Tiny Dungeon Another Story 作:のこのこ大王
学園内では、魔法学の授業が行われていた。
魔法をどのように効率的に使用するのか。
また属性の特徴と、その応用方法など
実戦で役立つ使用法が説明されていく。
皆が、それらを真剣に聞き入っている中
咲耶だけは、どこか遠くを見つめたまま
考え事をしていた。
「・・・」
いくら考えても答えなど、初めから出る訳が無いことは
自身が一番解っているはずなのに、考えずには居られない。
・・・それは、ある日突然起こった出来事だった。
4 異変
その日は、珍しく朝早くに目が覚めた。
大きな欠伸をしてから周囲を見渡す。
いつも通り、自分と亜梨沙の部屋だ。
だが・・・
「あれ?」
亜梨沙のベットは、空だった。
亜梨沙も早くに起きて、風呂にでも行ったのだろうか?
そんなことを考えながら
自分も用意をして、少し早いが風呂へと向かう。
「・・・う~ん」
少し早いためか、脱衣所には誰も居なかった。
珍しいなと思いながらも服を脱いでいる時だった。
何かが落ちる音がして、音のした方を向く。
するとそこには、女子学生服が落ちていた。
「・・・忘れ物、な訳ないか」
たぶん、浴場に誰か居るのだろう。
そう思って落ちた制服を正面の棚に入れると
支度をして大浴場に向かう。
「あれ・・・誰も居ない」
この広い大浴場を独り占め出来ることは
良いことではあるが、しばらく待ってみても
誰も来る様子がない。
風呂からあがると部屋へと戻る。
そろそろ良い時間になってくるのに
誰ともすれ違わない。
部屋に帰るが、やはり亜梨沙の姿がない。
制服に着替えて、少し待ってみるが
やはり亜梨沙が帰ってくる気配がない。
私は、食堂に移動してみる。
「・・・」
いつもなら食堂は、朝食を食べる生徒達でいっぱいのはずだ。
しかし人の姿は、まったく無い。
だがテーブルには、数々の朝食たちが並んでいる。
どういうことだろう。
悩んでもまったく状況が解らない。
厨房にも誰も居ない。
いや、むしろ―――
「・・・人の気配が、無い」
女子寮全体から、物音一つしない。
試しに管理人室へと行ってみるが、やはり王妃様は居なかった。
嫌な予感がして、学園へと向かってみる。
森の散歩道を抜け、街まで移動すると
嫌な予感が当たっていたことが解る。
街全体から、人の気配が消えていた。
広場・商店・大通りや路地にも
人がまったく居ない。
焼きたてのパンの匂いや
乱雑に並べられた雑貨など
開店している店もあるが、店内を調べてみても
誰も居る様子がない。
自分の足音だけが響く中
周囲を警戒しながら街中を進む。
空を見上げても、鳥はおらず
公園に住み着いている猫も居ない。
ふと公園を通り過ぎた頃だった。
横の大きめの路地から、小さな球が転がってくる。
何処にでもある子供が投げて遊ぶ玩具だ。
しかし路地を見ても誰も居ない。
「・・・風で転がってきた?」
人の気配が無い以上、それぐらいしか考えられないだろう。
拾った球を目立つ場所に置くと、大通りに戻る。
そして静寂の中を歩き続け、ようやく学園にたどり着く。
中へと入るが、やはり誰も居ない。
自分の教室に入ってみると
そこは、まるで授業中のような感じになっていた。
広げられた教科書。
黒板には『魔法学 魔法の応用と実戦での使用例』と題された
数々の魔法応用例が書かれている。
授業中に何かあって、そのまま全員出て行ったというような
状態に見える教室内。
職員室や学園長室なども見て回ったが誰も居る様子がない。
ただ、ついさっきまで人が居たような雰囲気を残しているだけ。
「・・・一体、どうなってるの?」
思わず呟いた声が、廊下に響き渡る。
だが、返事が返ってくることはない。
学園内で、人を探すことを諦めかけた瞬間だった。
ふと、後ろに人の気配を感じる。
私は、ゆっくりと振り返る。
すると、廊下の曲がり角に居た人影が姿を隠す。
ようやく見つけた状況への手がかりだ。
急いでその曲がり角へと走る。
曲がり角を曲がると
丁度、目の前の階段を下へと降りる人影が一瞬だけ見えた。
私は、急いで階段を下りる。
階段を下りると正面玄関から外へと出る
相手の後姿が見えた。
学園の制服を来た女の子。
腰まである紅い髪をなびかせながら走っていく。
「ねぇ! 待ってっ!」
大声で呼びかけながら後を追う。
しかし彼女は、決して振り返ることなく
逃げるように走っていく。
私は、彼女を追いかけて走る。
そしてようやく彼女は、1つの建物の中へと入っていく。
『学園闘技場』
実戦訓練や闘技大会などに使用されるだけでなく
地下に広がる迷宮など、様々な施設が集まっており
学園内でも何度も足を運ぶことになる場所。
咲耶が、闘技場に入ると
紅髪の少女は、後ろを向いたまま
闘技場の中央に立っていた。
「・・・鬼ごっこは、終わりってことかしら?」
警戒しながらも声をかける。
「・・・」
聞こえているはずなのに、何も返事をしない少女。
ゆっくりと少女に向かって歩き出す。
そして、闘技場の中央付近に差し掛かった時だった。
とても重い金属音と共に何かが地面に突き刺さる音。
少女の隣には、いつの間にか
彼女と同じぐらいの巨大な大斧が地面に突き刺さっていた。
その光景に、思わず足を止める。
すると、紅髪の少女がゆっくりと振り返ってくる。
「―――!」
思わず私は、息を呑んだ。
少女の顔には、仮面が付けられていた。
顔を覆う仮面は、真っ白な下地に赤色で目と口だけが描かれており
線1本で笑顔を表現していた。
悪趣味にもほどがある。
仮面の少女は、隣に刺さっていた大斧を
まるで薪を1本拾うような気軽さで
ひょいっと持ち上げる。
私は、儀式兵装の盾を出して紅を構える。
「・・・」
「・・・」
しばらくの睨み合い。
まだ正確に敵と決まった訳ではなかったので
仕掛けようか悩んでいた時だった。
突然、大きく跳躍する仮面の少女。
そしてこちら目掛けて落下しながら大斧を振り下ろしてくる。
とても防げるような一撃ではないため
真横に跳んで回避する。
地面に突き刺さった一撃は、激しい音と共に地面を抉り
小さな穴が出来ていた。
仮面の少女は、何事も無かったかのように
大斧を構え直す。
「(攻めさせる訳にはいかない)」
咄嗟にそう判断して、自分から仕掛けていく。
紅に更に強化魔法をかけ、仮面の少女に向けて切り込む。
だが私の一撃は、相手の大斧によって簡単に弾かれる。
「―――くっ!」
武器ごと弾かれそうになるが、何とか耐える。
そこへ、狙い澄ましたかのような大斧による一撃が迫ってくる。
大きく体勢が崩された状態なため
直撃だけは防ごうと、盾で受け止める。
直撃だけは回避するが、やはり大きく吹き飛ばされる咲耶。
「・・・いった~ぃ」
背中を強く打ったためか、なかなか起き上がることが出来ない咲耶。
盾で受け止めた腕は、衝撃まで吸収しきれず腕が痺れて何も感じない。
圧倒的なまでの力の差だ。
まるで竜族を正面から相手しているような感じだろうか。
何とか上半身を起こした咲耶だったが
そこで動きが止まる。
既に目の前には、仮面の少女。
仮面のせいで表情を見ることは出来ないが
既に大斧を上段に構えている。
先ほどの力の差と、今の状況。
そのどちらもが、回避不能の『死』を予感させる。
そして仮面の少女は、その特徴的な紅髪をなびかせながら
大斧を振り下ろした。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
私は、飛び起きる。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
周囲を見渡すと、そこはいつもの自分と亜梨沙の部屋だ。
「・・・今のは」
それが、きっと夢だったと思うのに
しばらく時間が必要だった。
「・・・姫様?」
反対側で寝ていた亜梨沙がベットから起き上がる。
「・・・ああ、おはよう亜梨沙」
「・・・どうされました?
すごい汗ですよ?」
亜梨沙に指摘され、ようやく自分が
大量の汗をかいていることに気づく。
「・・・ちょっとね」
「・・・とりあえず、まずはお風呂に行きましょうか」
「そうね。
それがいいわ」
亜梨沙に促される形で、風呂場に行くことになった。
脱衣所には、少し時間が早いこともあったが
それでも数人の生徒の姿があった。
人の気配を感じ、安心しながら服を脱いでいる時だった。
何かが落ちる音が聞こえ、ハッとして音のした方を向く。
するとそこには、女子学生服が落ちていた。
「ちょっと、私の制服落とさないでよ」
「あはは、ごめん」
そこには、仲が良さそうな魔族が2人居た。
ただ気になったのは、その制服だ。
夢で見た通りの場所に、夢で見た通りの状態で
落ちていたのだ。
「(・・・ただの偶然よね)」
そう自分に言い聞かせ、大浴場へと向かう。
それから身体を洗って、汗を流し
風呂からあがると部屋へと戻る。
部屋に帰ると制服に着替える。
身だしなみを整えると
私達は、食堂へと向かう。
いつも通りの食堂は、朝食を食べる生徒達でいっぱいだ。
既にほとんどのテーブルには、生徒が座っている。
「―――えっ」
咲耶は、テーブルを見て驚く。
生徒達が食べている朝食は、夢で見た通りのものだった。
しかも並んでいる順番まで。
「・・・姫様?
どうかしました?」
「・・・い、いえ。
何でもないわ」
偶然だと自身に言い聞かせながら
朝食を済ませ、フィーネと合流して学園へと向かう。
森の散歩道を抜け、街まで移動すると
咲耶は、言葉に出来ない不安を感じた。
焼きたてのパンの匂いや
乱雑に並べられた雑貨など
夢で見た通りの光景が広がっていた。
ただ夢と違うのは、人が大勢居ることだけ。
空を見上げれば、鳥が何事もなく飛んでいる。
公園の近くを通れば、住み着いている猫達が
集まって何やら騒いでいる。
そして、ふと公園を通り過ぎた頃だった。
横の大きめの路地から、小さな球が転がってくる。
何処にでもある子供が投げて遊ぶ玩具だ。
咲耶は、驚いて路地を見る。
するとそこには、小さな魔族の少年が数人居た。
「はい、あまり周りに迷惑かけちゃダメよ」
「は~い!」
玩具を拾ったフィーネが、子供達に玩具を返す。
そのやり取りを黙って見ている咲耶。
「姫様?
本当に大丈夫ですか?」
「え、ええ。
大丈夫・・・大丈夫だから」
それは、心配している亜梨沙にではなく
自身に言い聞かせるかのような言葉だった。
そして学園に着くと、いつもの席へ座る。
いつも通りの日常。
今日の授業は、実戦ではなく座学だ。
魔族の教師が教壇に立ち、黒板に文字を書いていく。
『魔法学 魔法の応用と実戦での使用例』
それが、本日の授業内容だった。
それを見た瞬間、思わずため息が出た。
「・・・ホント、一体何なのよ」
とても授業を受ける気にもなれず
窓の外から、空を見上げる。
外をぼんやり眺めていると
授業が終了する合図が鳴る。
ようやく終わったかと思い、視線を教室に戻そうとした瞬間。
中庭に見えたのは
学園の制服を来た女の子。
腰まである紅い髪をなびかせながら歩いていた。
「―――あの子っ!!」
思わず教室を飛び出す咲耶。
「姫様っ!」
「どうしたの咲耶っ!」
後ろから2人の声が聞こえるも
それどころではなかった。
急いで中庭に出て周囲を見渡す。
すると見覚えのある紅髪の少女の後姿を見つけ
走って追いかける。
すると紅髪の少女は、ある場所の中へと入っていった。
「・・・やっぱりここ、なのね」
そこは『学園闘技場』。
咲耶は、ゆっくりと中に入る。
建物の中を進み、闘技場の中央である
戦闘エリアへ入ろうとした瞬間だった。
「はい、ちょっとストップッ♪」
気が抜けるような軽い口調で、後ろから声が聞こえた。
咲耶が振り向くと、驚きの表情で固まる。
「金色の・・・髪・・・」
「ええ、金色の髪よ。
そんなに珍しいかな?」
金色の髪は、竜族王家である金竜という種族だけしか
その髪色にはならないと言われている。
目の前に現れた少女は
その金色の髪をしていた。
美少女と言っても差し支えない容姿。
おまけのようについている大きな耳と尻尾は
完全に竜族のそれである。
「アナタ・・・金竜、なの?」
「ええ、そう。
でも今は、そんなことど~でもいいわ」
平然と衝撃の事実を話す少女。
「いや、意外と重要なことなんじゃないかな・・・それって」
「もう、だから今はそれどころじゃなのよ」
そう言って咲耶の後ろを指差す金竜の少女。
咲耶が振り返ると、そこには
何故か自分が紅髪の少女と戦う姿が。
しかも夢の通りの内容で、あっさりと追い詰められている。
少しだけ違う点があるとすれば
それは、紅髪の少女が
あの不気味な仮面をつけていないという点だけ。
仮面の下の素顔は、とても可愛い顔をしていた。
そして大斧が自分に向かって振り下ろされる瞬間。
大きな金属音と共に大斧が弾かれる。
そこには、フィーネと亜梨沙の姿があった。
「・・・これが、アナタがこれから向かう選択肢の1つよ」
「・・・何なのこれ」
「詳しく話しをしてる時間もないの。
そして今度は、こっち」
そういうと今度は、咲耶が入ってきた闘技場の入り口を指差す。
「なによ・・・これ」
咲耶が入り口を見ると、入り口は
黒い霧に包まれていた。
「これが、もう1つの選択肢。
残念だけど、どうなるか解らないから先も見えないけどね」
「先? 選択肢?
一体何なのよっ!?」
朝から感じ続けた言いようが無い不安が
ここにきて爆発し、思わず叫ぶ咲耶。
「もう、そんなに叫ばなくても聞こえてるわよ」
「ちゃんと説明してっ!」
「だから言ったでしょ。
説明してる時間なんて無いって。
残念だけど、もう時間・・・かな」
「時間って・・・。
ちょ、これ何よっ!?」
気づけば、周囲から真っ黒い闇が迫ってきていた。
「あとは、アナタ次第。
どちらを選んでも、きっと誰もアナタを恨んだりしないわ。
だってアナタは、和也を助けてくれたんだから」
「か、ず・・・や?」
頭が割れるように痛みだし
咲耶は、思わずしゃがみ込む。
「そう、和也。
私の王子様よ」
周囲の闇に飲み込まれる瞬間、咲耶が見たのは
笑顔を浮かべた金色の髪の少女。
そして咲耶の意識は、遠のいていった。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
咲耶は、ハッとして周囲を伺う。
教室内は、授業中であり
静寂の中、魔族教師の声と黒板に文字を書く音だけが
聞こえていた。
『魔法学 魔法の応用と実戦での使用例』
黒板に書かれている文字を見て
咲耶は、思わずため息を付く。
「・・・また、夢なの?」
とても授業を受ける気にもなれず
窓の外から、空を見上げる。
でも不思議なことがある。
夢だというのなら、あの竜族の少女は
一体何なのだろうか?
もちろん会ったことなどない。
そもそも金竜は、リピス1人だけなのだ。
であるなら、彼女は何なのか?
外をぼんやり眺めながら考えていると
授業が終了する合図が鳴る。
ようやく終わったかと思い、視線を教室に戻そうとした瞬間。
中庭に見えたのは
学園の制服を来た女の子。
腰まである紅い髪をなびかせながら歩いていた。
「―――ッ!?」
思わず教室を飛び出す咲耶。
「姫様っ!」
「どうしたの咲耶っ!」
後ろから2人の声が聞こえるも
それどころではなかった。
急いで中庭に出て周囲を見渡す。
すると見覚えのある紅髪の少女の後姿を見つけ
走って追いかける。
すると紅髪の少女は、ある場所の中へと入っていった。
「・・・やっぱりここ、なのね」
そこは『学園闘技場』。
咲耶は、ゆっくりと中に入る。
建物の中を進み、闘技場の中央である
戦闘エリアへ入ろうとした瞬間だった。
ふと足が止まる。
頭に過ぎるのは、先ほど夢で出てきた金色の髪をした
竜族の少女の言葉。
『これが、アナタがこれから向かう選択肢の1つよ』
その言葉が、前へ進もうとしていた足を止めた。
そして恐る恐る、後ろを振り返る。
するとそこには、先ほど入ってきた闘技場の入り口。
さすがに黒い霧は、かかっていないが
それでも不思議と不気味な感じに見えてくる。
『これが、もう1つの選択肢。
残念だけど、どうなるか解らないから先も見えないけどね』
あの夢で見た少女の言葉が蘇ってくる。
『あとは、アナタ次第。
どちらを選んでも、きっと誰もアナタを恨んだりしないわ。
だってアナタは、和也を助けてくれたんだから』
まるで人生の選択肢が見えていて
それを選べと言われているように感じて
思わず苦笑する。
そんな馬鹿げたこと、ある訳ないのにと。
『そう、和也。
私の王子様よ』
でも、あの眩しいまでの笑顔が
私の気持ちを鈍らせる。
「・・・うん、決めた」
少し悩みもしたが、私は
選んだ方向へと歩き出す。
そして闘技場の『入り口』に向かった。
我ながら馬鹿らしいと思いながらも
入り口から外に出る。
「―――えっ」
確かに闘技場の外へと出たはずだった。
だが目の前には、白い世界が一面に広がっている。
何も無い、ただ白いだけの世界。
「・・・また、夢でも見てるのかしら」
「ホント、夢であって欲しいわね」
突然、後ろから声をかけられ
咄嗟に振り返る咲耶。
するとそこには、1人の少女が立っていた。
「ホント、勘弁して欲しいわ。
私を具現化して起こすだけには飽き足らず
壁を壊そうだなんて」
「・・・えっと、アナタ・・・誰?」
「別に誰でもいいわよ。
どうせまた忘れるんだから」
「どういうこと?
それに、この白い場所は何なの?」
「はいはい。
もう面倒だわ、アナタ。
私は、和也がどうしてもって言うから
アナタの世界だけを隔離したの。
万が一、和也が負けて世界がアイツのものになっても
そっちの世界だけには干渉出来ないようにって。
なのに何?
世界を勝手に壊す。
人を無理やり起こす。
和也の気持ちを無視する。
こっちが文句を言いたいわよ」
少女の剣幕に押されて、思わずたじろぐ咲耶。
「いい?
警告は、したからね」
そういうと少女は、咲耶の肩をポンと押す。
すると見えない何かに引っ張られるように
後ろに吸い込まれていく咲耶。
「ちょ、ちょっと待ってっ!」
「アナタが和也のことを想うのなら
和也がアナタだけでもって世界を切り離した意味。
・・・理解出来るでしょ」
「和也・・・そう、和也。
和也って誰なのっ!?」
「だから言ってるでしょ。
どうせアナタは忘れるの。
これ以上、迷惑をかけないで」
「ちゃんと・・・教えてよっ!!」
白い地面に紅を突き立て、踏ん張り続ける咲耶。
「なんて強情な娘なの。
泣いていた頃が懐かしいわね」
「・・・くっ!!」
踏ん張り続ける手も、そろそろ握力が限界になってくる。
それでも今、手を離してはいけないと
自分の心が叫んでいるように感じて、咲耶は手を離さない。
「・・・はぁ」
咲耶の態度を見て、ため息を付く少女。
「・・・わかったわ。
なら、賭けをしましょう」
「・・・賭け?」
「これからアナタを一度、世界ごとリセットする。
その時、もしもアナタが
『もう一度、この場所までたどり着けた場合』
ちゃんと説明もしてあげるし、何なら手伝ってあげてもいい。
ただし、アナタの世界での分岐点である日時を
過ぎてしまった場合は、この世界への扉は
完全に閉じさせてもらうわ。
たとえ壊れたままの世界であろうと
アナタは、そこを永遠に彷徨うことになる。
私は、そんなの知ったことじゃない。
・・・これで、どうかしら?」
「・・・いいわ。
その賭け、受けて立ってあげるっ!!」
挑発的な笑みを浮かべる少女に
思わず返事をしてしまったが、後悔はしていない。
「そう、じゃあ行きなさい。
・・・精々、無駄な努力でもすることね」
「・・・見てなさい。
必ず、帰ってきてやるんだからっ!!」
その言葉と共に咲耶は、紅の刀身を消す。
すると咲耶は、そのまま何も無い空間に飲み込まれる。
「・・・ホント、強情な娘ね」
思わずため息をつく少女。
助けてやった時は、泣いてばかりだったのに。
「でも、私を具現させるだけの力があったことの方が驚いたわ」
そんなに簡単なことではないはずなのにと
少女は、首をかしげる。
「・・・でもまあ、いいわ。
彼女が、どういう道を進むことになっても
それは、彼女自身が選んだことだもの」
少女は、後ろを振り返る。
そこには、先ほどまで無かったはずの大きな門。
「・・・ね、和也」
少女の呟きは、誰に聞こえるでもなく
ただ呟いた少女自身の耳だけに届くのだった。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
私は、とても深い闇の中に居た。
もがいても、沈んでいくことに変わりはない。
ここに居てはいけないと、本能が叫ぶが
どうすることも出来ない。
そしてそのうち、考えることが出来なくなり
自分が何者なのか、わからなくなっている。
それでも沈んでいく。
もう何もかもが溶け合うような感覚の後
突然膨大な記憶の波に飲み込まれる。
そして、その記憶が
ようやく自分が何者であるかを思い出させてくれる。
思い出すのは、昔の記憶。
そう、それは『儀式の日』と
呼ばれることになる・・・そんな日の記憶。
「人族は必要のない存在・・・いらない」
氷のように冷たい瞳。
感情を全く出さない表情。
そして吐き捨てるように呟いた言葉。
全てが敵意に満ちていた。
あの時のフィーネは、本当に無表情だった。
最初は、敵として出会った。
でも最後には、仲間として別れた魔族の少女。
そして同じくあの日。
私は、皆を護るための力である
『儀式兵装』を手に入れた。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
私は、ゆっくりと目をあけた。
「・・・」
夢だと理解するのに少し時間がかかった。
「・・・」
懐かしい夢だった。
あの日からまた、色々なことがあった。
でも私は、その全てを受け入れながら前へと
進まなければならない。
・・・生き残った者として。
「・・・やっと起きましたか? 姫様」
「・・・」
声をかけられ、声がした方向へと顔を向けると
そこには下着姿の可愛い女の子が立っていた。
「・・・ああ、おはよう亜梨沙」
「ええ、おはよう御座います。
朝の挨拶も良いですが、早く起きないと
食事をしている時間が無くなりますよ?」
その指摘に、慌てて時計を確認する。
本当にあまり余裕が無い時間だ。
「でも、とりあえず汗を流さないと・・・」
大急ぎで準備をして私は、風呂場へと向かった。
・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
今日は、陽射しが少し強いぐらいの快晴。
「さあ、姫様。
そろそろ行きますよ」
「ええ、行きましょうか」
2人は、今日も変わらない通学路を並んで歩いて行くのだった。
4 異変 ―完―
まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。
そろそろ物語も最終に向かってまいりました。
感の良い人なら、展開がそろそろ読めたって人も居るかもですが
わからない振りをして読んでやって頂けると助かります。