六腕三眼、鬼の神(りくわんさんがん、おにのかみ)。
これは、オーガの神である、鬼神(きしん)のお話です。
1章は、『力』のルーンを授かった赤猿が、1人けんかの旅をして、「巨人の王の王」となるまでのお話。
2章では、その赤猿が家族を持って『鬼神』を名乗り、国王となる。そして空飛ぶ生きものの誕生を見届けるお話。
ここから、すなわち、3章は、家出をした鬼神のお話です。
譲位をした鬼神。ご隠居なるかと思いきや、なんと! 家を出てしもた。
あにはからんや暴れ神、ふたたび、さすらいの御身分だ。
お伴(おとも)は空飛ぶ一族きっての勇士、ガンメタリック・かぶとがに。
2人でこの世を歩き、めぐり、あちらでドラゴン、こちらで幻と、けんかをする。
やがては、この世ならぬ宮殿に、たどり着くこととはあいなるのだ。
・・・あ、もひとつ言うておきますと、この章は鬼神の浮気のお話でもある。
妻を放っぽり出して、美しい女に惑わされよった。まったく、どうしようもないやつじゃ。
それでは、お話しいたしましょう。3章、「月のうみ」。
鬼神、いきなり、けんかする
◆ 1、みずうみのほとり ◆
鬼神、赤い果実を、ぱくりと食べる。
酸っぱい汁が、口の中に、いっぱいに。
「うまい、うまい」よろこぶ鬼神。「どれどれ、もひとつ」
六腕のうちの、右上腕。
にゅーっと伸ばして、つまみ取る。
人間の、こぶしぐらいのサイズした、固ーい固い果実である。
枝のあたりは黄緑で、そこから黄色、黄丹色(おうにいろ)、そうして優しい赤になる。
「おお、酸っぱい。うまいわい」
酸っぱ、爽やか、かすかに甘く、水分たっぷり、実はみっしり。
「・・・ようし。腹ごしらえは、ばんたんじゃ。もう一回、やってみよう」
ぱん、ぱん、ぱんと、手を叩く。
どどっと走る。
六腕がばっと左右に広げ、バタバタ羽ばたき・・・
波打つ水面に、高々と!
ジャンプ!
「それ! 『力』のルーン!」
ばっしゃあーん・・・ざぶん、ざぶん。
「・・・くそ。やっぱり、だめか」
鬼神。
ずぶ濡れ。
ざぶ、ざぶと、岸に上がってくる。
いったい、何の奇行か? 羽ばたき、水に飛び込むとは。気でも違ったか?
「よっ! それ、『力』のルーン! はっ! 『向きを変える』!」
鬼神。
なおもその場で、ジャンプ、ジャンプ。
その姿。目にした者あれば『頭のおかしい巨人あり。ぴょんこぴょんこと跳ね踊る』と伝えたにちがいなし。
「くそっ。どうやっても、だめか!」
鬼神、悔しがる。
いったい、何をしようとしとるのか?
「『力』のルーンでは、空は飛べんのか。ええ思いつきじゃと思うたのに・・・」
どうやら、鬼神。
『力』のルーンで、空を飛ぼうとしとったらしい。
最後にもう一回、やけくそジャンプ!
ずるり。ぼて。足すべり、尻もちつく。「あいた!」
そこに。
巨大な影が、頭上から、ぶわっさと音立てて近付いてきた。
「うん?」
近付いてきたのは、大砲の色した丸いもの。
巨大な三日月かぶとに、剣のごときしっぽを持つ。
つばさもないのに空を飛び、ぶわっさぶわっさと羽ばたきの音させる。
そのシルエット、かぶとがにのごとし。
──ガンメタリック・かぶとがに・鬼神台であった!
「なんじゃ、相棒か」
ずぶ濡れの鬼神、尻もちついて、六腕をつばさみたく広げた、ぶさいくな姿。
ガンメタ鬼神台、そんな鬼神を目の当たりにして、空中で硬直。
ぶわっさっさ!
「・・・おまえ! 笑いおったな!」
鬼神、怒る。
「人がれんしゅうしとるのを盗み見て笑うとは、なんたる奴じゃ!
何をしに来たのだ。呼んでもないのに。帰れ帰れ!」
ぶわっさ!?
ガンメタ鬼神台、怒る。
ぶわっさぶわっさ! ぶわっさぶわっさぶわっさ!!!
「なんだおまえ! えらそうに! ああん? 私を連れ帰りに来たのか?」
ぶわっさ。
「ばかめ。私は、さんぽ中じゃ! じゃまをするんじゃない」
ぶわっさ? ・・・ぶわっさ!
ガンメタ鬼神台、『さんぽだと?』っちゅう感じで傾き、『・・・ばかを言うな!』っちゅう感じで迫ってきた。
「ええい、うるさい。言うて聞かんのなら、すもうで勝負じゃ!」
◆ 2、鬼神と相棒、すもうをする ◆
ざざーん・・・
波打ち際である。
透明な水が岸辺に打ち寄せ、キラキラと輝きながら引いてゆく。
晴れ渡った空に、くっきりと水平線が走っておる。そこまで、なんの邪魔するものもない。
そんな胸のすくような景色の中で。
鬼神と相棒、睨み合う。
「いいか! 先に言うておくがな!」
鬼神。
ビシッと指差して、怒鳴った。
「私が勝ったら、おまえはとっとと帰るのだ!」
ぶわっさぁ!
ガンメタ鬼神台、即答である。こっちもだいぶ怒っとるようである。
ぶわっさ、ぶわっさ? 鼻面を動かし、剣のごときしっぽをビタンビタン動かして、なんか確認しよる。
「・・・ああ、おまえが勝ったらどうなるのか、と言うのだな?」
ぶわっさ。
「おまえが勝ったら・・・まあ、好きにしろ」
ぶわっさぶわっさ!
ガンメタ鬼神台、怒った。上下にバウンバウンと弾んで怒りを表現した。
「ちっ。だまされんか。はいはい。わかったわかった。
おまえが勝ったら、私は、黙っておまえに乗る。どこへでも連行するがいい。
これでどうじゃ?」
・・・。
ぶわっさ。ガンメタ鬼神台、納得した。
鬼神。
すーっと、笑いを消して、真顔になった。
「だが、これも言うておくがな。──私は、帰る気はないのだ」
すもう開始。
まずは両者がっつり組み合って、力くらべ。
がぶ、がぶ、がぶ。ガンメタ鬼神台、がぶり寄り。三日月ヘッドを上下して、鬼神を突き押してゆく。
するり。鬼神、巧みにいなして、体(たい)を入れ替える。
鬼神には余裕がある。受けてやっとるという雰囲気。
ガンメタ鬼神台、額の大砲を、格納スペースから、かぱっと出す。
鬼神、大砲を掴み、ばしっと押し戻す。
「甘いわ」
そう言うや、六腕でもって、かぶとがにボディを挟み込む。
「そりゃ。とっととカエレ! 『力』のルーン!」
空の彼方へ、ぶん投げんとす!
ところが!
ガンメタ鬼神台、びくともせぬ。
「む!」鬼神おどろく。「やるな、おまえ。相殺を覚えたのか」
ぶわっさ!
相殺。
相手の『力』のルーンに対し、まったく同じ強さで『力』のルーンを当てることで、動きを殺すわざである。
これは、鬼神が義父から盗んだわざ。極めて高度な返しわざだ。
一朝一夕(いっちょういっせき)にできるもんではない!
それをやってみせるとは、まさに、鬼神の相棒にふさわしい。ナイスガイ、鬼神台。
ふたたび組み合う。がぶがぶがぶ。するり。がぶがぶがぶ。するり。
かぱっ。ガンメタ鬼神台、また大砲持ち上げる。
ばしっ。鬼神押し戻す。
「おいおい・・・。そんなつまらん手を、何度m」
その瞬間!
どん!
ガンメタ鬼神台、『力』のルーン!
「ぬおっ!?」
ずざざざざーーーーー・・・っと、鬼神。何尋(ひろ)も押し流される。
すぐに『力』のルーンで相殺しようとするが──その直前!
鬼神のかかと、引っ掛かる!
「ぬう、木の根!?」
岸辺近くまで伸びとる、木の根! かかと引っ掛かり、仰向けに、こけてしまう!
このまま地面に着いてしまえば、鬼神の負けとなる!
「いやじゃ!!! 帰りとうない!!!」
鬼神絶叫である。
「ぬおおおお、『向きを変える』!」
ぐるりんこ。
鬼神、仰向けに倒れながら、身をねじった!
ガンメタ鬼神台を、引き落とす!
どんばっしゃあああーん・・・!
でっかい水しぶき。
波が岸辺をざんぶざんぶ洗う。
白い砂浜メッチャクチャ。砂にめり込む、力士ども。
鬼神、立ち上がる。
相棒、砂浜に逆立ちにめり込んで、しっぽ振り回しておる。鬼神が引っこ抜いてやった。
だばー。
かぶとがにの巨体から、水と砂が流れ落ちた。
「やれやれ。相討ちだな」
ぶわっさ。
家出神の去就(きょしゅう)を賭けた、湖すもう。
引き分けとあいなった。
◆ 3、アルフェのみずうみ ◆
「じっとしとれ。砂を流してやるから」
鬼神、大きな手の平で、水をすくっては、ガンメタ鬼神台にぶっかけた。
ざばー、ざばー、ざばー。六腕なので3セットである。
かぶとがにボディには、ええ具合に隙間がある。
砂は、綺麗に流れ落ちてゆく。
「それにしても、ここは綺麗なところだな」
鬼神は水平線を見渡した。
「晴々した気分じゃ。私は、こんな大きな水たまりを見るの、生まれて初めてだ」
ぶわっさ。
「おまえも初めてか。そうだろうな。うーむ。うむ」
鬼神。知ったかぶった。
「なるほどのう。これが『うみ』というものか!」
ちがいます。
これは海ではない。みずうみなのだ。
アルフェロンという、巨大湖である。
その名は『アルフェの実のなるところ』の意。アルフェの実は、さっき鬼神が食っとった赤い実である。万病に効き、腹持ちが良く、保存も利き、さらには果実酒も造れてしまう! 夢みたいな果実なのだ。
アルフェロンは、南方大陸の半分以上を占める超巨大湖です。
あまりにでかいので、海みたいに波も立つし、月に従い満干(みちひ)もする。
南方大陸では知らぬ者なぞ居らんっちゅうぐらいの名所なのだ。
・・・が、この巨大湖がどうやって誕生したかとなると、諸説あって定説がない。
誰も証拠を持っとらんので、水掛け論になってしまうのです。
ですから今日は、鬼神のお話とつじつまの合う説を1つだけ紹介しましょう。『巨人の涙』説です。
──
『巨人の涙』
アルフェロンは、遥か昔には、深い深い森であった。
空が見えんほど木だらけで、ハイエルフでも拓けんほど、へびだらけであった。
この森の近くには、巨人の一族が住んでおり、地震を起こしては人間を死なせておった。
そこに、鬼神という乱暴者の神さまがやって来た。
鬼神は地震の巨人に挑戦し、殴り倒した。
とてつもなくでっかい巨人はぶっ倒れ、森の木は全部折れ、とてつもなくでっかいくぼみができた。
さて。
鬼神は倒した巨人の娘を妻にして、息子をたくさんつくった。のちのオーガである。
息子が成人すると、鬼神は家を出てってしもうた。
巨人の妻はこっそり後をつけた。だが、くぼみの地に来ると足が止まり、泣き出してしもうた。
鬼神との出会いの日が思い出され、涙があふれてきたのだ。
巨人の妻の涙は、見る見るうちにくぼみを満たし、湖となる。のちのアルフェロンである。
──
──いかがです?
なかなか、つじつまが合いそうでしょう?
ですから「六腕三眼、鬼の神」では、この説を採用いたします。
アルフェロンは、くぼみの地が湖になったものである。とね。
ま、ともあれ、鬼神はこの湖のほとりを歩いたわけです。
アルフェロンの岸辺、いま私たちも歩くことができるその岸辺を、鬼神もお歩きなさったのだ。
◆ 4、ガンメタ鬼神台、きごうをかく ◆
「さっきのは良かったのう」
鬼神、ニコニコして、戦いを振り返る。
「余裕でいなしとるつもりが、木の根っこに誘導されとったとはな。
さらに、大砲にこだわるフリまでして、私を油断させるとは。
見事な策略じゃ。相棒。おまえはやっぱり、かしこいのう」
ぶわっさ。ぶわっさぶわっさ。
「うん? 私も良かったか? わっはっは。まあな!
『向きを変える』はとっさにやったのだが、なんとか引き分けにできたわい」
『向きを変える』は、鬼神の持っとる『力』のルーンに属する、超常のわざ。
力の向きをちょっと変えるだけの、地味なわざだ。
すもうには役に立つ。それ以外で何の役に立つか、鬼神にはいまんとこわからん。
冒頭、鬼神が奇妙な行動をしとったのは、その試験だったんである。
『私も相棒みたいに空が飛べたらなあ』という期待があったのだ。
それを、当の相棒に笑われた。それで鬼神はカッとなったのだ。
相棒は相棒で、せっかくお伴に来たのに「帰れ」と怒鳴られたので、カッとなった。
と、まあ、そんな感じである。
・・・ぶわっさ?
ガンメタ鬼神台、キラキラと水を滴らせ(したたらせ)ながら訊いてきた。
「なんで帰りたくないかって? そりゃ、おまえ・・・」
鬼神は手を止めた。
・・・? ガンメタ鬼神台、無言でかたむく。
「うーん・・・うまく説明できんのだが・・・。
さんぽをしないと、だめだという気がするのだ。
家が嫌いなんではない。奥さんとけんかしたんでもない。
ただ、家に居ると、私は役に立たんという、そんな気がするのだ」
・・・。
ガンメタ鬼神台、傾きを元にもどす。ゆっくりと、しっぽを振った。
「今回は、引き分けだった。お互い、口出し無用としようではないか。
私も帰れとは言わん。おまえも帰って来いとは言うな。それでええか?」
ぶわっさ。
・・・ぶわっさ、ぶわっさぶわっさ?
「なに?」
ガンメタ鬼神台、ぶわっさぶわっさと説明するが、鬼神に通じない。
困った彼は、地面に記号を描き始めた。
垂直に立ち上がり(?)、剣のごときしっぽを突き立て、がり、がり、がり。
みつばちが針刺すがごとくして、こんな記号を描きおった。
□━ ・・・> ┃┃┃┃□┃┃┃┃
「なんだこれは。判じ絵か・・・?」
ぶわっさぶわっさ! ぶわっさ。ガンメタ鬼神台、鼻面で「□━」の部分を何度も指す。
「・・・ああ。これは、おまえか? □が、かぶと。━が、しっぽ」
ぶわっさ!
「あとのは、わからん。なんじゃこりゃ?」
ガンメタ鬼神台、身振りとぶわっさで補足説明するが、鬼神には伝わらぬ。
そのときである。
ばちゃばちゃばちゃ・・・と、湖が細かく波立ち始めた。
「なんじゃ?」
地響きがする。
地面がぐーらぐーらと、横にゆっくり揺れ始めた。
「なんだ。地震か」
鬼神は相棒の水洗いを再開した。
砂は綺麗に落ち、水濡れたガンメタリックのボディが、鮮やかに陽光に輝いた。
「じつに美しい色合いだ」鬼神は感心した。「私が一人占めしては、みんなに恨まれそうだわい」
ぶわっさ。
ガンメタ鬼神台は簡潔に答えて、鬼神からちょっと離れ、ロール(進行方向を軸とした回転。横転)し始めた。
ぶぉん、ぶぉん、ぶぉん・・・。タオル振り回すような音がどんどんでかくなる。
さらに途中で回転軸を少しずつ変えて、変幻自在に回転する。どの方向が軸とも言えぬ、めくるめく回転である。
まるで水浴びした後の、いぬのごとし。まあ、いぬは空中回転せんが。
水飛び散り、ボディ渇き、すっかり元通りとなる。
「わっはっは。おまえ、器用に『向きを変える』を使うのう!」
ぶわっさ。
「・・・さて。さんぽを続けるか」
鬼神。歩き出す。まだ『さんぽ』と言い張るようである。
ガンメタ鬼神台。伝わらんかった地面の図を残念そうに眺めたのち、鬼神についてった。
・・・ガンメタ鬼神台の、言いたかったこと。なんだったのか。
気になる方には、今回の最後に「おまけ」としてお話しいたします。
◆ 5、鬼神、ひとだすけする ◆
翌朝。鬼神は地響きで目を覚ました。
ぐーら、ぐーら。また地面が横揺れしよる。
「またか。連日だのう」
ぶわっさ・・・。相棒も目を覚ましたか。ヨレヨレと空中に浮かび上がる。
「なんかの異変の前触れかのう?」
ぶわっさ・・・?
「ちょっと、空から見てみるか」
相棒に乗って、空を飛んでみたところ。
めっちゃめちゃになった街が、森の向こうにあった。
地震で家がひしゃげ、壁倒れ、火事となり、ハイエルフどもが血相変えて走り回っておる。
「大変そうだ。ちょっと行って、助けてやろう」
2人は空から駆けつけた。
「おおい! 助けに来たぞ。力仕事があったら、言うがよい」
「ひい!? 空飛ぶ大猿!」
「6本腕・・・もしや、ハイエルフの国を滅ぼしたという、鬼神さま?」
この街のハイエルフは、鬼神のことをよく知らぬらしい。おびえた。
だが、緊急時。鬼神が瓦礫を持ち上げ、横にどけて見せると、受け入れた。
鬼神には『力』のルーンがある。崩れた家や城壁を取り除くのは朝飯前なのだ。
ガンメタ鬼神台は、消火用水を運ぶ手伝いをした。バケツを満載し、空飛んで速やかに運ぶんである。
そうして火事を消し、救助をしとるうちに、魔術師の一隊が飛んできた。
「部族の魔術師さまがいらっしゃったえ!」
「下がれ、下がれ! 家を壊すに、周囲から離れよ!」
家を壊しておった(延焼を防ぐためである)消防隊、下がる。鬼神も下がった。
魔術師ども、ごうごう燃えとる家の前に並ぶ。
「『魔弾』用意・・・撃て!」
『魔弾』の呪文を一斉に燃える家に撃ち込む。家はぶっ壊れ、ぺしゃんこになった。火が渦巻くが、すぐ下火となる。
「隊長。あちらの瓦礫の下に、生命の反応あり」
「わかった。私がやる。担架を用意せよ──『ステップ』!」
『ステップ』の呪文は、人間を垂直に上下テレポートさせる。瓦礫に埋もれた人を、一瞬で空中に引き出せるのだ。
「見事じゃ」鬼神、感心する。「さすがは、ハイエルフの魔術師」
ぶわっさ。
「おう相棒。そっちも一段落か」
救助も火事も一段落。あとは、燃え残りに砂や水を掛けてゆくだけである。
魔術師どもの隊長がやってきた。鬼神にあいさつする。
「鬼神さまですに? 御勇名は、存じ上げておりまする」
「うむ。鬼どもの神、鬼神。たまたま通りがかったので、手助けをいたした」
「かたじけのうございます。すぐに、宿を手配いたしまする」
「いや。災いのときじゃ。負担をかけとうない」
「そやに、正式な御礼・・・また、貴国との調整もいたしたく、それにはお時間が少々・・・」
隊長必死。
そりゃそうだ。ハイエルフからすれば、他国の先代国王(しかも神)に救助された形。
外交的調整をせねばならぬ! っちゅうわけだ。
しかし、鬼神。
そういう手続き、嫌いである。
「しょうがないのう」鬼神、相棒を呼びつつ、言うた。「ではこうしよう。鬼神というのは、うそじゃ」
「は?」
「私の名はリッキー。なぞの六腕鬼、リッキーじゃ! では、さらば」
鬼神、ガンメタ鬼神台に飛び乗って、逃げる。
隊長、ため息をつく。「六腕の時点で、謎やありませんに・・・」
「そうなのだ。こういうのだ。私がやりたかったことは!」
鬼神。
寝っ転がって、御機嫌で、相棒に話す。
今日はもう遅いので、昨夜と同じ湖岸の森にもう一泊である。
「フラフラと旅をし、人助けをし、さっと去る。これよ!」
ぶわっさ・・・。
「相棒。そんな気のない返事をするな。おまえが居ったことで、生命が助かった人だって居るのだぞ」
ぶわっさ。
「だろう?」鬼神、しばらく、嬉しそうにした。「・・・ま、寝るわい。おやすみ」
湖の波の音を背景に、夜は静かにふけていった。
◆ おまけ、ガンメタ鬼神台の、言いたかったこと ◆
□━ ・・・> ┃┃┃┃□┃┃┃┃
□━ 呪文版としっぽ。つまり、ガンメタリック・かぶとがに・鬼神台。
・・・> 通信。空飛ぶ台同士の、人間には聞こえない高速通話。
┃┃┃┃□┃┃┃┃ 呪文版と塔8基。つまり、妙雅(みょうが)。
というわけで、
□━ ・・・> ┃┃┃┃□┃┃┃┃
私から 通信で 妙雅に(伝えてもかまわんか?) でした。
じつは、妙雅に頼まれておったんである。
<きしにぃ。ばかなおじちゃんを連れ戻してください。絶対に、連れて帰るように>
きしにぃ(鬼神台兄ちゃん)。
鬼神と妙雅のあいだで、板挟みだったんである。
すもう勝負で引き分けたところで、いったん連絡しておこうと思ったわけだ。
こっそり通信せず、ちゃんと確認をしたところに、彼の性格が出ていますね。伝わらんかったが。
・・・で、どうしたかって?
はい。結局、こっそり通信しました。
鬼神を見つけた。帰らんと言うとる。しょうがないので、ついていく──とね。