六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

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緑の魔術の国(2) 外交

◆ 3、ハイエルフ、戸をたたく ◆

 

「もし、もうし」

 大きな扉を、小さな手が叩く。

「大きな扉の神さま。いらっしゃったら、外交のごあいさつをさせて頂けませんか」

 大きな扉を、こんこん。

 すると。

「うん? 誰じゃ」

 大きな扉の中から返事がして・・・。

 ぶわあ! 扉が開いた!

「うわ」「うわ」「うわあ」

 出てきたのは、赤く大きな猿のごとき、六腕の巨人。

 国王陛下の、鬼神であった。

「いたい」「腕が折れた」「足が折れた」

 扉の前には、ハイエルフども。

 小綺麗な装束をして、かっこつけておったのが、あわれ。扉に吹っ飛ばされ、大ケガ。

「なんと。これはすまぬことをした。無事か」

「いえ、けがをしました。しかし、治しますので大丈夫」

 ハイエルフどもはそう答え、祈りを捧げた。

 あっという間に、骨折などを治してしまう。

「なんと。これはすごいわざだ」

「太陽の女神に教えられた、癒し(いやし)の知恵でございます」

 鬼神。

 初めて見た癒しのわざに、興味津々。

「御身は、大きな扉の国の国王陛下、鬼神さまでいらっしゃいますか」

「ここは、巨人の国である!」

 鬼神は訂正した。

「そして私は、鬼どもの神、鬼神と名乗る者。この国の国王でもある」

「おお、やはり、そうでしたか」

 などと、しゃべっておると。

「なんじゃ。なにを騒がしくしておるんじゃ?」

 大きな扉の中から声がし、どしーん、どしーんと、地響きがした。

 凄まじい轟音! 震動!

 地面、上下にシェイク!

 ハイエルフども、強い火で炒められる豆のごとく、ぽんぽん上下に吹っ飛ぶ!

「うわあ」「死ぬるう」「また腕が折れた」「また足が」

 ハイエルフども、あわれ。またあちらこちらに転がり、骨を折ったりした。

 出てきたのは、大きな扉ですら頭がつっかえて出るのに苦労するほどの、真の巨人。

 巨人の王であった。

「なんと。これはすまぬことをした。無事か」

「いえ、けがをしました。しかし、治しますので大丈夫」

 ハイエルフどもは祈りを捧げ、あっという間に傷を治した。

 鬼神、巨人の王、2人して感心。

「すごいのう。そなたらは、どこのハイエルフじゃ?」

「緑の魔術の国から参りました、国王陛下」

「ああ、あそこか・・・」鬼神と巨人の王は顔を見合わせた。

 ハイエルフどもは、荷馬車を引いてきた。

 荷物はさっきの地震でしっちゃかめっちゃかになっておったが、急いで立て直し、披露する。

「どうぞ、お確かめくださいますよう」

「なんじゃ、これは」

「外交の贈り物でございます」

 

◆ 4、国王陛下、外交をする ◆

 

「荒風(あらかぜ)寺院の部族より、小麦と卵のお菓子をお持ちいたしました。両国の友好を願うものですえ」

「月見ヶ原(つきみがはら)部族より、燻製(くんせい)にした馬の肉をお持ちいたしました。両国の友好を願うものですえ」

 緑の魔術の国の者ども。

 山の下の大きな広間にて、あいさつをする。

 部族を名乗り、これこれの贈り物を持ってきたと示し、友好友好とと唱える。

「なんだこいつら」鬼神は心の中で首をひねった。「国と言いながら、なんとか部族なんとか部族と、ばらばらではないか」

 その疑問を、目がひとつしかない王妃が察してくれた。

「緑の魔術の国は、部族連合なのですわ」耳打ち。「王は居らず、常に部族同士が競い合っているのだそうです」

「ふうん」

「それと、あなたは口を利かないでくださいませ」

「なんでじゃ?」

「あなたは国王ですから、彼らより格上です。

 自分から口を利けば、『私は格上じゃありません』と認めたことになってしまいますわ」

「めんどくさ・・・」

「ご安心くださいな。このようなこともあろうかと、長男が特訓しておりました」

 2人の目は、長男に移る。

 鬼神の長男。いまや立派な鬼の若者。背丈はハイエルフの2倍近くなり、筋骨隆々。ツノある赤い顔もだいぶごっつくなり、ジロリと睨むと、遥かに年上であろうハイエルフどもをちょっとひるませるぐらいの迫力はある。

 その長男。礼儀正しく、受取人を務めておった。

「月見ヶ原の部族より、燻製馬肉、10貫(40kg弱)、たしかにお預かりいたした」

 堂々とした態度で復唱をする。

 すると巨人の弟子どもが、ガキンガキンと記録する。「月見ヶ原、燻製馬肉、10貫」

 

 ・・・え? なんでガキンガキンいうかって?

 そりゃあ、石板に記録しとるからだ。

 巨人は、『タブレット(文字板)』というて、石板に字を刻むのです。怪力にして精妙な巨人だからこそ、できるわざだ。

 

 鬼神。

「長男やるではないか」と思いつつ、やっぱりイライラしておった。

 そのイライラ、目がひとつしかない王妃が察した。

 目配せでもって「がまんしろ」と言うてくる。

 鬼神、なんとか、がまんをする。

 玉座(ということになっておるでっかい椅子)にふんぞり返ってぶすっとしておった。

 

 ようやく、あいさつが最後になる。

「魔術大学の代表で参りました。エスロと申す者ですえ。

 私からは、書物をお贈りいたします」

 彼の贈り物は、四角い物体を積み上げたものであった。

「互いを知るきっかけになればと、願っておりまする」

 とだけ言うて、その男は下がった。

 鬼神はおや? と思った。『友好』『友好』と呪文みたいに唱えるハイエルフどもの中で、彼だけ口上がちがったからである。

 そのハイエルフの男。 

 シンプルなローブ(ゆったりした全身衣)姿の、地味な男である。服も地味なら、顔も地味である。

 しかし、黒い目と、首にかけておる黒い丸石の首飾りだけは、妙に印象的で、雅び(みやび)であった。

「素人が・・・」ハイエルフの誰かがぼそっとつぶやく。

 口の中でもごもご言うただけであったが、耳のいい鬼神には聞こえてしもうた。

「なんなのだ」鬼神は不思議に思った。「まったく、一体感のない奴らだ」

 

 贈り物の説明は終わり、次回の会談日程が決まる。

 ハイエルフどもには、飯を食わせ、帰した。彼らはやり遂げた表情で帰っていった。

 

◆ 5、国王陛下、いらだつ ◆

 

「やれ、イライラする奴らだわい」

 身内だけになるや、鬼神はこぼした。

「あなた。彼らは任務を果たしただけですわ」

「それはわかるが・・・」

 工房の一室。

 ハイエルフの持ってきた贈り物を、皆であらためておるところである。

 大きなテーブル。鬼神、目がひとつしかない妻、長男と次男、それに、巨人の王。

「なんにイライラしておるのだ、父上?」次男が首をかしげた。「もらえるもんは、もらえばよいではないか」

「ばかめ! 全然ちがうわ」

「なにがばかなのだ?」

 鬼神、次男を睨んだ。

 しかし自分そっくりの次男の顔を睨んでおるうち、ちょっと落ち着いてくる。

 説明をした。

「あいつらは、にこにこしておった」と鬼神は言うた。

「それが気に喰わんのか?」と次男。

「そうだ」

「父上。わけがわからんぞ」

「息子よ。もしもだ。全然知らん奴の家に行くことになったら、どうする?」

「はん? そんなばかなことはせんぞ」

「なんでじゃ」

「全然知らん奴だろう? 善人かもしれんが、人殺しかもしれん。そんな奴の家に、行く奴が居るか」

「なんだ、わかっとるではないか。そういうことよ」

 だが次男はまだ疑問の表情である。「いやわからん」

 長男までわからん言い出した。「俺もわからん」

「なんでじゃ。2人して」

「だって、あのヒョロヒョロの弓使いだって、うちに乗り込み、ヘラヘラしておったろう」

「弟よ、それが俺の言いたいことよ」と長男。「あの、アロウ殿だろう」

「なんかそんなような名前の奴だ」

「全然ちがうぞ。

 アロウ殿はだな、初めはむっちゃくちゃ私のことを警戒しておったのだ。

 殺されるかもしれんとびびりながら、勇気を奮って(ふるって)あいさつしてきたのだ。

 初めっからヘラヘラするのとは、ちがうのだ」

「・・・ああ、そういうことか」次男はうなずいた。

「弟よ、わかったのか」と長男。

「兄者よ、わかったぞ」と次男。「つまりだ、父上は、腑抜け(ふぬけ)が気に喰わんのよ」

「ふぬけ?」と鬼神。

「戦の備えもしとらんくせに、『自分は安全だ』と思い込み、ヘラヘラしとる奴らよ」

「それよ!」鬼神はひざを叩いた。「なんだ、うまいこと言いおるのう」

「そうだろう」次男、得意。「兄者もこれでわかったろう?」

「いや、」長男は考えながら言うた。「うーん」

「兄者はいっつもこれだ。ふにゃふにゃとして、はっきりせぬ」

「ふにゃふにゃではない。考えとるんだ」

「うそをつけ。兄者も腑抜けだ」

「腑抜けではないわ! おまえ! 殴るぞ!」

 長男、「殴るぞ」と言うと同時に次男の顔面をぶん殴った。

 次男、無言で殴り返した。けんか開始である。

「やめんか」

 鬼神があいだに入って、六腕をがっと広げた。

 兄弟はそれぞれ父の六腕をビシバシ殴る。父、びくともせぬ。やがて兄弟、はあはあと息切れ。けんか終了である。

「兄者は今日はようやったのだ。堂々としておった。ふにゃふにゃなどと、中傷(ちゅうしょう)はいかん」

「だが殴りおった!」

「うむ。そのことは、外へ出て相撲で決着とせよ。わしもやる」

「父上もやるのか」次男が喰いついた。「よしやろう」

 鬼神と長男次男、外へ出てった。

 

 目がひとつしかない鬼神の妻、夫と息子どもを見送り、ふうとため息。

 巨人の王、愛娘のそんな様子を見て、話しかける。

「あやつ、なんであんな怒っとるんじゃ?」

「息子どもに説明していたとおりでしょう」

「怒るほどのことかのう? まあ、おまえがわかっとるんなら、それでええが」

 巨人の王。

 ピンセットで、ハイエルフの持ってきた品々を調べる。

 なんでピンセットなのか? それはこういうわけじゃ。巨人の指はごっついでっかいので、人間の品物は、つまめんのじゃ。じゃがピンセットをもってすれば、どんな細かい作業だってできる。娘が小さいころなんぞ、ピンセットであやとりの相手をしてやったもんじゃ。

 んで。

 巨人の王のとなりに、いつの間にやら、鬼神の三男が立っておった。

 三男。

 巨人の王の胸ポケットの中で、寝ておった。最近、そこがお気に入り。ベットも運び込んで、寝室をこしらえてある。巨人の王の胸ポケットですからね。子供がベットを運び込むぐらい、余裕なのだ。

 それが起きてきて、巨人の王と一緒に品物を見とるんである。

「いかが?」と目がひとつしかない母が訊いた。

「だめじゃ」と三男。

「話にならんわい」と巨人の王。

「そんなにだめですか」

「巨人に差し出す品じゃないわい」「まったくということじゃ」息ぴったりである。

「イラッとなさいましたか?」

「イラッとした」巨人の王は (´・ω・`) こんな顔になった。「わしらをばかにしとる」

「夫と同じですね」

「・・・なるほど。あやつの気持ち、わかったわい」

 そのピンセットが、ぴたっと止まる。「これはなんじゃ?」

 四角い物体を積み上げたもの。

 ひとつひとつの物体は、革によって装丁されておる。革を開くと、中は薄い布を束ねたものであった。

「生地か? にしては、びっしりと文字が書いてあるわい」と巨人の王。

「すごい情報密度じゃぞ、じじ上」三男が感心した。「これは文字板にまさるぞ」

「じゃが保存が利かぬ。こんな生地では、すぐに虫食いだらけになるぞ」

「石板よりずっと軽いぞ。人間でも持ち運び容易じゃ」

「なるほど」

「父上。坊や。これはきっと『本』というものですわ」

 目がひとつしかない母が解き明かした。

「タブレットやスクロール(巻物)に代わる、新時代の記録法です」

「ほほう!」巨人の王、感心する。「緑の魔術の国などと名乗るだけのことはある!」

「母上。この、くねくねした文字は、なんじゃ?」

「これはハイエルフ文字ですよ、坊や」

「巨人文字にちょっと似とるぞ」

「巨人文字を元に改造したものだと、母は聞きました」

 

 むかーしむかし。

 人間は文字を持っておらんかった。

 そこに、どうにかして、巨人の文字が伝えられた。

 かしこいハイエルフ。

 すぐに巨人文字を覚える。

 だが巨人みたいに石板に刻みつけるのは、しんどい。

 代わりに、粘土板に木の棒で巨人文字を刻んだ。

 しかし巨人文字はとても精妙で、画数も極端に多い。それだからこういうことになる。

「・・・ああ! 失敗してもうたえ。横棒が、ぐちゃっとなってしもた」

「・・・隊長。この食料記録の、ここですが。粘土が欠け、『千』なのか『十』なのかわかりませぬえ」

 かしこいハイエルフ。

 やがて筆記具を改良する。

 紙と筆を発明し、使い始めた。

「粘土は記録に悪し。力を入れずさらさらと書ける、紙と筆こそ良し」

 書くのがラクになり、持ち運びもラクになる。遠い土地にも正確に情報が届くようになり、ハイエルフは栄えた。

 しかし巨人文字は依然としてとても精妙で、画数も極端に多い。

「・・・ああ! また失敗してしもうたえ。縦棒が、べちゃっとなってしもた」

「・・・隊長。この命令巻紙の、ここですが、濡れてにじみ、『出発せよ』なのか『待機せよ』なのかわかりませぬえ」

 かしこいハイエルフ。

 キレた。

「かかる複雑怪奇なる巨人文字、そのまま使うが誤りなり! まだるこし!」

 巨人文字をめっちゃくちゃ省略してくねくね書く。

 画数が減って書くのも読むのもラクになる。書き損じや誤読が減り、ハイエルフはさらに栄えた。

 

「・・・という、改良の歴史があるのだそうです」

「ふーん。改良かあ」

「して、娘や。おまえはこれが読めるのか?」

「はい。ハイエルフ文字は、最近べんきょうし直しましたから」

「さすがは、かしこい母上の娘じゃ。ちょっと、これを読んでみてくれ」

「はい。

 ・・・これは、論文のようですね。

 『生命の書』の解題、およびその新たな価値──」

 

◆ 6、巨人の王、手をたたく ◆

 

──

『生命の書』の解題、およびその新たな価値 著者・エスロ

 

 前文

 

 私がこの論文で述べるのは、『生命の書』の新たな価値である。

 生命の書はこれまで、生命探索の条件式として用いられてきた。

 当論文は、生命の書の新たな価値を提唱する。

 それは、創造の型枠という利用法である。

 

 生命とはなんであろうか? それはわからない。

 では、ある人工物があたかも生命のように振る舞い、生命と見分けがつかぬとき。

 それはいったい、なんであろうか?

 この疑問に突き当たったとき、生命の書の新たな利用価値が見出されるのである。

──

 

「なんと!」

 巨人の王は突然立ち上がった。グラグラと大地が揺れ、ハイエルフの贈り物ががらがらどっしゃんとひっくり返った。

「うわあ」

 三男がぽーんとはね飛ばされた。

 目がひとつしかない王妃。さっと手を伸ばし、落ちてくる三男にぽんとタッチ。

 三男、ハイエルフの物品の上に落っこちそうになっておったが、何もない床の上に落ちることとなる。

 どすーん!

「おおう! いたい!」

「あっ、これはすまんことじゃ。大丈夫か、孫や」

「いたいわ! 母上も、なんで受け止めてくれんのじゃ」三男、文句。

「受け身ぐらい自分でとりなさい」目がひとつしかない母、きっぱり。「父上も、息子を甘やかさないでください」

「えー・・・」「はい。すまんことじゃ」

「それで、父上。いったい、どうなさったのです?」

「その本じゃ!」と巨人の王。たいへん興奮しておる。「いまの、最後のとこ! もう一度読んでくれ」

「はい」

 

 生命とはなんであろうか? それはわからない。

 では、ある人工物があたかも生命のように振る舞い、生命と見分けがつかぬとき。

 それはいったい、なんであろうか?

 

「おおお!」

 巨人の王、手を叩く。

「そうか! そうじゃ! わからん! わからんでよかったんじゃ!」

 もんのすごくでっかい手により、空気が張り裂ける。

 紫電(しでん)、ばりばりずしゃーんと、室内に走り回る。

 部屋はなんともない。このぐらいでどうにかなるようなら、とっくにどうにかなっておる。

 目がひとつしかない王妃もなんともない。父が興奮し始めたところで本から手を離し、かさを差した。ふつうのかさならは、差せば逆に雷にやられる。しかし王妃のかさ、ふつうでない。雷をばちーんばちーんと弾き返しおる。

 三男もなんともない。かさの下に転がり込んでおる。

 かさが弾き返した雷は、巨人の王のピンセットに落雷する。

「おおう! いたい!」自業自得である。

「父上、落ち着かれませ」

「いやしかしじゃ娘や! その本は天啓なのじゃ! 見せてくれ!」

「はいどうぞ」

「だめじゃ! 読めん!」

「ハイエルフ文字と巨人文字の対照石板なら、私が自分用に造ったものがございます」

「見せてくれ!」

「はい。工房へお持ちいたしますわ」

「うむそうじゃな! 陛下には!」

「はい。私から伝えておきます」

「うむ!」

 巨人の王、ずしーんどしーんと工房へ。

「わっはっは! とっくに造ってよかったんじゃ!」

「じじ上待ってー」地震の中、よたよたしながら三男が追いかける。

 

 目がひとつしかない王妃、父親と息子を見送り、ふうとため息。

 ハイエルフの贈り物を床から拾い始めた。

 そこに鬼神が飛び込んでくる。

「すごい雷だったぞ! 無事か!」

「はい、みんな無事ですわ。父上が手を叩いたのです」

「ならばよし。どうせ義父上だろうとは思ったわい」

「あなた、髪の毛が焦げてらっしゃいますわ」

「うむ。脳天に雷が落ちてのう。死ぬかと思うた」

 死ぬかと思うたで済むあたりが、じつに鬼神。けんかけんかの日々から遠ざかっても、打たれ強さ、おとろえず。

 目がひとつしかない妻、鬼神の髪を撫でる。髪、焦げ焦げ。

「父上は、ハイエルフの本を見て、なにかひらめいたようですわ」

「奴らの贈り物も、役に立ったわけか」

「そういうことになりそうです」

「ほんとはなんじゃ?」

「知りたいですか?」

「・・・もしかして、べんきょうか?」

「勉強ですわ」

「うーむ・・・晩飯までには、済むか?」

「さわりだけなら、済みますわ」

「しょうがない。やろう」

 鬼神。

 目がひとつしかない妻と一緒に、床に落ちたものを拾い始めた。

 そこに長男と次男も入ってくる。相撲で鬼神に転がされたのであろう、砂まみれである。

「すごい雷だったぞ、母上!」と次男。「母上。無事ですか?」と長男。

「はい。私は無事です。このとおり」

「おまえらも手伝え」鬼神が命令した。「ものを拾え。拾ったら、べんきょうだ」

「うっ」次男が嫌そうな顔をする。「すぐ済むか?」

「うむ。さわりだけなら、すぐ済むぞ」

「まあ、あなたったら」

「わっはっは」

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