六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

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みずうみの、おろち

◆ 1、鬼神、湖上をとぶ ◆

 

 朝。また地震があって、目が覚める。

「えらい続くのう」

 鬼神起き上がる。

 森の中。湖のさざ波の音が聞こえる。

 ぶわっさ。

 ちょっと離れたとこから返答。ガンメタリック・かぶとがに・鬼神台である。

「相棒。今日は、この海の上を飛んでみるか」

 鬼神は森の向こうにキラキラ輝く湖面を指した。

 相変わらず勘違いしておるが、海ではなく、湖である。

 巨大湖アルフェロン。その湖畔に2人は居るんである。

「このやたらに多い水がどのぐらいあるのか、向こう岸に行けるか、見てみたいのだ」

 ぶわっさ。

 ガンメタ鬼神台、鬼神のそばにすっと寄る。鬼神、足をパシパシとはたいて土を払い、乗る。

「よし。では頼む」

 ぶわっさ。

 ガンメタリックの巨体は、水中の泡のように空へと舞い上がり、すっ! ・・・と一直線に、加速して飛んだ。

 

「・・・。」

 飛び始めてすぐ。

 鬼神、不満そうな顔をする。

 ぶわっさ? 相棒、お伺いを立てる。

「いや、なんだ。水ばっかりで、つまらんのう」

 ぶわっさ・・・? 相棒、『ええ・・・?』みたいな反応である。

 湖なんだから、水だらけなのは当たり前である。

「つまらぬ・・・なんかもっと、面白いもんがあるかと思うたのに・・・」

 そう言うとるあいだにも、水平線が途切れ、湖の向こうの森が見えてきた。

「もう向こう岸が見えてきたし・・・思ったより、小さいのう」

 

 ちがいます。ガンメタ鬼神台が飛ぶのが速すぎるだけです。

 鳥よりも速く空を一直線に飛ぶんだから、大きな湖だって、半刻(1時間)もすれば渡ってしまうのは仕方がない。

 いやはやまったく、鬼神のやつめ。一体、何を期待しとるのか。湖の巨人でも居って、そいつを殴れば、可愛い娘さんを嫁にもらえるとでも思うたか? ばかめ。そんなおいしい話、人生に二度もあってたまるか。

 

 ぶわっさ。

 相棒が律儀(りちぎ)に答えてくれるもんで、鬼神、調子に乗って、相棒に絡み始めた。

 ガンメタリックの三日月かぶとをぺちぺち叩いて、酔っぱらったおっさんみたいに、くだを巻く。

「なんというか、ほら。もっと、こう、面白いことはないのか? なあ。私が本気で戦えるような」

 ぶわっさ?

「そんな奴が居るのかって? 居るぞ。

 相棒には言うとらんかったかも知れんがな。

 私はむかし、からすに負けたことがあるのだ」

 ぶわっさ???

 相棒当惑である。

 鬼神が、からすに負ける? どうやって???

「いや、でっかいからすでのう。メッチャたくさん居ってのう。

 そのときは、私は1人だったし。おまえも居らなんだからのう。

 空飛ばれるとどうしようもなくてな。うんこ投げつけられて、泣きながら逃げたわい」

 ぶわっさっさ!

「まったく、笑い事じゃ!

 ドラゴンをも倒す、この、謎の六腕鬼さまがだ。うんこごときで──

 うん? あれはなんだ?」

 

 眼下。

 広大な湖の、向こう岸に。

 

 黒々と渦巻く、おろち(大蛇)あり!

 

 そのおろち、じつに、巨大!

 美しい湖の水面下に、地形と見紛う(みまごう)大きさで、黒く黒く、うねっておる。

 陸に這い上がったるは、巨大なあぎと(顎)!

 その前に!

 剣かざす、か弱い乙女の姿あり!

 

「相棒! 飛ばせ!」

 ぶわっさぁ!

 ガンメタリック鬼神台、青空に一本の墨を残すがごとく、急加速!

 どん! 『力』のルーンで、さらに加速!

「私が行く。上空で、機をうかがえ!」

 鬼神、飛び降りる!

 六腕広げて風を受け、減速しながら、水面へ──

 

 ド、バッシャアアアアン!!! 着水した。

 

 剣かざした乙女、ざんぶと波をかぶり、悲鳴を上げて、水中にこける。

 黒きおろちもまた、びっくりした様子である。ざんぶざんぶと打ち寄せる波に、その巨体も少し揺らいでおる。

 そんな者どもの視線の先。

 ざんばあ!

 水中から、鬼神が起き上がった。

「おい! そこの、黒いへび!」水飛ばしつつ怒鳴る。「女に手を出すんじゃない。私が相手だ!」

 ざっぶざっぶと水をはね飛ばしながら、駆けつける。

 黒きおろち。

 にゅーーー・・・っと、大きな三角形の頭をもたげた。

 でかい。

 人間より遥かにでっかい鬼神。その鬼神よりも、遥かにでっかい。

 おろちの巨体は、その大半が、湖の中に伸びておる。立ち上がった部分だけで、鬼神よりでかいのだ!

 おろち。黒いつばさを、にゅるーっと広げた。鳥の足みたいな前足を、ぐっと構えた。つばさと足があるのだ。

「こいつは面白そうな相手じゃ!」

 鬼神は内心ニヤリとして、おろちを睨み上げる。

「さあ、黒いへびよ。かかって来るがよい」

 すると、おろち。

「私は、へびではありません」

 人間の言葉を、しゃべった!

「私はウミ=ジャブジャブ。水のエレメントたる竜」

 

◆ 2、ウミ=ドラゴンの、ジャブジャブ ◆

 

 湖に横たわり、湖岸の乙女を喰おうとしておった、黒きおろち。

 つばさ広げ、前足構えた姿。言われてみれば、ただのへびではない。

「へびではないのか。そんなに、にょろにょろと長いのに」

「へびではありません。私は、へびではないのですよ、赤く大きな猿のような怪物よ」

「そうか。それは、すまんことをした」鬼神あやまる。「私も、猿ではないぞ」

「ふうん」黒きおろち、興味なさげ。

「ウミーイジャブジャブと言うたか? へんな名だのう」

「失敬な!」黒きおろち、怒った。「ウミ=ドラゴンの名を侮辱するとは!」

 

 ウミ=ドラゴンとは、『偉大なる女王ドラゴン』みたいな意味の、尊称です。

 ドラゴンは、タマゴで生まれる。このときは人間の半分ぐらいのサイズ。

 タマゴからかえると、つばさ持つ直立歩行のトカゲみたいな生きものになる。これが人間と同じぐらいのサイズ。

 ほとんどのドラゴンはこの姿で生涯を終えます。

 

 ・・・え? ドラゴンがそんな小さいわけないって?

 はい。そこに、女王竜の秘密があるのです。

 変態です。

 

 直立歩行のトカゲ段階において、ごくごく稀に、偉大な変態を遂げるものが現れるのです。

 なんと、たった一夜のうちに、人間サイズの身体が、巨大なドラゴンへと変態してしまうのだ!

 これがドラゴンの秘密です。

 脱皮とかそんなレベルではない。魔術とか奇跡としか言いようがない、生まれ変わりを成し遂げるのです。

 

 さて、変態したドラゴンは、世を放浪して、自分の巣となる場所を探します。

 そして巣の場所が定まったら、タマを産み始める。女王竜の段階、すなわち『ウミ=ドラゴン』です。

 ちなみに、放浪中のドラゴンは単に『ドラゴン』と称します。直立歩行のつばさトカゲ時代は『アシ』、タマゴ時代は『タマ』です。私たちが一般にドラゴンと思うておるのは、放浪中の個体と、こういうわけです。

 

 このドラゴン知識は、とあるハイエルフの研究者が書き遺した(かきのこした)もの。

 そのかわいそうな研究者。野外を歩いての実地研究中に、誤ってドラゴンの巣に踏み込んでしもうた。現れるドラゴン。

「うわあ、おろち!」研究者、悲鳴を上げた。

「私はへびではない。ウミ=ドラゴンである」ドラゴンは怒った。「教えてやるから、書き遺せ」

「はい。はい。書きまする」

 こうして書かれた『ウミ=ドラゴン、すなわち女王竜陛下』という手記が、世にドラゴンの生態を伝えたのです。

 で、研究者はどうなったか? それが、まことにひどい話なのだ。

「書いたな?」

「はい。はい。書きましたえ」

「では、もう用はない。私のごはんになれ!」

 と、ぱっくり食べられてしもうたというのだ!

 まことにひどい。ドラゴンは本当に、人間をごはんとしか思うとらんのです!

 以上、説明と余談でした!

 

「アカン! 赤く大きな御方。喰われてしまいますて!」

 乙女の声が、鬼神の背後からかかった。

「おお。娘。無事か」

「うち(私)は無事やから、御身も早うお逃げになって」

 鬼神。

 視界の橋で、ちらっと娘を見た。

 乙女は、岸に上がって、こちらを見ておった。

 白い髪に茶色の肌した、珍しい見た目の娘である。

 白い髪から長い耳が突き出しておる。エルフか? ハイエルフより背が高く、肉付きもいいようだが。

「なあに、心配はいらぬ。そなたは下がっておれ」

 鬼神が言うと、黒きおろちも、尊大な様子で口を出してきた。

「娘。このウミ=ジャブジャブが、下がることを認めます。お下がり」

「なんだおまえ。えらそうな」

「私はウミ=ドラゴン。世にも稀なる女王竜。とてもとても、えらいのです。かしこまりなさい」

 黒きおろち。

 名、ジャブジャブ。

 水中の胴体うねくらせ、じゃぶじゃぶと水を波打たせた。

「いや、悪いがな、」鬼神は首を振った。「私も子孫持つ神なのだ。そうそう、かしこまるわけにはいかぬ」

「なんの神です?」

「鬼どもの神だ」

「ふうん」ジャブジャブ陛下、興味なさげ。

「で、ジャブジャブよ。どうする?」

「鬼どもの神とやら。あなたも、子孫持つ身なのですね。

 しかしあなたは、ウミ=ドラゴンの食事の邪魔をしました。これは大変良くないことです。

 ですから、吹き飛ばして、グチャグチャにして、おいしく呑み込んでしまうことにします」

「面白い! やってみよ」

 ジャブジャブ、カッと大口を開けた!

 そして、呪文を唱える!

「グチャグチャになれ! 『ジャブジャブの黒き奔流』!」

 巨大な口から、真っ黒な壁、どっと放出!

 鬼神にぶち当たる!

「ぬ!? ──水か!」

 それは、圧倒的な、水のかたまり!

 ドロドロと黒く濁った、巨大な水玉であった!

 ドッゴオオオオン・・・!

 と、もんのすごい音がした。

 もうもうと煙が立ち昇る。黒い水が粉々に砕けて、煙となったのである。

 ざんぶらがんぶらと荒々しい波が立つ。岸辺の乙女も波をかぶり、またこけた。

 

 ざああああ・・・。

 

 四方八方に爆散した水が湖面に降り注ぐ。

 立ち込めた水の煙が、晴れてゆく。

「さあて。おいしいグチャグチャはどこかしら?」

 ジャブジャブが舌なめずりをした。

 頭を下げて、死んだ鬼神の姿を探す。

 その目の前に。

「これで終わりか?」

 赤い顔があった。

「ぬな!?」ジャブジャブ取り乱す。「生きているですって!?」

「うむ」

 びしょ濡れになり、不快そうな、赤く大きな猿のごとき御方。

 ジャブジャブを睨んでおる。

 双方の顔の距離、1尋(ひろ)もない。双方でっかいから、間合いなきに等しい状態である。

 ジャブジャブの方が、わずかに下がった。

「わ、私の『黒き奔流』は、岩をカチ割り、大地に穴を穿つ(うがつ)のですよ」

「そうか」

「その直撃を喰らって、びくともしないですって?」

「うむ」鬼神、まばたきして水を弾く。「この程度、避けるまでもなかったわ」

「ぬ、ぬ、ぬ・・・!」

 ジャブジャブ、わなわな震え、湯気を立てた。

 対する鬼神、なんかつまらなさそうな顔である。「で、次はどうするのだ?」

「かくなる上は、最後の手段に出ます」

「ほう」

「私はたいそう気分を悪くしているのです。

 ですから、おまえをそのまま呑み込んで、二度と出て来れぬようにします!」

 ジャブジャブ。またも、カッと大口を開けた。

 今度は、噛みついてきた!

「これは避けておくとするか」鬼神、動こうとして、「ぬあ!?」

 動けん!

 鬼神の、足!

 黒々としたジャブジャブの胴体に、絡みつかれておる!

「しもた! いつの間に!?」

 鬼神、『力』のルーンで脱出をはかる。

 だが!

 黒い胴体、グニョーンと伸びて、絡みついたまんま!

 足上げても、ついてくる。前に蹴っても、ついてくる。後ろに伸ばしても、ついてくる!

 伸縮自在のグニョグニョ竜! こんなに伸びるんでは、どんなに『力』があったって、ほどきようなし!

 鬼神あやうし!

「そうれ、いただきまーす!」「赤い御方!」「来るな、娘!」「ならぬえ、ルーン!」

 3人の声──あれ? 4人いましたかね?──声が交錯する。

 ジャブジャブの大口、鬼神を呑み込まんとす!

 

 がっぷん! 巨大なあぎと、噛み合わされ──ない!

 

「あが・・・」

 ジャブジャブ。

 大口開けたまま、目を白黒。

「口が・・・閉じれましぇにゅ・・・」

 鋭い牙生えた、口の上下。

 赤き手が、がっちりとそのフチを掴んでおった。

 鬼神が、ジャブジャブのあごを捕まえて、閉じれんように掴んだのであった。

「にゃんたる・・・怪力・・・おまえは、いったい・・・?」

 ジャブジャブ、情けない声を出す。

 開けた口を閉じることができないで、間抜けな声になっておる。

「私は、『力』のルーンを授かっておる」

「にゃんですって! ちかりゃのりゅーん!」

 ジャブジャブはのたうった。

 だが、あごはがっちり捕まれ、びくともせぬ。胴体だけがのたうち、波を蹴立てるが、鬼神びくともせぬ。

「で・・・では、おまえが! 我りゃが太母から、ルーンをにゅすんだ(盗んだ)!?」

「たいぼ?」

「神竜(じんりゅう)」

「・・・・・・・・・ああ!」

 鬼神、しばらく考えて、思い出した。

「レガーさんが言うておったな。『力』のルーンは、なんかそんな名前の奴から奪ったと」

「レガーと言いましゅたか!?」

「うむ」

「とうじょくしん(盗賊神)!」

 ジャブジャブはしゃっくりのように叫んだ。

「あん? なんだって? なにを言うとるのか、わからん。

 ──まあ、よい。おまえは、かば焼きにする」

 鬼神。

 ジャブジャブの大口から、4つの手を離した。

 右の上手と左の下手だけを残して、残る4腕、こぶしを固める。

 ジャブジャブ、危機を察した。のたうつ。だが、口が全然動かせぬ。

 必死になって黒い胴体で鬼神に巻きつき、全力でねじり上げる。だが、鬼神、びくともせぬ。

「むだだ。『力』のルーンで、相殺するだけのこと」

「うぐぐ、なんたる、強さ。これが、神」

「私に敵わぬことがわかったか? では、覚悟をせよ」

 鬼神、パンチ。

 上の左こぶしで、ジャブジャブの鼻面をパンチした。

 中の右こぶしで、ジャブジャブのこめかみをパンチした。

 中の左こぶしで、ジャブジャブの目元をパンチした。

 下の右こぶしで、ジャブジャブの喉元をパンチした。

「ぐえ。ぐえ。ぐえ。ぐえ」

 ジャブジャブはぐにゃぐにゃと波打って悲鳴を上げた。

「それ、それ! 柔らかくなあれ!」

 鬼神、パンチ。パンチ。パンチ。パンチ。

 黒きドラゴン、釣り上げられた魚のごとし。左右にぴちぴち跳ねて、苦痛にもがく。

「お許しくだしゃい! いにょちばかりは、おたしゅけを!

 私の宝を、差し上げましゅ! この世に二つとにゃい、竜の宝──」

「宝だと?」

 鬼神は手を止めて、考えた。

「いや。やはり、おまえはかば焼きにする」

「にゃんででしゅ!?」

「おまえを放したとする。おまえはまた、このあたりの人間を喰らうのだろう?」

「はい。人間は弱いうえに足がおしょい(遅い)。肉も柔らかく、おいしゅい獲物です」

 ジャブジャブはちらっと横目で乙女のほうを見た。

 乙女は岸辺に上がっておる。だが・・・

「だろうな。だから、かば焼きにするのだ」

 ・・・と、そのとき!

「きゃあ」岸のほうで、乙女の悲鳴!

「む!?」

 鬼神振り向く。

 なんと!

 乙女のからだに、黒い胴体が迫っておる!

 ジャブジャブ、狡猾! 鬼神としゃべって時間を稼ぎ、そのスキに、乙女を人質に取ろうとしよった!

「卑怯なり、ジャブジャブ。生命乞いのフリなど!」

「私を助けてくれれば、娘も助けましゅ」

「誰が信じるか!」

 人間の胴体なんかより、よっぽど太い胴体である!

 巻きつかれたが最期、乙女はあばら骨どころか、背骨までへし折られるであろう!

 乙女あやうし!

 と、そこへ!

 

 どん!

 

 空気を叩く音がして、勇士現る!

 ガンメタリックの三日月かぶとが、黒い胴体に、体当たり!

 『力』のルーンでもって、猛烈な頭突きを噛ました!

 黒い胴体、ばうーんとものすごく弾み、乙女から後退する。

「乗れ!」

「え?」

「その台は私の仲間だ。乗って、空へ逃げよ!」

「え、ええ!? ・・・は、はい」

 茶色の肌をした乙女、剣を拾い上げ、ガンメタ鬼神台に這い上がり、しがみつく。

「逃がしゃぬ!」

 ジャブジャブ、追いすがる!

 黒い胴体、ガンメタ鬼神台に絡みつく! 締め上げる!

「相棒、相殺だ! すもうと同じじゃ!」

 ぶわっさ!

 ガンメタリックのボディに巻きつく黒い胴体! かぶとをつぶし、乙女を捕らえんとす!

 だが空飛ぶ勇士、『力』のルーンでもって巻き上げを相殺! ジリジリと上昇!

 グニョーンと気持ち悪く伸びる胴体 vs 空飛ぶ『力』の勇士!

 と、そこで、また4人目の声がした。

「ルーン、斬りなえ。ゆっくりえ。慎重に。ゆっくり」

「は・・・はいっ! うりゃ!」

 乙女が、剣をそーっと振り下ろした。

 黒い胴体に、刃が触れる。

 触れただけで。

 

 すっぱり。

 

 ジャブジャブの胴体に、スッパリと深く、切れ目が入った!

「ひいい!」

 ジャブジャブ、悲鳴。

 たまらず胴体をほどく。ガンメタ鬼神台、上空に逃げ切る。

「あうう! にゃんです、あの剣は? 神剣のごとき切れ味・・・」

「こいつめ!」

 

◆ 3、ジャブジャブの、たから ◆

 

「降参しましゅ。今度こそ、降参しましゅ! もう二度と、人間を襲わないと約束しましゅ!」

 ぐねぐねのたうつ黒きドラゴン。ジャブジャブ。

「なにを、調子のいい奴! おまえのごとき、ずるがしこい奴。かば焼きにするが確実!」

「そうかもしれましぇん! かしこいことは、否定しましぇん!

 しかしぇ、私はウミ=ジャブジャブ。約束しゅた以上は、必ず守りましゅ!」

「・・・ほう?」

 鬼神はちょっと心を動かされた。

「だが、やはり、おまえはかば焼きにする」

「にゃんででしゅ!?」

「なんでといって、おまえが約束を守ったとしても、被害がなくなるだけだ。

 だが、かば焼きにしたら、私はおまえを喰えるだろう?」

「にゃるほど」

「さらばだ」

「ああ! では、人間たちが困っていたら、力を貸しゅと約束しましゅ!」

「ふむ?」

 鬼神は力をゆるめた。ジャブジャブの口を半分閉じれるぐらいにゆるめてやり、しゃべりやすくしてやった。

「その言葉に、偽りはないな?」

「・・・はい。この私、ウミ=ジャブジャブは、人間を襲いません。

 人間がどうしようもなく困っているときには、力を貸します」

「宝も、もらうぞ」

「はい。どうぞ」

 おえー。

 ジャブジャブは玉を吐いた。

「きたない奴!」

「それが私の宝です。これは偽りのないことなのですよ」

 鬼神はその玉を、じゃぶ、じゃぶと湖水で洗った。

 真っ黒な喉の奥から出て来たその玉は、真っ黒であった。

 人間のこぶしほどの大きさの、なめらかな黒玉である。

「ふむ」

「私は他に、金銀財宝もいくらか持ってはおります。

 ですが、それほどの力持つ宝は、またとないのです」

「力持つ宝か」鬼神は『力』という言葉に釣られた。「よし。ゆるす」

「はい。ありがとうございます。ごぼごぼ」

 ジャブジャブはゴボゴボと喉を鳴らしながら、水中に逃げ去った。

 黒い巨体は速やかに湖の深いところへ潜り、水平線に影と消えたのであった。

 

 ざんぶ、ざんぶ。鬼神、岸辺に上がる。

 ふわ~~~ん。ガンメタ鬼神台、降りてくる。ずぶ濡れの乙女を乗せて。

「あ・・・ありがとうございます」

 乙女、疲れ果てた声で礼を言う。

 白い髪が濡れてべっとり張りついておる。ガタガタとふるえておるようだ。

「なんだ、寒いのか?」

「は・・・はい」

「よし。では火を起こそう。話はそれからだ」

 鬼神。

 森に入って、枯れた木を持ってくる。枯れ木1本程度なら、『力』のルーンを使うまでもない。

 服のポケットから、ライターを取り出す。巨人の巧妙なる火打ち具である。

 さらに服のポケットから、油粘土の包みを出す。巨人の不思議な火薬である。

 ──鬼神がいま着ておる巨人の服には、あっちこっちにポケットがあり、色んなもんが入っとるんである。

 油粘土を、枯れ木に塗り付ける。

 ライターの歯車をじりり、じりりと回すと、火花が散る。

 火花は油粘土へ、そして枯れ木へと、燃え移る。

 幸い、天気はよい。

 空は晴れ渡り、風も穏やかである。

 鬼神たちは燃え上がる枯れ木を囲み、濡れた服を乾かした。

 

 さて。服も乾いたところで。

 自己紹介でも・・・と、鬼神が、乙女を見たら。

「ぐう、ぐう」

 乙女。ぽかーんと口を開けて、ガンメタ鬼神台にもたれかかって、眠りこけておった。

「ありゃ」鬼神はほほえんだ。「あいさつは、また今度になりそうだのう」

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