六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

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空飛ぶルーン魔術師(後)

◆ 6、空飛ぶ防衛隊 ◆

 

 エスロ博士を監獄から救い出し、かっこつけて引き揚げた、鬼神たち。

 だがしかし。

 本当に大変だったのは、この後だったんである。

 

<敵魔術兵、9人。急速接近中。たこ3、撃墜されました>

 たこが、妙雅の声で警告する。

 鬼神はそのたこを、左中腕で握っておる。

 さらに、両下腕では次男を支え、両上腕では鬼神台の手すりを支え・・・

 かなりの急角度で上昇してゆく鬼神台に、しがみついておる。

 妙雅は遠い。まだ、その影すら見えておらぬ。

「息子よ、息子よ。しっかりしろ」

 鬼神、次男を励ます。

 次男は、水晶の剣士の電撃で気絶してしまい、まだ目を覚まさぬ。

 同じく電撃にやられた鬼神や鬼神台は平気だが、人間の身には厳しかったようである。

 鬼神は前を見た。

 エスロ台が飛んでおる。うつ伏せのエスロ博士を、コボルド奥さんが支えておる。

「水・・・水を」

「はい。ここに」コボルド奥さんが水筒を渡しておる。「干し肉もございますが?」

「いえ、肉は・・・」

 博士はなんとか水を呑むが、咳き込み、苦しそうである。

 鬼神はきびしい顔をした。

「妙雅よ。追いつかれそうか?」

<はい。すぐに>

「ぬう!」

<こちら大将。いまから壱号で出る>

 たこから、今度は長男の声がした。

「おう。無理はするな。おまえらが『魔弾』を喰らったら、落ちるぞ」

<わかっておる>

「くそっ。あのキラキラ人形に、時間を使いすぎたわ!」

 鬼神、歯噛みしつつ、後ろを見る。

 夜目利く鬼神。見つけたくないものを、見つけてしまう。

 小さな粒。こちらに向かって真っ直ぐ突っ込んでくる。

 空飛ぶ魔術兵の一隊である。

「追いついて来おった!」

<父上。下手に暴れるより、止まって名乗りを上げてはどうか。形だけ交渉をして、時間を稼ぐのだ>

 大将が提案。鬼神はうなずいた。

「わかった。──エスロ台は先にゆけ!」

「いえ。お供いたしまする。げほげほ」とエスロ博士。「私が逃げては・・・敵も、話を、聞きますまい」

「・・・うむ。それはそうだが。博士を助けに来たのに」

 鬼神は焦った。

 戦の勘が、『私の手に余りそうだ』と警告を発しておるんである。

 とにかく戦場が悪すぎた。空の上では、鬼神にはどうにも・・・。

「ご心配には・・・及びませぬ。鬼神さま」博士はやつれた顔でニヤッと笑った。「私にも、切り札がございまする」

<私も試作機を出します。まあ、よくて敵1人止める程度ですが・・・>

 と妙雅が言うと、エスロ博士が、胸元に抱えとるたこに話しかけた。

「妙雅。私に、考えがある」

 

 小さな粒は、すぐに人のシルエットとなった。

 おそろいの青灰色の制服を着た、スマートな魔術兵どもである。

 青灰色のレザースーツと、かぶと。軽装であるが、しっかりと煮固められ、手入れがされておる。

 武器や盾の類は一切なし。飛ぶのに邪魔だからであろう。

 中央の1人だけが、白いタスキを掛けておる。

「追いつかれた」鬼神はエスロ博士に呼びかけた。「博士、ここで止まろう」

「はい」

 鬼神台、エスロ台、減速して、止まる。

「──停止! 半球陣!」

 白いタスキの人物がそう命令して、敵部隊も止まった。

 鬼神たちを圧迫するような、1-4-4の半球形の陣を描いて。

 1は白いタスキの男。鬼神から一番遠く。

 4は上下左右に広がった中列の4人。最後の4は、これを45度ねじった配置の前列4人である。

 ピタッと、一瞬で、その陣形に展開して見せたんである。

「・・・『魔弾』の射程か?」と鬼神。

「はい」とエスロ博士。「8人は、鬼神台を射程に入れておりまする。隊長は、射程外」

「手練れ(てだれ)だのう」

「はい。あな制服、荒風の首都防衛隊。熟練中の熟練兵ですえ」

 鬼神はうなずき、敵に向けて怒鳴った。

「魔術師どもよ! こんばんはだ! なぜ、我らを追跡するのか?」

 半球陣の中心である白タスキが一礼し、返事をする。

「お初にお目にかかりまする。巨人の国の、国王陛下とお見受けするが?」

「いかにも! 鬼どもの神、鬼神! そなたらは、どこのなんという部隊かな?」

「我らは、荒風寺院、首都防衛隊。私は、隊長のフォームですえ」

「そうか。で、フォーム殿。こんな夜更けに、さんぽかな?」

「防衛出動にございまする」隊長、クソ真面目に答える。「・・・ところで、1つ質問をよろしいか?」

「なんじゃ?」

「陛下がお乗りの、その飛車(ひしゃ)は──生きものですに?」

「む」

 

 ちょっと意外な質問で、鬼神は意表を突かれた。

 博士をどうするのかとか、監獄を破ったのは陛下ですねとか、そういう質問が来ると思ったら。

 しかし、これはこれで、重要な質問。

 鬼神、必死こいて、考える。

「・・・空飛ぶ台のことは秘密にしておきたい。のだが、」

 空飛ぶ台の性能は、できれば、敵には秘密にしておきたい。

 それで、外交なんかでは、うやむやな表現で誤魔化しておったのだが。

「──のだが、おそらく、こやつら『生命探索』をしとるであろう。

 生きものだとの、反応を掴んだ上で、わざと訊いておるのだ。なんでじゃ?」

 鬼神。考えるが、隊長の意図がわからん。

 開き直る。

「まあええわい。どうせバレるなら、空飛ぶ一族の未来のために、かっこよくバラそう!」

 

「いかにも!」

 鬼神。鬼神台を親しげにぽんぽんと叩いて答える。

「私が乗っておる、この台は、生きものである!

 これまでこの世に居らなんだ、魔術とからくりの生きもの。

 空飛ぶ勇者にして、我が相棒! 『鬼神台』と申す!」

「なんと・・・!」

 隊長、ちょっとのけ反る。

「ただの飛車などとお呼びして、失礼をしました。鬼神台殿」

 ぶわっさ。鬼神台、鷹揚(おうよう)に答える。

「エスロ博士が乗っておられるのは、エスロ台じゃ。この一族の太母(たいぼ)にあたる」

「初めまして。御母堂」

 ぶわっさ。エスロ台は油断なく冷静に答える。

 ・・・。

 ぶわっさ? 弐号が『ちょっと?』っちゅう感じで鬼神を見た。

「あ、こやつは弐号じゃ。鬼神台の兄弟であり、我が近衛の相棒である」

「初めまして、弐号殿」

 ぶわっさ! 弐号めっちゃうれしそうである。

「いやはや、この世の不思議を見た気分ですえ。お答え頂き、ありがとうございまする」

「なんの」

 鬼神と隊長。睨み合う。

「──では、死刑囚エスロをお引き渡し頂けますかに?」

「おやおや! こちらが質問をする時間はもらえぬのか?」

「陛下の時間稼ぎには、すでにじゅうぶんお付き合いいたしましたえ」

 フォーム隊長、さらっと受け流した。

「引き渡しに応じて頂ければ、陛下の監獄襲撃は見逃すと、長老会議の許可を得ておりまする」

「それはおかしな話じゃ。貴国とは、いまだ戦争中。戦闘行為をしたといって、咎められる筋合いはない」

「監獄襲撃、死刑囚の脱獄幇助(ほうじょ)は、戦闘とは言えませぬ。統治への干渉ですえ」

「私は、大切な共同研究者であるエスロ博士の亡命をお手伝いしただけじゃ。

 その過程で貴国の軍人と戦闘にはなったが、民には一切手出しをしておらぬ。

 非道な行為は一切しておらん。

 ──山に火を放つような、非道な行為はな」

「・・・尋常な戦闘ならば、咎めるべきでないと、こうおっしゃいますに?」

「そうだ」

 隊長は微笑んだ。「では、『尋常な戦闘』にて、死刑囚を奪還させて頂きまする」

「ちっ」

 鬼神。舌打ちしたが、表情はにやけておる。

「礼儀正しい戦士だのう。さすがは、首都の守り手じゃ」

「光栄にございます。非戦闘員の離脱は認めますゆえ、どうぞ」

 鬼神は博士を見たが、「死刑囚はだめですえ」と隊長に釘を刺された。

 エスロ博士は自信ありげに微笑む。

 コボルド奥さんは「私は戦闘補助員にございます。遠慮はいりませぬ」と胸を張った。

「・・・。」

 鬼神は腕の中の次男を見る。

 甲冑を着た次男を非戦闘員ですとは、鬼神には言えなんだ。

「もう、話には付き合うてくれんのだな?」

「構えられよ! 構えずとも、参りますぞ!」

「──おう! かかってくるがよい、堂々たる魔術兵どもよ!」

 隊長と鬼神が、互いにかっこよく戦闘開始を告げた、その直後。

 

「包み込め。『闇』のルーン!」

 エスロ博士の声がして。

 

 全き(まったき)闇が、戦場を包み込んだ。

 

「ぬあっ!?」

 鬼神。

 すっとんきょうな悲鳴を上げる。

 戦場を包んだ闇により、鬼神の眼前も真っ暗。

 それはもう、自分が目を閉じたんかと思うほど真っ暗。いやそれよりもなお暗い。

 鬼神の超常の夜目をもってしても、指先も見えぬ。自分の鼻先すら見えぬ。

「な、なんだこの闇──」

 そして次に。

 

 ポイ。

 

 鬼神。落っことされた。

 鬼神台が、突然、鬼神と次男を振り落としたんである。

 

◆ 7、闇のたたかい ◆

 

「あ、相棒!? なんで、私を、落っことすんじゃァァァ・・・ァ・・・!」

 鬼神の悲鳴が遠ざかってゆく。

 だがその姿、誰にも見えぬ!

 一切の光を通さぬ、全き闇! 戦場を、包み込んでおる!

「なにえ? この闇!?」

 フォーム隊長も驚いたらしい。そのような声がした。

 だが、さすがは首都防衛隊。すぐに立ち直る。

「動くな! 全員停止。動く生命反応に『蛇魔弾(じゃまだん)』!

 ──棘(とげ)立て、守れ、『茨の城』!」

 隊長の詠唱に。

 

 どん! ばん! どがぁん!! どぉん!

 

 大きな音が、交錯した・・・。

 

 ──さて。

 この戦闘なんですがね。

 鬼神は、このあと何がどうなったか、さっぱりわからんのだ。

 なんせ戦闘開始と同時に落っことされましたのでね。

 では、誰がこの戦闘の話を、みなさんにお伝えするのでしょう?

 妙雅です。

 鬼神台やエスロ台が戦い、妙雅がまとめた戦闘のありさまを、みなさんにお伝えすることになる。

 ここから先は『妙雅の戦闘レポート』とでもいったものになるわけです。

 

 では、時系列に沿ってお話しいたしましょう──

 

 戦闘開始。

 エスロ博士が『闇』のルーンを発動。戦場を闇で包みます。

 博士がこんなルーンを持っているとは、誰も知りませんでした。

 それもそのはず。『闇』のルーンは、博士の氏族に代々伝わる秘中の秘。

 遠い遠い昔に、ヒョロリと氏族を訪れた旅人が、気まぐれに贈ってくれたルーンなのだそうです。・・・どっかで聞いた話ですね?

 ともあれ、博士は秘伝のルーンを、この夜の戦闘に投入したわけです。

 

 次に、鬼神台が鬼神と次男を振り落としました。

 落ちた次男を救うため、弐号は急降下。戦場から離脱します。

 これは打ち合わせどおりの行動です。

 

 そう。打ち合わせ。

 

 エスロ博士が、おっしゃってましたね? 敵に追いつかれる前に。

「妙雅。私に、考えがある」と。

 あのとき、博士は妙雅にこう指示をしたのです。

「私が、闇を出す。一切の光を通さぬ、解除もできぬ、ルーンの『闇』え。

 闇が出たら、即座に全力で攻撃を仕掛けよ。誰がどう動くかは、妙雅、そなたに任す」

<はい!>

 妙雅は、高速通信で打ち合わせをしました。

 空飛ぶ台の一族は、声を出さずに通信ができるのです。それも、人間より遥かに高速に。

 博士はこれを知っていた。ですから、妙雅に任せたわけです。

 打ち合わせの要点はこうでした。

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 敵は『生命探索」を使うであろう。しかし、探索反応はぼんやりした光で、敵味方が区別できない。

 一方、空飛ぶ一族は高速通信で敵味方の識別ができる。よって、乱戦に持ち込むべきである。

 

 1、鬼神台は乗り手を落とし、突撃。敵の陣形を壊す。

 2、弐号は次男をすくい、妙雅へ帰艦。

 3、エスロ台は動かず、『魔弾』で攻撃。

 4、壱号も敵陣を乱す。大将が負傷したら、すぐに退却。

 5、最悪、妙雅で体当たりを掛ける。それまでエスロ博士を守り抜くこと!

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 打ち合わせどおり、鬼神台は突っ込みました。

 しかし敵隊長の反応が早かった。先に呪文を使われてしまいます。

 『茨の城』。いばらを這い回らせ、即席の城となすというもの。これが敵陣の内部に張り巡らされた。

 鬼神台は、この茨の城に突っ込む形になってしまいます。

 『力』のルーン!

 どん! と空気を鳴らして、瞬間的に加速。神速の突撃!

 棘立つ城にガリガリと、かぶとがにアーマー削られつつ──

 どがぁん!! 敵魔術兵に、頭突き! 敵失神、撃墜!

 これで、敵は残り 7人+隊長 となりました。

 ・・・鬼神台は勇敢だなあ、と思うでしょう? 後で確認したら、突撃するのに必死で、状況がよくわかってなかったそうです。

 

 弐号。落っことされた次男を追って離脱。この戦闘にはもう登場しません。

 

 エスロ台。

 『魔弾』の呪文を詠唱。

 ばん! と魔弾ぶっ放し、どぉん! と敵前衛を撃ち落とす。

 残り 6人+隊長 です。

 ・・・博士じゃないですよ。エスロ台ですよ。これも、誰も知らなかったのですが。なんか、博士がイタズラでエスロ台に『魔弾』教えたらしいんですよね。空飛ぶ台が呪文使えるかどうかの実験も兼ねていたそうですが。どうも、エスロ博士の組は秘密が多いですね。

 

「ぐっは!」「敵飛車、突撃!」「い、茨を突っ切った!?」「げほっ・・・ま、魔弾・・・!!」

 魔術兵の悲鳴。

「動くな!」隊長が重ねて指示。「動いては、思うツボえ! 停止し、動くものに『蛇魔弾』、撃て撃てぇ!」

「了解、『蛇魔弾』!」「蛇魔弾!」「蛇魔弾!」

 残った6人の魔術兵が、鬼神台に集中攻撃。

 

 『蛇魔弾』。

 黒いへびのごとき魔弾を放ち、敵を追いかけて、噛みつかせる、という呪文です。

 飛行中は実体のない影のごとき姿で、敵に接触した瞬間、実体化して、噛みつく。

 盾で受けれず、誤射も起きないという、特殊な魔弾です。

 困ったことに、闇の中ではまったく知覚できない呪文でもあります。

 

 この蛇魔弾が、全弾命中!

 Uターンしようとした鬼神台に、ガブリ!

 かぶとがにアーマーに、ガブリ、ガブリ、ガブリ! いのししのごとき、強力な噛み付き!

 かぶとがにアーマーは噛み砕かれ、ばらばらになってしまいます。鬼神台、アーマー喪失です。

 鬼神台はびびらない。

 その場で猛烈に横回転!

 自分に絡みついている『茨の城』、そして砕かれたアーマーを、四方八方に飛ばす!

 アーマーは革ヨロイを貫けず。ですが、いばらムチは敵兵1人を撃ち落としました。

 残り 5人+隊長 です。

 

 ここで味方援軍が到着。

 これが初陣の、壱号です。大将御自ら騎乗しての初陣! ・・・でしたが、闇の中なので、誰もその雄姿を見れませんでした。

 大将はうつ伏せになり、妙雅のパネルをつばさのように持っておりました。妙雅のボディに使われている、あの黒い床パネルです。

 大将に「何でもいいから武器になるものを出せ」と言われて、妙雅が出したのです。他に、黒い八角柱、建築ユニットのボディや鉤爪、でっかい鎖、ねじなどを出したところ、「いらんわ!」と怒られました。

 鬼の兄者、お盆みたいに軽々とパネルを持つ。

 それを壱号が当てに行きます。パネルで、お盆チョップ!

 残り 4人+隊長 です。

 

 エスロ博士が『蛇魔弾』。

 博士も『生命探索』を使っています。敵が「停止」と言っていたので、止まっているものを敵と見て撃ったそうです。

 見事命中しましたが、博士は激しく咳き込んでしまい、もう詠唱ができなくなってしまいます。

 エスロ台が『魔弾』。

 壱号&大将のパネルチョップ。

 合計3人を仕留めて、残り 1人+隊長 です。

 

 鬼神台。敵兵に突撃。しかし、その直前に隊長の指示。

「移動を許す。回避せよ! ──『蛇魔弾』!」

「了解──『ステップ』!」

 敵兵、消滅。鬼神台を回避!

 ・・・上空に出現!

 『ステップ』は垂直テレポート呪文です。消耗の大きな呪文で、連発は難しいそうですが、敵兵はここ一番で見事に鬼神台をかわしました。

 鬼神台。『力』のルーンで強引に方向転換。上空の敵兵を追撃しようとします。

 これは失敗でした。

 隊長が蛇魔弾を撃ったのに、足を止めてしまったのは。

 ちょうど着弾するタイミングで、鬼神台は宙返りに近い急上昇をしようとしていて──

 

 バキィイイン!!!

 

 ものすごい音がして、鬼神台のボディは、まっ二つに破断してしまいました!

 『力』のルーンで無理にカーブをしたため、鬼神台のボディは限界ギリギリの負荷を受けていました。

 そこに蛇魔弾がヒット。ボディの強度が下がり、一瞬で破断してしまったのです。

 鬼神台、破断のショックで吹っ飛びます。ボディの残骸を撒き散らしながらグルグルと激しくロール(横転)。制御不能となって、落下してゆきます。

 鬼神台、撃墜です。

 

 突撃をまぬがれた敵兵、『蛇魔弾』。

 大将に命中。大将は肩から出血。壱号は打ち合わせどおり、即座に退却。

 これで、味方はエスロ台のみとなりました。

 そのエスロ台が『魔弾』。敵兵を落とす。

 敵も、フォーム隊長のみとなります。

 一騎討ち。

 互いに、魔弾の射程外。

「エスロ博士」

「げほげほ・・・はい」

「『浮遊』の準備をされよ!」

 そう告げると、フォーム隊長は突っ込んできました。

 射程に入るやいなや、隊長とエスロ台の双方が『魔弾』を詠唱──

 

 ごつん!

 

「ぐっは」

 あとちょっとで『魔弾』が発動するというところで。

 上空から降ってきた、何か固いやつが、隊長に激突。

 隊長は頭を強打されて詠唱に失敗。そこに、エスロ台の『魔弾』が命中。

 隊長、撃墜です。

 

 何か固いやつの正体。

 建築ユニットでした。

 妙雅が試作機で戦場に運び込んで、上から落としたのです。

 顔面にしがみついて邪魔する予定だったのですが、失敗。落下して、ぶっ壊れてしまいました。

 ま、結果オーライです。

 ちなみに試作機というのは大型のたこです。足が遅く、攻撃手段もない。建築ユニットが外れたら体当たりするつもりでしたが。

 隊長が気付かなかったのは、からくりだから。『生命探索』に反応しないからですね。

 

 気を失った敵魔術兵ども。ふわ~~~んと、羽毛のごとくゆっくり地面に落ちてゆきます。

 これは『浮遊』という呪文の効果。自由落下が始まったら発動するようにして、離陸前に唱えるそうです。

 とっさに唱えても使えるんですが、気絶することもありますからね。条件発動で仕込んでおくわけです。

 

 戦闘終了です。

 戦場に残ったのはエスロ台だけという、壊滅状態での辛勝でした。

 いやあ、闇の戦いって、本当に恐ろしいですね。

 

◆ 8、鬼神台、はだかになる ◆

 

 戦い終わって、地上。

 ぶわっさ。

 ぶわっさぶわっさ。

 ぶわっさぶわっさぶわっさ。

「うーん・・・」

 鬼神。

 羽ばたきの音に、ぼんやりと覚醒した。

「うるさい・・・ぶわっさぶわっさと・・・ぶわっさ!? その声、相棒か!」

 飛び起きる。

 あたりは真っ暗。

 見回すと、どうやら、深い穴の中に埋もれとるようである。

「またか。この状態。覚えがあるぞ」鬼神うんざりする。「あれだ。落っことされて、地面にめり込んだな」

 その通りである。

 鬼神、穴をよじ登り、フチに出る。

「相棒! おまえよくも、私を落っことしてくれたな!」

 穴から這い出て、文句を言いつつ、声のするほうを見ると。

 

 ああ! なんとしたことか!

 鬼神台!

 そのボディ、真っ二つ!

 中身見えとる状態で、横倒しになっとるではないか!

 

「お・・・おお! あ、相棒!?」

 ぶわっさ・・・。

 いままで騒いでおった鬼神台が、力尽きたかのように、無言になる。

「な・・・なんと!? おまえ・・・そんな状態で、私を起こそうとして!」

 鬼神はばたばたと穴を出て、相棒に近付いた。

「アーマーは、かぶとがにアーマーはどうしたのじゃ!」

 

 あのかっこええかぶとがにアーマー、見る影もなし。留め具としっぽが残るのみ。

 つややかな赤いボディ、ズタボロ。

 鬼神台、はだかのごとき姿である。

 中身丸見え。土まみれ。最重要パーツである呪文版も、あらわに見えてしまっておる。

 横倒しのまんま、起き上がる力もないようである!

 

 鬼神。

 相棒に手を伸ばすが、寸前で凍りついた。

『指一本触れるな!』

 という、巨人の王の怒鳴り声が聞こえた気がしたんであった。

 ばかめ。それで良かったんじゃ。もしこのとき、乱暴に揺さぶったりしとったらば、鬼神台は本当に死んどったかもしれぬ。まったく、紙一重のところだったというわけじゃ。

 ・・・そうして、紙一重でなんもせずに凍りついたところに、今度は本物の声が聞こえてきた。

「父上ぇ! 触るなあああああ!!!」

 三男である。

 弐号に乗って、上空から降りて来た。

 鬼神、大喜び。天をあおいで、六腕でこっちじゃこっちじゃと招く。

「息子よ! 早う、助けてくれ! 相棒が」

「わかっとるから! さ、わ、る、な!!!」

 

 そして、半刻(1時間)。

 

 鬼神は自分が落っこちた穴に、風呂にでも入っとるかのごとく入って、寄り掛かっておる。

 その視線の先にあるのは、黒いパネルと、ワイヤー。

 ワイヤーを点検する三男。ワイヤー繋がれた空飛ぶ台。エスロ台、壱号、弐号。

 

 そして、黒いパネルに横たえられておる、あわれな姿の鬼神台であった。

 

 はだかの鬼神台の、吊り上げの光景である。

 鬼神台、もはや自力で飛ぶことができん。巨大なもんで、エスロ台や壱号弐号では乗せてやることもできん。

 そこで三男と妙雅がひねり出した救出方法がこれであった。

 妙雅の黒い床パネルを地面に並べ、建築ユニットが急ぎ溶接して、即席の平パレット(荷物台)を作成。

 この下にワイヤーを通し、鬼神台を包み込むごとくして、3台の空飛ぶ台で運び上げようと言うわけである。

 

「おい。大丈夫なのか。たのむぞ。ほんとに」

 ワイヤーを点検しておった三男が、パネルから離れ、うなずく。

「大丈夫じゃ。あとは妙雅に乗せるだけじゃ。大丈夫、うまくいく」

<よろしいですか?>

 と、鬼神の頭に乗っかった、たこ。

「待て。一気に上げるんじゃない。まず試しに、1尺(約30cm)だけ上げてみよ」

 ぶわっさ。

 エスロ台が静かに答え、浮上する。ワイヤーが張ったところで空中停止。

 壱号が同じように浮上し、停止。弐号も同じく、ワイヤーが張ったところで停止。

 そして3台、エスロ台の「ぶわっさ」を合図に1尺上昇。

 ぎしぎし・・・パネルがきしむ。そして、たわむ。

 吊り上げられた鬼神台が、ぐらーり・・・ぐらーり・・・と揺れる。

「ぬう」

 鬼神は泣きそうになった。

 しかし、我慢した。エスロ台たちの集中を乱してはいかんと、口を閉じて、静かにする。

「よし。いったん下ろせ」

 三男が指示。パネル着地。三男、ワイヤーを再度点検。パネルも点検。

<・・・いま敵の援軍が来たら、非常にまずいですね>

 と、鬼神の頭の上の、たこ。

「ばかめ! いらんことを言うな!」と鬼神は思ったが、意識して口を閉ざしとったので言わずにすんだ。

 代わりにこう言うた。

「なんもまずくはない。地上なら、私がなんぼでも暴れてやるわい。心配はいらぬ」

 ぶわっさ・・・。鬼神台がうなる。

「相棒。いまはしゃべるな。直ったら、いくらでも聞いてやるからのう」

 ぶわっさ・・・。

 鬼神は目をそらした。

 どうも鬼神台は、動けぬ自分を責めとるようである。なので、話題を変えようと。

 横を見る。

 闇の半球があった。

 でっかい。妙雅がすっぽり入るぐらいの、全き闇である。

「博士よ」鬼神は、闇に呼びかけた。「それは・・・いつ、元に戻るんじゃ?」

 すると。

 コボルド奥さんの声が、闇の中から返ってきた。

「・・・次にお日さまが昇るまで、元には戻せませぬ。申し訳ございませぬ。とのことです」

「なんと。そんなにか」

 闇の半球の正体は、エスロ博士であった。

 博士。自分を中心に『闇』のルーンを発動したそうである。

 そうすると、効果が切れるまで、もうずーっと、博士中心に闇がついてくるんだそうである。

「・・・力の加減に慣れておらぬせいで、このようなことになり、まこと面目ございませぬ。だそうです」

 コボルド奥さんの声。

 博士は消耗しとるため、彼女が側について大声で復唱してくれとるんである。

 コボルドは鼻が利くため、闇の中を出入りするのに人間ほどは苦労をせぬ。それでこうなった。

「いやいや。博士のおかげで助かったのだ。お手柄じゃ」

「・・・恐縮です。とのことです」

 三男が点検を終えて、鬼神のとこまで下がってきた。

「奥さんの鼻、役に立ったじゃろ?」

「うむ」鬼神は苦笑した。「奥さんもお手柄じゃ。しかし、まあ・・・」

「あのルーン、なんか、使い勝手悪そうじゃのう」

「うむ」鬼神は苦笑した。「私は、『力』でよかったわい。使うの、簡単だからな」

「父上には合っとるわな」

<よろしいですか?>

「ちょっと待て。──博士、奥さん、いまから吊り上げじゃ。そこを動かぬようにされよ!」

「・・・了解。だそうです」

「よし。上げてええぞ」

 

 大きな鬼神台がギシギシきしむパネルで持ち上げられてゆく光景は恐ろしかった。

 垂直上昇から水平移動に切り替えた際には、パネルが大きく傾き、あわや落っこちそうになったりもした。

 4台なら安定したであろうが、3台では安定を保つのが難しいんである。

 しかし、エスロ台たちは、やり遂げた。

 鬼神台は無事に妙雅中央甲板に上げられ、彼女の内部に格納されたのであった。

 すでに、長男次男は妙雅内部の部屋で寝かされておった。妙雅の内部はまだ建築中であるが、何部屋か、快適に寝泊まりできる部屋がある。

 鬼神台はそこまで入れんので、降りてきたところでストップ。

 三男がワイヤーを回し、さらにエスロ台・壱号・弐号が周囲を固めた。

<上昇します>

 

 鬼神たちは、ようやく、激しい戦いの空を後にしたのであった。

 

◆ 9、敵の事情 ◆

 

「ただいま・・・」

「まあ、あなた! そのお姿!」

 鬼神が工房に入ると、目がひとつしかない妻が飛び上がった。

 ふるえながら鬼神に駆け寄り、ぐるぐると周囲を回る。

 鬼神、そこでやっと、自分がどういう姿なのか思い出した。

「すまん。国王の服を、台無しにしてしもうた」

「そんなことは!」目がひとつしかない妻、ちょっと跳び上がる。「大丈夫なのですか? 血は出ていないようですが・・・」

「私は大丈夫だ。息子どものほうがひどい。死にはせんと思うが、すぐ診てやってくれい」

 長男は壱号で、次男は弐号で、それぞれ運び込まれてくる。

 目がひとつしかない妻は厳しい表情になり、2人をベットに寝かせるよう指示した。

 鬼神はぐったりした気分で、破れ果てた国王の服を脱ぐ。

 赤きトゲトゲの服はもう完全にだめになっており、かろうじてズボンは直せるかなあ、ぐらいのもんであった。

「やれやれ」鬼神はため息をついた。「この服、気に入っとったのにのう」

「ひどいありさまじゃな」

 三男がとなりに座った。

「うむ」鬼神は追想した。「この服、おまえも手伝ったんであったな。まだ小ちゃかったのに」

「手伝うと言うて、母上の周りをウロチョロしとっただけじゃ。あんなもんは、助手をできたとは言わんのじゃ」

 三男は恥ずかしそうにした。

「・・・ま、帰って来れて、良かったじゃないか。博士も無事じゃし」

「うむ」

「博士、さっき自分の部屋入るとき、なんかにつまずいてコケておったぞ。まったく変なルーンじゃ」

「笑うんじゃないわ」鬼神もちょっと笑ってしもうた。「博士の機転がなければ、もっとひどかったぞ。たぶん」

「まあそうじゃが」

 建築ユニットが、がしょーんがしょーんと入ってきた。

 ギョロリ。相変わらずの悪相でこちらを睨んできおる。

 その悪い目つきと似合わぬ、妙なる声でしゃべる。

<次男殿が目を覚ましました>

「そうか。よかったわい。どれ、見舞いに行っとくかのう」

 鬼神と三男は腰を上げた。

「今回はさんざんじゃったのう・・・」

「うむ」

「最後、あれ、敵が来とったら、ヤバかったじゃろ?」

「じつのところはな」鬼神はうなずいた。「なんで援軍がなかったんかのう? どっか、よそで戦闘でもあったのか」

<さあ?>

 

 鬼神の推測が当たりである。

 別方面で敵対部族から攻撃を受けたため、首都防衛隊は援軍を出せんかったんである。

 そしてこれは、博士を死刑にした強引な裁判とも、関わる話であった。

 

 月見ヶ原の部族。

 この部族が、博士の裁判にも、この夜の焼き討ち攻撃にも、関わっておったんである。

 

 月見ヶ原は、騎兵団を持つハイエルフの部族。荒風寺院とは内戦中である。

 この月見ヶ原、ずーっと前から、エスロ博士を敵視しておった。

「空飛ぶ乗り物とやら、我らの騎兵の価値をおとしめる、恐るべき発明やえ」

「うむ。なんとしても、この世から消さねばならぬ!」

 という理由である。

 緑の魔術の国との戦争のとき、ハイエルフどもが、工房のお山に火をつけましたね?

 あれも、月見ヶ原の作戦であったのだ。

「工房のお山に火をつけ、博士もろとも、何もかも亡き者にすべし!」

 というわけである。失敗したが。

 戦争がうやむやのうちに終わり、内戦となっても、月見ヶ原の工作は続いた。

「巨人はもうよい。あれは手に負えぬ」

「うむ。エスロに的を絞り、必ずや仕留めるべし」

 月見ヶ原は、金を使い、人脈を使い、スカルドを雇ってあることないこと騒ぎ立てた。

 すると。

 面白いように、エスロ博士の立場が悪くなってゆくではないか。

 もともと、魔術大学での立場は弱かった博士である。

 そこに敗戦のショック、内戦突入という不安要素が加わって、みんなおかしくなったんであろう。

 証拠もないのに「博士は裏切り者やえ!」と叫んで回る者が増えた。

 博士は悪くないのを知っておる者も「公正な裁判を」などと言い出した。

 証拠もなしに裁判しようとする時点で、異常、病的なのに。

 

 そんな時機に、当のエスロ博士が、ノコノコと戻ってきたわけである。

「故郷のため、私も軍に戻って戦いたいと思いますえ」と、博士が言うたらば、

「それ来たぞ!」と、博士の敵は叫んだ。「軍に潜り込んで、内通するつもりだ! 捕まえよ!」

 こうして裁判が始まってしもうた。

 もはや月見ヶ原がなんもせんでも、事態は転がってゆく。

 魔術大学の学長までが逮捕されたのは、月見ヶ原からすれば予想外の収穫であった。

「まさか、学長まで疑うとは。荒風は完全におかしくなっておる」

「荒風の者ども、これまでが、うまく行き過ぎやったのえ。

 勝ち続け、国を建て、繁栄をした。この世の春であったろう。

 それが突然、巨人にボロ負け。国も分裂──ショックで、おかしくなったにちがいなし」

「いちど負けた程度でおかしなるとは、やわな奴らやえ」

「うむ。我らには、追い風。反乱をそそのかし、わずかな騒ぎをも、見逃さず利用すべし」

「騎兵を森に潜ませ、騒ぎに合わせて火付けをしてはどうか?」

 

 こんなわけで、月見ヶ原の騎兵団が、首都近郊の森に潜んでおった。

 奇しくも(くしくも)妙雅と同じ日に、同じように森に潜んでおったというわけである。

 そして、鬼神が監獄を襲撃する。

「赤猿、監獄を襲ったとの由」

「おう! ええ時に来てくれたえ。それゆけ!」

 月見ヶ原の騎兵団、出撃。郊外の民家に襲いかかり、火矢放ち、あたりを焼き払った。

 

 やられた荒風寺院の部族。

 激怒した。髪逆立て、長いエルフ耳、真っ赤にする。

「おのれ! 月見ヶ原の馬乗り蛮人めが! 都に火ぃ付けるとは、作法を知らぬにもほどがある!」

「先の戦でも、巨人の国を丸ごと燃やそうとしたえ。都の価値というものが、まるでわかっておらぬ!」

 そこに、一報。

「鬼神を追った部隊、壊滅しました」

「なに!? 首都防衛隊が、空中でおくれを取ったと申すか?」

「はい。敵の飛車、ただの戦車にあらず。空飛ぶ軍馬と思うべしと。

 乗り手が落ちても単独行動をし、猛烈なる突撃を行なう。

 不可思議なる闇、戦場をおおうも、空飛ぶ軍馬の勢い落ちず、惜敗」

「なんと・・・」

 魔術兵ども、ため息。

「生きものという、うわさはあった。まことであったか・・・」

「ああ、手に入れたかった。この目で見たかったに・・・」

 さらに次の伝令。

「フォーム隊長より連絡。部隊全員の生存を確認。マナ切れにつき徒歩で帰還する。

 敵の損害も大、国王陛下を討つ機会なれば、追撃を進言する。──以上」

 伝言を聞いた指揮官。

 一拍だけ考えて、決断。

「月見ヶ原を全力で撃退する」

「鬼神はよろしいので?」

「逃げる宝を見逃しても、民は死なぬ。迫る敵を放置すれば、民は死ぬる」

 

 と、まあ、こんな事情が、敵側にあったのだ。

 このことがわかったのは、ずいぶん後になってから。

 魔術大学の学長がエスロ博士に再会し、ふつうに話ができるようになってからのことであった。

 

◆ 10、空飛ぶルーン魔術師 ◆

 

 エスロ博士。

 日が替わり、元気になった。『闇』のルーンの効果も消えた。

 それで、知り合いと再会することになる。

「博士! ご無事で」

 元助手のネストール。

 博士の死刑を、鬼神たちに伝えてくれた人物である。

「ネストール。私の急を伝えてくれたと聞いたえ」

「はい。いやはや、久しぶりに外を全力疾走などいたしまして、ぶっ倒れるところでしたえ」

「ははは。そなたのおかげで、こうして生き長らえたえ。ありがとう」

「どういたしまして。わっはっは」

 博士はネストールを鬼神にも紹介した。

 身元を疑われておったネストールはこれで信用され、正式に巨人の国の客となる。

「ところで、そなたは今後、どうするつもりじゃ? 我が国に滞在するのなら、ゆっくりしていってよいぞ」

「はい。そのことですが、陛下」

 ネストールが頭を下げた。

「私は博士の助手として、再雇用されることを願っておりまする。

 巨人の国での長期間の滞在を認めて頂けませんでしょうか」

「ふむ?」

 

 ネストールはこのように申し出て、結局、ふたたび博士の助手となった。

 忠誠心だけではない。実利も考えての選択である。実際、ネストールは長いこと生き延び、博士となり、ハイエルフの分厚い歴史書であれば名前が見つかる程度の有名人ともなったのである。鬼神はあんまり関わらんかったので、このお話では、登場はここまでですがね。

 

 ふたたび助手を得た、エスロ博士。

 空飛ぶ『闇』のルーン魔術師である彼は、しばらくは祖国に戻ることなく、巨人の国で研究をつづけた。

 彼の研究は、大いなる災いが世界を襲ったとき、その成果を発揮することになる。

 しかしそれは、いましばらく先の話であった。

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