Tiny Dungeon Another Story   作:のこのこ大王

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最終 覚醒 ―後編―

 

 

 

 

 部屋は、重い空気に包まれていた。

 

 身だしなみを整えた王女姉妹が、ようやくその場に座る。

 

「・・・さて。

 どういうことか、説明して下さい」

 

「あぁ・・・眠い」

 

 冷静に話しをするセリナの横では

 叩き起こされて眠そうなエリナの姿。

 

 イリスが説明することが面倒だと言い出したために

 仕方なく、咲耶達が説明をする。

 

 世界のこと。

 戦う道を選んだこと。

 

「ちょっと・・・簡単には信じられない話ですね」

 

 全ての話を聞き終えたセリナは

 あくまで冷静に、そう話す。

 

「・・・でもまあ、ありえない話って訳でもないんじゃない?

 こうして金竜が2人居るってこと自体が、既におかしな話だし」

 

 反対にエリナは、驚きもしたが

 どちらかと言えば、セリナよりは話を信じてくれている。

 

「そうは言うけど、エリナちゃん。

 もし本当なら、誰が何の理由で

 こんな回りくどいことをしているっていうの?

 

 世界を崩壊させるためなら、さっさとやってしまうべきでしょう?」

 

「それは、和也が居るから。

 

 和也が、戦ってくれているから

 崩壊が遅れているの」

 

 二人の会話にイリスが入ってくる。

 

「和也って誰です?」

 

「私の王子様よ。

 

 まあ、あなた達は

 忘れているから、どうしようもないでしょうけど」

 

「・・・?」

 

 いまいち解らないという顔をするセリナ。

 

「まあ、いいわ。

 役者は、揃った訳だし

 そろそろ行きましょう」

 

 そう言ってイリスが立ち上がる。

 

「行くってどこへ?」

 

「もちろん、全ての分岐点よ」

 

 イリスの言葉に全員が首をかしげる。

 

「私は、あのゴミ共の手配をしてきます」

 

 そう言ってメリィさんだけが別れる。

 

 寮の玄関から外に出ると

 イリスが、カギを空に掲げる。

 

 するとカギから光が出て、森の方を示した。

 

 それに従うように進むイリス。

 皆、まだ半信半疑な感じではあるが

 それでもイリスの後をついていく。

 

 しばらく進んで、イリスが立ち止まる。

 

「・・・懐かしいな、この場所」

 

 そう呟くイリス。

 

「・・・この場所って」

 

 咲耶も気づいた。

 

 そう、この場所は

 普段から自主練習に使用している丘だった。

 

「あ、見つけた」

 

 何かを探していた彼女が見つけたのは

 ほんの僅かに揺らぐ境界。

 

 それは、世界の亀裂だった。

 

 

 

 

 

 最終 覚醒 ―後編―

 

 

 

 

 

 イリスは、おもむろにその亀裂に近づくと

 持っていたカギを突き刺す。

 

 すると、何も無かったはずの空間に扉が現れる。

 

「こ、これは・・・」

 

 皆が驚く中、咲耶が何とか声を出す。

 

「ここは、全ての世界の分岐点。

 

 だからここが一番影響が強く

 そして一番不安定なところ」

 

 そう言いながら扉を開く。

 扉の向こうは、何も無い白い世界が広がっている。

 

「さあ、早く入って。

 

 あまり待たせると、あの娘が煩いわよ」

 

「え、あ・・・ちょっとっ!?」

 

 そう言って強引に、皆を中へと押し込むイリス。

 

「・・・」

 

 中に押し込められた咲耶達は、再び言葉を失った。

 

 見渡す限り真っ白な世界。

 そして何もない世界。

 

「はぁ・・・。

 やっと来たのね。

 

 随分と遅かったじゃない」 

 

 突然声をかけられ

 思わず咲耶達は、振り返る。

 

 そこには、一人の少女の姿。

 

「これでも早く来た方だと思うんだけどなぁ」

 

 イリスだけは、何事も無かったかのように話す。

 『説明ばっかりで時間がかかったのよ』と不満げなイリスに

 『いちいち説明してるから遅くなるのよ』と反論する少女。

 

「まあ、いいわ。

 

 とりあえず合格ってことにしてあげる」

 

「相変わらず、捻くれてるよね」

 

「・・・何か言った?」

 

「べっつに~」

 

 仲が良いのか悪いのか。

 謎の口論を始める2人。

 

「・・・えっと。

 

 話を進めて欲しいのだけど」

 

 遠慮しがちに咲耶が、間に入ってくる。

 

「・・・そうね。

 あまり時間も無いことだし、はじめましょうか」

 

 そう言ってこちらに向き直る少女。

 

 少女が手を前に出すと、一瞬で杖が出てくる。

 それを握ると、少女を中心に魔法陣が形成される。

 

 すると少女の少し前に巨大な透明のクリスタルの塊が現れる。

 

「全員、それに触れて。

 そして精神を集中・・・いえ、頭の中を空っぽにして」

 

「それって私も?」

 

「あなたもよ、イリス」

 

「あら、そう」

 

 イリスがクリスタルに触れたのを見て

 皆が、恐る恐るクリスタルに手を伸ばす。

 

「・・・全員、余計なことを考えすぎよ。

 そんなことじゃ何時まで経っても終わらないわ」

 

 ため息をつきながら注意され

 全員が再度、精神統一を開始する。

 

 やがて魔力が収束して

 彼女らは、立ったまま意識を失う。

 

「―――ッ!」

 

 魔力をコントロールしていた少女は

 予想外の事態に驚く。

 

「まさか、これは・・・!!」

 

 それは、考えもしなかった事態。

 

 咲耶を中心に広がる巨大な魔法陣。

 

「・・・ふふ・・・ははっ・・・あははははっ!!」

 

 それがどういうことを意味するのかに気づくと

 少女は、愉しそうに笑い出す。

 

「そう、やっぱりそうなのね。

 

 やはり、あなたはイレギュラーな存在だった。

 でもそれは、和也を・・・世界を救う力となるかもしれない」

 

 少女は、魔力のバランスをより咲耶に傾ける。

 

「さあ、あなたの力を・・・想いの強さを見せてみなさいっ!!」

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 彼女達は、夢を見ていた。

 

 目の前には、舞台が用意され

 自分は、観客席に座っている。

 そんな感覚。

 

 そこで行われる演劇は、別の世界の物語。

 舞台の上に現れた、もう一人の自分は

 一人の人族の少年と出会い

 そして影響を受けて変わっていく。

 

 まるでよく出来たおとぎ話のようにも見える。

 でも、自分の心の中には

 それらが真実であったことを示すかのように

 暖かな気持ちが広がっていく。

 

 そうして1つの演劇が終わると

 物語は、第2幕を迎える。

 

 それは、一人の少年の物語。

 彼は、常に絶望の淵に居た。

 

 謎の化け物達に故郷を奪われ

 実の母親をその手にかけた。

 

 そして今後は、儀式の日と呼ばれる事件に

 巻き込まれて、大勢の仲間を失った。

 

 それでも彼は、負けなかった。

 

 彼は、戦士となって学園フォースに入学して

 数々の出会いと経験を重ねていく。

 

 時には、嫌がらせを受けながらも

 彼はそれらを乗り越えて先を目指していた。

 

 そんな彼の元に集う少女達。

 だが、またも起こってしまう悲劇。

 

 しかし彼は、諦めなかった。

 彼の想いは、やがて世界を越える。

 

 彼は、一人の少女の力によって

 世界を覆う巨大な闇との戦いを決意する。

 

 それは、永遠に続く彼の戦いの始まり。

 

 彼1人の力だけでは、到底勝てない大きな力。

 彼は、死ぬ間際に少女の力を借りて世界を越える。

 

 一度、今の世界を閉じてこれ以上の被害を出さないようにして

 別の平行世界を作る。

 

 そしてその別の平行世界で彼は、もう一度やり直す。

 物語が終盤になると、彼は必ず

 巨大な闇との戦いに挑む。

 

 だが結局は、負けてしまう。

 そしてまた1つの世界を閉じ、そして1つの世界が生み出される。

 

 こうして彼は、何度も戦いに挑んだ。

 

 だが何百、何千と繰り返しても、やはり勝てない。

 

 それもそのはず。

 今までも、少女の力を借りて『勇者』と呼ばれた者や

 『王』と呼ばれた者達などが同じく世界を覆う闇と戦った。

 だが結果は、同じ。

 

 そして永遠とも呼べる繰り返しの中で、ついに彼らは挫折した。

 彼らにとって『一番マシ』と言える世界に逃げ込んだのだ。

 力を貸してくれた少女への怨嗟を口にしながら。

 

 少年よりも、力を持つ者達が勝てなかったのだ。

 魔法すら持たない人族が、勝てる訳が無い。

 

 ―――だが。

 

 少年は、諦めなかった。

 何万、何億をも超える数の敗北を重ねても

 彼の心は、決して折れることはなかった。

 

 たとえ、人族が優位に立つような世界を手にしても

 魔族や神族が大きな失態を犯すような世界であっても

 彼は、それをよしとせず

 常に戦い続けた。

 

 何故なら少年は

 『全ての人々の幸せ』を願って戦っていたからだ。

 

 あれだけ他種族から冷遇されてきた少年が

 それでも全ての種族の幸福を願っている。

 

 どんなに辛くても。

 どんなに苦しくても。

 

 一歩間違えば、自身の存在ごと世界から

 消え去ってしまうという恐怖の中を。

 

 決して目を逸らさずに。

 常に未来を信じて。

 

 傷ついた心と身体を奮い立たせて

 巨大な闇に挑み続ける。

 

 こんなことを、他の誰が出来るというのだ。

 過酷なんて言葉では、表現できないほどの道を

 彼は、ボロボロになりながらも歩き続けていた。

 

 その事実を知った少女達は

 自身の魂が震えるのを感じた。

 

 そして少女達は、意識を取り戻して

 ゆっくりと目を開けた。

 

「・・・ああぁ」

 

「・・・和也・・・和也ぁ」

 

 咲耶とフィーネは、その場で泣き崩れる。

 

「兄さんは・・・本当に・・・」

 

「和也くん・・・和也くんっ!」

 

「もう・・・ホントに。

 和也は、無茶ばっかりするんだからぁ・・・」

 

「まったく、困った男だ。

 ・・・困った男だよ、キミは」

 

 亜梨沙・セリナやエリナは、もちろんのこと

 リピスまで泣いていた。

 

「・・・意外ね。

 あなたは、平然としてるじゃない」

 

「・・・うん。

 だって和也は、私の王子様なのよ?

 これぐらいのことをしていても、不思議じゃないわ」

 

「・・・あっそう」

 

 イリスの笑顔に、つい顔を背ける少女。

 

 そして、同じ頃。

 四界を覆うほど、空一面に巨大な魔法陣が現れる。

 

 魔法陣から、光があふれ出し

 やがて世界を光が包んだ。

 

 世界中の人々は、その光によって知った。

 

 たくさんの悲劇があったことを。

 数々の世界があることを。

 

 そして、人知れず世界のために戦い続ける

 人族の少年が居ることを。

 

 

 ・・・・・・・。

 ・・・・・。

 ・・・。

 

 

 しばらく時間が経って

 咲耶達は、冷静さを取り戻す。

 

「・・・聞きたいことがあるのだけれど」

 

 沈黙の中、咲耶が少女に向かって話し出す。

 

「もう一度、聞かせて欲しい。

 あなたは、何者なの?」

 

「私の名前は、久遠。

 人々の『願い』から生まれた存在」

 

「願いから生まれた?」

 

「そうよ。

 皆、願いを持っている。

 

 ああしたい。

 こうなりたい。

 こうであって欲しい。

 

 そうした願いが、私を生み出した。

 

 その中でも、私は人々の『希望』から生まれた」

 

「久遠。

 あなたの目的は、何なの?」

 

「私の目的は、人々の『希望』を叶えること。

 人々を幸福へと導くことが、私の生まれた意味よ。

 

 そしてアイツ。

 和也が戦っているものは

 人々の恨み・嘆き・悲しみといった怨嗟の声。

 

 そこから生まれた『絶望』。

 アイツの目的は、世界を絶望に導くこと。

 世界を破滅させること」

 

「なら、どうして和也は

 その『絶望』と戦っているの?」

 

「私もアイツも、お互いに直接戦うことは出来ないの。

 

 だからお互いに、自分の力だけで

 世界を導いて、その影響力で勝負することになるのだけれど・・・」

 

 そこで一度、言葉を切る久遠。

 

「・・・だけど?」

 

 フィーネが先を促すように言葉を口にする。

 

「・・・だけどね。

 人って思っている以上に、自分のことを不幸だと思っているものなのよ。

 

 本当に不幸な人なんて、数えるほどしか居ないのに

 現状よりも少しでも悪くなると『ああ、不幸だ』って口にする。

 

 自分が今、幸福だなんて思う人より、はるかに多い数よ。

 

 そして、その想いが力となってお互いに影響する。

 

 つまりね、アイツの方が圧倒的に優位なのよ。

 だから私は、違う手を打つことにした。

 

 人々の中から、特に皆の期待を集めている者。

 人々を率いている者。

 

 そういった人々の期待を集める者の『希望』は

 とても力が大きいわ。

 

 だからそういった人達に手伝ってもらうことにしたの。

 彼らが戦うのであれば、私が直接手を出す訳じゃないから

 アイツを直接滅ぼすことも可能になる。

 

 ・・・でも結果は、ダメだった」

 

 久遠の寂しそうな顔を見て、皆が黙ってしまう。

 

 それは、先ほど見た記憶の1つにあった。

 久遠のおかげで、一番マシな未来を選ぶことが出来たのに

 彼らは、最後にそんな彼女に対して

 罵声を浴びせながら逃げていったのだ。

 

「・・・そして私の力も、どんどんと減っていったわ。

 

 そして最後に選んだのが、和也だったの。

 彼は、今までの誰よりも強い光を放っていた。

 彼しか居ないと思ったわ。

 

 もし彼が負けるのであれば

 それが人々の『願い』が決めた結末なのだと

 私も諦めることが出来るって」

 

 結果として久遠の選択は、正しかったのかもしれない。

 何故なら彼は、未だに戦い続けているのだから。

 

「でも、もう終わり。

 これ以上の世界を作ることは出来ない。

 私の力も、もう無いわ。

 

 だからこれが最後のチャンスなの」

 

「なら私達には、何が出来る?

 何をすれば、和也の手助けが出来るの?」

 

「・・・今からアナタ達を元の世界に戻すわ。

 世界が繋がってしまったから

 もうスグ、また大きな事件が起きる。

 

 ・・・いえ、多分アイツが仕掛けてくるわ。

 今この世界は、一番影響力がある世界になっている。

 

 だからこの世界を守り通すことが出来れば・・・

 人々が『絶望』ではなく『希望』を信じることが出来たのなら

 それは、和也の力となり、アイツを倒せる唯一のチャンスとなる」

 

 久遠が杖を横に振ると、扉が現れる。

 

「天保院 咲耶。

 

 あなたは、和也と同じく『人々の希望を集める者』。

 その力によって世界は、間違いなく変化しようとしている」

 

「どういうこと?」

 

「元の世界に帰れば、自然に解ると思う。

 世界全てに拡散する魔法だなんて、見たことがないわ」

 

 クスクスと笑う久遠に、何のことか解らないと

 首をかしげる咲耶。

 

「さあ、時間がもう無いわ。

 

 さっさと帰りなさい」

 

「あなたは、どうするの久遠?」

 

「私は、私でやることがあるの。

 心配しなくても、和也のためになることよ」

 

「・・・そう。

 わかったわ」

 

 咲耶達は、扉から元の世界へと帰っていく。

 

 そして全員が帰った後。

 

「ゴメンね、和也。

 私も、あなたを助けたいの。

 

 ・・・だから、戦わせて」

 

 久遠の足元には、巨大な魔法陣が現れる。

 

「さあ、行くわよっ!!」

 

 

 一方その頃。

 

 咲耶達は、女子寮の前に転送されていた。

 

 だが、その瞬間に見たのは

 せわしなく寮から出てくる女生徒達の姿。

 

「ああ、セリナ様。

 至急、学園まで行ってください。

 

 学園長達が、お待ちですっ!」

 

 そう言って神族の少女は、走っていった。

 

「・・・とりあえず何かあったみたいね」

 

「学園にまずは、行きましょうか」

 

 雰囲気から何かあったと感じて学園に急ぐ咲耶達。

 

 街まで出た瞬間、彼女達は

 今までみたことがない光景を目にしていた。

 

 街の住民達も一斉に避難を開始している。

 年老いた魔族の老人に、神族の男性が

 手を貸している。

 

 神族の商店の店主が、店から食材を運び出そうとしているのを

 数名の竜族達が手伝っている。

 

 他にも種族を超えて、避難準備が進んでいた。

 

 その光景に驚きながらも学園へと急ぐ。

 

 そして学園に到着すると

 既に学園内は、避難所になっており

 各種の対応が既に始まっていた。

 

「おお、ようやく帰ってきたかっ!」

 

 呆然とその光景を見ていると

 声をかけられる。

 

「スグに話をしたい。

 こっちにきてもらえるか?」

 

 それは、学園長にして魔王妃のマリア=ゴアだった。

 

 彼女に連れられて学園長室に入る。

 

「あっ、お母さんっ!」

 

「あら、帰ってきたのね」

 

 中には、既にオリビア王妃の姿があった。

 

「悪いが、時間が惜しい。

 全員、席についてくれ」

 

 マリアに促され、全員が椅子に座る。

 

「話は、大体理解している。

 まさか、世界が知らないうちに

 こんなにも動いていたとはな」

 

「・・・ちょ、ちょっと待ってよっ!

 どうして母様が知ってるのよっ!」

 

 フィーネが皆が突っ込みたい部分に

 いち早く反応する。

 

「なんでも何も、既に四界中が

 この話題で持ちきりだぞ」

 

「ええ。

 セリナちゃん達が、頑張ってくれたおかげでね」

 

 マリアとオリビアが

 一部始終を語りだす。

 

 突然、世界を覆った魔法陣。

 

 蘇る記憶。

 過去の悲劇。

 これから起こるであろう出来事。

 自分達がすべきこと。

 

 そして、藤堂 和也という少年の存在。

 

「それから、各地に連絡を取った。

 既に魔界・人界・神界で軍の準備が進んでいる」

 

「竜界も、メリィちゃんが向かってくれるって

 言ってたから、竜界も大丈夫よ」

 

「という訳で、まずはこれを見てくれ」

 

 手早く地図を取り出すマリア。

 

「偵察を放ってみたら、さっそくまあ盛大な数のゴーレムどもが

 うじゃうじゃと見つかってな」

 

 地図に目印がされていく。

 学園都市を囲むようにありえないほどの数が存在していた。

 

「当面は、これらから都市を守るというのが目的になるだろう。

 

 各界の軍隊は、外側から奴らを撃破して

 それぞれの担当エリア掃討後、学園都市内に入って

 防衛に回るという手順になっている」

 

「もちろん、みんなにも防衛に協力してもらうわ」

 

 咲耶達が会議をしている頃。

 

 既に周辺の避難は、完了しており

 学生達も、防衛準備に取り掛かっている。

 

 何度も繰り返してきた作業を思い出し

 予想以上に早く準備が整っていく。

 

「ここのバリケードに、もう少し人が欲しいわ」

 

「確かあっちに材料余ってなかったか?」

 

「手が空いている奴は、こっちを手伝ってくれっ!」

 

「順番に並んでくださ~いっ!」

 

 いつもなら種族同士で固まって作業をしているはずが

 今は、種族がバラバラに動いている。

 

 誰もがそんなことを気にせず手を取り合っている。

 彼らは、自分達と共に戦う戦友だ。

 

 背中を預ける相手を差別しても何の意味もない。

 それに相手は、ちゃんと別に存在することが解っている。

 今はそんなこと後回しだと皆が考えていた。

 

「これは、ここでいいかい?」

 

「は、はいっ!

 助かります」

 

「いいって。

 可愛い娘のお願いは、断れないさ」

 

 いつもの調子で種族問わず女の子を口説いているギル。

 

「・・・悪いが邪魔だ」

 

 それを押し退けて、大きな荷物を降ろす魔族。

 

「おっと、危ないねぇ。

 ・・・って何だ、アンタか」

 

「・・・誰かと思えば」

 

 それは、かつて和也と戦い

 そして敗れた1階級の魔族。

 

 アレン=ディレイズ。

 

「悪いが、俺が先に行かせてもらう」

 

「おいおい、そりゃ俺の台詞だ。

 先に勝負をするのは、俺だよ」

 

 主語の無い会話だが、2人は譲ろうとはしない。

 

 そんな時だった。

 

「丁度良い所だったな」

 

 ふと声がして2人が振り向くと

 そこには、1人の魔族の姿。

 

 魔王の血族として名高い

 ヴァイス=フールスだった。

 

「おや、珍しい。

 俺・・・もしくは、こっちに何か用かい?」

 

 軽い口調で返事をするギル。

 

「悪いが、両方だ」

 

 いつもと違う雰囲気のヴァイス。

 その態度に、2人とも黙って先を促す。

 

「・・・私には、清算したい過去がある。

 どうしても成し遂げたいことがある。

 

 だが、残念なことに

 私一人では、成し遂げることは無理だろう。

 

 しかしこれを避けて通ることだけは、決して出来ない」

 

 そこで一度、言葉を切るヴァイス。

 一度大きく深呼吸をしたのち

 

「・・・頼む。

 私に力を貸して欲しい。

 

 この通りだ」

 

 そう言って頭を下げるヴァイス。

 

「―――ッ!?」

 

 ギルは、驚いた。

 

 正直、プライドの塊のような男だと思っていた。

 他人を認めることが無い傲慢な魔族の典型だと。

 

 そんな男が、他人に頭を下げて頼みごとをしてきたのだ。

 

 アレスも意外そうな顔をしている。

 1階級でも、ヴァイスの名と

 その傲慢な態度は、噂になっていた。

 

 だからこそ、目の前の男が

 噂とは、かけ離れた存在に見える。

 

 ヴァイスは、ひたすら頭を下げ続ける。

 

 その姿にギルは、ため息をつく。

 そして―――

 

「ああ、いいぜ。

 俺でよければ、力を貸そう」

 

「・・・ああ、いいだろう。

 この魔槍の力、お前に貸すことを誓おう」

 

「・・・すまない。

 そして、ありがとう」

 

 ヴァイスは、2人に感謝して

 もう一度深く頭を下げた。

 

 

 

 

 

 最終 覚醒 ―後編― ~完~

 

 

 

 

 

 




まずは、ここまで読んで頂きありがとうございます。

咲耶編は、これで終了となります。
といっても続きが、これから和也編として
始まるので、あまり関係ないですけど。

これでようやく話も残り僅かとなりました。
最後まで何とか製作ペースを維持したいと思います。

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