◆ 5、鬼神 vs 歩兵軍団 ◆
「・・・で、アロウ殿は見つかったか?」
腕組みした鬼神が訊いた。
「だめじゃ」
三男が、制御箱のレバーをがちゃがちゃやりながら答える。
『たこ』を操縦しとるんである。
たこ。8本足の竹トンボ。空飛ぶからくり千里眼。いまは高空にあり、敵陣全体を見下ろしておる。
「魔術師がうようよ飛んどるで、危のうて(あぶのうて)、近づけん」
「そうか」
「わし、アロウ殿の顔覚えとらんし、見つけるのは無理かもわからんわ」
「おまえは小さかったからな」鬼神はなつかしんだ。「しし車に潜り込んで、寝ておったのう」
アロウ殿。ハイエルフの探検家。
巨人の国に迷い込んで来た彼の一隊を、鬼神は気に入って、歓迎してやった。
次男も三男もまだ小さく、ばかなことをやった。鬼神の楽しい思い出である。
そのアロウ殿が、緑の魔術の国の弓兵隊に混じっておる。
なんでじゃ?
それはわからぬ。
巨人の国はみーんなでっかくごっつく強い男ばかり。密偵とか、できん。
わからぬまんま、会戦とあいなった。
ときは朝。
ところはくぼみの地。
こちらは巨人軍。37人。規模としては、軍というより『隊』レベル。
あちらは『緑の魔術の国』の軍。兵数なんと、1万以上。
緑の軍、まずは、歩兵10軍団から2軍団、前へ出してきた。
「端から端まで、エルフでいっぱいじゃ・・・」三男びびる。
壮観であった。
2軍団で2千人。ワラワラワラワラ、エルフまみれ。
「5町(ちょう)ほどか。幅は」長男が見立てた。
「うん」三男うなずく。「間隔は1間(けん)ぐらいかのう。300人っちゅう計算じゃな」
かしこい2人。敵の行列をぱっと割り出す。
「300行、7列か。薄いな。装備は整っとるが」
敵、2軍団。
全員が、小剣(しょうけん)とバックラー、かぶと、胸当て、こて装備であった。
小剣は肘から指先ぐらいの長さの剣。リーチはないが乱戦向きである。
バックラーは金属の丸い盾。これも乱戦向き。
行進する姿は、まるで黄金色の波のよう。歩くたびに、かぶとが黄金に煌めく(きらめく)。
「綺麗なかぶとじゃのう。お日さん色じゃ。青銅製じゃな」
「歩兵だけか・・・」
騎兵は80騎ほど居るが、動く気配なし。
魔術兵は30人ほどで、本陣上空をぐるぐる飛んどるだけ。
「空飛ぶ台での奇襲を恐れとるんじゃないか? 4台しかないとは知らんのじゃろ」
「歩兵だけで楽勝、との判断かも知れん」
兄弟の話を聞いとった鬼神。
あきれて首を振った。
「よくまあ、1万も揃えたもんだのう」
「借金」
「しゃっきん? 大将閣下よ、それはなんじゃ?」
『大将閣下』とは、長男のことである。鬼神が任命した。
これが当たりであった。長男は読書家で、ハイエルフの戦史なども読んでおる。しかも、かしこかった。
「長老会議が各部族から金を借り、兵と食料を贖う(あがなう)のだ。・・・と、母上が言うとった」
「人に借りた金で戦う、っちゅうわけじゃ」三男が噛み砕いた。
「返すアテはあるんか?」
「わしらから宝をぶんどる気じゃろ」
「然様(さよう)。歩兵1万というて、その大半、略奪のための日雇い人夫に過ぎぬ」
「わしらがどんだけ宝を持っとるか、ずーっと調べとったわけじゃ。口で『友好』と言いながらのう」
「くずめが!」甲冑(かっちゅう)姿の次男がキレた。
「まったくじゃ!」鬼神もキレた。
ぶお~~~ん。
ホラ貝の音、鳴り響く。
ハイエルフ歩兵、2軍団。前進開始。
先頭に、大きな軍旗、ひるがえる。紋章は円(太陽)と大樹である。
ずん、ずん、ずん。
2千人が綺麗に揃っての地響きは、巨人の足音のごとし。
「ちちうえぇ」三男びびる。
「よし、出るか」
鬼神、六腕の腕組み、ほどく。
いつもの国王の服のまんま。武器もなし。
ただ、額には鉢金(はちがね)をしっかり巻いておる。
おっそろしい目のマークが刻まれた、まばゆく白く輝く鉢金である。
これ、目がひとつしかない妻が造ってくれたもの。「私の夫を殺すことは許さぬ」との気迫がこもっておる。
鉢金を留めるのは墨(すみ)色の布。後頭部で結ばれ、動くとかっこよくひらめく。
「父上出陣。近衛(このえ)、お弟子壱番隊、お供をせよ」
大将閣下が命じた。
「任せろ!」
がしょーん! 甲冑姿の次男立ち上がる。たった1人の近衛兵である。
頭からつま先まできっちり覆われた全身ヨロイは、ハイエルフ歩兵とくらべ、圧倒的に重装である。
手には身の丈ほどもある、オレンジの金属杖。
その金棒、ずんと地面に突き立てて、言うた。
「じじ上の『不壊の金棒(ふえのかなぼう)』! これさえあれば、百人力(ひゃくにんりき)よ」
「壱番隊、お供了解」
ずしーんずしーん。巨人の弟子8人、前に出る。
こちらは鍛冶用のごっついエプロンに、金属のすね当て。
4人で1本の巨大な鎖を持っておる。8人なので、巨大鎖は2本である。
・・・え? なんで鎖なんぞ持っとるのかって? うむ。それは、すぐにわかる話ですぞ。
「掃き掃除(はきそうじ)じゃ!」
鬼神。
うれしそうに怒鳴る。
「陣形を崩すなよ。私についてこい!」
「おう」「了解」
鬼神。スッタラスッタラ走り始める。
「父上速すぎだ! ついて行けん」
言うた本人が陣形崩してどうする。
鬼神減速。スタスタ歩いて前進。
甲冑の次男従う。
お弟子壱番隊、4人ずつ左右に分かれて従う。巨大鎖、地面すれすれにダラ~ンとして。
その隊列は、たった10人でおよそ50間をカバーする!
正面から見た図にすれば──
弟□弟□弟□弟□鬼□弟□弟□弟□弟
子∞子∞子∞子□神□子∞子∞子∞子
──こうである!(□はなんもないとこです。次男は鬼神の後ろで、正面からは見えませぬ。)
なんじゃこれは。と、思うたんであろう。
ハイエルフ歩兵の足並みに、迷いが出る。
鬼神は迷わず突っ込んでゆく。
10人 vs 2千人、戦闘開始!
「わっはっは! そうれ、捕まえたぞう!」
鬼神。
ハイエルフをわっしと掴む。片手でぶん投げる!
宙を飛んだハイエルフ、味方にぶつかり、5人6人巻き添えにして気絶!
「名付けて、エルフ投げじゃ!」ひどい名前のわざである。
「うおお!」
次男。
鬼神の横に現れて、オレンジ色の金棒を回す!
右の肩から振り下ろしては、ハイエルフの盾をへこませる。
左の脇からカチ上げては、ハイエルフの小剣を弾き飛ばし、そのまま右腕ぶん殴る。
武器なくし、腕を折られたハイエルフ、苦痛に叫んで後退する!
「・・・。」
お弟子壱番隊。
なんも言わず、ただ、歩く。そのつま先、ハイエルフを蹴っ飛ばす。空高々と!
ダラ~ンと垂らした巨大鎖、ハイエルフを薙ぎ倒す!
「ぐええ」「なんで鎖ぐええ」「なんとでっかい鎖ぐええ」「こんな戦術ぐええ」「危なぐええ」
間隔5間、きっちり5人、逃さず倒す!
そう! 巨大な鎖、このための武器であった!
ダラ~ンと垂らして歩くだけで、一網打尽(いちもうだじん)!
漁師が網打つごとし! あわれハイエルフ、小魚のごとし!
敵中央、あっちゅう間に、ガタ崩れ!
「うわあ」「うわあ」「腕が折れた」「足が折れた」「どうすれば」「重いえ。どいて」「お母ちゃーん」
「わっはっは!」
鬼神、六腕それぞれにハイエルフをふん捕まえ(ふんづかまえ)、6方向に放り投げる。
宙飛んだ6人、それぞれ6人を巻き添えにしてダウン! 敵の穴、さらに広がる!
「歩兵なんぞ、何万出したって相手にならんぞう! 死にたくなければ、散れよ! 逃げよ!」
ハイエルフども、「うわあ」と逃げてゆく。
「一気に刈り取るぞ! お弟子隊は、左へゆけ。1人残らず、刈り倒してしまえ!」
「進行方向左、了解」
お弟子壱番隊の8人、ハイエルフを蹴散らし、薙ぎ倒しつつ、ずしーんずしーんと左へゆく。
「息子よ、我らはこっちだ! 遅れるな!」
「お、おう」
鬼神、次男を引き連れ、右へ!
ハイエルフを、文字通りに掴んでは投げ、掴んでは投げ。
もんのすごい速度で、敵陣を食い破ってゆく。
勇敢にも、剣突き出してくるハイエルフも居った。が、鬼神の着とる国王の服、まったく剣を通しゃせぬ。どころか、トゲで剣をからめ捕り、へし折りよる。ソードブレイカー・国王の服! で、仰天するハイエルフを捕まえて、エルフ投げ。
じつにひどい。
次男を囲もうとするハイエルフも居った。与し易し(くみしやすし)ということであろう。
だが当然、鬼神の怒りを買うことになる。
「こら!」
鬼神、息子を狙う敵には手加減なし。こぶしでぶん殴る。もんのすごい音がした。岩が砕けるような音である。
「うわあ」「うわあ」「強すぎる」「もうだめえ」「死ぬるう」
「踏み止まれ!」
必死に旗を振って叫ぶ旗手(きしゅ)にも、エルフ投げ。旗倒れる。
周囲のハイエルフがあわてて旗を立て直すも、エルフ投げ。旗倒れる。
「無理やえぇ・・・!」ハイエルフ泣きながら逃げてった。
あわれハイエルフ歩兵。
初めから騎兵・魔術兵・弓兵、全種連動してくれておれば、こんなボロ負けはせんかったのに。
だがそれは、岡目八目(おかめはちもく)というもの。
指揮官の声もなく(エルフ投げでやられた)、旗もなく(エルフ投げでやられた)、兵士は薙ぎ倒されてゆく。
10分が過ぎた。
「はぁはぁ」
次男、息切れしとる。
無理もない。甲冑着けて戦場走っての10分である。
むしろよう戦った。途中からは足払いでガンガン敵を倒したし。ハイエルフ歩兵の装備は足元が弱いと、戦いの中で気付いたんである。立派な戦士っぷりである。
鬼神。密かに満足しつつ、次男をかばって中央にもどる。
お弟子壱番隊も、こちらの様子が見えたんであろう。やはり中央へもどってくる。
「もうよかろう。引き揚げだ! お弟子さんよ、鎖を1本貸してくれい」
「どうぞ」
鬼神は巨大な鎖を両手で掴み、ぶん回した。
ごう、ごう、ごおお。
台風のような音を立てて鎖が回る。
「当たると死ぬぞう! ほうれ、下がれ、下がれい」
当たれば死ぬっちゅうのは、言われんでもわかる。
「ひええ」「お助けえ」「もういややえ」「死にとうない」
ハイエルフ、もはや誰も鬼神に近付かぬ。
敵本陣にもその雰囲気、伝わったか。ホラ貝、鳴り響く。
ぶおん、ぶおん、ぶお~ん・・・。
「わあい、退却!」「たいきゃくやあ」「退却う」「やったあ、助かったあ」
ハイエルフ歩兵、大喜びで逃げてゆく。
2軍団2千人、潰走(かいそう)である。
10人 vs 2千人、戦闘終了。10人の勝ちであった!
◆ 6、巨人の王 vs 騎兵隊 ◆
「わかっておったことではあるが、ちと、かわいそうだったのう」
「なにが、かわいそうだ! はぁはぁ」
自陣に引き揚げた鬼神。微妙な表情。
かぶとを脱いだ次男、汗だくで反論する。
敵を指差す。
「父上が居らなんだら、俺らが、ああなっとった。はぁはぁ」
眼下、くぼみの地。
うめく敵歩兵、おそらく、1千人近く。
「もちろん、あんなことにはせぬ。だが、なあ・・・」
「父上は神じゃからな」たこを操縦しつつ、三男。「不公平ではある」
「ふこうへいだと?」と次男。
「あっちの女神さまは、手控えておいでじゃもの」
三男は空を指した。
ちょうど、お昼である。明るく輝く太陽は、空の真ん中に達しておった。
昼飯は戦場で食うた。
目がひとつしかない母の料理。お弟子隊が運んでくれた。
肉たっぷり、野菜どっさり、乳と卵とろーりのスープである。鬼のおやつ。喉も潤せるし消化もいいので、ちょうどいい。
敵軍も、煮炊きを始めたようである。
ハイエルフども、ずーっと向こうのキャンプで煮炊きをし、同時に、こっちに近い側では荷馬車で忙しく活動しておる。
なんで荷馬車か? 負傷兵を収容しとるんである。ハイエルフは太陽の女神のわざで骨折すら治しよる。だが、一度に1千人もの負傷者が出ると、さすがに手が回らんらしい。「痛い」「痛い」とうめく声が、こちらまで聞こえてくる。
そんな敵軍の様子。三男が、単眼鏡(たんがんきょう)で確認する。
「具の入っとらん汁に、固いパンを漬けて食うとる。兵士ども、不満げじゃ」
「そらそうだろうな」
鬼神はスープを呑む。こっちはお肉たっぷりである。
肉も野菜もいつもより小さめで、隠し包丁も入っとって、柔らかく呑み込みやすい。抜け目ない母のわざである。
「父上のおかげじゃな」三男、単眼鏡をしまう。
「なにがじゃ?」
「この前、父上、砦をぶっこわしたじゃろ? あんとき奪った物資は、食料と矢弾だったわけじゃ」
「補給面では有利」大将閣下がうなずく。「が、郷土防衛。後退はできぬ」
「逃げたら、わしら、行くとこないもんのう」
「そんなことにはせぬ」鬼神はスープをがぶ呑みした。「我らの家には、指一本触れさせぬ」
双方、昼食終わり。
また敵が2軍団を前に出してきた。
「こりん奴らだ」がしょーん。次男が立つ。
「待つんじゃ、兄者。敵騎兵に、動きありじゃ」
三男が、たこを操縦しながら言う。
敵の動きをもっと調べようとする。
「本陣が慌ただしいわい。もしかすると騎兵以外も、」だがそのとき。「──あっ、いかん!」
千里眼の、覗き窓に。
突然、敵魔術兵の顔が、大写しに!
バツン!
千里眼の覗き窓、真っ暗となる。
あわてて肉眼で見ると、遥か遠く、空に紫の光がパッと広がるのが見えた。
魔術兵の呪文の、爆発の光であろう。
「たこがやられた・・・」
たこは高空を飛んでおった。だが、魔術兵も空を飛び、接近したようである。
「じじ上に通信。『出撃準備をせよ』」と大将閣下。
「じじ上出撃準備、了解じゃ」
三男、制御箱のツマミをねじる。
「こちら箱ノ参号(はこのさんごう)。こちら箱ノ参号。箱先代聞こえるか。どうぞ」
<・・・こちら箱先代じゃ。聞こえるぞ。どうぞ>
巨人の王の声がした。
「大将命令。出撃準備せよ。どうぞ」
<こちら箱先代、出撃準備、了解じゃ。なんかあったのかどうぞ>
「全員無事じゃ。敵騎兵に動きあり。本陣あわただし。たこ撃墜され、詳細不明。箱ノ参号以上」
<あいわかった。いつでも出れるようにしておく。箱先代以上>
通信終わる。
「さあ行くぞ、父上!」次男いきり立つ。
「いや、弟よ。おまえは待機だ」大将が止めた。
「なんでだ!」
「先ほどの疲れがあろう」
「それは! ・・・そうだが」
「本陣の動き、気になる。例の武器で支援に備えよ。俺の分も頼む」
「例の武器だと! もう来るというのか?」
「うむ。奴ら、食料も逼迫(ひっぱく)しておる。決戦と見た」
「わかった。不満だが、兄者が大将だ。従うぞ」
次男はがしょーんがしょーんと歩いて武具入れの箱に取りついた。
それを見ながら、鬼神。「例の武器?」
「飛び道具だ。レースのときに使うた──」
「敵が来るぞ!」三男が叫ぶ。
「父上、出撃されよ」
「おう。了解じゃ」
「お弟子隊弐番参番! 鎖のつばさとなれ」
「弐番了解」「参番了解」
鬼神と巨人の弟子2隊、前に出る。合わせて17人である。
対し、敵2千人。明らかに質が下がった。金属ヨロイを着けとらん。盾もあったりなかったりする。
17人 vs 2千人、戦闘開始!
敵、やる気なし! いきなり士気崩壊!
17人 vs 2千人、戦闘終了。鬼神と巨人の弟子16人の勝ちである!
・・・では、あったのだが。
戦っとる鬼神たちを大きく迂回して、敵の騎兵が本陣に突っ込んできた。
「騎兵が来るぅ!」三男びびる。「ひゃ、百騎! いや2百騎は居るぞ!」
正しくは80騎ほどであった。びびっとると敵が多く見えるんである。
大将閣下はびびらぬ。
「じじ上に通信開け。俺が話す」
「りょ、了解。こちら箱ノ参号。こちら箱ノ参号。どうぞ」
<こちら箱先代。どうぞ>
「代わる。──じじ上。こちら大将。騎兵が突っ込んでくる。出撃せよ。どうぞ」
<出撃了解じゃ。いきなりやるのか? どうぞ>
「いや。攻撃はこちらで指示する。通信を開いたまま移動せよ。どうぞ」
<攻撃はまだ。そちらの指示を待つ。通信を開いたまま移動。了解じゃ。どうぞ>
「よろしい。このまま通信を維持」
ゆらーり。地面が揺れた。
振り向くと、工房のお山の向こう。
雲つくような巨人が歩いてくる。
巨人の王である。
その姿が見える。
その足音が聞こえる。
その踏みしめる地面の揺れが伝わってくる。
じつに心強い増援であった。
前方から迫る騎兵のひづめの轟き(とどろき)も、軽くなったように感じられた。
大将、じーっと機をうかがう。
戦場の鬼神が騎兵に気付いた。こちらを振り向いてきた。巨人の王にも気付いたようで、大きくうなずく。
「よし! いまだ、じじ上。攻撃せよ!」
<攻撃了解>
巨人の王 vs 騎兵隊、戦闘開始!
どっしーーーん!!!
巨人の王、足踏み。大地震! 長男次男跳ね上がり、三男すっ転び、スープのお鍋はひっくり返る!
戦場、大混乱!
あわれ馬ども。突撃中に地面が上下左右に移動してはたまらぬ。足折れつんのめり、乗り手を投げ出して大転倒! 全滅!
巨人の王 vs 騎兵隊、戦闘終了! 巨人の王の勝ちである!
◆ 7、鬼神、撃たれる ◆
「義父上め。力を入れすぎじゃ」
もんのすごい揺れに襲われながら、鬼神はハイエルフを3人掴んで立っておった。
倒れはせぬ。が、地面があんまり上下に激しく波打つので、さすがの鬼神も戦闘ができぬ。巨人の弟子どもですら、上下にぽんぽん弾んでおる。巨人の王がぶっ倒れたとき以来の激震である。
「工房は大丈夫だろうな」
気になる鬼神。ついつい敵に背中を向けてしまう。
うかつであった。敵軍には、地震に影響されぬ部隊があるのだ。それを、完全に失念しておったんである。
「撃てえ!」「魔弾!」「魔弾!」「魔弾!」「魔弾!」
鬼神 vs 魔術兵、戦闘開始! 魔術兵の不意打ち!
「ぬ?」
紫に輝く光の弾、ワアッと視界を埋めつくす!
鬼神に、『魔弾』の集中砲火!
鬼神めった打ち!
顔面に! あごに! 胸に! 腹に!
ボカンボカンボカンボカン! 紫の極光(きょっこう)、炸裂!
「むっほ」
赤くトゲトゲしき姿、紫の爆発に呑み込まれ・・・、
光の中から、よろよろと現れ・・・、
ばたり!
あおむけにぶっ倒れた!!!
「神!」「神!?」巨人の弟子ども、あわてる。
まさか鬼神がやられるとは思っとらんから、距離がある! どうにも間に合わん!
「仕留めたえ!」「やった!」「倒したあ!」「歩兵、とどめ!」「討ち取れえ」「わー」「わー」「わー」
ハイエルフ、わーわー言いながら、鬼神に迫る!
鬼神あやうし!
そこに今度は、巨人軍のほうから、びゅーんと風音掻き立てて、白い弾が飛んできた。
地面に落ちた弾、爆裂!
ぼっふぁーーーん!!!
もんのすごい音。
白煙、もうもうと立ち昇る。
「げっほ」「うえっほ」「げほげほ、熱いえ」「目が」「喉が」「鼻があ」
煙はやけどするほど熱く、吸い込むと息ができなくなる。目にもしみる。
ハイエルフ歩兵、咳き込んでよろめき、混乱する。
ぴゅーんと風音掻き立てて、もひとつ白い弾が飛んできた。
魔術兵に直撃! 爆裂!
ぼっふぁーーーん!!!
「ぐっは」魔術兵墜落!
周囲の魔術兵も目をやられ、咳き込み、呪文の詠唱ができんようになる。
<父上! 無事か? へんじをせよ!>
上空から舞い降りてきた、たこ予備機。
白い煙をものともせず(生きものじゃないからのう)、鬼神が倒れたあたりに突っ込み、三男の声を届けてくる。
<父上! へんじをせよ! へんじできんなら、兄者が突っ込む>
「げほげほ」鬼神の声がした。「私は、げほげほ、大丈夫だ」
白煙の中から、赤くトゲトゲしき巨体、ずるずる這い出してきた。
やけどしそうな白煙も、鬼神にはなんてことはない。ちょっと咳き込んだだけ。すぐ回復する。
「やれ助かった。これはあれか。レースのときの」
<そうじゃ。煙幕(えんまく)ということじゃ。こっちも危ないで、もう下がるぞ。がんばれ>
空飛ぶ台でレースをしたとき、三男が打ち上げた(失敗して手元で爆発したが)、あの煙玉。
あれを撃ち込み、煙幕を張って、時間を稼いでくれたわけである。
鬼神は立ち上がり、自陣を見やった。
長男と次男が、大きな弓をかざしておる。
ちょっと変な弓である。弦に、弾を載せるための、かごがついとる。
矢ではなく弾を飛ばす弓──弾弓(だんきゅう)であった。
「なるほどのう。あれが『例の武器』か。
──にしても、油断したわ。仲間ごと撃つとはな」
さっき、鬼神は3人の歩兵を掴んでおった。その3人を巻き添えに攻撃されたんである。
鬼神、魔術兵どもに呼びかけた。
「やるのう! すごいわざだ。ドラゴンとの戦いを思い出したぞ」
「え?」「え、ドラゴン?」「え? 無傷」「ま、魔弾、集中したに・・・」「無傷やと!?」
「さて、お返しだ」
鬼神。
倒れとる兵士から、盾をひっぺがす。
脇に抱えて、投げる! 円盤投げ!
くるくると飛んでった盾、魔術兵どものど真ん中へ! 魔術兵あわてる! 1人が喰らって墜落!
「あわわ」「なんという怪力」「危なかったえ」「次弾用意! 次弾用・・・ぐえっ」
命令を飛ばそうとした魔術隊長、盾喰らって墜落!
ほぼ同時に次の盾! さらに次の盾! さらに!
「隊長がやられぐえっ」「何枚投ぐえ」「6枚ずつ拾っぐえ」「あ、え? 土ぐえ」「ぐえ」
なんと、鬼神。
盾を、石を、土を。
六腕全部に拾っては、ばばばばばばっと投げ、また六腕全部に拾っては、ばばばばばばっと投げつける!
乱れ飛ぶ盾。石。当たれば骨折は免れぬ(まぬがれぬ)!
ぱっと広がるだけの土! 被害はないが、まぎらわしい!
「おまえらもやれ」
「了解」
巨人の弟子ども、やっぱりなんか掴んで投げつける。盾、かぶと、石、土、倒れとる馬まで!
魔術兵、直撃喰らって墜落。混乱して味方とぶつかり、そこに石を喰らって墜落。馬が飛んで来て避けようもなく墜落。
またたくまに、魔術兵35人は半壊。隊長を失って、命令もないまま、退却してゆく。
「まいったか!」
鬼神、勝ち誇る。
「名付けて、からすの乱れ投げ!」
これまさに、鬼神が若き日にやられた、あれの真似!
からすにちょっかい出して反撃され、うんこぶつけられた忌まわしき記憶、ついに有効活用したった!
鬼神 vs 魔術兵、戦闘終了! 鬼神の勝ち!
・・・では、あったが。
「やれ。危なかったわい。あの呪文。喰らったとたんに、力が抜けおった」
鬼神、汗を拭う。珍しい姿である。
しんどそうに歩き始める。
まさにそのとき。
するすると音もなく、矢、伸びてくる。
赤き服の衿元。暑がりの鬼神のために大きく開いて喉が見えておる。その喉に。
矢! 突き立たんとす!
鬼神、全然気付いとらん! あやうし!
「おっと、危ない」
鬼神は突然立ち止まった。
がきーん! 火花散らして矢が弾ける。
鬼神が急に立ち止まったため、矢は喉ではなく、肩に当たった。
赤くトゲトゲしき服。肩の部分は、特にごっつい。矢を弾いて、鬼神を守ってくれたのであった。
「この気配のない矢──」鬼神、直観す。「さては!?」
睨みつける(にらみつける)。
視線の先に居ったのは、緑の軍の弓兵隊。
じつはこやつら、魔術兵と同時に出撃してきたのが、地震ですっ転んでタイミングがずれたんである。
鬼神が睨むと、みな、すくみ上がる。
だが、1人だけ、不思議そうな目で見つめ返す奴が居った。
おや? なんで生きておられるのえ? ──と、その冷たい目が言うた。
「アロウ!」
そう。その、『なんでおまえ死んでないの?』とでもいうような目で鬼神を見てきおった、その男。
見間違いようもない。あの、氷天部族のアロウ殿であった。
「おまえ! よくも、その態度!」
鬼神激怒。さっそく殴りに行こうとする。
が、動きがにぶい。そこに。
「魔弾は、効いておる!」緑の弓兵隊長が号令した。「かまえ! つがえ!」
緑の軍の弓兵隊。一斉に矢を抜き、つがえ、鬼神を狙ってきた。
ふだんの鬼神なら、素早く動くか伏せるかした。だが、身体が重い。
仕方なし。敵の盾で身を守ろうと──いや小さすぎる! 鬼神が身を守るには、この盾では小さすぎる!
「撃てえ」
「む・・・!」
矢の雨、乱れ飛んで来る。
ぶわっさ!
がきんがきんがきん!
・・・火の雨散らして、矢、すべて弾けた。
空中にぴたりと止まった、赤くトゲトゲしき、巨大な台によって。
「相棒よ!」鬼神、びっくり。「来てしもうたのか!」
ぶわっさ。
鬼神台。
鬼神専用の空飛ぶ台。
空から駆けつけ、いまこのとき、鬼神を守る盾となった!
その姿!
なんと! まるで、かぶとがに!
赤くトゲトゲしき、ごっつい甲羅(こうら)! しっぽのごとき長いトゲ!
この甲羅でもって、鬼神を狙う緑の矢、すべて弾いてみせよった!
ヨロイ纏った(まとった)鬼神台!
アーマード鬼神台!
鬼神の危機に、馳せ参ず(はせさんず)!
「なんと、おい、かっこええのう、おまえ!」
鬼神感動。台に乗る。
ぶわっさ。台、即座に浮かび上がる。
「ようし。あの恩知らずめをぶっ飛ばしてやるわい。突っ込め!」
鬼神指差す。
鬼神台、その方向へ突っ込む!
「うわあ」「こっちに来るう」「空飛ぶ騎兵やえ」「お助けえ」
ハイエルフの弓兵ども、まさかの空飛ぶ鬼神におおあわて。迎撃どころの騒ぎでない。
だが1人だけ、例外が居った。
「私に任せよ。そなたらは、散れ」
「隊長」「隊長」「アロウ殿」
氷天部族のアロウ殿。
もはや疑いようもなし。あわや鬼神の喉に突き立とうかという、あの矢のぬしは、アロウ殿であったのだ。
その必殺の弓、ふたたび、鬼神に向ける。
が。
「なんと!?」「盾?」「4枚盾!?」
そう。
鬼神。ちゃっかり、盾を拾って握っておった。
それをがばっと広げてかまえる。図にするならば──
盾□盾
□鬼□
盾神盾
■台■
──こうである!(■は鬼神台のボディです。)
「ひええ」「人外」「神わざなり」「空飛ぶ盾騎兵」「そんなあほな」
アロウ殿、無表情。
うっすら翳った(かげった)目で鬼神をぼーっと見る。弓をいっぱいに引く。
するする・・・!
やはり、その矢、いつ放たれたのかわからぬ。
気付いたときには宙にあり、かと思うと鬼神の眼前へ!
「甘いわ」
鬼神、冷笑。盾で受ける。
がきん! 矢、弾け飛ぶ。鬼神無傷。
「必殺の矢、やぶったり!」
じつは、アロウ殿のわざ。
いつ撃ったかわからん気配のなさに加え、相手の動き始めを撃つというところに強みがあった。
相手が歩き始める、その瞬間。
足の浮く瞬間に、ぴたりと急所を撃ち抜くわけである。
だがアーマード鬼神台に乗った鬼神に、『足の浮く瞬間』なんぞない。
まさに一心同体の、防御のわざであった!
「伏せ!」
アロウ殿、自分も素早く伏せながら命令。
「恩知らずのアロウよ!」鬼神の声、轟く。「鬼どもの怒り、思い知れ!」
そして鬼神、ぐわっと横に倒れた。鬼神台、ひっくり返る!
鬼神、逆さまになる!
□■台■□
□□神□□
□盾鬼盾□
盾□□□盾
こうである!
「うわあ!」「さかさま鬼!」「ありえぬ!」「非現実!」「女神さまあ!」
「──ゆくぞ相棒。『力』のルーン!」
鬼神台、突如、猛烈な加速!
鬼神の『力』のルーンにより、矢よりも速く、ぶっ飛んで来る!
逆さまに台からぶら下がったまま、4張りの盾、振るう!
伏せた弓兵を、地面ごと! どっかんと殴って、すぽーんと空へカチ上げる!
どっかんすぽーん、どっかんすぽーん、どっかんすぽーん!
伏せても意味なかった! 『力』のルーンに敵う(かなう)ものなし!
畑耕すがごとく、地面めくっての、無双突撃!
「名付けて、たがやしチャージ!」
ばかなことを叫びながら鬼神飛び抜ける。
後には、高々と舞い上げられるハイエルフどもの姿。
「うわあ」「ぬうわあ」「うぐわあー」
アロウ殿も、どっかんすぽーん! 空高く舞い上げられた。
背の高さより高く舞い上がり、ぐるぐる回って地面に落ちる。
あわれ氷天部族のハイエルフ、あちらは腕の骨を折り、こちらは足の骨を折り・・・
「我が『影の矢』、一度ならず・・・二度までも・・・」
アロウ殿もまた、うめき、力尽き、ぶっ倒れた。
「勝ったな、相棒!」
ぶわっさ! ぶわっさ!
よろこびに満ちたアーマード鬼神台のはばたきの音とともに、鬼神、空を飛ぶ。
「どれ、よっこいしょ」
身体を揺らし、グルンと回って、元の姿勢に。
もはや、誰も撃っては来ぬ。鬼神、盾を下げ、悠然と飛ぶ──
□□鬼□□
盾盾神盾盾
□■台■□
──こうである!
鬼神 vs アロウ殿、戦闘終了。鬼神の勝ちであった。