六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

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くぼみの地の戦い(2) 鬼神、撃たれる

◆ 5、鬼神 vs 歩兵軍団 ◆

 

「・・・で、アロウ殿は見つかったか?」

 腕組みした鬼神が訊いた。

「だめじゃ」

 三男が、制御箱のレバーをがちゃがちゃやりながら答える。

 『たこ』を操縦しとるんである。

 たこ。8本足の竹トンボ。空飛ぶからくり千里眼。いまは高空にあり、敵陣全体を見下ろしておる。

「魔術師がうようよ飛んどるで、危のうて(あぶのうて)、近づけん」

「そうか」

「わし、アロウ殿の顔覚えとらんし、見つけるのは無理かもわからんわ」

「おまえは小さかったからな」鬼神はなつかしんだ。「しし車に潜り込んで、寝ておったのう」

 

 アロウ殿。ハイエルフの探検家。

 巨人の国に迷い込んで来た彼の一隊を、鬼神は気に入って、歓迎してやった。

 次男も三男もまだ小さく、ばかなことをやった。鬼神の楽しい思い出である。

 そのアロウ殿が、緑の魔術の国の弓兵隊に混じっておる。

 なんでじゃ?

 それはわからぬ。

 巨人の国はみーんなでっかくごっつく強い男ばかり。密偵とか、できん。

 わからぬまんま、会戦とあいなった。

 

 ときは朝。

 ところはくぼみの地。

 こちらは巨人軍。37人。規模としては、軍というより『隊』レベル。

 あちらは『緑の魔術の国』の軍。兵数なんと、1万以上。

 

 緑の軍、まずは、歩兵10軍団から2軍団、前へ出してきた。

 

「端から端まで、エルフでいっぱいじゃ・・・」三男びびる。

 壮観であった。

 2軍団で2千人。ワラワラワラワラ、エルフまみれ。

「5町(ちょう)ほどか。幅は」長男が見立てた。

「うん」三男うなずく。「間隔は1間(けん)ぐらいかのう。300人っちゅう計算じゃな」

 かしこい2人。敵の行列をぱっと割り出す。

「300行、7列か。薄いな。装備は整っとるが」

 敵、2軍団。

 全員が、小剣(しょうけん)とバックラー、かぶと、胸当て、こて装備であった。

 小剣は肘から指先ぐらいの長さの剣。リーチはないが乱戦向きである。

 バックラーは金属の丸い盾。これも乱戦向き。

 行進する姿は、まるで黄金色の波のよう。歩くたびに、かぶとが黄金に煌めく(きらめく)。

「綺麗なかぶとじゃのう。お日さん色じゃ。青銅製じゃな」

「歩兵だけか・・・」

 騎兵は80騎ほど居るが、動く気配なし。

 魔術兵は30人ほどで、本陣上空をぐるぐる飛んどるだけ。

「空飛ぶ台での奇襲を恐れとるんじゃないか? 4台しかないとは知らんのじゃろ」

「歩兵だけで楽勝、との判断かも知れん」

 兄弟の話を聞いとった鬼神。

 あきれて首を振った。

「よくまあ、1万も揃えたもんだのう」

「借金」

「しゃっきん? 大将閣下よ、それはなんじゃ?」

 

 『大将閣下』とは、長男のことである。鬼神が任命した。

 これが当たりであった。長男は読書家で、ハイエルフの戦史なども読んでおる。しかも、かしこかった。

 

「長老会議が各部族から金を借り、兵と食料を贖う(あがなう)のだ。・・・と、母上が言うとった」

「人に借りた金で戦う、っちゅうわけじゃ」三男が噛み砕いた。

「返すアテはあるんか?」

「わしらから宝をぶんどる気じゃろ」

「然様(さよう)。歩兵1万というて、その大半、略奪のための日雇い人夫に過ぎぬ」

「わしらがどんだけ宝を持っとるか、ずーっと調べとったわけじゃ。口で『友好』と言いながらのう」

「くずめが!」甲冑(かっちゅう)姿の次男がキレた。

「まったくじゃ!」鬼神もキレた。

 

 ぶお~~~ん。

 

 ホラ貝の音、鳴り響く。

 ハイエルフ歩兵、2軍団。前進開始。

 先頭に、大きな軍旗、ひるがえる。紋章は円(太陽)と大樹である。

 ずん、ずん、ずん。

 2千人が綺麗に揃っての地響きは、巨人の足音のごとし。

 

「ちちうえぇ」三男びびる。

「よし、出るか」

 鬼神、六腕の腕組み、ほどく。

 いつもの国王の服のまんま。武器もなし。

 ただ、額には鉢金(はちがね)をしっかり巻いておる。

 おっそろしい目のマークが刻まれた、まばゆく白く輝く鉢金である。

 これ、目がひとつしかない妻が造ってくれたもの。「私の夫を殺すことは許さぬ」との気迫がこもっておる。

 鉢金を留めるのは墨(すみ)色の布。後頭部で結ばれ、動くとかっこよくひらめく。

「父上出陣。近衛(このえ)、お弟子壱番隊、お供をせよ」

 大将閣下が命じた。

「任せろ!」

 がしょーん! 甲冑姿の次男立ち上がる。たった1人の近衛兵である。

 頭からつま先まできっちり覆われた全身ヨロイは、ハイエルフ歩兵とくらべ、圧倒的に重装である。

 手には身の丈ほどもある、オレンジの金属杖。

 その金棒、ずんと地面に突き立てて、言うた。

「じじ上の『不壊の金棒(ふえのかなぼう)』! これさえあれば、百人力(ひゃくにんりき)よ」

「壱番隊、お供了解」

 ずしーんずしーん。巨人の弟子8人、前に出る。

 こちらは鍛冶用のごっついエプロンに、金属のすね当て。

 4人で1本の巨大な鎖を持っておる。8人なので、巨大鎖は2本である。

 ・・・え? なんで鎖なんぞ持っとるのかって? うむ。それは、すぐにわかる話ですぞ。

 

「掃き掃除(はきそうじ)じゃ!」

 鬼神。

 うれしそうに怒鳴る。

「陣形を崩すなよ。私についてこい!」

「おう」「了解」

 鬼神。スッタラスッタラ走り始める。

「父上速すぎだ! ついて行けん」

 言うた本人が陣形崩してどうする。

 鬼神減速。スタスタ歩いて前進。

 甲冑の次男従う。

 お弟子壱番隊、4人ずつ左右に分かれて従う。巨大鎖、地面すれすれにダラ~ンとして。

 その隊列は、たった10人でおよそ50間をカバーする!

 正面から見た図にすれば──

 

 弟□弟□弟□弟□鬼□弟□弟□弟□弟

 子∞子∞子∞子□神□子∞子∞子∞子

 

 ──こうである!(□はなんもないとこです。次男は鬼神の後ろで、正面からは見えませぬ。)

 

 なんじゃこれは。と、思うたんであろう。

 ハイエルフ歩兵の足並みに、迷いが出る。

 鬼神は迷わず突っ込んでゆく。

 

 10人 vs 2千人、戦闘開始!

 

「わっはっは! そうれ、捕まえたぞう!」

 鬼神。

 ハイエルフをわっしと掴む。片手でぶん投げる!

 宙を飛んだハイエルフ、味方にぶつかり、5人6人巻き添えにして気絶!

「名付けて、エルフ投げじゃ!」ひどい名前のわざである。

「うおお!」

 次男。

 鬼神の横に現れて、オレンジ色の金棒を回す!

 右の肩から振り下ろしては、ハイエルフの盾をへこませる。

 左の脇からカチ上げては、ハイエルフの小剣を弾き飛ばし、そのまま右腕ぶん殴る。

 武器なくし、腕を折られたハイエルフ、苦痛に叫んで後退する!

「・・・。」

 お弟子壱番隊。

 なんも言わず、ただ、歩く。そのつま先、ハイエルフを蹴っ飛ばす。空高々と!

 ダラ~ンと垂らした巨大鎖、ハイエルフを薙ぎ倒す!

「ぐええ」「なんで鎖ぐええ」「なんとでっかい鎖ぐええ」「こんな戦術ぐええ」「危なぐええ」

 間隔5間、きっちり5人、逃さず倒す!

 そう! 巨大な鎖、このための武器であった!

 ダラ~ンと垂らして歩くだけで、一網打尽(いちもうだじん)!

 漁師が網打つごとし! あわれハイエルフ、小魚のごとし!

 敵中央、あっちゅう間に、ガタ崩れ!

「うわあ」「うわあ」「腕が折れた」「足が折れた」「どうすれば」「重いえ。どいて」「お母ちゃーん」

「わっはっは!」

 鬼神、六腕それぞれにハイエルフをふん捕まえ(ふんづかまえ)、6方向に放り投げる。

 宙飛んだ6人、それぞれ6人を巻き添えにしてダウン! 敵の穴、さらに広がる!

「歩兵なんぞ、何万出したって相手にならんぞう! 死にたくなければ、散れよ! 逃げよ!」

 ハイエルフども、「うわあ」と逃げてゆく。

「一気に刈り取るぞ! お弟子隊は、左へゆけ。1人残らず、刈り倒してしまえ!」

「進行方向左、了解」

 お弟子壱番隊の8人、ハイエルフを蹴散らし、薙ぎ倒しつつ、ずしーんずしーんと左へゆく。

「息子よ、我らはこっちだ! 遅れるな!」

「お、おう」

 鬼神、次男を引き連れ、右へ!

 ハイエルフを、文字通りに掴んでは投げ、掴んでは投げ。

 もんのすごい速度で、敵陣を食い破ってゆく。

 勇敢にも、剣突き出してくるハイエルフも居った。が、鬼神の着とる国王の服、まったく剣を通しゃせぬ。どころか、トゲで剣をからめ捕り、へし折りよる。ソードブレイカー・国王の服! で、仰天するハイエルフを捕まえて、エルフ投げ。

 じつにひどい。

 次男を囲もうとするハイエルフも居った。与し易し(くみしやすし)ということであろう。

 だが当然、鬼神の怒りを買うことになる。

「こら!」

 鬼神、息子を狙う敵には手加減なし。こぶしでぶん殴る。もんのすごい音がした。岩が砕けるような音である。

「うわあ」「うわあ」「強すぎる」「もうだめえ」「死ぬるう」

「踏み止まれ!」

 必死に旗を振って叫ぶ旗手(きしゅ)にも、エルフ投げ。旗倒れる。

 周囲のハイエルフがあわてて旗を立て直すも、エルフ投げ。旗倒れる。

「無理やえぇ・・・!」ハイエルフ泣きながら逃げてった。

 

 あわれハイエルフ歩兵。

 初めから騎兵・魔術兵・弓兵、全種連動してくれておれば、こんなボロ負けはせんかったのに。

 だがそれは、岡目八目(おかめはちもく)というもの。

 指揮官の声もなく(エルフ投げでやられた)、旗もなく(エルフ投げでやられた)、兵士は薙ぎ倒されてゆく。

 

 10分が過ぎた。

 

「はぁはぁ」

 次男、息切れしとる。

 無理もない。甲冑着けて戦場走っての10分である。

 むしろよう戦った。途中からは足払いでガンガン敵を倒したし。ハイエルフ歩兵の装備は足元が弱いと、戦いの中で気付いたんである。立派な戦士っぷりである。

 鬼神。密かに満足しつつ、次男をかばって中央にもどる。

 お弟子壱番隊も、こちらの様子が見えたんであろう。やはり中央へもどってくる。

「もうよかろう。引き揚げだ! お弟子さんよ、鎖を1本貸してくれい」

「どうぞ」

 鬼神は巨大な鎖を両手で掴み、ぶん回した。

 ごう、ごう、ごおお。

 台風のような音を立てて鎖が回る。

「当たると死ぬぞう! ほうれ、下がれ、下がれい」

 当たれば死ぬっちゅうのは、言われんでもわかる。

「ひええ」「お助けえ」「もういややえ」「死にとうない」

 ハイエルフ、もはや誰も鬼神に近付かぬ。

 敵本陣にもその雰囲気、伝わったか。ホラ貝、鳴り響く。

 

 ぶおん、ぶおん、ぶお~ん・・・。

 

「わあい、退却!」「たいきゃくやあ」「退却う」「やったあ、助かったあ」

 ハイエルフ歩兵、大喜びで逃げてゆく。

 2軍団2千人、潰走(かいそう)である。

 

 10人 vs 2千人、戦闘終了。10人の勝ちであった!

 

◆ 6、巨人の王 vs 騎兵隊 ◆

 

「わかっておったことではあるが、ちと、かわいそうだったのう」

「なにが、かわいそうだ! はぁはぁ」

 自陣に引き揚げた鬼神。微妙な表情。

 かぶとを脱いだ次男、汗だくで反論する。

 敵を指差す。

「父上が居らなんだら、俺らが、ああなっとった。はぁはぁ」

 眼下、くぼみの地。

 うめく敵歩兵、おそらく、1千人近く。

「もちろん、あんなことにはせぬ。だが、なあ・・・」

「父上は神じゃからな」たこを操縦しつつ、三男。「不公平ではある」

「ふこうへいだと?」と次男。

「あっちの女神さまは、手控えておいでじゃもの」

 三男は空を指した。

 ちょうど、お昼である。明るく輝く太陽は、空の真ん中に達しておった。

 

 昼飯は戦場で食うた。

 目がひとつしかない母の料理。お弟子隊が運んでくれた。

 肉たっぷり、野菜どっさり、乳と卵とろーりのスープである。鬼のおやつ。喉も潤せるし消化もいいので、ちょうどいい。

 敵軍も、煮炊きを始めたようである。

 ハイエルフども、ずーっと向こうのキャンプで煮炊きをし、同時に、こっちに近い側では荷馬車で忙しく活動しておる。

 なんで荷馬車か? 負傷兵を収容しとるんである。ハイエルフは太陽の女神のわざで骨折すら治しよる。だが、一度に1千人もの負傷者が出ると、さすがに手が回らんらしい。「痛い」「痛い」とうめく声が、こちらまで聞こえてくる。

 そんな敵軍の様子。三男が、単眼鏡(たんがんきょう)で確認する。

「具の入っとらん汁に、固いパンを漬けて食うとる。兵士ども、不満げじゃ」

「そらそうだろうな」

 鬼神はスープを呑む。こっちはお肉たっぷりである。

 肉も野菜もいつもより小さめで、隠し包丁も入っとって、柔らかく呑み込みやすい。抜け目ない母のわざである。

「父上のおかげじゃな」三男、単眼鏡をしまう。

「なにがじゃ?」

「この前、父上、砦をぶっこわしたじゃろ? あんとき奪った物資は、食料と矢弾だったわけじゃ」

「補給面では有利」大将閣下がうなずく。「が、郷土防衛。後退はできぬ」

「逃げたら、わしら、行くとこないもんのう」

「そんなことにはせぬ」鬼神はスープをがぶ呑みした。「我らの家には、指一本触れさせぬ」

 

 双方、昼食終わり。

 また敵が2軍団を前に出してきた。

「こりん奴らだ」がしょーん。次男が立つ。

「待つんじゃ、兄者。敵騎兵に、動きありじゃ」

 三男が、たこを操縦しながら言う。

 敵の動きをもっと調べようとする。

「本陣が慌ただしいわい。もしかすると騎兵以外も、」だがそのとき。「──あっ、いかん!」

 千里眼の、覗き窓に。

 突然、敵魔術兵の顔が、大写しに!

 バツン!

 千里眼の覗き窓、真っ暗となる。

 あわてて肉眼で見ると、遥か遠く、空に紫の光がパッと広がるのが見えた。

 魔術兵の呪文の、爆発の光であろう。

「たこがやられた・・・」

 たこは高空を飛んでおった。だが、魔術兵も空を飛び、接近したようである。

「じじ上に通信。『出撃準備をせよ』」と大将閣下。

「じじ上出撃準備、了解じゃ」

 三男、制御箱のツマミをねじる。

「こちら箱ノ参号(はこのさんごう)。こちら箱ノ参号。箱先代聞こえるか。どうぞ」

<・・・こちら箱先代じゃ。聞こえるぞ。どうぞ>

 巨人の王の声がした。

「大将命令。出撃準備せよ。どうぞ」

<こちら箱先代、出撃準備、了解じゃ。なんかあったのかどうぞ>

「全員無事じゃ。敵騎兵に動きあり。本陣あわただし。たこ撃墜され、詳細不明。箱ノ参号以上」

<あいわかった。いつでも出れるようにしておく。箱先代以上>

 通信終わる。

「さあ行くぞ、父上!」次男いきり立つ。

「いや、弟よ。おまえは待機だ」大将が止めた。

「なんでだ!」

「先ほどの疲れがあろう」

「それは! ・・・そうだが」

「本陣の動き、気になる。例の武器で支援に備えよ。俺の分も頼む」

「例の武器だと! もう来るというのか?」

「うむ。奴ら、食料も逼迫(ひっぱく)しておる。決戦と見た」

「わかった。不満だが、兄者が大将だ。従うぞ」

 次男はがしょーんがしょーんと歩いて武具入れの箱に取りついた。

 それを見ながら、鬼神。「例の武器?」

「飛び道具だ。レースのときに使うた──」

「敵が来るぞ!」三男が叫ぶ。

「父上、出撃されよ」

「おう。了解じゃ」

「お弟子隊弐番参番! 鎖のつばさとなれ」

「弐番了解」「参番了解」

 鬼神と巨人の弟子2隊、前に出る。合わせて17人である。

 対し、敵2千人。明らかに質が下がった。金属ヨロイを着けとらん。盾もあったりなかったりする。

 

 17人 vs 2千人、戦闘開始!

 敵、やる気なし! いきなり士気崩壊!

 17人 vs 2千人、戦闘終了。鬼神と巨人の弟子16人の勝ちである!

 

 ・・・では、あったのだが。

 戦っとる鬼神たちを大きく迂回して、敵の騎兵が本陣に突っ込んできた。

「騎兵が来るぅ!」三男びびる。「ひゃ、百騎! いや2百騎は居るぞ!」

 正しくは80騎ほどであった。びびっとると敵が多く見えるんである。

 大将閣下はびびらぬ。

「じじ上に通信開け。俺が話す」

「りょ、了解。こちら箱ノ参号。こちら箱ノ参号。どうぞ」

<こちら箱先代。どうぞ>

「代わる。──じじ上。こちら大将。騎兵が突っ込んでくる。出撃せよ。どうぞ」

<出撃了解じゃ。いきなりやるのか? どうぞ>

「いや。攻撃はこちらで指示する。通信を開いたまま移動せよ。どうぞ」

<攻撃はまだ。そちらの指示を待つ。通信を開いたまま移動。了解じゃ。どうぞ>

「よろしい。このまま通信を維持」

 ゆらーり。地面が揺れた。

 振り向くと、工房のお山の向こう。

 雲つくような巨人が歩いてくる。

 巨人の王である。

 その姿が見える。

 その足音が聞こえる。

 その踏みしめる地面の揺れが伝わってくる。

 じつに心強い増援であった。

 前方から迫る騎兵のひづめの轟き(とどろき)も、軽くなったように感じられた。

 大将、じーっと機をうかがう。

 戦場の鬼神が騎兵に気付いた。こちらを振り向いてきた。巨人の王にも気付いたようで、大きくうなずく。

「よし! いまだ、じじ上。攻撃せよ!」

<攻撃了解>

 

 巨人の王 vs 騎兵隊、戦闘開始!

 

 どっしーーーん!!!

 巨人の王、足踏み。大地震! 長男次男跳ね上がり、三男すっ転び、スープのお鍋はひっくり返る!

 戦場、大混乱!

 あわれ馬ども。突撃中に地面が上下左右に移動してはたまらぬ。足折れつんのめり、乗り手を投げ出して大転倒! 全滅!

 

 巨人の王 vs 騎兵隊、戦闘終了! 巨人の王の勝ちである!

 

◆ 7、鬼神、撃たれる ◆

 

「義父上め。力を入れすぎじゃ」

 もんのすごい揺れに襲われながら、鬼神はハイエルフを3人掴んで立っておった。

 倒れはせぬ。が、地面があんまり上下に激しく波打つので、さすがの鬼神も戦闘ができぬ。巨人の弟子どもですら、上下にぽんぽん弾んでおる。巨人の王がぶっ倒れたとき以来の激震である。

「工房は大丈夫だろうな」

 気になる鬼神。ついつい敵に背中を向けてしまう。

 うかつであった。敵軍には、地震に影響されぬ部隊があるのだ。それを、完全に失念しておったんである。

「撃てえ!」「魔弾!」「魔弾!」「魔弾!」「魔弾!」

 

 鬼神 vs 魔術兵、戦闘開始! 魔術兵の不意打ち!

 

「ぬ?」

 紫に輝く光の弾、ワアッと視界を埋めつくす!

 鬼神に、『魔弾』の集中砲火!

 鬼神めった打ち!

 顔面に! あごに! 胸に! 腹に!

 ボカンボカンボカンボカン! 紫の極光(きょっこう)、炸裂!

「むっほ」

 赤くトゲトゲしき姿、紫の爆発に呑み込まれ・・・、

 光の中から、よろよろと現れ・・・、

 ばたり!

 あおむけにぶっ倒れた!!!

「神!」「神!?」巨人の弟子ども、あわてる。

 まさか鬼神がやられるとは思っとらんから、距離がある! どうにも間に合わん!

「仕留めたえ!」「やった!」「倒したあ!」「歩兵、とどめ!」「討ち取れえ」「わー」「わー」「わー」

 ハイエルフ、わーわー言いながら、鬼神に迫る!

 鬼神あやうし!

 そこに今度は、巨人軍のほうから、びゅーんと風音掻き立てて、白い弾が飛んできた。

 地面に落ちた弾、爆裂!

 

 ぼっふぁーーーん!!!

 

 もんのすごい音。

 白煙、もうもうと立ち昇る。

「げっほ」「うえっほ」「げほげほ、熱いえ」「目が」「喉が」「鼻があ」

 煙はやけどするほど熱く、吸い込むと息ができなくなる。目にもしみる。

 ハイエルフ歩兵、咳き込んでよろめき、混乱する。

 ぴゅーんと風音掻き立てて、もひとつ白い弾が飛んできた。

 魔術兵に直撃! 爆裂!

 ぼっふぁーーーん!!!

「ぐっは」魔術兵墜落!

 周囲の魔術兵も目をやられ、咳き込み、呪文の詠唱ができんようになる。

<父上! 無事か? へんじをせよ!>

 上空から舞い降りてきた、たこ予備機。

 白い煙をものともせず(生きものじゃないからのう)、鬼神が倒れたあたりに突っ込み、三男の声を届けてくる。

<父上! へんじをせよ! へんじできんなら、兄者が突っ込む>

「げほげほ」鬼神の声がした。「私は、げほげほ、大丈夫だ」

 白煙の中から、赤くトゲトゲしき巨体、ずるずる這い出してきた。

 やけどしそうな白煙も、鬼神にはなんてことはない。ちょっと咳き込んだだけ。すぐ回復する。

「やれ助かった。これはあれか。レースのときの」

<そうじゃ。煙幕(えんまく)ということじゃ。こっちも危ないで、もう下がるぞ。がんばれ>

 空飛ぶ台でレースをしたとき、三男が打ち上げた(失敗して手元で爆発したが)、あの煙玉。

 あれを撃ち込み、煙幕を張って、時間を稼いでくれたわけである。

 鬼神は立ち上がり、自陣を見やった。

 長男と次男が、大きな弓をかざしておる。

 ちょっと変な弓である。弦に、弾を載せるための、かごがついとる。

 矢ではなく弾を飛ばす弓──弾弓(だんきゅう)であった。

「なるほどのう。あれが『例の武器』か。

 ──にしても、油断したわ。仲間ごと撃つとはな」

 さっき、鬼神は3人の歩兵を掴んでおった。その3人を巻き添えに攻撃されたんである。

 鬼神、魔術兵どもに呼びかけた。

「やるのう! すごいわざだ。ドラゴンとの戦いを思い出したぞ」

「え?」「え、ドラゴン?」「え? 無傷」「ま、魔弾、集中したに・・・」「無傷やと!?」

「さて、お返しだ」

 鬼神。

 倒れとる兵士から、盾をひっぺがす。

 脇に抱えて、投げる! 円盤投げ!

 くるくると飛んでった盾、魔術兵どものど真ん中へ! 魔術兵あわてる! 1人が喰らって墜落!

「あわわ」「なんという怪力」「危なかったえ」「次弾用意! 次弾用・・・ぐえっ」

 命令を飛ばそうとした魔術隊長、盾喰らって墜落!

 ほぼ同時に次の盾! さらに次の盾! さらに!

「隊長がやられぐえっ」「何枚投ぐえ」「6枚ずつ拾っぐえ」「あ、え? 土ぐえ」「ぐえ」

 なんと、鬼神。

 盾を、石を、土を。

 六腕全部に拾っては、ばばばばばばっと投げ、また六腕全部に拾っては、ばばばばばばっと投げつける!

 乱れ飛ぶ盾。石。当たれば骨折は免れぬ(まぬがれぬ)!

 ぱっと広がるだけの土! 被害はないが、まぎらわしい!

「おまえらもやれ」

「了解」

 巨人の弟子ども、やっぱりなんか掴んで投げつける。盾、かぶと、石、土、倒れとる馬まで!

 魔術兵、直撃喰らって墜落。混乱して味方とぶつかり、そこに石を喰らって墜落。馬が飛んで来て避けようもなく墜落。

 またたくまに、魔術兵35人は半壊。隊長を失って、命令もないまま、退却してゆく。

「まいったか!」

 鬼神、勝ち誇る。

「名付けて、からすの乱れ投げ!」

 これまさに、鬼神が若き日にやられた、あれの真似!

 からすにちょっかい出して反撃され、うんこぶつけられた忌まわしき記憶、ついに有効活用したった!

 

 鬼神 vs 魔術兵、戦闘終了! 鬼神の勝ち!

 ・・・では、あったが。

 

「やれ。危なかったわい。あの呪文。喰らったとたんに、力が抜けおった」

 鬼神、汗を拭う。珍しい姿である。

 しんどそうに歩き始める。

 まさにそのとき。

 するすると音もなく、矢、伸びてくる。

 赤き服の衿元。暑がりの鬼神のために大きく開いて喉が見えておる。その喉に。

 矢! 突き立たんとす!

 鬼神、全然気付いとらん! あやうし!

「おっと、危ない」

 鬼神は突然立ち止まった。

 がきーん! 火花散らして矢が弾ける。

 鬼神が急に立ち止まったため、矢は喉ではなく、肩に当たった。

 赤くトゲトゲしき服。肩の部分は、特にごっつい。矢を弾いて、鬼神を守ってくれたのであった。

「この気配のない矢──」鬼神、直観す。「さては!?」

 睨みつける(にらみつける)。

 視線の先に居ったのは、緑の軍の弓兵隊。

 じつはこやつら、魔術兵と同時に出撃してきたのが、地震ですっ転んでタイミングがずれたんである。

 鬼神が睨むと、みな、すくみ上がる。

 だが、1人だけ、不思議そうな目で見つめ返す奴が居った。

 おや? なんで生きておられるのえ? ──と、その冷たい目が言うた。

「アロウ!」

 そう。その、『なんでおまえ死んでないの?』とでもいうような目で鬼神を見てきおった、その男。

 見間違いようもない。あの、氷天部族のアロウ殿であった。

「おまえ! よくも、その態度!」

 鬼神激怒。さっそく殴りに行こうとする。

 が、動きがにぶい。そこに。

「魔弾は、効いておる!」緑の弓兵隊長が号令した。「かまえ! つがえ!」

 緑の軍の弓兵隊。一斉に矢を抜き、つがえ、鬼神を狙ってきた。

 ふだんの鬼神なら、素早く動くか伏せるかした。だが、身体が重い。

 仕方なし。敵の盾で身を守ろうと──いや小さすぎる! 鬼神が身を守るには、この盾では小さすぎる!

「撃てえ」

「む・・・!」

 矢の雨、乱れ飛んで来る。

 ぶわっさ!

 がきんがきんがきん!

 

 ・・・火の雨散らして、矢、すべて弾けた。

 空中にぴたりと止まった、赤くトゲトゲしき、巨大な台によって。

 

「相棒よ!」鬼神、びっくり。「来てしもうたのか!」

 ぶわっさ。

 鬼神台。

 鬼神専用の空飛ぶ台。

 空から駆けつけ、いまこのとき、鬼神を守る盾となった!

 その姿!

 なんと! まるで、かぶとがに!

 赤くトゲトゲしき、ごっつい甲羅(こうら)! しっぽのごとき長いトゲ!

 この甲羅でもって、鬼神を狙う緑の矢、すべて弾いてみせよった!

 ヨロイ纏った(まとった)鬼神台!

 アーマード鬼神台!

 鬼神の危機に、馳せ参ず(はせさんず)!

 

「なんと、おい、かっこええのう、おまえ!」

 鬼神感動。台に乗る。

 ぶわっさ。台、即座に浮かび上がる。

「ようし。あの恩知らずめをぶっ飛ばしてやるわい。突っ込め!」

 鬼神指差す。

 鬼神台、その方向へ突っ込む!

「うわあ」「こっちに来るう」「空飛ぶ騎兵やえ」「お助けえ」

 ハイエルフの弓兵ども、まさかの空飛ぶ鬼神におおあわて。迎撃どころの騒ぎでない。

 だが1人だけ、例外が居った。

「私に任せよ。そなたらは、散れ」

「隊長」「隊長」「アロウ殿」

 氷天部族のアロウ殿。

 もはや疑いようもなし。あわや鬼神の喉に突き立とうかという、あの矢のぬしは、アロウ殿であったのだ。

 その必殺の弓、ふたたび、鬼神に向ける。

 が。

「なんと!?」「盾?」「4枚盾!?」

 そう。

 鬼神。ちゃっかり、盾を拾って握っておった。

 それをがばっと広げてかまえる。図にするならば──

 

 盾□盾 

 □鬼□

 盾神盾 

 ■台■

 

 ──こうである!(■は鬼神台のボディです。)

「ひええ」「人外」「神わざなり」「空飛ぶ盾騎兵」「そんなあほな」

 アロウ殿、無表情。

 うっすら翳った(かげった)目で鬼神をぼーっと見る。弓をいっぱいに引く。

 するする・・・!

 やはり、その矢、いつ放たれたのかわからぬ。

 気付いたときには宙にあり、かと思うと鬼神の眼前へ!

「甘いわ」

 鬼神、冷笑。盾で受ける。

 がきん! 矢、弾け飛ぶ。鬼神無傷。

「必殺の矢、やぶったり!」

 

 じつは、アロウ殿のわざ。

 いつ撃ったかわからん気配のなさに加え、相手の動き始めを撃つというところに強みがあった。

 相手が歩き始める、その瞬間。

 足の浮く瞬間に、ぴたりと急所を撃ち抜くわけである。

 だがアーマード鬼神台に乗った鬼神に、『足の浮く瞬間』なんぞない。

 まさに一心同体の、防御のわざであった!

 

「伏せ!」

 アロウ殿、自分も素早く伏せながら命令。

「恩知らずのアロウよ!」鬼神の声、轟く。「鬼どもの怒り、思い知れ!」

 そして鬼神、ぐわっと横に倒れた。鬼神台、ひっくり返る!

 鬼神、逆さまになる!

 

 □■台■□

 □□神□□

 □盾鬼盾□

 盾□□□盾

 

 こうである!

「うわあ!」「さかさま鬼!」「ありえぬ!」「非現実!」「女神さまあ!」

「──ゆくぞ相棒。『力』のルーン!」

 鬼神台、突如、猛烈な加速!

 鬼神の『力』のルーンにより、矢よりも速く、ぶっ飛んで来る!

 逆さまに台からぶら下がったまま、4張りの盾、振るう!

 伏せた弓兵を、地面ごと! どっかんと殴って、すぽーんと空へカチ上げる!

 どっかんすぽーん、どっかんすぽーん、どっかんすぽーん!

 伏せても意味なかった! 『力』のルーンに敵う(かなう)ものなし!

 畑耕すがごとく、地面めくっての、無双突撃!

「名付けて、たがやしチャージ!」

 ばかなことを叫びながら鬼神飛び抜ける。

 後には、高々と舞い上げられるハイエルフどもの姿。

「うわあ」「ぬうわあ」「うぐわあー」

 アロウ殿も、どっかんすぽーん! 空高く舞い上げられた。

 背の高さより高く舞い上がり、ぐるぐる回って地面に落ちる。

 あわれ氷天部族のハイエルフ、あちらは腕の骨を折り、こちらは足の骨を折り・・・

「我が『影の矢』、一度ならず・・・二度までも・・・」

 アロウ殿もまた、うめき、力尽き、ぶっ倒れた。

 

「勝ったな、相棒!」

 ぶわっさ! ぶわっさ!

 よろこびに満ちたアーマード鬼神台のはばたきの音とともに、鬼神、空を飛ぶ。

「どれ、よっこいしょ」

 身体を揺らし、グルンと回って、元の姿勢に。

 もはや、誰も撃っては来ぬ。鬼神、盾を下げ、悠然と飛ぶ──

 

 □□鬼□□

 盾盾神盾盾

 □■台■□

 

 ──こうである!

 

 鬼神 vs アロウ殿、戦闘終了。鬼神の勝ちであった。

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