六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

15 / 93
緑の魔術の国(1) 狩人の村

◆ 1、国王陛下、さんぽする ◆

 

「さあ、さんぽをしますぞ」

 国王陛下、さんぽをする。

「なんでじゃ」

 巨人の王、不満を言う。

「なんです義父上。いきなり不満とは」

「なんで、わしまでさんぽに連れ出す。1人で行かんか」

 巨人の王。

 だいぶイライラしとるようである。

 微振動が、鬼神の足元に伝わってくる。あとちょっとのイライラで、地震発生である。

「巨人のしるしのあるところが、巨人の国だと、宣言したのだ。

 だからして、義父上には、人から見えるところに出てもらわんといかんのだ」

「なんでそんな、ひとを目印にするようなことをする」

 グラグラ・・・。

 まずい。地震になりそうである。

「わしは忙しいんじゃ。いま、仕掛けで難航し、集中を必要とするとこじゃというのに」

「だって、地形は目印にならんでしょうが」

「なんでじゃ」

「義父上がコケたりして、地形をつぶすからだ」鬼神、目の前に広がる、くぼみの地を示す。「こんな風に」

「おまえさんが殴るからコケたんじゃろが!」

 巨人の王、ちょっとキレた。

 もうだめだ。地震です。近くの森から鳥が一斉に飛び立つ。

 どうも鬼神と話すと毎回こうなる。

「いや、そうなんですがね」鬼神、へりくだる。「国のため、子供のためだ。頼みますよ」

「むう・・・。国王陛下にそう言われてはのう。

 しかし、なんで、さんぽ。目印なら、1日1回、工房の前に立つぐらいでよかろう」

「勘です」

「は?」

「私の、戦の勘が言うのだ。さんぽをせよと!」

「全然わからん。戦とさんぽが、どう繋がるんじゃ」

「あやしい者に気付くことが、防衛の第一歩だからですぞ」

「・・・それは、『見張り』ではないか?」

「そうです」

「なら初めから見張りと言わんか!」

「義父上があっちこっちと質問をされるから、あちこちに答えが飛ぶのだ。

 私のせいじゃありませんぞ」

「質問せなんだら説明もせんじゃろが!」

「そうですな。わっはっは」

 2人はしばらくスタスタと歩いた。

「・・・あいわかった」と巨人の王。

「なにがです」と鬼神。

「第一に、目印として、外界に姿を見せよ。

 第二に、どうせだから見張りもやってくれと、こうじゃな?」

「いかにもさよう」

「じゃが、やはり、わからぬ」

「なにがわからんのです」

「人間が攻めてきたところで、わしとおまえが蹴散らせばすむことじゃろが。

 なんで、わざわざ、見張りなんぞをする」

「それでは、ひがいが出るでしょうが」鬼神は偉そうに言うた。

「被害じゃと?」

「人が殺されたり、宝を奪われたり、家や土地がそこなわれたりといった」

「わっはっは。ばかめ!」

「ばかじゃないわ!」

「わしら巨人を殺せるような人間なんぞ、この世に居らんわい。

 わしの娘、つまりおまえさんの嫁、つまるところの王妃殿下にしたってじゃ。

 ハイエルフの兵士になんぼ囲まれようが、蹴散らして逃げて来るぐらいはできるのじゃ」

「義父上。私は、大切な妻にそんなことはさせませんぞ」

 鬼神はあきれた。

「それに、私の息子は鬼だ。人間なんですぞ」

 

 ・・・あ、一応言うておきますが、鬼は人間の部類です。

 この世界では、ハイエルフみたいな生きものをまとめて『人間』という。

 2本足で立ち、手にものを持ち、言葉をしゃべる生きものは、だいたい『人間』ということです。

 鬼は少々でっかいが、ま、人間です。

 巨人は『神々と巨人』という部類ですので、人間とは呼ばん。まあ、巨人の王なんぞは『地形』のグループに入れた方がいいぐらいですからね。仲間外れにしようというんでは、ありませんがね。

 

「そうか。孫どもは、人間じゃったな」巨人の王はさびしそうにした。

「だいたいにして、我が家の庭で敵を迎え撃つなんて、そんな国、私はいやだ」

「わしだっていやじゃ」

「でしょう。

 『攻撃されてから反撃すればいいや』などは、怠慢(たいまん)なのだ」

「むう」

「ばかなのだ」

「ばかじゃないわ!」

「そういうわけだ。孫のためと思って、頼みますよ」

「わかったわかった」

 巨人の王はうなずいて、くぼみの地の向こうを見た。

「そうすると、空から見張れれば、効率的なわけじゃな」

「わっはっは。そりゃそうだ。

 空飛ぶ生きものは、強いからのう」

 鬼神。空をあおぐ。

「しかし我々は地べたを歩く生きものだ。こうして見上げるぐらいしか、

 ・・・ん?

 義父上。なんか、あそこ、煙がかっておらんか?」

「どこじゃ」

「あっちです。森の上空、かすかに煙っておるようだが」

 巨人の王、鬼神が見つけた煙のところを、ひとつしかない目で、ギロッと見る。

「む」

 胸のポケットから、筒を取り出す。

 その筒を、ひとつしかない目に当てて、ギロギロッと覗く。

「むむむ」

「なんです、それは」

「単眼鏡じゃ」

「たんがんきょう?」

「遠見の眼鏡じゃ」

「なんだ、めがねか」

「・・・村ができとるようじゃ」

「村ですと?」

「うむ。森の中に空間がある。

 屋根が3つ見える。草木葺き(ぶき)じゃ。ハイエルフが造るシェルター(雨避け小屋)の技法と見た。

 煙はそっから上がっておる。

 ──以上じゃ」

 巨人の王、巨人的簡潔さで報告。

「つまりなんです?」

「ばかめ。ハイエルフの村じゃないか? と言うとるんじゃ」

「アロウ殿の言っていたやつか。緑・・・緑の・・・」

「緑の魔術の国じゃ」

「それだ」

「国には見えんが」

「いやわからんぞ。なんでも末端というのは小さいもんです。

 ようし。ここはひとつ、私が行ってみますぞ」

 鬼神。スッタラスッタラと軽い足どりで走り、またたく間にくぼみの地を走り抜けてゆく。

「小さいくせに、足の早いやつじゃ」巨人の王はそう言うて、引き返した。「娘に伝えるとするか」

 

◆ 2、狩人の村 ◆

 

「──やあ。弓を持つハイエルフどもよ。

 おっと、私は怪物じゃないからな。弓を撃つのは、ちと待った」

「なんと」「怪物ではないに?」「化け猿ではないに?」

 

 アロウ殿のときと同じようなやりとりをする鬼神。

 巨人の王の推測が的中したのだ。森の中で、ハイエルフの狩人と邂逅(かいこう)したのであった。

 

「私は、鬼どもの神、鬼神と名乗る者。

 煙が見えたので、なにかなと思い、見に来たのじゃ!」

「なんと!」「歌に聞く、六腕神さま!」「弓を向けたこと、どうか、お許しを」

「うむ! そなたらが巨人の国で悪さをせん限り、怒ったりはせぬ」

 鬼神はかっこをつけてうなずいた。

 巨人の王のモノマネ開始である。

「じゃけれども、その巨人の国、もう、目と鼻の先じゃ。

 じゃによって、ちょっと見に来たというわけじゃ」

「なんと? それは、存じませなんだ」

「そうか」

 深く暗い森の中である。

 わずかに開けた真上の空以外は、なんも見えん。くぼみの地も見えんし、工房のある山も見えん。

「ならばよし。弓持つハイエルフたちよ、初めまして。今後ともよろしく」

「は、初めまして」「おそれおおい」「ありがたい」「神さまと話してしもうた」「一生の記念え」

 ハイエルフども、びっくりしておる。

「して、そなたらは、なんという部族のハイエルフじゃ?」

「我らは、灰沼の氏族。見ての通り小さな氏族で、部族には属しておりませぬ」

「はいぬま?」

「灰色の沼ですえ。こことは全然ちがう森の、池とも沼ともつかん、ちっぽけですが明るく住みよい、我らの故郷です」

「かえるがたくさん居る」「かえるの女神さまがいらっしゃる」「ぐええぐええとうるさい」「でもうまい」

「ほう。楽しいところのようだな。なんでここに?」

「それは、『緑の魔術の国』に、無理やり移住させられまして」

「なんと?」

「ある日、『緑の魔術の国』が、灰沼にやって来まして。

 抵抗したのですが、『まだん』とかいう呪文で叩きのめされ、若いのが3人殺された。

 罪人のように引っ捕らえられ、連れて来られましたのが、ここで」

「なんじゃそれは。横暴だのう」

「まったくですえ」「私、緑、きらい」「わしも」「人を人とも思うておらぬ」「ありんこのごとき扱い」

「来て1カ月。見も知らぬ森で、食うものも獲れず・・・見てのごとく、みな、がりがりに」

「ひどいな」

「まったくですえ」「なみだ、なみだの日々」「ここは、静かすぎて」「かえるの声が恋しい」「死ぬなら、故郷で死にたい」

「このような状況でして、鬼神さまの御国にどうこうなど、我ら毛頭ございませぬ」

「そうか」

 

 狩人ども、たしかに、がりがりに痩せて(やせて)おる。

 外に居るのは男だけで、女子供は小屋に隠れておる気配。

 万が一には、刺し違えてでも女子供を逃がす・・・と、男どもは決意しておるようである。

 

「だが、その焚き火を見るに、なんとかなりそうか?」

 狩人どもの背後。

 『焚き火』と言うたが、火ではない。地面に置いたでっかい木の葉っぱと石から、煙がもやもや立ち昇るのみ。そこから、肉の燻される(いぶされる)いい匂いがしてくる。

 狩人どもは「あちゃーばれた」という顔をした。

「そんな顔をするな。取りはせんから」鬼神は微笑んだ。「腹は減っておらん。もう帰る」

「しかし、神さまを手ぶらで帰しては失礼ですに。おみやげと言っては、この肉ぐらいしか・・・」

「だめじゃ!」

「なんでですに?」

「食うのに困っとる者から、みやげなんぞ取り立ててみよ。わしゃ、妻に嫌われるわい」

「なんと」「鬼神さま、奥さまに、頭が上がらぬので?」「こりゃ! なにを言う」「いやしかし」

「いやいや、じつは、そうなのだ」

 鬼神は笑った。

「私は婿(むこ)だし、妻はかしこいのでな」

「・・・なんと」「私も入り婿ですに。女房が恐あて」「婿ではないが、おんなが恐あて」「聞かれるえ」「うわあ、こわい」

 鬼神と狩人ども、わっはっはと笑い、物品のやりとりは一切せず、別れた。

 

 こうして鬼神、近所のちょっと偉いおっさんぐらいの扱いを受け、すっきりして、戻ってきた。

 玄関で、目がひとつしかない妻と長男次男が迎えてくれた。

 長男次男は、自分の身長ぐらいある太い杖を握っておる。

「あなた。ご無事でしたか」

「うむ。・・・なんで武装しとるのだ?」

「万が一のためだ」次男が言うた。

「弟がうるさいので」長男が言うた。「父上の様子だと、取り越し苦労だった」

「兄者は甘いのだ! 俺はもう、油断をせぬ!」次男は鼻息も荒い。

「ふっふっふ、頼もしいではないか」鬼神は息子を褒めた。「大丈夫だ。今日のところはな」

 

「・・・あなた。それは、よい情報とは言えませんね」

「だろう?」

 鬼神。

 目がひとつしかない妻と2人で、狩人の村のことを話し合った。

「どうも、緑の魔術の国、注意が必要だぞ」

「そうですね」

 という結論になった。

「私も、これまでは趣味でうわさを集めておりましたが、本腰を入れますわ。

 情報収集をします」

 目がひとつしかない妻、そう言いつつ、お茶を淹れてくれる。

 湯気といい香りが立ち昇る。

「そういえば、おまえ」

「なんです、あなた」

「うわさはどっから集めておるのだ? 外に行くところは、見たことがないが」

「お弟子さんが、神々にお会いして、うわさを聞いてくるのですわ」

「なんと? 神に?」

「はい。巨人のおみやげは、よろこばれますから」

「なんとまあ、神としゃべるとは、巨人はすごいのう」

 目がひとつしかない妻は噴き出した。

「なんで笑うんじゃ?」

「だって、あなた」鬼神の肩を叩く。「私もいま、神さまとしゃべっていますのに」

「あ、そうか。なんだ。大したことないな」

 鬼神はお茶をふうふうした。

「もう」

「神は、人間のうわさにくわしいもんなのか?」

「そうですわ。人間どもは、神さまに熱心に話をしますから」

「なんでじゃ?」

「なんでかはわかりません。ですが、人は神を恋い慕う(こいしたう)ものです」

「・・・立派だのう、他の神さまは。

 私なんかこう、ただのでっかい猿みたいだのに」

「いいえ。あなたは、鬼どもの神ですわ」

「そうかな」

「そうですわ」

「そうだな。

 息子どものために神になる。これは決意したことだ」

 鬼神。

 柔らかい椅子にもたれかかり、お茶をひとくち飲んだ。

「・・・にしても、狩人を追い払うとはなあ。ばかな国だわい」

「さあ、どうでしょう」

「だって、狩人は、知らん森では仕事がしづらいと言うておったぞ。

 自国の民を苦しめるのは、自国を傷つけることだ。ばかではないか」

「おっしゃるとおりですわ。

 ですが、囮(おとり)の可能性があります」

「おとり?」

「弱い立場の者を、巨人の国の近くに住ませる。そして、様子を見るのです」

「二重にひどいわ!」鬼神は憤慨(ふんがい)した。「故郷を追い立てたのが、そんな目的だとしたら」

「ですから、今日のあなたの対応は、悪くないものでした」

「ぬう! 私は、そんなつもりで!」

 鬼神はお茶を呑み干した。

 目がひとつしかない妻がお代わりを入れてくれた。鬼神はそれも呑み干した。

「そんな国ならば、とっとと滅んでしまえばよい」

 鬼神が呪う(のろう)と、目がひとつしかない妻は予言した。

「いずれそうなりますわ。ですが、そうなり果てるまでは、油断はできないということになるでしょう」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。