Tiny Dungeon Another Story   作:のこのこ大王

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 2 漆黒の翼

 

 たまに来る頭痛が気になるも

 それなりに学園生活を送っていた。

 

 何度か、医師に見てもらったが

 原因が解らないそうで、対策の取りようがない。

 まあ、長年の付き合いでもある偏頭痛ため

 最近は、慣れてきたとでもいうべきか。

 

 ある日の放課後。

 

 亜梨沙と2人で日用品の買い物を済ませて

 帰っている途中だった。

 

「おい、泣いてるんじゃねーぞ!」

 

 魔族の一人が、何やら叫んでいた。

 よく見ると魔族6人が神族の少女1人を取り囲んでいる。

 しかも神族の少女は泣いているようだ。

 

「この高貴なる私の服を汚したんだ。

 当然死ぬ覚悟があったんだろうな?」

 

 しかも、よりにもよってヴァイス=フールスとその取り巻きだった。

 

「ヴァイス様の服に水をかけるなんて、良い度胸だ!」

 

 どうも広場の花壇に水撒きしている最中にヴァイスに

 水がかかったということで

 よってたかって絡んでいるようだ。

 

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」

 

 可哀想に少女は泣きながら繰り返し謝罪している。

 

「泣いて謝罪したところで済む話ではない。

 どうしても許して欲しいのなら、この場で死ね!」

 

 まるで子供のように理不尽な怒り方をするヴァイス。

 

「・・・もう無茶苦茶ね」

 

「本当ですね。

 アレじゃまるで駄々をこねる子供です」

 

 相変わらずの暴君ぶりに、つい2人揃ってため息をつく。

 

 軽く周囲を見ても、誰もが『関わりたくない』という感じだ。

 まあ制服を見ればフォースの人間だと解るため

 皆、手出し出来ないという方が正しいのか。

 

「・・・ねぇ、亜梨沙」

 

「姫様が、そんな声を出す時は

 大抵ロクな話じゃないのですけど」

 

 不満そうな顔をする亜梨沙に思わず苦笑する。

 

「そんなに警戒しなくても。

 ・・・ちょっとだけ手を出すだけよ」

 

「・・・はぁ。

 どうせ止めてもやるのでしょう?」

 

「あら、解ってるじゃない。

 で、亜梨沙はね・・・」

 

 コソコソと裏通りに移動する2人。

 

「この場で死んで、許しを請えばいいんだよ!」

 

 魔族の一人が拳を振り上げる。

 少女を殴ろうとした瞬間だった。

 

 鋭い音と共に、魔族生徒と少女の間に

 炎で出来た剣のようなものが突き刺さる。

 

 そして―――

 

「ブレイクッ!」

 

 どこからか聞こえてきた声と共に

 その炎の剣は、爆発して

 周囲は、煙に包まれる。

 

「な・・・なんだこれっ!」

 

「一体何が起こったのだっ!?」

 

 混乱するヴァイスと取り巻き達。

 

 少しして煙が晴れ、周囲を見渡せるようになる。

 

「くそっ! 誰だっ!?

 この私に喧嘩を売ってきたのはっ!?」

 

 更に怒りが増したヴァイスだったが・・・。

 

「あ、あれ?

 居ないぞっ!」

 

「ホントだ。

 くそっ! 何処に行ったっ!?」

 

 取り巻き立ちが騒ぎ出す。

 

 それもそのはず。

 目の前に居た神族の少女が消えていたのだ。

 

「馬鹿にされて黙っていられるかっ!!

 探し出せっ!!」

 

 取り巻き達に周囲を探させるヴァイス。

 

「おい、お前かっ!?」

 

「知ってるなら答えろっ!!」

 

 ヴァイスが近くに居るためか

 取り巻き達は、威圧的に周囲に居る人達や

 通りかかる学生達に声をかけている。

 

 そんな彼らから通りを2つほど超えた場所に

 彼女らは、居た。

 

「もう大丈夫でしょう」

 

「怪我は、してませんか?」

 

「あ・・・あの、アナタ達は?」

 

「ああ、ただの通りすがりだから気にしないで」

 

「そうです。

 さあ、早く家に帰りなさい。

 もう、ああいうのに捕まらないで下さいよ」

 

「は、はい。

 ありがとうございますっ!」

 

 神族の少女は、何度もこちらに頭を下げながら

 家へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 2 漆黒の翼

 

 

 

 

 

 同じ頃、広場では

 

「おい、テメェ何か知らねぇのかよっ!!」

 

 取り巻き達が、まだ通行人達に詰め寄っていた。

 

「お前は、何かし―――」

 

「・・・わね」

 

「何だっ!?

 何か文句でもあるのかっ!?

 あるってんなら容赦しねぇ―――」

 

「うっさいって言ってるのよっ!」

 

「ぐぇ!」

 

 魔族生徒の一人が、大きく宙に浮いてから倒れる。

 

「な・・・何だ、お前っ!」

 

 周囲の取り巻き達が気づいて

 その相手を囲む。

 

「む・・・貴様は・・・」

 

 ヴァイスが相手を見て珍しく言葉を濁す。

 

「一体何なのよ・・・」

 

 不満げな表情をしながら彼らの前に立つ

 銀色の長い髪を左右に結った美少女。

 

 神族王女姉妹の妹。

 神族第二王女、エリナ=アスペリアだった。

 

「神族王女か・・・。

 よもや貴様では、無いだろうな?」

 

「だから何の話よっ!

 さっきもいきなり突っかかってきたしっ!」

 

 いきなり訳の解らないことに巻き込まれ

 既に怒り気味のエリナ。

 

「さっきの神族の女のことだ。

 同族だからと、助けたのではないか?」

 

「だから何の話なのよっ!

 喧嘩でも売ってるのっ!?」

 

 いがみ合う両者。

 

 そんな時だった。

 

「一体、何の騒ぎだ?」

 

 その一言を聞いただけで

 相手が身分の高い相手だと解るほど

 重圧のある声が広場に響く。

 

 ヴァイス達やエリナが振り向く。

 

 そこには、竜界の頂点に立つ者。

 

 金色の竜牙の二つ名を持つ竜界王女

 リピス=バルトが立っていた。

 

 その後ろには、同じく二つ名を持つ

 メイド長 メリィ=フレールも居る。

 

「竜界王女・・・か」

 

「・・・」

 

 2人とも機嫌が悪そうに顔を背ける。

 

「・・・何があったと聞いている」

 

 少し威圧的に声をかけるリピス。

 

「・・・そこの連中がいきなり絡んできたのよ。

 訳わかんない話ばっかりで、意味が解らないわ」

 

「いきなり手を出してきたのは

 お前の方だろっ!?」

 

「そうだっ!

 どうせさっきの神族も、こいつが

 助けたに違いないぜっ!」

 

 エリナの言葉に声をあげて反論する取り巻き達。

 

「そう声を荒げなくても話は、聞こえている。

 犬でも、もう少し利口だぞ?」

 

 リピスが、ため息をつく。

 

「竜族の癖に、俺達を犬扱いだとっ!?」

 

「王女だか何だか知らないが

 調子に乗るなよっ!!」

 

 馬鹿にされたことが腹立たしいのか

 怒りの矛先が、リピスに向かう。

 

「ヴァイス様、こんな連中

 まとめてやってしまいましょうっ!」

 

「・・・ふむ。

 お前は、そんなに死にたいのか?」

 

 強気に出る魔族生徒に

 あくまで冷静に対応するリピス。

 

「何だとっ!?」

 

「くそっ!!

 馬鹿にしやがってっ!!」

 

 冷静で焦る様子のないリピスに対して

 にわかに殺気立つ取り巻き達。

 

 彼らが儀式兵装を取り出した瞬間だった。

 

「―――ッ!?」

 

 ヴァイスを含めた取り巻き全員が凍りつく。

 

 自分達を取り囲むように全方向から

 強烈な殺気が向けられていることに気づいたからだ。

 

 様子見していたはず竜族の男は、手に金槌を持っている。

 とある店の前に立つ竜族の店主は、大きな包丁を。

 出店の竜族の女は、儀式兵装を。

 広場の隅で隠れていた竜族の幼い少女ですら

 落ちていた石を拾い集めて魔族達を睨んでいる。

 

 竜界でリピスは、アイドルのような存在で

 竜族は皆、熱狂的な信者であると言える。

 

 自分達の象徴に対して敵意を見せた相手に

 彼らは、間違いなく容赦などしないだろう。

 

 気づけば、リピスの後ろに居たはずの

 メリィが、リピスの前に出ている。

 

 そして更に―――

 

「それ以上、リピス様に対して

 無礼な行いをするのなら容赦は、しませんよ?」

 

 後ろから声をかけられ、彼らが振り向くと

 そこには、3人の竜族が居た。

 

「手加減はぁ~しませんよぉ~?」

 

「我々が相手になりますっ!」

 

 アイリス=カチス

 リリィ=コネクト

 カリン=ヤクト

 

 リピスの護衛を勤める3人も合流してきていた。

 

「・・・ふん。

 魔界の貴族にして魔王の血族でもある

 このヴァイス様が、この程度のことで

 相手にする訳が無いだろう」

 

 大きな舌打ちをすると

 一人でさっさと歩いていく。

 

「ま、待って下さいよっ!」

 

 取り巻き達も、慌ててヴァイスの後を追う。

 

 彼らが、見えなくなるまで離れた瞬間。

 

 周囲に張り詰めていた空気が無くなり

 周りの竜族達もそれぞれの生活に戻っていく。

 

「へ~。

 ホントに竜族って統一感あるんだね~」

 

 そんな様子にエリナは、関心していた。

 

「キミも、あまり大きな騒ぎは

 起こさない方がいい。

 

 王女という立場は、嫌でも付いてくる。

 ・・・オリビアどのにも迷惑をかけたくないだろう?」

 

「・・・うっ」

 

 母親の名前を出されて、思わず言葉が詰まるエリナ。

 

「わ、私は

 巻き込まれただけだもんっ!

 

 私、今回悪くないわよっ!」

 

「悪い、悪くないの問題ではないのだが・・・」

 

 子供のような言い分に、思わずリピスは

 苦笑して追及する気を失う。

 

「まあ『気をつけろ』ということだ」

 

 それだけ言うと

 颯爽と歩いていくリピス。

 

 その後ろを綺麗についていくメリィとアイリス達。

 

「はぁ・・・。

 もう疲れたから、私も帰ろう」

 

 そう言ってエリナも寮へと帰るのだった。

 

 

 そして次の日。

 

 その日が、やってきた。

 雲一つない晴天。

 周りは喧騒と熱気に包まれていた。

 そう、今日は・・・

 

「ついに、この日が来たわ」

 

「相変わらずのお祭り状態ですね」

 

 全階級合同実戦試験 前期の開催日である。

 会場となる地下ダンジョンは闘技場から入るため、闘技場内に

 全階級が集まることになり、必然としてこの騒ぎである。

 

「おや、咲耶達じゃないか」

 

 少しでもブラつけば迷子確定というほどの人数の中から

 見知った顔が見える。

 

「あら、リピスじゃない」

 

「おはようございます、リピス」

 

「2人とも、こんな後ろの方でいいのか?」

 

 私達が居るのはダンジョン入り口から、かなり離れた場所だ。

 正直スタートダッシュ狙いなら、まずありえない地点。

 

「スタートダッシュに巻き込まれるのだけは、ごめんだわ」

 

「確かに、あれはもう無茶苦茶だからな」

 

 開始直後は、やはり一番を狙って走るパーティーで

 入り口が大変なことになる。

 そして恒例のように

 そのトラブルが発端となって入り口付近で戦闘が始まる。

 

 戦闘が邪魔で入れないパーティー、それらを押し退けようと

 介入するパーティーなども出始めて収集が着かなくなるのが

 開始直後のお約束だ。

 

 特に私達人族がそんな中に入ってしまったら、最優先で狙われかねない。

 

 なので順位より完走を、ポイント確保よりも生存を優先しなければ

 単位は難しくなってしまう。

 必然としてあえて後ろからスタートするようになったという経緯がある。

 

「リピスこそ、前じゃなくていいんですか?」

 

 リピスのパーティーは竜族のみで構成されたチームで

 2階級の竜族の中でも実力者が揃っている。

 正直リピスのチームなら正面突破で

 あの開始直後のカオス空間を抜けれるだろう。

 

 何せ、毎回他のパーティーを攻撃出来るチーム戦では

 目に付いたパーティーを全て潰しながら前進するという

 豪快な戦い方をしている。

 

 竜界の姫とその親衛隊による部隊『チーム・竜姫』と呼ばれ

 このチームに狙われて撃破されなかったパーティーは

 今のところセリナとエリナの神族姉妹のチームだけだと言われている。

 

 決して出会いたくないチームの1つだ。

 

「う~ん。 まあ出来ないこともないんだが・・・」

 

 少し考えるように首を傾げたあと

 

「後ろから追いかけるのも、愉しいじゃないか」

 

 不敵な笑みを浮かべながらとんでもないことを言うリピス。

 さすが『チーム・竜姫』のリーダーという発言である。

 

「まあ、私達を見つけた場合はスルーしてください」

 

「ええ、無視してくれて構わないから」

 

「それは出来ない相談だ。

 むしろ見つけたら全力で追いかけてやるから

 覚悟しておくんだな。」

 

 容赦の無い言葉を言い出したリピスに反論しようとしたところで

 学園長の挨拶が始まった。

 

「学園長のマリア=ゴアだ。

 長々と話をするつもりはない。

 今更ルール説明も必要ないだろうし挨拶は、短くしておく。

 

 生徒諸君! 戦争にルールなどない!

 だが当然、守るべき良識というものもまた存在する!

 

 必要最小限の良識さえ理解し、遵守しさえすれば

 それ以外のあらゆる勝つため、生き残るための行動を

 その全てを評価対象とし判定する!

 諸君らはただ、持てる全ての力を出し切って勝ち残れ! 以上だ!

 

 では、これより

 全階級合同実戦試験 前期を開始する!」

 

 非常に簡潔で力強い開始宣言と共に一斉に生徒達が動き出す。

 開始10秒も経たずに早速、魔法も飛び交い始める。

 

「うむ、ではダンジョン内で会おう」

 

「敵には会いたくないので、遠慮しておきます」

 

 リピスが自分のチームに合流しにいくのを確認して

 私達もゆっくりと動き出した。

 

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 試験開始から1時間ほど経った。

 私は、序盤のチェックポイントに設置された端末で

 情報を確認していた。

 

「やっぱり石は無いですね」

 

「まあ、ゆっくりと進んでるからね」

 

 ダンジョン試験は、各所に設置された魔法石を回収しながら

 ゴール地点を目指すもので

 主なポイントは

 

 ダンジョンクリア時間

 魔法石の所持数

 パーティーの損耗率

 

 この3つが重要となってくる。

 

 無理して全滅するリスクよりも、地道に戦闘回避しながら

 生き残って完走する方が総合的に点数は高いので

 私達2人の方針は生存することを重視している。

 

 戦闘を極力回避していると

 どうしてもチェックポイントに魔法石が残ってるような

 タイミングでたどり着けない。

 

「しかし今回は、荒れてるわねぇ」

 

 端末を確認しながら、疑問に思ったことを口にする。

 

「残りパーティー数が、結構減りましたね」

 

 この端末は、ダンジョン内のパーティーの数と

 ダンジョン地図が表示される。

 現在、まだ魔法石を持ちすぎているチームは無いが

 開始してこの時間にしては、脱落チームの多さが目立つ。

 

「この時間ならまだお互いに、けん制し合って

 パーティー戦闘なんて、ほとんど無いはずなのに・・・」

 

「まあ、潰し合ってくれているなら好都合です」

 

 端末を前に話し合っていると

 突然、亜梨沙が壁際に隠れて武器を手に持つ。

 

 それを見て、慌てて反対側に隠れる。

 

 少しして複数の足音が聞こえてくる。

 間違いなく他パーティーだ。

 

 非常に不利だが、状況的にもう逃げるにしても手遅れ。

 覚悟を決めて先手を取るために神経を尖らせる。

 

「おっと、警戒しないでくれ。

 別に戦う気ないからさ~」

 

 何とも気楽な声と共に一人の男が姿を現した。

 

「・・・ギル=グレフですか」

 

 亜梨沙が相手の名を呟く。

 

 

 ギル=グレフ

 

 私達と同じクラスの魔族だ。

 陽気で明るい性格で、何より種族による差別意識が無いため

 同族から異端の目で見られることもあるが

 それ以上に彼の性格ゆえか種族に関係なく人気が高い。

 

 四翼持ちで、火と風の二属性を扱えてオリジナル魔法まで持っている。

 魔族特有のゴリ押しな戦い方をせず、神族のような技術を駆使した

 心理戦を得意としており、去年の闘技大会では

 3階級の魔族を倒しているため

 現在フォースで名前の挙がる実力者の1人だ。

 

「お、名前を覚えてくれていたとは光栄だね」

 

「で、何の用ですか?」

 

「キミ達に会いたくて・・・さ」

 

 気障な台詞と共に咲耶の手を握ぎろうとして

 亜梨沙に思いっきり蹴り飛ばされる。

 

「姫様に何するんですか。

 変なことすると蹴りますよ」

 

「もう既に蹴られてるんですけど・・・」

 

「下がって大丈夫よ、亜梨沙。

 ・・・それで、何の用かしら?」

 

「いや~・・・なに。

 ちょっと端末俺にも見せて~ってだけなんだけどね~」

 

 蹴り飛ばされた痛みを堪えながらも陽気に答えるギル。

 

「じゃあ、奥に居る5人は何ですか。

 伏兵じゃないんですか」

 

「いやいや、他の連中は人族ってだけで嫌ってるでしょ?

 そんな状態で一緒に来ちゃったら戦闘になっちゃうじゃない。

 俺、そういうめんどくさいの嫌いなんだよねぇ」

 

 何を考えているのかさっぱりな笑顔。

 まあ攻撃してくるなら、とっくに襲ってきているだろうし

 一応は、言い分を信じるべきだろう。

 

「亜梨沙も、武器を片付けて。

 戦う訳ではないみたいだから」

 

「こんな変態の言うことを信じる気ですかっ!?」

 

「変態なんてひどい偏見だよ、妹ちゃん。」

 

「この場で斬られなかっただけ、よかったと思って下さい変態」

 

「もう、亜梨沙。

 いいから私とこっちに行きましょう」

 

 強引に亜梨沙を端末付近から遠ざける。

 

「とりあえず信用して貰えたってことで

 ちょいと俺も端末見させてもらうよ」

 

 端末を軽快に操作して情報を引き出すギル。

 そんなギルをジト眼で監視する亜梨沙。

 なんというか、気まずい空気だった。

 

「今回は荒れそうだねぇ」

 

「そうね。

 序盤でこれは、予想外だわ」

 

「これはこれで面白いからいいんだけどな」

 

 ある程度の情報を引き出したギルは端末を終了する。

 

「よし、ありがとね。

 おかげで今後の方針が決まったよ」

 

「用件が終わったらさっさと帰って下さい」

 

「ははは、じゃあまたね~」

 

 ギルは、私達に軽く手を振りながら自分のパーティーに合流しにいった。

 

 そしてパーティーに合流したギルだったが

 ここでふと気づく。

 

「あれ?

 何で俺『妹ちゃん』って言ったんだ?」

 

 別に彼女の家族構成を知ってる訳ではない。

 

 そう、別に兄―――

 

「あ・・・っててっ!」

 

 突然の頭痛に苦しむギル。

 

「おい、大丈夫かっ!?」

 

 周囲の仲間が心配して集まってくる。

 

 

 一方、ギルが去った後。

 

「なんだったんですか、あの変態」

 

「さあ?

 じゃあ、私達も移動しましょう」

 

 何時までもここに居ても仕方が無いので移動を開始する。

 そして私達の懸念は、現実のものとなる。

 

 

 ―――そして、試験開始から3時間が経った。

 とあるチェックポイントで情報を引き出すために端末を操作する。

 

 

「石が大量に残ってます。

 何ですか、この展開」

 

「・・・まあ、これが原因でしょうね」

 

 私は、検索した結果を亜梨沙に見せる。

 

「・・・何ですか、これ」

 

 亜梨沙がそういうのも仕方が無い。

 開始から3時間ほどで二階級全体のパーティー脱落率78%という

 この数字。

 そして魔法石所持数超えで表示されている、ゴール手前にある

 広場に陣取る1つのパーティーの存在。

 

 そしてそのパーティー情報には

 パーティー数:登録準備中

 データ:未登録

 所持魔法石:306個

 という簡素な文章がついているだけだった。

 

「魔法石ってたしか全体で500でしたよね?」

 

「ええ、そのはずよ」

 

「偽情報という線は、ないですか?」

 

「それはたぶんないわ。

 チェックポイントを通るたびに確認してたけど

 数値の上がり方は、確かに異常。

 でも上がっていく過程は、確認済みよ」

 

「なら、この不明パーティーは

 通り過ぎようとする全てのパーティーを全滅させていると?」

 

「そう考えるのが自然ね」

 

「でも、この登録準備中って何ですかね?」

 

「さあ?

 私も見たことが無いわ」

 

 2人で首をかしげていると

 ふと亜梨沙が、横を向く。

 

「誰ですかっ!!」

 

 儀式兵装を構えて通路側を見つめる亜梨沙。

 

「ごめんなさい。

 驚かせちゃったみたいですね」

 

 そう言いながら歩いてきたのは

 長い銀色の髪をなびかせる少女。

 

 その姿から『白銀の女神』と呼ばれる神界の王女。

 

 神界第一王女 セリナ=アスペリア だった。

 

「・・・亜梨沙。

 武器を片付けて」

 

「ですが・・・」

 

「大丈夫よ。

 戦いに来た訳ではない・・・よね?」

 

 相手に確認するように話す。

 

「はい。

 私は、端末を使わせて頂きたいだけです」

 

 そうですよと言うように笑顔で答えるセリナ。

 

 その姿に亜梨沙は、警戒を解く。

 

「一応、チームの皆は

 奥で待機してもらってます。

 私一人でなら、構いませんよね?」

 

 あくまで主導権は、そっちだと言うセリナに

 思わず苦笑する。

 

「ええ。

 離れているから、自由に使って」

 

 そう言って亜梨沙と2人で端に移動する。

 

「ありがとうございます」

 

 一礼するとセリナは、端末を操作する。

 

 しばらく操作すると端末を離れる。

 

「では、これで失礼します。

 

 ・・・出来れば、出会わないことを祈っています」

 

 そう言って笑顔で一礼すると

 仲間の方へと帰っていくセリナ。

 

「・・・ええ。

 出来れば、もうこの試験中は

 出会いたくないわね」

 

 セリナの背中に向かって、そう呟く咲耶。

 

 

 その後も、中継地点には

 大量の魔法石がある。

 

 途中、端末で気になる情報もいくつか

 拾いながらも先へと進む。

 

 しかしさすがに離脱率は、変動しない。

 皆、警戒しているのだ。

 

 そんな中、特に別パーティーと接触せずに

 順調に進んでゴール近くの広場を歩いている時だった。

 突然真横からの光に気づく。

 

「姫様っ!」

 

「―――ッ!」

 

 私に向かって飛んできた炎を

 私は、盾で受け止める。

 

 すると魔法は、盾に当たると霧散して消えた。

 

「ふははははっ!

 待っていたぞ、汚らわしい人族!!」

 

 聞いたことのある声と共に、隠れていた奴らが出てくる。

 たぶん狙ってくるだろうとは思っていたが、予想を裏切らない奴だ。

 

「この魔王の血族たるヴァイス=フールス様が

 直々に相手をしてやろうというのだ。

 卑しい種族らしく、土下座をしながら自らをゴミ以下の存在だと

 宣言するのなら、見逃してやらんでもないぞ?」

 

 予想通りというべき相手の登場に

 咲耶は、ため息をつく。

 

「・・・今のは、確実に姫様への侮辱です。

 それは、どういうことか理解してますよね?」

 

「黙れゴミ以下の分際で。

 私自ら、掃除をしてやろうというのだ。

 ありがたく思えっ!!」

 

 大声と共にヴァイスに魔力が収束する。

 更に翼まで広げて増幅を加速させる。

 

「・・・亜梨沙、走るわよ」

 

 そう小声で亜梨沙に言う。

 

「これが魔王の血族たる王者の力だっ!

 ドラゴン・フレイムゥゥ!!」

 

 それは、ヴァイスお気に入りのオリジナル火属性魔法。

 炎が竜を形成して現れる。

 

「刀身形勢」

 

 咲耶は、紅の刀身を出す。

 

「さあ、喰らい尽くせ!!」

 

 ヴァイスの声と共に炎の竜がこちらに向かって突っ込んでくる。

 

「はっ!」

 

 剣を薙ぐと、刀身部分だけが炎竜に向かって飛んでいく。

 

 そして竜の牙と、ぶつかって爆発する。

 さすがに炎竜を潰すことは、出来なかったが

 今の一撃で炎竜は、後ろに大きく下がる。

 

「そんなもので、私の魔法を止められる訳がないだろうっ!」

 

 高笑いをしながら、炎竜の体勢を立て直す。

 

 その間に、咲耶達は

 全力で通路の奥へと逃げる。

 

「逃げろ逃げろ!

 そうやって情けなく逃げ回っているのがお似合いだ!」

 

 高笑いをしながら上機嫌で私を追いかけてくるヴァイス。

 さすがに竜は通路まで入れないため、通路の入り口でぶつかり爆発する。

 

「ご自慢の魔法も、その程度なのかしらっ!!」

 

 通路からわざと露骨に挑発してヴァイスを誘い出す。

 

「・・・ほぅ。

 どうやら本格的に死にたいらしいなぁぁぁ!!!」

 

 挑発にのってこちらを追いかけてくるヴァイス。

 そんなヴァイスの後ろを慌ててついていく魔族達。

 そのままヴァイスを引き付けてダンジョン奥へと逃げ込む。

 

 響く爆発音。

 駆け抜ける足音。

 普段ならとっくに別パーティーに出会うような大規模な移動も

 今回のパーティー脱落率からすれば誰にも出会わないのは

 むしろ当然と言えた。

 

「ふはははっ!!

 逃げろ! 逃げろ! 逃げろ!

 泣き喚きながら命乞いをしろっ!!」

 

 最近溜まった鬱憤を晴らすように、魔法を乱発するヴァイス。

 狭くて入り組んだダンジョン地形のおかげで直撃を食らう心配はないが

 それでも時間と共に正確になってくる攻撃に嫌気が差す。

 

「・・・これだから天才は」

 

 生まれ持った力である魔王血族としての能力と

 六翼による潤沢な魔力。

 

 それを使える儀式兵装による魔法。

 魔族の中でも特に優れた身体能力。

 

 ヴァイスは、遊んでいるにも関わらず

 あの強さである。

 

 人並み以上の努力を必要としている私からすれば

 羨ましいかぎりだ。

 

 愚痴を漏らしつつ、分かれ道を左に曲がる。

 

「姫様、何を考えているのですか?」

 

 隣で併走する亜梨沙が、声をかけてくる。

 彼女は、私と違って加速魔法を使用しているため

 平然とした顔で走っている。

 

 彼女も天才と呼ばれる才能の持ち主だ。

 そう思うと、周囲が天才だらけで嫌になってくる。

 

「・・・この次のはずっ!」

 

 そう呟いて

 次の曲がり角を右に曲がったあと

 スグ正面にある十字路をまた右に曲がる。

 

 亜梨沙は、突然の連続右折に驚きながらも

 何とかついてくる。

 

「逃がすかっ!!

 王者の魔弾っ!!」

 

 何だか変な名前のついた炎の塊を放つヴァイス。

 それは、咲耶達が曲がった曲がり角を右に曲がった瞬間

 爆発を起こす。

 

「ふははっ!

 やはりこの私からは、逃げ切れなかったようだなっ!!」

 

 ヴァイスと、その仲間達が

 曲がり角を曲がった瞬間に立ち止まる。

 

 爆煙に包まれた通路だったが、スグに視界が戻る。

 

 すると、ヴァイス達の正面には―――

 

「ふぅ・・・危なかったです」

 

「あららぁ~。

 いきなりはぁ~、危ないですよぉ~?」

 

「奇襲とは、やってくれるわね」

 

 防御魔法を展開したままで立っている3人の竜族。

 リピスの護衛をしている竜族達だ。

 そして更に―――

 

「まだ我々に挑んでくる命知らずが居たとはな」

 

 彼女らの後ろで堂々とした姿で立つ竜王女の姿。

 

 そして更にその後ろにも2人の竜族達が

 戦闘態勢を取っていた。

 

「チーム竜姫・・・だとっ!!」

 

「な、なんでこいつらがっ!!」

 

 ヴァイスのチームである魔族達が焦り出す。

 

「ちっ・・・」

 

 ヴァイスは、舌打ちをする。

 そう・・・彼は、気づいたのだ。

 

「おのれ・・・人族の分際で

 この私を罠にかけるとは・・・!!」

 

 そう・・・咲耶は、これを狙っていたのだ。

 

 途中、端末でリピス達も一定数の魔法石所持を超え

 パーティー位置が表示されていた。

 

 彼女らが通るであろうルートを予想して

 そこにヴァイス達を誘導し、自分達だけは逃げ切る。

 

 いくつもの偶然に助けられる形ではあったが

 咲耶の作戦は、見事成功したことになる。

 

「せっかくの挑戦者だ。

 た~っぷりと相手をしてやれ」

 

 その言葉と共に

 竜族達が一斉にヴァイス達に向かって飛び出す。

 

 

 ・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 

 通路の奥から聞こえてくる爆発音と

 悲鳴に咲耶は、堪えきれずに笑い出す。

 

「姫様、こういうのだけは

 上手いんですから」

 

 亜梨沙は、呆れ顔だった。

 

 本当にギリギリではあったが

 何とかリピス達にヴァイス達を

 押し付けることに成功した咲耶達は

 そのままゴール地点へと急ぐ。

 

 

 そしてゴール地点手前の広場に戻ってきた時だった。

 

「姫様、足止めをしますから

 逃げてください」

 

 突然、儀式兵装を構えてそんなことを言う亜梨沙に

 声をかけようとした瞬間だった。

 

 広場の出口から流れてくる圧倒的な魔力の波。

 

 そして遠くからこちらに歩いてくる音が聞こえてくる。

 亜梨沙と私は、音のする方向を見つめる。

 暗がりから出てきたものを見て私達は、再び驚いた。

 

 氷のように冷たい瞳。

 感情を全く出さない表情。

 腰まで伸びた黒い髪。

 全身を黒系で統一した服装。

 小柄な身長。

 姿に似合わない大振りな黒刃の薙刀型儀式兵装。

 まるで周りの暗闇さえも従えたような黒に包まれた少女だった。

 

「何者ですかっ!」

 

 亜梨沙の問いに答えずに

 無言のままこちらに歩み寄ってきたかと思うと

 一気に距離を詰めて、彼女が獲物を無造作に振り下ろす。

 亜梨沙は、咄嗟に剣で受け止めようとしたが・・・

 

「く・・・っ・・・!!」

 

 圧倒的な力の差だったのか

 亜梨沙は、一撃に耐え切れずに吹き飛ばされ

 広場の壁に激突する。

 

「亜梨沙っ!!」

 

「・・・大丈夫、です」

 

 亜梨沙に駆け寄ると

 心配ないという感じで立ち上がる。

 

「危険ですので、姫様は

 どうか逃げてください。

 

 目の前の相手は

 只者では、ありません」

 

 亜梨沙が、そんなことをいうのは

 非常に珍しいことだった。

 

 だが、亜梨沙の肩を軽く叩く。

 そして―――

 

「アナタこそ、ここでジッとしてて。

 どうやら、私に用らしいから」

 

 そう言って私は、少女に向き直る。

 

「我が手に力を!」

 

 片付けていた儀式兵装を取り出す。

 

 小盾よりは、少しだけ大きめの盾が腕に装備される。

 

 これが私の儀式兵装。

 四界でも珍しい防御型だ。

 

 そしてもう片手で紅を持つ。

 

「刀身形勢」

 

 刀身を出すと盾を前に、剣を後ろに向けて

 防御寄りの構えを取る。

 

「姫様では―――」

 

「いいから、黙って見ておきなさい。

 相手にも失礼でしょう?」

 

 亜梨沙の言葉を遮るように

 言葉を被せる咲耶。

 

 亜梨沙が黙ったのを確認すると

 改めて紅を構え直す。

 ・・・ただ、目の前の彼女を見ていると懐かしさを覚えてしまって

 ふと口元が緩んでしまう。

 

 ・・・その直後

 彼女の姿が一瞬ブレると、ものすごい勢いで突っ込んできた。

 開いていた距離が、一瞬で詰まる。

 

 彼女は勢いをつけたまま、大きく振りかぶった薙刀を振り下ろした。

 

 私は、剣で受け止める・・・フリをして、直前で相手に向かって走った。

 全力で振り下ろされた刃に対して、前に突っ込んだ勢いを維持しつつ

 体を回転させるように捻りながらギリギリで避ける。

 そしてすれ違いざまに体を回転させて遠心力を利用した全力の一撃を

 少女の側面に叩き込む。

 

 少女は全力の一撃をかわされ、隙だらけになるはずだった。

 ・・・だが、やはり結果は変わらなかった。

 これでも休まず、ほぼ毎日修行してきた。

 今なら決まるかもという僅かな希望だったが

 やはり彼女には届かなかった。

 

 彼女は、横からの攻撃を避けきれないと判断すると

 突進していた慣性を利用し、そのまま前に飛ぶように通り過ぎていった。

 結果として、私の横からの薙ぎ払いは、空振りに終わった。

 

 あの時ですら、あの強さだったのだ。

 彼女も天才と呼ばれる才能の持ち主なのだろう。

 いや、本当に周りが天才だらけで嫌気が差してくる。

 

「・・・」

 

 少女の後ろから、ゆっくりと黒い何かが出てくる。

 

 それは、漆黒の翼。

 魔族の象徴。

 

 そして、魔界最高の枚数を誇る

 黒き八翼が展開される。

 

 すると周囲に一気に魔力が集まりだす。

 あまりの強さに魔力が視覚化されるほどだ。

 

 彼女は、手をかざした。

 その手に、炎が集まっていく。

 昔は、黒い塊だった。

 後からあれは魔法ではなく魔法が使えない者が撃つ

 純粋な魔力の塊だったことを知った。

 彼女は、あれからちゃんと魔法を使えるようになったのか。

 

「ファイア・ボール」

 

 僅かに呟いた彼女が、そのまま魔法を撃ってくる。

 通常のファイア・ボールよりは、少し小さめだ。

 

 集まった魔力は、強力だが

 魔法を形勢する際に、そのほとんどが

 こぼれてしまっている。

 

 相変わらず苦手なのだなと思ってしまう。

 

 飛んできた火球を盾で受け止める。

 

 普通ならいくら儀式兵装の盾でも

 魔法の一撃を防ぐのは、難しい。

 

 一般的には、防御魔法を併用する。

 

 だが私は、そのまま受け止める。

 すると魔法は、霧散して消える。

 

 無表情だった彼女の口元に笑みが浮かぶ。

 

「・・・久しぶりね、フィーネ。

 ちゃんと笑えるようになったのね」

 

「・・・」

 

 彼女は無言のままだったが

 

「くっ・・・ぁ・・・!!」

 

 頭を抑えて苦しみ出す。

 

「大丈夫っ!?」

 

 彼女に急いで駆け寄る。

 

「・・・か、ず・・・あぁっ!!」

 

 頭を振りながら痛みに耐えるフィーネ。

 

 それから少しして、痛みが引いたのか

 改めてこちらを見るフィーネ。

 

「もう、大丈夫だわ」

 

「本当に?

 医者を呼びましょうか?」

 

「ええ、心配いらないわ」

 

 2人の間に微妙な空気が流れる。

 

 それから少ししてフィーネから声をかけてくる。

 

「・・・名前」

 

「え?」

 

「私の名前・・・覚えてたのね」

 

「ええ。

 ・・・と言ってもまあ

 忘れられそうにないけど・・・ね」

 

 あの時は、本当に色々な出来事があった。

 そう簡単に忘れることなど出来ないだろう。

 

 ふとフィーネから

 手が、ゆっくり差し出される。

 

「また会えてよかった。

 ようやく私は、アナタに借りが返せる」

 

 差し出された手を握る。

 

「私も会えて嬉しいわ。

 どうしているのか、気になってたからね」

 

 2人で握手をしている姿を見ていた亜梨沙が

 こちらに歩いてくる。

 

「えっと。

 

 ・・・どういうことでしょうか?」

 

 驚いた顔のまま、そんな質問をする亜梨沙から

 フィーネの方を向くと彼女も同時に、こちらを向く。

 

 そして視線が合うと思わず2人で笑い出す。

 

 

 そんな様子を闘技場出口付近に作られた仮設テントの中で

 魔法アイテムを利用して見ているマリアとセオラ。

 

「・・・これは」

 

 驚きを隠せないセオラ。

 いくら立場的には、同じ王女であっても

 仲が悪い人族と魔族が、手を取り合って笑っているのだ。

 種族差別なんてする気はないが、そういった風潮があるのもまた事実。

 それらを超えた何かが、そこにあった。

 

「いや~、あの無表情で

 何考えてるのか、さっぱりだったあの子が

 ここまで変わるなんてねぇ」

 

 我が子の成長を嬉しそうに見つめるマリア。

 

「・・・なるほど。

 これで色々納得できましたわ。

 ここ数日、やたらと『天保院 咲耶』の

 成績や素行のデータをご覧になっていた理由が」

 

「そりゃ娘の命の恩人となれば、気にもなるだろう?」

 

「まあ、確かに。

 

 ・・・では、申請通りということでよろしいですね?」

 

「ああ、構わんよ。

 学園長として認めよう。」

 

「フィーネ=ゴアのパーティー登録を完了。

 

 これにより

 全階級合同実戦試験 前期

 2階級トップは、天保院 咲耶パーティー!!」

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 その日の放課後。

 試験結果の張り出された掲示板の前は、騒然としていた。

 その大半は、2階級の試験結果だろう。

 

 1位と大きく書かれた場所に

 人族の名前が書かれているからだ。

 

 フィーネが、私達のチームとして処理されたため

 彼女の持っていた魔法石が加算された結果、試験で獲得した

 総数の歴代1位を大幅に更新してしまったらしい。

 

 ・・・そう、フィーネがあそこで陣取っていたのは

 私に会いたかったから。

 

 わざわざ学園に来たのも私のため。

 

 そう、彼女は

 私に借りを返しに来たのだ。

 

 こうして学園生活は、次第に華やかさを増すことになる。

 

 天保院家、最後の生き残り。

 彼女の運命は、今後どうなるのだろうか?

 

 

 

 

 

 2 漆黒の翼 ―完―

 

 

 

 

 

 

 

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