Tiny Dungeon Another Story 作:のこのこ大王
いつの頃だっただろうか。
私は、夢を見るようになった。
それは、まるで演劇を見ているような感覚。
私は、観客席から見ている観客。
目の前で行われる演目は、王道と言えば王道的な物語。
魔法が使えない少年が、それでも努力し続けて
そして戦士となっていく。
いつしか少年を認めた仲間達が集まり
やがて少年は、世界を覆う暗雲を切り払う。
まるで、おとぎ話のような物語だが
決して嫌だとは、思わない。
ふと、舞台に立つ少年が
こちらを向く。
そして彼は、私に手を差し伸べる。
「・・・」
目が覚めると、いつもの部屋の天井が見える。
「・・・また、か」
思わずため息が出る。
ここ数日、同じ夢ばかりを見る。
だが―――
「全然、覚えがない話なんだけどね」
こんな内容の本など、読んだことがない。
いや、それどころか・・・
「どうして、こんな夢を見るのかしら」
隣を見ると亜梨沙は、まだ眠っていた。
まだ朝日も昇っていない休日。
何だか目が覚めてしまったので
朝の支度を済ませて、少し散歩に出かける。
寮の階段に差し掛かった時だった。
「―――」
目の前に、まるで夢のような感じの幻影が見える。
人族らしい少年と、その周囲に集まる笑顔の少女達。
少年は知らないが、少女達は知っている。
亜梨沙にフィーネ、リピスだけでなく、神族王女姉妹達もだ。
彼女らは、笑いながら玄関から歩いてゆく。
自然と私は、彼らの後を追うように歩き出す。
5 覚醒 ―前編―
まだ辺りは、外灯が付いている。
そんな早朝にも関わらず、私は歩いていた。
幻影の彼女達は、私が見たことも無いほど
とても良い笑顔をしていた。
ある程度、先に進んだ所で
ふっと幻影が消える。
・・・だが。
「・・・」
私は、スグに歩き出す。
何故だか知らないが、次に向かうべき場所が
何となく解ってしまう。
まだ街は、人気の無い寝静まった状態だ。
その中を、私は進んでいく。
街中では、様々なものが見えた。
いつものクレープ屋で、仲良くクレープを食べる亜梨沙達。
街の広場では、前に助けた神族の子が
何故か、私達ではなく夢で見た少年に助けられていた。
ふと正面から、神族王女姉妹に連れられて歩く少年が
横を通り過ぎてゆく。
そして私は、学校に到着する。
何故か開いている門を通って中へと入る。
目の前に広がるのは、まさに学園の日常だった。
いつもの昼休みの光景。
それぞれの生徒達が楽しそうに会話をしながら歩いている。
だが、1つだけ信じられない光景を見た。
中庭に集まる集団。
夢で見た少年が中心となり、先ほどのメンバーに
メリィさんとリピス護衛の竜族トリオであるアイリス達。
更に、何処かで見覚えがある紅い髪をした少女。
ギル=グレフや、他にも魔族や神族が数人混ざっている。
それらが、いがみ合うことなく
仲が良さそうに食事をしていた。
「―――」
気づけば自然と涙が出ていた。
私は、こういう光景が見たかったからだ。
誰もが手を取り合える世界。
そんな世界になれば、きっと皆が笑顔になれると。
「・・・そんな世界なんて来る訳ないじゃない」
気づけば、幻影達は消え去り
目の前には、一人の少女が居た。
「皆、自分のことで必死。
他人のことなんて気遣う余裕なんて無い。
結局、最後は他人を見捨ててでも自身の幸福を願う」
「そんなことはないわ。
確かにそういう人も居るかもしれない。
でも、そんな人ばかりじゃない」
「じゃあ儀式の日は、どうして起こったの?
学園で、どうしてあなた達は
他の種族から避けられているの?
何故、未だに戦争の火種が消えないのかしら?」
「・・・それは」
「所詮夢は、夢なのよ」
確かに、少女の言葉は正しいかもしれない。
未だ世界から憎しみが消えることはない。
・・・でも。
・・・だけど。
「そうじゃないかもしれない」
「・・・何を」
「私は、フィーネと解り合えた。
リピスとも友達になった。
・・・きっと神族王女姉妹とだって仲良くなってみせる」
「・・・たとえそうなったとしても
世界は、そう簡単には出来ていない。
結局世界に影響を与えられずに、ただ無駄な努力をして終わるのよ」
「それは、まだ決まった話じゃないわ」
「いいえ、そうなるのよ」
「違うわっ!
未来なんて誰にもわからない。
可能性は、どこかに必ずあるっ!
たとえ無くても、作ってみせるっ!」
咲耶の言葉に、思わずたじろぐ少女。
「ちょっかいを出した癖に
こんな娘に返り討ちにされちゃって
まあ、情けないわね」
突然、後ろから声が響く。
振り向くと、そこには目の前の少女と同じ姿の少女が居た。
「それで、もう用件は終わり?
私、さっきから順番待ちしてるのよ。
そろそろ終わってくれないかしら?」
「お、お前は・・・」
「それに、勝手に私の姿を使わないでくれる?
・・・ああ、もう最悪。
そんなの私じゃないわ」
蔑むような視線の先には―――
「コ・・・コレハ、ドウイウコトダッ!」
いつの間にか、はじめに現れた少女は
醜い化け物の姿になっていた。
「・・・」
その姿を見て咲耶は、驚きの表情を浮かべる。
化け物の身体から煙が出始めると
やがて崩れてゆく。
「ナゼだ・・・どうシテこんな・・・。
たカガ、ニンゲンゴトキニ・・・」
「それが理解出来ないからアナタは、この娘に負けたのよ」
「ま・・・あ、イイ。
ソレデモ、ソノホカニ、エイキョウナド・・・ナイ。
せい、ゼイ・・・ムダナアガキデモ、スル・・・ン、ダナ」
化け物は、最後まで
笑い声をあげ続けて、そして消滅した。
「・・・さてと」
その言葉と共に、こちらを向く少女。
咲耶は、少女を見つめ返す。
「変な邪魔が入ったから、ちょっとだけ
助けてあげようと思ったのだけれど・・・。
・・・どうやら、必要なかったみたいね」
「あ、あなたは?」
「そんなことを聞いてどうするの?」
「え?」
「私が何者なのか知らなければ
会話もしないのかしら?」
「そう言う訳じゃないけど・・・」
「なら、下らない質問はしないことね」
「・・・」
上から目線の態度に腹が立つも
我慢して言葉を飲み込む。
「でもまあ、これで理解したわ。
アナタが和也と同じく
『私に選ばれる可能性がある存在』だってことに」
「・・・選ばれる存在?」
「たぶん、元からそうだった訳じゃないのでしょうね。
恐らくは、和也と同じような道を歩いた結果として
そういう意思の強さや、力を手にしたって所かしら?」
「・・・えっと」
勝手に一人で話を進めて納得している少女。
正直、何の話をしているのか解らない。
「でも、これでもしかしたら
・・・可能性が広げられるかもしれない」
そう言うと、少女が再び咲耶を見る。
「アイツを一人で撃退しただけでなく
私に少しとはいえ、力を補充したアナタに
少しだけ手を貸してあげるわ」
「・・・手を貸す?」
「そう。 お手伝い。
もうこの世界は、色々と手遅れだからね。
それぐらいしなきゃ、もう無理だわ。
さっきアイツが利用していた『記憶の残滓』を
ついでだから使わせてもらいましょうか」
少女の手のひらから、小さな光の球が現れると
強い光を放って消える。
すると目の前には、先ほどの幻影が現れていた。
「アナタには、サポート役をつけてあげる。
彼女なら適任でしょう。
何せ、私やアイツすら知らない間に
勝手に干渉しちゃうほど、行動力があるみたいだからね。
・・・さて、そろそろ時間も無いから最後にひとつ。
これだけは、覚えておきなさい。
『アナタの選択は、この世界を巻き込む』ということを」
そう言うと、少女は消えるように姿を消した。
何が何だか理解出来ずに呆然とする咲耶。
すると、目の前にあった幻影が消えて
1つのカギが現れる。
ゆっくりと近づき、カギを拾う。
カギを手にした瞬間だった。
「あぁ・・・ッ!!」
強烈な頭の痛みに、思わずしゃがみ込む。
激痛の中、イメージが見える。
それは、いつかどこかで会ったことがあるような
そんな感じがする金色の髪をした竜族の少女。
そして、数分後。
ようやく痛みが無くなると
咲耶は、立ち上がり女子寮へと駆け出す。
「・・・」
部屋に戻ると、装備を整える。
戦闘準備をして、外へと出る。
大きく深呼吸をすると
もう一度、見えたイメージを思い出す。
それは、ここから少し離れた森の奥深くだ。
まだ暗い森の中を、何とか進んでいく。
しばらく進んで、ようやくその場所を見つける。
こんなに奥深くの森であるはずなのに
人の気配がする。
慎重に様子を見ると
巧妙に隠されては居るが、洞窟のような所に
建物が建っていた。
見張りだろうか、2人の神族が立っている。
「・・・」
スッと近づいて肘うちを入れ、1人を気絶させる。
「だ、誰だっ!!」
声をあげる見張りの目の前まで
一気に迫ると、腕を両手で掴む。
「風間流『風車』」
見張りは、掴まれた腕を中心に一回転して地面に強く叩きつけられる。
その衝撃で息が詰まり、呼吸出来ないような感覚に陥ったのちに
意識を失った。
「・・・ふぅ」
本来、風車は『片手』で行う技だが
力が劣る咲耶では、両手で何とか投げられるといった感じだ。
周囲に人が居ないことを確認すると
奥へと入っていく咲耶。
警戒しながら歩いている時だった。
カチっという音がして
魔力が周囲に飛散するような感覚がする。
「・・・しまった」
そう思った時には、遅かった。
カンカンと、金属の打ち付けるような音が
建物全体に広がる。
周囲から現れる研究者達を倒しながら
一番奥へと突き進む咲耶は、ついに研究所の中心部にたどり着く。
だが。
「たかが人族1人相手に何をやっているっ!!
さっさと研究体を出せっ!!」
その言葉と共に
ゴーレムのようなものが、咲耶に襲いかかってくる。
何故だか知らないが、ゴーレム達の急所を知っている。
そんな不思議な感覚の中で
咲耶は、ゴーレムと対峙する。
「たしか中央の、魔力コアッ!」
ゴーレムの一撃を回避しながら、胸を紅で貫く咲耶。
魔力コアが破壊され、崩れ落ちるゴーレム。
仲間が倒されてもゴーレム達は、決して恐れるようなことはない。
大量のゴーレムが、咲耶に迫る。
「くっ・・・」
さすがに数が多すぎて押され始める咲耶。
左からの攻撃を盾で防ぎ、右からの攻撃を身体を捻って回避する。
だが、気づけば後ろからも攻撃が迫っていた。
「しまっ―――」
気づいた時には、もう遅い。
咲耶の背中に吸い込まれるように、ゴーレムの一撃が迫る。
―――だが。
咲耶の背中に攻撃が当たる直前で
ゴーレムが停止する。
そして崩れ落ちていく。
「な、何が起こったのだっ!!」
騒ぎ出す研究者達。
「まったく。
無茶しすぎよ、咲耶」
声と共に現れたのは―――
「本当です。
姫様は、無茶なことばかりされるのですから」
フィーネと亜梨沙だった。
「2人とも、どうして・・・」
「2人だけではないぞ」
更に奥から、ゴーレムの魔力コアが
数個壊れた状態で飛んでくる。
「まったく、下らんことをしてくれる連中だ」
「本当ですね。
リピス様に歯向かうとか、万死に値します」
「リピス・・・メリィさんも・・・」
信じられないといった顔をする咲耶。
「まあ私達は、亜梨沙とフィーネが
2人揃って、こんな時間に出かけるのが気になってな」
「私は、咲耶が出て行くのが見えたから
ついてきただけよ」
「私は、姫様が武装して出かけようとしていたので
心配で、後をつけました」
思わず苦笑する。
何となくでついてくるなんてと思いながらも
仲間の存在を感謝する。
「とりあえず話は、後っ!
まずは、こいつらを一人残らず倒してっ!」
咲耶の声に、皆が応える。
圧倒的な戦力を前に、ゴーレム達や
抵抗していた者達は、一瞬にして全て倒された。
その後に施設を捜索すると
数々の非人道的な研究が見つかる。
「我ら竜族を中心に、随分とやってくれたものだな」
平静を装いながらも強い口調のリピス。
「では、こいつら全員まとめて
竜界に運んでおきます。
もちろん、色々と吐かせた後になりますが」
メリィさんも若干、殺気が漏れている。
「で・・・咲耶は、どうしてこんな場所を知ってたの?」
皆の疑問を代弁するようにフィーネが質問する。
「この娘を探していたの」
咲耶が巧妙に隠された扉の奥から
一人の少女をベットごと運んでくる。
「―――!?」
皆が一斉に驚く。
それは、金色の髪をした竜族。
金竜だった。
その金竜の少女が、ゆっくりと目を覚ます。
「ん・・・あぁ・・・」
大きく伸びをしてから周囲を確認した後に
咲耶の方を向く。
「・・・あら、久しぶりね」
「・・・えっと、前にどこかで会ったかしら?」
「ああ、そっか。
まだ記憶が無いんだものね」
軽く笑いながら、ベットから起き上がる竜族の少女。
「私の名前は、イリス。
金竜として生み出された実験体ってところかな。
まあ、前と違って本格的な実験を受けていないから
色々と違う所もあるかもだけどね」
軽々と重要な話をするイリスに
フィーネ達は、呆然となる。
「・・・アナタは、何を知ってるの?」
「どういうこと?」
「アナタは、サポート役なんでしょう?
そう聞いたわ。
だから、アナタなら何か知ってるんじゃないかって」
「う~ん。
知ってるといえば知ってるだろうけど
何の話かを、ハッキリして欲しいわ」
咲耶は、自分が焦っていることに気づく。
「そうよね。
まずは、ちゃんと説明しなきゃね」
そして咲耶は、話し出す。
毎日のように見る夢の話。
そこに登場する少年と少女達。
先ほど出会った少女との会話。
そしてここに来た理由。
「なるほど。
私をサポート役としてってことは
勝手に動いても問題ないってことかな」
全てを聞き終えると、呟くようにイリスが話す。
「何かが起こっている。
そんな気がするの。
だから何か知っていることがあるなら
教えて欲しい」
「・・・それは、世界を巻き込んでも良いってこと?」
「え?
どういうこと?」
「アナタがやろうとしていることは、この世界そのものを巻き込むこと。
関係の無い誰かの命まで賭けるということよ」
その言葉を聞いて思い出す。
『アナタの選択は、この世界を巻き込む』ということを。
あの少女に言われた台詞だ。
「間を割って済まないが
我々にも解るように、もう少しはじめから
説明をしてくれないか?」
後ろで聞いていたリピスが会話に入ってくる。
「・・・めんどくさい」
「何だと?」
「そんなのめんどくさいわ」
「・・・世界を巻き込むような話なら
咲耶達の一存だけで決められると困るのだよ」
「・・・そんなことばかり言ってるから
和也に選ばれる世界の確率が低いのよ」
「何の話だ?」
「べっつに~」
突然始まった金竜同士の痴話喧嘩のような状態に
咲耶達は、どうしていいのか解らずに困惑していた。
「はいはい。
もうそれぐらいにしてくれないかしら?
話が進まないわ」
一向に終わらない喧嘩に、堪らずフィーネが介入する。
「・・・はぁ」
「・・・」
二人とも、とりあえずは大人しくなったが
あまり仲は、良さそうには見えなかった。
「それで、もう少し詳しく話をしてくれないかしら?」
「・・・はぁ、めんどくさいわ」
イリスは、めんどくさそうにため息をつく。
そして『そんなに私も知らないけど』と前置きをしてから
話をし始める。
「私が知っていることは、まず世界がいくつもあること。
例えば、道を歩いていて右に進む道と
左に進む道に分かれていたとする。
その時、例えば右を選んだとしましょう。
右に進んでも道が続くだけで、いつの間にか迷子になってしまう。
でもそこで狩人に出会って、街まで案内してもらえることになる。
それがきっかけで、狩人と恋に落ちて結婚する。
だけどもし、左の道を歩いていたら
どうなっていただろう?
もし左の道を選んでしまっていたら、普通に街に着いてしまうかもしれない。
そうすれば、狩人に出会っていないから
狩人と結婚していないかもしれない。
これが、いくつもある世界の話。
右の道を選んだ世界。
左の道を選んだ世界。
そうした『かもしれない』という可能性の世界が
見えない所に、いくつも存在しているの。
大きく言えば、私という存在が居ない世界や
極端に言えば、魔族や神族さえ存在しない世界もある」
その話を聞いて、咲耶達は驚きの表情を浮かべる。
普段から感情を表に出しにくいリピスですら、驚いている。
「それで、今この世界はニセモノなの。
本来は、存在しない世界。
強引に作った世界って言った方が正しいのかしら。
無理やり作って隔離した、やがて閉じられる世界」
「あ、あなたは、どうしてそんなことが解るの?
どうして、そんなことを知っているのよ?」
納得がいかないという表情のフィーネが声を上げる。
「それは、私の存在が不安定だから。
あなた達のように、影響をまともに受けるような存在じゃないの。
そしてさっきも言ったように、可能性としては低い部類だから
余計に影響を受けにくいわ。
逆に、存在ごと消されそうになったことが何度もあるぐらい」
「・・・不安定? 可能性? 消される?」
意味が解らないという感じの咲耶。
それを見て『だからめんどうなのよ』とため息をつくイリス。
「可能性があっても、それが選ばれる可能性が低ければ
その世界ごと消えてしまうの。
・・・毎日使うものと、10年に1回使うもの。
どちらか1つしか部屋に置けないのなら
どっちを置く?
そんなの答えは、決まっているでしょう?
それと同じ。
選ばれない可能性は、やがて消えてしまうのよ」
「なら、この世界がニセモノっていうのは
どういうことですか?」
無言だった亜梨沙も、会話に参加してくる。
「さっきも言ったけど、この世界は作られたの。
咲耶って一人の人間の核とした、ゆりかご。
たぶん、和也がそれを願ったのね。
和也は、優しいから」
「・・・私を核として、作られた?」
「そうよ。
可能性の世界は、もうスグ全てが崩壊するかもしれない
危機を迎えているの。
全ての可能性で、絶望が支配する世界となってしまう。
だけど、切り離されたこの世界は
その影響を受けることがないわ。
このまま何もしなければ、この世界だけは助かる。
たとえニセモノの世界であってもね」
「世界が全て崩壊するということは、どういうことだ?」
皆が気になったことをリピスが代弁してくれる。
「詳しくは知らないけど、崩壊するの。
それを止めるために、和也が戦ってる。
そしてもし、あなた達が動けば
全てのことを思い出す。
私の言っていることも理解出来るようになる。
でもそれは、世界を危険に晒す行為でしかないわ」
「思い出す?
我々は、何かを忘れているとでも?
それに世界を危険に晒すというのは、どういうことだ?」
「皆、忘れているの。
思い出しては、不都合だから。
それを思い出した瞬間、この世界は
本当の意味でニセモノとなる。
そして世界は、切り離される前の状態に戻ってしまう。
・・・そう。
世界の崩壊に巻き込まれてしまうことになる」
誰もが言葉に詰まっていた。
信じられないという想い。
ありえないと言いたいが、目の前の少女が
そんなウソをつく理由がない。
「だから確認してるの。
あなたは、自分のために世界を巻き込めるの?
関係の無い人達の命まで賭けれる?
世界の崩壊に巻き込むってことは、そういうことよ」
「・・・」
もしそれが本当ならば、関係の無い人々まで
巻き込んでしまうことになる。
「だから、選ぶのなら後悔しない選択をすることね。
あなたがどちらを選んでも、きっと誰も
あなたを責めないはずだから」
「誰も?
他にも居るの?」
「ええ。
別世界のあなた達よ。
別世界のあなた達は、きっとあなたがどちらを選んでも
責めたりなんてしないわ。
あなたは、和也を助けてくれたのだから」
「・・・和也?」
「そう、和也。
私の王子様よ」
笑顔でそう答える少女を見て羨ましいと思った。
彼女なら、きっと迷わずに世界を賭けれるだろうと。
その純粋で迷いの無い想いが、眩しく見えた。
「・・・それで、どうするの?」
「少し待ってくれないか。
世界を巻き込むというのなら、それ相応の準備なども必要だ」
決断を迫るイリスをリピスが止める。
「・・・そんなだから確率低いのよ」
「・・・またそれか。
何の話か解らんから、何とも言えんな」
「それに、そこまで時間は無いわ」
「どういうことだ?」
「この世界は、もうそこまで猶予が無いの。
中途半端に壊してしまったから。
ちょっかいを出されたのが良い例よ。
だから、閉じるにしても、壊すにしても
この場で決めないと手遅れになるわ。
もし結論を先送りしたら最後、どっちも選べずに
永遠に同じ日の同じ時間を繰り返すことになる。
毎回記憶を消されていることにも気づかず
それこそ永遠に同じことを繰り返すだけになってしまうわ」
「そんな・・・」
思わず咲耶が、呟く。
知らない内に、既に動き出していた事実。
もう後戻りは、出来ない現実。
そして全ては、自身の選択にかかっているという重圧。
「もう、既に半分は後戻り出来ない所まで
来てしまっているのよ。
だからあとは、この場で選ぶだけよ。
真実を知り、全てを賭けて戦う道を選ぶのか。
それとも、このニセモノの世界で平和に暮らすか」
そう言えばあの少女も言っていたっけ。
『もうこの世界は、色々と手遅れだからね。
それぐらいしなきゃ、もう無理だわ』
あの少女も知っていたということか。
こうなることを。
・・・私は、瞳を閉じて考える。
仲間のこと。
人界のこと。
そして世界のこと。
ふと気づけば、誰かが手を握っていた。
目を開けてみると、そこにはフィーネの顔があった。
「咲耶の思う通りにすればいいわ」
笑顔でそう言うフィーネに安心感を覚える。
すると、もう反対側の手が握られる。
「姫様が選ぶのであれば、私はついて行くだけです」
それは、亜梨沙だった。
「やれやれ。
これじゃまるで私が悪者じゃないか」
「ふふっ。
本当ですね、リピス様」
「咲耶。
遠慮することはない。
これだけのメンバーが協力するのだ。
上手くいくさ」
「そうです、咲耶様。
我々が居るかぎり、楽勝ですよ」
リピスとメリィが、咲耶を応援する。
色々な想いが、こみ上げてくる。
それを1つ1つ噛み締めながら、咲耶は宣言する。
「私は、戦う道を選ぶ。
何かが起こっていて、それを見てみぬ振りは出来ない。
それがたとえ、違う世界の話であっても
私は、全てを護るとあの日に誓ったのだから」
「・・・わかったわ。
じゃあ、始めましょうか。
世界を繋ぐために。
そして世界を越えるために」
そしてイリスは、咲耶の前に立つ。
「カギを渡して。
アレが必要だから」
「・・・ああ、これのこと?」
少女から渡されたカギをイリスに手渡す。
「さて、まずは
人数を揃えましょうか」
そう言うと森の方へと歩き出すイリス。
それに続く咲耶達。
森を抜け、いつの間にか女子寮まで帰ってくる咲耶達。
周囲は、朝日が昇り始めており
明るくなっている。
彼女は、迷うことなく女子寮の中へと入っていく。
そしてとある部屋の前で止まる。
「・・・ここって確か」
ふと、この部屋が誰の部屋かを思い出すフィーネ。
ガチャガチャ。
カギが掛かっているためか、扉は開かない。
「え~ぃ♪」
いきなり迷い無く扉を殴り飛ばすイリス。
大きな音と共に、扉が吹き飛ぶ。
「ちょ、ちょっとっ!?」
突然のことに驚く咲耶達。
「な、何事ですかっ!?」
「な、なな何事ぉぉっ!?」
中で寝ていた部屋の住人の声が聞こえる。
かなり驚いている様子だ。
そんな周囲の様子を気にすることなく
部屋の中へと入っていくイリス。
「扉をいきなり壊すとか、無茶苦茶ね・・・」
呆れながらもフィーネを先頭に部屋へと入る咲耶達。
中には、ベットから飛び起きている双子の姉妹。
セリナとエリナの姉妹が居た。
5 覚醒 ―前編― ~完~
まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。
最近気づいたのですが、この作品。
平均読了時間が10時間越えているみたいですね。
当初は、ここまで超大作化する予定は無かったのですが・・・。
物語もラストに向けて加速してきたために
伏線の回収や世界観の説明などで
説明が多くなってくる回も増えますが
まあ気長に読んで頂けると助かります。