Tiny Dungeon Another Story   作:のこのこ大王

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人界の姫 天保院 咲耶 編
 1 そして動き出す物語


 

 

 とても深い闇の中に居た。

 

 もがいても、沈んでいくことに変わりはない。

 ここに居てはいけないと、本能が叫ぶが

 どうすることも出来ない。

 

 そしてそのうち、考えることが出来なくなり

 自分が何者なのか、わからなくなっている。

 

 それでも沈んでいく。

 

 もう何もかもが溶け合うような感覚の後

 突然膨大な記憶の波に飲み込まれる。

 

 そして、その記憶が

 ようやく自分が何者であるかを思い出させてくれる。

 

 思い出すのは、昔の記憶。

 

 そう、それは『儀式の日』と

 呼ばれることになる・・・そんな日の記憶だった。

 

 

 

 

 

 1 そして動き出す物語 

 

 

 

 

 

 映像が浮かぶ。

 記憶が戻る。

 

 時間は深夜。

 場所は森の奥深く。

 その中央にある、とても大きな広場に不似合いの小さな祭壇がある場所。

 設置されている松明が、辺りを幻想的に映し出している。

 

 だが、そんな独特の幻想は、突然の叫び声で現実に引き戻される。

 

 辺りを取り囲む翼を持った人の影達。

 監視役の大人達が次々と倒れていく。

 泣き叫ぶ者達。

 あたりは一瞬で血に染まり、翼を持った人影達の笑い声が

 支配していった。

 そんな中、私の前に一人の翼を持った人影が立った。

 松明が、その姿を映し出す。

 全身を黒系で統一した服装。

 腰まで伸びた黒い髪。

 そして黒い翼。

 魔族の証。

 翼があること以外は、とても可愛い少女だった。

 だが少女は、その体には不釣り合いなほど

 大きな黒い刃を持っていた。

 

「人族は必要のない存在・・・いらない」

 

 氷のように冷たい瞳。

 感情を全く出さない表情。

 そして吐き捨てるように呟いた言葉。

 全てが敵意に満ちていた。

 

 少女が獲物を無造作に振り下ろす。

 咄嗟に武器を取り出す。

 

「刀身形勢っ!」

 

 炎の刀身が出来ると同時に迫った攻撃を

 何とか受け止めるも、非常に重い一撃だ。

 

「―――ッ!?」

 

 無表情だった少女の顔が驚きに変わる。

 そして私の武器をジッと見つめる。

 

「はっ!」

 

 相手の武器を跳ね上げるように

 上へと弾くが、目の前の少女は、後ろに逃げる。

 

 後ろに下がった彼女だが

 やはり気になるのか、私の武器をジッと見つめる。

 

「・・・そんなにこれって珍しいかしら?」

 

「・・・」

 

 無言で何も答えない魔族の少女。

 

 そして驚きや興味があるというような視線は、消え去る。

 少女は無言で、低い姿勢で獲物を構え直した。

 

 ・・・その直後

 少女の姿が一瞬ブレると、ものすごい勢いで突っ込んできた。

 開いていた距離が、一瞬で詰まる。

 

 少女は勢いをつけたまま、大きく振りかぶった薙刀を振り下ろした。

 

 私は剣で受け止める・・・フリをして、直前で相手に向かって走った。

 全力で振り下ろされた刃に対して、前に突っ込んだ勢いを維持しつつ

 体を回転させるように捻りながらギリギリで避ける。

 そしてすれ違いざまに体を回転させて遠心力を利用した

 全力の一撃を少女の側面に叩き込む。

 少女は全力の一撃をかわされ、隙だらけになるはずだった。

 ・・・だが

 少女は横からの攻撃を避けきれないと判断すると

 突進していた慣性を利用し、そのまま前に飛ぶように通り過ぎていった。

 結果として、私の横からの薙ぎ払いは空振りに終わった。

 

「・・・くっ」

 

 今の一撃は、必死に練習してきた技の一つ『旋風(せんぷう)』。

 高度なカウンター技だ。

 

 完璧に決まったと思った一撃を避けられたことが

 何より悔しかった。

 だか、そんなこちらのことなど関係ないと言わんばかりに

 少女が動き出した。

 

「・・・抵抗なんて、無駄なのに」

 

 少女はそう呟くと、黒い翼を大きく広げて手をかざした。

 その手に、黒い何かが一気に集まっていく。

 そして、塊になったソレがまるで意思を持ったかのように

 突然、私に向かって飛んできた。

 

 ―――それは、魔法と呼ばれるもの

 

「・・・行ってっ!」

 

 私は、剣をその場で横に薙ぐ。

 

 掛け声と共に、刀身部分が切り離され

 まるで魔法のように、正面から迫る

 黒い塊とぶつかって爆発する。

 

 爆発が収まると、再び武器を持って対峙する。

 

「・・・アナタ、名前は?」

 

 唐突に、そんな言葉が出た。

 

「・・・どうして?」

 

「・・・興味が出たって理由じゃダメかしら?」

 

 聞いたところで何があるというわけでもない。

 今でもどうして名前なんて聞いたのか、説明出来ない。

 ただあの時、どうしても彼女の名前が知りたくなった。

 

 ・・・いや『聞かなければならない』ような気がした。

 

「・・・あっそ。私は、フィーネ」

 

 そっけなく自身の名前を答えた彼女。

 

「・・・もういい? じゃあ死んで。いらないから。」

 

 そう言うと少女は薙刀を振り上げて構える。

 

 そんな時だった。

 突然、心に声が響いた。

 

「お前は、何を望む。

 何を願う」

 

「・・・誰?」

 

 目の前の少女を警戒しながら

 周囲をうかがうも、誰も居ない。

 しかし声は、確実に聞こえる。

 

「お前は、何を欲するのだ」

 

「・・・私が、欲しいもの?」

 

 私が望むものは、何?

 願うことは?

 欲したものは何だったの?

 

「・・・私は」

 

 段々と想いが形になる。

 

「・・・私は、皆を助けたい」

 

「世界は、理不尽に満ちている。

 そんなもの全てから、私が皆を護りたい。

 

 ・・・だから、そんな護る力が欲しい。

 抗う力が欲しいっ!」

 

「それがお前の想いか。

 ・・・その願い、確かに聞き届けた」

 

 その瞬間、儀式に使用されるはずだった

 魔方陣が起動して周囲を光が包む。

 

 

 ・・・・・・・

 ・・・・・

 ・・・

 

 

 私は、飛び起きた。

 

「・・・」

 

 夢だと理解するのに少し時間がかかった。

 

「・・・」

 

 懐かしい夢だった。

 あの日からまた、色々なことがあった。

 

 でも私は、その全てを受け入れながら前へと

 進まなければならない。

 

 ・・・生き残った者として。

 

「・・・やっと起きましたか? 姫様」

 

「・・・」

 

 声をかけられ、声がした方向へと顔を向けると

 そこには下着姿の可愛い女の子が立っていた。

 

「・・・ああ、亜梨沙。

 おはよう」

 

「ええ、おはよう御座います。

 

 朝の挨拶も良いですが、早く起きないと

 食事をしている時間が無くなりますよ?」

 

 その指摘に、慌てて時計を確認する。

 

 本当にあまり余裕が無い時間だ。

 

「でも、とりあえず汗を流さないと・・・」

 

 大急ぎで準備をして私は、風呂場へと向かった。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 今日は、陽射しが少し強いぐらいの快晴。

 通い慣れた道を2人で歩く。

 いつもの光景。

 

「姫様は、たまに寝坊されますよね」

 

 亜梨沙が、突然そんなことを言い出す。

 

 彼女は、風間 亜梨沙。

 

 人界最強と呼ばれる『風間流』という武術の家に生まれ

 私の警護として同行してくれている、私の親友だ。

 

 そして私は、天保院 咲耶。

 

 人界を統べる天保院家の生き残り。

 家族や親類は、皆死んだ。

 

 だから生き残っている私が、必然的に当主となり

 人界を統治しなければならなくなった。

 でも私には、そんな力も知識もない。

 

 なので風間家の人達に手伝ってもらいながら

 何とか統治をしているといった状態だ。

 

「お布団には、入ると出たくなくなる魔法でも

 かかっているのかしらね?」

 

「まあ・・・その気持ちは、解らなくはないですけど」

 

 そんなどうでもいい話をしながら歩いていくと

 私達の目的地が、ようやく見えてくる。

 

 

 ―――学園「フォース」

 大戦争と呼ばれた大きな戦争の後に4種族合同で

 設立された人材育成機関。

 主に将来的に軍事・内政に関わるものや

 その希望者を中心に生徒が構成され

 国の中枢になる者を育てるために文武両道を掲げて指導している。

 各国の王族も積極的に入学してくるほどの

 設備・授業内容・知名度を持つエリート学園。

 

 この学園を卒業した生徒は各種族の軍隊・内政で

 常に歓迎・優遇されているほどだ。

 

 そんな超エリートが集まる学園で、私と亜梨沙は現在2階級だ。

 順調・・・とは言えないが、まあそれなりにやっていけている方だと思う。

 

 校門を過ぎたあたりで、見慣れた姿を見つけ思わず声をかけた。

 

「おはよう、リピス」

 

「ああ、咲耶か。 おはよう」

 

「おはようございます。 咲耶様」

 

 少し眠そうな顔で答えたのは、かなり小柄な体格に金色の長い髪

 大きな耳が特徴的な少女で

 名前は、リピス=バルト。

 これでも竜族と呼ばれる種族の王女様だ。

 

 そしてそのすぐ後ろに居るのは、リピスの付きでメイド長をしている

 メリィ=フレールさん。

 綺麗な銀色の長い髪に、落ち着いた物腰。 丁寧な言葉遣い。

 その綺麗な顔立ちで、いかにも大人の女性といった感じなのだが

 まあ、この人は色々と残念な人だったりする。

 何が残念なのかは、そのうち嫌でもわかるわ。

 

「リピスじゃないですか。おはようございます。」

 

「なんだ、亜梨沙も居たのか。おはよう。」

 

「おはようございます。亜梨沙様」

 

「いきなりちょっと失礼です。リピス。

 あとメリィさん、おはようございます」

 

 私は、立場的に人界のお姫様と呼ばれることもあり

 同じような立場のリピスとは、スグに仲良くなった。

 

 ここに来てからは、亜梨沙も含めて

 よく一緒に遊びに出かけることも多い。

 

「まあ、君と私の仲じゃないか。」

 

「毎回同じ台詞を言われている気がします」

 

「気のせいではないか?

 気のせいだろう?

 うむ、きっと気のせいだ。」

 

「なるほど、気のせいでしたか」

 

「・・・」

 

 何気なく聞いていた2人の会話に思わず突っ込みそうになるが

 何とか踏みとどまる。

 

 ここでもし突っ込みを入れれば、今度は

 私をからかう流れになるのは学習済みだ。

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 2人の『さあ、突っ込んでこいよ』という

 期待に満ちた目をあえてスルーして先に進む。

 

「・・・ここで突っ込みが無いとは

 咲耶もわかっていないな」

 

 待っていた反応が無かったことが

 よほど残念なのか、ついにリピスの方から

 指摘が入る。

 

「そうですよ、姫様。

 ここは、こうビシっと会話に参加する流れでした」

 

 謎の連携を見せる2人。

 いつも最後は、私をイジメて遊ぶことが多い。

 困った2人である。

 

「そんなこと言って、どうせ私で遊ぶ気だったのでしょう?

 

 残念ながら時間も無いから無理よ」

 

「あ、ホントですね。 これはやばい」

 

「では、そろそろ行くとしようか」

 

 それでもまだ時間は、少し余裕があったため

 3人並んで校内へと入っていく。

 

 

 リピス達と別れ、亜梨沙と教室に入る。

 とたんに教室の空気が変わるのを感じた。

 まあ、いつも通りのことなので気にせずに席に着く。

 

「人族風情が、どうしてまだ学園に居られるんだろうな?」

 

 背後から刺のある言葉が聞こえてきた。

 振り返ると、声の主はいつも通りのアイツ―――

 学園では名前を知らない奴は居ないだろう。

 少し長い髪を揺らしながら、尊大な態度でこちらを見下している

 このムカつく奴は、ヴァイス=フールス

 魔界の貴族。

 奴の家柄、魔王の一族は『魔王の血族(けつぞく)』と呼ばれ

 体内で魔力増幅を行える

 特殊な体質を持ち、強大な魔法を行使出来る魔族の中でもエリート。

 

 まあ当の本人の家は、一族とはいえ隅っこの隅っこで、血族の中でも

 それほど大きな力は持っていないのだが、それでも魔族の中では

 優秀な部類に入る強さを持っている。

 だが、その生まれ持った力を何か勘違いしている残念な奴でもある。

 

「毎回、学習しない人ですね。

 

 姫様を侮辱するということは

 人界そのものへの侮辱です。

 

 ・・・また、マリア様に詰め寄られたいのですか?」

 

 またかという顔で、亜梨沙が私とムカつくアイツとの間に入る。

 

「何を言うかと思えば・・・。

 

 別に私は、そこの女に言った訳ではない。

 そう、ただのひとりごとだよ、ひとりごと。

 

 それがただ聞こえてしまった・・・それだけだ」

 

 言うだけ言うと満足そうに高笑いをしながら、自分の席に着く。

 事あるごとに人族を馬鹿にする態度を取っているのが

 このヴァイスだ。

 

 だが相手が普通の人族ではないため

 表立って批判して人界を敵に回しては

 外交問題へと発展する。

 

 そしてそれは自分達の主であり

 この学園の学園長でもあるマリア=ゴアの顔に泥を塗る行為と

 なってしまう。

 

 学園に入学した初日に、今のようなことを言ったため

 マリア=ゴアより『人族2人に対しての暴言を禁止する』との

 禁止事項が出された。

 

 下手に外交問題へと発展すれば、他種族に付け入る隙となり

 自分達が不利な立場になる。

 そのため、余計なことをするなという命令だ。

 

 殺気すら放ちながらの警告に、すっかり彼らは大人しくなった。

 だが、彼らは姑息だった。

 

 表立って批判しなければいいだけだと

 今のような方向や、陰口を言うようになったのだ。

 

 どちらが良いという訳でもないが

 結局は、あまり変わっていないと感じるのは

 きっと私だけではないはずだ。

 

 

 

 少しして、授業開始の鐘が響くと同時に教室に一人の教師が入ってくる。

 彼女はセオラ=ムルム。

 留めてある長い髪を左右に小さく動かしながら教壇に立つ。

 

「さあ、みなさん。

 私語を止めて席に着きなさい。

 もう時間ですよっ!」

 

 彼女の声で、みんな席につく。

 

「・・・今日も欠席者は無しっと。

 大変結構です。体調管理は戦士の基本ですからね。」

 

 満足そうに微笑むと、出席簿を閉じた。

 綺麗なお姉さんといった感じの竜族で、生徒を

 種族・身分・容姿・成績などで差別せず

 全ての生徒を平等に扱うため生徒からの人気も高い。

 そしてこれでも竜族のNo3だとリピスが言っているほどの実力者だ。

 

「みなさん、忘れていないでしょうが

 明後日は全階級合同の実戦試験です。

 それに伴って明日は屋外探索となっています。

 どちらも実戦単位の対象ですから

 くれぐれも油断の無いように。」

 

 彼女の言葉に教室がまた、ざわつきはじめる。

 探索エリアが違うとはいえ、全階級が揃うイベントは滅多にない。

 それだけ大きなイベントともなれば貰える単位の数も質も高いだろう。

 単位が足りなければ進級試験すら受けれないこの学園で

 単位というものは、何より大事で最優先なものとなっている。

 特に学科より優遇される実戦での単位となれば、全生徒が欲しがる。

 

「こら、もう少し静かになさい!」

 

 先生が声を上げた。

 たしかに後ろの方の魔族連中が盛り上がっていて、少し騒がしかった。

 いつもなら、怒らせると怖いということを知っているので

 自然と落ち着くのだが、もうスグ行われるイベントで

 テンションが上がったのか、彼女の話を聞いていない。

 ・・・なんて命知らずな。

 そう思った直後、先生が動いた。

 

「私の言葉が聞けないと・・・」

 

 そうつぶやくと、手に持っていたチョークを構えて威嚇する。

 

「先生、甘いぜっ!」

 

 騒いでいた魔族の一人はそう言うと

 儀式兵装の杖を持ちながら 

 

「ファイアシールド!!」

 

 目の前に炎で作った盾を出した。

 

「なるほど・・・あくまで受けて立つということですか。

 いいでしょう。 何事も経験です」

 

 落ち着いた口調でそう言うと、腕の振りだけでチョークを投げた。

 普通にチョークを投げた程度なら、この炎盾で消し炭になっただろう。

 だが・・・

 

「ぐはぁ!!」

 

 ありえない速度で飛んでいくチョークが、まるで何も存在しないかの如く

 軽々と炎盾を貫通して、魔族生徒の額に当たる。

 チョークの一撃を喰らった彼は、後ろに大きく吹き飛んで教室の壁に激突。

 気を失って倒れた。

 

「さて、あとでしっかりとお説教タイムですわ。」

 

 まあ先生に立ち向かったという自業自得ではあるが

 騒いでいただけで、超高速チョーク弾丸を喰らって

 気絶+説教だなんて・・・。

 勇気と無謀の区別がつかなかった代償は厳しいものだった。

 

 その光景を見た残りの騒いでいた連中は

 さっきまでの光景が嘘のように無言になった。

 炎盾は、火系の防御魔法の初級ランクだ。

 初級と言っても、剣や槍といった物理攻撃を受け止めることが

 出来る硬さがあり、魔法もある程度防げる万能の盾だ。

 火属性を扱う者が使う、最も一般的な防御魔法である。

 それを、投げたチョークで貫くとか・・・。

 竜族の・・・というか先生の投げたチョークの破壊力が

 どれだけ危険かということが再確認出来た事件だった。

 

 

 

 ―――昼休み

 いつも通り亜梨沙と2人、食堂へ行くとリピスと

 メリィさんが、席を確保してくれていた。

 

「いつもすまないわね。」

 

 そう言いながら席に着く。

 

「まあ、気にするな。 ついでみたいなものだ。

    それに席を確保しているのはメリィだ。」

 

「主の席を確保するのは従者の務め。

 咲耶様達はリピス様の大事なご友人です。

 何の遠慮も必要ありません。」

 

 何度か同じようなやり取りをした記憶もあるが

 礼を言うのが何度目になったところで構わないだろう。

 

「そういえば、前から気になっていたのですが・・・。

 メリィさんって学園の生徒じゃないですよね?

 たしか部外者は入れないはずですよね、ここ」

 

 何かを思い出したかのように話し出した亜梨沙。

 

「そういえばそんな防衛装置があったわね」

 

 亜梨沙に言われて私は、思い出す。

 

 この学園は各世界の要人も多く居たり、また各世界の最新技術が

 集まっている場所でもあるので、装置に登録していないと

 防衛設備が反応して攻撃してくる要塞のような場所だということを。

 

「ああ、そのことでしたら大丈夫ですよ。

 ちゃんと許可を得てますから」

 

「よく許可出ましたね。

 この学園、そういう特例に関しても

 かなり厳しいって話を聞いたことがあります。

 

 ・・・学園でも占拠しましたか?」

 

「・・・よく解ったな、亜梨沙」

 

 亜梨沙の発言に、リピスが驚く。

 

「別に知っていた訳では・・・あれ?」

 

 急に考え込む亜梨沙。

 

「前に、聞いたような・・・」

 

 亜梨沙の脳内に映像が出る。

 

 それは、いつもの昼休みの風景。

 そこで話されるメリィの学園占拠話。

 

 それを隣に居た少年と一緒になって呆れている自分。

 

 あの人は―――

 

「・・・くっ!!」

 

 急激な頭痛に襲われて苦しむ亜梨沙。

 

「大丈夫かっ!?」

 

「大丈夫ですか、亜梨沙様っ!?」

 

「どうしたの、亜梨沙っ!?」

 

 頭を抑えて苦しむ亜梨沙だったが

 やがて落ち着いたのか、椅子にもたれかかる。

 

「・・・大丈夫です・・・なんとか」

 

 肩で息をしながらも、そう返事をする亜梨沙。

 

「何でも無い訳ないだろう。

 ・・・メリィ」

 

「はい。

 スグに医師を手配します」

 

「そこまで大げさにしなくても、大丈夫です」

 

 まだ苦しそうではあるが

 心配させまいと、無理やり笑顔を作る亜梨沙。

 

「無理はしないで、亜梨沙。

 今日は、リピスに甘えさせてもらいましょう」

 

 私は、そう言ってリピスと視線を合わせる。

 それで理解してくれたのか

 メリィさんが、医者の準備をしにいってくれた。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 放課後になると、寄り道せずに帰りを急ぐ。

 やがて寮が見えてくる。

 

「あら、お帰りなさい。

 咲耶ちゃん」

 

 優しい声に顔を上げると、寮の玄関に女性が立っていた。

 すごく和やかな雰囲気ので、凄く若く見えるため

 大人なのに、いまいち年齢がわからない、そんな不思議な女性。

 

 だがこう見えて、神王妃というとんでもない肩書きを持っている。

 初めて会った時は、緊張もしたが

 今では、すっかり仲良く話しをさせてもらっている。

 

「オリビアさん、ただいま」

 

 ここは学園フォースの女子寮。

 学園は全寮制で、部屋は2人部屋のみとなっている。

 

 もちろんルームメイトは、亜梨沙。 

 

 愉しそうに箒を使って玄関を掃除するオリビアさん。

 彼女は、寮内の家事を全てこなしている。

 他にも寮の清掃人や料理人は大勢居るので

 任せてしまってもいいはずなのに

 彼女は全てに関わらないと気が済まないらしい。

 手に持っているホウキも全然違和感がない。

 そしてオリビアさんは種族による差別をまったくしない人だ。

 管理人である彼女がそういう方針なため

 寮の中で嫌がらせをされることはない。

 

 それにまあ、神王妃に逆らうような度胸のある人物は

 女子寮どころか、四界中を探しても

 まともに居ないだろう。

 

「そう言えば、亜梨沙は

 大人しくしてましたか?」

 

「ええ。

 ちゃんと寝かし付けておいたわよ」

 

 愉しそうに、そう言うオリビアさん。

 

 あれから診察を受けた亜梨沙は

 異常無しとの判断だったのだが

 精神的なストレス負荷がかかっている状態らしく

 大事をとって早退させていた。

 

「ありがとうございます。

 

 では、私も顔を見てきます」

 

 お礼を言って頭を下げると

 少し早足で、自室に戻る。

 

 

 ・・・・・。

 

 

 夜風を切り裂く音がリズム良く響く。

 夜の自由時間。

 みんなは寮内で楽しく会話等をしている時間に、私は外に居た。

 女子寮の裏にある森を抜けると、とても広い丘に出る。

 ここは静かで、人も滅多にこないため自己鍛錬の場所として

 使わせてもらっている。

 

 私には、正直

 戦士としての才能が無い。

 

 これは、亜梨沙のお爺さんであり

 私の後見人になってくれている風間家当主であり

 風間流の最高師範でもある、風間 源五郎からも言われたことだ。

 

 だから私は、人の何倍も努力しなければ

 とてもではないが、ついていくことができない。

 

 そんな私を助けてくれるのが、手に持っている

 『強襲型魔法剣・紅』だ。

 

 これは、私が助けられた際に

 握り締めていたものだ。

 

 いつ、誰から貰ったものなのか

 覚えていないが、これを見ていると

 とても懐かしく、暖かい気持ちになる。 

 

 この剣は、刀身が火属性の魔法で出来ていて

 出力を調整すれば、大剣のようなサイズにもなる。

 

 普通の剣では、防御魔法を抜くことは基本的に難しいが

 この剣なら、抜くことが出来る。

 

 儀式兵装も持ってはいるが

 攻撃をするためのものではない。

 

 だからこそ、攻撃の際は

 この剣だけが頼りだ。

 

 それに儀式兵装は、便利すぎて

 あまり頼っていては、自分の実力が

 上がってくれないというのもある。

 

 一応、魔力切れ対策用に普通の剣も

 持っているが、これは完全に予備であり

 魔力切れになることなんて考えたくもない。

 

 剣を振り終わると、タオルで汗を拭く。

 

 そしていつも、この時に思う。

 

『何故、頑張っているのだろうか』と。

 

 実は、何故自分が頑張っているのか

 正確には、理解していない。

 

 でも、心の中の自分が言うのだ。

 

 決して努力を怠るなと。

 頑張り、努力し続けろと。

 

 でなければ、必ず後悔することになる。

 

 ―――それは

 

「あぁ・・・!!」

 

 『また』あの頭痛だ。

 

 しばらく頭を抑えながらその場に座り込んで

 痛みに耐える。

 

 そして痛みが無くなった頃に思うのだ。

 

 『私は、何を思い出そうとしていたのか』と。

 最近、この繰り返しが多い気がしている。

 

 だが、思い出せないことをどうすることも出来ない。

 

 頭の痛みが、完全に治まったのを確認すると

 その日の練習を切り上げて

 私は、寮へと帰るのだった。

 

 

 

 

 

 1 そして動き出す物語 ―完―

 

 

 

 

 




まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。

えっと。
残り2~3章ぐらいで終了の予定だったのですが
またも茨の道に、自ら飛び込んでしまいました。

話の流れは、感の良い人なら
もうどういう感じになるか、予想が出来るところまで
行ってしまっています。

あと最近は
連続投稿しておりますが
そろそろ力尽きると思いますので、ご了承下さい(笑)
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