六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

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空飛ぶ生きもの(1) 空飛ぶ台

◆ 1、巨人の王、やりとげる ◆

 

 ゴロゴロゴロ。

 巨人の王と、白い布かぶった四角いもの。

 部屋に入ってきた。

 巨人の工房の大きな部屋。

 みーんな呼び集められておる。

 鬼神、目がひとつしかない妻、長男、次男。

 緑の魔術の国の魔術師である、エスロ博士。

 そして、巨人の弟子ども。こいつらがめちゃくちゃ場所を喰う。なんせ巨人だし。

 

 白い布かぶった、四角いもの。

 ひとりでに転がって来よる。

 どうやら車輪があって、引っ張ったり押したりせんでも自分で動けるようである。

 ゴロゴロゴロ。

 ぴた。みんなの前で、そいつが止まる。

 ばっ。

 巨人の王が、布を取る。

 

 四角い台が、あらわれた。

 

 四角い台。・・・と呼ぶ以外にどうともしようのない、のぺーっとした四角い台である。

 色は温かいクリーム色で、人間が1人、ゆったり座れるぐらいの大きさ。平らな荷台に手すりがついておる。車輪が4つ。

 それだけである。飾りとかは一切なし。

 

「・・・義父上」鬼神が訊いた。「なんです、その・・・くるま?」

「うむ。これは、くるまではない」

 巨人の王、満面の笑顔。ものすごい幸せそうである。

「空飛ぶ台じゃ!」

「は?」

「空を飛ぶ荷台のごときもんじゃからして、『空飛ぶ台』じゃ」

 いつもながらそのまんまの名付けである。

「なんのこっちゃ」鬼神、わからん。

 巨人の王、鬼神は放置。

 『空飛ぶ台』を撫でつつ、「エスロ博士」

「はい、工房長閣下」

 ハイエルフの男が返事をする。

 エスロ博士。緑の国の魔術師であり、外交使節の一員。このところ、常駐と言うてよいぐらい、巨人の国に滞在していらっしゃった。工房長すなわち巨人の王に協力し、ずーーーっとなにやら開発をしておったんである。

 他にもハイエルフの使節員は居るのだが、博士だけ特別扱いで、こうして身内の集まりに呼ばれておる。

 それには理由があった。

「博士、まずはいつもの判定、お願いいたす」

「はい」

 エスロ博士は振り向き、鬼神に礼をした。

「陛下。工房長のご要望により、呪文『生命探索、蛍光(けいこう)』の詠唱許可を頂きとう存じますえ」

「ん? なんで私に訊くんじゃ?」 

「あなた。魔術は戦闘行為です。ですから、ゆるしを求めてらっしゃるのですわ」

 目がひとつしかない王妃がフォロー。

「ははあ。そういうことか。 

 では一応確認させてくれい。なんの呪文じゃ?」

「はい、陛下。私を中心に1尋(ひろ)半径で、生きものを探します。見つけたらホタルのごとく光らせまする」

「危険はあるか?」

「いいえ、陛下。ありませぬ。害も副作用もないこと、このエスロが保証いたしますえ」

「あいわかった。ゆるす」

「ありがとうございます」

 エスロ博士は台のすぐそばまで歩いていく。

「・・・前から思っとったんじゃが」と巨人の王。

「なんです、義父上」

「なんでそんな、『あいわかった』とか、急にそんな口調になる?」

「国王陛下らしくしとるのだ」と鬼神。「舐められんようにだ」

「浅はかなやつめ」

「浅はかとはなんだ。義父上のマネですぞ」

「ばかめ」

「ばかじゃないわ!」

「あなた。博士がお待ちですわ」

「おっと、すまんすまん。博士。やってくれい」

「はい。では──『生命探索、蛍光』!」

 博士、呪文を唱える。

 博士の姿がほわーんと輝いた。

 四角い荷台のごときもの──『空飛ぶ台』も、ほわーんと輝いた。

「光りおった」と鬼神。

「・・・おお。おお!」

 博士、ほわーんと光る空飛ぶ台を見て、歓声を上げた。

「ついに・・・ついに!」

「うむ」巨人の王、にやにやしておる。「予想通りということじゃ」

「おめでとうございます!」

 博士、飛び上がった!

 巨人の王に駆け寄った!

 巨人の王が手を差し出すと、そのごっつい指に抱き着いた!

「おめでとうございます! おめでとう!」

「まさにということじゃ! わっはっは」

 博士と巨人の王、大はしゃぎ。

 さらに博士、空飛ぶ台に駆け寄った!

 ずさーと膝をついて台に抱き着いた!

「おめでとう!!!」

「・・・なんじゃ?」

 ついて行けん鬼神。

 目がひとつしかない鬼神の妻、黙ってお茶を淹れておる。

「なあ、おまえ。あ、ありがとう」鬼神、茶を受け取る。「博士は何をはしゃいでおるのだ?」

「わかりませんわ、あなた」妻、自分も茶を呑む。「私には、父の造るものは」

「あの台が完成したのが、そんなすごいことなんかのう?」

「完成ではありません!!!」とエスロ博士。「 誕 生 です!」

「まさにということじゃ!」と巨人の王。「わしは、やりとげたぞ! 博士」

「わからんわ」鬼神ぼやく。「説明をせよ」

 

 はしゃぐ博士と巨人の王。その他の面々、置いてきぼり。

 そこへ、鬼神の三男がやってきた。

「はらへった」

「なんだ息子よ。居らんと思うたら、いまごろ」

「工房に籠もっとったんじゃ」と三男。「はらへった」

「では何か用意しましょう。あなた、ここはお願いします」

 目がひとつしかない王妃、おやつの準備に、退席。

「久しぶりに見るのう」鬼神は三男の肩を叩いた。「でっかくなったな!」

「背が伸びたようじゃ」と三男。

「おい弟よ」と次男。

「なんじゃ、兄者」

「おまえ知らんか。博士はなにをはしゃいどるのだ?」

「じじ上、説明不足」と長男。「意味不明。我等、手持ち無沙汰」

「そうか。わかったわい。ほいじゃ、わしが説明しよう」

 三男、ふにゃーっとテーブルに伸びながら言うた。

「空飛ぶ台が、この世に生まれたんじゃ」

「いや、完成したことはわかるのだが」鬼神、困惑である。「なにがすごいのかだ」

「あれは画期的なんじゃ。

 この世にいまだ居らんかったであろうもんじゃ。

 魔術とからくりの造りものでありながら、生命の書を型枠として生まれたんじゃ」

「なんのこっちゃ。ちんぷんかんぷんだ」鬼神は三男を眺めた。「おまえ、賢くなったんだな」

「いまのは、父上の知らん言葉を並べたからじゃ」

「なんでそんな、いじわるなことをする」

「いじわるじゃないわ。まずは正確に説明せよと、じじ上に習うたんじゃ」

「そうか」

「まずじゃが、空飛ぶ台は、魔術とからくりの造りもんじゃ」

「からくりの車か。あれだな、アロウ殿が弓で撃った、ほら、あれ」

 次男がものすごくいやな顔になってテーブルから離れていった。

「しし車じゃ」と三男。「兄者が石を外したやつ」

「おまえ! 俺を侮辱!」次男が三男に詰め寄る。長男が羽交い締めにして止めた。

「やめんか。おまえも、兄者をからかうな。

 ──そう、あの、ししぐるま。あれと同類だろう?」

「同類とは言いづらいのう。

 しし車は、『からくり』。

 空飛ぶ台は、『ま! じゅ! つ! とカラクリ』ぐらい、ちがうんじゃ」

「魔術依存度が大?」と長男。

「いかにも、そういうことじゃ。

 そして、あやつはとても複雑精妙じゃ。

 しし車を人形とせよ。さらば、空飛ぶ台は、人間じゃ。──じじ上いわくじゃ」

「?」

「つまりあの台は、人間ぐらいに複雑精妙、玄妙(げんみょう)なもんなんじゃ」

「ははあ。朧げ(おぼろげ)にわかってきたぞ」

 鬼神はうなずいた。

「つまり、じじ上はすごいもんを造ったんだな」

「朧げすぎじゃろ」

「そう言われてものう」

「ちなみに、わしも手伝うた」

「そうか。すごい息子だのう。おつかれさん」

「うむ。まったく疲れたわい」

 三男、しばらくテーブルに突っ伏す。

 やがて頭を起こす。

 鬼神と兄2人はまだ三男を見ておった。そこで三男、話をつづけた。「ほんでじゃ」

「うむ」

「あの空飛ぶ台は、生きもののようにものを考え、生きもののように自分で動くんじゃ」

 

◆ 2、空飛ぶ生きもの ◆

 

「・・・なに?」と鬼神。

「あの台が?」と次男。

「自律思考?」と長男。「自律行動?」

「そうじゃ」

 

 四角い台にしか見えん、空飛ぶ台。

 あの荷台が、ものを考える? 自分で動くだと?

 ウソだろう? 鬼神長男次男、驚愕である。

 

「なに・・・?」鬼神、立ち上がった。「いやいや! おい! それは、すごいんじゃないか!?」

「ほじゃから、画期的ちゅうとるんじゃ」

「いま初めてわかったのだ!」鬼神、座った。「おいおい、おまえ、とんでもないものを造ったな!」

「うむ」三男は満足そうな顔になった。「でじゃ。国王陛下に訊きたいんじゃが」

「なんだ? 私には、からくりも魔術も、なんもわからんぞ」

「ええから。国王として、後先を考えて、答えてほしいんじゃ」

「はあ。後先をのう」

 鬼神はひと呼吸精神を整えた。

「あいわかった。わしのかしこい息子よ。言うてみるがよい」

「なんでじじ上のまねをするんじゃ?」

「国王らしくしとるのだ」

「はあ。浅はかな。

 えーと、なんじゃったっけ。

 ああそうじゃ。

 ええか国王よ。よーく聞いて答えよ」

「うむ」

「空飛ぶ台は、じじ上が造った。つまり、人工物じゃ。

 じゃが生きもののように考えるし、動く。言葉だってよーくわかる。

 博士は『生命の探索』をやったか?」

「やった。博士と台が、ほわーんと光っておったわい」

「うむ。じゃろうな。

 あれは生きものを見つけると光る呪文じゃ。

 つまり、空飛ぶ台は『生きものじゃ』と判定されたんじゃ。

 ──さて。

 国王陛下は、あいつはなんだと思う?」

「なんだとは?」

「人工物か? 生きものか? それとも他のなんかか?」

 

 三男。真面目な顔をしておる。

 空飛ぶ台がなんであるか。それが極めて重要だと、その父親似の、赤くてごっつい顔が言うておる。

 それがわかったので、鬼神はしばらく真面目に考えた。

 

「では答えよう」と鬼神。

「うむ」

「あれがなんであるかは、わからん」

「なんじゃそりゃ」次男がずっこけた。「うっちゃりよった」

「うっちゃったのではない。人によって、答えがちがうであろうと思うたのだ」

「ふむ」三男は慎重に聞くかまえである。

「ひとつ質問をしたいのじゃが」と鬼神。

「なんじゃ、陛下」

「あの空飛ぶ台には、なんか危険だったり不都合だったりするところはあるか?」

「不都合とは?」

「人を食う、ものをこわす、むやみにけんかする、などだ」

「父上じゃないんじゃから、そういうのはないぞ」

「私は人を食うたりはせんわ!」

「そこじゃないわい」

 三男は頭を上げた。

「あやつは、マナによって動く。じゃによって、人間を食うことはない。

 あやつは、忠実じゃ。うま、いぬと同じぐらいにはな。

 あやつは、かしこい。ばかな人間より、よっぽどかしこい。言葉はしゃべれんがな。

 ただ、自分で考える以上、不測の事態を起こさんとは言えん」

「言葉がわかるだと?」と次男。

「うむ。空飛ぶ台はしゃべれんが、こっちの言うことを理解して反応しよんじゃ」

「ほんとうか?」

「うむ。証明はすぐにはできんが、ひとまず、わしが保証するわい」

「じじ上の意見は?」と長男。

「国王陛下の判断が先じゃ」三男はきっぱりと言うた。「なんでといって、これは、我が国の非常な重要事だからじゃ」

 

 沈黙。

 

 鬼神は腕を組み、沈黙し、瞑目(めいもく)した。

 そしてカッと目を見開いた。

 

「あの台は、生きものとする」

 鬼神。言い切った。

 三男がうなずいてから、訊ねる。「なんでじゃ?」

「うむ。なんでって、そうすべきだと思うからだ」

「おい父上。いいかげんを言うんじゃないぞ」

「いいかげんじゃないわい。いいか、これはこういうことだ」

 鬼神は六腕の手のひらをグッパーした。

「私はむかし、『赤く大きな猿』と呼ばれ、怪物扱いされておった。

 私はこのとおり、言葉がちゃーんとわかる男だのにだ。

 あれはじつにいやなことであった」

「それで?」

「だからだ、」

 鬼神は、ぱん! と手を合わせ、祈るがごとくして、言うた。

「私たちはそんな、いやなことはすまい。

 おまえは、生きものだ。そう言うてやろう。

 じじ上の子として、仲間に迎えてやろうと言うとるんだ」

 鬼神。

 祈り合わせた手をぱっと開いた。「どうじゃ?」

「さすが父上じゃ」三男はにっこり笑った。

「なんだ、急に褒めおって」

「ま、そういうわけでじゃ。

 歴史に残るようなもんが生まれたんで、2人は喜んどるわけじゃ」

「おまえは喜ばんのか」と鬼神。

「喜んどるぞ」と三男。

「そうは見えんが」

「腹がへって、つらいんじゃ」

「がんばりすぎだ」鬼神は心配をした。「じじ上は巨人だからいいが、おまえは鬼だ。人間だ。食わんと死んでしまうぞ」

「うむ。まさにじゃ。思い知ったわい」

 三男、ぐでーんとテーブルに突っ伏す。ゴロゴロする。

 額のツノがテーブルにぶつかって、ごつん・・・ごつん・・・と音を立てた。

 

 そこに、目がひとつしかない母がもどってきた。

 両手ででっかい鍋を持って。

 

◆ 3、初飛行 ◆

 

「スープですよ」

 でっかい鍋! でっかいお碗! ざぶーん!

「どうぞ」

「ああこれじゃ」三男、両手でお碗を持って、スープを呑み出す。「頂きます」

「あなたたちも食べますか」

「うむ」「頂きます」「食うぞ」と鬼神長男次男。

 肉たっぷり、野菜ごろごろ、乳の白みに、溶いた卵の白み。

 口にすればとろーり。腹に入ればじわーり。

「うまい」「うまい」「じつにうまい」

 巨人の弟子ども、半分ほどテーブルに来てご相伴にあずかる。

 残り半分は『結論はまだか』という顔でイライラし、さきほどから室内を微振動させておる。

「ふあー。生き返った気分じゃ」と三男。

「じじくさい奴だのう」鬼神はまた心配をした。「おまえも、相撲をしたり、ハイエルフの娘と遊んだりせよ」

「おう。兄者と俺で、また連れてってやるぞ」次男がスープを呑み干しながら言うた。「くぼみのあっちの村な」

 

 このころ、長男と次男、『くぼみのあっちの村』へよく遊びに行っておった。

 くぼみの地の向こう岸(水はないが)に建ち始めたハイエルフの村である。

 鬼神はそれを聞いて「ははあ。私が狩人どもに優しくしたのを確認して、出てきおったな」と思ったものである。

 すでに100人近くハイエルフが住み着いておるということで、可愛い娘も何人か居るらしい。

 長男次男はそれをひっかけて楽しんでおる。三男や巨人の弟子どもも、たまに連れ出されておったようである。

 

「ハイエルフの娘はごちゃごちゃうるさいんじゃ。

 話に中身がないんじゃ。からくりをばかにしよるし」

「そうか」

 鬼神はハイエルフの娘とはしゃべっとらんので、わからん。しかし、

「人が本気でがんばっとるもんをばかにする。そんな娘は、幼稚だ。しゃべらんでよし」

 すると三男がはしごを外した。「そこまでは言うとらん」

「なんなのだ。気むずかしい奴だのう」

「うるさいんじゃ」

 じゃれ合っておると、巨人の王とエスロ博士が戻ってきた。

「エスロ博士もいかがですか」

「ありがとうございます。しかし、いまから、初飛行ですに!」

 博士。

 そう答え、巨人の王と忙しく打ち合わせをする。

 鬼神としゃべる余裕は、まだなさそうである。

「・・・息子よ。たまにでいいから、他の人間とも付き合うんだぞ」

「なんじゃ。父上。さびしいんか」

「ちがうわい。私じゃなく、よその人間とだな、」

「父上だってしゃべっとらんじゃろが」

「ぬ!」鬼神、痛いところを突かれる。

「交流の必要性はわかっとる。そのうちやるわい。研究が一段落したらな」

「そうか。まあ、がんばれ。飯はちゃんと食って、たまに外で運動もするんだぞ」

「そうするわい。お替わり」

 

 鬼どもの軽食、一段落。

 巨人の王、テーブルを片づけ、弟子どもに命じる。「壁に整列」

 弟子ども、若干いやそうな顔をしつつ壁に並ぶ。

 部屋の向こうまでずらーっと並んでも入り切らん。余る。ぐじゃぐじゃっとなった。

「ぐじゃっとなるな。詰めよ」

「窮屈」「不快」「何故室内?」「提案。屋外」

「機密ゆえ室内じゃ。忍耐せよ」

「了解・・・」

 哀れ弟子ども。ぎゅうぎゅう詰めに並ばされる。片づけのできん人の押し入れみたいな詰め込みよう。

 ともあれ空間は確保された。

 巨人の王、セレモニー開始。

「国王陛下よ」

「なんです? 義父上」

「空飛ぶ台に、一言くれ」

「おう」

 鬼神は立ち上がり、空飛ぶ台にまっすぐ向き合った。

 するとなんと! 空飛ぶ台、ゴロゴロッと転がり、鬼神にまっすぐ向いたではないか!

 鬼神は感心し、ぴしっと背中を伸ばして、言うてやった。

「空飛ぶ台よ! かつてこの世に居らなかった、あらたな生きものよ!」

 ──と、鬼神が言うと。

 ぶわっさ。

 空飛ぶ台、はばたきのような音を立てて、ぴょこんとジャンプした。

「こやつ、ジャンプしおった」鬼神は驚いた。

「いまのは『はい!』ということじゃ」巨人の王が説明した。

「そうか。うむ。空飛ぶ台よ!」

 ぶわっさ。ジャンプ。

「よくぞこの世に生まれてきたな。いまからは、私たちの仲間じゃ」

 ぶわっさぶわっさ。ハイジャンプ。

 巨人の王も笑顔となる。「空飛ぶ台、誕生じゃ!」

「誕生おめでとう」弟子ども、祝福。

「こやつは今後、わしの家族」

「ご家族増員おめでとう」

「初飛行じゃ。見よ」

「了解」

「以上」

 話の早い巨人。セレモニー終了である。

 

 エスロ博士、空飛ぶ台へ。

 いつものゆったりしたローブではなく、騎乗用のしゅっとした服になっておる。

 ハイエルフのほっそりした身体は、巨人や鬼どもの中ではなんとも頼りない。

 緊張した面持ちで、空飛ぶ台を軽くぽんぽんと叩いてから、荷台に乗る。

 細い手で、手すりを掴む。

 荷台にまっすぐ立つ形での騎乗である。チャリオット(戦士用の二輪馬車)みたいな乗り方である。

「では、徐行」とエスロ博士。

 空飛ぶ台はしゃべれん。返事はせぬ。動作で答えた。

 ごろ・・・走り始める。飛ぶのでなく、車輪でごろごろ進み始めた。

 左右カーブと停止をテスト。ぐるっと回って最初の位置に戻ってくる。

「問題なし。では行きましょう。空飛ぶ台よ、徐行から、離陸」

 ぶわっさ。

 台がはばたきの音をさせた。

「つばさもないのに、つばさみたいな音をさせよるのう」と鬼神。

「動作音じゃ」三男が説明した。

「わしは、あれはいらんと思うんじゃがのう」と巨人の王。

「いいや、あれはいる」三男が言い切った。「生きものは、声が出せたほうがええんじゃ」

 ぶわっさ、ぶわっさ、ぶわっさ、ぶわっさぶわっさぶわっさ・・・

 台は羽ばたきの音を響かせながら前進。速度を上げる。

 前輪が浮く。博士がちょっとぐらつくが大丈夫。後輪も浮く。博士の髪が、風になびく。

「浮いた!」鬼神がびっくりした。

「ほんまに飛びよった!」次男もびっくりした。

「そりゃそうじゃ」と三男。「じじ上が造ったんじゃもの」

「・・・おい、だが、壁にぶつかるんじゃないか?」鬼神が心配した。

 巨人サイズの部屋。

 とても広いが、空飛ぶ台はあっちゅう間に向こうの壁まで迫っておる。

「手前で曲がるんじゃろ」三男が言うた。「・・・たぶん」

「おい」

 鬼神、心配する。鬼神の勘は「曲がり切れん」と言うておるのである。

 空飛ぶ台。さらに速度を上げながら壁に突っ込んでゆく。

「右へ旋回」

 博士、やや焦った感じで指示を出す。

 空飛ぶ台、かくーんと右へ急旋回。

「うわあ」

 博士、手すりから飛び出す!

 細い身体がぐるんとひっくり返った!

 そのまままっすぐ、壁目掛けてすっ飛んでゆく!

「おいおい!」

 鬼神ダッシュ。

 空飛ぶ博士、壁に叩きつけられる──直前、呪文を唱えた。

 ふわ~ん。

 博士の身体、急ブレーキ。

 突然、羽根のように動きがゆるやかとなる。

 博士、そのハイエルフの身体、宙を舞うがごとく、壁をぽんと蹴り、月面宙返り。

 足音もさせず、ひたっと、床に着地した。

 鬼神は地上でかまえておったが、助けなんぞ、まったく不要であった。

「大丈夫か、エスロ博士」

「生きものは!?」

「生きもの?」

「空飛ぶ生きものです! 無事ですか?」

「・・・ああ、あいつか。平気な顔して飛んどるぞ」

 鬼神は上を指差した。

 空飛ぶ台、ぐーるぐーると空中で回っておる。

「旋回と言うたからやに」博士は苦笑した。「よしよし。降りて来(き)や」

 博士にそう呼ばれて、空飛ぶ台、すいーっとなめらかに降りてきた。

 着地して、車輪でゴロゴロと、博士と鬼神のとこまでやって来た。来たが、まだなんかふわふわしておる。

 ぶわっさぶわっさという音も鳴り続けておる。

「いまのは、急すぎやえ。乗っている人間を振り落としては、アカンえ」

 博士にそう言われて、空飛ぶ台、ごとんと床に落下。静止。沈黙。

「しょんぼりしおった」鬼神はなごんだ。

「そこまで落ち込む必要はないえ」

 空飛ぶ台、現金にもまたぶわっさぶわっさ言い始め、4つある車輪を1つずつ浮かせてふわふわしはじめた。

「なごむやつだのう」鬼神はにっこりした。「ええのう! エスロ博士、私も乗っていいか?」

「だめじゃあ!!!」

 巨人の王がもんのすごい剣幕(けんまく)で怒鳴ってきた。

「なんだ。義父上。ちょっと乗るだけだ。そんな怒らんでも、こわ」

「それはエルフ用じゃ! 乗るな!」

「私だって飛んでみたいのだ。ちょっとだけ。こわしたりはせ」

「だめじゃ!!!!! 設計限界を超える! こわれる! やめろ! だめ!!!」

「じゃあせめて、撫でるだけでも」

「指一本ふれるな!」

「ちぇっ。わかったわかった」

 鬼神は不貞腐れた(ふてくされた)。

「わかったから、落ち着かれよ。博士がこけるでしょうが」

 巨人の王が怒ったため、部屋が上下左右にグラグラ揺れとるんである。

 博士は空飛ぶ台に掴まってなんとか立っておる。

 目がひとつしかない妻はスープの入った鍋を持ち上げ、こぼれんようにしておる。見事なバランス。

 長男次男はテーブルに掴まってかろうじて立っておるが、三男はこけておる。

 巨人の弟子どもは床から生えとるような様子で、誰もこけはせぬ。しかし恐ろしい光景である。なんでといって、天をつくような巨人の群れが上下左右にグーラグーラ揺れとるんですぞ。そりゃもう、おっそろしい光景だわい。

 まったく、鬼神。

 巨人の王の逆鱗を突くの、うますぎ。

 しかし怒らせようと思うたんではない。本当に、心から、自分も飛びたいんである。

「いいのう」子供みたいにうらやましがる。「ええのう」

 博士、鬼神に謝りつつ、ふたたび離陸してゆく。

 空飛ぶ台はしゃべれん。しかし鬼神にすごい褒められたせいか、さっきよりさらに元気。

「では、上昇」

 博士がそう命じたとたん、ガクーン! と垂直に上昇しおった。

「うわあ」

 まーた振り落とされてしもうた博士。呪文を唱え、ふわ~んとただよう。

 すると、なんとしたことか!

 空飛ぶ台、博士を拾いに飛んで来た!

 垂直に上昇しとったのを、ガキンと音がしそうなほどの急転回で、垂直降下へ!

 ふわーんと落下する博士にぴたりと寄り添う!

 博士、真っ逆さまのまま手すりを掴む!

 ナイスリカバリー! そのまま水平飛行へ!

「あの2人、まるで曲芸だのう」

 鬼神。

 テーブルへ戻りながら、空飛ぶ博士と台を見上げる。

「あなた。博士は、魔術兵の経験もおありなのだそうです」

「まじゅつへい?」

 目がひとつしかない妻、注意深い視線を博士に注ぎつつ、解説。

「名の通り、魔術師を兵士としたものですわ。

 緑の魔術の国の主力部隊だそうです。

 空を飛び、息を合わせて『魔弾』を浴びせる。

 ドラゴンですら、その一斉攻撃には、ひるむのだそうです」

「・・・それは、厄介だな」

 夫妻、並んで空飛ぶ博士を見守る。

 なんかかっこ良さげだが、鬼神の脳内では、化けがらすにうんこ投下された敗北の記憶が再生中である。

 空飛ぶ台、ふたたび上昇のテスト。

 今度は成功。とはいえその角度、やはり垂直に近い。

 乗り手が博士でない、ふつうの人間なら落っこちとるであろう。

「あいつ、わかっとらんな」と三男。

「なにがだ」と次男。

「人間は垂直な壁には立てんっちゅうことが、わかっとらんようじゃ」

「うむ」巨人の王が同意した。「そのようじゃ」

「んなアホな」次男があきれた。「そんなもん、危なくて、乗れんぞ」

「まあ教育するわい」

「ええのう・・・博士はええのう・・・」

「ええい、父上。未練がましい」三男が言うた。「そのうち造ってやるわい。のう、じじ上?」

「・・・。」

 巨人の王は嫌そうな顔である。

 この御方、同じものをふたつ造るの、嫌い。顔にそう書いてある。

「じじ上。あいつは生きものじゃぞ」三男が説得する。

「だからなんじゃ」

「兄弟子供が居らんと、かわいそうじゃろが。この世にひとりぼっちでは」

「むう・・・それはそうじゃが・・・。

 ん? いや、待てよ。子供か。その手があったか」

 

 空飛ぶ2人がもどってきた。

 博士、すっかり空飛ぶ台に慣れて、悠然と降りてくる。

 その姿、まさに、空飛ぶチャリオット。

「着陸」

 ぶわっさぶわっさ、わっさわっさ、すうー・・・がらがらがらがら、着陸成功。

「国王陛下と、あなたの父君の御前まで、徐行」

 ごろごろごろごろ・・・、ごろん、ごとり。停止。

 博士、愛情深く台をぽんぽんと叩き、床に降りる。

 晴々とした表情で、巨人の王に報告する。

「工房長閣下! 初飛行、成功ですえ!」2回落っこちたのは失敗とはみなさんようである。

「初飛行成功じゃ」

「初飛行成功、おめでとう」弟子ども拍手。

「以上。解散」

「・・・」「・・・」「・・・」

 弟子ども、解散せぬ。

 興味津々(きょうみしんしん)。空飛ぶ台ににじり寄ってくる。

 鬼神の何倍もでかい弟子どもがミッシリと密集して押し寄せてくる。

 もんのすごい圧迫感。かわいそうに、空飛ぶ台、カタカタふるえておる。

「解散じゃ! 失せい!」

「了解」「不満」「残念」「無念」

 

 こうして空飛ぶ台の初期型──いや、長子が、この世に誕生したのであった。

 そして『エスロ台』との名を授かった。エスロ博士の台だから。そのまんまである。

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