六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

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空飛ぶルーン魔術師(前)

◆ 1、エスロ博士、きこくする ◆

 

 エスロ博士が、帰国することになった。

 本人の希望である。命令とかではない。

 しかし、鬼神は心配した。

 

「大丈夫なのか? 御国は内戦中だし、博士の研究を狙う者も多かろうに」

「はい。つい先日、我が氏族の土地も戦場になったと、手紙で知らされました。

 ですが、危険であるからこそ、私はもどらねばならぬのですえ。

 魔術師は故郷・任地を守るものですに」

「そうか・・・」

 鬼神。

 目がひとつしかない妻と、相談する。

「どうやら、魔術師の誇りということのようだ」

「それでは、引き留めるわけにいきませんね・・・」

 というわけで、博士の出国は、速やかに認められた。

 しかし。

<帰国だなんて、とんでもない!>

 妙雅が、猛烈に反発。

 建築ユニットでばたばたと地団駄(じだんだ)を踏み、博士のローブにしがみつく。

<あなたは敵だらけなのです! 絶対にだめです! 味方の側を離れては!>

「・・・妙雅」

 エスロ博士もこれにはびっくり。

「落ち着いたら、また来るに」

<だめ!>

「妙雅、ひかえよ」鬼神も口を出す。「魔術師には、故郷を守るものの誇りがあるのだ」

<誇りなんて、盾にも剣にもなりません!>建築ユニット、がばっと博士に抱き着く。<絶対帰しません!>

 さらに、空飛ぶ台の一族まで、ワラワラと部屋に入ってきた。

 エスロ台、壱号、弐号、教育中の子供3台。ワラワラワラワラワラワラと博士の周囲を固めてしまう。

 ただ1台だけ、鬼神台は同調をせず、後からのそっと入ってきて、鬼神の横に止まった。

「相棒よ。えらいことになったぞ・・・」

 ぶわっさ。鬼神台、重々しくうなずいたようである。

 

 この猛烈な引き留め工作のせいで、博士の帰国は丸1日ずれた。

 とはいえ、博士も一度決めたら曲げぬ御方。結局、帰国してしもうた。

 

「あいつら、えらいゴネましてのう。子供みたいだったぞ」

 鬼神が、巨人の王にそんな風に告げたところ。

 巨人の王。黙り込んだ。

「どうした義父上? 義父上まで、博士が恋しくてたまらんのか」

「・・・ばかなことを申すな」

 巨人の王は難しい顔のままである。

「わしには、空飛ぶ一族が、わがままだけであんなことをするとは思えぬ」

「わがままでしょうが。博士の邪魔をして」

「あなどるんじゃないわ!」

 巨人の王、鬼神を一喝する。

「妙雅は、ハイエルフの本を片っ端から読破しておる。軍学から魔術から歴史からお笑い本まで、何百冊もじゃ。

 エスロ博士が持ち込んだ本は全部読み、弟子どもが持ち帰ったのも全部読んどるのじゃ。

 賢者の直観のごときものが、あの子にはあったんじゃないか」

「そんなにか・・・」

 鬼神は妙雅を見直した。

「しまったのう。義父上にも相談するべきでした」

「いや。陛下の判断、間違いとは思わぬ」巨人の王、ため息。「ただ、妙雅の読みも当たるのではと、心配なだけじゃ」

 

 帰国したエスロ博士がどうなったか。

 1週間もせんうちに、恐ろしい展開となったことが判明する。

 

「エスロ博士が、死刑になってしまいます!」

 早朝。

 巨人の国に駆け込んできたハイエルフの男が、そんなことを叫んだ。

「なに?」鬼神おどろく。「いったい、どういうことだ。そんな不吉なことをわめくおまえは、何者じゃ?」

「私はネストール。かつて博士の助手をしておったものですえ。

 いまは魔術大学長の下で、書記をしておりまする。

 博士は、帰国したところをいきなり捕らえられました。巨人の国と密通したという疑いです。

 ろくな証拠もないまま、強引に多数決が行われ、死刑が決まってしまい・・・」

 

 多数決。

 前回もお話ししましたが、この時代、ハイエルフの裁判は、多数決でした。

 証拠があろうがなかろうが、多数派が有罪と言えば、有罪になってしまう。そんな時代であったのです。

 

「それは大変じゃ! すぐに──」

「待て」巨人の王が鬼神をさえぎった。「確認をする。陛下は何もしゃべるな」

「なに?」

「私がお相手をしますわ」と、目がひとつしかない鬼神の妻。

 鬼神がぽかーんとしとるあいだに、巨人の王は部屋を出てしまう。妻も男を連れて部屋を出てしまう。

 部屋には、長男と妙雅の建築ユニットも居ったが、これも妻についていってしもうた。

 ・・・なんで建築ユニットが部屋に居ったかって? それはほら、どろぼうコボルドの一件だ。あれで、妙雅の見張りとしての有能さが認められた。工房に、建築ユニットを常駐させるようになっとったのです。

 ともあれ。

 あっちゅう間に、鬼神以外、みーんな部屋から出ていってしもうた。

「・・・は?」鬼神困惑。「おいおい。なんで、私をのけものにするのだ」

 そこに三男がやってきた。

「なんじゃ? 騒々しいようじゃが。なんかあったのか」

「おお、息子よ。聞いてくれ。じつはこうなのだ」

 鬼神説明。

 三男ため息。

「はあ。父上。どうせまた、不用意なことをしゃべったじゃろ」

「なんだ、ふよういとは」

「すぐに助けに行くから、あんしんせよ! とか、言おうとしたんじゃろ」

「うむ、言おうとした」

「やっぱりのう・・・。父上よ、その男、これまでに会うたことはあるのか?」

「いや、初めて見るが」

「先触れはあったか?」

「いや、なんもないが」

「そういうことじゃ」

 巨人の王が部屋にもどってきた。「だめじゃ。博士も学長閣下も、会話玉に出ぬ。確認できぬ」

「なんの確認です?」

「ばかめ。あの男の身元を確認しようとしたのじゃ」

「・・・ああ、そういうことか!」鬼神、やっとわかった。「あいつがうそをついとるかもしれんと?」

「いまごろわかったのか」

「いまごろわかりましたわい。ばかですまんのう」

「かまわぬ。ばかなのはわかっとる。それで国王陛下よ、どうする?」

「どうすると言うて、そりゃあ、どっちかわからんのだから、悪い方にそなえねば──」

 

 ず、ご、ご、ご、ご、ご、ご、ご、ご・・・

 

「ん?」

 鬼神の鋭い聴覚が、かすかな響きを聞きつけた。

「いま、音がせんかったか?」

「なんの音じゃ?」と三男。

「なんも」と巨人の王。

「・・・。」鬼神、しばらく考える。「・・・そうだ。妙雅だ。妙雅が浮かび上がるときの音だ」

 こん、こん。今度は、ノックの音。

「・・・誰じゃ?」と三男。

「コボルドの妻です」

「取り込み中じゃ。帰れ」巨人の王、コボルドには冷たい。

「じじ上。言い過ぎじゃ。何の用じゃ?」

「判事殿とお約束していた、磁力銀の細工のサンプルをお持ちしました」

 三男ドア開けてやる。

 コボルドの奥さん。背伸びして、三男の手に銀色の髪飾りを乗せる。

「それと、異変の報告がございまする」

「言うてみよ」と鬼神。

「陛下に申し上げます。私、いま玄関を入る直前に、黒い大きなものが空を横切るのを見ました」

「──いかん!」鬼神飛び上がった。「妙雅! あいつ、飛び出しおった!」

 

◆ 2、妙雅、飛び出す ◆

 

「相棒!! 表へ!! 回れ!!!」

 鬼神。もんのすごい大声を出す。

「うわあ」三男びっくり。「きゅ、急になんじゃ?」

「妙雅が飛び出したのだ! やらかす前に止めねばならん。私は追う。おまえは母上に伝えよ!」

 鬼神。

 風のごとく走り、玄関を出る。

 一拍たりと間を置かず、ついて出てくる赤影あり。

 アーマード・鬼神台!

 かぶとがにアーマーで身をよろった、鬼神の相棒!

 阿吽の呼吸! なんも言わんでも、トゲトゲしき甲羅に槍のごとき尻尾、がっちり装備済み!

「妙雅が飛び出した」鬼神素早く騎乗。

 ぶわっさ。鬼神台素早く浮上。

 あっちゅう間に、大きな扉よりも高く舞い上がる。

 ぶわっさ!

「うむ、ゆけい!」鬼神、伏せる。

 鬼神台、『力』のルーンにて爆発的加速!

 妙雅の飛び出した方向へと、青空を突っ切る!

「・・・おまえ、妙雅の行った先、知っとるのか」

 ぶわっさ。

「そうか」

 考えてみれば、空飛ぶ台同士は互いに会話ができるのだ。知っておっても、不思議はない。

 鬼神、改めて感じ入り、口には出さずに考えた。

 

「・・・そうか。こいつらも、生きものだものな。

 こやつらもまた、一個の種族なのだ。鬼とはちがう、私の言いなりにはならぬ者どもだ。

 それが、こうして私と飛んでおるわけだ・・・」

 

 そして口に出してはこう言うた。

「悪いようにはせぬ。だが、妙雅が何かやらかす前に、追いつかねばならん。飛ばしてくれ!」

 ぶわっさ!

 猛烈な風。

 溶け流れる地上の景色。

 こんなときでありながら、鬼神は解放感に満たされた。

 その解放感もわずか。

 あっちゅう間に、前方に黒い巨体が見えてくる。

 そこからが、厄介であった。

「止まれというのにから!」

<いやだと言っています!>

 この繰り返し。埒が明かぬ。

 妙雅。パワーはあるが、速度は出ない。『力』のルーンでぶっ飛ぶ鬼神台を振り切るこどはできぬ。

 鬼神。けんか上手の、説得下手。怒る妙雅をなだめることができぬ。

<おじちゃんは、博士を助ける気がないのでしょう!>

「ばかめ! なんでそうなる」

<ばかはそっちじゃ!>キレた妙雅。巨人の王みたいな口調になる。<失せい!>

 状況が変化したのは、長男・次男・三男が空飛ぶ台で追いついて来たときであった。

「妙雅よ! 連れ戻しに来たんじゃない! とにかく、乗せてくれ! たのむ! あぶないんじゃ!」

 すると。

 妙雅、すぐに空中に停止。鬼神らを、中央甲板に受け入れたのであった。

 

 妙雅の中央甲板。

 鬼神、長男、次男、三男、コボルド奥さん、座り込んでおる。

「・・・なんで、連れて来た」

 鬼神、コボルド奥さんを見る。

「勝手についてきたんじゃ」三男、言いわけ。「気付いたら、しがみついとったんじゃ。下ろすに下ろせんかったんじゃ」

 

 三男、エスロ台に乗って飛んできた。

 その後部に、知らんうちに、コボルド奥さんがしがみついとったという。

 三男が必死に『乗せてくれ』と頼んだ理由はこれ。妙雅が急に止まった理由も、これであった。

 

<私を止める作戦かと>

「ちがうわい」

「なんでついてきた」鬼神、話をもどす。

「博士には、御恩がございますれば」コボルド奥さん、悪びれぬ。

「ごおんだと」

「私と夫の弁護をして頂いた、御恩でございます」

「・・・まあ、それはよいが」鬼神イラつく。「なんの役に立つ。戦闘になるかもしれんのに」

 コボルド、とても小さい。人間の半分である。戦に役立つとは思えぬ。

 だが。

 コボルド奥さん、悪びれぬ。小さな鼻を、鬼神に突き出す。

「この鼻で、必ずや、お役に立ちまする」

「はなだと?」

「博士の匂いを、嗅ぎつけまする」ふんふんふんと空気を嗅ぐモノマネ。

「ははあ! こりゃええぞ」と三男。「いぬとおんなじじゃ。人探しには、役立つぞ」

「いぬではございませぬ。我ら、おおかみの一族にございますれば」

「フーン」鬼神聞き流す。「匂いか。その言葉、まことか?」

「まことでございます。閉じ込められておっても、見つけ出してご覧に入れましょう」

「死ぬかも知らんぞ」

「我ら、寿命短きコボルド。『行ってきますは、さようなら』の覚悟でございます」

「ふん!」

 鬼神。

 ニカッと笑う。

 コボルド奥さんの我武者羅(がむしゃら)ぶり、気に入った!

「よかろう! だが指示に従え。勝手に動くようなまね、二度と許さぬ」

「かしこまりました」

 鬼神、向きを変え、長男に向き合う。

「兄者よ、また、大将をたのむ」

「・・・」長男、一瞬何か言いたそうにする。「うむ。わかった」

「どうした」

「いや、何でもない。大将、引き受けた」

 長男は立ち上がった。

「では、妙雅に命じる」

<はい大将>

「低空、できれば谷地(やち)を飛び、敵国首都へ向かえ。まずは真偽を確認する!」

<了解!>

 

◆ 3、コボルド奥さん、かつやくする ◆

 

<荒風寺院、動きなし>

 夕暮れどき。

 妙雅は、緑の魔術の国の奥深く、首都付近にまで入り込んでおった。

 いまは森の中。池の上。ちょうど妙雅がすっぽり収まるぐらいの池があったんである。水面ギリギリに浮かんどる妙雅。空飛ぶ台ほど完璧な静止はできんので、ときおりちゃぷんちゃぷんと水を叩く音がしておる。

 木々の隙間から、高い塔の先端がちょろっと見えた。

 『荒風寺院』と呼ばれる、古い古い寺院の、尖塔である。

 遠くからでも、その塔はよく見えた。その塔を囲むように、都はゆるやかに、広大に、発展しておった。いくつかの森を残しつつ、かなりの広範囲に渡って、家々と田畑が波打つように続いておる。森を残すのはドラゴンから避難するためらしい。これは妙雅の知識である。

 内戦の最中だが、ここらは穏やかなもので、夕飯を煮炊きする煙も元気に上がっておる。

「奥さん、大丈夫かのう・・・」

 鬼神が心配した。

 コボルドの奥さん。なんと、単身地上に降りて、調査しとるんである。

 エスロ台で郊外まで行き、そこからは、たこを抱いて歩いた。酒場を見つけて、たこを放し、1人で入ってった。

<大丈夫でしょう。大通りでは、たまにコボルドも見かけましたから>

「鬼よりは目立つまい」と長男。

「そらそうよ」次男が笑った。

「ええのう。間者。わしもやってみたかったわい」と三男。

 そして。

 四半刻(30分程度)ほど過ぎたころ。

<──あ、いま出てきました。右耳を掻くサイン。何かわかったようです!>

 

<エスロ博士の死刑判決、大きなうわさになっておりました>

 コボルドの奥さんの、顔。

 大写し。

 たこを抱えて歩き、千里眼を覗き込むようにしとるんで、黒い目がめっちゃでっかく映っとる。

 鬼神らは、その千里眼の映像を、三男の制御箱で見とるわけである。

<死刑執行は、三日後の夕方。死刑囚は郊外、岩山の大監獄に収監されるとのこと>

「情報の出所は」と長男。

<大声で話しておるスカルドが居りました。しかしスカルドは信頼できませぬ。

 酒場の主にも確認いたしました。立て看板が出ておるとのことで、いま、探しておりまする>

「うむ」

<看板を発見>千里眼の視界がグラグラ揺れる。<見えますか? 私は、字が読めないので>

<はい。読みます>と妙雅。

 

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 魔術大学の醜聞! 研究員に死刑判決。

 エスロ研究員、地震の巨人と密通! 裏切りの罪で死刑確定!

 大学長にして荒風先代族長は、幇助(ほうじょ)の疑い!

 裏切り者エスロの死刑執行予定は次のとおり。

 :

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「学長も捕まったんか!」と三男。「それでか。じじ上が連絡しようとしても、反応がなかったっちゅうのは」

「看板まで立てとるということは・・・」と次男。

「うむ。情報工作ではなさそうだ」と長男。「──奥さん。体力に問題はないか。突入に参加できるか?」

<はい。当然そのつもりで、酒場で肉を買うてございます。いま、かじりまする>

 はぐはぐ。コボルドが肉を噛む映像が大写しになる。

「融通(ゆうづう)のきく奥さんじゃ」三男が笑うた。

「よろしい。奥さんは妙雅の指示に従え。妙雅、奥さんを大監獄の方角へ案内せよ」

<かしこまりました><了解>

 長男は鬼神に向き直った。

「国王陛下。エスロ博士は大監獄に囚われとるようだ。救出作戦を提案する」

「もちろん、許可する」鬼神うなずく。「手段は問わぬ。博士を救出せよ」

「了解。分担はこうだ。

 監獄に突入し、博士を救出するのは、父上、近衛、コボルド奥さんの3人。

 この移動を担当するのは、鬼神台、弐号、エスロ台の3人だ。

 妙雅は全域の会話を担当。壱号は妙雅上空にて警戒に当たれ。

 俺と偵察隊長は、ここで指揮をする」

「おう」

 次男起き上がる。がしょーん。甲冑が音を立てる。胴体だけ着けて、出番待ちしとったんである。

「父上が行く以上、どうせ見つかるであろう。全身武装でかまわん」

「わかった」

 次男、急いで下半身の甲冑も着ける。三男が手伝う。この甲冑は三男が仕上げたもんじゃから、手慣れたもんじゃ。

「鬼神台、弐号、発艦準備」

 ぶわっさ。ぶわっさぁ!

「妙雅。大監獄付近で、鬼神台らが隠れて待機する場所が必要だ。探せるか」

<はい。現在たこ3機、大監獄へ移動中。うち2機を監獄上空へ、1機を周辺探査に回します。

 建築ユニットも出せば、さらに目が増えますが?>

「・・・いや。回収に時間はかけられん。ここは敵の本拠。空飛ぶ魔術師の基地だ。速度がすべてだ」

<了解。建築ユニットは待機。──コボルド奥さんがエスロ台と合流しました。移動開始します>

「よろしい」

 長男、甲冑を着け終えた次男を見る。

「近衛。今回は、父上ではなく、奥さんを護衛せよ。奥さんが匂いに集中できるようにしてやれ」

「おう!」

「父上は遊撃だ。すでに言うたが、隠密は不要だ。派手にやってくれい」

「了解じゃ。ふっふっふ。目立つんなら、得意わざじゃ」

「偵察隊長!」

「ふぇっ!?」三男、飛び上がる。

「だらけるな。妙雅の監督をせよ」

「りょ、了解じゃ!」三男返事してから、言いわけ。「妙雅が全部やると思うとったんじゃ」

「妙雅は初陣だ。頼り切ってはいかん」

<よろしくお願いします。三の兄者>

「了解じゃ。任せよ」

「よし。日没まで半刻(約1時間)もない。そして、そこからは半刻もかけれぬ。神速をもって、博士を奪還する!」

「おう!」

 

◆ 4、エスロ博士、だつごくする ◆

 

 

 日没。

 作戦開始である。

 鬼神台、弐号、妙雅を飛び立つ。森に隠れ、低空を飛び、郊外の大監獄を目指す。

 大監獄は岩山に背中を預ける感じの城であった。役目を終えて、監獄に転用されたらしい。

 その岩山が見えてくるあたりで、エスロ台と合流。コボルド奥さんがしがみついておる。

 ゆるやかに波打つ草原を飛び抜ける。岩山に張りついた大監獄がはっきりと見えてきた。

 鬼神台、ここで2人と別れ、岩山の上空へと舞い上がる。

 上空にちいさな灰色の粒みたいなもんが浮かんでおる。鬼神、目敏くそれを見つけ、指差す。

「相棒。あそこだ」

 鬼神台はその灰色の粒に接近。

 たこである。

<状況変化なしです>妙雅の声がした。<いちにぃも、周辺変化なしと>

「いちにい?」と鬼神。

<あ、壱号兄者のことです>

 ぶわっさ。鬼神台がぼそっと文句言うた。『わかりづらいわ』とでも言うたんであろう。

<きしにぃうるさい>

「キシ兄?」

<鬼神台兄者のことです>

「ははあ」

 ぶわっさ・・・。

<きしにぃいちいちうるさいんじゃ>

 数秒。

 鬼神、重大なことに気付いた。

「おい妙雅」

<はいおじちゃん>

「もしかしてだが。私を『おじちゃん』呼ばわりするのは、『きしにぃ』とかぶるからか」

<はい。そうですが?>

「おまえなあ!」

<大将より指示。突入せよ>

「くそ。了解じゃ。では行ってくる」

 鬼神。

 ぽーんと、飛び降りた。

 

 高さ、なんと、30尋(約50メートル)!

 六腕がばあとおっ広げ、くもが宙舞うがごとく、大監獄へ真っ逆さま。

 つばさもなければ、魔術もなし。ただただ自然に落下する!

 ごうごうごう。耳を聾する(ろうする)風の音(ね)も、鬼神をおどすにゃちと足りぬ。

 

<きしにぃ。おじちゃんホントに大丈夫?>

 ぶわっさ・・・。

 

 どがああああん!!!

 

 爆発みたいな音立てて、大監獄の玄関に、六腕巨体の鬼の神、着弾!

 石造りの玄関ぶっ壊し、槍持つ見張り吹き飛ばし、ずどんと地面に突き刺さる!

「なにえ!?」「爆発?」「魔弾?」

 ハイエルフ。槍持ち飛び出し、誰も居らぬ庭を見る。

「て、天から、なんか、落ちてきて・・・」「敵襲か?」「落石か?」「なにえ。あな大穴」

 敵も居らぬ前庭に、真新しき大穴、開いてあり。

 ハイエルフ。覗き込む。

 ぼこ。赤い右手、突き出した。

 ぼこ。赤い左手、突き出した。

「え?」

 ハイエルフども、掴まれる。

「あなや」ぽーんと投げられ、宙を飛ぶ!

 ばし。ばし。

 赤い両手が、地面につく。

 がらがらがらがら、瓦礫を頭からこぼしつつ。

 赤い巨体が、這い上がる。

「え・・・」「え、嘘・・・」「6本腕・・・」「赤い巨人・・・」「き・・・」「き・・・」

 ハイエルフ、後じさる。

「きしーーーん!!!」「鬼神やええええ!!!」

 驚天動地の大騒ぎ。

 右往左往した挙句、なんかもうしょうがなく、槍を一応向けてみる。

「ふん! 邪魔じゃ!」

 槍、まとめて掴まれて、ぺきんと折られ、砕かれる!

「そな、あほな」「無体なり」「い、いったい、なぜここに?」

「エスロ博士が、ここに居る! そのように聞いて、参ったまで!」

 ハイエルフ、「あっ」と顔を見合わせる。

「さては、目当ては、あの博士?」

「そうじゃ!」鬼神、怒鳴っていわく、「処刑するなら、返すがよい! エスロ博士、ぼうめいじゃ!」

 

 わーわーわー。

 大監獄、大騒ぎ。

 槍折られたハイエルフども、抗すべくもなく逃げまどう。

 弐号、エスロ台、飛んできて、次男、コボルド、落ちてくる。

 がしょーん! ゴロゴロ! 地面を転がり、土にまみれて起き上がる。

<大将から命令>妙雅のたこも、飛んでくる。<奥さん、博士の居場所を特定せよ。次男、奥さんを護衛せよ。たこ1、続け>

「了解いたしました」

 コボルド奥さん、テテテテテと監獄内に駆け込んでゆく。次男とたこが後を追う。

 もう1機、別なたこが、飛んでくる。

<陛下、遊撃。たこ2、続け。──たこを振り切らないように注意してください>

「振り切ったりはせぬ。たこ2はおまえでよいな?」

<はい。私です・・・あ、待って、掴むのはなs──ぎゃあ! ぎゃあ! 放してえ!>

 鬼神、たこを引っ掴み、大監獄へ突入した。

 

 大監獄。

 入り口は城砦、中は天然の岩石洞窟という、半人工・半天然、強固な牢獄である。

 1部屋目は、石造りのホール。正面に奥へ伸びる洞窟。右手に階段。階段は上下両方である。

 コボルド奥さん、フガフガと匂いを嗅ぎ回る。盾を持った次男が側でガード。

 次男は今回、巨人の金棒ではなく、メイス(総金属製で柄が細い棍棒。鎚鉾)と丸い盾である。金棒は広い場所でないと振り回せぬうえに、矢に弱いからである。

 奥さんは武器なし、ハチマキ巻いて、胴体にはサラシ。チョッキとズボン。腰に短刀差しとるが、これは武器ではない。守り刀というやつである。

 鬼神はもちろん、国王の服に、素手6本。戦のときは妻が作ってくれたハチマキしとったが、今回は持ってくるヒマなかった。なし。

「であえであえ」「であえであえ」「わー」「わー」「ぐわー!」

 奥からハイエルフ。鬼神吹っ飛ばす。相手にならぬ。

 コボルド奥さん。フガフガと、階段へ。上を嗅ぎ、下を嗅ぎ・・・

 小さな前足で、ビシッと階段を指差す。「地下です!」

「よし、私が先行する」

 遊撃役の鬼神、先行。

「なにごt──ぐえ」「いったいなにg──ぐえっ」「敵sh──ぐえっ」

 上がってくるハイエルフ。鬼神吹っ飛ばす。

 地下に着く。ここからは洞窟である。左右に木の枝のごとく通路が伸びておる。

 コボルド奥さん、追いついてきて、フガフガし、右奥の通路へ。「こちら!」

 だが、左右あちこちからハイエルフが!

「わー!」「わー!」「わ・・・・・・・・・わあああ、鬼神!」

「いかにも! 鬼どもの神、鬼神!

 恩人のエスロ博士を、お迎えに参った! ぼうめいじゃ!」

「ぼ・・・亡命?」「いえ、聞いておりませんに・・・」

「力ずくのぼうめいじゃ! どけどけい!」

「うわー」「だめもとー」「こなくそー」

 ハイエルフども、槍突き出す。国王の服のトゲに引っ掛かり、槍、全部折れる。

 次男、メイス振る。右端の1人倒れる。

 鬼神、手伸ばす。残る2人、首根っこ引っ掴まれ、宙にぶらり。

「いたい、いたい」「うぐぐ」「ぐうう」

「父上、後ろは頼んだ!」次男とコボルド奥さん、右奥の洞窟へ突っ込んでゆく。

 さらに左から、ハイエルフ兵士2人。

 鬼神、ギロリと睨む。「ずいぶん多いのう? 待ち伏せか?」

「ええ・・・はい」「えー・・・亡命と、おっしゃいましたかに?」

「うむ。ぼうめいじゃ」

 ハイエルフ2人、顔を見合せ、階段にそろりそろり。

「ではあの、上に確認してまいりますゆえ、少々お待ちを・・・」

「うむ。ゆっくり確認せよ。ついでに、持ってゆけ」

 鬼神、ぶら下げたハイエルフ2人を渡し、倒れとる1人も渡す。

 5人はひーひー言いながら階段上がって逃げてった。

 

「父上! こっちだ! 博士を見つけた!」

 洞窟に次男の声が反響する。

 声を追うが、右奥の通路がさらに分かれており、どっちへ行ったのかわからぬ。声も反響しとるため、鬼神の耳をもってしても、いまいち方向がわからぬ。

 しかし大丈夫。

<次の分かれ道、左です>

 妙雅のたこが道案内。すぐに合流する。

 そこは、洞窟の行き止まりを鉄格子で封じた空間に過ぎなんだ。

 城であったころには、備蓄置き場だったんであろう。到底、人間の生きてゆける場所ではない。

 そんな岩の上。ボロだけを身にまとった男が横たわり、黒い目でこちらを見ておる。

 あわれ。それは、痛めつけられたエスロ博士であった。

「・・・鬼神さま? なぜ、ここに」

「博士。亡命のお迎えに参ったぞ。いま、開ける」

 鬼神、牢屋の鉄格子を掴む。

 『力』のルーン! めきょ。鉄格子曲がる。

「・・・亡命? なぜ?」

「なぜもくそもありませんぞ!」次男が抱え起こす。「死刑と聞いて、飛んできたのだ」

「誰が、そんなことを・・・」

「ネストールという男じゃ」と鬼神。

「おお・・・!」

 博士、どうも意識があまりはっきりしておらぬ。次男が支えても立つことができず、床に転がり落ちてしまう。

 鬼神が慌てて手を貸そうとしたところで。

 ぶわっさ。

 滑り込んだ四角い台が、博士を受け止めた。

 優しいクリーム色したその台は。

「入ってきたのか、エス子や」

 ぶわっさ。エスロ博士専用機の、エスロ台であった。

「では頼む。──博士、博士よ。学長はどうなっとるかわかるか?」

「学長は・・・先代族長。さすがに、私のようには・・・ならぬはず」

<あれじゃろ>三男の声。<学長が居ると、多数決を取られかねん。じゃから学長が裁判に出れんようにしたわけじゃ>

「そう。おそらく・・・」

<こちら大将>長男の声。<学長は救出不要と判断する。即刻、脱出せよ!>

「了解だ」

 引き返す。

 階段を上がりかけたところで、ズシーン・・・ズシーン・・・と、重々しい足音が聞こえてきた。

 『水晶剣士、配置完了! 歩兵は下がれ』──という、女の声が、鬼神には聞こえた。

 鬼神、階段の途中でみなを止まらせ、自分だけ上がる。

 ホールには誰も居らん。

 玄関を見る。すると。

 

 透明な、キラキラと輝く、巨人が3人。

 透明な剣を持って、玄関をふさいでおった。

 

◆ 5、鬼神、かんでんする ◆

 

「なんだあれは。妙雅、わかるか?」

 鬼神。たこをそいつに向ける。

<・・・魔術人形だと思います。生きものではない。建築ユニットみたいなものです>

「ふむ」

 鬼神はたこ2を手放した。

「当たってみる。大将に状況を伝えてくれ」

<了解>

 鬼神、外に出る前に、ホールから奥に続く通路の壁をぶん殴って崩した。通路が半分ふさがる。挟み撃ちを防いだのである。

 それから外に出る。

 夜の闇の中。

 半円形に玄関を取り巻く、たいまつの火。

 その光に、ギラギラと輝く透明な巨人、3体。

 すーーーっと、音もなく、透明な剣を持ち上げる。

 

 そいつは、透明な身体をしておる。

 そいつは、身の丈10尺(約3メートル)の巨体である。まあ、鬼神よりは小さいけれどもだ。

 そいつは、顔らしき顔はなく、目すらなく、ただぼんやりとした光が、頭の内部に輝いておる。

 そいつは、透明な大剣を持っておる。ほとんど見えぬほど透き通った大剣である。

 

「ふん」鬼神は笑った。「透明な鬼もどきよ。どかぬのなら、粉々にしてしまうぞ!」

「粉々になるのは、どちらですかに?」

 暗闇から甲高い声がした。女の声である。

「内通者の奪還に参られたようやが、飛んで火に入る夏の虫。

 野蛮なる赤猿がそのように動くであろうこと、こちらは予想済みえ。

 降服するなら、いまのうちやが?」

 鬼神は声の元を見た。が、どこに居るかわからん。たいまつ持つ兵の後ろに隠れとるようである。

「我らは猿にあらず。鬼と称す。

 私は、鬼どもの神、鬼神。

 友人である博士の、亡命のお手伝いに参った。

 おまえは誰じゃ? ねずみのごとくコソコソしおって。

 博士を訴えたのは、おまえか?

 名乗ることを許す。答えるがよい」

「はっ。赤猿ふぜいが、なにを偉そうに。

 私は魔術大学は人形学科の教授、クリスタル。

 我が名、我が誇り、我がわざの粋たる水晶の剣士が、貴様を殺す」

「我らは! 猿に!! あらず!!!」

 鬼神はもんのすごい大音声で怒鳴った。

「鬼と、鬼神と、たったいま、名乗ったであろうが!

 いち種族全体を侮辱し、神の名乗りを侮辱する、礼儀を知らぬ愚か者め!

 野蛮人はどちらだ! クリスタルよ!」

「ひっ・・・」

「一度だけ、訂正する機会をやろう!

 いま訂正せぬのなら、二度と機会はないと思え!」

「す・・・水晶剣士よ! やってしまえ! 早う、その、不愉快な赤猿を、殺せ!」

<・・・声の主らしき女、逃げます>

「ふん。ま、後でよかろう」

 

 ズシーン・・・ズシーン・・・。

 

 先ほど鬼神が聞いた足音がする。

 『水晶剣士』とやら。その足音からして、体重は鬼神より重そうである。

 あの剣。喰らったらどうなるんであろうか? ──と、鬼神は考えた。

 若いときの鬼神なら、なんも考えんと突っ込んで3体を相手にしたかもしれん。

 だがいまはちがう。

「喰らわんとこ」

 鬼神。しゃがんで、玄関の崩れた石材を拾う。人間の頭ぐらいある石材である。

「それ、『力』のルーンっと」ブン投げる。

 

 がきぃん!

 

 眩い光が、夜闇を切り裂く。

 水晶剣士の1体に命中した──はずの石は、透明な剣によって、弾き飛ばされてしもた。

「受けただと!? それに、いまの光はなんじゃ? まるで、雷・・・」

 水晶剣士の反撃。

 3体が連携し、右から、左から、真上から、透明な大剣を振り下ろしてくる。なめらかな動きである。

 いくら鬼神が素早いというても、振り下ろされる剣の先端より素早く下がることはできぬ。

 受けるしか、ない! 3本すべて!

 鬼神。

 無表情、無感情に、すっと手を出した。

 正面に2本。左に2本。右に2本。

 六腕でもって、3方向の同時攻撃を、すべて受けにゆく!

 剣ではなく、その根元を。相手の手首を、クロスチョップで!

 見事! すべて、受け止めた!

「どうだ! 無心の受け!」

 だが。

 バチィン! ものすごい音! 眩い光!

 鬼神の手首から全身に、電撃流れる!

「ぐわっ」

 鬼神、全身を叩かれたようなショックで、硬直。

 3方向を受け止めた、その3方向すべてから、電撃を浴びせられたのである。

 せっかく止めた相手の手首を掴むこともできぬ。それどころか、ガクッと体勢を崩してしまう。

 水晶剣士、振りかぶる! 透明大剣、鬼神目掛けて振り下ろす!

 脳天に! 脇腹に! 背中に!

 鬼神かろうじて身をよじり、脳天直撃だけは回避する。だが、左右の剣は避けれぬ! 受けれぬ!

 縮こまった腕に、そして背中に、透明大剣命中。

 鬼神の巨体、ぶった斬られる!

 バチィン! 電撃! 電撃!

「ぐはっ。ぬはっ」

 鬼神、また硬直。

 そしてなんと、これまで一度も破けることのなかった国王の服が、ばっさりと、切り裂かれた。

 鬼神、斬撃をまともに浴びても血の一滴も流さぬが、硬直した身体がうまく動かぬ。

 次の斬撃が来る。それがわかっておっても、対処できぬ。なんもできん! ハメ殺し!

「父上! なにを遊んでおる!」

 次男が飛び込んできて、メイスで水晶剣士をぶん殴った! 命中! ──電撃!

「ぐわああ!」次男ビリビリ痺れて直立し、後ろにぶっ倒れる。

 ぶわっさ!

 暗闇の天空から、赤い影が落ちてくる。アーマード・鬼神台! 水晶剣士に体当たり! 命中! ──電撃!

 ぶぶぶわわわっさ!!! 鬼神台、バリバリ痺れて地面に激突!

 

「息子よ! 相棒よ!」

 鬼神、カッとなった。

 次男と鬼神台の加勢によって、左右2体の水晶剣士はノック・バック! いますぐの攻撃はない。

 だが残る1体は、そのまま鬼神に斬りかかってくる。

 鬼神、まだ棒立ちのまま、身体が動かぬ!

「おのれ。ええい、『力』のルーン!」

 

 どん!!!

 

 鬼神!

 身動きできんまま、棒立ちのまんまで、『力』のルーン!

 自分の身体を槍とし、水晶剣士に、頭突き!

 動かん身体の代わりとして、『力』のルーンのパワーのみで、敵を突き飛ばす!

 正面の水晶剣士、夜空に高々と、吹っ飛んだ! だが電撃!

「ぐわあ」

 鬼神、頭のてっぺんに電撃を喰らい、悲鳴を上げる。

「くそっ、なんたる強敵じゃ! 禿げて(はげて)しまうわ!」

 怒鳴るや、地面に落ちとる石材を左右の手で拾い上げ──

「だがもう喰らいはせぬ! そっちが喰らえ! 石材張り手!」

 

 どかあん!! どかああん!!!

 

 石材そのまま、水晶剣士をぶん殴った!

 水晶剣士、剣で受けるも、『力』のルーン! 空高々と吹っ飛ばされる! 2体それぞれ、彼方彼方(あなたかなた)へ!

 ばちぃんと電撃走るも、石材挟めば鬼神にゃまったくノーダメージ。

「はあはあ。見たか! バチバチ剣士め!」

 ぶすぶすと焦げ臭い煙を立てながら、鬼神いばる。

 空高く吹っ飛ばされた、3体の水晶剣士。放電の白い輝きを放ちながら、それぞれどっかへ落ちてった。

<・・・あ、惜しい>

「何がじゃ?」

<逃げた女の目の前に、1体が落ちたのです>

「惜しくないわ!」鬼神は笑った。「かわいそうだろうが。そんなんで死んだら」

 

 水晶の剣士で鬼神を苦しめた、女魔術師のクリスタル。

 逃げとる最中に、目の前に水晶剣士が落ちてきて、粉々になった。

 クリスタル。恐怖のあまり、腰を抜かす。

「あなや。これは鬼神の最後通告にちがいなし。おまえなんぞ、いつでも殺せると・・・」

 泣きながらお詫びの手紙を書き、金銀財宝を積み上げて、鬼神の許しを乞うたという。

 

「・・・水晶剣士が、負けてしもうた」「上位ゴーレムを、3体も」「まさに、神・・・」「鬼どもの神」

 ハイエルフどもが、つぶやく中。

 鬼神は次男を助け起こし、鬼神台を助け起こし、悠然と(ゆうぜんと)退却する。

「それでは、ハイエルフよ!

 鬼どもの神、エスロ博士の亡命を手伝うの巻(まき)は、ここまでじゃ!

 ご協力を感謝する! さらばじゃ! わっはっは!」

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