというイレギュラーが。
ありえないはずの存在が
和也の手助けとなる」
咲耶「・・・」
正直、よく解らなかった。
何がどうなってるのかも、目の前の少女も。
でも一つだけ解ることがある。
咲耶「あの人の・・・和也の助けになるのなら」
そう言って久遠の手をとった咲耶。
久遠「・・・ありがとう」
お礼の言葉の瞬間。
眩しいまでの光が発生して周囲を包む。
それと同時に、止まっていた世界も動き出す。
だが―――
2人の姿は、そこにはなかった。
第▲章 天保院の娘 ―完―