◆ 31、アシ戦争、ぼっぱつ ◆
それは恐ろしい光景であった。
川一面に、とかげ。
青緑、青緑、青緑、黒。青緑、青緑、黒。
青緑、青緑、青緑・・・・・・・・・とかげ、とかげ、とかげ、とかげ。
幅3間(5.4m)ほどの川に6列縦隊で、うじゃうじゃうじゃうじゃと、とかげが遡って(さかのぼって)来おる。
『アシ』と呼ばれる、二足歩行の小型ドラゴン。
身の丈6尺、しっぽ入れて9尺(2.7m)ちょい。
三角形のドラゴン面(づら)にツノおっ立て、背には翼をはためかせ。口には鋭いキバ見せて。
青緑色したウロコ、あるいはヌメヌメと黒い皮膚、濁った水中にきらめかせ。
ジャブジャブ、ジャブジャブ。巧みに泳ぎ、迫ってくる。
ハイエルフの暮らす『丘の街』に。
その数、なんと、1万以上。
街に近づき、土手這い上がり、水門前の広場に展開す。
細い茶色の竹槍持って、ギロリギロリと、睨んできおる。
『にんげんだ』『うまそうだ』との、狩りの目で!
アシ戦争の、勃発(ぼっぱつ)であった。
「敵、アシ軍団は、多数なり」
ハイエルフの隊長。
水門内側、ちょっと高くなった段に立って、戦闘直前の訓示をする。
青いレザーアーマーに、革かぶと。白いタスキ。空飛ぶ魔術兵の軍服である。白いタスキは、隊長のしるし。
「とかげステーキ喰らい尽くすには、我ら、ちと、数が足らぬ」
「問題ありませぬ」番兵長が軽口叩いた。「余ったらば、干し肉にいたしまする」
「それがよろしいえ」兵士ども、笑う。「そろそろ、冬やに。よう乾きますえ」
ハイエルフ、丘の街、水門防衛兵。
空中警備隊長x1、隊員x2、水門番兵x3、陸軍槍兵x16。
以上22名。
絶望的な、戦力差であった。
「──そやに、水門は決して明け渡さぬ!」
隊長。
名はフォームラー。
彼は、外人であった。出身は『荒風寺院(あらかぜじいん)』の部族。滅亡した『緑の魔術の国』の中心部族である。魔術大学を卒業後、伯父のフォームに憧れて軍に入ったが、緑の魔術の国が鬼神を怒らせ、敗戦、経済破綻。高給取りの魔術兵は大幅に縮小され、フォームラーも職を失ってしまった。
丘の街に移住したフォームラー。嫁をもらい、子供でき、ここを故郷と思い定めた。もはや外人ではない。この戦は、彼にとっても、祖国防衛戦に他ならなかった。
そのフォームラー隊長。
力強く、宣言をした。
「我ら、この水門を守り、本隊展開の時間を稼ぐ!
四半刻(30分)耐えよ! さすれば、本隊は到着、我らは勝利を手にするであろう!」
「おう!」「おう!」「とかげステーキ!」「とかげステーキ!」
「槍兵! 水門左右の影より、格子に取りつく敵を突け!」
「は!」
「空警。我らは、司祭さま到着まで待機。怪我をすな」
「は!」
「番兵、門上、クレーンの影にて、投石準備。番兵長は敵の動きを監視し、我らに伝えよ」
「は!」
番兵長、早速、報告してくる。
「敵、水門広場に展開を完了しましたえ」
「了解」
隊長は、槍兵を見た。
槍兵はすでに水門左右に8人ずつ分かれ、盾かまえ槍かまえ、隊列を整えておる。
「槍兵は、あまり深く突かぬように。槍を失わぬことを第一とせよ。
やつらに太陽の司祭は居らぬ。仕留めずとも、戦場復帰はできぬゆえ」
「は!」
「フォームラー隊長! 敵、前進開始!」
「よろしい!」
青レザー着たフォームラー隊長、声を張り上げる。
「水門防衛の勇士諸君! とかげステーキが待っておるえ!」
「おお!」
「しゅるしゅるしゅる・・・」
アシども。
水門前広場に上陸しておった、4~5百人が、一斉に声を上げた。
その音、まるで、冬を前に吹き荒れる嵐のごとし。寒々しい音であった。
そうして、戦端を切ってきた。
「投げ槍!」番兵長の警告。「投げ槍、来まする!」
ひゅん、ひゅん、ひゅん・・・槍が飛んでくる。
水門から見て、第2列・3列目に当たるアシどもが、槍を投げつけてきたんである。
その数、およそ100本。細い竹槍は、ひょろひょろと頼りなく飛び、水門の壁にぶつかった。
水門の壁は高さ2尋(3.6m)。投げ槍が簡単に越せる高さではないが、何割かは飛び越して、こっちに落ちてきた。
「ふむ」
隊長、上を見て、冷静に避ける。兵士らは盾をかざして防いでおる。
ハイエルフ、ノーダメージ。だが盾をかざすなどしたため、動きは止まってしまう。
そこに、第一列のアシどもが突撃してきた。
ばしゃーん、ばしゃーん! ばっしゃばっしゃばっしゃばっしゃ・・・!
いったん上陸した水門前広場から、ふたたび川へ。
そして、水門の丸太格子へと、殺到!
アシ、俊敏! 陸上でも水中でも、左右にくねるその図体、意外なほどに高速!
番兵投石するも、アシ50に対し番兵3。到底防げぬ。あっちゅう間に、水門の丸太格子に取りつかれた。
「とかげどもめ!」「水門は通さぬ!」「串刺しえ!」「死なすえ!」
ハイエルフ槍兵、丸太格子を守るべく、槍突き出して応戦す!
水門の格子は、幅3間。
その左右1間ずつで、格子を挟んでの槍の突き合いが始まった。
ここは盾持ち固い地面に立つハイエルフが有利である。アシどもの竹槍を青銅のシールドではじき、返す槍でドラゴン面を突き刺して、次々にアシを脱落させてゆく。こちらが傷つくことはほとんどない。だが、たまに突き刺さった槍が抜けず、倒れるアシごと流されてしまうことがあった。フォームラー隊長が懸念した(けねんした)のはこれであった。
そして、中央の1間にも問題があった。
ハイエルフの槍が届かぬ中央のスペース。そこで。
アシの1人、ギザギザの歯ついた棍棒もて、ぎこぎこぎこと格子をこすりはじめた!
「のこぎり!」兵士が叫ぶ。「ドラゴン歯ののこぎりを使うておりまする!」
ぎこぎこぎこぎこ。
アシ、手に持っとるのは、びっしりと牙が生えた棍棒。牙はアシどもの鋭い牙である。原始的な、のこぎりであった。
太い丸太に、じわじわとキズが入ってゆく。だがその速度、早いものではない。水の中の作業だし、道具も劣悪なので。
「のこぎりは放置! 槍兵、そのまま左右を牽制せよ。中央は、空警がやる」
フォームラー隊長。
そう命じはしたものの。
『撃て』の命令、出すことできなんだ。
「──あとは、司祭待ちやに」
◆ 32、水門のたたかい ◆
フォームラー隊長率いる空中警備隊の魔術兵には、ひとつ、重大な制限があった。
『マナ切れ』である。
マナとは、ルーン魔術師たちが呪文を使うために必要な、不思議な力である。
目に見えず手でも触れず、それでいて、足りなくなれば呪文が使えなくなる。
マナ。この世のありとあらゆるところにある。人間の中にもあるし、木や石の中にもある。
そして、マナは『減る』ということはないが、移動することはある。
神々や巨人が動くと、それにつられてマナが動く。
人間が呪文を使ったときには、マナは吹き散らされてしまうという。
呪文を撃てば撃つほど、魔術師の中のマナが吹き散らされ、ついには呪文が発動できんようになる。
これが『マナ切れ』である。
「つまり、魔力が減るということだろう?」と、思われたあなた。
全然ちがいます。
『減る』とは『なくなる』ということ。
『飛んでく』とは『どっかにある』ということだ。
なくなったものはどうにもならん。しかし、飛んでっただけなら、集めてくればよいのだ。
ハイエルフの社会には、それができる専門家がいらっしゃった。
マナを呼び集めることのできる、神々のしもべが。
「隊長! 遅参、申し訳ございませぬ!」
白いローブを翻し(ひるがえし)、ハイエルフの女が走ってきた。
明るい灰色の髪を短く切った、清冽なる印象の女である。
白いローブに、お日さま色のブレストプレート(胸甲)をしておる。盾も、額の鉢金も、お日さま色である。
「太陽神殿の司祭ハナ、および、従者2名!
水門防衛、お手伝いいたしまする」
「司祭さま。御協力、感謝いたしまする」
隊長、礼をする。
「早速ですが、マナ招集をお願いいたしますえ」
そう。
この太陽の司祭こそ、マナを招集できる、隊長が待ち望んだ助っ人なのであった!
「敵の投げ槍が降ってきますゆえ、ご注意を」
「はい! 従者、盾かまえ!」
ハナ司祭にくっついてきたのは、やはりハイエルフの従者2人。
いずれも娘(?)だが、重武装である。かぶと、手甲、足甲、盾、そして小剣と長剣の2本を装備。
さっと盾を上方にかざし、ちょうど降ってきた槍1本、問題なくはらいのける。
白い手。
司祭が、秋の空に輝く太陽へと、その手をかざした。
「天の女神の裳裾(もすそ)になびく、清き御霊のましましたまえ・・・」
ハイエルフらしい、若々しい声で。
祝詞(のりと)を捧げる。
「しゅるしゅる!」
格子のアシどもが、声を上げた。
なにかを唱えているということは、ドラゴンにもわかるんである。警報を送ったんであろう。
後方のアシが、即座に反応した。
ひゅん、ひゅん・・・槍を投げてくる。
従者2人、盾かざす。ノーダメージ。
「清き御霊の・・・」ハナ司祭、投げ槍無視して、祝詞をつづける。「ましましたまえ・・・」
きらきら、きらきら。
彼女の周囲に、目にも眩い光が、輝き始めた。
「あなたたちも加わって」ハナ司祭が短く命じ、すぐ祝詞を再開した。
「はい!」
従者2人も、盾をかざしたまま、祝詞。「天の女神の・・・」「裳裾になびく・・・」
きらきらきらきら。
目にも眩い光、司祭と従者の周囲に、満ちてゆく。
彼女ら3人の姿が見えんほど、光が集まった──そのあたりで。
フォームラー隊長が動く。
隊長。腰の小物入れに手を突っ込み、ジャラッとなにかを掴み取った。
ばっ! 掴んだものを空中にばらまく!
ちゃりーんちゃりーんちゃりーん。
銀色に輝くコイン、地面に散らばる!
それは──銀貨!
「空警! 盾を配れ! 格子防衛隊に、2枚ずつ!」
「は!」
部下の魔術兵2人、飛ぶ!
槍兵の頭上を飛び越して、背後に着地。即、詠唱開始!
「銀の還元、変形──盾となれ! 『銀貨の盾』!」
司祭を包む光、わずかに減少!
代わりに、隊長がばらまいた銀貨、ふわりと宙に浮かんで、ぐにょーんと伸びる!
銀貨が──まあるい円盤となって、宙を飛ぶ!
アシと槍突っつき合う、槍兵どもに!
空飛ぶ円盤、まとわりつく!
アシども。
なんじゃそれ? という顔する。
して、円盤を突く!
かきーん。円盤、アシの槍を弾き返す!
アシども。
なんだと!? という顔する。
して、円盤を避けて、突く!
かきーん。円盤、素早く飛んで、アシの槍を弾き返す!
「盾来た!」「盾来たえ!」「これで二人力(ににんりき)!」
槍兵ども、よろこぶ!
銀貨の盾!
その名の通り、銀貨から生まれる魔法の盾である!
この盾に守られたものは、なーんもせんでも守ってもらえる! オートガードの盾!
ハイエルフ槍兵、俄然(がぜん)、有利となった!
魔術兵2人は、続けて『銀貨の盾』を詠唱する。詠唱する。詠唱する・・・。
盾が水門防衛の兵士に行き渡り、さらに2巡目が配られてゆく。1枚でも強いオートガード・シールドが2枚!
その代わり、ハナ司祭と従者を包む光は、見る見るうちに薄くなってゆく。
そう。この光こそ、マナの輝き。
この光尽きぬ限り、ルーン魔術師に、マナ切れはない。
これぞ、太陽の女神の偉大なわざ──マナの招集である!
「おいら、銀貨の盾に、守られて!」「おいらぁ無敵よ、盾の裏!」「おら突け、ほら突け、ドラゴンを!」
槍兵ども、歌い出す!
「長丁場え! 油断をすな」フォームラー隊長、方針を徹底する。「倒れることなかれ! 援軍来るまで、健在であれ!」
「おお!」
ちょっと守りゆるんだ槍兵。守りを固め、鉄壁のかまえを取り戻す。
「しゅるしゅる」「しゅるしゅる!」
アシども、なんかわめく。『へんな盾』『突破できぬ!』とでも、伝達したか?
「──隊長! 敵、後方、動きあり!」
水門の上、クレーンの影から投石しながら、番兵長が叫んだ。
「黒きアシ、詠唱中! ドラゴンシャーマンと思われまする」
「番兵、投石やめ! 隠れよ! シャーマンの視界に入るな!」
隊長はそう命じて、ハナ司祭を見た。
女司祭は『祈願』を続けておる。いちど薄くなった輝きは、ふたたび回復しつつある。
この輝き──招集されたマナは、使い切るわけにはいかぬ。
司祭たちが『祈願』するにも、マナは必要だからである。
隊長は、その見極めをした。
「・・・司祭さま。一度だけ『神速』をお願いいたします」と隊長。「まずは御自身に。余ったらば、私、部下」
ハナ司祭は祝詞唱えつつ、頭だけうなずいた。
そして『祈願』の祝詞が終わるとすぐ、別な祝詞を唱えはじめた。
「まどろみ垂れる我らのまなこに、神の目覚めをもたらしたまえ──『神速』!」
光の輝きが、一気に弱まった。
『神速』の祝詞が、マナを吹き散らしたんである。
その代わり、ハナ司祭の目と、隊長の目に、眩いきらめきが宿った。
「ありがとうございまする」
フォームラー隊長。水門内側の階段を登る。その足の動きが速い!
ハナ司祭は『祈願』にもどる。その詠唱が速い!
具体的には、1.3倍ぐらい速い!
なめらかにして、高速! これぞ太陽の祝詞『神速』! 動きがめっちゃ速くなる!
隊長。
水門上に姿を現わすや、大呪文の詠唱に入った。この詠唱も、むろん、高速であった!
──だが、しかし。
神速の詠唱をもってしても、一手、敵の後となる。
水門広場の、向こう岸。森のすぐ際にて。
ヌメヌメした黒アシ。
ドラゴンシャーマン。
大呪文の詠唱を、完成した。
「しゅるしゅるる──グチャグチャになりなしゃい。『ジャブジャブの黒き奔流』!」
それは、ウミ=ジャブジャブが鬼神に浴びせた、あの呪文であった!
ぱか。
黒アシ、口を開く。
その口から──真っ黒な砲丸が、撃ち出される!
砲丸。
水門の格子へ、一直線!
どっ・・・・・・・・・ごおおおおおん!!!
水門の格子を直撃!
黒き砲丸、爆散! 黒い水煙となる!
水門激震! 爆音、市中に轟く(とどろく)!
詠唱中のフォームラー隊長も、ぐらりと傾く。その白いタスキ、番兵長がとっさに掴み、引き戻す!
格子外側のアシ吹っ飛ぶ!
格子内側の槍兵吹っ飛ぶ! 『銀貨の盾』、健気に兵士をオートガードし、ばきんがきんとひしゃげて壊れる!
ハナ司祭と従者も黒水かぶり、詠唱つぶされ、咳き込んだ!
ぶっ倒れた槍兵ども、すぐさま起き上がり、槍を掴み直してかまえるも──
「あ! 格子が」「格子、1本破損!」「格子破損しましたえ! 中央、縦棒1本、破損!」
大呪文を喰らった水門。
格子の1本がへし折れて、穴開きとなってしもうた!
◆ 33、ハイエルフ、本気の一撃 ◆
格子に開いた、縦棒1本分の、穴。
長細い胴体したアシ。背のつばさ折りたたみ、へびのごとくして、穴をくぐる。
にゅるり。ざぷーん。くぐるやいなや、汚い下水に迷わず潜る。
にゅるり。ざぷーん。にゅるり、ざぷーん! 次々に、アシが穴をくぐり抜ける!
「アシ侵入! アシ侵入!」「防げ!」「槍が届かぬ」「川に潜りおった!」「うぬう! 見えぬ。どこえ」
「やむを得ぬ! かくなる上は、川に降りて──」
「降りてはならぬ!」番兵長、叫ぶ。「敵、シャーマン、詠唱中! 次弾来るえ、川には入るな!」
番兵長の見る先。
先ほどとは別の、第二のドラゴンシャーマン!
その『ジャブジャブの黒き奔流』──水門上のクレーンを、狙っておった!
だが、今度はフォームラー隊長が先んじた。
水門を襲った砲丸にも揺るがず続けた詠唱。
必殺の大呪文を、まさにその第二ドラゴンシャーマンめがけて、解放する。
「岩石、破断、爆破──砕け散れ! 『岩魔弾(がんまだん)』!」
水門前広場の地面がめくれた。
濡れた土をこぼしながら、岩が、浮かび上がる。
人間ほどもある岩が、1つ、2つ、3つ、4つ・・・
バキン! その岩が、割れる。バキン、バキン、バキン・・・細かく砕けて、人間の頭部ほどの岩石となる。
その、岩石が。
敵陣めがけて、殺到!
大呪文詠唱中の、ヌメヌメの黒アシ・ドラゴンシャーマン。
回避の余裕は、なかった。
ど! ご! ご! ごぉぉん・・・!
地鳴りと爆音が、またしても水門を揺るがした。
奇しくも、この岩魔弾もまた、鬼神がドラゴンに浴びせられた呪文であった。
・・・あ、ジャブジャブではありませんよ。黄色の竜だ(1章の真ん中らへん、「赤猿の旅」でのことです)。
フォームラー隊長の岩魔弾は、敵を打ち据えるだけではなかった。
ド派手に、爆発をした。
土巻き上がり、破片飛び散り、周辺の木々にガスガスと突き刺さる。
水門の上にまで、バラバラと小石や土くれが飛んで来おる。
爆心地のアシども、木っ端微塵(こっぱみじん)。
ドラゴンシャーマン、跡形もなし。
恐るべき威力!
この一発をもって、ドラゴンシャーマンは全滅。
恐るべき『ジャブジャブの黒き奔流』、二度と飛んで来ることはなかった──
・・・余談ですが。
これほどの威力を叩き出せる『祈願』。
なぜ『緑の魔術の国』は、鬼神相手に使わなかったのか? と、疑問に思われた方がいらっしゃるかも知れぬ。
それはですね。太陽の神殿の方針なのだ。
「外国における争いに、太陽の神殿は参加も協力もしない」というのだ。
あの『緑の魔術の国』ですら、太陽の神殿を操ることはできなかったというわけなのです。
──まさに、祖国防衛なればこその一撃。
ハイエルフの、本気の一撃であった。
しかし、水門はすでに穴開き、アシの侵入を許しておる。
アシども。大呪文にはびびったが、すぐ気を取り直し、ジャブジャブと水を蹴立てて突入して来おる。
ハナ司祭と従者は『祈願』を続けるが、『神速』と『岩魔弾』で飛んだマナ、集め直すには、時間がかかる。
援軍、いまだ、影も形もなし。
水門防衛は、劣勢のままであった。