Tiny Dungeon Another Story   作:のこのこ大王

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 3 少女の力

 

 全階級合同実戦試験の次の日。

 私達の教室で正式にフィーネの転入挨拶が行われた。

「もう皆さん、ご存知かとは思いますが

 昨日から転入されたフィーネ=ゴアさんです。

 今日から、このクラスとなります。」

「フィーネ=ゴア。

 見ての通り魔族よ。

 よろしく」

 

 まるで興味が無いといった感じで簡素な自己紹介をしていた。

「隠しておいても無駄でしょうから、先に言っておきます。

 彼女は学園長マリア=ゴア様のご息女。

 つまり魔界の王女という立場のお方です。

 ですが彼女も学園長も、そういう扱いを望んではおりません。

 あくまで皆さんと同じ、一生徒として接してあげて下さい。」

「立場や称号なんて下らない。

 そんなもの、いちいち気にしてないわ」

「では、皆さん。

 魔王血族の本家にして『漆黒の悪魔』の

 二つ名を持っている彼女に、万が一にも

 ちょっかいをかけるつもりでしたら

 そうですわね・・・遺書あたりを持参しておくのが

 後腐れが無くて良いのではないでしょうか」

「そうね。

 そうして貰えると、遠慮なく消し炭に出来るから助かるわ」

 

 魔界の次期後継者とも言える本物の血統。

 魔王の血族・・・それも本家が現れたのだ。

 

 教室の隅で偉そうにしている癇癪持ちの貴族様あたりは

 人気を取られて、さぞ不機嫌だろう。

「・・・あら」

 

 てっきり不機嫌な顔をしているかと思えば

 上機嫌で嬉しそうなヴァイス。

 

「・・・ああ、あれですか。

 どうせ、これで魔族がどうとか思ってるんじゃないですか?」

「・・・ああ、なるほど」

 

 言われてみると、確かにそういうことだろうなと納得出来る。

 あの男にとっては、魔族こそが最高の種族なのだから。

 

「・・・それにしても連中、かなりボロボロね」

 

「ああ、それはですね―――」

 亜梨沙が聞いた話によると

 どうやらリピス達「チーム竜姫」に徹底的に

 痛めつけられたらしく

 軽く回復魔法をかけた程度では、完治しなかったらしい。

 

 回復系魔法は、非常に便利ではあるが

 あまり多用すると、身体の抵抗力を減少させてしまうそうだ。

 

 身体そのものが、何もしなくても

 回復魔法で治ってしまうのなら身体は

 何もしなくなる。

 

 何もしなければ、元からあった力が衰える。

 それが続けば、ちょっとした怪我でも命取りになりかねない

 なんてことも可能性としてはある訳で。

 

 なので緊急を要するような傷以外の

 擦り傷などは、普通の治療で対応される。

「・・・というわけで、席は好きな場所で構いませんわ。

 もっとも、もう決めているでしょうけども。」

 一通りの話が終わったらしく、フィーネは

 ゆっくりとこちらに歩いてくる。

 そして私の隣まで来ると教室内の全生徒達に向かって笑顔を向ける。

 先ほどまでの無表情とは違い、年頃の少女が見せる可憐な笑顔に

 生徒達も見とれていた。

「私は、彼女・・・『天保院 咲耶』に借りを返しにしきたの。

 

 人族だ魔族だなんて下らない種族論は

 関係ないし興味すらない。

 

 咲耶に向ける敵意は全て、私に対しての挑戦状として

 受け取らせてもらうわ」

「な・・・なんだってぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 フィーネの宣言が終了して数秒後、教室が一気に騒がしくなる。

 誰がこんなことになると思っていただろうか。

 ヴァイスなどは、驚きの表情で口をあけたままだ。

 

「という訳で・・・これからよろしくねっ!」

 

 こちらに振り向いた彼女の笑顔は、とても眩しいものだった。

 

 

 

 

 

3 少女の力

 

 

 

 

 

 それから何日か過ぎ、フィーネも学園に慣れてきた。

 リピスと知り合いだったことに驚きもしたが

 2人共、王女と考えれば自然か。

 

 そしていつもの日々が返ってくる。

 合同実戦試験のおかげで

 余計な視線は、増えたものの

 今までと比べて悪意が無いだけマシだと言える。

 

 フィーネのこともあって

 あれから嫌がらせも無くなった。

 

 まあ、平常運転なのは

 どこかの貴族様だけ・・・って所かな。

 

 そんなことを考えていると

 強い風が吹いてきた。

 

 森の木々が風に揺れる。

 

「ここは、本当に相変わらずね」

 

 今日使う場所を見て私は、そう呟く。

 目の前に広がるのは、森の中にひっそりと残っている廃墟。

 

 ここは大戦争時に前線基地として利用された砦跡。

 周囲に森しかないため、全力で暴れるには最適な場所になっている。

 

 全員居ることが点呼で確認されると、2階級主任教師である

 セオラ先生が話し始める。

「本日は、事前に連絡していた通り

 クラス対抗戦を行います」

 

 その言葉に生徒達が、一気に騒ぎ出す。

 クラス対抗戦は、各階級で行われる戦いの1つだ。

 その名の通り、各クラスごとに分かれてクラス単位を部隊単位とする

 部隊戦となっている。

 普段の訓練とは違い、個々の技量よりも全体の団結力が

 勝敗を左右しやすい。

「盛り上がっているところ申し訳ありませんが

 そのままルールの説明をします。

 1度しか言いませんので、聞き逃しても知りませんわよ」

 

 その言葉で騒ぎは、若干落ち着く。

 おかげで何とか先生の言葉を聞くことが出来た。

「今回のルールは、次の通りです。

 1つ、生存数が10名以下になったチームは即敗退とします。

 1つ、勝利チームが確定した時点で試合終了です。

 1つ、今回の―――」

 ルールが1つ発表されるたびに歓声が起きる。

 このあたりは、さすがフォースというべきか。

「へえ、面白そうな授業ね」

 

 フィーネが珍しく乗り気だ。

 まあここ最近、実戦授業では

 対戦希望者に囲まれ続けていたので

 普段とは違う内容に興味が出たというべきだろうか。

「こんな勝負、フィーネ様を擁する我らの勝利は

 間違いないではないかっ!

 ふははははっ!!」

 

 どこからともなく聞こえてきたのは

 相変わらずのヴァイスの声。

 

 周りの取り巻き達と調子に乗って騒いでいる。

 

「ホント、どうしてあんなのが

 魔王の血族なのかしら」

 

 ため息をつくフィーネに思わず笑いが出る。

 

「生まれは、選べませんからね」

 

 亜梨沙もそれに同意するように笑う。

 

 一通りの説明が終わると、各クラスごとに固まって

 スタート位置に移動する。

「それでは、ルール限定・クラス対抗戦を開始いたします。

 皆さん、正々堂々戦って下さい。

 では、スタートッ!!」

 開始宣言と共に歓声があがる。

 

「さあ、我らの力を見せ付けてやるのだっ!!」

 

 ヴァイス達が勢い良く飛び出していく。

 それに続けとばかりに大半の生徒達が走り出す。

 

「・・・こんなに統率が取れてなくて、大丈夫かしら?」

 

 ふと思ったことを呟くも

 もう全てが遅かった。

 ―――そして二時間後

「前半戦、終了!!」

 前半戦終了の合図が森に響く。

 

 今回の戦いは前半、後半の2回を争う戦いだ。

 しかし後半戦は前半戦で、やられた奴の復活などはない。

 ただの休憩タイムである。

 

 私達のクラスは、森の中で見つけた洞窟に逃げ込んでいた。

 

「おや、キミ達も残っていたのかい?

 さすがだねぇ」

「ん? ああ、変態ですか」

 

「相変わらず厳しいねぇ」

 

 休憩中に声をかけてきたのは、ギル=グレフ。

 てっきり連中と一緒になって玉砕したのかと思っていたが

 どうやら彼は、冷静だったらしい。

 

「馬鹿みたいに無闇に突っ込むからよ。

 アレじゃ壊滅して当然じゃない」

 

「あら、我らが姫君も同じ意見ときたか。

 ・・・まあ、当然か」

 

 フィーネの冷静な意見にギルは、苦笑しながら答える。

 私達の状況は、実はかなり危ない状態だ。

 

 どこかの貴族様を中心としたクラスの大半が

 神族王女姉妹を擁するチームに突撃して

 あっさりと返り討ちに遭った。

 

 ヴァイスが自慢の炎竜を従えて突撃するも

 エレメンタルマスターの称号を持つエリナ=アスペリアの前に

 完膚なきまでに叩きのめされた。

 

 成す統べなく壊滅し、敗走するクラスメイト達。

 それらに容赦無く降り注ぐ、様々な属性の上級魔法。

 

 たった1人によって部隊が壊滅させられることは

 大戦争でもあった出来事らしいが

 彼女は、それを今やってみせたのだ。

 

 さすがは、二つ名を持つ

 神界期待の王女姉妹といった所か。

 

「もう勝つことは無理でしょう」

「まあ、こうなったら生存を優先することしか出来ないわ」

 彼女達の言うように勝つのは、もう事実上不可能だ。

 なにせ現在、うちのクラスでの生存者は15名。

 敗北条件の1つである10名以下ギリギリだ。

 

 残っているのは、私と亜梨沙・フィーネ。

 そして魔族と神族の女の子が3人づつとギル=グレフ。

 あとの5人は全員竜族の娘だ。

 

 他に残っているチームは

 かなり疲弊している状況ではあるが

 それに比べて、神族王女姉妹のチームは

 ほとんど無傷で残っている。

 

 前半戦の最後の方に

 壊滅しかかっていた2チームが合同で

 王女姉妹チームに挑んだみたいだが

 見事に玉砕したようだ。

 

 とてもではないが

 正面からぶつかることだけは

 避けなければならないだろう。

 

「・・・そこに居るのは、誰かしら?

 まだ休憩時間は、終わってないわよ」

 

 突然、入り口の方向を向いて声を上げたフィーネに

 全員の視線が、洞窟入り口に集まる。

 

 すると、ゆっくりと現れる人影。

 

「もちろん、知っています。

 しかし『移動や交渉も禁止』とは

 決まっていませんよ」

 

「そうなのです!」

 

「まぁ~気楽に考えましょ~」

 

「アナタ達は・・・」

 

 現れたのは、リピスの護衛である

 アイリス・カリン・リリィの3人だった。

 

 

 

 ・・・・・・・・・。

 ・・・・・・。

 ・・・。

 

 

「それでは時間ですっ!

 後半戦を開始致しますわっ!!」

 後半戦開始が開始される。

 そして勢いよく飛び出していく生徒達。

 

「後半戦もこのままの勢いで行きますか~」

 

「もう、エリナちゃん。

 あまり調子に乗ったらダメですよ」

 

「大丈夫だって。

 私の魔法の前に、敵は無いっ!!ってね」

 

 前半戦、大活躍だったエリナは

 ご機嫌だった。

 

 好き放題魔法が使えるということもあったが

 あのリピス率いるチームでさえ

 エリナの圧倒的な魔法攻撃に攻めきれず

 多くの犠牲を出して敗走していったのだ。

 

 それを解っているだけに

 セリナですらあまり注意出来ずにいた。

 こういう時は、何を言っても無駄だと

 知っているからというのもある。

 

 周囲もエリナを持ち上げるせいで

 余計に調子に乗っているということもあるが・・・。

 

「あとは、竜姫にトドメを刺すだけだな」

 

「それと、漆黒の悪魔のチームが壊滅寸前だけど

 まだ残っているわ」

 

「いくら漆黒の悪魔と言えども、セリナ様やエリナ様には

 勝てっこないわよ」

 

 もはや勝利ムードの王女姉妹チーム。

 気楽に周囲を捜索しながら進軍する。

 

 そして―――

 

「竜姫のチームを発見しました!

 交戦を開始します!」

 

 セリナ達へと伝わるリピスのチーム発見の知らせ。

 

「よっしっ!

 エリナちゃんに、お任せっ!!」

 

「もう・・・仕方が無いんだから。

 私も一応動くから、間違って攻撃しちゃダメですからね」

 

「解ってるって~」

 

 本当に理解しているのかと確認したくなるほど

 軽い返事に不安を感じつつも

 念のために別働隊を作って後方からの奇襲を狙う

 セリナは、エリナに本陣を任せて出撃する。

 

「さて、みんなっ!

 前半戦と同じ要領でお願いねっ!!」

 

「はいっ!!」

 

 エリナの声に元気良く応えるクラスメイト達。

 

 前半戦は、左右の防御を固めて中央に相手を集め

 合図と共に、一気に中央から左右に人を移動させる。

 

 そして、味方が退避した瞬間に

 直線状に魔法を乱射。

 一気に相手を殲滅するという戦法だ。

 

「さってと。

 今度は、とっておきの魔法を使おうかなぁ」

 

 愉しそうにそう呟くと、翼を広げて魔力をチャージし始めるエリナ。

 

 同じ頃、リピスのチームは

 王女姉妹チームの正面から突撃していた。

 

「押すのですっ!

 我々が優勢なのですっ!!」

 

「皆さ~ん。

 頑張って相手を~押し込みましょうねぇ~」

 

 最前線で戦いながらも部隊指揮を行う

 カリンとリリィ。

 

「乱戦に持ち込めば、大きな魔法は

 使用出来なくなるだろう。

 そこが狙い目だっ!!」

 

 目前に迫っていた魔族生徒の一撃を回避し

 蹴りによるカウンターを入れながらも

 周囲を鼓舞し続けるアイリス。

 

 少しずつではあるが、前へと押し込み始めるリピスのチーム。

 

 そんな戦況を遠くから見ていた1つの部隊が

 ゆっくりと移動を開始する。

 

 その時だった。

 

 いきなり魔法が飛んできて

 何人もの生徒達が、避け損なって倒れていく。

 

「何事ですかっ!?」

 

 部隊を率いていたセリナが声をあげる。

 

「こんな所に少数で居たら、撃破して下さいって

 言ってるようなものじゃないかしら?」

 

 その言葉が聞こえた瞬間

 黒い魔力の塊が、セリナの部隊を襲う。

 

 純粋な魔力の塊は通常、威力が低いにも関わらず

 着弾した付近の相手を全て吹き飛ばし、戦闘不能にする。

 

 そして姿を現したのは、黒き八翼を広げた少女。

 

「し、漆黒の悪魔だとっ!?」

 

「な・・・なんでこんな所にっ!!」

 

 フィーネの姿を見ただけで

 動揺するセリナの部隊。

 

 四界に、たった2人しか居ない八翼を持つ相手であり

 その圧倒的な魔力は今、見せられたばかりだ。

 視覚で捉えられるほど明確化している黒い魔力の塊が

 より、彼らの恐怖を煽っている。

 

「彼女の相手は、私がします。

 皆さんは、今のうちに―――」

 

 自身がフィーネの足止めをしている間に

 奇襲部隊を移動させようとするセリナ。

 

「残念ですが、それは無理ですね」

 

「そうそう。

 だって俺達が居る訳だし」

 

 急に飛び出してきた亜梨沙とギルによって

 数人の生徒達が倒される。

 

「わ、私達だってっ!!」

 

 更に森の中から、次々と出てくる生徒達の攻撃によって

 セリナの部隊は、犠牲者が増え混乱していく。

 

「な・・・どうして」

 

「さあ?

 それは、自分で考えるべき話だわ。

 

 まあ、答えが理解出来ても

 もう遅いのだけれどねっ!!」

 

 驚くセリナに向かってフィーネが突っ込む。

 

 上段からの一撃に剣形態で何とか受け止めるセリナだが

 後ろに大きく吹き飛ばされる。

 

「気を抜いてると―――」

 

 フィーネが言葉を発した瞬間

 

 森の中から魔力矢が飛んでくる。

 それを全て叩き潰すフィーネ。

 

 すると今度は、草むらからセリナ自身が突撃してくる。

 手にしているのは、既に槍形態になった儀式兵装だ。

 

 間合いギリギリで急停止からの連続突き。

 しかしフィーネも同じく長物を扱うためか

 なかなか体勢を崩すことも出来ない。

 

 そうしている間にも

 味方が次々とやられていく。

 

 亜梨沙とギルだ。

 この2人が中心となって

 暴れているおかげで、並の生徒では

 歯が立たない。

 

「余所見だなんて、余裕そうじゃないっ!!」

 

 フィーネの横薙ぎを受け止めるも

 想定よりもはるかに重い一撃に、堪らず後ろに下がる。

 

 確かに余所見なんてしている暇は、無さそうだ。

 目の前の相手は、次期魔王最有力の王女。

 二つ名を持つ実力者だ。

 

 ・・・それにしても腑に落ちない点がある。

 

 それは、今この瞬間で

 こちらに仕掛けてきたタイミングだ。

 

 この位置で騒げば、リピス達のチームにも

 居場所がバレる可能性が高い。

 

 そうなれば、こちらだけでなく

 フィーネ達もついでとばかりに倒されるだろう。

 

 むしろ、リスクが高いのは

 彼女達の方である。

 

 そこまで考えて、ふとセオラ先生の言葉を思い出す。

 

「―――まさかっ!?」

 

「どうやら答えにたどり着いたようね」

 

「そんな・・・このタイミングでなんて」

 

「さっきも言ったと思うけど

 ・・・気づいた所で、もう遅いけどね」

 

 状況を整理した結果、答えにたどり着き

 自身が罠にかかってしまっていたことに気づいたセリナ。

 

 だが、それに気づけたとしても

 フィーネが言うように、もう遅かった。

 

 何故ならもう逃げ出せるような状態は

 とっくに過ぎているほどの乱戦。

 

 相手は、漆黒の悪魔と

 実力者として知られるギル。

 更に実力は不明だが、強いと解る人族の少女。

 

 仲間を見捨てれば逃げ切れないこともないが

 そんなことは、出来るはずもない。

 

 だったら―――

 

「せめてここで、アナタ方を全員倒しますっ!」

 

「へぇ、面白いこと言うじゃない。

 ・・・その勝負、受けて立つわっ!!」

 

 セリナとフィーネの儀式兵装が

 もの凄い魔力衝突を起こしながら、派手にぶつかる。

 

 

 一方リピスは、本陣で状況を眺めていた。

 

「今頃は、フィーネとセリナ王女が戦っているぐらいか。

 なら、こちらもそろそろといった所か」

 

 自身のクラスが良い感じに中央に集められていることに

 気づきながらも、あえて放置する。

 

「さあ、咲耶。

 キミの切り札を見せてもらおう」

 

 その表情は、まるで悪戯を思いついた子供のように

 愉しそうだった。

 

 

 そして数分経ち、戦況が膠着しそうになった時。

 

「合図だっ!!

 一斉に動いて、相手を中央に集めるんだっ!!」

 

 王女姉妹側からの合図で

 彼らは、一気に左右に分かれて中央に道を作る。

 

「さあ、エリナちゃんとっておきの魔法を

 プレゼントしてあげるわっ!!」

 

 王女姉妹側の本陣で、魔法陣が展開され

 膨大な魔力が集まる。

 

「エリナちゃんオリジナル!

 ファイア・トルネードッ!!」

 

 一直線に炎の竜巻が戦場の中央を駆け抜ける。

 こんなものに巻き込まれたら即アウトだと解るほどの

 強力な魔法だ。

 

 王女姉妹側は、左右に分かれて回避したが

 リピス側は、回避が間に合わない。

 

 だが、そんなリピス側の最前線に立つ一人の少女が居た。

 

 人界の王女 天保院 咲耶 だ。

 

 彼女は、儀式兵装の盾を正面に突き出し

 なんとエリナの広範囲魔法を受け止めようとしていた。

 

「さあ、頼んだわよ。

 ・・・私の儀式兵装」

 

 その姿に周囲の誰もが無謀だと思った。

 

 目の前の人族は、やられるだろうと。

 

「モード・ドレインッ!!」

 

 その叫び声と共に、咲耶にぶつかる炎の竜巻。

 

 激しい魔力の発光と共に誰もが視界を奪われる。

 そして激しい風に何とか吹き飛ばされないようにと

 必死に堪えるしかない。

 

 

 どれほどの時間が経っただろうか。

 激しい風も、発光も無くなり

 視界が戻ってくる。

 

 すると誰もが口をあけ

 驚きの表情のまま固まる。

 

 何故なら―――

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 肩で息をしながらも

 立っている少女の姿。

 

 そう、エリナの魔法を

 咲耶が一人で防ぎきったのだ。

 

 誰もが信じられないという顔をしていた。

 

「ま、まだ・・・ここから、よ」

 

 つらそうな表情をしている咲耶だが

 王女姉妹の左側に別れた集団へと

 構えていた盾の向きを変える。

 

「モード・リバース」

 

 その呟きと共に咲耶の盾は

 上下に少しスライドして大きくなる。

 

 そして真ん中には青い色の宝石のようなものが出てくる。

 

 次の瞬間、物凄い魔力が一瞬で膨れ上がり

 咲耶の正面に魔法陣が出現する。

 

「これは、お返しするわ。

 ・・・リバースマジックッ!!」

 

 魔法陣から飛び出したのは

 先ほどの魔法。

 

 エリナのファイア・トルネード。

 

 その炎の竜巻は、王女姉妹チームの左側集団を飲み込んで

 全てを焼き尽くす。

 

 そして左側集団は、一瞬で壊滅する。

 

「・・・うそ・・・でしょ」

 

 その様子を見ていたエリナは

 信じられないといった顔をしていた。

 

 魔法を跳ね返す魔法も確かに存在する。

 だが、それは非常に高度であり

 そんなものを使えるのは、四界でも限られた者のみだ。

 

 当然、人族の姫が使えるなんて話は聞いたことがない。

 

 しかも今使った魔法は、上級魔法を超える威力を持った

 まさに自信作だった。

 

 そんなものまで跳ね返されるだなんて・・・。

 

「く、くそっ!

 体勢を立て直せっ!!」

 

 周囲の声にハッとするエリナ。

 

 前を見れば、リピス達のチームが

 もう目の前まで迫ってきていた。

 

 乱戦になってしまうと大きな魔法は

 味方を巻き込むため使用出来ない。

 

 しかもこちらは、予想外の攻撃に動揺して

 指揮系統がバラバラだ。

 

 それに比べて相手は―――

 

「さあ、一気に攻め込めっ!

 勝利は、目前だっ!!」

 

 リピスが直接指揮を執っている。

 先ほどのこともあり、生徒達の士気も最高潮だ。

 

 となれば結果は、一目瞭然と言える。

 10分もしないうちに決着がついた。

 

 試合終了の合図が森に響く。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

「・・・負けちゃいましたね」

 

「ぶぅ~」

 

 試合後、妹を探しにきてみれば

 思いっきり不機嫌だ。

 

 後半戦開始前までの機嫌は、どこへ行ったのだろうか。

 ・・・まあ解らなくもないけれど。

 

「アレ、何なのよ。

 思いっきり魔法返されたし・・・」

 

「そんなに気になるのなら

 直接聞いてみたらいいじゃないですか」

 

「・・・むぅ」

 

 正直、珍しいと思った。

 彼女は、興味があることに関しては

 周囲の迷惑など顧みず、突撃するタイプだからだ。

 

「な~んか、あの娘。

 気に入らないんだよねぇ。

 

 ・・・何がって言われると困るんだけど」

 

「エリナちゃんにしては、珍しいね」

 

 彼女は、誰とでも仲良く出来る性格だ。

 そんな彼女が明確な理由もなく嫌うなんて。

 

「そう、違和感っていうのかな。

 どうも『違う』って感じるんだよねぇ」

 

「そんなものなのかな?

 私は、そこまで感じないけど」

 

 そうは言ったものの

 自分もその感覚には、覚えがある。

 

 何とも言えない不安というべきか

 何かが足りないというべきなのか。

 

 そんなことを考えている王女姉妹とは別に

 咲耶達は、喜んでいた。

 

「危なかったけど、何とか勝てたわね」

 

「リピスが奇襲部隊の位置を

 正確に把握していたのも良かったです」

 

「この程度の戦いなど

 『本物』と比べれば遊びのようなものだ」

 

「ああ、勝てたのは良かったけど

 ホント疲れたわ」

 

 それぞれが上手く立ち回ったからこそ

 何とかなったと言える勝負。

 

 しかしそれゆえに、皆が学ぶべきことも多かった。

 

「しかし、咲耶の切り札は

 恐ろしいと感じるほど見事だったな」

 

 そう言ってリピスが盾をつけていた腕を見る。

 

「いつもあれぐらい上手くいってくれると

 いいのだけど」

 

「相変わらず姫様は、無茶ばっかりですからね」

 

「でも、それこそ咲耶って感じだわ」

 

 言いたい放題の仲間に囲まれながらも

 愉しそうに笑い合う。

 

 そんな中、ふと視線を感じて振り返る咲耶。

 

「・・・」

 

 一瞬だが、誰かの視線を感じた気がしたが

 どれだけ見ても森の中に誰か居るようには

 見えなかった。

 

「あら、どうかしら?」

 

「・・・何でもないわ」

 

 声をかけられ、皆のところへと歩いていく咲耶。

 

 彼女達が去っていった後。

 

 少し大きな木の陰から、人影が現れる。

 

「・・・まあまあって所でしょうか」

 

 風になびく紅い髪を手で整えながら

 口元に笑みを浮かべると、ゆっくり姿と消した。

 

 

 

 

 

3 少女の力 ―完―

 

 

 

 

 

 

 




まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。

予想外に投稿までに時間がかかってしまいました。
最近また、やることが多くて時間管理が難しいです。

最近、ようやくキャラ名を頭につける癖から
脱出できました。
つい癖で入れちゃってたので。

なるべくペースを守りながら
更新していければいいなと思っております。

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