六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

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くぼみの地の戦い(3) アロウ殿、ばいしょうする

◆ 8、鬼神、捕虜をとる ◆

 

 戦場、『今日はもう終わり』との空気、流れる。

 敵。負傷した兵を回収してゆく。

 鬼神。地上に降りてきて、氷天の20人を睨みつける。

「父上! 無事か!」

 次男。

 お弟子隊を率いて、鬼神のところへ駆けつけてきた。

 心配するのも無理はない。鬼神は『魔弾』でめった撃ちにされ、フラフラのところを弓で狙撃されたんであるから。

 しかし、そこは鬼神である。

「大丈夫だ。けがひとつない。こやつらを連れて帰るから、手伝ってくれ」

「おう」

 氷天部族のハイエルフ20人を引っ捕らえ、捕虜とする。

 アーマード鬼神台に、アロウ殿と2人の仲間を乗せる。この3人は意識がないのである。

「揺らさぬようにお願いします」氷天の男が言うた。

「安心せよ。こやつは飛ぶのがうまいのだ。

 では頼むぞ、相棒」

 ぶわっさ。鬼神台は応えて、なめらかに浮かび上がり、工房へもどる。左右には巨人のお弟子がついてゆく。

 

 鬼神と次男は歩ける捕虜を引き連れて、ゆっくりと本陣にもどる。

「・・・空飛ぶ台、出てきてしもうたのう」と次男。

「うむ。あれは初めっから出る気でおったな」

「ヨロイ着とるものな」

 

 じつは、鬼神。

 『空飛ぶ台は戦闘に出さん』と、巨人の王に約束しとったんである。

 それは、エスロ博士のため。 

 博士が開発に関わった空飛ぶ台で、博士の祖国を攻撃してはいかん──という、巨人の王の心配り。

 鬼神はこの約束を破ってしまった形になる。

 

 その巨人の王が、めっちゃ恐い顔でこっちを睨んでおる。

「義父上」鬼神はあやまろうとしたが、

「後でじゃ」巨人の王は勝手に引き揚げてしもうた。

「じじ上、怒っとるのう」と次男。「また地震になるのう」

「うむ」

 本陣に着く。

 長男と三男が2人を出迎えた。

「父上! 一大戦果、お見事!」

 長男は堂々としておる。大将の風格である。

「やられたかと思うて、焦ったぞ・・・」

 三男はげっそりしとる。泣きそうである。

「わしゃ、心臓止まるかと思うたぞ。

 はあ。やれやれ。鬼神台にヨロイを着せといて、正解じゃった」

「おまえか」

「じゃって、父上になんかあったらと思うて。思わず母上に言うたら、鬼神台がすっ飛んできたんじゃ」

「そうか」

「勝手に通信しおって」と長男。

「じゃって・・・」

 

「・・・私は、息子どもに、かけてはいかん負担をかけたのだろうか?」

 鬼神は息子どもの顔を見回した。

「いや、いや」

 自分でその考えを打ち消す。

「緑の言いなりになれば、子孫はきっと苦しい思いをしただろう。

 だから、息子どもだって戦わねばならんのだ。こやつらも、いずれ父親になるんだからな」

 

「よし、引き揚げだ」長男が号令をする。「お弟子肆番隊、後方を警戒せよ。お弟子壱番隊、肆番隊を補助せよ」

「了解」

 

 ──巨人の軍は、くぼみの地の戦いに快勝した。

 そして氷天部族の20人を捕虜に取ったのであった。

 

◆ 9、氷天部族の、事情 ◆

 

 戦闘には一段落ついた。緑が体勢を立て直すには、日数がかかる。

 一段落ついておらんのはアロウ殿のこと。それと、鬼神台が戦いに出てしもうたことである。

 

 アロウ殿は意外と早く回復をしたので、鬼神はこちらを先にした。

 氷天部族がなんで敵に回ったのか。アロウ殿はいったい何を考えておるのか。

 鬼神はそれが気になって仕方なかったんである。

 

 玉座に鬼神夫妻。その左右に甲冑を着た次男三男。

 脇のテーブルには、記録係。巨人の弟子と、今回初めて公式の場に出ることになった四男。

「──巨人の国は、強い怒りと疑問を持っておる」

 進行は、いつもの通り、長男が担当。

 玉座の下に堂々と立つ長男。赤くトゲトゲしき服。昔よりだいぶトゲが増えておる。

「だが、こちらが言いたいことを言う前に、アロウ殿の話をお聞かせねがいたい」

「はい」

 アロウ殿。布の服にチョッキという姿。捕虜だが、拘束はなし。

 彼の隣にはハイエルフの女。副隊長だそうである。彼女も探検隊のメンバーで、巨人の国は2度目となる。

 2人の後ろに、残り18人のハイエルフ。うち数名は探検隊で来たことがある。残りは初見である。

「こちらが聞きたい話は、3つ。

 氷天が緑と組んだ経緯。なぜ侵略に加担したか。なぜ、我が国王を殺そうとしたか」

「わかりました」

「ではまず、緑と組んだ経緯」

「同盟を求められ、我が氷天部族の長(おさ)が受け入れました」

「同盟の名目は、巨人の国侵攻ですか?」

「いいえ。すべてのハイエルフの繁栄。ひいては、すべての人間種族の繁栄──と、うかがっておりますえ」

「敵国の指定はなし?」

「ありませぬ。『怪物あるいは侵略者のあるとき、援軍をする』といった内容ですえ」

「断るという選択は」

「相手は強国。こちらは弱小の部族。相手からの同盟の誘いを断るのは困難ですえ」

「ふむ。──他の方々、相違はありませんか?」

「間違いございませぬ」副隊長がうなずいた。

「わかりました。記録を」

「了解」巨人の弟子が、ガキンガキンと石版に記録する。「氷天部族長、同盟受諾。主目的、拝陽繁栄。次、人類繁栄」

 今日は、その隣で四男も記録をしておる。巻物に筆である。四男に実戦経験を積ませとるんである。

 

「では次。緑は我が国を侵略しようとしたが、それに加担したのは、なぜです?」

「緑から『怪物退治に協力されたし』と言われ、我らの長が了承し、私が派遣されました。

 巨人の国との戦とは、まったく知りませなんだ」

「怪物退治とは、どこのどんな怪物の?」

「・・・それは、とても口にできたものではございませぬ。

 命令書をお見せしますゆえ、荷をほどくこと、お許しいただきたく」

「どうぞ」

 荷物袋が返還される。

 アロウ殿、荷物袋から革の筒を出す。次男が緊張する。

 革筒には封蝋で閉じてあった形跡がある。

 アロウ殿、筒から巻紙を出して、閉じる。次男が緊張を解く。

 長男、巻紙を受け取り、さーっと目で眺める。そして、険しい表情になる。

「・・・たしかに、これは不快極まる」

 巻紙は鬼神に渡った。

 アロウ殿が「口にできぬ」と言うた理由が、わかった。

 

──

 命令書

 弓兵隊長アロウに命じる。

 同盟の名において、緑の魔術の国に援軍をせよ。

 目的は、森に潜む赤き化け猿の退治である。

──

 

「ばかにしおって」

 鬼神、目がひとつしかない王妃に紙を渡した。

 王妃は紙を受け取りつつ、長男をうながす。

「では。

 怪物退治の援軍に来たのに、戦争に参加したのはなぜか?」

「鬼神さまが戦場にお見えになったとき、抗議はしたのですが。

 それには返答がなく、代わりに、新たな援軍要請を突きつけられました。

 『巨人の国から侵略を受けた。防衛するから援軍せよ。断るなら同盟を破棄する』と」

「ふむ」

 長男は考えた。

「そもそも、怪物退治と緑が言い出したのはいつです?」

「1カ月前ですに」

「では、嘘ですな。

 我が国が緑に宣戦布告をしたのは、3カ月前のこと。

 その時点で、緑は前線に砦を建築し、密偵を我が国に侵入させておったのだ。

 初めから巨人の国との戦争に利用するつもりで氷天部族を呼び付けたのでしょう」

「なんと・・・」

「話をもどしますが、防衛のため援軍せよ、断ったら同盟破棄だと脅された。

 それでやむを得ず戦闘に参加した、こういうことですな?」

「まさに、おっしゃるとおりの事情ですえ」

「ふむ。記録を」

 記録。少し、時間がかかる。

 長男は黙って待つ。

 玉座の鬼神は、半分閉じたような、眠りかけのような目で場を見下ろしておる。

 ・・・念のために言うときますが、寝とるんではありませんよ。これは、戦士の眼なのだ。自分の表情を隠し、戦場を見渡す眼だ。つまり鬼神は、殺し合いをするときの眼でアロウ殿らを見ておったわけだ。

 目がひとつしかない王妃は、もっと露骨だ。ひとつしかない目でギロリとアロウを睨んでおる。

「記録完了」

 

「3つ目。なぜ、我が国王を殺そうとしたか」

「防衛への援軍を断れば、それを口実に攻められる恐れありと・・・」

「それは援軍を受けた理由でしょう。

 私が訊いたのは、我が国王を殺そうとした理由である」

「鬼神さまと戦うことは、我らの本意にあらず・・・」

「ほう?」

「おい! ごまかしをするな!」

 次男が怒鳴った。

「おまえは父上を殺そうとして撃った! 俺は見ておったぞ!」

「控えよ」長男が制止するが、次男怒鳴り続ける。

「我ら鬼どもが、上っ面の言葉に騙されると思うなよ、この! 人殺しの、弓野郎めが!」

「近衛隊長。控えよ。ここは、捕虜の説明を聞く場だ」

「だが!」

「我が国の名誉のためだ。『非武装の者を脅した』などと、うわさをさせてはならん」

「・・・ぬう!」

 長男はアロウ殿に向き直った。

「近衛隊長の態度、暴言をお詫びする。

 だが、彼の主張には事実が含まれておる。

 アロウ殿。貴殿、殺意をもって矢を放ったであろう?」

「・・・はい」

「やる気がなかったのなら、わざと外すこともできたはずだ。ちがうか」

「ちがいませぬ」

「なぜだ。アロウ殿。

 なぜ貴殿は、巨人の国の温かい歓迎に報いるに、冷たい殺意をもってしたのだ?」

「・・・。」

「戦闘参加までは、強国に騙され脅されての、本意ならぬ判断であったかもしれぬ。

 だが、あなたの矢は、必殺の矢であった。『本意ならぬ矢』なんぞではなかった。

 それは、なぜだ?」

「・・・。」

 アロウ殿、だんまり。

 長男ため息。

「いいでしょう。我が国は、言いたくないことを言えなどと、強制はせぬことにしておる。

 訊く相手を替えたい。部隊の方々に質問してもよろしいか?」

「はい。どうぞ」とアロウ殿。

 

 この返答は鬼神の心証をたいへんに良くした。

 鬼神は、氷天の者どもがぴーちくぱーちくしゃべるのを見て「こいつら面白いな。うるさいが」と思っておったんである。

 その氷天の者どもが、今回はまだしゃべっとらん。だから、しゃべらせてみたいなあと思っておったんである。

 

「では、19人の方々に訊く。

 我が国王を撃ったかどうか? また、撃ったとしたら、本気で撃ったか、外して撃ったか?

 一応言うておくが、この答えによってあなた方の待遇を差別したりはせぬ」

 氷天の者ども。

 顔を見合せる。

 ぴーちくぱーちくとしゃべり出した。

「撃ちましたえ」「撃っておりませぬ」「撃った」「撃っておらぬ」「外して撃った」「私も、外して撃った」

「狙って撃った方々は、なぜ、真面目に撃ったのか?」

「隊長の命令ゆえ」「兵の本分ゆえ」「なにくそ、エルフの矢よ神に届けと」「そなたそんなことを!?」「・・・あ、私もそうかも」

「外して撃った方々は?」

「恩人に矢ぁ当てる阿呆が居るかと思うて」「妥協して形だけ」「神さまを撃ちとうない」「巨人の国、楽しかったので・・・」

 じつに素直な奴らである。隊長が当てとるのに『当てる阿呆』などと抜かす兵士が居るか。

「一切撃たなかった方々は」

「恐ろしゅうて動けんかっただけですえ」「私もそれ」「こいつの頭が邪魔やった」「悪かったに」「そもそも、やりとうなかった」

「ふむ。・・・人数と、理由を簡潔に記録せよ」

「了解」ガキンガキン。

 狙って撃ったのが5人。撃つフリだけしてわざと外したのが5。撃たんかったのが9人であった。

 まあ、数はどうでもよい。要は、サボろうと思えばサボれたっちゅうことである。

「では、改めて隊長にうかがう。なぜ、殺意をこめて狙ったのか」

 アロウ殿は言葉に詰まり、目を左右に泳がせ、上目づかいで答えた。

「それは・・・つまり・・・氷天の弓を誇示したらば、緑の干渉も未然に防げるかと期待をし・・・」

「・・・。」

 今度は長男がだんまり。「ウソつけや」という顔をする。

「・・・記録を」

「了解」

 

「では、氷天の方々への質問は以上。次は、我が国の言い分。

 陛下。狙われた御本人として、言葉がございましょう」

「うむ・・・」

 よいしょ、という感じで、鬼神は玉座から立ち上がった。

 のっしのっしと下りて、アロウ殿の目の前までやってくる。

 すわ報復か!? 氷天の者ども、びびる。

 ちがう。

 鬼神。

 アロウ殿の前にしゃがみ込み、六腕をだらりと、さるのごとく垂らした。

 トゲトゲが身体の外に向く。なんか、うにみたいな見た目である。

 うに座りで、アロウ殿と目を合わせる。

「アロウよ。おまえ、そんなごちゃごちゃ、つまらんことを、考えとるのか?」

「・・・はい?」

「おまえのあの矢。あの、いつ撃ったかわからん矢だ。

 あれは、そんな、小賢しい(こざかしい)、ごちゃごちゃした脳みそから、出てくる矢なのか?」

「・・・」

 しばらく、鬼神とアロウ殿が睨み合いを続けた。

「アロウよ。本音を隠したままでは、信用もできんぞ」

「ふ」アロウ殿が笑う。「ふはは」

「なにがおかしい」

「失礼。族長にも言われたことでして。『おまえは本音を隠しすぎる』と」

 アロウ殿。

 鬼神の前であぐらをかいて、どかっと座った。

 妙に清々しい顔をして、にっこり笑う。

「おっしゃるとおりですえ。私の矢は、そんな・・・脳みそから、出ておるのではございませぬ」

「ふむ」

「撃つときは、なんも、考えておりませんに。

 ──あ、いえ。正確には、ぼんやりと、一念のみ」

「一念?」

「はい」アロウ殿は不敵な笑いをした。「『死ね』という一念のみで、放ちまする」

 氷天の者どものほうが、これにはたまげた。

「ええ!?」「た、隊長」「阿呆」「言うてもた」「悪いクセ」「万事休す」「隊長・・・我らもすぐに」

「よし、殺そう」次男が前に出る。

「やめんか」長男が止めた。

 もちろん、殺意をぶつけられたからというて、びびる鬼神ではない。

「ふん」鬼神。うっすらと笑った。「で、撃ったのはなんでじゃ」

「なんでもなし」アロウ殿。ふっふと笑う。「この手が、勝手に動いたのみですに」

「ばかめ」

 鬼神は立ち上がった。

「なんとばかげた返答か。

 だが、そうだろうな。アロウよ。それが正直な答えであろう。

 なんでといって、修練とはそういうものだからだ。

 そこが狩場で、いのししが見えたら。

 そこが戦場で、大将首が見えたら。

 身体がひとりでに矢を放つのだ。

 それが修練というものだ。

 だから『なんで撃った?』と言われても困る。──そういうことであろう?」

「まさに。手が撃ち、手が殺す。私は『死ね』と念じる観客にすぎませぬ」

 アロウ殿はクックックと笑った。ここだけ聞いたら狂人である。

「うむ。納得行った! これで、すっきりしたわい」

 鬼神は玉座にもどった。

「だがアロウ。そうとわかったからこそ、私は改めておまえに怒るぞ。

 『本意ではなかったが、必殺の矢を撃ってしまいました』だと?

 ばかめ。

 人並み外れた力を持つ者は、ばかであってはならんのだ。

 そんなことでは、まわりが迷惑するだろうが!」

 鬼神。

 かっこよく言うたところで、長男がこっちを見とることに気付く。

 長男、口では何も言わんが、ものすごく言いたいことがありそうな顔である。

「いかん」鬼神気付いた。「いまのは、私にもそのまま当てはまるではないか。言い過ぎたわい」

 あわてて話を切り上げる。

「・・・つ、つまりじゃ。わしらは、ばかではいかんのだ」

「はい・・・?」

 

◆ 10、アロウ殿、ばいしょうする ◆

 

「双方、言いたいことは言われましたな?」長男が進行する。「では、巨人の国からの要求を伝えたい」

「はい」

 

 ここからのことは、家族で話し合い済みである。

 すったもんだはした。次男はアロウを殺そうと言うし、三男もそのほうが憂い(うれい)がないなどと言う。

 ふだんは冷静な、目がひとつしかない妻までが、アロウを許すつもりはないと激怒しておる。

 長々と話し合いにはなったが、最後は鬼神と長男が『これでいく』と決めたのであった。

 

「巨人の国から、氷天の部族に要求をする。

 氷天のアロウ殿ら、かつて探検隊に所属した者どもを、我が国王は温かく歓迎した。

 だがアロウ殿は、これに報いるに、冷たい殺意の矢をもってした。

 このことに、巨人の国は強い怒りを感じておる。

 よって、尋常な捕虜の交換とは別に、アロウ隊長個人に対し、賠償を請求したい」

「お・・・お待ちください!」副隊長が叫んだ。

「最後まで聞いて頂きたいのだが」と長男。

「反論や助命ではございませぬ。副隊長としての希望を、述べさせて頂きたい」

「・・・ではどうぞ」

「隊長を責められるならば、私にも、同じ責めを。

 なんとなれば、我が部族では『長官副官は毀誉褒貶(きよほうへん)を共にせよ』と教えておりますに。

 部下の手前、身をもって教訓となりたいと希望するものですえ」

「いけませぬ」アロウ殿がかばった。「彼女は弓を引いておりませぬ。私が『撃つな』と命じたゆえ」

「決めるのはこちらだ。

 副隊長殿。貴殿はまこと忠義の士である。敬意を表する。

 隊長の賠償を、あなたが分担することを認めよう」

「ありがとうございます」

「・・・ばかめ!」

「・・・ばかはそっちですえ!」長官副官、非難を共にしておる。

「さて、我々が要求する賠償であるが、」

 長男は深刻な表情を作った。

「が、一度は宴(うたげ)を共にした貴殿に、このような要求をするのは、私も心苦しく・・・」

 氷天の者ども、ざわめき出す。「え・・・?」「まさか・・・」「まさか、隊長・・・」「自決・・・?」

 長男、わざとあいだを空けた。

 が、副隊長が青ざめたのを見て、慌てて口を開いた。

 

「アロウ殿。貴殿に、死んだフリ1週間を要求する」

 

「・・・は?」とアロウ殿。

「副隊長殿は、期間の半分に達しない範囲で、日数を分担なされよ」

「・・・はい?」と副隊長。「死んだ・・・フリ?」

「いかにも」

「それはあの・・・次男殿がむかし・・・」

 副隊長、言いかけてムニャムニャとごまかす。次男がメッチャ怒って睨んできたからである。

「つまり、つまり・・・死んだフリ?」

「いかにも」

 アロウ殿は固まってしまい、返答ができぬ。

「あの、それ、賠償ですか?」代わりに副隊長が聞いた。

「あのですな。我々も悩んだんですぞ」

「はあ」

「神の名誉と生命を、金品で贖える(あがなえる)とはできぬ。

 さりとてあなたがたを傷つければ、捕虜を虐待したことになってしまう。

 まったく、面倒なことをしてくれたもんである」

「面倒な隊長で、すみませぬ」

「ただ結局のところ、父上が弓で死ぬかというと、たぶん死なんので、」

「はい?」

「私は頑丈なのだ」と鬼神。「矢ぐらいで、死んでたまるか」

「なので、ま、本当に死んでもらう必要はあるまいと、こう結論をした」

「そんな・・・」

 副隊長、へにゃへにゃと両手を床についた。

「いややえ・・・恥ずかしい・・・」

 

 工房のお山の裏手。

 『トンガリ岩』と名付けられた、超自然の地形のとこ。

 そのちょっと上の日当たりのよい場所に平地が削り出され、白い花が植えつけられた。

 花咲き乱れる中に、墓石が2つ並べられる。

 その碑文。

『隊長殿。氷天部族の弓取り。恩ある鬼神を討って名をあげようと画策するも、弓外れ、盾で殴られた』

『副隊長殿。氷天部族の弓取り。鬼神が隊長殿の恩知らずを責めたとき、忠義に殉じると申し出た』

 鬼神。

 おごそかな声を作って、しゃべり出した。

「今日よりここを、『英雄の墓』と呼ぶことにする。

 ここで死んだフリする2柱のために、我が妻が、手ずから碑文を彫った。

 2柱の御霊(みたま)も、きっと喜んでくれるであろう」

 そう。

 この場所、巨人の弟子がわざわざ山を削って、ならした。

 目がひとつしかない王妃も花を植え、のみを握って碑文を彫った。

 戦の最中に何をしとるのか。巨人は冗談でも凝る(こる)からこんなことになる。

「えいほ、えいほ」

 巨人のお弟子さんが、担架(たんか)に乗せてアロウ殿と副隊長を運んできた。

「では、入棺」

 納棺ではなく入棺である。自分で入るので。

「うう・・・」副隊長がうめく。

「うん? おかしいな?」と鬼神。「死んだ者は、しゃべれんはずだがのう?」

「たたりじゃ」巨人の王が乗った。

「安らかに眠りたまえ」目がひとつしかない王妃も乗った。「今日は温かいですから、よく眠れるはずですわ」

「うむ。じゃ、葬儀のフリ、よろしく」

 氷天の治癒担当の男が前に出てきた。彼は太陽の司祭に準ずる資格を持っておる。戦死者を運ぶ余裕がない場合に、彼が司祭となって戦友を見送るのだそうである。

 これを鬼神に知られたため、葬儀のフリさせられる羽目になってしもうた。

「アロウ隊長すみません・・・」

「私にも謝らんに!」副隊長が小声で怒る。

「はい、副隊長もすみませんww」

「わらうな!」

 

「あなた。あの男は、あのままですか?」

 3日目。

 目がひとつしかない妻が、そんな風に鬼神に訊いた。

「なにがじゃ?」

「あの男は今日も死んだフリをしております。それで、外は雨が降り始めましたわ」

「そりゃいかん」鬼神はニヤリと笑った。「恩赦だ、恩赦」

 

 こんな感じで、アロウ殿のことは収まったのであった。

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