六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

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大きな扉の国(3) 巨人どもの、いえ

◆ 5、巨人どもの、いえ ◆

 

 山の下なる巨人の工房。入り口はものすごくでっかい扉。

 ハイエルフ探検隊、まずはその扉に、たまげる。

「なんと!」「これが、扉!?」「我ら8人肩車しても、てっぺんに届きそうになし」「とてつもなく大きな御殿にちがいなし」

「わっはっは。さあどうぞ!」

 鬼神、笑って、大きな扉を引き開けた。

 こっそり『力』のルーンを使って、ぶわあ! と勢いよくこっちに開く。

「うわあ」「あなや」「とびら、倒れてくるう!」

 大きな構造物が急に動いたものだから、ハイエルフども錯覚。きゃあきゃあ八方へ逃げまどう。

「はあはあ、たまげたえ」「あなや、これほど大きな扉を、ぶわあと一気に」「この世ならぬ怪力」「はあはあ」

 驚きっぱなしである。

 鬼神はにこにこ。なんなら引っ剥がして(ひっぺがして)ぶん投げることもできるぞ。やらんが。

「さ、ここが巨人どもの、いえじゃ」

 

 入ったそこは、巨大な玄関ホール!

 明かりもないのに輝く床、ビシーッとまっすぐな壁、壁に飾られた道具! 武器! 道具!

「山の下に、かかる大空間!」「なんと綺麗な建物か」「見よ。武器、道具の、なんと見事なできばえ」「釘まで輝いておる・・・」

 さすが探検隊。

 鑑定眼、鬼神なんぞより、よっぽど優秀。

 じつはこの工房、何もかもがすんごく高級なんである。

 たとえば、とんかち。うっすらと温かくオレンジに輝く。人間の炉では決して溶かせぬ金属でできておる。『不壊(ふえ)のとんかち』とでも呼ぶべき逸品。これ、巨人の王は天井を直すのに使うた。ただの日用品。

 たとえば、釘。うっすらと冷たい青に光る。岩をも貫通し、鬼神が『力』のルーンで曲げても、びよーんと元に戻ってしまう。実際試した(そして怒られた)ので間違いない。『折れずの釘』とでも呼ぶか。これ、そこらじゅうに使われておる。ただの消耗品。

 ハイエルフども、かわいそうに、声も出んようになってきた。

 と、そこへ、巨人の女、供を従え現れる。

「あなた。お客さまですか?」

「おお、おまえ。それに、息子どもよ」

 目がひとつしかない王妃と長男次男の、お出迎えであった。

 王妃はあの鬼神と対になる服。長男次男は控え目なトゲトゲ服。どうも王妃の中ではトゲトゲが順位を表わすらしい。

 まるでこのことあるを予知しておったがごとき、準備万端の姿であった。

「ようこそ、ハイエルフのみなさん。巨人の国へ」

「初めまして、王妃さま。氷天部族の探検隊長、アロウと申します」

 ハイエルフども、目がひとつしかない王妃の姿にたまげておる。

 だがアロウ殿はさすがに礼儀正しくあいさつをしたので、鬼神はさらにご機嫌となった。

「さあ、それでは工房へ案内しよう!」

「あなた」王妃がやんわりブロック。「探検隊の方々は、お疲れなのではありませんか?」

「うん?」

「今夜はゆっくり休んで頂き、ご案内は明日としては?」

 王妃、かしこい。いきなり工房へ入れたら巨人の王だって嫌がる。また逆鱗に触れるところであった。あぶないあぶない。

「なるほどそうだ! 旅人を急かしてはいかんかったのう」

 

 ハイエルフの男連中を、長男次男がお風呂へ案内。並んで歩くと、長男次男はハイエルフの誰よりもでかかった。まだ子供なのに。

 ハイエルフの女連中は、目がひとつしかない王妃が案内。

 旅の汚れ、疲れもさっぱり。ゆるく着替えて、次。

 巨大な食堂へご案内。

 巨大なテーブル! 山のごとき肉! 海のごときスープ! なんもしゃべらん巨人の弟子ども!

「なんという食事」「これが、神の国か」「かかる美味、探検に出て以来」「いやいや、生まれて初めて」

 ハイエルフども、幸せと驚きで目も回る気分のまま、客間へ。

 梯子をよじ登らねば手すら届かん巨大なベット。

 巨人の弟子1人用だが、アロウ殿ご一行が枕を並べても、十分。

 ふとんに沈み込む。するともう、自分以外はなーんも見えん。遥か上空に美しい天井が見えるのみ。

 まるで、雲の中に眠るよう。

 朝、起きて来ぬ仲間あり。

 アロウ殿ら、白い雲海を飛ぶがごとくして探し回る。

「あれ、隊長?」見つかった仲間。「せっかく天国に来たに、まだ、探検をせねばなりませんかに?」

「こやつ、寝ぼけおって」「たしかに、天国のごときおふとんえ」「ああ、起きとうない」「帰りとうない」「わはは」

 

 翌日。巨人の王の工房(いつもより、ものが減って片づいておる)。

 会談が始まった。

 

「アロウ殿は、弓使いか」巨人の王、楽しそうにしゃべる。「腕前を見てみたいもんじゃ」

「ゆみつかい?」鬼神、首をひねる。

「みなさん、持っておられたじゃろうが」

「私が見たのは、曲がった杖と、短い剣だけですぞ」

「ばかめ。陛下。曲がった杖ではない。弓じゃ」

 2人のやりとりを聞いたハイエルフども。

「ここな武神、弓を知らぬと」「あな巨人、国王陛下をばかと言うたえ」「まこと、不思議な国なり」

 ヒソヒソ話す。しかし、耳のいい鬼神には丸聞こえ。

 鬼神、焦る。「しもた。これでは、舐められてしまう!」

 王妃がフォロー。

「夫は弓というものを見たことがないのですわ。

 もしよろしければ、弓のわざを披露(ひろう)して頂けませんでしょうか」

「王妃殿下のご希望とあらば」

「それなら、ちょうどよいものがあるわい」

 巨人の王がにこやかに言うて、倉庫からなんか引っ張りだしてきた。

 車輪のついた、ずんぐりむっくりした、毛皮の固まりである。

「義父上。なんです、その・・・くま?」

「しし車じゃ」

「ししぐるま?」

 

◆ 6、ししぐるま ◆

 

「これは、いのししを真似て造った、からくりの車じゃ。

 いのししの車じゃからして、『しし車』じゃ」

 巨人の王がうれしそうに説明する。

 鬼神は黙っておるが、心の中で「義父上はやっぱり名付けのセンスがないのう」などとダメ出ししておった。

「孫らの的当て遊びによろしかろうと造ってあったのじゃが、」

「よくできてますな」と鬼神。「くまそっくりだ」

「いのししじゃ!」

 鬼神はふーんと言いつつ、しし車をぽんぽんと叩いた。

 すると中から「ひっ」というような声がする。

「変な音がするぞ」

「変とはなんじゃ。ばかめ!」

「義父上。私も的当てしてかまいませんかのう?」

「だめじゃ」

「なんでじゃ」

「子供用と言うたじゃろが。おまえさんでは、一発で木っ端みじんじゃ」

「ああ、そりゃいかんな。わっはっは」

 いつもの調子で巨人の王と鬼神は笑いながら出てゆく。

 ハイエルフども、2人のやりとりに困惑しつつ、それに続く。

 工房の外へ。

 例の、広々としたくぼみに下りてゆく。

 このくぼみ、巨人の王のとてつもない体重にプレスされたがゆえに、なにもかもぺちゃんこにひしゃげ、地面はかちんこちんに固まっておる。車を走らせるにはじつに都合がよいんである。

「わしがからくりを動かすので、ご自由に撃ってくだされ」

 弓を張るのはアロウ殿と2人の供の3人である。

 張りつつも、アロウ殿はしし車を見て首をかしげた。

「偉大なる工房の長よ」

「なんじゃ、アロウ殿」

「矢は思いがけなく深く刺さることもありますえ。あそこは、危ないですに?」

「なに、大丈夫じゃ。中身はただのからくりじゃからして、壊れてもかまわん」

「しかし、人の気配がしますえ」

 会話を聞いていた、目がひとつしかない王妃。周囲を見回す。

 次男が居らん。

「アロウ殿、少々お待ちを!」珍しくあわてた声で言うた。「あなた、しし車の中を見てくださいな」

「なんでだ?」

「次男が見当たりません」

「なに?」

 鬼神、長男を見た。長男、動揺。鬼神、ピンと来た。

 しし車のところへスッタラスッタラと走り、べりっと毛皮をめくる。

 すると、なんとしたことか!

 中に、次男が隠れておるではないか!

「おまえは、ばかか」鬼神は次男をつまみ上げた。「何をしとるのだ」

「いや、それがだな」

「あっちへ行け」

「だが、父上」

「なんだ。行けと言うのに」

「いやそれが、弟が床で寝とるのだ」

「は?」

 鬼神はからくりの中を覗き込んだ。

 しし車の中は歯車みたいなもんが組み合わさり、精妙で、複雑である。

「義父上はまったく、あんなでっかいのに、どうやってこんな込み入ったものを造るのだ」

 感心しつつ、隙間から中を透かし見る。

 すると、なんとしたことか!

 床で、三男がぐうぐう寝ておるではないか!

「おまえは、ばかか」鬼神は三男をつまみ上げた。「なんでこんなところで寝とるのだ」

 すると三男は飛び起きた。「なんぞ! 父上。きんきゅうじたいか!?」

「いや。だが、あぶないのだ。とっとと起きて、母上のもとへゆけ」

「うん」

 

 鬼神どもがもどってくると、目がひとつしかない王妃が静かに子供を睨み付けた。

「は、母上。すまんことじゃ。あの車、とても寝心地がええんじゃ。ときどきゴロゴロというて、楽しいし」

「そりゃ試運転しとったんじゃ」巨人の王があきれて言うた。「いつから寝とったんじゃ?」

「ときどきじゃ」と三男。「いっつも」

「どっちじゃ」

「ふだんはそうなのですね。今日はどうなのです?」目がひとつしかない母、静かに訊く。

「・・・のけものにされたので、見とったら、眠くなったんじゃ」

 

 要は、三男。

 自分も会談に出たかったんである。

 しかしまだ子供。留守番を命じられた。

 三男、不満。俺は赤子じゃないぞ! と、倉庫に侵入。会談を盗み聞き。

 しかし大人の長話である。子供にはつまらん。眠くなる。

 しし車がある。お気に入りの寝床。

 ぐう。

 

「こそこそと泥棒のような真似をしてはいけません」

「はい。すまんことじゃ、母上」

 目がひとつしかない母の目は、次男に向けられた。

「それで、あなたはなんで入ったのです」

「えっと、それはだな。・・・びっくりさせようと思うたのだ」

「びっくりさせようとした。誰を? どうやって?」

「みんなだ。的当てをするのだろう? パッと払いのけて、あっと言わせてやろうと思うたのだ」

「武器をあなどってはいけません」

「はい」

 目がひとつしかない母の目は、最後に長男に向けられた。

「それで、あなたは気付いていたのでしょう?」

「弟が居らんのは、気付いておった」と長男。「しかし・・・」

「しかし、なんです?」

「その・・・母上に『黙って立っておれ』と言われたし」

「そういうときは、自分が仕える相手にこっそり伝えて、指示をあおぐのです」

 目がひとつしかない母、説教を終え、アロウ殿に向き直った。

「息子どもがお騒がせしました。どうぞ」

「アロウ殿。ばかな息子ですまぬ」鬼神もあやまった。

「いえ」アロウ殿はちょっと迷ってから、言った。「じつは私も同じようなことをして、怒られたことがありますえ」

「なんと。そなたが」

「大人に黙って、けものを追い立てようとしたのです。

 手柄を立てるつもりだったのですが、けものには突き飛ばされ、我が親には撃たれそうになり、さんざん怒られましたえ」

「なんと。アロウ殿がのう」

「俺たちは鬼だ!」次男がいばる。「けものなんぞには負けんのだ」

「ふあー。ねむい」三男がぐずる。

「孫ども、静かにせよ」

 巨人の王が三男をつまんで、胸のポケットに入れた。三男、ポケットに垂れ下がり、うつらうつらしだす。

 三男が落っこちんように注意しつつ、巨人の王はしし車のしっぽを引っ張った。

 ごろごろ・・・どん、がん、ごろろろろ・・・。

 しし車の内部で、音がしだす。

「アロウ殿、お二方、しし車、発進しますぞ」

 しし車。

 初めはゆっくり。しかし、すぐに勢いづく。

 土煙を立てて突進! ずざざーと音を立てて止まる! 向き変えて、突進! ずざざー。突進!

「猛烈だのう」鬼神が眉を寄せた。「子供がぶつかったら、吹っ飛ばされそうな速度だ」

「そうじゃな」

「なんでそんな速さにしたのだ。あぶないでしょう」

「なんでといって、安全な造りにしてみろ。

 おまえの息子どものことじゃ。『いのしし恐るるに足らず』などと言うて、本物に挑みかねんぞ」

「・・・む。たしかに」

「じゃによって、本物より気持ち強めに造っておいた」

「ならばよし」

 ハイエルフども、いいのか? と困惑。

 アロウ殿と選抜された2名はさすがに緊張の面持ちで、もう会話は耳に入らぬ様子。

 弓矢はだらりと下に向けたまま、じーっとしし車を見つめ、機をうかがっておる。

「きびしいな」と鬼神。

 距離は20尋ほど。わずかな狂いで大外れとなる距離。しかも、しし車は不規則。これはむずかしい。

 アロウ殿が弓を上げた。弦を引く。残りの2人もその動きにならった。

 しし車は走り、止まり、回転し、また走り始──める瞬間、アロウ殿の矢が、しし車の首筋に生えておった。 

 ついで他の2人の矢が、ひょうん、ぶうん、と音を立てて飛び、カッ! カッ! と、しし車の後ろ半分に突き立った。

「見事」鬼神はうなった。「見事じゃ。恐ろしいわざだ!」

 アロウ殿がふーっと息をつき、ぼそぼそと「光栄です」と言うた。

 鬼神。

 内心「なんだこいつは」とたまげておった。

 アロウ殿の矢がいつ放たれたのか、鬼神にはわからなんだ。完全に虚を突かれたと言うてよい。あっと思うたときには、するすると矢が飛んでおった。いや、それが見えただけでも、さすがは鬼神と言えよう。巨人の王や息子どもに後で聞いたところ「何が起こったかわからんかった」と言うておったぐらいである。

 するする伸びてゆく矢の揺れる軌道。頼りないようでいて、あやまたぬ。

 初めから当たると決まっておるがごとし。いや、初めからそこに矢が生えておったがごとし。

「まるで魔術だ」鬼神は感嘆した。「こんな男とうっかり戦ったら、おおごとになるとこだった。見せてもろうて、よかったわい」

 この鬼神の勘、やがて大当たりすることになる。

 だが、まだそんな勘の利かん子も居った。

「なんだ。やっぱり、大したことはないぞ」次男がわめく。「あんなへなちょこ矢、手づかみにしてくれるわい」

 

◆ 7、次男 vs アロウ殿 ◆

 

「ばかめ」鬼神はあきれた。「息子よ。おまえ、いまのを見ておらんかったのか」

「見ておったわい!」

 次男はむきになった。

「なにが弓だ。へろへろして、音もせんかったではないか。

 父上が投げる石にくらべたら、全然大したことはない。

 ハイエルフなんぞみんなひょろひょろして、俺より小さいし、大したことはないのだろう」

「ばか。阿呆。失礼な奴め。

 ひょろひょろした者が、ごっつい者を投げ飛ばすことだって、あるのだぞ」

「だって、父上のほうが・・・」次男は少しひるんだ。「なあ、兄者。そうだろう?」

「いや、ここは父上が正しいと思う」長男は考えながらそう言うた。「おまえ、ちょっと黙っておれ」

「なんだ。兄者め。びびりおってからに」次男は引き下がらぬ。「おいアロウとやら。俺と勝負せよ!」

「おい、やめろ」長男が止めた。

「俺は負けんぞ! 的当てなら、俺だってかなりのもんなのだ」

「いい加減にせよ」鬼神が怒った。「お客さまに謝らんか」

「しかしだな、父上・・・!」

「あなた」目がひとつしかない王妃が、手を上げた。「私に、考えがございます」

「うん?」

「母上!」次男、鼻息荒し。「止めてくれるな! 俺はだな、」

「息子や。おまえがどうしてもというのなら、母からアロウ殿にお願いしてもよろしい」

「どうしてもやりたい!」

「いいでしょう。その代わり、約束を1つ、してもらいたいのです」

「なんだ、母上。どんな約束でもするぞ」次男は言い切った。

「では、勝負に負けたら、死になさい」

「えっ・・・」

「死んだフリでよろしい。今日だけでよろしい。ですが真面目に死んだフリをなさい。

 一切、文句を言ってはなりません。死人は口を利かないのですから。

 二度目の勝負もいけません。死人に『次』はないのですから。

 母に約束できますか」

「それは・・・」

「いやいや、おまえ。負けたら死ぬとは限らんぞ」「そうじゃそうじゃ。こいつなんぞ、わしに負けたくせに」

 鬼神と巨人の王がなんか言いかけた。が、目がひとつしかない王妃にじろりと睨まれ、

「そうだ。母上が正しい!」「はい。そうじゃ」引き下がった。

「母に約束できますか?」

「じゃ、じゃあ、アロウも、死んだフリを」

「しません。なんでといって、あなたが無理にお願いをする立場だからです。

 今回は、あなたが代償を払うのです」

「い・・・いいぞ」次男はだいぶひるんだ。「そんなことで、ひるんだりは、せんのだ」

「母に約束できますか」

「で、できる! 約束する、母上」

「それではアロウ殿。私からお願いいたします。

 息子に、本物の戦士のわざというもの、見せてやって頂けませんか」

 アロウ殿はうなずいた。「かしこまりました」

 

 先攻、次男。

 口ばかり先走る次男であったが、しし車の肩にしっかり当てた。

 この距離で当てるだけでも、なかなかではある。

「どうだ!」

 しし車の肩に、石の当たったへこみができておった──と思いきや、そこに矢が生えた。

 アロウ殿、放ち終わった弓を下ろす。

「・・・え?」

 次男、青ざめる。

 ハイエルフどもは微妙な表情で、なにか言いたげにしておる。

「どうしたのじゃ?」鬼神が訊いた。「すごいわざではないか」

「・・・あそこでは、効きませぬ」ハイエルフの女が言うた。「いのししの肩骨に当たり、石だろうが矢だろうが、はじかれますえ」

「ほう」

 すると他の者どもも、ぴーちくぱーちく言い始めた。

「・・・アロウ殿、大人げなし」「いや、あれでこそ隊長。手加減できぬ御方」「かえって教育にならぬ」「いや、なる」

 鬼神、内心「こいつら面白いな。うるさいが」と思った。

「ひ、引き分けだ! いまのは」次男、わめく。「次はあんたが先、俺が後でやろう」

「いいでしょう」

 アロウ殿、矢をするっと抜き、弓と合わせてだらりと構える。

 しし車は相変わらずめちゃくちゃに動いておる。走り、曲がり、止まり、走──り始めた首筋に、矢が生えた。

「・・・勝負あったな」鬼神はつぶやいた。

「なんでじゃ」

 巨人の王が訊く。その声でポケットの三男が目を覚ました。「ふあ? なんじゃ?」

「息子は、石投げに勝とうとがんばっておる。

 だがアロウ殿は、いのししを殺しておるのだ」

「なるほどのう」巨人の王はうなずいた。「遊びと仕事の差じゃな」

 次男、投石。

 外れ。

 緊張したのか、暴投になった。しし車にはかすりもせず、手前の地面に投げつけてしまう。

「アロウ殿の勝ち」目がひとつしかない王妃が宣言した。「あなたは、死にました」

 次男、ひざをつく。

「二番目の兄者。何をしとるんじゃ」目を覚ました三男が言うた。「しし車は、あっちじゃぞ」

「・・・わかっとるわい」

「なんであんな、手前に投げよったんじゃ」半分寝ぼけた三男はしつこい。

「弟よ。話しかけるな。俺は死人なのだ」

 次男は片膝、こぶしを握り、うなだれておる。死んだフリらしい。そんな死にポーズあるか。かっこつけすぎだ。

 大人たちは次男をそっとしておいて引き揚げた。長男が慰めるも、次男はなかなか立とうとせんかった。

 

◆ 8、大きな扉の国 ◆

 

 アロウ殿一行は、数日、鬼神のもとに滞在し、ふたたび探検にもどった。

 そして数カ月後。元気な姿で、あいさつにやって来た。

「おお、アロウ殿。お元気そうじゃのう」

「鬼神さま。いよいよ故郷にもどることになりましたえ。

 先日のお礼に、このあたりの情勢の話をお持ちしました」

「探検家よ、ありがたい。どうだ、怪物でも居らんか? 私がぶちのめしてやるぞ」

「いえ、居りませぬ。

 しかし、ハイエルフの大勢力がありますえ。

 『緑の魔術の国』と名乗る者どもで、近く、平原に進出しましょう」

「緑の魔術の国だと。魔術師が居るのか」

「はい。たくさん居るようですえ。魔術大学という、立派な学校もあり」

「なんと」

「すでに、くぼみの地から数日の距離に、都がありましたえ」

「気をつけねばならんな。どうもありがとう。さあさあ、休んでいかれよ」

 アロウ殿ご一行、また滞在。今度はひたすら休養である。

 そして、いとまを告げて立ち去った。

「鬼神さま。巨人の国に、繁栄を」

「氷天にも、強く健やかな未来を」

 

 アロウ殿は無事故郷に戻り、探検の成果を報告したという。

 その結果。

 

「あなた。『大きな扉の国』の歌が、ハイエルフのあいだではやっているそうですわ」

「なんだその、大きな扉の国とは」

「我が国のことですわ」

「なんだと? 私は『巨人の国』と言うたぞ」

「アロウ殿はそう報告なさったことでしょう。ですが、歌はこうなっておりますわ──」

 

 『大きな扉の六腕神(りくわんしん)』

 ♪森の向こうのくぼみの地、そびえる大きな扉あり。

  六腕赤き鬼神さま、見過ごすことなき慧眼(けいがん)の。

  従う巨人のひとつ目も、ふたつの目よりよく見える。

  豊かなりや神の国、肉もスープもこの上なし。まさに神の美食なり。

  探検途中のアロウ殿、もてなし受けて心身全快。まさに神の恩恵と。

 

「おまえの料理、ずいぶん褒められておるな」

「あなたも、目のするどい神とたたえられておりますわ」

「しかし、大きな扉の国とはなあ。義父上みたいな名付けのセンスだ」

「まあ、あなた。私もそう思っておりました」

 

 この歌は各地のハイエルフの部族に伝わった。

 アロウ殿が警告してくれた『緑の魔術の国』にも、もちろん、伝わっておったのである。

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