◆ 1、ハルモニアー、酒場でうたう ◆
「はぁ・・・久しぶりやわ、酒なんか呑むん」
「ほんまやな」
くたびれたダークエルフのおっさんども、テーブルにうつむく。
ここは、丘の街、裏通りにある、古ぼけた酒場。
『銀(しろがね)酒場』といい、昔からダークエルフが中心の店である。
「ここもさびれたのう・・・」
「アルスのあれからは寂しくなる一方や」
ダークエルフども、不景気な顔して、ちびちびと酒を飲む。
「ようさん(仰山)避難してきたから、ちっとはにぎやかになるか思うたんやが・・・」
「しゃあないわ。みな、仕事ないねんから。酒呑む余裕なんかあらへん」
「そやな・・・わしらも、仕事分けたる余裕はないしのう」
そんな不景気なテーブルの隣に、若いダークエルフの男どもが座った。
「どうも」あいさつしてくる。
「・・・お、護衛隊の兄ちゃんか?」不景気なおっさんがちょっと笑顔になった。「おつかれさん。今日も仕事か?」
「今日は訓練だけですわ」
「隊長が『たまには呑んでおいで』いうて、お金くれましてん」
「ほんまか! 隊長いうたら、あれか。あの・・・綺麗な姉ちゃん。キノコ農家の」
「・・・ルーン隊長です」
「ああそうそう。ルーンちゃん。そうかー。ええ隊長やなあ。気が利くやないか」
「ええ」
「そうかそうか・・・ルーンちゃんか・・・」
不景気なおっさん、ちょっといやらしい顔になる。
「兄ちゃんら、誰か手ぇ出したんか? ルーンちゃんに」
「いえ」護衛隊の若いの、やや険しい顔になる。「隊長に手ぇ出すのは、互いに禁止にしとるんですわ」
「なんや若いのに。手ぇ出したったらええがな」
「いえ」
護衛隊は不景気なおっさんから目そらし、酒を呑み出した。
しかし、おっさん、まだなんか絡んできそうな気配である。
そのとき。
♪しろがねみぐしの しろきみて
ながなはみつき あがちょうし
かしこみ かしこみて
酒場に歌が流れてきた。
ダークエルフども、「お?」と顔を上げ、そっちを見る。
白い肌したエルフの娘が、竪琴を波打つように爪弾き、歌っておる。
「誰や?」「わからん」
「ハイエルフ?」「この宿にか?」「ルシーナさま・・・ではないか」「ちゃうちゃう。ちょっと似とるけどな」
♪ひかりとやみの ふたごをやどし
つきのめがみの よをめくらまし
みえぬとこよの みまほしうとて
しゃらーん・・・。
竪琴鳴らして曲を終え、娘、おじぎ。
ダークエルフども、とりあえず拍手。護衛隊の1人が銀貨投げた。
ちゃりーん。
お碗に、コイン入る。
床に置いてある、大きなお碗。おひねり入れ、であった。
「ありがとうございます」と娘。
「月の讃歌かー。ひさしぶりに聞いたわあ」
ダークエルフのおっちゃんも銀貨出す。
お碗に投げず、娘に近付いて、手渡しした。そのついでに、娘の手を握る。
「お姉ちゃん、見いへん顔やなあ? 名前はなんて言うん?」
「ハルモニアーと名乗っておりまする」
「へえ? ダークエルフの名前やん」
「はい。母がこちら側ですので」
「へー、ほんまかあ」
「これからときどき歌わせてもらうと思います。みなさま、よろしゅう」
ハルモニアーはするっと手を抜き、銀貨の入ったお碗を拾った。
小さなステージ。
酒場の隅っこに造ってある、スカルド(弾唱詩人)用の狭い台である。
この小さな台が、ハルモニアー──鬼神と月神の次女の、初めてのステージであった。
「綺麗な声やな」「うん。ええ声しとる」「美人やし」
護衛隊は飯食いながらハルモニアーを見ておる。
「なんかモヤモヤしとる」と1人が言うと、
「それや」別な1人が手を叩いた。「それがルシーナさまっぽいんや」
「あー、言われてみれば」
ハルモニアー。
おっとりした美貌に、もやーっと明るい光が輪っかみたいにまとわりついておる。
薄曇りの夜の、お月さんみたいな感じ。
ルシーナを見慣れとる護衛隊は、そこに共通点を感じたのであった。
「ほな、ルシーナさまの身内か・・・」「女神さまか・・・」「どおりで歌上手いはずや・・・」
護衛隊、やや声を潜める。
一方、おっさん。まだハルモニアーに話しかけておる。
「歌だけなん? 夜のほうはやってへんの?」
ハルモニアーが立ち去ろうとするのに、微妙に邪魔な位置に立って話を続ける。
「私は、歌だけですに」ハルモニアーは愛想笑いした。「旅の詩人でございまする」
「そうかー。大変やろ? 旅言うても、女ひとりじゃ・・・」
「いえ」
ハルモニアー、顔が強張る。
そこに。
「ハル姉ー。歌、終わったん?」
おっさんよりも背の高い、赤い肌した娘が割り込んできた。
「おっと! なんや?」
おっさんフラつく。その腕を、赤い肌の娘がさっと掴む。
「おっちゃん大丈夫?」
「お、おう。・・・あんた誰や? 見いへん顔やな」
「うち、イリス」
にこっと笑う。鋭い牙、キラッと光る。
ダークエルフのおっさん、ちょっとびびる。
「あれ?」護衛隊の1人が声出した。「イリスさまやないですか」
「こんばんはー」
「こんばんは」「どうも」「珍しいですね、酒場来はるん」
「・・・なんや。知り合いか」とおっちゃん。
護衛隊、顔見合せ、ニヤッと笑うた。
「お父さん。恐れ多いですで」
「あん?」
「月の女神の御令嬢ですよ。最近、月から降りて来られましてん」
「え? マジで?」
「マジですって」「湖の神殿に降りていらっしゃった」「やっぱわかってへんかったんや」
「え・・・そ、そうなん? し、知らんかった・・・あ、いえ、知りませんでした」
「よろしゅうー」とイリス。
「は、はい」おっさん後じさる。「あの、そちらのスカルドさまも・・・?」
「ハルモニアーです。鬼と月の次女です。
詩 人 と し て やっていきますので、どうぞよろしゅう」
「は・・・ははあー!」おっちゃんひざまずく。「ど、どうか、先ほどのことは、お許しを」
「覚えて頂けるなら、ゆるします」
「決して忘れません」
「はい。ほな、これにて」
ハルモニアー、背の高いイリスに守られるようにして、酒場を抜け出す。
出る前に、酒に酔ったダークエルフどもの感想がちょっと聞こえた。
「いやー、女神さまやったんか」「どおりでやな」「声綺麗かったもんな」
「死ぬか思うた・・・」「手当たり次第に声かけるからやw」「笑うなおまえ・・・」「笑うわこんなもんwww」
ハルモニアー、店の出口で足を止め、長いエルフの耳をそっちに向ける。
「歌だけなんかな? 話はやりはらへんのやろか」
「隊長の話とかしてくれたら・・・」
「あ、それ俺も聞きたい」
「──ハル姉?」
「あ、うん」
入り口近くの客が、寒そうな顔してこっち睨んでおる。イリスが酒場のドア開けて待っとるので。
ハルモニアーは竪琴を抱え直して、酒場から表へ出た。
日はとっくに暮れ、丘の街は冷たく冴えるような夜である。
ちらり、ほらりと、白いものが舞っておる。
「雪や」とイリス。
「うん」とハルモニアー。「もう冬やに。おお寒っ」
きぬぐものマントをかき合わせて歩くハルモニアー。
イリスは肘までしかないシャツに革のチョッキだが、平気な顔であった。この子は寒さに強い。
大通りに出て、ゆるい坂を上り、下宿しておる宿までもどる。
石畳の道は、もう、うっすらと雪をかぶっておった。
ブーツの足跡残して、宿へ入る。
宿の1階。小さな食堂である。
「ただいまー!」とイリス。
「あ、お帰り」
テーブルの1つに座っておったダークエルフの美女が、イリスに応えた。
ルーンお嬢さんである。ぴしっとした白いシャツに黒い革のチョッキを着ており、とても凛々しく見える。
「ハル姉、お疲れさま。座る?」とルーン嬢。
「ありがとう」
ハルモニアー、ルーン嬢の隣に座る。イリスはルーン嬢の向かい側に座った。
「どうやった? 初めてのステージ」
「まあまあ。おひねりもちょっともらえた」
「良かったねえ」
「終わったあと、絡まれておったに」とイリス。「ダークエルフのおっちゃんに」
「・・・。」ルーン嬢、立ち上がる。「誰やそいつ。私、ちょっと行ってシメてくる」
「ええのえ」ハルモニアー笑った。「私のこと知らんかったみたいやし、謝ってくれたに」
「ほんまに大丈夫?」
「大丈夫。スープ冷めますえ? 隊長」
「あ、はい」
ルーン嬢、座る。食べかけのスープつつく。
宿の主人がやって来た。「お帰りなさい。食事の前に、あったかいスープいかがですか?」
「頂きます」「私もー」
「はいはい。イリスさまは大盛りで?」
「うん」
すぐにスープが出て来た。イリスは丼で。
湯気立つ野菜と芋のスープである。ヤギの乳が入れてあるようで、独特の匂いがする。
スプーンですくって口に入れると、まずはしょっぱく、次にじんわりと芋の甘みが広がり、野菜と肉のうまみが広がる。
たぶん、ヤギの骨つき肉のダシであろう。今日の晩ごはんはヤギ肉料理っちゅうわけである。
「うまー」イリス満足げ。「ヤギ肉好き」
「おいしいに。・・・隊長のほうはどうやったん?」
「うん。まあ、山賊の報告しただけやからね」
◆ 2、ルーン嬢、情勢をかたる ◆
「詰め所に行ってね。口で説明して、相手が書き取ったものに目ぇ通して、サインして、終わり。
ちょっと時間かかったけど、大したことなかったわ。報告はね」
ルーン嬢。
警備兵詰め所に行っとったらしい。
ぴしっとした姿をしとったのは、そのためであった。
「──ま、『商人さんは守りました』ってだけやからね」
「商人さん」
「うん。御者してくれた人らね。
あの人ら、この街の人やから。警備兵は事件調査せなアカンわけ」
「なるほど」
「あとは、私らダークエルフへの念押しやね。
『あの山道は丘の街のものですからね?』っていう」
「なんでそんな念押しするんかに?」
「ルシーナが国造る気満々なん、向こうにバレとんねん」
「・・・警戒されておるのかに? 領土を取られるのやないかと?」
「そう」
「ルシ姉、入れ込んでおるからに・・・。
というか、ルシ姉も行っておったのやに」
「うん。『我は侍女なり』言うて、くっついてきた」
「侍女」
「ホンマに言うたんよ?
ほんでその侍女様がキレよんねん。
『オマエらの領土やと? ほんなら山賊撃退の謝礼寄越さんかい!』いうてね」
「ほんまにそんな言い方したのかに?」
「ごめんハル姉。いまちょっと誇張した」
「もう」
「ま、それで、ルシーナが謝礼金と情報もぎ取ってくれてね」
「情報てどんなのかに?」
「山賊の身元。あいつらね、アルフェロン湖の漁村から来たらしいわ」
「漁村? 漁師ってこと?」とイリス。
「うん。斥候の人が足跡追跡して、確認したて」
「・・・そう言えば、槍使うておったに」イリス思い出す。
「そやん」ルーン嬢、憂鬱(ゆううつ)そうにうなずく。
「漁師が、なんで山賊するん? 魚とればええのに」
「ちゃうねんイリス」
「なにがちゃうん?」
「いま、アルフェロン湖はね、船がいーっぱい行き来しとるんよ。
アシ戦争で、ドラゴンの縄張り、せまなった(狭くなった)やん? それでね」
「?」
「つまり、その船がね・・・、あ、エールください」
「はーい」
「うちも!」「あ、私も」
「はいはいー」
「・・・その船がね、いろんなもん持って来るんよ。もちろん、食料もね」
ルーン嬢。
代金を支払い、エールをもらう。
「あー!」イリス納得。「武器やヨロイ強奪して、食べもんと交換!」
「そやん」
ルーン嬢、ため息。
「青銅の胸甲なんかね、1着渡せば、小麦1年分とかもらえるんやって。
『ヒューマンの国が戦略的に集めておるようですに』・・・って話やった」
「戦の用意かな?」
「さあ? まあ『戦略的に』っちゅうんやから、隊長はそう推測しとるんやろね」
「そっかあー。それでかあー。ごくごく」
イリス、エール呑む。
「ごはんいっぱい食べてそうな顔して、なんで山賊するんかと思うたに」
「そか。逆やったわけやに」
ハルモニアーもあいづち打つ。
「食べれるのに山賊する──ではなく、山賊しておるから、腹一杯食べれる」
「そやん」
ルーン嬢、エール呑む。
で、茶色の肌した凛々しい美貌、ハルモニアーにぴしっと向ける。
「──そやからね。アカンで? ハル姉」
「え? わたし?」
「ヒューマンの村はアカンで」
「ん?」
「歌いに行ったりしそうやん? アカンでって」
「あ、そういうことか」
ハルモニアーはほほえんだ。
「ようわかったに? ルーン。
たしかに、私は、世界中回って、歌ってみたいと思うておるえ」
「アカンで」とルーン嬢。
「危ないに」とイリス。
「大丈夫。行くときは、ちゃんと相談する。
それに、まだまだ先の話え。今日も、修行が足らぬと思い知ったに」
「ほんならええけど」
ハルモニアーは穏やかなほほえみを浮かべて、ルーン嬢を見た。
「ルーン隊長」
「ん?」
「私の修行のため、折入ってご相談があります」
「え、なに? 急に」
「隊長の武勇伝を、歌にしたいのですえ」
「は?」
◆ 3、ハルモニアー、取材する ◆
「差し支えないところだけで結構ですに。ぜひ」ハルモニアー、迫る。「ぜひに」
「え、ちょ、待って?」ルーン嬢あわてる。「歌にする? 私を? ありえん。いやや」
「あー」とイリス。「ええと思うに」
「なんッ・・・もよくない」
「隊員のひとに訊かれたに。『隊長て、休みの日、何してはるんですかね?』て」
「なんもしてへん・・・!」ルーン隊長、両手で顔おおう。「酒呑んでつぶれてる」
「そんなん、もちろん、秘密にしますに。
ね? 英雄の口伝(くでん)はスカルドの本領ですに。
隊長の名声も高まります。仕事もスムーズになりますえ? ぜひ」
「ちょ、待って。ハル姉がこわい。目が本気や」
ルーン嬢立ち上がろうとする。
がし。
その肩を、白い手が押さえた。
「賛成やえ」
「うわ出たルシーナ」とルーン嬢。
「なにえ。その言いよう」
三姉妹の長女、輝く肌のルシーナ、登場であった。
「私からもお願いしますえ。三日月の姫」
「姫! そら人ちがいですわ。うち農家の娘やし?
手ぇ離してルシーナ侍女陛下。うち今日はもう寝んねん」
「そうおっしゃらず。可愛い妹の門出に、どうか御協力あれ」
ルシーナ、おじぎ。
おじぎはするが、手はルーン嬢の肩押さえつけたままである。
「こんな頼み方ある? うち、有名になりたないねん。ほんまに」
「女王になられる御方がなにをおっしゃいます」
「そっちこそなにおっしゃいますやわホンマにもー・・・アホちゃう? 女王女王て」
「あほちゃうえ。エールお願いします。2つ」
「はいはーい」
ルシーナは座った。ルーンの隣。ハルモニアーの向かいである。
「まあ、真面目な話。
何かネタになるような話、妹に聞かせてやってたもう。
エールおごるに。おねがい」
「う・・・」
「うそでもええに」
「うそはアカンえ」とハルモニアー。
「はい、エールです」
「ありがとう」
ルシーナ、エール受け取り、代金払う。
1杯はルーンにおごり、もう1杯は自分で呑む。
「もらうけど。いただきます。でも、いややねん・・・」とルーン嬢。「恐いねん」
「それはわかるが、」
恐いもの知らずのルシーナ、口でだけ理解を示す。
「──わかるが、どっちみち誰かに歌にされるえ?」
「なんでよ」
「注目されておる。オレンジの剣持つダークエルフの女丈夫と」
「うちそんな目立ってへん。きしにぃのほうが目立ってる」
「きしにぃ初めてこの街来たとき、誰乗せて来た?」
「・・・うち」ルーンうなだれる。
ルシーナ、『ほれ見ろ』っちゅう顔して、エール呑む。
「ゴクリ、ゴクリ。
──ルーン。そなたはすでに、英雄物語の主人公になってしもうておる」
「うう・・・」
「どうせなら、ハルにやらしたほうがマシやに? ん?」
「そんなん・・・言いくるめやん」
「言いくるめやない。情報戦略え。
後手に回るべからず。先手打って、良きウワサ、広めるべし」
「賛成やえ」
剣がしゃべった。
ルーンの腰の長剣。神剣グレイスである。
「このグレイスも、ルシーナも、そなたをひいきにしておる。
いまさらコソコソしても、『神々のお気に入り』との嫉妬、まぬがれぬ。
堂々と名乗りを上げ、私に手を出せば女神が怒るぞと、教えてやるが優雅なり」
「我が意を得たりですえ。グレイスの姉者」
「すぐそうやって結託するー!」
「さて、グレ姉も賛成してくれたことやし、」
ルシーナ、強引である。
「『月の姫と神剣グレイス』ということで、ひとつお話を頼みますえ」
「え?」とグレイス。「待ちなえ。私の名を出されるのは困る」
「なにえグレ姉。打ち合わせとちがうに」
「打ち合わせて!」
「いやその、本名はちょっと・・・母上に怒られるやも知れず・・・」
「怒られるとは、なにをですかに?」
「いや・・・このグレイス、落っこちて以来、実家に連絡、しておらぬ。
そやに、旅先でブイブイ言わし、名を上げた日には・・・。
『なにを調子に乗っておる』と怒られること、まちがいなし」
「うちのおっ父みたいやに」とイリス。
「ちょっと待って」とルーン嬢。「それ、私まで怒られるんちゃう?」
「それはない。そなたは私の生命の恩人。母上がそなたに怒ることはない」
「そうなん」
「たぶん」
「たぶんて」
ルーン嬢、2杯目のエールを呑み進める。
「このグレイスも、ひと柱の神なれば。
どこに居って誰を助けるかは、私の自由。一点の曇りもなし。
母上も、そこはわかってくださる」
「そっか」とルーン嬢。「うん。よし。わかった」
「わかってくれたに」とグレイス。
「うん! グレイスの話したげるわ。ハル姉、どんっどん広めたって!」
「なんもわかっておらぬ」
「わかってますうー。生命の恩人がー、しゃべると決めたんですうー。一点の曇りもありませーん!」
「酔っぱらっておる」とルシーナ。「いつになく強引やえ」
「お姉に似てきたに」とイリス。
「は? 誰姉言うたいま」
「ルシ姉」
「表出ろ」
「グレイスはねえ、岩に突き刺さって『たすけてー』って泣いとったんよ。それを私が引き抜いてあげたん」
「泣いてはおらぬ」
「姉者。このイリス、優しく強い女を目指しておりまする」
「それがなにえ」
「泣いとったやん。『ああ! 待って! 行かんといて! こんなところで埋もれとうない!』いうて」
「泣いてはおらぬ。いちじるしい捏造なり」
「このイリス、か弱い姉者を冷たい雪の上に投げ飛ばすなど、できませぬ」
「なにえ、下克上。今日こそわからしてやるゆえ、とっとと表出よ」
わやくちゃである。
宿の主人。見かねたのか、声をかけてきた。
「みなさま、お食事、できましたえ。お部屋に運びましょうか?」
「あ、はい! お願いします」ハルモニアーが立ち上がる。「ルーン。部屋で続き聞かせて。ぜひ!」
「はいはーい」ルーン嬢立ち上がる。ふらつく。「ふあー?」
「イリス」とハルモニアー。
「はーい」イリス、ルーンを支える。
「おまえは表出よ。ルーンはわたs──」
「ルシ姉は、大丈夫? 酔ってないに?」
「大丈夫に決まっておる!」
「さすがルシ姉。頼りになるわあ。食事運んで」
「あ、はい」
◆ 4、ハルモニアー、世にいづる ◆
ちゃりんちゃりーん。
お碗に、コイン入る。
「ありがとうございます」
ハルモニアー、おじぎ。
「みなさまのおかげで、またここでお会いできました。
今日はですねえ、前回より長めのお時間を頂いとるんですけど・・・
もしよかったら、ダークエルフに人気の、あの御方の話、どないです?」
「うん?」「あの御方?」「誰やろ?」
「茶のダークエルフの、綺麗な綺麗なお嬢さん。
生まれは、地下都市アルスは郊外の、広い広いキノコ農場」
「アルスの・・・農場?」「・・・隊長か?」「あ、そや。隊長農家の出やもんな」
「淡い金の瞳して、輝く秘密の剣持って。
ついた仮名は『三日月(ルーン)の姫』」
「やっぱ隊長や!」「ええぞー!」「ルーン隊長ー!」
「そやん。
みなさんの、ルーン隊長!
わたし、隊長の秘密の話、聞いてきました。
今夜、ここだけで、こっそりお話しいたします・・・」
あの夜から1週間。
ハルモニアー、先週と同じ酒場にて、2度目のステージであった。
「姉者がんばっておる。ごくごく」
「しゃべりもダークエルフ風やに。ゴクリ、ゴクリ」
ステージから遠いところで、イリスとルシーナ、酒を飲む。
「ゴクリ、ゴクリ。・・・なかなか受けておるに」
「ごくごく。・・・うん。先週より盛り上がっておるえ」
──
『三日月隊長と秘密の剣』
茶のダークエルフの、綺麗な綺麗なお嬢さん。
月の色したその瞳、ついた仮名は『三日月(ルーン)の姫』。
生まれは地下都市アルスは郊外の、広い広いキノコ洞。
でもある日、遥か西の竜震(りゅうしん)が、この地に悲劇をもたらした。
・・・
地下をさまようルーン嬢。助けを求める声を聞く。
「どうか、助けて。私を抜いて。
抜いて助けてくださるならば、
あなたのお伴になりましょう」
いまにも崩れんとする支洞。その暗闇に、あったもの。
なんと霊妙! オレンジ色した、そのつるぎ!
岩に刺さっておりながら、刃こぼれひとつしておらぬ!
・・・
ルーンを睨む、黒おろち!
其(そ)はウミ、女王、名はジャブジャブ!
三日月の姫を見下ろして、尊大! こうは宣うた(のたまうた)。
「今日はとてもいい日です。
おいしいエルフが食べれるのだから。
さあさあ、ご馳走、こちらへおいで!」
・・・
六腕神とジャブジャブの、人外奇想の大激戦!
天にのがれた鬼神台、つばめがごとく舞い戻り!
オレンジに輝く剣一閃!
鬼神をたすく三日月の、勇気の一太刀、ここにあり!
・・・
秘密の剣は、去らんとす。
「私はそなたに秘密にし、隠してきたこと多くあり。
実直ならぬ秘密の剣。仲間と呼ぶに値せぬ」
三日月の姫、彼女の柄に手をそえて。
「真実は、おのずと明らかになるもんよ。
隠され、踏まれ、忘れられることになってもね。
いつか光に明かされて、この世に戻って来れるんよ。
それが月の教えやから。
一緒にいきましょ、秘密の剣よ」
──
「わー」「わー」「わー」「隊長ぉー」「ルーン隊長ー」
「・・・。」
「なにえ。もうつぶれたのかに?」
「話しかけんといて・・・」
テーブルに突っ伏した『三日月の姫』。
長い耳真っ赤にして、テーブルで頭ごりごりする。
「ハル姉は味方や思うとったのにー・・・」
「ルシ姉の妹やし。ごくごく」
「表出ろ」
「──ということで。
最近は、ほかの酒場からも『うちでもやりませんか』て、声かけてもらえるようになりました!」
宿の部屋。
ストーブがしゅんしゅんお湯沸かす、冬の昼下がり。
壁際の明るい場所にあるテーブルで、ハルモニアーはお祈りをする。
テーブルには、『力』のルーンを刻んだ石版と、月長石(げっちょうせき)の女神像。
そして、湯気立つお茶である。
「・・・そうですに。同業者の妨害みたいなものも、ちらほらと。
大丈夫ですえ。
私には、父上と母上の名があります。
イリスはお伴してくれますし、ダークエルフも味方してくれます。
いざというときのため、走って逃げる訓練も、しておりますのえ?」
ハルモニアー。
にっこり。ほほえんだ。
「まだまだ駆け出しですが。
世に出づるとはこういうことかと、実感する毎日ですえ。
父上、ありがとう。お元気で。
──それでは、今日はこのへんで。次回もお楽しみに~!」