六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

34 / 93
ここまで、ここから

 六腕三眼、鬼の神(りくわんさんがん、おにのかみ)。
 これは、オーガの神である、鬼神(きしん)のお話です。

 1章は、『力』のルーンを授かった赤猿が、1人けんかの旅をして、「巨人の王の王」となるまでのお話。
 2章では、その赤猿が家族を持って『鬼神』を名乗り、国王となる。そして空飛ぶ生きものの誕生を見届けるお話。

 ここから、すなわち、3章は、家出をした鬼神のお話です。

 譲位をした鬼神。ご隠居なるかと思いきや、なんと! 家を出てしもた。
 あにはからんや暴れ神、ふたたび、さすらいの御身分だ。

 お伴(おとも)は空飛ぶ一族きっての勇士、ガンメタリック・かぶとがに。
 2人でこの世を歩き、めぐり、あちらでドラゴン、こちらで幻と、けんかをする。
 やがては、この世ならぬ宮殿に、たどり着くこととはあいなるのだ。

 ・・・あ、もひとつ言うておきますと、この章は鬼神の浮気のお話でもある。
 妻を放っぽり出して、美しい女に惑わされよった。まったく、どうしようもないやつじゃ。

 それでは、お話しいたしましょう。3章、「月のうみ」。


3章 月のうみ
鬼神、いきなり、けんかする


◆ 1、みずうみのほとり ◆

 

 鬼神、赤い果実を、ぱくりと食べる。

 酸っぱい汁が、口の中に、いっぱいに。

「うまい、うまい」よろこぶ鬼神。「どれどれ、もひとつ」

 六腕のうちの、右上腕。

 にゅーっと伸ばして、つまみ取る。

 人間の、こぶしぐらいのサイズした、固ーい固い果実である。

 枝のあたりは黄緑で、そこから黄色、黄丹色(おうにいろ)、そうして優しい赤になる。

「おお、酸っぱい。うまいわい」

 酸っぱ、爽やか、かすかに甘く、水分たっぷり、実はみっしり。

「・・・ようし。腹ごしらえは、ばんたんじゃ。もう一回、やってみよう」

 ぱん、ぱん、ぱんと、手を叩く。

 どどっと走る。

 六腕がばっと左右に広げ、バタバタ羽ばたき・・・

 波打つ水面に、高々と!

 ジャンプ!

「それ! 『力』のルーン!」

 

 ばっしゃあーん・・・ざぶん、ざぶん。

 

「・・・くそ。やっぱり、だめか」

 鬼神。

 ずぶ濡れ。

 ざぶ、ざぶと、岸に上がってくる。

 いったい、何の奇行か? 羽ばたき、水に飛び込むとは。気でも違ったか?

「よっ! それ、『力』のルーン! はっ! 『向きを変える』!」

 鬼神。

 なおもその場で、ジャンプ、ジャンプ。

 その姿。目にした者あれば『頭のおかしい巨人あり。ぴょんこぴょんこと跳ね踊る』と伝えたにちがいなし。

「くそっ。どうやっても、だめか!」

 鬼神、悔しがる。

 いったい、何をしようとしとるのか?

「『力』のルーンでは、空は飛べんのか。ええ思いつきじゃと思うたのに・・・」

 どうやら、鬼神。

 『力』のルーンで、空を飛ぼうとしとったらしい。

 最後にもう一回、やけくそジャンプ!

 ずるり。ぼて。足すべり、尻もちつく。「あいた!」

 そこに。

 巨大な影が、頭上から、ぶわっさと音立てて近付いてきた。

「うん?」

 

 近付いてきたのは、大砲の色した丸いもの。

 巨大な三日月かぶとに、剣のごときしっぽを持つ。

 つばさもないのに空を飛び、ぶわっさぶわっさと羽ばたきの音させる。

 そのシルエット、かぶとがにのごとし。

 ──ガンメタリック・かぶとがに・鬼神台であった!

 

「なんじゃ、相棒か」

 ずぶ濡れの鬼神、尻もちついて、六腕をつばさみたく広げた、ぶさいくな姿。

 ガンメタ鬼神台、そんな鬼神を目の当たりにして、空中で硬直。

 ぶわっさっさ!

「・・・おまえ! 笑いおったな!」

 鬼神、怒る。

「人がれんしゅうしとるのを盗み見て笑うとは、なんたる奴じゃ!

 何をしに来たのだ。呼んでもないのに。帰れ帰れ!」

 ぶわっさ!?

 ガンメタ鬼神台、怒る。

 ぶわっさぶわっさ! ぶわっさぶわっさぶわっさ!!!

「なんだおまえ! えらそうに! ああん? 私を連れ帰りに来たのか?」

 ぶわっさ。

「ばかめ。私は、さんぽ中じゃ! じゃまをするんじゃない」

 ぶわっさ? ・・・ぶわっさ!

 ガンメタ鬼神台、『さんぽだと?』っちゅう感じで傾き、『・・・ばかを言うな!』っちゅう感じで迫ってきた。

「ええい、うるさい。言うて聞かんのなら、すもうで勝負じゃ!」

 

◆ 2、鬼神と相棒、すもうをする ◆

 

 ざざーん・・・

 波打ち際である。

 透明な水が岸辺に打ち寄せ、キラキラと輝きながら引いてゆく。

 晴れ渡った空に、くっきりと水平線が走っておる。そこまで、なんの邪魔するものもない。

 そんな胸のすくような景色の中で。

 鬼神と相棒、睨み合う。

「いいか! 先に言うておくがな!」

 鬼神。

 ビシッと指差して、怒鳴った。

「私が勝ったら、おまえはとっとと帰るのだ!」

 ぶわっさぁ!

 ガンメタ鬼神台、即答である。こっちもだいぶ怒っとるようである。

 ぶわっさ、ぶわっさ? 鼻面を動かし、剣のごときしっぽをビタンビタン動かして、なんか確認しよる。

「・・・ああ、おまえが勝ったらどうなるのか、と言うのだな?」

 ぶわっさ。

「おまえが勝ったら・・・まあ、好きにしろ」

 ぶわっさぶわっさ!

 ガンメタ鬼神台、怒った。上下にバウンバウンと弾んで怒りを表現した。

「ちっ。だまされんか。はいはい。わかったわかった。

 おまえが勝ったら、私は、黙っておまえに乗る。どこへでも連行するがいい。

 これでどうじゃ?」

 ・・・。

 ぶわっさ。ガンメタ鬼神台、納得した。

 鬼神。

 すーっと、笑いを消して、真顔になった。

「だが、これも言うておくがな。──私は、帰る気はないのだ」

 

 すもう開始。

 まずは両者がっつり組み合って、力くらべ。

 がぶ、がぶ、がぶ。ガンメタ鬼神台、がぶり寄り。三日月ヘッドを上下して、鬼神を突き押してゆく。

 するり。鬼神、巧みにいなして、体(たい)を入れ替える。

 鬼神には余裕がある。受けてやっとるという雰囲気。

 ガンメタ鬼神台、額の大砲を、格納スペースから、かぱっと出す。

 鬼神、大砲を掴み、ばしっと押し戻す。

「甘いわ」

 そう言うや、六腕でもって、かぶとがにボディを挟み込む。

「そりゃ。とっととカエレ! 『力』のルーン!」

 空の彼方へ、ぶん投げんとす!

 ところが!

 ガンメタ鬼神台、びくともせぬ。

「む!」鬼神おどろく。「やるな、おまえ。相殺を覚えたのか」

 ぶわっさ!

 

 相殺。

 相手の『力』のルーンに対し、まったく同じ強さで『力』のルーンを当てることで、動きを殺すわざである。

 これは、鬼神が義父から盗んだわざ。極めて高度な返しわざだ。

 一朝一夕(いっちょういっせき)にできるもんではない!

 それをやってみせるとは、まさに、鬼神の相棒にふさわしい。ナイスガイ、鬼神台。

 

 ふたたび組み合う。がぶがぶがぶ。するり。がぶがぶがぶ。するり。

 かぱっ。ガンメタ鬼神台、また大砲持ち上げる。

 ばしっ。鬼神押し戻す。

「おいおい・・・。そんなつまらん手を、何度m」

 その瞬間!

 

 どん!

 ガンメタ鬼神台、『力』のルーン!

 

「ぬおっ!?」

 ずざざざざーーーーー・・・っと、鬼神。何尋(ひろ)も押し流される。

 すぐに『力』のルーンで相殺しようとするが──その直前!

 鬼神のかかと、引っ掛かる!

「ぬう、木の根!?」

 岸辺近くまで伸びとる、木の根! かかと引っ掛かり、仰向けに、こけてしまう!

 このまま地面に着いてしまえば、鬼神の負けとなる!

「いやじゃ!!! 帰りとうない!!!」

 鬼神絶叫である。

「ぬおおおお、『向きを変える』!」

 ぐるりんこ。

 鬼神、仰向けに倒れながら、身をねじった!

 ガンメタ鬼神台を、引き落とす!

 

 どんばっしゃあああーん・・・!

 

 でっかい水しぶき。

 波が岸辺をざんぶざんぶ洗う。

 白い砂浜メッチャクチャ。砂にめり込む、力士ども。

 鬼神、立ち上がる。

 相棒、砂浜に逆立ちにめり込んで、しっぽ振り回しておる。鬼神が引っこ抜いてやった。

 だばー。

 かぶとがにの巨体から、水と砂が流れ落ちた。

「やれやれ。相討ちだな」

 ぶわっさ。

 

 家出神の去就(きょしゅう)を賭けた、湖すもう。

 引き分けとあいなった。

 

◆ 3、アルフェのみずうみ ◆

 

「じっとしとれ。砂を流してやるから」

 鬼神、大きな手の平で、水をすくっては、ガンメタ鬼神台にぶっかけた。

 ざばー、ざばー、ざばー。六腕なので3セットである。

 かぶとがにボディには、ええ具合に隙間がある。

 砂は、綺麗に流れ落ちてゆく。

「それにしても、ここは綺麗なところだな」

 鬼神は水平線を見渡した。

「晴々した気分じゃ。私は、こんな大きな水たまりを見るの、生まれて初めてだ」

 ぶわっさ。

「おまえも初めてか。そうだろうな。うーむ。うむ」

 鬼神。知ったかぶった。

「なるほどのう。これが『うみ』というものか!」

 

 ちがいます。

 これは海ではない。みずうみなのだ。

 アルフェロンという、巨大湖である。

 その名は『アルフェの実のなるところ』の意。アルフェの実は、さっき鬼神が食っとった赤い実である。万病に効き、腹持ちが良く、保存も利き、さらには果実酒も造れてしまう! 夢みたいな果実なのだ。

 アルフェロンは、南方大陸の半分以上を占める超巨大湖です。

 あまりにでかいので、海みたいに波も立つし、月に従い満干(みちひ)もする。

 南方大陸では知らぬ者なぞ居らんっちゅうぐらいの名所なのだ。

 ・・・が、この巨大湖がどうやって誕生したかとなると、諸説あって定説がない。

 誰も証拠を持っとらんので、水掛け論になってしまうのです。

 ですから今日は、鬼神のお話とつじつまの合う説を1つだけ紹介しましょう。『巨人の涙』説です。

 

──

 『巨人の涙』

 

 アルフェロンは、遥か昔には、深い深い森であった。

 空が見えんほど木だらけで、ハイエルフでも拓けんほど、へびだらけであった。

 この森の近くには、巨人の一族が住んでおり、地震を起こしては人間を死なせておった。

 そこに、鬼神という乱暴者の神さまがやって来た。

 鬼神は地震の巨人に挑戦し、殴り倒した。

 とてつもなくでっかい巨人はぶっ倒れ、森の木は全部折れ、とてつもなくでっかいくぼみができた。

 さて。

 鬼神は倒した巨人の娘を妻にして、息子をたくさんつくった。のちのオーガである。

 息子が成人すると、鬼神は家を出てってしもうた。

 巨人の妻はこっそり後をつけた。だが、くぼみの地に来ると足が止まり、泣き出してしもうた。

 鬼神との出会いの日が思い出され、涙があふれてきたのだ。

 巨人の妻の涙は、見る見るうちにくぼみを満たし、湖となる。のちのアルフェロンである。

──

 

 ──いかがです?

 なかなか、つじつまが合いそうでしょう?

 ですから「六腕三眼、鬼の神」では、この説を採用いたします。

 アルフェロンは、くぼみの地が湖になったものである。とね。

 

 ま、ともあれ、鬼神はこの湖のほとりを歩いたわけです。

 アルフェロンの岸辺、いま私たちも歩くことができるその岸辺を、鬼神もお歩きなさったのだ。

 

◆ 4、ガンメタ鬼神台、きごうをかく ◆

 

「さっきのは良かったのう」

 鬼神、ニコニコして、戦いを振り返る。

「余裕でいなしとるつもりが、木の根っこに誘導されとったとはな。

 さらに、大砲にこだわるフリまでして、私を油断させるとは。

 見事な策略じゃ。相棒。おまえはやっぱり、かしこいのう」

 ぶわっさ。ぶわっさぶわっさ。

「うん? 私も良かったか? わっはっは。まあな!

 『向きを変える』はとっさにやったのだが、なんとか引き分けにできたわい」

 

 『向きを変える』は、鬼神の持っとる『力』のルーンに属する、超常のわざ。

 力の向きをちょっと変えるだけの、地味なわざだ。

 すもうには役に立つ。それ以外で何の役に立つか、鬼神にはいまんとこわからん。

 冒頭、鬼神が奇妙な行動をしとったのは、その試験だったんである。

 『私も相棒みたいに空が飛べたらなあ』という期待があったのだ。

 それを、当の相棒に笑われた。それで鬼神はカッとなったのだ。

 相棒は相棒で、せっかくお伴に来たのに「帰れ」と怒鳴られたので、カッとなった。

 と、まあ、そんな感じである。

 

 ・・・ぶわっさ?

 ガンメタ鬼神台、キラキラと水を滴らせ(したたらせ)ながら訊いてきた。

「なんで帰りたくないかって? そりゃ、おまえ・・・」

 鬼神は手を止めた。

 ・・・? ガンメタ鬼神台、無言でかたむく。

「うーん・・・うまく説明できんのだが・・・。

 さんぽをしないと、だめだという気がするのだ。

 家が嫌いなんではない。奥さんとけんかしたんでもない。

 ただ、家に居ると、私は役に立たんという、そんな気がするのだ」

 ・・・。

 ガンメタ鬼神台、傾きを元にもどす。ゆっくりと、しっぽを振った。

「今回は、引き分けだった。お互い、口出し無用としようではないか。

 私も帰れとは言わん。おまえも帰って来いとは言うな。それでええか?」

 ぶわっさ。

 ・・・ぶわっさ、ぶわっさぶわっさ?

「なに?」

 ガンメタ鬼神台、ぶわっさぶわっさと説明するが、鬼神に通じない。

 困った彼は、地面に記号を描き始めた。

 垂直に立ち上がり(?)、剣のごときしっぽを突き立て、がり、がり、がり。

 みつばちが針刺すがごとくして、こんな記号を描きおった。

 

 □━ ・・・> ┃┃┃┃□┃┃┃┃

 

「なんだこれは。判じ絵か・・・?」

 ぶわっさぶわっさ! ぶわっさ。ガンメタ鬼神台、鼻面で「□━」の部分を何度も指す。

「・・・ああ。これは、おまえか? □が、かぶと。━が、しっぽ」

 ぶわっさ!

「あとのは、わからん。なんじゃこりゃ?」

 ガンメタ鬼神台、身振りとぶわっさで補足説明するが、鬼神には伝わらぬ。

 そのときである。

 ばちゃばちゃばちゃ・・・と、湖が細かく波立ち始めた。

「なんじゃ?」

 地響きがする。

 地面がぐーらぐーらと、横にゆっくり揺れ始めた。

「なんだ。地震か」

 鬼神は相棒の水洗いを再開した。

 砂は綺麗に落ち、水濡れたガンメタリックのボディが、鮮やかに陽光に輝いた。

「じつに美しい色合いだ」鬼神は感心した。「私が一人占めしては、みんなに恨まれそうだわい」

 ぶわっさ。

 ガンメタ鬼神台は簡潔に答えて、鬼神からちょっと離れ、ロール(進行方向を軸とした回転。横転)し始めた。

 ぶぉん、ぶぉん、ぶぉん・・・。タオル振り回すような音がどんどんでかくなる。

 さらに途中で回転軸を少しずつ変えて、変幻自在に回転する。どの方向が軸とも言えぬ、めくるめく回転である。

 まるで水浴びした後の、いぬのごとし。まあ、いぬは空中回転せんが。

 水飛び散り、ボディ渇き、すっかり元通りとなる。

「わっはっは。おまえ、器用に『向きを変える』を使うのう!」

 ぶわっさ。

「・・・さて。さんぽを続けるか」

 鬼神。歩き出す。まだ『さんぽ』と言い張るようである。

 ガンメタ鬼神台。伝わらんかった地面の図を残念そうに眺めたのち、鬼神についてった。

 

 ・・・ガンメタ鬼神台の、言いたかったこと。なんだったのか。

 気になる方には、今回の最後に「おまけ」としてお話しいたします。

 

◆ 5、鬼神、ひとだすけする ◆

 

 翌朝。鬼神は地響きで目を覚ました。

 ぐーら、ぐーら。また地面が横揺れしよる。

「またか。連日だのう」

 ぶわっさ・・・。相棒も目を覚ましたか。ヨレヨレと空中に浮かび上がる。

「なんかの異変の前触れかのう?」

 ぶわっさ・・・?

「ちょっと、空から見てみるか」

 

 相棒に乗って、空を飛んでみたところ。

 めっちゃめちゃになった街が、森の向こうにあった。

 地震で家がひしゃげ、壁倒れ、火事となり、ハイエルフどもが血相変えて走り回っておる。

「大変そうだ。ちょっと行って、助けてやろう」

 2人は空から駆けつけた。

「おおい! 助けに来たぞ。力仕事があったら、言うがよい」

「ひい!? 空飛ぶ大猿!」

「6本腕・・・もしや、ハイエルフの国を滅ぼしたという、鬼神さま?」

 この街のハイエルフは、鬼神のことをよく知らぬらしい。おびえた。

 だが、緊急時。鬼神が瓦礫を持ち上げ、横にどけて見せると、受け入れた。

 鬼神には『力』のルーンがある。崩れた家や城壁を取り除くのは朝飯前なのだ。

 ガンメタ鬼神台は、消火用水を運ぶ手伝いをした。バケツを満載し、空飛んで速やかに運ぶんである。

 そうして火事を消し、救助をしとるうちに、魔術師の一隊が飛んできた。

「部族の魔術師さまがいらっしゃったえ!」

「下がれ、下がれ! 家を壊すに、周囲から離れよ!」

 家を壊しておった(延焼を防ぐためである)消防隊、下がる。鬼神も下がった。

 魔術師ども、ごうごう燃えとる家の前に並ぶ。

「『魔弾』用意・・・撃て!」

 『魔弾』の呪文を一斉に燃える家に撃ち込む。家はぶっ壊れ、ぺしゃんこになった。火が渦巻くが、すぐ下火となる。

「隊長。あちらの瓦礫の下に、生命の反応あり」

「わかった。私がやる。担架を用意せよ──『ステップ』!」

 『ステップ』の呪文は、人間を垂直に上下テレポートさせる。瓦礫に埋もれた人を、一瞬で空中に引き出せるのだ。

 

「見事じゃ」鬼神、感心する。「さすがは、ハイエルフの魔術師」

 ぶわっさ。

「おう相棒。そっちも一段落か」

 救助も火事も一段落。あとは、燃え残りに砂や水を掛けてゆくだけである。

 魔術師どもの隊長がやってきた。鬼神にあいさつする。

「鬼神さまですに? 御勇名は、存じ上げておりまする」

「うむ。鬼どもの神、鬼神。たまたま通りがかったので、手助けをいたした」

「かたじけのうございます。すぐに、宿を手配いたしまする」

「いや。災いのときじゃ。負担をかけとうない」

「そやに、正式な御礼・・・また、貴国との調整もいたしたく、それにはお時間が少々・・・」

 隊長必死。

 そりゃそうだ。ハイエルフからすれば、他国の先代国王(しかも神)に救助された形。

 外交的調整をせねばならぬ! っちゅうわけだ。

 しかし、鬼神。

 そういう手続き、嫌いである。

「しょうがないのう」鬼神、相棒を呼びつつ、言うた。「ではこうしよう。鬼神というのは、うそじゃ」

「は?」

「私の名はリッキー。なぞの六腕鬼、リッキーじゃ! では、さらば」

 鬼神、ガンメタ鬼神台に飛び乗って、逃げる。

 隊長、ため息をつく。「六腕の時点で、謎やありませんに・・・」

 

「そうなのだ。こういうのだ。私がやりたかったことは!」

 鬼神。

 寝っ転がって、御機嫌で、相棒に話す。

 今日はもう遅いので、昨夜と同じ湖岸の森にもう一泊である。

「フラフラと旅をし、人助けをし、さっと去る。これよ!」

 ぶわっさ・・・。

「相棒。そんな気のない返事をするな。おまえが居ったことで、生命が助かった人だって居るのだぞ」

 ぶわっさ。

「だろう?」鬼神、しばらく、嬉しそうにした。「・・・ま、寝るわい。おやすみ」

 

 湖の波の音を背景に、夜は静かにふけていった。

 

◆ おまけ、ガンメタ鬼神台の、言いたかったこと ◆

 

 □━ ・・・> ┃┃┃┃□┃┃┃┃

 

 □━ 呪文版としっぽ。つまり、ガンメタリック・かぶとがに・鬼神台。

 ・・・> 通信。空飛ぶ台同士の、人間には聞こえない高速通話。

 ┃┃┃┃□┃┃┃┃ 呪文版と塔8基。つまり、妙雅(みょうが)。

 

 というわけで、

 

 □━  ・・・>  ┃┃┃┃□┃┃┃┃

 私から 通信で 妙雅に(伝えてもかまわんか?) でした。

 

 じつは、妙雅に頼まれておったんである。

<きしにぃ。ばかなおじちゃんを連れ戻してください。絶対に、連れて帰るように>

 きしにぃ(鬼神台兄ちゃん)。

 鬼神と妙雅のあいだで、板挟みだったんである。

 すもう勝負で引き分けたところで、いったん連絡しておこうと思ったわけだ。

 こっそり通信せず、ちゃんと確認をしたところに、彼の性格が出ていますね。伝わらんかったが。

 

 ・・・で、どうしたかって?

 はい。結局、こっそり通信しました。

 

 鬼神を見つけた。帰らんと言うとる。しょうがないので、ついていく──とね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。