◆ 1、鬼神、ぼやく ◆
「することがなくなった」
鬼神、ぼやく。
・・・ぶわっさ?
久々に鬼神のそばでじーっとしとる相棒。ガンメタリック・かぶとがに・鬼神台。
いたって鈍い反応ながら、話聞く姿勢見せる。
「聞いてくれるか。相棒」
・・・ぶわっさ。
鬼神、相棒に向かって前のめりになる感じで、しゃべりだす。
「いやな。私は、ほら。強いだろう?」
ぶわっさ・・・?
いきなりの自慢。相棒困惑である。
「強すぎて、すぐに戦う相手が居らんようになる。
人助けだって、そう毎日できるというもんでもない。
それで困っておるというわけだ」
・・・。
ガンメタ鬼神台、ちょっとそっぽ向く。
『まあそうッスね』という感じで、鈍くうなずく。
「やっぱり、お月さんと一緒に、あっちへもどろうかのう・・・」
空見上げる鬼神。
青空には、細い月がしずかに浮かんでおった。
ここは、アルフェロン湖ほとりの小さな草原。
人が居らず、獣が寄ってくるでもない。静かなところである。
ちょっと歩くとダークエルフの『湖の神殿』がある。
月の女神は、いま、その湖の神殿で、信者の相手をしておる。
そろそろ月へ戻るつもりなので、可愛い巫女ども、信者どもと会っておこうというわけである。
鬼神。神さまと信者を邪魔しちゃいかんというわけで、この草原で待ち合わせをした。
相棒と一緒に、ぼけーっと日向ぼっこしておるところである。
「はあ・・・」
鬼神、ため息つく。
「息子は立派に国を守り、娘も美しく育ち、誰1人として病気も怪我もしておらん。
これで文句言うてはいかん。それは、私だってわかっとるのだ。
わかっとるんだが、こう、なんだ。アレじゃ。
もっとこう・・・なんかないんか?
もっと・・・私にはなんかできるぞ? という。
相棒よ。わかるだろう? な?」
ぶわっさ。
相棒同意である。
「おまえはそういうとき、どうするのだ?
もっと俺にはできることがある。俺になんかさせよ! そういうときだ」
ぶわっさ?
「そうだ。おまえはそういうとき、どうして過ごすのだ?」
ぶわっさ・・・。
ガンメタ鬼神台、ちょっと離れた。
わずかに空中に浮かび、モゴモゴと左右に動き、ウズウズした。
それから、深呼吸するみたいにすーーーっ・・・と鼻面を上げ下げし、静かに地面に着地。
しばし静止。
で、元の位置に戻ってきた。
ぶわっさ。
「ふむ・・・」
相棒の言葉ならぬ言葉。鬼神、じっくり考える。
胡座して六腕を組み、沈黙し、瞑目した。
そして目を開いた。
「溜めか」
言葉にした。
「あわてずさわがず、意味なく動くことはせず。
じっと物事を見て、時を待つ。そういうことか」
・・・。
ガンメタ鬼神台、ごくわずかに鬼神の方に向く。
「ふむ。なるほどな」
鬼神納得。
・・・したが。
「無理じゃ! 私には! そんな、おまえのようなことは!」
六腕広げ、そっくり返り、ばーんと草原に仰向けになった。
ずし~~~ん。巨体に地面揺れる。あわれ花々ぺちゃんこである。
「私は、さわがしい男なのだ!
そんないつまでかわからん時間、なんもせんと、じっとしてはおれんのだ!」
六腕と二足を八方に広げた鬼神。
「はあ」ため息した。「だが、参考になったぞ。相棒よ」
ぶわっさ。
「寝る」
ぶわっさ。
◆ 2、鬼神、いのられる ◆
「ちちうえー」声がした。「父上。聞こえますかー?」
「む?」
起きる。
すぐそこに、三女の姿があった。赤い肌したイリスである。
イリス、ベットに座って両手合わせて、目閉じてぶつぶつとしゃべっておる。
「なんじゃ? どうしたのだ、イリス」
「あ、父上」
「『あ』じゃないわ。なんじゃ?」
「ちちうえー。神竜って、どないしたらええのですかに?
恐ろしゅうて、私、よう寝られへん」
「おお、イリス。おまえがなんかを恐がるとは、珍しいな」
鬼神。
起き上がって、イリスの前に膝ついた。
隣に座ろうかとも思うたが、草原に寝っ転がっとったので、ベットが汚れると思ったんである。
可愛い娘の頭を、ごっつい六腕で抱っこする。
「よしよし。恐がらんでも大丈夫じゃ。神竜なんぞ、私がやっつけてくれるからのう」
イリスが顔上げてこっちみた。
「あー・・・」と微妙な表情する。「父上はそない言うと思うてましたに」
「なに?」
「やっぱ父上じゃアカンに」
「なに!?」
「母上に聞こーっと」
イリス消えた。
鬼神びっくりである!
「イリス? おーい、イリスや? どこへ行ったんじゃ!?」
「・・・なんだ。夢か」
鬼神は目を覚まし、起き上がった。
覗き込んでおった女と、あやうく顔ぶつけそうになる。
「うおっ」鬼神よける。
「あぶなっ」
女のけぞる。美しい銀髪がふわ~んと舞った。
「なにをするのえ。いきなり。あぶないやつ」
「なんじゃ。おまえか」
「なんじゃとはなにえ」
月の女神であった。
いつの間にやら、眠っとる鬼神のそばに座っておったんである。
相棒は・・・ちょっと離れた木立の中をスラロームしておる。訓練か。月の女神への配慮もあるか。
鬼神、座り直した。
「いやいや。すまん。夢にイリスが現れてのう。
それが急に消えたもんで、びっくりして飛び起きてしもうたのだ」
「分霊か」
「わけみたま? いやいや、そんな、」
分霊とは、ある神が、いろんな場所に同時にいらっしゃる、というような意味である。
いろんな場所に同時にいらっしゃるのだから、そこで祈られたら、当然、聞こえるわけである。
鬼神には、できん。やり方がわからんのだ。他の神々は、みーんな、できるらしいのですがね。
「・・・そんな、神さまみたいなことは、私にはできん」
「神さまやに」
言うてから、月の女神はなんかに耳を傾けるようなしぐさをした。
鬼神は、なんか音がしたのかと思い、耳を澄ます。
だがなんも聞こえぬ。
月の女神が『なにえ?』と目で言うてきたので、話を続けることにした。
「いや。それで、夢の中でな。
イリスが『神竜が恐くて眠れん』と、悩んでおったのだ。
それで、相談に乗ろうとした。
だのにから、イリスのやつめ!
父上じゃ話にならんから母上に聞くわい。などと言いよってな」
「・・・ふむ」
月の女神、うなずき、ほほえんだ。
「やはり分霊やに」
「は?」
「いまイリスから祈りが聞こえたえ。
『父上に祈ってみたが、わかってへんから、母上にお伝えします』と」
「・・・なに?」
「そなたの見たそれは、ただの夢ではない。
イリスの祈りが届いたのにちがいなし。
鬼神よ。そなたは、祈られたのえ」
◆ 3、鬼神、祈りをきいてみる ◆
「そんなばかな! そんな、神みたいなことが、私にできるはずがない」
「そやに、私にも同じ祈りが聞こえたに」
「それは・・・あれだ。私の話を聞いて、合わせて言うとるだけだろう?」
「こりゃ。鬼神よ」
月の女神、怒った。
「たしかに私は、物事を秘密にするし、人をだましたりもする。
そやに、信者の祈りを捏造(ねつぞう)は、決して、せぬ。
今の言葉は聞き捨てならぬ! 取り消してたもう」
「・・・む」
鬼神ひるんだ。
正座した。
頭下げた。
「ごめんなさい。取り消します」
「よろしい」
「しかしだな・・・いくらなんでも・・・つまり・・・」
「そないに否定する必要が、どこにあるのえ?」
「うん?」
「そなたは神。人間ではない。
祈りは聞こえて当然。むしろ聞けぬほうが不思議やえ」
「え・・・いや、そうなのか?」
鬼神。
困惑し、相棒を見る。
相棒。
お呼びですか? と戻ってくる。
「私は、本当に、神なのか?」
相棒傾く。『さー?』のポーズである。
そんだけか? じゃーな。・・・みたいな感じで木立へ戻ってった。
「素っ気ないやつ」
「ま、えええ。それより、娘の悩みについてやが。
そなたはどない答えたのえ?」
「そりゃ・・・、私がやっつけてやるから、心配はいらんと」
「阿呆」
「なんでじゃ!」
「神竜は厄介なルーン持ちゆえ、『やっつける』などということはできぬ」
「なら、どうしろと言うのだ」
「どうしようもないえ」
月の女神。
花を愛でながら、穏やかに言うた。
「世の中には、どうしようもないこともある」
「そんなばかな。私はそんなこと、認めんぞ」
「我らが認めるかどうかなど、この世の知ったことではないのえ」
「この世がどうだろうが、私は認めんぞ。そんな・・・娘が泣くようなことは」
月の女神はほほえんだ。
して、また何か耳を傾けるしぐさをする。
「ルシーナとハルモニアーも、言いたいことがあるようやえ。聞いておやり」
「・・・聞けと言われてものう」
「夢にイリスが出て来たのなら、ルシーナやハルも出てくるやろ。寝てみよ」
「いやしかし」
「ええから寝てみよ」
月の女神に頭を抱かれ、膝まくらされ、鬼神はもう一回寝てみた。
「父上は知らんと思いますがに、」
ルシーナが登場した。
手を合わせ、目閉じてブツブツ言うておる。
「なんじゃ」鬼神怒る。「藪から棒に(やぶからぼうに)」
ぱっちり。
ルシーナ、こっち見る。相変わらず、すんごい美貌である。
「そやに、知りませぬやろ?」
「何をじゃ!」
「神竜こわいと言うて、妹どもがビクビクしておるのですえ。
ルーンにまで伝染してしもうた」
「ほう?」
「隊長をおびえさせるとは、困ったものですえ。
対処法や、いかに?」
「なるほどな」
「──ということで。さらば、御機嫌よう」
「おいおい。待たんか。一方的に切るんじゃないわ」
「えー・・・。
かかる問題、父上は、苦手ですに?」
「いやいや。まだ、なーんも言うとらんだろうが。勝手に決めつけるんじゃないわ」
「そやに・・・いつまでも甘えておるわけにもいきませぬし」
「ふむ?」
鬼神。
なんじゃ、そっちが本音か? と、ちょっと娘を可愛く思った。
「ルシーナよ。
少しぐらい、私を頼ってもええんだぞ。
おまえの父はな、こう見えて、何十年も国王やっとった男なのだから」
「はぁ」
「はあじゃないわ。まったく・・・。
イリスもおまえも、祈っとるのやら、からかっとるのやら」
「ははは」
ルシーナ、けらけら笑って「お元気で」と言うて、消えた。
「ええか? そういうときにはな」鬼神答えようとするが、「あれ? 居らん」
「父上。こんにちは。初めてお祈りをしてみます。お元気ですか?」
ハルモニアー。丁寧なあいさつ。
お茶まで供えてくれておる。ええ香り。湯気も立っておる。
「おお。
さすが、ハルじゃ。入り方からしてちがう。
私は元気じゃ。なにかな? なんでも言うてみよ」
「はい。こちら、みんな元気ですえ。
神竜のうわさで、イリスおびえ、ルシ姉ちょっとイライラしておりまする。
ルーンは、隊長の仕事とグレイスの姉者のしごきで、大変そうです。
・・・あ、ルーンと同居しておること、御存知ですかに?」
「いや、初めて聞いたわい。・・・お茶、もらうぞ」
「どうぞどうぞ」
鬼神、お茶呑む。
ハルモニアー、ちょうどよいタイミングで、つづける。
「4人で下宿しておるのですえ。
お宿の、ストーブつきの大部屋です。
よい部屋ですえ。もとは、ダークエルフの商人が長期契約しておった部屋だとか。
アルス滅亡以来、音沙汰なく、空き部屋となっておった由。
そこをルシ姉が契約しました。ルーンの名前を出して」
「ほー」
「1階ですが、ご主人一家の部屋よりも奥で、安心なのですえ」
「それは安心じゃ。
しかし、ルーンお嬢さんは大丈夫なのか?
つまりほら、姉妹の中に、1人なわけだろう?」
「はい。それは私も気になりまして、確認いたしました。
『1人やと物騒やから、ありがたいんよ』とのこと。『おそれおおいけど』て」
「ああ、そうか。若い娘さんだものな。
剣は剣で、世にふたつとないものすごい剣だし」
「まさにそういうことですえ。
ですから、楽しく過ごせるよう、私もがんばっておりまする」
「なるほどなるほど。そうか、そうか」
「ただ、そのう・・・」
「うん? なんじゃ」
「いえ・・・」
「なんじゃ? いまは2人きりじゃ。言うてみよ」
「はい。では。
ルシ姉が、すこし入れ込みすぎのような・・・。
ルーンもさすがに困惑しておりまして。
『女王にしようとするん、なんとかならへん?』と、相談されまして・・・」
「女王?」
「あれ? ルシ姉から聞いておられませんに?」
「それも初耳じゃ。なんの話じゃ?」
「あら。そうでしたか・・・」
ハルモニアー、ちょっと考えて、にっこりした。
「わかりました。ならば、そのあたりの事情は、また次回!」
「は?」
「今日はここまで。次回、お楽しみに~」